(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122308
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】構造体設計支援装置、構造体設計支援方法及び構造体設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230825BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20230825BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025946
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】島崎 奈沙
(72)【発明者】
【氏名】河内 毅
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】剛性対策処理を実行する1又は複数の部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行加工な構造体設計支援装置を提供する。
【解決手段】構造体設計支援装置1は、構造体の数値解析データに基づいて、基準剛性データを演算する基準剛性演算部と、数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、第1剛性データを演算する第1剛性演算部と、数値解析データから物性データを変更した弾性変更データに基づいて第2剛性データを演算する第2剛性演算部と、基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算する曲げ度指標演算部と、少なくとも曲げ度指標に基づいて、部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する対策要否判定部と、対象部品に対して剛性対策処理を実行する剛性対策処理部とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算する基準剛性演算部と、
前記数値解析データから前記厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算する第1剛性演算部と、
前記数値解析データから前記物性データを変更した弾性変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算する第2剛性演算部と、
前記基準剛性データ、前記第1剛性データ及び前記第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算する曲げ度指標演算部と、
少なくとも前記曲げ度指標に基づいて、前記部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する対策要否判定部と、
前記対象部品に対して剛性対策処理を実行する剛性対策処理部と、
を有する、ことを特徴とする構造体設計支援装置。
【請求項2】
前記基準剛性データ、前記第1剛性データ及び前記第2剛性データのそれぞれは、前記構造体を動剛性解析したときの振動周波数である基準周波数、第1周波数及び第2周波数を示すデータであり、
曲げ度指標演算部は、前記基準周波数、前記第1周波数、及び前記第2周波数に基づいて、前記曲げ度指標を演算する、請求項1に記載の構造体設計支援装置。
【請求項3】
前記基準周波数、前記第1周波数及び前記第2周波数は、固有振動解析によって得られる基準固有振動数,第1固有振動数および第2固有振動数,又は加振応答解析によって得られる基準共振周波数,第1共振周波数および第2共振周波数である、請求項2に記載の構造体設計支援装置。
【請求項4】
前記曲げ度指標は、前記基準周波数と前記第1周波数との差、及び前記基準周波数と前記第2周波数との差を含む関数である、請求項2又は3に記載の構造体設計支援装置。
【請求項5】
前記基準剛性データ、前記第1剛性データ及び前記第2剛性データのそれぞれは、前記構造体を静剛性解析したときの剛性である基準剛性、第1剛性及び第2剛性を示すデータであり、
前記基準剛性、前記第1剛性、及び前記第2剛性に基づいて、前記曲げ度指標を演算する、請求項1に記載の構造体設計支援装置。
【請求項6】
前記曲げ度指標は、前記基準剛性と前記第1剛性との差、及び前記基準剛性と前記第2剛性との差を含む関数である、請求項5に記載の構造体設計支援装置。
【請求項7】
前記基準剛性データと、前記第1剛性データ又は前記第2剛性データの何れかとに基づいて、前記構造体の剛性への前記部品の寄与度を示す寄与度指標を演算する寄与度指標演算部を更に有し、
前記対策要否判定部は、前記曲げ度指標及び前記寄与度指標に基づいて、前記対象部品として抽出するか否かを判定する、請求項1~6の何れか一項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項8】
前記対策要否判定部は、前記曲げ度指標及び前記寄与度指標に加えて前記部品の表面積,体積又は重量の少なくとも1つを示すデータに基づいて、前記対象部品として抽出するか否かを判定する、請求項7に記載の構造体設計支援装置。
【請求項9】
前記剛性対策処理部は、
前記対象部品のそれぞれを単体で剛性解析して、前記対象部品の剛性データを演算し、
演算された前記対象部品の剛性データに基づいて、前記対象部品のそれぞれに対して、形状最適化処理を実行する、請求項1~8の何れか一項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項10】
前記剛性対策処理部は、
前記対象部品のそれぞれ及び前記対象部品のそれぞれに接合される部品を剛性解析して、前記対象部品の剛性データを演算し、
演算された前記対象部品の剛性データに基づいて、前記対象部品のそれぞれに対して、形状最適化処理を実行する、請求項1~8の何れか一項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項11】
前記剛性対策処理部は、前記対象部品の全てを含む前記構造体に対して、前記対象部品の全ての形状を一括して最適化する形状最適化処理を実行する、請求項1~8の何れか一項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項12】
前記剛性対策処理部は、前記対象部品の全てを含む前記構造体に対して、前記対象部品のそれぞれの形状を最適化する形状最適化処理を前記対象部品毎に実行する、請求項1~8の何れか一項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項13】
複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算し、
前記数値解析データから前記厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算し、
前記数値解析データから前記物性データを変更した弾性変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算し、
前記基準剛性データ、前記第1剛性データ及び前記第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算し、
少なくとも前記曲げ度指標に基づいて、前記部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定し、
前記対象部品に対して剛性対策処理を実行する、
ことを含む、ことを特徴とする構造体設計支援方法。
【請求項14】
複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算し、
前記数値解析データから前記厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算し、
前記数値解析データから前記物性データを変更した弾性変更データに基づいて、前記境界条件における前記構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算し、
基準剛性データ、前記第1剛性データ及び前記第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算し、
少なくとも前記曲げ度指標に基づいて、前記部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定し、
前記対象部品に対して剛性対策処理を実行する、
処理をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする構造体設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体設計支援装置、構造体設計支援方法及び構造体設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
トポロジー最適化により、構造体の部品の形状を最適化する種々の技術が知られている(例えば、特許文献1~3を参照)。特許文献1には、スプリングバック変形を想定した応力に対応する荷重を部品に与えた状態で、トポロジー最適化解析を行うことで、部品において、剛性に寄与度が高い部位を検出する技術が記載されている。特許文献2には、変位を最小にするなどの目的条件を含む最適化条件を設定した上で、設計空間に配置された最適化ブロックモデルをトポロジー最適化処理することで、実用上活用可能な最適形状を求める技術が記載されている。特許文献3には、最適化解析の設計変数を材料特性に係るパラメータとする感度解析により特定された空間に配置された最適化ブロックをトポロジー最適化解析処理することで、振動する部品から振動が伝達する部品の形状を最適化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-46336号公報
【特許文献2】特開2014-149732号公報
【特許文献3】特開2020-46185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3には、トポロジー最適化解析処理することで、所定の最適化ブロックの形状を最適化する技術が記載される。しかしながら、例えば数万に及ぶ部品を有する構造体において、剛性対策処理を実行する1又は複数の部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行する技術は、構造体の剛性を向上させる技術は、特許文献1~3には記載されていない。
【0005】
そこで、本発明は、剛性対策処理を実行する1又は複数の部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行加工な構造体設計支援装置、構造体設計支援方法及び構造体設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明は、以下に記載の構造体設計支援装置を要旨とするものである。
(1)複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算する基準剛性演算部と、
数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算する第1剛性演算部と、
数値解析データから物性データを変更した弾性変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算する第2剛性演算部と、
基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算する曲げ度指標演算部と、
少なくとも曲げ度指標に基づいて、部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する対策要否判定部と、
対象部品に対して剛性対策処理を実行する剛性対策処理部と、
を有する、ことを特徴とする構造体設計支援装置。
(2)基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データのそれぞれは、構造体を動剛性解析したときの振動周波数である基準周波数、第1周波数及び第2周波数を示すデータであり、
曲げ度指標演算部は、基準周波数、第1周波数、及び第2周波数に基づいて、曲げ度指標を演算する、(1)に記載の構造体設計支援装置。
(3)基準周波数、第1周波数及び第2周波数は、固有振動解析によって得られる基準固有振動数,第1固有振動数および第2固有振動数,又は加振応答解析によって得られる基準共振周波数,第1共振周波数および第2共振周波数である、(2)に記載の構造体設計支援装置。
(4)曲げ度指標は、基準周波数と第1周波数との差、及び基準周波数と第2周波数との差を含む関数である、(2)又は(3)に記載の構造体設計支援装置。
(5)基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データのそれぞれは、構造体を静剛性解析したときの剛性である基準剛性、第1剛性及び第2剛性を示すデータであり、
基準剛性、第1剛性、及び第2剛性に基づいて、曲げ度指標を演算する、(1)に記載の構造体設計支援装置。
(6)曲げ度指標は、基準剛性と第1剛性との差、及び基準剛性と第2剛性との差を含む関数である、(2)に記載の構造体設計支援装置。
(7)基準剛性データと、第1剛性データ又は第2剛性データの何れかとに基づいて、構造体の剛性への部品の寄与度を示す寄与度指標を演算する寄与度指標演算部を更に有し、
対策要否判定部は、曲げ度指標及び寄与度指標に基づいて、対象部品として抽出するか否かを判定する、(1)~(6)の何れか一つに記載の構造体設計支援装置。
(8)対策要否判定部は、曲げ度指標及び寄与度指標に加えて部品の表面積,体積又は重量の少なくとも1つを示すデータに基づいて、対象部品として抽出するか否かを判定する、(7)に記載の構造体設計支援装置。
(9)剛性対策処理部は、
対象部品のそれぞれを単体で剛性解析して、対象部品の剛性データを演算し、
演算された対象部品の剛性データに基づいて、対象部品のそれぞれに対して、形状最適化処理を実行する、(1)~(8)の何れか一つに記載の構造体設計支援装置。
(10)剛性対策処理部は、
対象部品のそれぞれ及び対象部品のそれぞれに接合される部品を剛性解析して、対象部品の剛性データを演算し、
演算された対象部品の剛性データに基づいて、対象部品のそれぞれに対して、形状最適化処理を実行する、(1)~(8)の何れか一つに記載の構造体設計支援装置。
(11)剛性対策処理部は、対象部品の全てを含む構造体に対して、対象部品の全ての形状を一括して最適化する形状最適化処理を実行する、(1)~(8)の何れか一つに記載の構造体設計支援装置。
(12)剛性対策処理部は、対象部品の全てを含む構造体に対して、対象部品のそれぞれの形状を最適化する形状最適化処理を実行する(1)~(8)の何れか一つに記載の構造体設計支援装置。
(13)複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算し、
数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算し、
数値解析データから物性データを変更した弾性変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算し、
基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算し、
少なくとも曲げ度指標に基づいて、部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定し、
対象部品に対して剛性対策処理を実行する、
ことを含む、ことを特徴とする構造体設計支援方法。
(14)複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さを含む形状データ、及び弾性を示す物性データを少なくとも含む数値解析データに基づいて、所定の境界条件における構造体の剛性を示すデータである基準剛性データを演算し、
数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第1剛性を演算し、
数値解析データから物性データを変更した弾性変更データに基づいて、境界条件における構造体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算し、
基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、部品の曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算し、
少なくとも曲げ度指標に基づいて、部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定し、
対象部品に対して剛性対策処理を実行する、
処理をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする構造体設計支援プログラム。
【発明の効果】
【0007】
一実施形態では、構造体設計支援装置は、剛性対策処理を実行する1又は複数の部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る構造体設計支援装置の概要を説明するための図である。
【
図2】第1実施形態に係る構造体設計支援装置のブロック図である。
【
図3】
図2に示す構造体設計支援装置による構造体設計支援処理を示すフローチャートである。
【
図4】平板の変形を示す図であり、(a)は伸張変形及び圧縮変形を示し、(b)はせん断変形を示し、(c)は曲げ変形を示す。
【
図5】
図3に示すS112に示す処理のより詳細な処理を示すフローチャートである。
【
図6】第2実施形態に係る構造体設計支援装置のブロック図である。
【
図7】
図6に示す構造体設計支援装置による構造体設計支援処理を示すフローチャートである。
【
図8】第1変形例に係る剛性対策処理のフローチャートである。
【
図9】第2変形例に係る剛性対策処理のフローチャートである。
【
図10】(a)は実施例及び比較例のそれぞれのb値およびヤング率感度の条件を示す図であり、(b)は実施例及び比較例のそれぞれの質量1kg当たりの固有周波数の向上代を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して、本発明に係る構造体設計支援装置について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されない。
【0010】
(実施形態に係る構造体設計支援装置の概要)
図1は、構造体設計支援装置の概要を説明するための図である。
図1に示す例では、構造体である車体を動剛性解析することで抽出されたリアウエストの端部に配置される部品に対して剛性対策処理が実行される。
【0011】
図1(a)において一点鎖線で示すように、構造体設計支援装置は、車体の初期設計データである数値解析データを使用して、有限要素解析(Finite Element Method、FEM)によって、所定の境界条件における車体のリア部分を固有振動解析する。構造体設計支援装置は、車体のリア部分を固有振動解析することで、数値解析データに基づく車体のリア部の剛性を示すデータである基準剛性データを演算する。数値解析データは、車体を形成する複数の部品のそれぞれの厚さを含む形状データ、弾性を示す物性データを少なくとも含む。次いで、構造体設計支援装置は、数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データを生成し、生成した厚さ変更データに基づいて、境界条件における車体のリア部の剛性を示すデータである第1剛性データを演算する。次いで、構造体設計支援装置は、数値解析データから物性データを変更した弾性変更データを生成し、生成した弾性変更データに基づいて、境界条件における車体のリア部の剛性を示すデータである第2剛性データを演算する。
【0012】
次いで、構造体設計支援装置は、基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、車体のリア部を形成する部品のそれぞれの曲げ変形の度合いを示すb値とも称される曲げ度指標を演算する。
【0013】
次いで、構造体設計支援装置は、演算した曲げ度指標に基づいて、部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する。構造体設計支援装置は、例えば所定のb値しきい値よりもb値が高い1又は複数の部品を、剛性対策処理を実行する対称部品として抽出する。
図1に示す例では、
図1(b)において矢印Aで示すように、リアウエストの端部に配置される部品が対象部品として抽出される。
【0014】
次いで、構造体設計支援装置は、対象部品であるリアウエストの端部に対して剛性対策処理を実行する。まず、構造体設計支援装置は、
図1(c)に示すように、リアウエストの端部を単体で固有振動解析を実行する。構造体設計支援装置は、単体で固有振動解析されたリアウエストの端部の変形と、車体に組み込まれた状態で固有振動解析されたリアウエストの端部の変形とを比較して、変形の動作が一致する振動周波数を抽出する。構造体設計支援装置は、例えば単体で固有振動解析されたリアウエストの端部の変形における応力分布と、車体に組み込まれた状態で固有振動解析されたリアウエストの端部の変形における応力分布との一致度に基づいて振動周波数を抽出する。構造体設計支援装置は、単体及び車体に組み込まれた状態のそれぞれのリアウエストの端部における応力分布を示すベクトルを生成し、生成したベクトルの内積を応力分布の一致度として演算する。構造体設計支援装置は、演算した応力分布の一致度が最も高い振動周波数を抽出し、抽出した振動周波数で固有振動数が最大となるように、リアウエストの端部の端部の形状を変形することで、リアウエストの端部の形状を最適化する。
図1(d)に示すように、構造体設計支援装置は、例えばリアウエストの端部に円形状の突起部を形成する。なお、構造体設計支援装置は、対象部品に突起部を形成する代わりに対象部品にビートを付与してもよい。
【0015】
構造体設計支援装置は、曲げ度指標に基づいて、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出することで、剛性対策処理を実行する部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行することができる。
【0016】
(第1実施形態に係る構造体設計支援装置の構成及び機能)
図2は、第1実施形態に係る構造体設計支援装置のブロック図である。
【0017】
構造体設計支援装置1は、通信部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14と、処理部20とを有する。通信部11、記憶部12、入力部13、出力部14及び処理部20は、バス15を介して互いに接続される。
【0018】
通信部11は、イーサネット(登録商標)などの有線の通信インターフェース回路を有する。通信部11は、インターネット及びローカルエリアネットワーク(Local Area Network、LAN)等の通信ネットワークを介してサーバ等の電気計算機と通信を行う。
【0019】
記憶部12は、例えば、半導体記憶装置、磁気テープ装置、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置のうちの少なくとも一つを備える。記憶部12は、処理部20での処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。例えば、記憶部12は、オペレータによる構造体の設計を支援する構造体設計支援処理を処理部20に実行させるための構造体設計支援プログラム等を記憶する。構造体設計支援プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記憶媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部12にインストールされてもよい。
【0020】
記憶部12は、複数の部品を有する構造体のそれぞれの部品の厚さ、弾性を示すデータ及び大きさを示すデータを少なくとも含む数値解析データを記憶する。弾性を示す物性データは、ヤング率とも称される縦弾性係数、横弾性係数及びポアソン比を含む。また、記憶部12は、有限要素モデルデータである数値解析データを生成するときに使用されるCADモデルデータ及び生成条件データを記憶する。また、記憶部12は、剛性データを演算するときに使用される材料物性データ及び振動条件データを記憶する。材料物性データは、弾性を示す物性データ、密度、熱膨張係数並びに降伏応力等の材料物性を示すデータであり、振動条件データは、構造体に印加される振動周波数を示すデータである。
【0021】
入力部13は、データの入力が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、タッチパネル、キーボード等である。構造体設計支援装置1を使用するオペレータは、入力部13を用いて、文字、数字、記号等を入力することができる。入力部13は、オペレータにより操作されると、その操作に対応する信号を生成する。そして、生成された信号は、オペレータの指示として、処理部20に供給される。
【0022】
出力部14は、映像や画像等の表示が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等である。出力部14は、処理部20から供給された映像データに応じた映像や、画像データに応じた画像等を表示する。また、出力部14は、紙などの表示媒体に、映像、画像又は文字等を印刷する出力装置であってもよい。
【0023】
処理部20は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部20は、構造体設計支援装置1の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPUである。処理部20は、記憶部12に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、処理部20は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できる。
【0024】
処理部20は、数値解析データ生成部21と、基準剛性演算部22と、第1剛性演算部23と、第2剛性演算部24と、曲げ度指標演算部25と、対策要否判定部26と、剛性対策処理部27とを有する。これらの各部は、処理部20が備えるプロセッサで実行されるプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、これらの各部は、ファームウェアとして処理部20に実装されてもよい。
【0025】
(構造体設計支援装置1による構造体設計支援処理)
図3は、構造体設計支援装置1による構造体設計支援処理を示すフローチャートである。
図3に示す構造体設計支援処理は、予め記憶部12に記憶されている制御プログラムに基づいて、主に処理部20により、構造体設計支援装置1の各要素と協働して実行される。
図3を参照して説明される構造体設計支援処理は、車体の固有振動解析における構造体設計支援処理であるが、実施形態に係る構造体設計支援処理は、車体の固有振動解析以外の動剛性解析、静剛性解析及びスプリングバック変形の解析等の動剛性解析以外の解析に使用されてもよい。
【0026】
まず、数値解析データ生成部21は、記憶部12に記憶されているCADモデルデータ及び生成条件データに基づいて、有限要素モデルデータである数値解析データを生成し(S101)、生成した数値解析データを記憶部12に記憶する。数値解析データ生成部21は、車体を形成する複数の部品のそれぞれの形状を、特定の形状及びサイズを複数の要素に分割することにより数値解析データを生成する。数値解析データ生成部21は、ALTAIR社製のHyperMesh及びBETA CAE Systems社製のANSA等の有限要素モデルデータ生成用のアプリケーションプログラムを使用して数値解析データを生成する。
【0027】
次いで、基準剛性演算部22は、記憶部12に記憶された数値解析データに基づいて、所定の境界条件における車体を形成する部品のそれぞれの剛性を示すデータである基準剛性データを演算する(S102)。基準剛性演算部22は、演算した基準剛性データを示す基準剛性情報を記憶部12に記憶する。基準剛性データが演算するときに使用される境界条件は、記憶部12に記憶される材料物性データ及び振動条件データのそれぞれに対応する条件である。基準剛性演算部22は、ALTAIR社製のHyperForm、株式会社JSOL製のAnsys LS-DYNA、日本イーエスアイ株式会社製のPAM-MEDYSA及び株式会社CAEソリューションズ製のAbaqus等の有限要素解析用のアプリケーションプログラムを使用して基準剛性情報を生成する。S102の処理で生成される基準剛性情報に対応する基準剛性データは、車体の部品を固有振動解析したときの固有振動周波数である基準固有周波数f0を含む。
【0028】
次いで、第1剛性演算部23は、S101の処理で生成された数値解析データから車体を形成する部品の1つの厚さ及び密度を示すデータを変更した厚さ変更データを生成し(S103)、生成した厚さ変更データを記憶部12に記憶する。第1剛性演算部23は、対象とする部品の厚さを変更する前の質量と対象とする部品の厚さを変更した後の質量とが一致するように、対象とする部品の密度を変更する。
【0029】
次いで、第1剛性演算部23はS103の処理で生成された厚さ変更データに基づいて、記憶部12に記憶される材料物性データ及び振動条件データのそれぞれに対応する境界条件における車体の剛性を示すデータである第1剛性データを演算する(S104)。第1剛性演算部23は、演算した第1剛性データを示す第1剛性情報を記憶部12に記憶する。第1剛性演算部23は、基準剛性演算部22と同様に、有限要素解析用のアプリケーションプログラムを使用して第1剛性情報を生成する。S104の処理で生成される第1剛性情報に対応する第1剛性データは、車体の部品を固有振動解析したときの固有振動周波数である第1固有周波数f1を含む。
【0030】
次いで、第1剛性演算部23は、全ての部品についてS104の処理を実行したか否かを判定する(S105)。第1剛性演算部23は、全ての部品についてS104の処理を実行したと判定する(S105-YES)まで、S103~S105の処理を繰り返す。
【0031】
全ての部品についてS104の処理を実行したと判定される(S105-YES)と、第2剛性演算部24は、S101の処理で生成された数値解析データから弾性変更データを生成する(S106)。S106の処理で生成される弾性変更データは、車体を形成する部品の1つの弾性率を示すデータを変更したデータである。第2剛性演算部24は、生成した弾性変更データを記憶部12に記憶する。
【0032】
次いで、第2剛性演算部24はS106の処理で生成された弾性変更データに基づいて、記憶部12に記憶される材料物性データ及び振動条件データのそれぞれに対応する境界条件における車体の剛性を示すデータである第2剛性データを演算する(S107)。第2剛性演算部24は、演算した第2剛性データを示す第2剛性情報を記憶部12に記憶する。S107の処理で生成される第2剛性情報に対応する第2剛性データは、車体の部品を固有振動解析したときの固有振動周波数である第2固有周波数f2を含む。
【0033】
次いで、第2剛性演算部24は、全ての部品についてS107の処理を実行したか否かを判定する(S108)。第2剛性演算部24は、全ての部品についてS107の処理を実行したと判定する(S108-YES)まで、S106~S108の処理を繰り返す。
【0034】
第2剛性演算部24によって全ての部品についてS107の処理を実行したと判定される(S108-YES)と、曲げ度指標演算部25は、車体の部品のそれぞれの曲げ変形の度合いを示す曲げ度指標を演算する(S109)。曲げ度指標演算部25は、S102、S104及びS107の処理で演算された基準剛性データ、第1剛性データ及び第2剛性データに基づいて、曲げ度指標を演算する。曲げ度指標は、式(1)において「b」で示され、b値とも称される。式(1)において、基準剛性データである基準固有周波数がf0で示され、第1剛性データである第1固有周波数がf1で示され、第2剛性データである第2固有周波数がf2で示され、第1剛性データである第1固有周波数f1と基準剛性データである基準固有周波数f0との差がΔftで示され、第2剛性データである第2固有周波数f2と基準剛性データである基準固有周波数f0との差がΔfEで示される。式(1)は、基準周波数と第1周波数との差がΔft、及び基準周波数と第2周波数との差がΔfEで示され、曲げ度指標を演算する関数である。b値の定義の詳細は、特開2021-152894号公報で詳細に説明されているので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0035】
【0036】
図4は平板の変形を示す図であり、
図4(a)は伸張変形及び圧縮変形を示し、
図4(b)はせん断変形を示し、
図4(c)は曲げ変形を示す。
【0037】
伸張変形及び圧縮変形の剛性はヤング率Eと板厚tとの積(E×t)に比例し、せん断変形の剛性はせん断弾性率Gと板厚tとの積(G×t)に比例し、曲げ変形の剛性はヤング率Eと板厚の三乗t3との積(E×t3)に比例する。式(1)において、b値は、1以上3以下の値を示す。b値は、曲げ変形する領域が多いほど3に近づき、曲げ変形する領域が少ないほど1に近づく。一般に、曲げ変形が多い部品は、部品の材料強度を効率的に利用されていないことが知られており、部品は、曲げ変形が少なく且つ伸張変形及び圧縮変形並びにせん断変形を含む面内変形とすることが好ましい。
【0038】
次いで、対策要否判定部26は、S109の処理で演算された曲げ度指標であるb値に基づいて、車体の部品のそれぞれを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する(S110)。対策要否判定部26は、部品のb値が所定のb値しきい値以上であるときに、部品を剛性対策処理が実行される対象部品として抽出すると判定する(S110-YES)。また、対策要否判定部26は、部品のb値が所定のb値しきい値未満であるときに、部品を剛性対策処理が実行される対象部品として抽出しないと判定する(S110-NO)。
【0039】
次いで、対策要否判定部26は、全ての部品についてS110の処理を実行したか否かを判定する(S111)。対策要否判定部26は、全ての部品についてS110の処理を実行したと判定する(S111-YES)まで、S109~S111の処理を繰り返す。
【0040】
対策要否判定部26によって全ての部品についてS107の処理を実行したと判定される(S111-YES)と、剛性対策処理部27は、剛性対策処理を実行する(S112)。
【0041】
図5は、S112に示す処理のより詳細な処理を示すフローチャートである。
【0042】
まず、剛性対策処理部27は、対象部品を単体で剛性解析して、対象部品の剛性データを演算し(S201)、演算した剛性データを示す剛性情報を記憶部12に記憶する。剛性対策処理部27は、所定の周波数帯において所定の周波数ピッチでサンプリングした複数の周波数において、対象部品の固有振動解析を実行し、固有振動解析の結果を対象部品の剛性データとして記憶する。
【0043】
次いで、剛性対策処理部27は、対象部品の形状を最適化する形状最適化処理を実行するときに使用される振動周波数を決定する(S202)。剛性対策処理部27は、例えば部品の要素のそれぞれの最大主ひずみを所定の順序で配列した分布ベクトルを使用して、単体で剛性解析された対象部品を形状最適化処理を実行するときに使用される振動周波数を決定する。剛性対策処理部27は、単体で剛性解析された対象部品の分布ベクトルと、車体に組み込まれた対象部品の分布ベクトルの内積の絶対値を、分布ベクトルのそれぞれの大きさにより規格化した一致度数を使用して、振動周波数を決定する。剛性対策処理部27は、一致度数が最も大きい周波数を、車体に組み込まれた対象部品の振動周波数と一致する振動周波数と判定し、形状最適化処理を実行するときに使用される振動周波数に決定する。なお、剛性対策処理部27は、オペレータの指示に基づいて、形状最適化処理を実行するときに使用される振動周波数を決定してもよい。
【0044】
次いで、剛性対策処理部27は、S202の処理で決定された振動周波数を使用して、対象部品に対して、形状最適化処理を実行し(S203)、形状最適化処理が実行された対象部品の形状を示す形状最適化データを記憶部12に記憶する。剛性対策処理部27は、例えばALTAIR社製のOptiStructを使用して、S202の処理で決定された振動周波数における固有振動数が最大になるように対象部品の形状を最適化する。対象部品は、他の部品と接合する接合領域は、形状最適化処理において形状を変更しない領域として規定される。また、対象部品は、一例では底面の直径20mmであり且つ高さが10mmである円柱状の突起部を付加されることにより形状が変化されてもよい。なお、他の部品と接合する接合領域は、形状最適化処理において形状を変更する領域として規定されてもよい。
【0045】
次いで、剛性対策処理部27は、S110の処理で抽出された対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたか否かを判定する(S204)。剛性対策処理部27は、対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたと判定する(S204-YES)まで、S201~S204の処理を繰り返す。剛性対策処理部27は、対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたと判定する(S204-YES)と、剛性対策処理を終了する。
【0046】
剛性対策処理を終了すると、剛性対策処理部27は、S204の処理で形状最適化処理が実行された対象部品の形状最適化データを、数値解析データの対象部品の対応するデータと置換して形状変更解析データを生成する(S113)。剛性対策処理部27は、生成した形状変更解析データを記憶部12に記憶する。
【0047】
次いで、剛性対策処理部27は、記憶部12に記憶された形状変更解析データに基づいて、記憶部12に記憶される材料物性データ及び振動条件データのそれぞれに対応する境界条件における車体の剛性データである変更剛性データを演算し(S114)する。剛性対策処理部27は、演算した変更剛性データを示す変更剛性情報を記憶部12に記憶する。
【0048】
次いで、剛性対策処理部27は、S102の処理で演算された基準剛性データと、S114の処理で演算された変更剛性データとを比較して、剛性対策処理による効果を示す効果情報を生成する(S115)。S115の処理で生成される効果情報は、車体の固有振動解析では、車体の質量1kg当たりの振動周波数の向上代である。
【0049】
そして、剛性対策処理部27は、S115の処理で生成された効果情報を出力部14に出力する(S116)ことで、構造体設計支援処理は終了する。出力部14は、入力された効果情報を表示し、オペレータは、出力部14に表示された効果情報に基づいて、剛性対策の効果を検証する。
【0050】
(第1実施形態に係る構造体設計支援装置の作用効果)
構造体設計支援装置1は、曲げ度指標に基づいて、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出することで、剛性対策処理を実行する部品を自動的且つ効率的に抽出して、抽出した部品に剛性対策を実行することができる。具体的には、構造体設計支援装置1は、b値を曲げ度指標として使用することで、曲げ変形する領域が多い部品を対象部品として効率的に抽出することができる。
【0051】
(第2実施形態に係る構造体設計支援装置の構成及び機能)
図6は、第2実施形態に係る構造体設計支援装置のブロック図である。
【0052】
構造体設計支援装置2は、処理部30を処理部20の代わりに有することが構造体設計支援装置1と相違する。処理部30は、寄与度指標演算部31を有することが処理部20と相違する。記憶部16及び寄与度指標演算部31以外の構造体設計支援装置2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された構造体設計支援装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0053】
(構造体設計支援装置2による構造体設計支援処理)
図7は、構造体設計支援装置2による構造体設計支援処理を示すフローチャートである。
図7に示す構造体設計支援処理は、予め記憶部12に記憶されている制御プログラムに基づいて、主に処理部30により、構造体設計支援装置2の各要素と協働して実行される。
【0054】
S301~S309の処理は、S101~S109の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0055】
S309の処理が終了すると、対策要否判定部26は、S110の処理と同様に、S309の処理で演算された曲げ度指標に基づいて、車体の部品の1つを、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する(S310)。対策要否判定部26によって車体の部品を対象部品として抽出しないと判定された(S310-NO)とき、処理はS313に進む。
【0056】
対策要否判定部26によって車体の部品を対象部品として抽出すると判定された(S310-YES)とき、寄与度指標演算部31は、基準剛性情報及び第2剛性情報に基づいて、S310の処理で抽出された対象部品の寄与度を示す寄与度指標を演算する(S311)。寄与度指標演算部31は、ヤング率感度とも称され、車体を形成する部品のそれぞれの第2剛性データとS302の処理で演算された基準剛性データとの間の変化量を基準剛性データで除した剛性データの変化率を寄与度指標として演算する。
【0057】
次いで、対策要否判定部26は、S311の処理で演算された寄与度指標に基づいて、S310の処理で抽出された対象部品を、剛性対策処理が実行される対象部品として抽出するか否かを判定する(S312)。対策要否判定部26は、S311の処理で抽出された寄与度指標が所定の寄与度しきい値以上であるときに、対象部品として抽出すると判定する(S312-YES)。また、対策要否判定部26は、S311の処理で抽出された寄与度指標が寄与度しきい値未満であるときに、対象部品として抽出しないと判定する(S312-NO)。
【0058】
次いで、対策要否判定部26は、全ての部品についてS310の処理を実行したか否かを判定する(S313)。対策要否判定部26は、全ての部品についてS310の処理を実行したと判定する(S313-YES)まで、S309~S313の処理を繰り返す。
【0059】
対策要否判定部26によって全ての部品についてS310の処理を実行したと判定される(S313-YES)と、剛性対策処理部27は、S112の処理と同様に、剛性対策処理を実行する(S314)。S315~S318の処理は、S110~S113の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0060】
(第2実施形態に係る構造体設計支援装置の作用効果)
構造体設計支援装置2は、曲げ度指標に加えて寄与度指標に基づいて、剛性対策処理が実行される対象部品を抽出するので、車体の剛性を向上させるための寄与度が高い部品を対象部品として抽出することができる。
【0061】
(実施形態に係る構造体設計支援装置の変形例)
構造体設計支援装置1及び2は、部品のb値が所定のb値しきい値以上であるときに部品を対象部品として抽出するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、部品のb値の平均値をb値しきい値として使用してもよい。また、実施形態に係る構造体設計支援装置は、b値が大きい所定の数の部品を対象部品として抽出してもよい。
【0062】
また、構造体設計支援装置2は、部品の寄与度指標が所定の寄与度しきい値以上であるときに部品を対象部品として抽出するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、部品の寄与度指標の平均値を寄与度しきい値として使用してもよい。また、実施形態に係る構造体設計支援装置は、寄与度指標が大きい所定の数の部品を対象部品として抽出してもよい。
【0063】
また、構造体設計支援装置2は、ヤング率感度を寄与度指標として使用するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、ヤング率感度以外の指標を寄与度指標として使用してもよい。例えば、実施形態に係る構造体設計支援装置は、板厚感度を寄与度指標として使用してもよい。板厚感度は、S304の処理で演算された第1剛性データとS302の処理で演算された基準剛性データとの間の変化量を基準剛性データで除した剛性データの変化率である。
【0064】
また、構造体設計支援装置2は、曲げ度指標及び寄与度指標に基づいて対象部品を抽出するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、曲げ度指標及び寄与度指標と共に、部品の大きさに基づいて対象部品を抽出してもよい。対象部品を抽出するときに使用される部品の大きさは、一例では部品の体積であり、他の例では重量であり、更に他の例では部品の表面積である。
【0065】
また、構造体設計支援装置1及び2は、厚さ変更データ及び弾性変更データを生成するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、厚さ変更データ及び弾性変更データを記憶部12に予め記憶してもよい。
【0066】
また、構造体設計支援装置2は、対象部品を単体で剛性解析して対象部品の剛性データを演算することで剛性対策処理を実行するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、対象部品に接合される部品と共に対象部品を剛性解析してもよい。
【0067】
図8は、第1変形例に係る剛性対策処理のフローチャートである。
図8に示す剛性対策処理は、予め記憶部12に記憶されている制御プログラムに基づいて、主に処理部20により、構造体設計支援装置1の各要素と協働して実行される。
【0068】
まず、剛性対策処理部27は、対象部品に接合される部品と共に対象部品を剛性解析して、対象部品の剛性データを演算し(S401)、演算した剛性データを示す剛性情報を記憶部12に記憶する。剛性対策処理部27は、S201の処理と同様に、所定の周波数帯において所定の周波数ピッチでサンプリングした複数の周波数において、対象部品の固有振動解析を実行し、固有振動解析の結果を対象部品の剛性データとして記憶する。
【0069】
次いで、剛性対策処理部27は、S202の処理と同様に、形状最適化処理を実行するときに使用される振動周波数を決定する(S402)。剛性対策処理部27は、対象部品に接合される部品と共に剛性解析された対象部品の分布ベクトルと、車体に組み込まれた対象部品の分布ベクトルの一致度に基づいて振動周波数を決定する。
【0070】
次いで、剛性対策処理部27は、S203の処理と同様に、S402の処理で決定された振動周波数を使用して、対象部品に対して、形状最適化処理を実行する(S403)。剛性対策処理部27は、形状最適化処理が実行された対象部品の形状を示す形状最適化データを記憶部12に記憶する。なお、対象部品に接合される部品は、形状最適化処理において形状を変更しない領域として規定される。
【0071】
次いで、剛性対策処理部27は、対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたか否かを判定する(S404)。剛性対策処理部27は、対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたと判定する(S404-YES)まで、S401~S404の処理を繰り返す。剛性対策処理部27は、対象部品の全てに対して形状最適化処理が実行されたと判定する(S404-YES)と、剛性対策処理を終了する。
【0072】
また、実施形態に係る構造体設計支援装置では、剛性対策処理部27は、対象部品の全てを含む車体に対して、対象部品の全ての形状を一括して最適化する形状最適化処理を実行してもよい。
【0073】
また、実施形態に係る構造体設計支援装置では、剛性対策処理部27は、対象部品の全てを含む車体に対して、対象部品のそれぞれの形状を最適化する形状最適化処理を対象部品毎に実行してもよい。
【0074】
また、実施形態に係る構造体設計支援装置では、剛性対策処理部27は、態様が異なる複数の形状最適化処理の結果から最も剛性が改善された形状最適化処理の結果を採用してもよい。
【0075】
図9は、第2変形例に係る剛性対策処理のフローチャートである。
図9に示す剛性対策処理は、予め記憶部12に記憶されている制御プログラムに基づいて、主に処理部20により、構造体設計支援装置1の各要素と協働して実行される。
【0076】
まず、剛性対策処理部27は、対象部品を単体で剛性解析して対象部品の剛性を演算する第1剛性対策処理を実行し(S501)、第1剛性対策処理により生成される第1形状最適化データを記憶部12に記憶する。第1剛性対策処理は、
図5を参照して説明されたS112に示す剛性対策処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。次いで、対象部品に接合される部品と共に対象部品を剛性解析する第2剛性対策処理を実行し(S502)、第2剛性対策処理により生成される第2形状最適化データを記憶部12に記憶する。第2剛性対策処理は、
図8を参照して説明された第1変形例に係る剛性対策処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0077】
次いで、剛性対策処理部27は、対象部品の全てを含む車体に対して、対象部品の全ての形状を一括して最適化する形状最適化処理を実行する第3剛性対策処理を実行する(S503)。剛性対策処理部27は、第3剛性対策処理により生成される第3状最適化データを記憶部12に記憶する。次いで、剛性対策処理部27は、対象部品の全てを含む車体に対して、対象部品の全ての形状を一括して最適化する形状最適化処理を実行する第3剛性対策処理を実行する(S504)。剛性対策処理部27は、第4剛性対策処理により生成される第3状最適化データを記憶部12に記憶する。
【0078】
次いで、剛性対策処理部27は、第1剛性対策処理による効果を示す第1効果情報を生成する(S505)。次いで、剛性対策処理部27は、第2剛性対策処理による効果を示す第2効果情報を生成する(S506)。次いで、剛性対策処理部27は、第3剛性対策処理による効果を示す第3効果情報を生成する(S507)。次いで、剛性対策処理部27は、第4剛性対策処理による効果を示す第4効果情報を生成する(S508)。S505~S508のそれぞれの処理は、S113~S115の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0079】
次いで、剛性対策処理部27は、S505~S508のそれぞれの処理で生成された第1効果情報~第4効果情報を比較して、第1剛性対策処理~第2剛性対策処理の中で最も剛性データが改善された剛性対策処理を決定する(S509)。
【0080】
また、構造体設計支援装置1及び2は、車体を固有振動解析するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、車体以外の構造体を固有振動解析以外の動剛性解析をして、基準周波数、第1周波数及び第2周波数を演算してもよい。
【0081】
例えば、実施形態に係る構造体設計支援装置は、加振応答解析によって得られる基準共振周波数,第1共振周波数および第2共振周波数を、基準周波数、第1周波数及び第2周波数として演算してもよい。基準共振周波数は数値解析データに基づいて演算され、第1共振周波数は数値解析データから厚さを示すデータを変更した厚さ変更データに基づいて演算される。第2共振周波数は、数値解析データからヤング率等の弾性を示す物性データを変更した弾性変更データに基づいて演算される。
【0082】
また、構造体設計支援装置1及び2は、車体を固有振動解析するが、実施形態に係る構造体設計支援装置は、車体及び車体以外の構造体を静剛性解析してもよい。
【0083】
実施形態に係る構造体設計支援装置は、構造体を静剛性解析するとき、式(2)に示すb値を曲げ度指標として演算する。式(2)において、基準剛性データがK0で示され、第1剛性データがK1で示され、第2剛性データがK2で示され、第1剛性データK1と基準剛性データK0との差がΔKtで示され、第2剛性データK2と基準剛性データK0との差がΔKEで示される。剛性データKは、例えばねじりモーメントMとねじり角θとにより(M/θ)で示されるねじり剛性である。式(2)は、基準剛性と第1剛性との差がΔKt、及び基準剛性と第2剛性との差がΔKEで示され、曲げ度指標を演算する関数である。
【0084】
【実施例0085】
自動車の車体を構造体とし、車体に含まれる150個程度の部品から3個の部品を抽出し、例えばALTAIR社製のOptiStructを使用して、剛性対策処理を実行した。
【0086】
図10(a)は、実施例及び比較例のそれぞれのb値およびヤング率感度の条件を示す図である。
【0087】
実施例は、b値が所定のb値しきい値より高く且つヤング率感度が所定のヤング率感度しきい値よりも高い部品の中で、b値が高い3個の部品を抽出した。比較例は、b値が所定のb値しきい値より低く且つヤング率感度が所定のヤング率感度しきい値よりも高い部品の中で、b値が低い3個の部品を抽出した。
【0088】
それぞれ3個ずつ抽出された実施例及び比較例に剛性対策処理を実行し、剛性対策処理を実行する前後の車体の固有周波数の変化から質量1kg当たりの固有周波数の向上代を演算した。
【0089】
図10(b)は、実施例及び比較例のそれぞれの質量1kg当たりの固有周波数の向上代を示す図である。
【0090】
実施例1の質量kg当たりの固有周波数の向上代は0.038Hzであり、比較例の質量1kg当たりの固有周波数の向上代は0.017Hzである。実施例の質量1kg当たりの固有周波数の向上代は、比較例の質量1kg当たりの固有周波数の向上代の2倍以上であり、本発明に係る構造体設計支援装置を使用することで、剛性対策処理を実行することにより生じる効果が向上することが確認された。