(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122324
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】材料特性予測プログラム、金属材料、構造物、材料特性予測装置及び材料特性予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/2045 20190101AFI20230825BHJP
G01N 17/02 20060101ALI20230825BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20230825BHJP
G16C 20/70 20190101ALI20230825BHJP
【FI】
G01N33/2045 100
G01N17/02
G01N27/26 351D
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025968
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉見 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優馬
(72)【発明者】
【氏名】平出 信彦
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050EB03
2G050EB10
2G055AA01
2G055BA12
2G055EA08
2G055FA10
(57)【要約】
【課題】実験を行うことなく、金属材料の化学組成が当該金属の材料的な特性に与える影響を示すデータを出力することができる技術を提供し、当該技術により材料的な特性が予測された金属材料、当該金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物を提供すること。
【解決手段】材料特性予測プログラムは、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する因子データ取得機能と、前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる耐孔食性予測機能と、をコンピュータに実現させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する因子データ取得機能と、
前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる耐孔食性予測機能と、
をコンピュータに実現させる材料特性予測プログラム。
【請求項2】
前記因子データにより示される因子の値を入力する第一ユーザインターフェースをディスプレイに表示させる第一表示制御機能をコンピュータに更に実行させ、
前記因子データ取得機能は、前記第一ユーザインターフェースに入力された値を示す前記因子データを取得する、
請求項1に記載の材料特性予測プログラム。
【請求項3】
前記金属材料の化学組成の少なくとも一部を示す化学組成データを取得する化学組成データ取得機能と、
前記化学組成データにより示される化学組成に基づいて前記金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を算出することにより前記因子データを生成する因子データ生成機能と、
をコンピュータに更に実現させ、
前記因子データ取得機能は、前記因子データ生成機能により生成された前記因子データを取得する、
請求項1に記載の材料特性予測プログラム。
【請求項4】
前記化学組成データにより示される化学組成を入力する第二ユーザインターフェースをディスプレイに表示させる第二表示制御機能をコンピュータに更に実行させ、
前記化学組成データ取得機能は、前記第二ユーザインターフェースに入力された化学組成を示す前記化学組成データを取得する、
請求項3に記載の材料特性予測プログラム。
【請求項5】
前記化学組成データ取得機能は、前記金属材料に含まれているクロムの割合、モリブデンの割合、窒素の割合及びニッケルの割合の少なくとも一つを示す前記化学組成データを取得する、
請求項3又は請求項4に記載の材料特性予測プログラム。
【請求項6】
前記化学組成データ取得機能は、前記金属材料に含まれているシリコンの割合、銅の割合、チタンの割合、ニオブの割合及びマンガンの割合の少なくとも一つを示す前記化学組成データを取得する、
請求項3から請求項5のいずれか一つに記載の材料特性予測プログラム。
【請求項7】
前記耐孔食性予測機能は、前記金属材料の孔食電位を予測した結果を示す前記耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる、
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の材料特性予測プログラム。
【請求項8】
前記因子データ取得機能は、前記金属材料の腐食の起点となる要素に関する物理量を示す前記因子データを取得する、
請求項1から請求項7のいずれか一つに記載の材料特性予測プログラム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一つに記載の材料特性予測プログラムを使用して耐孔食性が予測された金属材料。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか一つに記載の材料特性予測プログラムを使用して耐孔食性が予測された金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物。
【請求項11】
金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する因子データ取得部と、
前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる耐孔食性予測部と、
を備える材料特性予測装置。
【請求項12】
金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得し、
前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる、
を備える材料特性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料特性予測プログラム、金属材料、構造物、材料特性予測装置及び材料特性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属材料の材料的な特性を向上させる研究が進められている。例えば、ステンレス鋼は、元素が添加されることにより耐孔食性が変化し、耐孔食性相当数(PREN:Pitting Resistance Equivalent Number)が高い程、耐孔食性が高くなることが報告されている。また、一般的に、このような元素の原料は、鉱物である。一方、鉱物の価格は、投機的な影響、政治的な影響等により上昇するリスクを抱えていることが多く、上昇した場合、ステンレス鋼等の金属材料の価格を上昇させてしまう。
【0003】
したがって、金属材料に要求される材料的な特性を確保しつつ、鉱物の価格が上昇するリスクを低減させるために、各元素が金属材料の材料的な特性に与える影響を明確にすることが重要となる。例えば、元素が金属材料の材料的な特性に与える影響に関する文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術は、元素が金属材料の材料的な特性に与える影響を線形で表現することしか達成できておらず、複数の種類の元素が添加された場合における相乗効果を定量化することができていない。また、金属材料に添加されている元素等の金属材料の化学的な特徴が金属材料の材料的な特性に与える影響を調査する実験は、膨大な種類の化学組成を有する金属材料各々について行われる必要があり、実験者に大きな負担を負わせてしまう。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、実験を行うことなく、金属材料の化学組成が当該金属の材料的な特性に与える影響を示すデータを出力することができる材料特性予測プログラム、材料特性予測装置及び材料特性予測方法を提供するものであり、これらのプログラム等により材料的な特性が予測された金属材料、当該金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する因子データ取得機能と、前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる耐孔食性予測機能と、をコンピュータに実現させる材料特性予測プログラムである。
【0008】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムは、前記因子データにより示される因子の値を入力する第一ユーザインターフェースをディスプレイに表示させる第一表示制御機能をコンピュータに更に実行させ、前記因子データ取得機能が、前記第一ユーザインターフェースに入力された値を示す前記因子データを取得する。
【0009】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムは、前記金属材料の化学組成の少なくとも一部を示す化学組成データを取得する化学組成データ取得機能と、前記化学組成データにより示される化学組成に基づいて前記金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を算出することにより前記因子データを生成する因子データ生成機能と、をコンピュータに更に実現させ、前記因子データ取得機能が、前記因子データ生成機能により生成された前記因子データを取得する。
【0010】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムは、前記化学組成データにより示される化学組成を入力する第二ユーザインターフェースをディスプレイに表示させる第二表示制御機能をコンピュータに更に実行させ、前記化学組成データ取得機能が、前記第二ユーザインターフェースに入力された化学組成を示す前記化学組成データを取得する。
【0011】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムにおいて、前記化学組成データ取得機能は、前記金属材料に含まれているクロムの割合、モリブデンの割合、窒素の割合及びニッケルの割合の少なくとも一つを示す前記化学組成データを取得する。
【0012】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムにおいて、前記化学組成データ取得機能は、前記金属材料に含まれているシリコンの割合、銅の割合、チタンの割合、ニオブの割合及びマンガンの割合の少なくとも一つを示す前記化学組成データを取得する。
【0013】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムにおいて、前記耐孔食性予測機能は、前記金属材料の孔食電位を予測した結果を示す前記耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる。
【0014】
本発明の一態様に係る材料特性予測プログラムにおいて、前記因子データ取得機能は、前記金属材料の腐食の起点となる要素に関する物理量を示す前記因子データを取得する。
【0015】
本発明の一態様は、上述した材料特性予測プログラムのいずれか一つを使用して耐孔食性が予測された金属材料である。
【0016】
本発明の一態様は、上述した材料特性予測プログラムのいずれか一つを使用して耐孔食性が予測された金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物である。
【0017】
本発明の一態様は、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する因子データ取得部と、前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる耐孔食性予測部と、を備える材料特性予測装置である。
【0018】
本発明の一態様は、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得し、前記因子データを機械学習装置に入力し、前記機械学習装置に前記因子データにより示される因子に基づいて前記金属材料の耐孔食性を予測させ、前記金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを前記機械学習装置に出力させる、を備える材料特性予測方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、実験を行うことなく、金属材料の化学組成が当該金属の材料的な特性に与える影響を示すデータを出力することができる材料特性予測プログラム、材料特性予測装置及び材料特性予測方法を提供するものであり、これらのプログラム等により材料的な特性が予測された金属材料、当該金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第一実施形態に係る材料特性予測プログラムを実行する材料特性予測装置の一例を示す図である。
【
図2】第一実施形態に係る材料特性予測プログラムの機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3】第一実施形態に係る材料特性予測プログラムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第二実施形態に係る材料特性予測プログラムの機能的な構成の一例を示す図である。
【
図5】第二実施形態に係る機械学習装置に実装されている機械学習モデルに入力される教師データを与える金属材料に添加されている元素の質量パーセントと、参照電極電位を基準とした孔食電位との最小値、最大値及び平均の一例を示す図である。
【
図6】実験的に求められた孔食電位と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
【
図7】金属材料に含まれるクロムの割合と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
【
図8】金属材料に含まれるマンガンの割合と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
【
図9】金属材料に含まれるモリブデンの割合と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
【
図10】第二実施形態に係る材料特性予測プログラムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第一実施形態]
図1から
図3を参照しながら第一実施形態に係る材料特性予測装置及び材料特性予測プログラムについて説明する。
図1は、第一実施形態に係る材料特性予測プログラムを実行する材料特性予測装置の一例を示す図である。
図1に示すように、材料特性予測装置10は、プロセッサ11と、主記憶装置12と、通信インターフェース13と、補助記憶装置14と、入出力装置15と、バス16とを備える。
【0022】
プロセッサ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)であり、後述する材料特性予測プログラム100aを読み出して実行し、材料特性予測プログラム100aが有する各機能を実現させる。また、プロセッサ11は、材料特性予測プログラム100a以外のプログラムを読み出して実行し、材料特性予測プログラム100aが有する各機能を実現させる上で必要な機能を実現させてもよい。
【0023】
主記憶装置12は、例えば、RAM(Random Access Memory)であり、プロセッサ11により読み出されて実行される材料特性予測プログラム100aその他プログラムを予め記憶している。
【0024】
通信インターフェース13は、
図1に示した通信ネットワークNWを介して機械学習装置20その他の機器と通信を実行するためのインターフェース回路である。また、通信ネットワークNWは、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、イントラネット、インターネットである。
【0025】
補助記憶装置14は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、フラッシュメモリ(Flash Memory)、ROM(Read Only Memory)である。
【0026】
入出力装置15は、例えば、入出力ポート(Input/Output Port)である。入出力装置15は、例えば、
図1に示したキーボード30、マウス40及びディスプレイ50が接続される。キーボード30及びマウス40は、例えば、材料特性予測装置10の操作、材料特性予測装置10へのデータの入力に使用される。ディスプレイ50は、例えば、材料特性予測装置10がユーザに情報を提示するために使用される。
【0027】
バス16は、プロセッサ11、主記憶装置12、通信インターフェース13、補助記憶装置14及び入出力装置15を互いにデータの送受信が可能なように接続している。
【0028】
図2は、第一実施形態に係る材料特性予測プログラムの機能的な構成の一例を示す図である。
図2に示すように、材料特性予測プログラム100aは、第一表示制御機能101aと、因子データ取得機能104aと、耐孔食性予測機能105aとを備える。第一表示制御機能101a、因子データ取得機能104a及び耐孔食性予測機能105aは、いずれも主記憶装置12又は補助記憶装置14に記憶されている材料特性予測プログラム100aをプロセッサ11が読み出して実行することにより実現される。
【0029】
第一表示制御機能101aは、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子の値を入力する第一ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。ここで言う金属材料は、ステンレス冷延鋼板、ステンレス厚中板、ステンレス棒線等のステンレス材料である。或いは、ここで言う金属材料は、例えば、厚板、薄板、棒鋼、線材、建材等の鉄鋼材料である。
【0030】
また、耐孔食性に影響を及ぼす因子は、例えば、金属材料のうち当該金属材料の腐食の起点となる要素に関する物理量である。このような要素としては、例えば、金属材料に含まれている析出物、介在物等が挙げられる。また、このような物理量としては、例えば、金属材料の単位体積中に含まれる要素の数、体積等が挙げられる。或いは、耐孔食性に影響を及ぼす因子は、耐孔食性相当数である。
【0031】
因子データ取得機能104aは、金属材料耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する。例えば、因子データ取得機能104aは、第一ユーザインターフェースに入力された値を示す因子データを取得する。
【0032】
耐孔食性予測機能105aは、因子データを
図1及び
図2に示した機械学習装置20に入力し、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させる。
【0033】
機械学習装置20は、因子データ取得機能104aにより取得された因子データを入力とし、金属材料の耐孔食性を示す耐孔食性データを出力とする機械学習モデル20Mが実装されている。機械学習モデル20Mは、教師有り学習を実行する機械学習モデルである。機械学習モデル20Mは、例えば、サポートベクトル回帰(SVR:Support Vector Regression)により実現される。サポートベクトル回帰は、複雑なモデルであり、モデル解釈性が低いものの、線形の回帰及び非線形の回帰の両方が可能であり、ディープラーニングよりも少ない教師データで高い予測精度を実現可能であるという利点を有する。
【0034】
機械学習モデル20Mは、因子データが入力される前に、上述した因子と同一の因子又は上述した因子と類似の因子を示す因子データを問題とし、耐孔食性を示す耐孔食性データを答えとする教師データにより学習している。また、機械学習モデル20Mを学習させるための教師データは、因子データにより示される因子に基づいて耐孔食性を予測する金属材料の因子に比較的近い因子を有する金属材料に関する実験結果を使用して作成されたデータであることが好ましい。
【0035】
そして、耐孔食性予測機能105aは、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。耐孔食性データは、例えば、金属材料の孔食電位を予測した結果を示すデータである。第一表示制御機能101aは、例えば、耐孔食性データにより示される孔食電位をディスプレイ50に表示させる。
【0036】
耐孔食性予測機能105aにより耐孔食性が予測された金属材料は、工業製品として市場に提供される。また、耐孔食性予測機能105aにより耐孔食性が予測された金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物は、工業製品として市場に提供される。
【0037】
次に、
図3を参照しながら第一実施形態に係る材料特性予測プログラム100aが実行する処理の一例を説明する。
図3は、第一実施形態に係る材料特性予測プログラムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0038】
ステップS11において、第一表示制御機能101aは、化学組成データにより示される化学組成を入力する第一ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。
【0039】
ステップS14において、因子データ取得機能104aは、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する。
【0040】
ステップS15において、耐孔食性予測機能105aは、因子データを機械学習装置20に入力し、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させ、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。
【0041】
ステップS16において、第一表示制御機能101aは、耐孔食性データにより示される耐孔食性をディスプレイ50に表示させる。
【0042】
以上、第一実施形態に係る材料特性予測プログラム100aについて説明した。材料特性予測プログラム100aは、第一表示制御機能101aと、因子データ取得機能104aと、耐孔食性予測機能105aとを備える。
【0043】
第一表示制御機能101aは、因子データにより示される因子の値を入力する第一ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。因子データ取得機能104aは、金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を示す因子データを少なくとも一つ取得する。耐孔食性予測機能105aは、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させ、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。
【0044】
つまり、材料特性予測プログラム100aは、様々な化学組成を採り得る金属材料を実際に形成させ、金属材料の材料的な特性を検証する実験を必要としない。したがって、材料特性予測プログラム100aは、このような実験を行うことなく、金属材料の腐食の起点となる要素と当該金属材料の材料的な特性との関係を予測して出力することができる。また、このような実験としては、例えば、金属材料の耐孔食性を評価する実験が挙げられる。なお、この効果は、材料特性予測プログラム100aが第一表示制御機能101aを備えていない場合でも奏され得る。
【0045】
[第二実施形態]
図4から
図10を参照しながら第二実施形態に係る材料特性予測装置及び材料特性予測プログラムについて説明する。
図4は、第二実施形態に係る材料特性予測プログラムの機能的な構成の一例を示す図である。第二実施形態に係る材料特性予測装置及び材料特性予測プログラムは、第一実施形態に係る材料特性予測装置10及び材料特性予測プログラム100aと異なり、因子データではなく後述する化学組成データを出発点としている。そこで、第二実施形態の説明では、第一実施形態と異なる事項を中心に説明し、第一実施形態と重複する事項に関する説明を適宜省略する。
【0046】
図4に示すように、材料特性予測プログラム100bは、第二表示制御機能101bと、化学組成データ取得機能102bと、因子データ生成機能103bと、因子データ取得機能104bと、耐孔食性予測機能105bとを備える。
【0047】
第二表示制御機能101bは、耐孔食性を予測する金属材料の化学組成を入力する第二ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。第二ユーザインターフェースは、例えば、金属材料に含まれているクロムの割合、モリブデンの割合、窒素の割合、ニッケルの割合、シリコンの割合、銅の割合、チタンの割合、ニオブの割合及びマンガンの割合の少なくとも一つを入力するユーザインターフェースである。また、ここで言う割合は、例えば、これらの元素の金属材料に対する質量パーセントである。
【0048】
化学組成データ取得機能102bは、金属材料の化学組成の少なくとも一部を示す化学組成データを取得する。例えば、化学組成データ取得機能102bは、第二ユーザインターフェースに入力された化学組成を示す化学組成データを取得する。
【0049】
因子データ生成機能103bは、化学組成データにより示される化学組成に基づいて金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を算出することにより因子データを生成する。例えば、因子データ生成機能103bは、金属材料に含まれている各元素の質量パーセントの線形結合を当該因子として算出し、当該因子を示す因子データを生成する。
【0050】
因子データ取得機能104bは、因子データ生成機能103bにより生成された因子データを取得する。
【0051】
耐孔食性予測機能105bは、因子データを
図4に示した機械学習装置20に入力し、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させる。
【0052】
図5は、第二実施形態に係る機械学習装置に実装されている機械学習モデルに入力される教師データを与える金属材料に添加されている元素の質量パーセントと、銀塩化銀電極電位を基準とした孔食電位との最小値、最大値及び平均の一例を示す図である。機械学習装置20に入力される教師データを与える金属材料の化学組成及び孔食電位は、例えば、
図5に示した範囲内に分布しており、
図5に示した平均を有している。機械学習装置20は、例えば、
図5に示した金属材料の化学組成及び孔食電位を与える教師データにより学習している。
【0053】
図6は、実験的に求められた孔食電位と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
図6の横軸は、実験的に求められ、参照電極電位を基準とする孔食電位を示している。
図6の縦軸は、機械学習装置20により予測された孔食電位を示している。
図6に示した白丸は、実験的に求められた孔食電位と、機械学習装置20が学習時に予測した孔食電位との関係を示している。
図6に示した黒丸は、
図6に示した黒丸は、実験的に求められた孔食電位と、機械学習装置20がテスト時に予測した孔食電位との関係を示している。
図6に示した白丸及び黒丸は、いずれも略線形に分布している。このため、
図6は、機械学習装置20が精度良く学習し、比較的信頼性が高い孔食電位を示す耐孔食性データを出力し得ることを示していると解釈され得る。
【0054】
そして、耐孔食性予測機能105bは、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。耐孔食性データは、例えば、金属材料の孔食電位を予測した結果を示すデータである。孔食電位は、金属材料に添加された元素の量が僅かに変化した場合であっても、比較的大きく変化するため、金属材料の耐孔食性を評価する指標として有用である。第二表示制御機能101bは、例えば、耐孔食性データにより示される孔食電位をディスプレイ50に表示させる。
【0055】
図7は、金属材料に含まれるクロムの量と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
図7の横軸は、金属材料に添加されているクロムの質量パーセントを示している。
図7の縦軸は、機械学習装置20により予測された孔食電位を示している。
図7に示した文字列「X%Cr-0.01%Mo-0.01%Ni-0.01%Cu-0.01%Ti-0.01%Nb-0.1%Si-0.03%Al-0.001%Sn-0.1%Mn」は、モリブデン、ニッケル、銅、チタン及びニオブの質量パーセントが0.01%であり、シリコン及びマンガンの質量パーセントが0.1%であり、アルミニウムの質量パーセントが0.03%であり、錫の質量パーセントが0.001%である金属材料のクロムの質量パーセントを変化させることを表している。この場合、機械学習装置20は、
図7に示すように、クロムの質量パーセントが高い程、高い孔食電位を示す耐孔食性データを出力している。
【0056】
図8は、金属材料に含まれるマンガンの量と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
図8の横軸は、金属材料に添加されているマンガンの質量パーセントを示している。
図8の縦軸は、機械学習装置20により予測された孔食電位を示している。
図8に示した文字列「18%Cr-0.01%Mo-0.01%Ni-0.01%Cu-0.01%Ti-0.01%Nb-0.1%Si-0.03%Al-X%Sn-X%Mn」は、クロムの質量パーセントが18%であり、モリブデン、ニッケル、銅、チタン及びニオブの質量パーセントが0.01%であり、シリコンの質量パーセントが0.1%であり、アルミニウムの質量パーセントが0.03%である金属材料の錫又はマンガンの質量パーセントを変化させることを表している。
【0057】
この場合、機械学習装置20は、
図8に示すように、マンガンの質量パーセントが高い程、低い孔食電位を示す耐孔食性データを出力している。また、機械学習装置20は、マンガンの質量パーセントを増加させた場合における孔食電位の減少量が比較的大きいことを予測している。
【0058】
図9は、金属材料に含まれるモリブデンの量と、第二実施形態に係る機械学習装置により予測された孔食電位との関係の一例を示す図である。
図9の横軸は、金属材料に添加されているモリブデンの質量パーセントを示している。
図9の縦軸は、機械学習装置20により予測された孔食電位を示している。
図9に示した文字列「X%Cr-X%Mo-0.01%Ni-0.01%Cu-0.01%Ti-0.01%Nb-0.1%Si-0.03%Al-0.001%Sn-0.1%Mn」は、ニッケル、銅、チタン及びニオブの質量パーセントが0.01%であり、シリコン及びマンガンの質量パーセントが0.1%であり、アルミニウムの質量パーセントが0.03%であり、錫の質量パーセントが0.001%である金属材料のクロム及びモリブデンの質量パーセントを変化させることを表している。
【0059】
この場合、機械学習装置20は、
図9に示すように、クロムの質量パーセントが11%、14%、18%及び22%のいずれの場合であっても、モリブデンの質量パーセントが高い程、高い孔食電位を示す耐孔食性データを出力している。また、機械学習装置20は、
図9に示すように、モリブデンの質量パーセントが等しい場合、クロムの質量パーセントが高い程、高い孔食電位を示す耐孔食性データを出力している。
【0060】
耐孔食性予測機能105bにより耐孔食性が予測された金属材料は、工業製品として市場に提供される。また、耐孔食性予測機能105bにより耐孔食性が予測された金属材料により少なくとも一部が形成されている構造物は、工業製品として市場に提供される。
【0061】
次に、
図10を参照しながら第二実施形態に係る材料特性予測プログラム100bが実行する処理の一例を説明する。
図10は、第二実施形態に係る材料特性予測プログラムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS21において、第二表示制御機能101bは、化学組成データにより示される化学組成を入力する第二ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。
【0063】
ステップS22において、化学組成データ取得機能102bは、金属材料の化学組成の少なくとも一部を示す化学組成データを取得する。
【0064】
ステップS23において、因子データ生成機能103bは、化学組成データにより示される化学組成に基づいて金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を算出することにより因子データを生成する。
【0065】
ステップS24において、因子データ取得機能104bは、因子データを少なくとも一つ取得する。
【0066】
ステップS25において、耐孔食性予測機能105bは、因子データを機械学習装置20に入力し、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させ、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。
【0067】
ステップS26において、第二表示制御機能101bは、耐孔食性データにより示される耐孔食性をディスプレイ50に表示させる。
【0068】
以上、第二実施形態に係る材料特性予測プログラム100bについて説明した。材料特性予測プログラム100bは、第二表示制御機能101bと、化学組成データ取得機能102bと、因子データ生成機能103bと、因子データ取得機能104bと、耐孔食性予測機能105bとを備える。
【0069】
第二表示制御機能101bは、耐孔食性を予測する金属材料の化学組成を入力する第二ユーザインターフェースをディスプレイ50に表示させる。化学組成データ取得機能102bは、金属材料の化学組成の少なくとも一部を示す化学組成データを取得する。因子データ生成機能103bは、化学組成データにより示される化学組成に基づいて金属材料の耐孔食性に影響を及ぼす因子を算出することにより因子データを生成する。因子データ取得機能104bは、因子データ生成機能103bにより生成された因子データを取得する。耐孔食性予測機能105bは、機械学習装置20に因子データにより示される因子に基づいて金属材料の耐孔食性を予測させ、金属材料の耐孔食性を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。
【0070】
つまり、材料特性予測プログラム100bは、様々な化学組成を採り得る金属材料を実際に形成させ、金属材料の材料的な特性を検証する実験を必要としない。したがって、材料特性予測プログラム100bは、このような実験を行うことなく、金属材料の化学組成と当該金属材料の材料的な特性との関係を予測して出力することができる。
【0071】
また、材料特性予測プログラム100bは、金属材料の孔食電位を予測した結果を示す耐孔食性データを機械学習装置20に出力させる。材料特性予測プログラム100bは、金属材料に添加された元素の量が僅かに変化した場合であっても、比較的大きく変化する孔食電位を金属材料の耐孔食性を評価する指標として出力させることにより、金属材料の材料的な特性を更に精度良く予測して出力することができる。
【0072】
さらに、材料特性予測プログラム100bは、金属材料に添加されている元素が金属材料の材料的な特性に与える影響を明らかにすることができる。したがって、材料特性予測プログラム100bは、金属材料に所望の材料的な特性を持たせる際に、必要以上に元素を添加したり、所望の材料的な特性の発現に対する寄与が比較的小さい元素を添加したりすることを回避するための指針を技術者に与えることができる。このため、材料特性予測プログラム100bは、元素の原料である鉱物の価格の上昇による金属材料の価格の上昇を抑制することができる。
【0073】
また、これらの効果は、材料特性予測プログラム100bが第二表示制御機能101bを備えていない場合でも奏され得る。
【0074】
なお、材料特性予測プログラム100a又は材料特性予測プログラム100bが有する機能の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の回路部(circuitry)を含むハードウェアにより実現されてもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、機械学習モデル20Mがサポートベクトル回帰により実現される場合を例に挙げたが、これに限定されない。機械学習モデル20Mは、例えば、ランダムフォレスト(Random Forest)又は勾配ブースティング(Gradient Boosting)により実現されてもよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳述した。ただし、本発明の実施形態の具体的な構成は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の組み合わせ、変形、置換及び設計変更の少なくとも一つを上述した実施形態に加えたものであってもよい。
【0077】
また、上述した実施形態で説明した本発明の効果は、例として示した効果である。したがって、本発明は、上述した効果以外にも上述した実施形態の記載から当業者が認識し得る他の効果も奏し得る。
【符号の説明】
【0078】
10…材料特性予測装置、11…プロセッサ、12…主記憶装置、13…通信インターフェース、14…補助記憶装置、15…入出力装置、16…バス、20…機械学習装置、20M…機械学習モデル、30…キーボード、40…マウス、50…ディスプレイ、100a,100b…材料特性予測プログラム、101a…第一表示制御機能、101b…第二表示制御機能、102b…化学組成データ取得機能、103b…因子データ生成機能、104a,104b…因子データ取得機能、105a,105b…耐孔食性予測機能