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特開2023-122262酸化物超電導積層体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122262
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】酸化物超電導積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20230825BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025861
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】大杉 正樹
(72)【発明者】
【氏名】平田 渉
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA01
5G321AA02
5G321AA04
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA31
5G321CA39
5G321CA42
5G321CA50
5G321DB37
5G321DB41
(57)【要約】
【課題】アニール処理を効率よく行うことができる酸化物超電導積層体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物超電導積層体5は、基板1と、酸化物超電導体により形成された酸化物超電導層3と、酸化物超電導層3に接して設けられた保護層4と、を備える。保護層4に、酸化物超電導層3との界面と接する空隙が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、酸化物超電導体により形成された酸化物超電導層と、
前記酸化物超電導層上に、前記酸化物超電導層に接して設けられた保護層と、を備え、
前記保護層に、前記酸化物超電導層との界面と接する空隙が形成されている、
酸化物超電導積層体。
【請求項2】
前記界面と接する前記空隙の数は、前記保護層の厚さ方向に沿う断面において、前記界面の長さ1μmあたり3個以上、12個以下である、
請求項1に記載の酸化物超電導積層体。
【請求項3】
前記界面と接する前記空隙の、前記界面の長さ方向のサイズは、前記保護層の厚さ方向に沿う断面において、11.3nm~87.2nmである、
請求項1または2に記載の酸化物超電導積層体。
【請求項4】
基板上に、酸化物超電導体を含む酸化物超電導層を形成する工程と、
前記酸化物超電導層を大気中に置いて保管する工程と、
前記酸化物超電導層上に、前記酸化物超電導層との界面と接する空隙を含む保護層を形成する工程と、
前記基板と前記酸化物超電導層と前記保護層とを含む積層体を、酸素含有ガスの存在下で加熱する工程と、を有し、
前記積層体を加熱する工程において、前記空隙を通して前記酸素含有ガスを前記酸化物超電導層に供給する、
酸化物超電導積層体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物超電導層を大気中に置いて保管する工程が、24時間~48時間である、
請求項4に記載の酸化物超電導積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材上に、中間層、超電導層、および保護層が順に積層された構造を有する酸化物超電導線材が開示されている。酸化物超電導線材の製造においては、基材、中間層、超電導層、および保護層が積層された積層体に、酸素アニール処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-89954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物超電導線材は、酸素アニール処理に時間がかかるため、製造に長時間を要する。
【0005】
本発明の一態様は、酸素アニール処理を効率よく行うことができる酸化物超電導積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基板と、前記基板上に設けられ、酸化物超電導体により形成された酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に、前記酸化物超電導層に接して設けられた保護層と、を備え、前記保護層に、前記酸化物超電導層との界面と接する空隙が形成されている、酸化物超電導積層体を提供する。
【0007】
前記態様によれば、酸素アニール処理において、酸素含有ガスの一部は保護層の内部を通って、界面と接する空隙に至り、酸化物超電導層に接触する。そのため、空隙がない場合に比べて、酸素含有ガスと酸化物超電導層との接触面積が大きくなる。これにより、超電導層における酸素の拡散速度を高めることができる。よって、酸素アニール処理を効率よく行うことができる。
【0008】
前記界面と接する前記空隙の数は、前記保護層の厚さ方向に沿う断面において、前記界面の長さ1μmあたり3個以上、12個以下であることが好ましい。
【0009】
前記界面と接する前記空隙の、前記界面の長さ方向のサイズは、前記保護層の厚さ方向に沿う断面において、11.3nm~87.2nmであることが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様は、基板上に、酸化物超電導体を含む酸化物超電導層を形成する工程と、前記酸化物超電導層を大気中に置いて保管する工程と、前記酸化物超電導層上に、前記酸化物超電導層との界面と接する空隙を含む保護層を形成する工程と、前記基板と前記酸化物超電導層と前記保護層とを含む積層体を、酸素含有ガスの存在下で加熱する工程と、を有し、前記積層体を加熱する工程において、前記空隙を通して前記酸素含有ガスを前記酸化物超電導層に供給する、酸化物超電導積層体の製造方法を提供する。
【0011】
前記態様によれば、前記積層体を加熱する工程において、空隙を通して酸素含有ガスを超電導層に供給するため、酸化物超電導層における酸素の拡散速度を高めることができる。よって、酸素アニール処理を効率よく行うことができる。
【0012】
前記酸化物超電導層を大気中に置いて保管する工程が、24時間~48時間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、アニール処理を効率よく行うことができる酸化物超電導積層体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る酸化物超電導線材の断面図である。
図2】酸化物超電導層および保護層の断面の一部を示す模式図である。
図3】酸化物超電導層および保護層の断面の一部を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る酸化物超電導積層体について、図面を参照して詳細に説明する。説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
[酸化物超電導積層体]
実施形態に係る酸化物超電導積層体について、図1を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る酸化物超電導積層体5に安定化層6を被覆形成した酸化物超電導線材10を示す断面図である。図1は、酸化物超電導線材10の長さ方向に直交する断面を示す図である。
【0017】
酸化物超電導線材10は、酸化物超電導積層体5と、安定化層6とを備えている。
酸化物超電導積層体5は、金属基板1と、中間層2と、酸化物超電導層3と、保護層4とを備える。酸化物超電導積層体5は、金属基板1上に中間層2を介して酸化物超電導層3および保護層4が形成された構造を有する。すなわち、酸化物超電導積層体5は、金属基板1の一方の面に、中間層2、酸化物超電導層3、および保護層4がこの順に積層された構成を有する。酸化物超電導積層体5は「積層体」の一例である。
【0018】
酸化物超電導積層体5および酸化物超電導線材10は、テープ状に形成されている。Y方向は、酸化物超電導積層体5および酸化物超電導線材10の厚さ方向であり、金属基板1、中間層2、酸化物超電導層3、保護層4が積層される方向である。X方向は、酸化物超電導積層体5および酸化物超電導線材10の幅方向であり、酸化物超電導積層体5および酸化物超電導線材10の長さ方向および厚さ方向に直交する方向である。
【0019】
金属基板1は、金属で形成されている。金属基板1を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)などのニッケル合金;ステンレス鋼;ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。金属基板1の厚さは、目的に応じて適宜調整すればよく、例えば10~500μmの範囲である。金属基板1の一方の面(中間層2が形成された面)を第1主面1aといい、第1主面1aと反対の面を第2主面1bという。金属基板1は「基板」の一例である。第1主面1aは「主面」の一例である。
【0020】
中間層2は、金属基板1と酸化物超電導層3との間に設けられる。中間層2は、金属基板1の第1主面1aに形成される。中間層2は、多層構成でもよく、例えば金属基板1側から酸化物超電導層3側に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これらの層は必ずしも1層ずつ設けられるとは限らず、一部の層を省略する場合や、同種の層を2以上繰り返し積層する場合もある。なお、中間層2は、酸化物超電導積層体5において必須な構成ではなく、金属基板1自体が配向性を備えている場合は中間層2が形成されていなくてもよい。
【0021】
拡散防止層は、金属基板1の成分の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層3側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層は、例えば、Si、Al、GZO(GdZr)等から構成される。拡散防止層の厚さは、例えば10~400nmである。
【0022】
拡散防止層の上には、金属基板1と酸化物超電導層3との界面における反応を低減し、その上に形成される層の配向性を向上するためにベッド層を形成してもよい。ベッド層の材質としては、例えばY、Er、CeO、Dy、Eu、Ho、La等が挙げられる。ベッド層の厚さは、例えば10~100nmである。
【0023】
配向層は、その上のキャップ層の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層の材質としては、例えば、GdZr、MgO、ZrO-Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。配向層はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。
【0024】
キャップ層は、上述の配向層の表面に成膜されて、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなる。キャップ層の材質としては、例えば、CeO、Y、Al、Gd、ZrO、YSZ、Ho、Nd、LaMnO等が挙げられる。キャップ層の厚さは、50~5000nmの範囲が挙げられる。
【0025】
酸化物超電導層3は、酸化物超電導体から構成される。酸化物超電導体としては、特に限定されないが、例えば一般式REBaCu(RE123)で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体(REBCO系酸化物超電導体)が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。一般に、Xは、7-x(酸素欠損量x:約0~1程度)である。酸化物超電導層3の厚さは、例えば0.5~5μm程度である。この厚さは、長手方向に均一であることが好ましい。酸化物超電導層3は、中間層2の主面2a(金属基板1側とは反対の面)に形成されている。
酸化物超電導層3は「超電導層」の一例である。酸化物超電導層3は、中間層2を介して金属基板1の第1主面1a上に設けられる。
【0026】
保護層4は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層3と保護層4の上に設けられる層との間で起こる化学反応を抑制する等の機能を有する。保護層4の材質としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、金と銀との合金、その他の銀合金、銅合金、金合金などが挙げられる。保護層4は、少なくとも酸化物超電導層3の主面3a(中間層2側とは反対の面)を覆っている。保護層4は、酸化物超電導層3の主面3aに接している。保護層4の厚さは、特に限定されないが、例えば1~100μm程度が挙げられる。
【0027】
5aは酸化物超電導積層体5の第1主面(保護層4の主面4a)である。第1主面5aは、酸化物超電導積層体5の、酸化物超電導層3が形成された側の面である。5bは酸化物超電導積層体5の側面(金属基板1の側面、中間層2の側面、酸化物超電導層3の側面、および保護層4の側面)である。5cは、第1主面5aとは反対の面であって、酸化物超電導積層体5の第2主面(金属基板1の第2主面1b)である。第2主面5cは、酸化物超電導積層体5の、金属基板1が形成された側の面である。
【0028】
安定化層6は、酸化物超電導積層体5の第1主面5a、側面5b,5bおよび第2主面5cを覆う。安定化層6は、酸化物超電導積層体5を囲んで形成されている。安定化層6は、酸化物超電導層3が常電導状態に転移した時に発生する過電流を転流させるバイパス部としての機能を有する。
【0029】
安定化層6の構成材料としては、銅、銅合金(例えばCu-Zn合金、Cu-Ni合金等)、アルミニウム、アルミニウム合金、銀等の金属が挙げられる。安定化層6の厚さは、例えば3~300μm程度である。安定化層6は、めっき法(例えば電解めっき法)によって形成することができる。
【0030】
図2は、酸化物超電導積層体5の酸化物超電導層3および保護層4の断面の一部を示す模式図である。図2は、保護層4の厚さ方向に沿う断面を示す。図2に示すように、「7」は酸化物超電導層3と保護層4との界面である。図2の模式図ように、酸化物超電導層3と保護層4との界面は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することができる。酸化物超電導層3および保護層4の断面をTEMで観察するときには、任意の倍率に拡大して観察することができる。例えば、図2に示される酸化物超電導層3と保護層4との断面図は描画領域の幅が1μmであり、直線状の界面7の全長も1μmである。図2における界面7の全長は1μmである。
【0031】
保護層4の内部には、1または複数の空隙が形成されている。少なくとも一つの空隙は、界面7と接する。界面7と接する空隙の数は、界面7の長さ1μmあたり3個以上、12個以下が好ましい。界面7と接する空隙があることで、後述する酸素アニール処理において酸素ガスが界面7の空隙内に溜まり、空隙から酸化物超電導層3に効率よく酸素を供給できる。界面7と接する空隙の数は、例えば、界面7の長さ1μmあたり100個以下であってよい。これにより、酸化物超電導層3と保護層4との接触面積を確保し、酸化物超電導層3と保護層4との間の界面抵抗を抑制できる。保護層4の内部には、界面7と接していない空隙が形成されていてもよい。空隙内には、空気、酸素、有機化合物ガスなどの気体が存在していてもよい。
【0032】
界面7と接する空隙の数は、保護層4の断面の複数の観察像(例えば、TEM画像)における空隙数の平均値であってよい。界面7と接する空隙の数は、例えば、3以上の観察像における空隙数の平均値であってよい。界面7と接する空隙の数は、例えば、3μm以上の長さの界面7について、界面7の長さ1μmあたりの平均数であってもよい。
【0033】
図2に示す例では、保護層4の内部に形成された空隙V1~V8は、界面7と接している。そのため、界面7と接する空隙の数は、界面7の長さ1μmあたり8個である。なお、空隙V9~V16は界面7に接していないため、「界面7と接する空隙の数」には算入されない。
【0034】
界面7と接する空隙のサイズ(界面7の長さ方向の寸法)は、特に限定されない。酸化物超電導層3と保護層4との間の界面抵抗に影響を与え得る空隙のサイズは、例えば、0.1nm以上である。空隙のサイズは、例えば、100nm以下である。空隙のサイズとしては、11.3nm~87.2nmの範囲を例示できる。界面7の長さ方向は、保護層4の厚さ方向に直交する方向(図2において左右方向)である。
【0035】
図2では、空隙V1~V8の形状は半円形状であるが、界面7と接する空隙の形状は特に限定されない。保護層4の断面における空隙の形状は、弓形状、円形状、楕円形状などでもよい。空隙の立体形状は、例えば、半球状である。
【0036】
図3は、酸化物超電導線材10の酸化物超電導層3および保護層4の断面の一部を示すTEM画像である。
図3に示すように、保護層4内に、界面7に接する空隙Vが形成されている。
【0037】
[酸化物超電導積層体の製造方法]
次に、酸化物超電導積層体5の製造方法の一例について説明する。なお、以下で説明する製造方法は一例であり、他の製造方法を採用してもよい。
【0038】
図1に示すように、金属基板1上に中間層2を形成する。中間層2は、IBAD法を用いて形成できる。
【0039】
次に、中間層2上に酸化物超電導層3を形成する。酸化物超電導層3は、PLD法、MOCVD法などの蒸着法を用いて形成できる。例えば、酸化物超電導層3はREBCO系材料で形成されたターゲットを用いたPLD法によって成膜を行う。酸化物超電導層3の成膜はPLD装置の真空チャンバ内で行われ、成膜が終わると、作製途中の酸化物超電導積層体5は真空チャンバから取り出され、温湿度管理されたクリーンな大気環境下に置かれ、次の保護層4の形成が始まるまで保管される。保管時間は、数時間の場合もあれば数十時間保管されることもある。
【0040】
次に、酸化物超電導層3上に保護層4を形成する。保護層4は、スパッタ法等によって形成できる。これにより、酸化物超電導積層体5が得られる。保護層4を形成すると、保護層4の内部に空隙が形成される。特に、酸化物超電導層3と保護層4との界面7と接する空隙が形成される。次に、酸素アニール処理を行う。詳しくは、酸化物超電導積層体5を酸素雰囲気下(酸素含有ガスの存在下)で、例えば300~1000℃に加熱する。酸素含有ガスは、例えば、酸素ガス、空気などである。保護層4に、界面7と接する空隙が形成されているため、酸素含有ガスは空隙において酸化物超電導層3に接触する。これにより、酸素含有ガスを、空隙を通して酸化物超電導層3に供給する。
以上の工程によって、図1に示す酸化物超電導積層体5を得る。
【0041】
続いて、酸化物超電導積層体5の外周に安定化層6を形成してもよい。安定化層6は、めっき等により形成することができる。超電導積層体5の外周に安定化層6を形成することで、図1に示す酸化物超電導線材10を得る。
【0042】
[実施形態の酸化物超電導積層体が奏する効果]
酸化物超電導積層体5は、保護層4に、界面7と接する空隙が形成されている。酸素アニール処理において、酸素含有ガスの一部は保護層4の内部を通って、界面7と接する空隙に至り、酸化物超電導層3に接触する。そのため、空隙がない場合に比べて、酸素含有ガスと酸化物超電導層3との接触面積が大きくなる。これにより、酸化物超電導層3における酸素の拡散速度を高めることができる。したがって、酸素アニール処理に要する時間を短縮しつつ、必要な電流特性(臨界電流値等)を得ることができる。よって、酸素アニール処理を効率よく行うことができる。
【0043】
[実施形態の酸化物超電導積層体の製造方法が奏する効果]
前記製造方法は、保護層4に、界面7と接する空隙を形成する。酸素アニール処理において、空隙を通して酸素含有ガスを酸化物超電導層3に供給するため、酸化物超電導層3における酸素の拡散速度を高めることができる。よって、酸素アニール処理を効率よく行うことができる。
【0044】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、酸化物超電導積層体の構造は、図1に示す構造に限定されない。酸化物超電導積層体には、金属基板、中間層、酸化物超電導層、および保護層以外の層が含まれていてもよい。
【実施例0045】
以下、実施例1~3をもって本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
図1に示す酸化物超電導線材10のサンプルを次のようにして作製した。
ハステロイ(登録商標)で構成されるテープ状の金属基板1の一方の面(第1主面1a)に、IBAD法等を用いて中間層2を形成した。
【0046】
中間層2の上に、酸化物超電導層3を、REBCO系材料(EuBaCu)で形成されたターゲットを用いたPLD法によって成膜した。
【0047】
酸化物超電導層3を形成したあと、酸化物超電導層3の上に、Agで構成される保護層4をスパッタ法により形成した。酸化物超電導層3を形成してから保護層4の形成を開始するまでの待機時間は48時間であった。これにより酸化物超電導積層体5を得た。
酸化物超電導積層体5を酸素雰囲気下で500℃に加熱することによって、酸素アニール処理を行った。酸素アニール処理の工程においては、酸素アニール処理の時間が異なる複数のサンプルを作製した。
【0048】
酸素アニール処理の時間が異なる複数のサンプルについて、各サンプルの77Kにおける臨界電流値Icを測定した。そして、従来の酸化物超電導積層体(後述の比較例サンプル)の臨界電流値Icと比べて同等レベル(Ic/Icが0.95~1.05の範囲)の臨界電流値を有するサンプルを見出し、これを実施例1サンプルとした。実施例1サンプルの酸素アニール時間Tの従来の酸化物超電導積層体のアニール時間Tに対する比(T/T)を求めた。
また、保護層4の厚さ方向に沿う断面のTEM観察を行い、断面のTEM画像から界面7と接する空隙の有無を確認した。空隙がある場合には、界面7の長さ1μmあたりの個数、および空隙のサイズ(界面7の長さ方向のサイズ)を調べた。結果を表1に示す。
【0049】
表1に示されているとおり、T/Tの値は0.7であった。つまり、実施例1サンプルの酸素アニール処理時間は、従来に比べて70%の処理時間であった。界面7の長さ1μmあたりの空隙の個数は12個、空隙のサイズは11.3nm~87.2nmの範囲であった。
【0050】
(実施例2)
酸化物超電導層3の形成の完了から、保護層4の形成開始までの間隔を36時間としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物超電導積層体5を作製した。
実施例2サンプルの酸素アニール時間Tの、従来の酸化物超電導積層体のアニール時間Tに対する比(T/T)の値は、0.8であった。つまり、従来の酸素アニール処理時間に比べて80%の処理時間であった。界面7の長さ1μmあたりの空隙の個数は7個、空隙のサイズは13.1nm~72.3nmの範囲であった。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
酸化物超電導層3の形成の完了から、保護層4の形成開始までの間隔を24時間としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物超電導積層体5を作製した。
実施例3サンプルの酸素アニール時間Tの、従来の酸化物超電導積層体のアニール時間Tに対する比(T/T)の値は、0.9であった。つまり、従来の酸素アニール処理時間に比べて90%の処理時間であった。また、界面7の長さ1μmあたりの空隙の個数は3個、空隙のサイズは18.1~64.9nmの範囲であった。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例)
酸化物超電導層3の形成の完了から、保護層4の形成開始までの間隔を1時間としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物超電導積層体5を作製した。
界面7の長さ1μmあたりの空隙の個数はゼロ個であった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、実施例1~3のサンプルにおける空隙の数と、酸素アニール処理時間との間に相関関係がみられた。空隙の数が多いほど、酸素アニール処理時間が短い結果となった。
また、表1に示すように、実施例1~3のサンプルにおける酸化物超電導層形成後から保護層形成までの待機時間と、酸素アニール処理時間との間に相関関係がみられた。待機時間が短いほど、酸素アニール処理時間が短い結果となった。大気に晒されることによる酸化物超電導層3の表面への水分吸着が、界面7と接する空隙の形成に関係している可能性がある。
【符号の説明】
【0055】
1…金属基板(基板)、3…酸化物超電導層(超電導層)、4…保護層、5…超電導積層体(積層体)、7…界面、10…酸化物超電導線材、V,V1~V16…空隙。
図1
図2
図3