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  • 特開-アニュレン誘導体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122331
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】アニュレン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 255/58 20060101AFI20230825BHJP
   C07C 225/22 20060101ALI20230825BHJP
   C07C 229/52 20060101ALI20230825BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230825BHJP
   C07D 455/04 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C07C255/58 CSP
C07C225/22
C07C229/52
C09K11/06
C07D455/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025976
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田中 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小西 玄一
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB92
4H006BJ50
4H006BR30
4H006BT32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】凝集誘起発光可能なアニュレン誘導体とその製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表されるアニュレン誘導体を提供する。(式中、RとRは、一方が電子吸引基であり、他方が電子供与基である。R~Rは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基などである。Rは水素またはメチル基である。)

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表され、
【化1】

とRは、一方が電子吸引基であり、他方が電子供与基であり、
が前記電子吸引基の場合、
とRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択され、
とRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択され、
が前記電子供与基の場合、
とRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択され、
とRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択され、
は水素またはメチル基である、アニュレン誘導体。
【請求項2】
前記電子吸引基は、シアノ基、エステル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、ニトロ基、ハロゲン、およびカルボニルクロリドから選択され、
前記電子供与基は、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、およびオキシカルボニル基から選択される、請求項1に記載のアニュレン誘導体。
【請求項3】
以下の一般式(2)で表され、
【化2】

は電子吸引基であり、
が窒素と結合する場合、Rは存在せず、
が窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択され、
が窒素と結合する場合、Rは存在せず、
が窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される、請求項1に記載のアニュレン誘導体。
【請求項4】
以下の一般式(3)で表され、
【化3】

は電子吸引基であり、
が窒素と結合する場合、Rは存在せず、
が窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択され、
が窒素と結合する場合、Rは存在せず、
が窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される、請求項1に記載のアニュレン誘導体。
【請求項5】
前記電子吸引基はシアノ基である、請求項1に記載のアニュレン誘導体。
【請求項6】
下記の一般式(4)または(5)で表され、
【化4】

10とR11は、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される、アニュレン誘導体。
【請求項7】
下記の一般式(6)または(7)で表され、
【化5】

13とR14は、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択され、
12は、水素、ヒドロキシル基、アルコキシ基、および塩素から選択される、アニュレン誘導体。
【請求項8】
前記一般式(2)から(5)において、窒素上の置換基の少なくとも一つは水素である、請求項3、4、6、7のいずれか一項に記載のアニュレン誘導体。
【請求項9】
以下の一般式(8)または(9)で表される、請求項1に記載のアニュレン誘導体:
【化6】
【請求項10】
以下の化学式(10)から(16)のいずれかで表される、請求項1に記載のアニュレン誘導体:
【化7】
【請求項11】
テトラヒドロフラン、トルエン、またはアセトニトリル溶液中における発光量子収率が0以上0.2以下であり、
固体での発光量子収率が0.3以上1以下である、請求項1に記載のアニュレン誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、アニュレン誘導体に関する。あるいは、本発明の実施形態の一つは、橋かけされたスチルベンである8-フェニル-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン骨格を含むアニュレン誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中で発光しないまたは発光強度が小さく、逆に凝集状態または固体状態で発光強度が大きい色素は凝集誘起発光色素(AIE(Aggregation-induded emission)色素)と呼ばれる。凝集誘起発光色素は、分析化学、特にバイオイメージングに有用であるだけでなく、発光デバイスや電界発光表示装置などに利用可能な固体発光材料として期待されている。例えば非特許文献1には、スチルベン誘導体や橋かけされたスチルベンの一種であるアニュレン誘導体が凝集誘起発光色素として機能することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Riki Iwai、外8名、Angewante Chemistry International Eddition,(独),2020年,第59巻,p.10566-10573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新規構造を有するアニュレン誘導体とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、プッシュ-プル型のアニュレン誘導体とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、凝集誘起発光可能なアニュレン誘導体とその製造方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、以下の一般式(1)で表されるアニュレン誘導体である。ここで、RとRは、一方が電子吸引基であり、他方が電子供与基である。Rが電子吸引基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択される。Rが電子供与基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択される。Rは水素またはメチル基である。
【化1】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、上記一般式(1)で表されるアニュレン誘導体の製造方法である。この製造方法は、以下の反応式(17)で示される、金属触媒存在下でのカップリング反応を含む。ここで、Lは塩素、臭素、メタンスルホニル基、トリフルオロメンタンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、o-ニトロベンゼンスルホニル基から選択され、Aはボロニル基、MgCl、およびMgBrから選択される。RとRは、一方が電子吸引基であり、他方が電子供与基である。Rが電子吸引基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択される。Rが電子供与基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択される。Rは水素またはメチル基である。
【化2】
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体、8-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-3-カルボニトリル(BST[7]C)の溶液中と固体状態における吸収スペクトルと発光スペクトル。
図2】本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体、4-[3-(ジプロピルアミノ)]-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イル)ベンゾニトリル(BST[7]N)の溶液中と固体状態における吸収スペクトルと発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体について説明する。本アニュレン誘導体は、橋かけされたスチルベン誘導体の一種である。より具体的には、本アニュレン誘導体は、スチルベンの一方のベンゼン環のオルト位の炭素、および他方のベンゼン環が結合された二重結合炭素がプロピレン鎖によって結合された構造(以下の化学式(18)参照。化学式(18)中の番号は置換位置である。)を基本骨格として有する6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン誘導体である。また、分子内に同時に電子吸引基と電子供与基を併せ持つため、プッシュ-プル型の化合物と言える。電子吸引基と電子供与基の一方は、7員環と縮合したベンゼン環および8位のベンゼン環の一方に導入され、電子吸引基と電子供与基の他方は他方のベンゼン環に導入される。
【化3】
【0010】
例えば、本アニュレン誘導体は、以下の化学式(1)で表される。ここで、RとRは、一方が電子吸引基であり、他方が電子供与基である。Rが電子吸引基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択される。Rが電子供与基の場合、RとRは、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、およびR内の原子と結合した炭素数2または3のアルキレン基から選択され、RとRは、それぞれ独立に、水素および炭素数1から3のアルキル基から選択される。Rは水素またはメチル基である。炭素数2または3のアルキレン基が結合するRまたはR内の原子は、例えばアミノ基の窒素である。なお、本明細書中では、アルキル基は直鎖アルキル基と分岐アルキル基を含む。
【化4】
【0011】
電子吸引基としては、シアノ基、エステル基、カルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、ニトロ基、ハロゲン、カルボニルクロリドなどが挙げられる。エステル基が導入される場合には、カルボニル炭素が本アニュレン誘導体のベンゼン環と結合する。また、エステル酸素上の置換基としては、炭素数1から3のアルキル基および芳香環を形成する炭素数が5から10以下のアリール基が挙げられる。以下、本明細書では、アリール基は、フェニル基やナフチル基などの炭化水素アリール基だけでなく、ピリジル基やキノリル基などのヘテロアリール基を含み、典型的にはフェニル基である。アリール基上には置換基が導入されていてもよく、アリール基上の置換基としては、炭素数1から3のアルキル基、アルコキシ基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、ハロゲン、シアノ基など、任意の置換基が挙げられる。
【0012】
電子供与基としては、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、オキシカルボニル基が挙げられる。ここで、アミノ基は、無置換のアミノ基でもよく、置換アミノ基でもよい。すなわち、アミノ基は、無置換のアミノ基(-NH)、モノアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基および、N-アルキル-N-アリールアミノ基を含む。アミノ基に導入される置換基としては、炭素数1から3のアルキル基や、芳香環を形成する炭素数が5から10以下のアリール基が挙げられる。
【0013】
アルコキシ基としては、炭素数1から3のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基も直鎖でもよく、分岐していてもよい。アリールオキシ基としては、フェノキシ基やナフチルオキシ基などの炭化水素アリールオキシ基や、ピロリルオキシ基やインドリルオキシ基などの電子過剰型ヘテロアリールオキシ基が挙げられる。
【0014】
オキシカルボニル基が導入される場合には、本アニュレン誘導体のベンゼン環は酸素を介してカルボニル基に結合する。カルボニル基に導入される置換基としては、炭素数1から3のアルキル基および芳香環を形成する炭素数が5から10以下のアリール基が挙げられる。この場合も、アリール基に置換基が導入されていてもよい。
【0015】
上述したアニュレン誘導体は、以下の一般式(2)で表されてもよい。8位に結合するベンゼン環上に電子供与基であるアミノ基が導入されるため、Rが電子吸引基となる。また、Rがアミノ基の窒素と結合して5員環または6員環を形成する場合、形式上、Rは存在しない。一方、Rが窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。同様に、Rが窒素と結合して5員環または6員環を形成する場合、形式上Rは存在しない。一方、Rが窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。一般式(2)において、電子吸引基であるRはシアノ基でもよい。
【化5】
【0016】
あるいは、本アニュレン誘導体は、以下の一般式(3)で表されてもよい。7員環と縮合したベンゼン環上に電子供与基であるアミノ基が導入されているため、Rが電子吸引基となる。Rが窒素と結合して5員環または6員環を形成する場合、形式上Rは存在しない。一方、Rが窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。同様に、Rが窒素して5員環または6員環を形成する場合、形式上Rは存在しない。一方、Rが窒素と結合しない場合、Rは水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。一般式(3)においても、電子吸引基であるR2はシアノ基でもよい。
【化6】
【0017】
さらに本アニュレン誘導体は、下記の一般式(4)または(5)で表されてもよい。ここで、R10とR11は、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。R12としては、水素、塩素、水酸基、炭素数1から3のアルキル基、炭素数1から3のアルコキシ基、芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基またはアリールオキシ基などが挙げられる。
【化7】
【0018】
あるいは、本アニュレン誘導体は、下記の一般式(6)または(7)で表されてもよい。R13とR14は、それぞれ独立に、水素、炭素数1から3のアルキル基、および芳香環を形成する炭素数が5から10のアリール基から選択される。R12としては、一般式(5)のR12で挙げられた元素または官能基が例示される。
【化8】
【0019】
あるいは、本アニュレン誘導体は、以下の一般式(8)または(9)で表されてもよい。化学式(8)と(9)では、それぞれRとRが電子吸引基である。
【化9】
【0020】
さらに、本アニュレン誘導体は、以下の化学式(10)から(16)のいずれかで表されてもよい。
【化10】
【0021】
実施例で示されるように、本アニュレン誘導体は可視光領域に発光を与える蛍光色素として機能する。さらに、本アニュレン誘導体は、通常の蛍光色素とは異なり、溶液中と比較して固体状態または凝集状態においてより大きな発光強度を示すことができる。すなわち、凝集誘起発光する色素として機能することができる。例えば、本アニュレン誘導体の少なくとも一部は、溶液中における発光量子収率は0以上0.2以下であるものの、固体状態では0.3以上1以下の発光量子収率を示すことができる。溶液の溶媒としては、例えばジエチルエーテルやテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トルエンやキシレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサンやヘプタンなどの飽和炭化水素系溶媒、クロロホルムやジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒が挙げられる。なお、凝集状態の発光スペクトルや発光量子収率は、本アニュレン誘導体とTHF/水のコロイド分散液(濃度は、例えば1.0×10-5M)を調製し、紫外-可視スペクトルの広がりによって凝集を確認した後、最大吸収波長の励起光を照射することで測定すればよい。
【0022】
さらに、本アニュレン誘導体は、典型的な凝集誘起発光色素であるテトラフェニルエテンなどのかさ高い色素と異なり平面性が高い。このため、人工生物発光システムにおいて非侵襲性の高い蛍光ラベリング剤として有用である。
【0023】
上記アニュレン誘導体では、電子供与基として導入されるアミノ基に二つの置換基が導入されて、アミノ基上には水素が存在しなくてもよいが、窒素上の置換基の一つまたは二つが水素であってもよい。窒素上に水素が存在する場合、窒素原子を反応サイトとして利用して様々な置換基を本アニュレン誘導体に導入することができる。同様に、電子吸引基がエステル基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン、カルボニルクロリドの場合、これらの官能基の反応性を利用することでも様々な置換基を本アニュレン誘導体に導入することができる。例えばエステル基の場合にはエステル交換により、ホルミル基の場合にはイミノ化により、カルボキシル基またはカルボニルクロリドの場合にはエステル化などによって様々な置換基を導入することも可能である。カルボニル基の場合にはα位にアニオンを発生させ、α炭素の求核力を利用して置換基の導入を図ってもよい。電子吸引基がハロゲンの場合にはパラジウム触媒を用いるカップリング反応などを利用することができる。したがって、本アニュレン誘導体を利用することで、種々の機能性分子や高分子に対し、共有結合を介してプッシュ-プル型の8-フェニル6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン骨格を導入することができる。このため、本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体は、それ自体が凝集誘起発光色素として機能するだけでなく、様々な材料に凝集誘起発光機能を付与するための新しい方法論を提供すると言える。
【0024】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で述べた本アニュレン誘導体の製造方法の一例について説明する。
【0025】
本アニュレン誘導体は、以下の反応式(17)に従って製造、合成することができる。ここで、Lは塩素、臭素、メタンスルホニル基、トリフルオロメンタンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、o-ニトロベンゼンスルホニル基などの脱離基であり、Aはボロニル基、MgCl、およびMgBrから選択される。その他の置換基RからRの定義については、一般式(1)のそれと同様である。
【化11】
【0026】
この反応は、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、[1,1‘-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)、ビス[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(0)などのパラジウム触媒、または[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)クロリド、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)クロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)クロリドなどのニッケル触媒の存在下で行うことができる。
【0027】
この反応において、置換基R、R、Rを有する基質2は、公知の化合物でもよく、あるいは対応するハロゲン化物(すなわち、A=Cl、Br、I)から公知の方法を利用して得ることができる。例えば、ハロゲン化物からグリニャール試薬を調製すればよい。あるいは、ハロゲン化物からリチオ体を調製し、これをボロン酸エステルなどと反応させて得られるフェニルボロン酸エステル誘導体でもよい。
【0028】
置換基R、R、R、Rを有する基質1も任意の方法で合成することができるが、例えばRにアミノ基を導入する場合には、以下のスキームに従えばよい。ここで、Xは臭素またはヨウ素であり、Rはメチル基、エチル基、あるいはエチレン鎖である。Rがエチレン鎖の場合、エチレン鎖と二つの酸素を含む環状構造によってスピロ環が形成される。R’は、一般式(3)のR、R、一般式(5)のR10、R11、または一般式(6)のR13、R14である。
【化12】
【0029】
このスキームでは、まず、6-ハロテトラロンまたはその誘導体(化合物3)を出発原料として用い、カルボニル基をウィッティヒ反応によってメチレンへ変換して化合物4を生成し、その後、環拡大を伴う転移反応によって化合物5を生成する。この転移反応では、例えば[ヒドロキシ(トシルオキシ)]ヨードベンゼンを用いればよい。化合物5のカルボニル基を保護した後(化合物6)、パラジウム触媒を用いて二級アミン(NHR’)とカップリング(バックワルド・ハートウィグクロスカップリングと呼ばれる。)することで化合物7を生成し、保護基を外して得られる化合物8を塩基性条件下で処理することで基質1として化合物9を得ることができる。Rとしてアルコキシ基を導入する場合には、二級アミンに替わって対応する金属アルコキシド、金属アリールオキシドを用いればよい。
【0030】
としてホルミル基やシアノ基を有する基質1の製造は、例えば以下のスキームに従えばよい。
【化13】
【0031】
この方法では、化合物4からホルミル基を導入することができる。例えば化合物4から誘導されるリチオ体またはグリニャール試薬をDMFと反応させればよい。また、ホルミル化によって得られる化合物10をアンモニア水中でヨウ素などの酸化剤と処理することでシアノ基が導入された化合物11を得ることができる。酸化反応で用いられる酸化剤としては、ヨウ素や酸化鉄(III)、酸化アルミニウムなどが挙げられる。特にアンモニア水中でのヨウ素による処理は温和な条件で進行するため、好ましい。その後の反応は上述したスキームと同様であり、化合物12を経てシアノ基を有する化合物13を基質1として得ることができる。
【0032】
としてカルボン酸やエステル基を導入する場合には、例えば以下のスキームに示すように、化合物4から得られるリチオ体またはグリニャール試薬と二酸化炭素を反応させてカルボン酸を3位に導入すればよい。その後、基質1のRに応じてカルボン酸をエステル化すればよい(化合物14)。
【化14】
【0033】
上記反応スキームを適宜組み合わせることにより、種々の電子吸引基と電子供与基が同時に導入された本アニュレン誘導体を効率良く製造、合成することができる。
【実施例0034】
本実施例では、本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体の合成、およびその特性評価について述べる。
【0035】
1.装置
H-NMRスペクトルは、テトラメチルシランを内部標準として用いたCDCl溶液をBRUKER 500(500MHz)分光光度計またはJEOL 400(400MHz)分光光度計で測定した。H-NMRのデータは化学シフト(δ、単位ppm)、シグナルの多重度(sは一重線、dは二重線、tは三重線、mは多重線)、積分比、カップリング定数(J、単位Hz)によって記述される。赤外吸収スペクトルは、JASCO FT-IR 469プラス分光光度計を用いて測定した。融点は、ヤナコ微量融点測定装置MP-500Pを用いて測定した。マススペクトル(FAB+)は、JEOL JMS700質量分析計を用いて取得した。紫外-可視スペクトルは、JASCO V-670紫外-可視分光光度計を用いて測定した。蛍光スペクトルは、JASCO FP-6500分光蛍光光度計を用いて測定した。蛍光量子収率(絶対量子収率)は、浜松ホトニクスQuantaurus-QY絶対PL量子収率測定装置を用いて測定した。
【0036】
2.測定
溶液中の吸収スペクトルと蛍光スペクトルは、最大吸収波長における光学濃度が約0.1となる希薄溶液を用い、1cmの光路長の石英セル中、室温で測定した。また、全ての溶液サンプルは、測定前にアルゴンガスをバブリングして脱気した。固体の蛍光スペクトルは、固体用粉末試料セルに試料を充填し、試料の吸収極大波長の励起光を照射し、JASCO FP-6500分光蛍光光度計を用いて測定した。
【0037】
固体の吸収スペクトルは、以下の手順に従って測定した。試料を固体用粉末試料セルに充填し、十分に厚い粉体層を作製した。試料の測定の直前に、基準試料の参照スペクトルとしてNaBr粉体のスペクトルを測定して参照スペクトルを取得し、その後、同一の方法で各試料の反射スペクトルを測定した。反射スペクトルの測定は、JASCO FP-6500分光蛍光光度計を用いて行った。これにより、拡散反射分光光度計から漏れ出した多色光に起因する蛍光による実験誤差を防ぐことができる。得られた試料の反射スペクトルrsample(λ)と参照スペクトルrstandard(λ)を以下の式に従ってクベルカ-ムンクの関数f(r)に変換した。これによって得られる拡散反射スペクトルをクベルカ-ムンクの関数、すなわち、波長λのf(r)の関数のプロットとして得ることで、固体の吸収スペクトルを得た。
【数1】

【0038】
3.アニュレン誘導体の合成
(1)8-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-3-カルボニトリル(BST[7]C)の合成
BST[7]Cは、以下のスキームに従って合成した。
【化15】
【0039】
アルゴン雰囲気下、メチルトリフェニルホスフィンブロミド(4.28g、12mmol)をTHF(30mL)に溶解した。得られた溶液に0℃でt-BuOK(1.68g、15mmol)を加えた。10分間攪拌した後、6-ブロモ-1テトラロン(化合物15、2.25g、10mmol)を加え、反応混合物を室温に戻しつつ2時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした後、有機層をジクロロメタンで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン(v/v=3/1))で精製し、収率95%で無色オイルとして6-ブロモ-1-メチレン-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(化合物16)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(400MHz、CDCl):δ7.49(d、J=9.1Hz、1H、ArH)、7.25(d、J=2.3Hz、2H、ArH)、5.46(s、1H、C=CH)、4.97(s、1H、C=CH)、2.81(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.53(t、J=6.2Hz、2H、CH)、1.89-1.83(m、2H、CH)。
【0040】
アルゴン雰囲気下、化合物16(1.29g、5.42mmol)の脱水THF(20mL)溶液に対し、-78℃でn-ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M、2.50mL、6.50mmol)を滴下した。反応溶液を-78℃で30分間攪拌した後、室温へ戻し、その後、DMF(0.70g、8.13mmol)を加えた。2時間攪拌した後、反応混合物を水でクエンチし、有機層をジクロロメタンで抽出した。有機層を水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=3/1))で精製し、収率92%で無色オイルとして5-メチレン-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-カルボアルデヒド(化合物17)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ9.95(s、1H、CHO)、7.78(d、J=7.9Hz、1H、ArH)、7.65(d、J=8.2Hz、1H、ArH)、7.62(s、1H、ArH)、5.63(s、1H、C=CH)、5.14(s、1H、C=CH)、2.92(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.58(t、J=6.1Hz、2H、CH)、1.94-1.89(m、2H、CH)。
【0041】
化合物17(0.858g、4.98mmol)、30%アンモニア水溶液(10mL)、およびヨウ素(1.51g、5.98mmol)をTHF(7mL)に溶解し、3時間攪拌した。反応混合物が透明になった後、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機層をジクロロメタンで抽出し、水、亜硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去することにより、無色オイルとして5-メチレン-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-カルボニトリル(化合物18)を収率92%で得た。化合物18は精製せず、次の反応に用いた。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.69(d、J=8.2Hz、1H、ArH)、7.41(d、J=7.6Hz、2H、ArH)、5.58(s、1H、C=CH)、5.13(s、1H、C=CH)、2.85(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.56(t、J=6.3Hz、2H、CH)、1.88(td、J=12.3、6.0Hz、2H、CH)。
【0042】
化合物18(0.84g、4.93mmol)をメタノール(10mL)に溶解し、HTIB(4.46g、11.4mmol)を加えた。その後、反応溶液を室温で2時間攪拌し、溶媒を減圧下で留去した。有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=3/1))で精製し、収率76%で無色固体として5,7,8,9-テトラヒドロ-6H-ベンゾ[7]アニュレン-6-オン(化合物19)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.50(dd、J=7.8、1.7Hz、1H、ArH)、7.47(s、1H、ArH)、7.26(d、J=7.6Hz、2H、ArH)、3.79(s、2H、CH)、3.00(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.59(t、J=6.9Hz、2H、CH)、2.05-2.00(m、2H、CH)。
【0043】
アルゴン雰囲気下、化合物19(0.693g、3.74mmol)の脱水THF(15mL)溶液に対し、-20℃でt-BuOK(0.631g、5.62mmol)を加え、その後、0℃まで昇温し、1時間攪拌した。その後、-20℃に冷却し、N-フェニルトリフルオロメタンスルホンイミド(PhNTf、1.60g、4.48mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。反応混合物を0℃まで昇温し、さらに4時間攪拌した。有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率90%で無色固体として3-シアノ-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イルトリフルオロメタンスルホナート(化合物20)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.50(dd、J=7.9、1.8Hz、1H、ArH)、7.41(s、1H、ArH)、7.28(d、J=7.0Hz、1H、ArH)、6.59(d、J=8.5Hz、1H、C=CH)、2.91(t、J=5.2Hz、2H、CH)、2.82(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.03-2.00(m、2H、CH)。
【0044】
アルゴン雰囲気下、化合物20(0.634g、2.0mmol)、4-(ジメチルアミノ)フェニルボロン酸(0.495g、3.0mmol)、リン酸カリウム(1.45g、6.0mmol)、およびPd(PPh(0.115g、0.10mmol)、THF/水(5/1(v/v))混合溶媒6mLの混合物を50℃で5時間攪拌した。反応混合物を室温に戻した後、水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率95%で黄色固体としてBST[7]Cを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.45(dd、J=7.9、1.5Hz、1H、ArH)、7.44(s、1H、ArH)、7.42(d、J=2.1Hz、2H、ArH)、7.25(d、J=8.2Hz、1H、ArH)、6.74(d、J=1.8Hz、3H、ArHandC=CH)、2.99(s、6H、N(CH))、2.78(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.64(t、J=6.9Hz、2H、CH)、2.24-2.19(m、2H、CH)。IRデータは以下の通りであった。FT-IR(KBr):2216(CN伸縮)、1596(C=C伸縮)、1520(C-H)、1360(Ar-H)cm-1。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C2020 [M]288.1626:288.3922。融点は131.5-132.2℃であった。
【0045】
BST[7]Cの合成は6ステップを必要とするが、合計収率は52%であり、このことは、本発明の実施形態の一つに係る製造方法を用いることで効率よくアニュレン誘導体を提供できることを示している。
【0046】
(2)8-[4-(ジプロピルアミノ)フェニル]-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-3-カルボニトリル(BST[7]Cp)の合成
BST[7]Cpは、以下のスキームに従って合成した。
【化16】
【0047】
アルゴン雰囲気下、4-ブロモ-N、N-ジプロピルアニリン(化合物21、2.56g、10mmol)、酢酸カリウム(2.94g、30mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(Bpin、3.0g、12mmol)、および[1、1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)-ジクロロメタン複合体(Pd(dppf)Cl・DCM、0.243g、0.30mmol)の混合物を脱水DMF(30mL)に溶解し、反応混合物を100℃で16時間攪拌した。その後、反応混合物を室温まで冷却し、水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=10/1))で精製し、再結晶することで、収率95%で無色固体としてN,N-ジプロピル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)アニリン(化合物22)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.64(d、J=8.5Hz、2H、ArH)、6.60(d、J=8.9Hz、2H、ArH)、3.26(t、J=7.6Hz、4H、NCH)、1.64-1.57(m、4H、CH)、1.31(s、12H、CH)、0.92(t、J=7.3Hz、6H、CH)。
【0048】
アルゴン雰囲気下、上述した化合物20(0.288g、0.91mmol)、化合物22(0.414g、1.36mmol)、リン酸カリウム(0.57g、2.73mmol)、Pd(PPh(0.05g、0.045mmol)、およびTHF/水(5/1(v/v))混合溶媒(6mL)の混合物を50℃で5時間攪拌し、その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率51%で黄色固体としてBST[7]Cpを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.44(dd、J=7.8、1.7Hz、1H、ArH)、7.42(s、1H、ArH)、7.39(d、J=8.9Hz、2H、ArH)、7.23(d、J=7.9Hz、1H、ArH)、6.73(s、1H、C=CH)、6.63(d、J=8.9Hz、2H、ArH)、3.27(t、J=7.6Hz、4H、NCH)、2.77(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.63(t、J=6.7Hz、2H、CH)、2.25-2.18(m、2H、CH)、1.63(td、J=15.1、7.4Hz、4H、CH)、0.94(t、J=7.5Hz、6H、CH)。13C-NMRデータは以下の通りであった。13C-NMR(100MHz、CDCl):δ148.1(ArH)、146.4(ArH)、143.5(C=C)、141.9(ArH)、132.4(ArH)、130.4(ArH)、129.7(ArH)、129.3(ArH)、127.2(ArH)、123.4(ArH)、119.7(CN)、111.4(ArH)、108.6(C=C)、52.9(NCH)、34.1(CH)、32.0(CH)、31.0(CH)、20.5(CH)、11.5(CH)。IRデータは以下の通りであった。FT-IR(KBr):2216(CN伸縮)、1521(C=C伸縮)、1517(C-H)、1195(Ar-H)cm-1。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C2428 [M]344.2252:344.4994。融点は80.5-81.0℃であった。
【0049】
(3)4-[3-(ジプロピルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イル]ベンゾニトリル(BST[7]N)の合成
BST[7]Nは、以下のスキームに従って合成した。
【化17】
【0050】
上記化合物16(2.25g、9.5mmol)をメタノール(25mL)に溶解し、HTIB(4.46g、11.4mmol)を加えた。その後、反応溶液を室温で0.5時間攪拌し、溶媒を減圧下で留去した。有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=3/1))で精製し、収率83%で無色固体として6-ブロモ-5,7,8,9-テトラヒドロ-6H-ベンゾ[7]アニュレン-6-オン(化合物23)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.32-7.31(m、2H、ArH)、7.02(d、J=8.5Hz、1H、ArH)、3.67(s、2H、CH)、2.92(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.56(t、J=6.9Hz、2H、CH)、2.02-1.97(m、2H、CH)。
【0051】
ディーンスタークトラップが装着されたフラスコ中、化合物23(4.13g、17.3mmol)、p-トルエンスルホン酸(0.14g、0.86mmol)、およびエチレングリコール(10.7g、173mmol)をトルエン(30mL)に溶解し、130℃で16時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、炭酸水素ナトリウム溶液を加え、有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率95%で無色固体として6-ブロモ-5,7,8,9-テトラヒドロスピロ[ベンゼン[7]アニュレン-6,2’-[1,3]ジオキソラン(化合物24)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.24(d、J=7.3Hz、2H、ArH)、6.95(d、J=7.6Hz、1H、ArH)、4.00-3.91(m、4H、OCH)、3.00(s、2H、CH)、2.75(t、J=5.3Hz、2H、CH)、1.96(t、J=6.0Hz、2H、CH)、1.74(t、J=5.2Hz、2H、CH)。
【0052】
化合物24(1.42g、5.0mmol)、t-BuOK(0.72g、7.5mmol)、ジプロピルアミン(1.36mL、10mmol)、[1、3-ビス(2、6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリド(Pd-PEPPSI-IPr、0.10g、0.15mmol)、および脱水トルエン(20mL)の混合物を100℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水を加え、有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率81%で淡黄色オイルとしてN,N-ジイソプロピル-5,7,8,9-テトラヒドロスピロ[ベンゼン[7]アニュレン-6,2’-[1,3]ジオキソラン-2-アミン(化合物25)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ6.90(d、J=8.9Hz、1H、ArH)、6.38(d、J=6.4Hz、2H、ArH)、4.01-3.91(m、4H、OCH)、3.18(t、J=7.5Hz、4H、NCH)、2.93(s、2H、CH)、2.72(t、J=5.3Hz、2H、CH)、1.95(t、J=6.0Hz、2H、CH)、1.75(d、J=5.2Hz、2H、CH)、1.62-1.56(m、4H、CH)、0.91(t、J=7.3Hz、6H、CH)。
【0053】
化合物25(1.22g、4.05mmol)のTHF(10mL)溶液に室温で13M塩酸(1.0mL、13mmol)を滴下し、その後30分攪拌した。大過剰の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応をクエンチした後、有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。収率97%で淡黄色オイルとして得られた2-(ジプロピルアミノ)-5,7,8,9-テトラヒドロ-6H-ベンゾ[7]アニュレン-6-オン(化合物26)は、精製せず、次の反応に用いた。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ6.96(d、J=8.9Hz、1H、ArH)、6.44(s、2H、ArH)、3.60(s、2H、CH2)、3.23-3.18(m、4H、NCH2)、2.87(t、J=6.1Hz、2H、CH2)、2.55(t、J=7.0Hz、2H、CH2)、2.01-1.96(m、2H、CH2)、1.60(td、J=15.0、7.4Hz、4H、CH2)、0.92(t、J=7.5Hz、6H、CH3)。
【0054】
アルゴン雰囲気下、化合物26(1.0g、3.92mmol)を脱水THF(20mL)に溶解し、この溶液に-20℃でt-BuOK(0.659g、5.88mmol)を加えた。この反応混合物を0℃で1時間攪拌した後、-20℃に冷却し、PhNTf(1.67g、4.70mmol)を加えた。1時間攪拌した後、反応混合物を0℃まで昇温し、さらに4時間攪拌した。有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率77%で淡黄色オイルとして3-(ジプロピルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イルトリフルオロメタンスルホナート(化合物27)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ6.97(d、J=9.0Hz、1H、ArH)、6.45(s、1H、ArH)、6.43(d、J=7.9Hz、1H、ArH)、6.34(s、1H、C=CH)、3.23(t、J=7.6Hz、4H、NCH)、2.82(t、J=4.9Hz、2H、CH)、2.75(t、J=6.4Hz、2H、CH)、1.99-1.94(m、2H、CH)、1.64-1.58(m、4H、CH)、0.93(t、J=7.3Hz、6H、CH)。
【0055】
アルゴン雰囲気下、化合物27(0.78g、2.0mmol)、4-シアノフェニルボロン酸(0.44g、3.0mmol)、リン酸カリウム(1.27g、6.0mmol)、Pd(PPh(0.115g、0.10mmol)、およびTHF/水(5/1(v/v))混合溶媒6mLの混合物を50℃で5時間攪拌し、その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率50%で黄色固体としてBST[7]Nを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.57(dd、J=21.8、7.8Hz、4H、ArH)、7.08(d、J=8.5Hz、1H、ArH)、6.78(s、1H、ArH)、6.47(d、J=8.5Hz、1H、ArH)、6.42(s、1H、C=CH)、3.26(t、J=7.6Hz、4H、NCH)、2.83(t、J=4.9Hz、2H、CH)、2.69(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.16(t、J=5.0Hz、2H、CH)、1.67-1.59(m、4H、CH)、0.94(t、J=7.3Hz、6H、CH)。13C-NMRデータは以下の通りであった。13C-NMR(100MHz、CDCl):149.7(ArH)、147.6(ArH)、142.9(C=C)、135.4(ArH)、133.4(ArH)、132.1(ArH)、132.0(ArH)、126.4(ArH)、123.3(ArH)、119.5(C=C)、112.0(ArH)、109.3(ArH)、109.1(ArH)、52.9(NCH)、36.3(CH)、33.4(CH)、28.4(CH)、20.7(CH)、11.6(CH)。IRデータは以下の通りであった。FT-IR(KBr):2224(CN伸縮)、1591(C=C伸縮)、1505(C-H)、1120(Ar-H)cm-1。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C2428 [M]344.2252:344.4994。融点は80.1-80.9℃であった。
【0056】
BST[7]Nの合成は6ステップを必要とするが、合計収率は24%であり、このことは、本発明の実施形態の一つに係る製造方法を用いることで効率よくアニュレン誘導体を提供できることを示している。
【0057】
(4)1-{4-[3-(ジプロピルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イル]フェニル}エタン-1-オン(BST[7]NA)の合成
BST[7]NAは、以下のスキームに従って合成した。
【化18】
【0058】
アルゴン雰囲気下、上述した化合物27(0.39g、1.0mmol)、4-アセチルフェニルボロン酸(0.25g、1.5mmol)、リン酸カリウム(0.67g、3.0mmol)、Pd(PPh(0.06g、0.05mmol)、およびTHF/水(5/1(v/v))混合溶媒6mLの混合物を50℃で5時間攪拌し、その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率75%で淡緑黄色固体としてBST[7]NAを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.92(d、J=8.5Hz、2H、ArH)、7.56(d、J=8.5Hz、2H、ArH)、7.09(d、J=8.5Hz、1H、ArH)、6.81(s、1H、ArH)、6.47(dd、J=8.5、2.7Hz、1H、ArH)、6.43(d、J=2.7Hz、1H、C=CH)、3.26(t、J=7.6Hz、4H、NCH)、2.83(t、J=5.8Hz、2H、CH)、2.72(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.60(s、3H、CH)、2.20-2.15(m、2H、CH)、1.67-1.59(m、4H、CH)、0.94(t、J=7.3Hz、6H、CH)。13C-NMRデータは以下の通りであった。13C-NMR(100MHz、CDCl):δ197.7(C=O)、150.0(Ar)、147.5(Ar)、142.8(C=C)、136.3(Ar)、135.0(Ar)、133.2(Ar)、131.2(Ar)、128.7(Ar)、128.5(Ar)、128.4(Ar)、125.9(Ar)、123.8(C=C)、112.0(Ar)、109.1(Ar)、52.9(NCH)、36.3(CH)、33.4(CH)、28.6(CH)、26.7(CH)、20.7(CH)、11.6(CH)。IRデータは以下の通りであった。FT-IR(KBr):1684(C=O伸縮)、1605(C=C伸縮)、1502(C-H)、820(Ar-H)cm-1。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C2531NO [M]361.2406:361.5272。
【0059】
(5)エチル4-[3-(ジプロピルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イル]ベンゾエート(BST[7]Ec)の合成
BST[7]Ecは、以下のスキームに従って合成した。
【化19】
【0060】
アルゴン雰囲気下、上述した化合物27(0.58g、1.5mmol)、4-エトキシカルボニルフェニルボロン酸(0.436g、1.5mmol)、リン酸カリウム(1.00g、3.0mmol)、Pd(PPh(0.09g、0.05mmol)、およびTHF/水(5/1(v/v))混合溶媒6mLの混合物を50℃で2時間攪拌し、その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率88%で淡緑黄色固体としてBST[7]Ecを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ8.00(d,J=8.7Hz,2H,ArH),7.54(d,J=8.5Hz,2H,ArH),7.10(d,J=8.5Hz,1H,ArH),6.80(s,1H,C=CH),6.48(dd,J=8.5,2.7Hz,1H,ArH),6.44(d,J=2.4Hz,1H,ArH),4.39(q,J=7.1Hz,2H,CH),3.26(t,J=7.8Hz,4H,NCH),2.84(t,J=5.8Hz,2H,CH),2.73(t,J=6.4Hz,2H,CH),2.21-2.16(m,2H,CH),1.64(td,J=15.0,7.5Hz,4H,CH),1.41(t,J=7.0Hz,3H,CH),0.95(t,J=7.3Hz,6H,CH)。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C2633NO [M]391.2511:391.5535。
【0061】
(6)[3-(ジフェニルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イル]ベンゾニトリル(BST[7]P)の合成
BST[7]Pは、以下のスキームに従って合成した。
【化20】
【0062】
上述した化合物24(0.85g、3.0mmol)、t-BuOK(0.50g、4.5mmol)、ジフェニルアミン(1.0g、6.0mmol)、Pd-PEPPSI-IPr(0.10g、0.15mmol)、および脱水トルエン(20mL)の混合物を100℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水を加え、有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率62%で無色オイルとしてN,N-ジフェニル-5,7,8,9-テトラヒドロスピロ[ベンゾ[7]アニュレン-6,2’-[1,3]ジオキソラン]-2-アミン(化合物28)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.22(t、J=7.9Hz、4H、ArH)、7.08(d、J=7.3Hz、4H、ArH)、6.99-6.95(m、3H、ArH)、6.82(t、J=3.1Hz、2H、ArH)、4.04-3.92(m、4H、OCH)、3.00(s、2H、CH)、2.67(t、J=5.5Hz、2H、CH)、1.96(t、J=6.1Hz、2H、CH)、1.73-1.69(m、2H、CH)。
【0063】
化合物28(0.69g、1.86mmol)のTHF(10mL)溶液に室温で13M塩酸(0.5mL、6.5mmol)を滴下し、その後30分攪拌した。大過剰の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応をクエンチした後、有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。収率80%で淡黄色オイルとして得られた2-(ジフェニルアミノ)-5,7,8,9-テトラヒドロ-6H-ベンゾ[7]アニュレン-6-オン(化合物29)は精製せず、次の反応に用いた。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.24(t、J=7.0Hz、4H、ArH)、7.07(d、J=7.3Hz、4H、ArH)、7.02-6.98(m、3H、ArH)、6.89-6.87(m、2H、ArH)、3.68(s、2H、CH)、2.83(t、J=6.3Hz、2H、CH)、2.59(t、J=6.9Hz、2H、CH)、1.98-1.93(m、2H、CH)。
【0064】
アルゴン雰囲気下、化合物29(0.48g、1.48mmol)を脱水THF(20mL)に溶解し、この溶液に-20℃でt-BuOK(0.25g、2.22mmol)を加えた。この反応混合物を0℃で1時間攪拌した後、-20℃に冷却し、PhNTf(0.63g、1.77mmol)を加えた。1時間攪拌した後、反応混合物を0℃まで昇温し、さらに4時間攪拌した。有機物をジクロロメタンで抽出し、有機層を水と飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、収率76%で無色固体として3-(ジフェニルアミノ)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アニュレン-8-イルトリフルオロメタンスルホナート(化合物30)を得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.27(t、J=7.8Hz、4H、ArH)、7.09(d、J=7.6Hz、4H、ArH)、7.05(t、J=7.3Hz、2H、ArH)、7.00(d、J=8.2Hz、1H、ArH)、6.84(dd、J=8.2、2.4Hz、1H、ArH)、6.78(s、1H、ArH)、6.50(s、1H、C=CH)、2.78-2.73(m、4H、CH)、1.97-1.93(m、2H、CH)。
【0065】
アルゴン雰囲気下、化合物30(0.44g、1.13mmol)、4-シアノフェニルボロン酸(0.32g、1.70mmol)、リン酸カリウム(0.76g、3.39mmol)、Pd(PPh(0.07g、0.06mmol)、およびTHF/水(5/1(v/v))混合溶媒6mLの混合物を50℃で16時間攪拌し、その後、室温まで冷却した。反応混合物に水を加えてクエンチし、有機物をジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒を減圧下で留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(v/v=5/1))で精製し、再結晶することで、収率83%で淡緑黄色固体としてBST[7]Pを得た。H-NMRデータは以下の通りであった。H-NMR(500MHz、CDCl):δ7.59(dd、J=31.1、8.5Hz、4H、ArH)、7.28-7.25(m、5H、ArH)、7.12-7.09(m、5H、ArH)、7.04(t、J=7.5Hz、2H、ArH)、6.90-6.87(m、2H、ArH)、6.79(s、1H、ArH)、2.73(t、J=6.0Hz、2H、CH)、2.69(t、J=6.4Hz、2H、CH)、2.18-2.13(m、2H、CH)。精密質量測定(HRMS)の結果は以下の通りであった。HRMS(EI+)m/z:Calcd. For C3024[M]412.1939:412.5340。
【0066】
BST[7]Pの合成は、化合物16から6ステップを必要とするが、合計収率は25%であり、このことは、本発明の実施形態の一つに係る製造方法を用いることで効率よくアニュレン誘導体を提供できることを示している。
【0067】
4.アニュレン誘導体の特性評価
代表的な例として、合成したBST[7]CとBST[7」NのTHF溶液中と固体状態における吸収スペクトルと蛍光スペクトルをそれぞれ図1図2に示す。これらの図に示すように、BST[7]CとBST[7」Nはいずれも380nm付近に吸収極大を示し、500nm付近に発光ピークを有する蛍光を示すことが分かる。いずれのアニュレン誘導体においても、固体状態での蛍光スペクトルは溶液中の蛍光スペクトルと比較して長波長側に位置するが、その差は比較的小さい。
【0068】
本発明の実施形態の一つに係る種々のアニュレン誘導体の溶液中と固体状態の光物理特性を表1に纏める。ここでは、比較例として、橋かけ構造を持たないDpCSの光物理特性も示されている。DpCSの構造は以下に示すとおりである。
【化21】

【表1】
【0069】
表1に示すように、橋かけ構造を持たないDpCSの溶液中での発光特性は、溶媒に大きく依存する。具体的には、低極性溶媒であるトルエン中では実質的に非発光であるが、溶媒の極性の増大とともに発光波長の長波長化と発光量子収率の増大が観察される。高極性溶媒であるアセトニトリル中では、DpCSは発光性(蛍光量子収率11%)を示す。すなわち、固体状態でも高い蛍光量子収率を示すものの、溶液中でも比較的高い蛍光量子収率を示すことが分かる。
【0070】
DpCSをプロピレン鎖で橋かけした構造であるBST[7]Cは、DpCSと比較すると最大吸収波長が短いことから、DpCSと比較して共役が短く、分子構造の平面性が低下していることが示唆される。ここで興味深い点は、BST[7]Cは、溶媒の極性が変化しても溶液中での蛍光量子収率に変化は見られず、実質的に非発光であるものの、固体状態では高い蛍光量子収率(36%)を示す点である。また、DpCSと比較して平面性が低下していることに起因し、特に固体状態での蛍光ピーク波長も短波長化している。同様の傾向がBST[7]N、BST[7]NA、BST[7]Ec、BST[7]Pにおいても観察されており、これらのアニュレン誘導体は、溶液中での蛍光量子収率は低いものの、固体状態において非常に高い蛍光量子収率を示した。また、発光ピーク波長も溶液中のそれと比較して大きな差が無く、溶媒に依存するものの、BST[7]NAやBST[7]Ec、BST[7]Pの固体における蛍光ピーク波長も、それぞれTHF中での蛍光ピーク波長より短くなることが確認された。
【0071】
例として、BST[7]CとBST[7」NのTHF中と固体状態における吸収スペクトルと蛍光スペクトルをそれぞれ図1図2に示す。これらの図に示すように、BST[7]CとBST[7」Nのそれぞれについて、THF中と固体状態の吸収スペクトルの波長や形状に大きな差はなく、同様に、THF中と固体状態の蛍光スペクトルの波長や形状にも顕著な差が見られない。固体状態の蛍光スペクトルの形状と波長は、絶対量子収率測定において得られるスペクトルの形状と波長とほとんど変わらないことが確認されたため、測定時、すなわち、粉末試料セルに充填された状態でも分子間相互作用は変化していないと言える。このことは、本アニュレン誘導体は、固体状態においても、溶液中と同様、分子間の相互作用が小さく、単分子として挙動していることが示唆される。固体状態におけるこのような挙動が凝集誘起発光色素としての機能を実現しているものと考えられる。
【0072】
以上の結果は、本発明の実施形態の一つに係るアニュレン誘導体が凝集誘起発光色素として機能することを明確に示している。
【0073】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0074】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
図1
図2