(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122307
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】誘導装置
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20230825BHJP
B60R 16/037 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
A61M21/02 H
A61M21/02 J
B60R16/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025945
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 兼司
(72)【発明者】
【氏名】新屋 武一
(72)【発明者】
【氏名】釘丸 忠大
(57)【要約】
【課題】誘導対象者の精神状態を良好に誘導することが可能な誘導装置を提供する。
【解決手段】誘導装置は、車両内の誘導対象者を所定の精神状態に誘導する誘導部であって、誘導対象者の視野内に設けられ、視野内の車外情報を遮断可能であり、かつ、精神状態を誘導するように作動可能である誘導部と、誘導対象者の精神状態を遷移させるように誘導部を制御する制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内の誘導対象者を所定の精神状態に誘導する誘導部であって、前記誘導対象者の視野内に設けられ、前記視野内の車外情報を遮断可能であり、かつ、前記精神状態を誘導するように作動可能である誘導部と、
前記誘導対象者の精神状態を遷移させるように前記誘導部を制御する制御部と、
を備える誘導装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車外情報を遮断した遮断状態とし、かつ、前記精神状態を誘導するように作動させて前記誘導部を制御することで、前記誘導対象者の精神状態をリラックス状態に誘導する、
請求項1に記載の誘導装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記誘導対象者がリラックス状態である場合、前記車外情報を遮断しない非遮断状態として、前記精神状態を前記リラックス状態に維持するように前記誘導部を制御する、
請求項1または請求項2に記載の誘導装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車外情報を遮断した遮断状態とし、かつ、リラックス状態に誘導する場合とは異なるように作動させて前記誘導部を制御することで、前記誘導対象者の精神状態を前記リラックス状態から覚醒状態に誘導する、
請求項2または請求項3に記載の誘導装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記誘導対象者の目的地への到着時間に応じて、前記覚醒状態に誘導する期間を調節する、
請求項4に記載の誘導装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記覚醒状態に誘導する期間の終了後、前記誘導対象者が前記誘導部を操作することを可能にする、
請求項4または請求項5に記載の誘導装置。
【請求項7】
前記誘導部は、前記車両の前部座席と、前記車両の後部座席との境界に設置され、前記車外情報を非遮断状態とする透過状態と、前記車外情報を遮断状態とする不透過状態との間で切替可能に構成される仕切り部を有する、
請求項1~6の何れか1項に記載の誘導装置。
【請求項8】
前記誘導部は、前記誘導対象者の左右両側に設けられ、前記非遮断状態および前記遮断状態との間で切替可能に構成される一対の側方部を有し、
前記制御部は、前記仕切り部と、前記一対の側方部とを同期させて制御する、
請求項7に記載の誘導装置。
【請求項9】
前記誘導部は、前記誘導対象者の後方に設けられ、前記非遮断状態および前記遮断状態との間で切替可能に構成される後方部を有し、
前記制御部は、前記仕切り部と、前記後方部とを同期させて制御する、
請求項7または請求項8に記載の誘導装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記誘導対象者の心拍情報、脈拍情報、呼吸情報、血圧情報、心電図情報、脳波情報、体表面温度情報、瞳孔径情報、筋電情報および体動情報の1つ以上の測定結果に基づいて、前記誘導対象者の精神状態を特定する、
請求項1~9の何れか1項に記載の誘導装置。
【請求項11】
前記誘導部は、映像情報を表示可能であり、
前記制御部は、前記誘導部を作動させる際、前記映像情報を表示させる、
請求項1~10の何れか1項に記載の誘導装置。
【請求項12】
前記誘導部は、前記誘導対象者が位置する空間の明るさを調整可能な照明部と、前記誘導対象者が位置する空間に音楽を再生可能な音楽再生部と、前記誘導対象者が位置する空間に香気を発生可能な香気発生部との少なくとも1つを有し、
前記制御部は、前記照明部、前記音楽再生部および前記香気発生部の少なくとも1つを作動させる、
請求項1~11の何れか1項に記載の誘導装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記誘導対象者の精神状態をストレス状態に誘導した後、リラックス状態に誘導するように前記誘導部を制御する、
請求項1~12の何れか1項に記載の誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車内環境を調整して、乗車した乗員(誘導対象者)の精神状態を誘導する装置が知られている。例えば、特許文献1には、ユーザの現在精神状態に適合する基点精神状態を有した状態推移パターンを選択し、状態推移パターンに従い、誘導もてなし動作内容を読み出して順次行わせるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、例えば車両の窓から誘導対象者に車外情報が見えてしまうので、車外情報に起因して精神状態の誘導が阻害されるおそれがあり、精神状態を誘導する構成として改善の余地があった。
【0005】
本開示の目的は、誘導対象者の精神状態を良好に誘導することが可能な誘導装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る誘導装置は、
車両内の誘導対象者を所定の精神状態に誘導する誘導部であって、前記誘導対象者の視野内に設けられ、前記視野内の車外情報を遮断可能であり、かつ、前記精神状態を誘導するように作動可能である誘導部と、
前記誘導対象者の精神状態を遷移させるように前記誘導部を制御する制御部と、
を備える。
【0007】
本開示によれば、誘導対象者の精神状態を良好に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施の形態に係る誘導装置の構成例を示す図である。
【
図2】精神座標系における精神状態の遷移の一例を示す図である。
【
図3A】遮断状態とした仕切り部を後側から見た図である。
【
図3B】非遮断状態とした仕切り部を後側から見た図である。
【
図5A】精神座標系における精神状態の遷移の一例を示す図である。
【
図5B】精神座標系における精神状態の遷移の一例を示す図である。
【
図6】誘導装置における誘導制御の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本開示の実施の形態に係る誘導装置100の構成例を示す図である。
【0010】
図1に示すように、誘導装置100は、車両1に搭載され、後部座席1Aに着座した誘導対象者2の精神状態を所定の状態に誘導する装置である。所定の状態は、例えばリラックス状態、覚醒状態である。
【0011】
人の精神状態は、例えば、
図2に示すように、快適度合いを横軸、目覚め度合いを縦軸とした二次元座標系(以下、精神座標系)で表現することが可能である。この精神座標系は、横軸の正方向側(
図2の右側)にいくほど、快適な気分であることを示し、横軸の負方向側(
図2の左側)にいくほど、不快な気分であることを示している。また、精神座標系は、縦軸の正方向側(
図2の上側)にいくほど、眠気がなく目が覚めた状態であることを示し、縦軸の負方向側(
図2の下側)にいくほど、眠気度合いが多い状態であることを示している。また、精神座標系の第1象限は、横軸および縦軸が正である領域であり、第2象限は、横軸が負で縦軸が正である領域である。また、精神座標系の第3象限は、横軸および縦軸が負である領域であり、第4象限は、横軸が正で縦軸が負である領域である。
【0012】
リラックス状態は、誘導対象者2が、緊張度合いや疲労度合いが緩和されてリラックスした状態であり、精神座標系では、快適な気分で、かつ、眠気度合いが多い状態に対応する第4象限の領域に該当する。
【0013】
覚醒状態は、誘導対象者2が、心身の状態が整い、所定の行動を行う際に良好なパフォーマンスを発揮することが可能な状態であり、精神座標系では、快適な気分で、かつ、目が覚めたような状態に対応する第1象限の領域に該当する。
【0014】
例えば、誘導対象者2がストレスをためたストレス状態で車両1に乗車する場合がある。ストレス状態は、緊張度合いや疲労度合いが比較的高い状態であり、精神座標系では、目が覚め、かつ、不快な気分である状態に対応する第2象限に該当する。
図2に示す点Aは、車両1に乗車時の誘導対象者2の精神状態を示しており、第2象限の領域(ストレス状態)に位置している。
【0015】
誘導装置100は、例えば、ストレス状態の誘導対象者2のストレスを緩和し、リラックス状態に誘導する。つまり、誘導装置100は、誘導対象者の精神状態(点A)を、第4象限の領域(リラックス状態)の何れかの位置(例えば、点B)に遷移させる。
【0016】
さらに、誘導装置100は、誘導対象者2が移動先で良好なパフォーマンスを発揮できるように、誘導対象者2を覚醒状態に誘導する。
図1、
図3Aおよび
図3Bに示すように、誘導装置100は、情報取得部110と、誘導部120と、制御部130とを備える。
図3Aおよび
図3Bは、後部座席1Aに着座した誘導対象者2側から見た前方領域を示している。
【0017】
情報取得部110は、誘導対象者2の精神状態の変化の判断指標となる状態情報の測定結果を取得する。例えば、状態情報は、心拍情報、脈拍情報、呼吸情報、血圧情報、心電図情報、脳波情報、体表面温度情報、瞳孔径情報、筋電情報および体動情報等、誘導対象者2の精神状態の変化を推定可能な情報であっても良い。
【0018】
情報取得部110は、状態情報を測定可能で、かつ、車両1に搭載可能な比較的小型の測定装置であっても良いし、他の測定装置から状態情報を取得しても良い。測定装置は、接触式のものであっても良いし、非接触式のものであっても良い。また、測定装置は、ウェアラブルデバイス等であっても良い。例えば、心拍情報、脈拍情報、呼吸情報、血圧情報、心電図情報、脳波情報、体表面温度情報および筋電情報等は、公知の測定装置が用いられても良い。また、体表面温度情報、瞳孔径情報および体動情報は、撮像装置により撮像した画像に基づいて測定しても良い。
【0019】
状態情報の変化により、誘導対象者2の精神状態が精神座標系のどの領域に位置するかを判定することが可能である。
【0020】
例えば、従来においては、脈波情報(脈拍情報)が変化することにより、運転者の眠気が変動する現象がみられることが知られている。
【0021】
また、従来においては、脳波情報が変化することにより、被施療者の快適度合いが変動することが知られている。
【0022】
また、主観評価であるが、誘導対象者2の皮膚温度(体表面温度情報)が上昇すると、誘導対象者2の精神状態が快適になる側に遷移すること、および、誘導対象者2の皮膚温度が低下すると、誘導対象者2の精神状態が、目覚め度合いが高くなる側に遷移することが実験的に確認されている。
【0023】
このように、状態情報を取得することによって、誘導対象者2の精神状態の変化を検出することが可能である。
【0024】
情報取得部110は、心拍情報、脈拍情報、呼吸情報、血圧情報、心電図情報、脳波情報、体表面温度情報、瞳孔径情報、筋電情報および体動情報の1つ以上の測定結果を取得する。なお、本実施の形態における情報取得部110は、取得する状態情報の数を特に限定しないが、誘導対象者2の精神状態の変化を判断しやすい観点から、2つ以上の状態情報を取得することが好ましい。
【0025】
誘導部120は、車両1内に搭載され、誘導対象者2の精神状態を所定の状態に誘導するためのものである。一実施例では、誘導部120は、仕切り部121と、一対の側方部122と、後方部123と、照明部124と、音楽再生部125と、香気発生部126とを有する。
【0026】
仕切り部121、一対の側方部122および後方部123は、例えば複数のガラス板と、複数のガラス板の間に挟まれるディスプレイモジュールとを有する透明ディスプレイであっても良い。ディスプレイモジュールは、透光性を有し、光を透過させる透過状態と、透過状態よりも光を透過させない不透過状態との間で切替可能に構成される調光パネルから構成されても良い。
【0027】
つまり、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123は、透過状態(非遮断状態)と不透過状態(遮断状態)との間で切替可能に構成されており、互いに同期して動作することが可能であっても良い。
【0028】
仕切り部121は、車両1の前部座席1Bと、後部座席1Aとの境界に設置され、誘導対象者2の前方の視野内に設けられている。具体的には、仕切り部121は、誘導対象者2の前方領域にわたって設けられており、不透過状態となった場合、誘導対象者2の前方における車両1の車外情報を遮断する(
図3A参照)。車外情報は、車両1の窓から見える車両1の外側の情報である。
図3Aでは、仕切り部121が不透過状態(遮断状態)となることで、車両1の前部座席1Bの領域や、フロントガラスから見える車両1の前方が誘導対象者2から見えなくなっている。
【0029】
また、仕切り部121は、透過状態となった場合、誘導対象者2の前方における車両1の車外情報を遮断しない(
図3B参照)。
図3Bでは、仕切り部121が透過状態(非遮断状態)となることで、車両1の前部座席1Bの領域や、フロントガラスから見える車両1の前方が誘導対象者2から見えるようになっている。
【0030】
一対の側方部122は、誘導対象者2の左右両側の、車両1の窓に設置され、誘導対象者2が側方を向いた際の視野内に設けられている。一対の側方部122は、不透過状態となった場合、誘導対象者2の左右両側における車両1の車外情報を遮断する。また、一対の側方部122は、透過状態となった場合、誘導対象者2の左右両側における車両1の車外情報を遮断しない。
【0031】
後方部123は、誘導対象者2の後方の、車両1の窓に設置され、誘導対象者2が後方を向いた際の視野内に設けられている。後方部123は、不透過状態となった場合、誘導対象者2の後方における車両1の車外情報を遮断する。また、後方部123は、透過状態となった場合、誘導対象者2の後方における車両1の車外情報を遮断しない。
【0032】
仕切り部121、一対の側方部122および後方部123は、上記のディスプレイモジュールを介して、映像情報を出力可能である。映像情報は、後述するリラックス期間に表示する情報、覚醒期間に表示する情報およびストレス遷移期間に表示する情報を含んでも良い。
【0033】
リラックス期間に表示する情報は、例えば、自然風景(緑の多いシーン、川のせせらぎ、山の風景等)のような、誘導対象者2をリラックス状態とさせる情報である。
【0034】
覚醒期間に表示する情報は、例えば、朝日や、山の花等、目覚めを意識させて、誘導対象者2を覚醒状態に誘導させる情報である。
【0035】
ストレス遷移期間に表示する情報は、例えば、興奮色の映像等、誘導対象者2を刺激してストレス状態とさせる情報である。
【0036】
照明部124は、誘導対象者2が位置する空間の明るさを調整可能な照明装置であり、例えば、車両1の天井における、後部座席1Aに対応する空間の全体にわたって設けられても良い。照明部124は、光の明るさ度合いの他、リラックス期間における、青空や森の木洩れ日、ストレス遷移期間における興奮色等のような特殊な照明で誘導対象者2が位置する空間を照明可能であっても良い。
【0037】
音楽再生部125は、誘導対象者2が位置する空間に、予め保存された音楽データを再生する装置であり、後部座席1Aに対応する空間の適宜な位置に設けられるスピーカー装置等を含む。音楽データは、例えば、リラックス期間における自然音に背景音楽(BGM:Background Music)を組み合わせたもの、覚醒期間における、快活、朗らか、活動的な気分にさせる曲、ストレス遷移期間における、メトロノームのような、落ち着きのない苛々音や、ロードノイズ、話声等を含んでも良い。
【0038】
香気発生部126は、誘導対象者2が位置する空間に、香気を発生させる装置であり、車両1内の後部座席1Aに対応する空間に設けられる。香気は、例えば、リラックス期間におけるヒーリングアロマや、覚醒期間における柑橘系アロマ等を含んでもよい。
【0039】
制御部130は、CPU(Central Processing Unit)131、ROM(Read Only Memory)132、RAM(Random Access Memory)133および入出力回路を備えており、予め設定されたプログラムに基づいて、誘導対象者2の精神状態を所定の状態に誘導するよう誘導部120を制御する。
【0040】
具体的に、制御部130は、誘導対象者2の初期の精神状態から、ストレス状態、リラックス状態、覚醒状態の順に精神状態が遷移するように、誘導部120を制御する。
【0041】
例えば、
図4に示すように、誘導対象者2が車両1に乗車し(時刻t1)、車両1内でリラックス状態になることを所望したとする。誘導対象者2は、例えば情報取得部110により、状態情報を取得可能な状態とされて、後部座席1Aに着座する。車両1に乗車した誘導対象者2は、自分自身の精神状態が、少なくとも主観的にストレス状態であると認識していても良い。なお、このときの仕切り部121は、透過状態であっても良いし、不透過状態であっても良い。
【0042】
ここで取得される状態情報は、例えば体表面温度、心拍数等、上記の状態情報の1つ以上であっても良い。
【0043】
まず、制御部130は、車両1の走行開始時において、取得した状態情報の変化に基づいて、誘導対象者2の精神状態を特定する。制御部130は、車両1の走行開始時における状態情報に基づく精神状態が、リラックス状態以外の状態である場合、誘導対象者2をストレス状態とするストレス遷移期間を設ける。
【0044】
ストレス遷移期間は、誘導対象者2を所定のストレス状態に同調させるために、誘導対象者2の精神状態を遷移させる期間である。
【0045】
誘導対象者2を所定のストレス状態に同調させるのは、精神座標系において、ストレス状態の所定の位置からリラックス状態の所定の位置までの精神状態の遷移量が比較的大きくすることで、誘導対象者2がリラックスしたことを実感しやすくするためである。
【0046】
精神座標系におけるストレス状態は、誘導装置100で設定された精神状態である。例えば、誘導対象者2が主観的にストレス状態であると認識していても、精神座標系では、第1象限に対応する覚醒状態である可能性もあれば、第3象限の領域の状態である可能性もある。そのため、誘導対象者2をまずは精神座標系における所定のストレス状態に誘導するように、制御部130が制御する。
【0047】
リラックス状態以外の精神状態からストレス状態に誘導対象者を誘導するため、具体的には、制御部130は、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)としても良い。そして、制御部130は、例えば興奮色の映像を仕切り部121、一対の側方部122および後方部123に表示しても良い。
【0048】
また、制御部130は、映像の他、照明部124により興奮色の特殊な照明を出力しても良いし、音楽再生部125により、メトロノームのような、落ち着きのない苛々音を発生させても良いし、映像、照明および音楽の2つ以上を組み合わせて出力しても良い。
【0049】
なお、ストレス遷移期間における誘導部120の作動内容は、精神座標系における快適度合いを低下させ、かつ、目覚め度合いを上げる作用を有するものであり、上記に限定されず、実験等に応じて適宜設定しても良い。
【0050】
これにより、誘導対象者2の初期の精神状態が、精神座標系のどの領域であるか否かに関わらず、誘導対象者2の精神状態がストレス状態に誘導される。
【0051】
ストレス遷移期間終了後(時刻t2)、制御部130は、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を透過状態(非遮断状態)とする通常の車内環境の期間(中立期間)とする。この際には、誘導部120を作動しなくても良い。
【0052】
また、中立期間において誘導部120を作動させる場合、制御部130は、例えば照明部124により青空のような特殊な照明としても良いし、音楽再生部125によりロードノイズや話声のような音を発生させても良い。
【0053】
ストレス遷移期間を長くし過ぎると、誘導対象者2の精神状態が過度なストレス状態となる。そのため、ストレス遷移期間から中立期間に遷移させることで、誘導対象者2の精神状態がストレス状態に維持される。
【0054】
なお、ストレス遷移期間(時刻t1~t2)、誘導対象者2の目的地への到着時間に基づいて、適宜変更されてもよい。例えば、ストレス遷移期間は、情報取得部110が取得する状態情報の変化により、誘導対象者2がストレス状態に遷移したことを特定した時間であっても良いし、予め設定された時間であっても良い。ストレス状態に遷移したか否かの判定は、状態情報の変化度合いや、誘導対象者2の主観によるものであっても良い。
【0055】
中立期間終了後(時刻t3)、制御部130は、誘導対象者2をリラックス状態とするリラックス期間を設ける。ストレス状態は、精神座標系における第2象限に対応する精神状態であり、リラックス状態に対応する第4象限と縦軸および横軸の正負関係が逆になる精神状態である。
【0056】
なお、中立期間は、誘導対象者2の目的地への到着時間に基づいて、少なくとも誘導対象者2のストレス状態が維持される時間に適宜設定され得る。また、車両1への乗車期間が短い等、ストレス遷移期間から速やかにリラックス期間に遷移する事情がある場合、中立期間は0であっても良い。
【0057】
ストレス状態から、その縦軸および横軸の正負関係が逆になる精神状態であるリラックス状態に遷移させることにより、誘導対象者2にとって、精神状態の遷移量の変化度合いが大きくなるため、誘導対象者2がリラックス状態であることを実感しやすくなる。
【0058】
リラックス期間は、誘導対象者2を、精神座標系におけるリラックス状態以外の状態からリラックス状態に遷移させる期間、精神座標系におけるリラックス状態を維持する期間を含んでいても良い。
【0059】
具体的には、制御部130は、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)とする。そして、制御部130は、例えば自然風景の映像を仕切り部121、一対の側方部122および後方部123に表示する。
【0060】
また、制御部130は、映像の他、照明部124により青空や森の木洩れ日等の特殊な照明を出力しても良いし、音楽再生部125により、自然音とBGMとの組み合わせを発生させても良いし、香気発生部126により、ヒーリングアロマ等の癒しを感じさせる香気を発生させても良い。自然音とBGMとの組み合わせは、例えば、鳥のさえずりや川のせせらぎ等の、人の心を癒す癒し音等である。また、制御部130は、映像、照明、音楽および香気の2つ以上を組み合わせて出力しても良い。
【0061】
なお、リラックス期間における誘導部120の作動内容は、精神座標系における快適度合いを上昇させ、かつ、目覚め度合いを下げる作用を有するものであり、上記に限定されず、実験等に応じて適宜設定しても良い。
【0062】
このように、誘導対象者2の乗車時間(ストレス遷移期間および中立期間)と、精神状態(ストレス状態)に応じて、リラックス期間を設けることで、誘導対象者2をリラックス状態に誘導しやすくすることができる(
図2参照)。
【0063】
また、誘導対象者2は、リラックス状態となった後、覚醒状態となることを望む場合がある。例えば、会議(第1会議)等を行った後、車両1に乗車して、次の第2会議の場所に移動して第2会議に参加するような状況下で、誘導対象者2は、第1会議におけるストレス状態を緩和して、リフレッシュした状態(覚醒状態)で、第2会議に参加したいと考える場合がある。
【0064】
この場合、制御部130は、リラックス期間中に、誘導部120を遮断状態として作動させることで、誘導対象者2をリラックス状態から覚醒状態に遷移させる覚醒期間を設ける。覚醒期間は、入眠遷移期間および覚醒遷移期間を含む期間である。
【0065】
入眠遷移期間は、精神座標系におけるリラックス状態において、目覚め度合いをさらに低下させるための期間であり、誘導対象者2を入眠させるための期間である。覚醒遷移期間は、入眠遷移期間を経由した誘導対象者2を覚醒状態に誘導するための期間である。
【0066】
覚醒状態は、誘導対象者2の目が覚めた状態であるため、誘導対象者2の眠気度合いを大きくした状態で、覚醒状態に遷移させることで、誘導対象者2がリフレッシュ効果を実感しやすくするため、入眠遷移期間が設けられる。
【0067】
例えば、制御部130は、リラックス期間終了後(時刻t4)、入眠遷移期間を設ける。
【0068】
なお、リラックス期間は、誘導対象者2の目的地への到着時間に基づいて、適宜変更可能な時間である。例えば、リラックス期間は、情報取得部110が取得する状態情報の変化により、誘導対象者2がリラックス状態に遷移したことを特定した時間であっても良いし、予め設定された時間であっても良い。リラックス状態に遷移したか否かの判定は、状態情報の変化度合いや、誘導対象者2の主観によるものであっても良い。
【0069】
具体的には、制御部130は、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)とする。そして、制御部130は、例えば真っ暗な映像を仕切り部121、一対の側方部122および後方部123に表示する。
【0070】
また、制御部130は、映像の他、照明部124により徐々に暗くするよう照明を調整して出力しても良いし、音楽再生部125により、自然音とBGMとの組み合わせを発生させても良い。自然音とBGMとの組み合わせは、例えば、波の音等の、人の眠気を誘う入眠誘導音等である。また、制御部130は、映像、照明および音楽の2つ以上を組み合わせて出力しても良い。
【0071】
なお、入眠遷移期間における誘導部120の作動内容は、精神座標系における快適度合いを第4象限内に維持させつつ、かつ、目覚め度合いをさらに下げる作用を有する情報であり、上記に限定されず、実験等に応じて適宜設定しても良い。
【0072】
こうすることで、例えば、
図5Aに示すように、精神座標系において、第4象限に対応する領域の点Bから、目覚め度合いがさらに低い点Cに誘導対象者2の精神状態を遷移させることができる。
【0073】
制御部130は、入眠遷移期間終了後(
図4の時刻t5)、覚醒遷移期間を設ける。
【0074】
なお、入眠遷移期間は、誘導対象者2の目的地への到着時間に基づいて、適宜設定され得る。例えば、入眠遷移期間は、情報取得部110が取得する状態情報の変化により、誘導対象者2が入眠状態に遷移したことを特定した時間であっても良いし、予め設定された時間であっても良い。リラックス状態に遷移したか否かの判定は、状態情報の変化度合いや、誘導対象者2の体動や瞳孔径の変化によるものであっても良い。
【0075】
具体的には、制御部130は、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)とする。そして、制御部130は、例えば目覚めを意識させる映像を仕切り部121、一対の側方部122および後方部123に表示する。目覚めを意識させる映像は、例えば朝日が昇る映像や、山の花を示す映像である。
【0076】
また、制御部130は、映像の他、照明部124により徐々に明るくするよう照明を調整して出力しても良いし、音楽再生部125により、快活、朗らか、活動的な気分にさせる曲を発生させても良いし、香気発生部126により、例えば柑橘系アロマのような目覚めを爽快にさせる香気を発生させても良い。また、制御部130は、映像、照明、音楽および香気の2つ以上を組み合わせて出力しても良い。
【0077】
なお、覚醒遷移期間における誘導部120の作動内容は、精神座標系における快適度合いを第1象限および第4象限内に維持させつつ、かつ、目覚め度合いを上げる作用を有する情報であり、上記に限定されず、実験等に応じて適宜設定しても良い。
【0078】
このようにリラックス状態にある誘導対象者2を、眠気度合いが高くなるように、誘導対象者2の精神状態を遷移させることで、覚醒状態へ遷移する際の精神状態の遷移量を大きくすることができる。
【0079】
例えば、
図5Bに示すように、精神座標系における第4象限(リラックス状態)における、目覚め度合いがかなり低い点Cから、第1象限(覚醒状態)の目覚め度合いがかなり高い点Dまで、誘導対象者2の精神状態が遷移する。
【0080】
これにより、誘導対象者2が、よりリフレッシュすることができたと実感しやすくすることができるので、万全な精神状態で第2会議に臨むことができる。
【0081】
また、制御部130は、誘導対象者2の目的地への到着時間に応じて、覚醒期間を終了する(
図4の時刻t6)。覚醒期間を終了する場合、制御部130は、例えば誘導部120の仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を透過状態(非遮断状態)とする。
【0082】
覚醒期間の終了タイミングは、目的地への到着時間以前である限り、どのようなタイミングであっても良い。例えば、覚醒期間の終了タイミングは、情報取得部110が取得する状態情報の変化により、誘導対象者2が覚醒状態に遷移したことが判定された時間以降であれば良い。
【0083】
また、制御部130は、誘導対象者2の目的地への到着時間に応じて、覚醒期間を調節しても良い。例えば、リラックス期間の割合を増やしたい場合は、覚醒期間の開始タイミングを遅くしても良いし、目的地への到着時間が遅れる場合は、覚醒期間の終了タイミングを遅くしても良い。
【0084】
また、制御部130は、覚醒期間の終了後、誘導対象者2が誘導部120の操作を可能にしても良い。
【0085】
例えば、覚醒期間が終了した後、誘導対象者2が、活動的な音楽が流れたままにしたい等、覚醒期間の状態を維持したいと考える場合がある。また、誘導対象者2が、覚醒期間が終了した後、リラックス期間で表示された自然風景の映像を鑑賞するため、リラックス期間の状態を望む場合もある。
【0086】
この場合、制御部130が、誘導部120の状態の選択を許可することで、誘導対象者2が希望する期間に車内環境を設定することができる。誘導対象者2の操作対象となるものは、例えば、車両1に設けられる選択スイッチや、車両1の表示装置の選択画面等であっても良い。
【0087】
また、誘導対象者2の初期の精神状態がリラックス状態であると特定された場合や、リラックス期間においてリラックス状態とされてから覚醒状態に遷移させる必要がない場合が起こり得る。この場合、制御部130は、誘導対象者2のリラックス状態を維持するようにリラックス期間を設ける。
【0088】
具体的には、制御部130は、上記の中立期間と同様に、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を透過状態(非遮断状態)とする。この際には、誘導部120を作動しなくても良い。
【0089】
また、制御部130は、情報取得部110が取得する状態情報の変化に応じて仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)として、誘導部120を作動させるようにしても良い。具体的には、制御部130は、快適度合いが下がる、目覚め度合いが上がる等、精神座標系の第4象限から、誘導対象者2の精神状態が外れるような状態情報の変化があった場合、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123を不透過状態(遮断状態)として、誘導部120を作動させるようにしても良い。
【0090】
このようにすることで、乗車した誘導対象者2の精神状態をリラックス状態に維持することができる。
【0091】
次に、誘導装置100の動作例について説明する。
図6は、誘導装置100における誘導制御の動作例を示すフローチャートである。
図6における処理は、例えば、誘導対象者2が車両1に乗車して、車両1が出発したタイミングで適宜実行される。
【0092】
図6に示すように、制御部130は、ストレス遷移期間を設ける(ステップS101)。ストレス遷移期間終了後、制御部130は、中立期間を設ける(ステップS102)。
【0093】
中立期間終了後、制御部130は、リラックス期間を設ける(ステップS103)。リラックス期間終了後、制御部130は、入眠遷移期間を設ける(ステップS104)。
【0094】
入眠遷移期間終了後、制御部130は、覚醒遷移期間を設ける(ステップS105)。そして、制御部130は、覚醒期間を終了し(ステップS106)、本制御は終了する。
【0095】
以上のように構成された本実施の形態によれば、誘導部120が車外情報を遮断可能に構成されているため、車外情報を遮断した上で、誘導対象者2の精神状態を所定の状態に誘導することができる。
【0096】
その結果、車外情報に阻害されることなく、所定の状態へ誘導対象者の精神状態を正確に誘導することができる。
【0097】
また、リラックス期間を設けるので、乗車した誘導対象者2をリラックス状態に正確に誘導することができる。
【0098】
また、リラックス期間を経由して誘導対象者2を覚醒状態に誘導するので、精神座標系における、精神状態の遷移量を比較的多くすることができる。その結果、誘導対象者2のリフレッシュ効果をより実感させやすくすることができる。
【0099】
また、ストレス遷移期間を経由してリラックス状態に誘導するので、精神座標系における精神状態の遷移量を比較的多くすることができる。その結果、誘導対象者2のリラックス効果をより実感させやすくすることができる。
【0100】
また、誘導対象者2の目的地への到着時間に応じて、覚醒期間を調節するので、状況に応じて、覚醒期間を柔軟に増減させることができる。
【0101】
また、覚醒期間の終了後、誘導対象者2が誘導部120を操作することを可能にすることで、誘導対象者2の気分に合わせた車内環境とすることができる。
【0102】
また、一対の側方部122および後方部123が、仕切り部121と同様の構成であるので、誘導対象者2の周囲から車外情報を完全に遮断することができる。その結果、誘導対象者2の精神状態をさらに良好に誘導することができる。
【0103】
なお、上記実施の形態では、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123により、誘導対象者2から車外情報を遮断していたが、本開示はこれに限定されず、仕切り部121、一対の側方部122および後方部123以外のもので車外情報を遮断しても良い。例えば、車内の空間に対して進退可能に構成され、車外情報を遮断する際に、誘導対象者の視野内に進出し、車外情報を遮断しない際に誘導対象者の視野外に退避する進退部材が設けられた構成であっても良い。
【0104】
また、上記実施の形態では、一対の側方部122および後方部123が設けられていたが、本開示はこれに限定されず、誘導対象者の前方の視野内が遮断可能である限り、一対の側方部122および後方部が設けられていなくても良い。
【0105】
また、上記実施の形態では、ストレス遷移期間を経由してリラックス期間を設けていたが、本開示はこれに限定されず、ストレス遷移期間を設けずにリラックス期間を設けても良い。
【0106】
また、上記実施の形態では、入眠遷移期間を経由して覚醒遷移期間としていたが、本開示はこれに限定されず、入眠遷移期間を経由せずに覚醒遷移期間としても良い。
【0107】
また、上記実施の形態では、リラックス期間を経由して覚醒期間としていたが、本開示はこれに限定されず、リラックス期間を経由しなくても良い。
【0108】
また、上記実施の形態では、後部座席1Aに着座した誘導対象者2の精神状態を誘導していたが、本開示はこれに限定されず、例えば、自動運転等の動作中に限り、前部座席1Bに着座した誘導対象者2の精神状態を誘導しても良い。
【0109】
また、上記実施の形態では、状態情報の変化に基づいて、誘導対象者2の初期の精神状態を特定していたが、本開示はこれに限定されず、誘導対象者2の主観に基づく精神状態によって、初期の精神状態を特定しても良い。
【0110】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示の誘導装置は、誘導対象者の精神状態をリラックス状態へ正確に誘導することが可能な誘導装置として有用である。
【符号の説明】
【0112】
1 車両
1A 後部座席
1B 前部座席
2 誘導対象者
100 誘導装置
110 情報取得部
120 誘導部
121 仕切り部
122 側方部
123 後方部
124 照明部
125 音楽再生部
126 香気発生部
130 制御部