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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122346
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、摩擦体および筆記具
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/18 20060101AFI20230825BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230825BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20230825BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230825BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20230825BHJP
   B43L 19/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C08L23/18
C08L23/08
C08L57/02
C08L23/00
B43K29/02 F
B43L19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026002
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 基泰
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
(72)【発明者】
【氏名】深川 克正
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BA01Z
4J002BB03Y
4J002BB05Y
4J002BB15Y
4J002BB17W
4J002BN06X
4J002BP02X
4J002BP03X
4J002FD020
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD180
4J002FD310
4J002GC00
4J002GS00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の特徴である柔軟性と応力緩和性を生かした樹脂組成物および摩擦体であって、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、静摩擦係数を低減させて紙面での剥離や破損を抑制し、一方で動摩擦係数を向上させることにより熱変色を促進して、熱変色性インキに対して優れた消去性が得られる樹脂組成物、および該樹脂組成物を含む摩擦体を提供すること。
【解決手段】特定要件を満たす4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)10~50質量部、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)10~50質量部、エチレン重合体(C)5~30質量部、および石油樹脂(D)0.1~20質量部(ただし、(A)、(B)、(C)、および(D)の合計を100質量部とする。)を含む樹脂組成物、および該樹脂組成物を含む摩擦体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A-a)~(A-e)を満たす4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)10~50質量部、
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)10~50質量部、
エチレン重合体(C)5~30質量部、
および石油樹脂(D)0.1~20質量部〔ただし、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部とする。〕を含む樹脂組成物;
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)40~22モル%とからなる〔ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。〕;
(A-b)135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が、0.5~4.0dl/gの範囲にある;
(A-c)ゲミパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~4.0の範囲にある;
(A-d)密度が825~860kg/m3の範囲にある;
(A-e)示差走査熱量計(DSC)で測定する融点(Tm)が観測されない。
【請求項2】
前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)が、下記要件(A-f)~(A-g)を満たす請求項1に記載の樹脂組成物;
(A-f)-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの最大値が、1.0~5.0の範囲である;
(A-g)-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの値が最大となる際の温度が、10~38℃の範囲にある。
【請求項3】
下記要件(x)および(y)を満たす請求項1または2に記載の樹脂組成物;
(x)ASTM D2240準拠して測定される押針接触開始から15秒後におけるショアA硬度は、60~85である;
(y)ASTM D2240準拠して測定されるショアA硬度において、下記式で示される押針接触直後におけるショアA硬度の値と、押針接触から15秒後におけるショアA硬度の値との差(ΔHS)が、5~18である。
ΔHS=(押針接触直後のショアA硬度値)-(押針接触15秒後のショアA硬度値)
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物を含む摩擦体。
【請求項5】
射出成形体である請求項4に記載の摩擦体。
【請求項6】
請求項4または5に記載の摩擦体を有する筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物、摩擦体および筆記具に関する。詳細には、黒鉛や熱変色性インキ等による筆跡を手動摩擦により熱変色することから消去できる樹脂組成物、摩擦体および筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記や描画による紙面上に形成された熱変色箇所を変色させる手段として、ポリ塩化ビニルや高密度ポリエチレンなどの弾性材料を用いて、手動摩擦により摩擦熱で変色させる摩擦体が使用されている。
【0003】
さらに近年、熱変色性インキを用いて形成した筆跡を加熱させて変色や消色することができる筆記具が種々提案され、ボールペンやマーキングペンとして市販されている。これら「筆跡」とは、筆記面や描画面に筆記もしくは描画された線図および塗りつぶしなどを示すものである。上記熱変色性インキを充填した筆記具では、紙面に形成した筆跡や描画を素早く容易に摩擦熱を与えるために、弾性体からなる摩擦体が使用されている。それらの摩擦体は、筆記具軸筒の後端部や口金、またはキャップの先端等に装着される他に、別体の形態で実用されている。
【0004】
特許文献1には、可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具と、特定の表面硬度以上である樹脂材料を摩擦体として使用する筆記具セットが開示されており、その筆記具本体と摩擦体とを二色成形により一体化することが提案されている。
【0005】
特許文献2には、消去性インキが充填されたノック式筆記具が開示されており、摩擦体としてポリスチレン系熱可塑性エラストマー等を使用することが提案されている。
【0006】
特許文献3には、熱変色性インキによる筆跡を摩擦熱で変色させる摩擦体として、特定の表面硬度範囲であるポリスチレン系熱可塑性エラストマーを主成分とした粘弾性体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-223302号公報
【特許文献2】特開2009-143207号公報
【特許文献3】国際公開第2018/116767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された可逆熱変色性インキを内蔵する筆記具本体と摩擦体は、その摩擦体を支持基材に形成される摩擦具として適用する場合には、二色成形により支持基材と融着固定されるものである。しかしながら、この筆記具では、支持基材と摩擦体の組み合わせが限定されるために、それぞれの材料選定に対する自由度が低いものになりうる。また、摩擦体の成形には複雑な金型が必要となり、良好な成形加工性を得るために摩擦体の肉厚が大きくなるという傾向があった。さらに、摩擦体は弾性体であるため、筆跡や描画の熱変色を促す消去には相当な力をかける必要があった。
【0009】
特許文献2に記載された摩擦体は、主にポリスチレン系熱可塑性エラストマー等の弾性体を使用している。しかしながら、加飾性を高めたメタリック調を有する消去性インキを用いた場合には、その筆跡や描画の消去が十分ではなかった。
【0010】
特許文献3には、メタリック調の加飾性付与を目的として、熱変色性インキ中に金属光沢顔料を含有している。しかしながら、その筆跡や描画を手動摩擦により消去する際、紙面上で金属光沢顔料由来の成分が拡散して、十分な消去性が得られないという懸念があった。さらに、表面強度の低い色紙などの紙材質に筆記や描画を行った場合、その筆跡や描画を手動摩擦で消去しようとすると、紙面での剥離や破損が起こるという問題があった。
【0011】
本発明の課題は、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の特徴である柔軟性と応力緩和性を生かした樹脂組成物および該樹脂組成物を含む摩擦体であって、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、静摩擦係数を低減させて紙面での剥離や破損を抑制し、一方で動摩擦係数を向上させることにより熱変色を促進して、熱変色性インキに対して優れた消去性が得られる樹脂組成物および該樹脂組成物を含む摩擦体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、エチレン重合体、および石油樹脂が特定の配合比率で含まれる樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を含む摩擦体により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔6〕を含む。
【0014】
〔1〕下記要件(A-a)~(A-e)を満たす4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)10~50質量部、
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)10~50質量部、
エチレン重合体(C)5~30質量部、
および石油樹脂(D)0.1~20質量部〔ただし、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部とする。〕を含む樹脂組成物;
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)40~22モル%とからなる〔ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。〕;
(A-b)135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が、0.5~4.0dl/gの範囲にある;
(A-c)ゲミパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~4.0の範囲にある;
(A-d)密度が825~860kg/m3の範囲にある;
(A-e)示差走査熱量計(DSC)で測定する融点(Tm)が観測されない。
【0015】
〔2〕前記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)が、下記要件(A-f)~(A-g)を満たす〔1〕に記載の樹脂組成物;
(A-f)-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの最大値が、1.0~5.0の範囲である;
(A-g)-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの値が最大となる際の温度が、10~38℃の範囲にある。
【0016】
〔3〕下記要件(x)および(y)を満たす〔1〕または〔2〕に記載の樹脂組成物;
(x)ASTM D2240準拠して測定される押針接触開始から15秒後におけるショアA硬度は、60~85である;
(y)ASTM D2240準拠して測定されるショアA硬度において、下記式で示される押針接触直後におけるショアA硬度の値と、押針接触から15秒後におけるショアA硬度の値との差(ΔHS)が、5~18である。
ΔHS=(押針接触直後のショアA硬度値)-(押針接触15秒後のショアA硬度値)
【0017】
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の樹脂組成物を含む摩擦体。
【0018】
〔5〕射出成形体である〔4〕に記載の摩擦体。
【0019】
〔6〕〔4〕または〔5〕に記載の摩擦体を有する筆記具。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、上記4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体の特徴である柔軟性と応力緩和性を生かした樹脂組成物および該樹脂組成物を含む摩擦体であって、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、静摩擦係数を低減させて紙面での剥離や破損を抑制し、一方で動摩擦係数を向上させることにより熱変色を促進して、熱変色性インキに対して優れた消去性が得られる樹脂組成物および該樹脂組成物を含む摩擦体を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明の摩擦体は、従来の筆記具本体に設けられている摩擦体と同様に、単一部材で形成できる。そのため、それぞれの構造に対して複雑な金型を必要とせず、かつ材料が限定されることがないので、筆記具の設計が幅広く選択できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書においては、「重合体」と記載した場合は特に断りがない限り、単独重合体と共重合体を含むものとする。
【0023】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態は、後述する4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)を含む樹脂組成物である。
【0024】
〔4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)〕
本発明の樹脂組成物を構成する成分の一つである4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)〔以下「共重合体(A)」と略記する場合がある。〕は、下記要件(A-a)~(A-e)を満たす4-メチル-1-ペンテンとα-オレフィンの共重合体である。
【0025】
〈要件(A-a)〉
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)40~22モル%とからなる〔ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。〕。
【0026】
共重合体(A)における構成単位(i)の含有率が60モル%以上であることにより、樹脂組成物には応力緩和性を付与できる。共重合体(A)における構成単位(ii)の含有率が22モル%以上であることにより柔軟性を発現する。さらに、上記樹脂組成物を含む、本発明の別の形態である摩擦体にあっては、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、その紙面上(表面粗度)への形状追従に優れる。
【0027】
共重合体(A)における構成単位の含有率(モル%)の値は、炭素13核磁気共鳴(13C-NMR)による測定方法によって算出した場合のものである。なお、具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0028】
共重合体(A)における構成単位(i)の含有率は、好ましくは62~77モル%、より好ましくは64~76モル%、さらに好ましくは68~75モル%の範囲にある。
【0029】
共重合体(A)における構成単位(ii)の含有率は、好ましくは23~38モル%、より好ましくは24~36モル%、さらに好ましくは25~32モル%の範囲にある。
【0030】
共重合体(A)における構成単位(ii)を形成する炭素原子数2~4のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが挙げられる。これらは、1種単独、あるいは本発明の効果を損なわない範囲で、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、特にプロピレンが好ましく、柔軟性と応力緩和性を併せ持つ特徴を発現するのに有利である。
【0031】
〈要件(A-b)〉
共重合体(A)の135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕は、0.5~4.0dl/g、好ましくは0.6~3.5dl/g、より好ましくは0.8~3.0dl/gの範囲にある。
【0032】
共重合体(A)の極限粘度〔η〕が、上記範囲内にあると、低分子量成分が少ないため、本発明の樹脂組成物のべたつきが低減され、成形加工が容易となるため好ましい。なお、極限粘度〔η〕の具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0033】
さらに、共重合体(A)は、ASTM D1238に準拠して、温度230℃、21.18Nで測定されるメルトフローレイト(MFR)の値が、好ましくは0.1~100g/10分、より好ましくは0.5~80g/10分、さらに好ましくは1~50g/10分の範囲である。共重合体(A)が上記の範囲内であると、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)との混合分散性、および本発明の樹脂組成物の成形加工性が容易となるため好ましい。
【0034】
〈要件(A-c)〉
共重合体(A)におけるゲミパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~4.0の範囲にある。分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2~3.5、より好ましくは1.3~3.0、さらに好ましくは1.5~2.8である。
【0035】
分子量分布(Mw/Mn)が、4.0以下であると、組成分布に由来する低分子量および低立体規則性ポリマーの影響が少なく、本発明の樹脂組成物のべたつきが低減され、成形加工が容易となるため好ましい。
【0036】
また、共重合体(A)におけるGPCで測定される重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは500~10,000,000、より好ましくは1,000~5,000,000、さらに好ましくは1,000~2,500,000の範囲にある。なお、GPCの測定条件等の詳細は、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0037】
〈要件(A-d)〉
共重合体(A)の密度は、825~860kg/m3、好ましくは830~850kg/m3の範囲にある。密度が上記の範囲内にあると、樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)に対して、均一に混合分散した本発明の樹脂組成物を含む摩擦体が得られるため好ましい。また、得られる摩擦体は、柔軟性を有するのに有利である。なお、密度の測定条件等の詳細は、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0038】
〈要件(A-e)〉
共重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定する融点(Tm)が観測されない。このような要件を満たすことによって柔軟性を発現する。さらに、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体にあっては、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、その紙面上(表面粗度)への形状追従に優れる。
【0039】
融点(Tm)の値は、共重合体(A)の立体規則性、ならびに構成単位(i)と共に重合する構成単位(ii)に対応するモノマーのα-オレフィンに依存して変化する値である。共重合体(A)の融点(Tm)は、後述するオレフィン重合用触媒を用いて所望の組成に制御することにより調整が可能である。なお、融点(Tm)の測定条件等の詳細は、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0040】
共重合体(A)は、上記要件(A-a)~(A-e)に加え、さらに下記要件(A-f)~(A-g)を満たすことが好ましい。
【0041】
〈要件(A-f)〉
共重合体(A)における、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの最大値(以下「tanδピーク値」ということがある。)は、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは1.5~4.5、さらに好ましくは2.0~4.0の範囲である。
【0042】
共重合体(A)の応力緩和性については、例えば、動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率G′と損失弾性率G″の比(G″/G′)で示される損失正接tanδにより、評価することができる。貯蔵弾性率G′は応力を加えた際に、そのエネルギーを内部に蓄えて応力を保持する弾性成分のことである。損失弾性率G″は応力を加えた際に、そのエネルギーを熱に変換して逃がす(外部へ拡散する)粘性成分のことである。したがって、特定の温度環境下での損失正接tanδが高い材料であるほど、衝撃を吸収しやすく、より高い応力緩和性を発現することになる。
【0043】
本発明の樹脂組成物に用いられる共重合体(A)単独のtanδピーク値は、1.0以上であることが、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体の成形加工時で発生する歪みや変形などの応力を緩和しやすくなり、該摩擦体にあっては、筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、その紙面(表面粗度)への形状追従に優れるため好ましい。
【0044】
〈要件(A-g)〉
共重合体(A)における、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、昇温速度2℃/分、および歪み量0.1%の条件で測定される動的粘弾性の損失正接tanδの値が最大となる際の温度(以下「tanδピーク温度」ということがある。)は、好ましくは10~38℃、より好ましくは15~37℃、さらに好ましくは20~36℃の範囲にある。
【0045】
本発明の樹脂組成物については、共重合体(A)のtanδピーク温度は、22~35℃の範囲にあることが、該樹脂組成物を含む摩擦体の成形加工時に発生する歪みや変形などの応力を緩和しやすくなり、柔軟性に優れるため好ましい。さらに、tanδピーク温度が22~35℃の範囲内にあることで、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体は室温での粘性特性が増加して、特に熱変色性インキの消去性に有利である。なお、具体的な動的粘弾性の損失正接tanδの測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0046】
tanδピーク値およびtanδピーク温度は、共重合体(A)における構成単位(i)/構成単位(ii)の組成比などにより調整することができる。
【0047】
〈共重合体(A)の製造方法〉
共重合体(A)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、4-メチル-1-ペンテンと上記炭素原子数2~4のα-オレフィンとをマグネシウム担持型チタン触媒、またはメタロセン触媒などの適切な重合触媒存在下で重合することにより製造できる。
【0048】
ここで、使用することができる重合触媒としては、従来公知の触媒、例えば、マグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、あるいは特開平2-41303号公報、国際公開第2011/055803号、国際公開第2014/050817号等に記載のメタロセン触媒などが好適に用いられる。重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
【0049】
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。上記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、およびメチルシクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
【0050】
また、液相重合法では、上記4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)に対応するモノマー(すなわち、4-メチル-1-ペンテン)、上記炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)に対応するモノマー(すなわち、上記炭素原子数2~4のα-オレフィン)自体を溶媒とした塊状重合とすることもできる。
【0051】
なお、上記4-メチル-1-ペンテンと上記炭素原子数2~4のα-オレフィンとの共重合を段階的に行うことにより、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(A)を構成する4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)、および、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)の組成分布を適度に制御することもできる。
【0052】
重合温度は、-50~200℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、20~100℃がさらに好ましい。重合圧力は、常圧~10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧~5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
【0053】
重合の時に、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御する目的として、水素を添加してもよい。添加する水素の量は、上記4-メチル-1-ペンテンの量と上記炭素原子数2~4のα-オレフィンの量との合計1kgに対して、0.001~100NL程度が適切である。
【0054】
〔ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)〕
本発明に係るポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)とは、融点以上に加熱すると熱可塑性の性質を示し、常温(5~35℃)ではゴム弾性の性質を示すポリマーである。
【0055】
本発明に係るポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)は、共重合体(A)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)との混合分散が可能であって、所望の流動性、成形体の外観、および機械物性等が得られるものであれば、特に制限されない。
【0056】
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)を本発明の樹脂組成物に含有することで、該樹脂組成物を含む摩擦体は筆跡や描画を手動摩擦により消去するのに適度な剛性を付与できる。
【0057】
本発明に係るポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)の第1の形態としては、エチレンおよびプロピレンからなる群より選ばれる1種と、ブタジエン、水素添加ブタジエン、イソプレン、水素添加イソプレン、イソブチレン、およびα-オレフィンからなる群より選ばれる1種との共重合体であって、密度が900kg/m3以下を挙げることができる。共重合体の形態は、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよいが、エチレンおよびプロピレンからなる群より選ばれる1種と、α-オレフィンからなる共重合体の場合のみ、分子鎖の片末端に二重結合を有するオレフィンのことであり、1-ブテンや1-オクテンなどが好ましく用いられる。
【0058】
例えば、硬質部となるポリプロピレン等の結晶性の高いポリマーを形成するポリオレフィンブロックと、軟質部となる非結晶性を示すモノマー共重合体ブロックとのブロック共重合体が挙げられ、具体的には、ポリオレフィン(結晶性)・エチレン・ブチレン・オレフィンブロック共重合体、ポリプロピレン・ポリオレフィン(非結晶性)・ポリプロピレンブロック共重合体等を挙げることができる。
【0059】
具体例としては、JSR社製DYNARON(登録商標)、三井化学社製タフマー(登録商標)、ダウケミカル社製ENGAGE(登録商標)、VERSIFY(登録商標)、エクソンモービルケミカル社製Vistamaxx(登録商標)等の市販されているものが挙げられる。
【0060】
さらに、本発明に係るポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)の第2の形態としては、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選ばれる1種と、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・ブテン共重合体からなる群より選ばれる1種とのブレンド物が挙げられる。ここで、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・ブテン共重合体は、部分的もしくは完全に架橋されているものが好ましい。
【0061】
具体例としては、三井化学社製ミラストマー(登録商標)、住友化学社製エスポレックス(登録商標)、三菱ケミカル社製サーモラン(登録商標)、ゼラスTPO(登録商標)、セラニーズ社製Santoprene(登録商標)等の市販されているものが挙げられる。
【0062】
また、本発明に係るポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)は、酸無水物基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、およびエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基で変性されていてもよい。
【0063】
〔エチレン重合体(C)〕
本発明に係るエチレン重合体(C)とは、エチレンの単独重合体とエチレン系共重合体である。
【0064】
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-ヘプテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体などのエチレン・α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0065】
エチレン重合体(C)しては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられる。
【0066】
これらのなかでも、エチレン重合体(C)の含有量により、本発明の樹脂組成物の密度並びに表面硬度を容易に調整できるという観点から、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0067】
また、エチレン重合体(C)を本発明の樹脂組成物に含有することで、該樹脂組成物を含む摩擦体は筆跡や描画を手動摩擦により消去するのに適度な表面硬度を調整でき、熱変色性インキに対して優れた消去性を発揮する。
【0068】
〔石油樹脂(D)〕
本発明に係る石油樹脂(D)とは、石油ナフサを熱分解してエチレン、プロピレン、およびブタジエン等の留分を採取した残りの留分のうち、主として炭素原子数5(C5)または炭素原子数9(C9)の留分から不飽和炭化水素を単離することなく、酸性触媒により固化して得られる樹脂成分である。
【0069】
石油樹脂(D)としては、例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、およびそれらの水素添加誘導体等が挙げられる。これらのなかでも、共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、およびエチレン重合体(C)との相容性と、得られる摩擦体の色調や熱安定性の観点により、水素添加誘導体を用いることが好ましい。
【0070】
また、石油樹脂(D)を本発明の樹脂組成物に含有することで、該樹脂組成物を含む摩擦体は筆跡や描画を手動摩擦により消去する際に、動摩擦係数を向上させることができる。したがって、熱変色性インキによる筆跡や描画に対して優れた消去性を発揮する。
【0071】
具体例としては、イーストマンケミカル社製リガライト(登録商標)、荒川化学工業社製アルコン(登録商標)、出光興産社製アイマーブ(登録商標)、ENEOS社製T-REZ H(登録商標)等の市販されているものが挙げられる。
【0072】
〔量比〕
本発明の樹脂組成物は、共重合体(A)10~50質量部、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)10~50質量部、エチレン重合体(C)5~30質量部、および石油樹脂(D)0.1~20質量部〔ただし、(A)、(B)、(C)および(D)の合計を100質量部とする。〕を含む。
【0073】
本発明の樹脂組成物を含む摩擦体の柔軟性と応力緩和性の観点から、共重合体(A)の含有量は、12~48質量部が好ましく、15~46質量部がより好ましく、20~45質量部がさらに好ましい。
【0074】
また、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体に適度な剛性を付与する観点から、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)の含有量は、12~48質量部が好ましく、15~46質量部がより好ましく、20~45質量部がさらに好ましい。
【0075】
次いで、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体を適度な表面硬度に調整する観点から、エチレン重合体(C)の含有量は、8~28質量部が好ましく、10~26質量部がより好ましく、12~24質量部がさらに好ましい。
【0076】
さらに、本発明の樹脂組成物を含む摩擦体を適度な動摩擦係数に調整する観点から、石油樹脂(D)の含有量は、0.5~18質量部が好ましく、1~16質量部がより好ましく、2~15質量部がさらに好ましい。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、下記要件(x)および(y)を満たすことが好ましい。
【0078】
〔要件(x)〕
ASTM D2240準拠して測定される押針接触開始から15秒後におけるショアA硬度は、60~85であり、好ましくは62~82、より好ましくは64~80、さらに好ましくは65~78である。なお、具体的な表面硬度の測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0079】
押針接触開始直後のショアA硬度値が、上記の範囲内にあるものは、特に摩擦熱の発生効果が高く、筆跡や描画を容易に熱変色させることができるため好適である。
【0080】
〔要件(y)〕
ASTM D2240準拠して測定されるショアA硬度において、押針接触直後におけるショアA硬度の値と、押針接触から15秒後におけるショアA硬度の値との差(ΔHS)は、5~18であり、好ましくは6~18、より好ましくは8~18、さらに好ましくは10~18である。
【0081】
なお、上記ΔHSは、以下の式に従って求められる値である。
ΔHS=(押針接触直後のショアA硬度値)-(押針接触15秒後のショアA硬度値)
【0082】
ΔHSが上記の上限値以下にあると、樹脂組成物から得られる摩擦体は紙面上での筆跡や描画を擦過した際に、摩擦熱をより効果的に発生させることができる。また、上記の下限値以上にあると、筆跡や描画に含まれる粒子物(顔料など)をより容易に吸着剥離できるものとなる。ΔHSは、共重合体(A)のコモノマー種およびコモノマー組成によって任意に変更することができる。また、複数種を混合することでも調整が可能である。
【0083】
〔その他の成分〕
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)に該当しないその他の添加剤(以下「その他の添加剤」ともいう)をさらに含んでいても良い。このような「その他の添加剤」として、公知の添加剤が挙げられる。
【0084】
添加剤としては、例えば、軟化剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、帯電防止剤、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、赤外線吸収剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、結晶核剤、防黴剤、抗菌剤、および有機充填剤などが挙げられるが、これらは限定されるものではない。これらの添加剤は1種単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0085】
軟化剤としては、例えば、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、石油アスファルトおよびワセリンなどを含む石油系物質;コールタールおよびコールタールピッチなどを含むコールタール類;ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油および椰子油などを含む脂肪油;トール油、蜜ロウ、カルナウバロウおよびラノリンなどを含むロウ類;リシノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-水酸化ステアリン酸、モンタン酸、オレイン酸およびエルカ酸などを含む脂肪酸またはその金属塩;クマロンインデン樹脂およびアタクチックポリプロピレンなどを含む合成高分子;ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペートおよびジオクチルセバケートなどを含むエステル系可塑剤;マイクロクリスタリンワックス、液状ポリブタジエンまたはその変性物もしくは水添物;、ならびに液状チオコールなどを含む公知の軟化剤が挙げられる。
【0086】
さらに、軟化剤としては、例えば、芳香族カルボン酸エステル(フタル酸ジブチル等)、脂肪族カルボン酸エステル(メチルアセチルリシノレート等)、脂肪族ジアルボン酸エステル(アジピン酸-プロピレングリコール系ポリエステル等)、脂肪族トリカルボン酸エステル(クエン酸トリエチル等)、リン酸トリエステル(リン酸トリフェニル等)、エポキシ脂肪酸エステル(ステアリン酸エポキシブチル等)等が挙げられる。
【0087】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、多環フェノール系酸化防止剤(2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)その他のメチレン架橋化多環フェノール等)、リン系酸化防止剤(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4-ビフェニレンジホスフォネート等)、アミン系酸化防止剤(N,N-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン等)などが挙げられる。
【0088】
難燃剤としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、エチレンビストリス(2-シアノエチル)ホスフォニウムクロリド、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキシド等のリン酸エステル及びその他のリン化合物;塩素化パラフィン、塩素化ポリオレフィン、パークロロシクロペンタデカン等の塩素系難燃剤;ヘキサブロモベンゼン、エチレンビスジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、エチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールA誘導体、テトラブロモビスフェノールS、およびテトラブロモジペンタエリスリトール等の臭素系難燃剤;、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0089】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、アクリレート系等が挙げられる。
【0090】
抗菌剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、ピリジン系化合物、有機酸、有機酸エステル、ハロゲン化フェノール、有機ヨウ素などが挙げられる。
【0091】
界面活性剤としては、例えば、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、高級アルコールエチレンオキシド付加物、脂肪酸エチレンオキシド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物およびポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物等のポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤;、ならびにポリエチレンオキシド、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビットもしくはソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテルおよびアルカノールアミンの脂肪族アミド等の多価アルコール型非イオン性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩およびパラフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;、ならびに高級アルコールリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、高級アルキルアミノプロピオン酸塩等のアミノ酸型両面界面活性剤;、ならびに高級アルキルジメチルベタインおよび高級アルキルジヒドロキシエチルベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0092】
帯電防止剤としては、例えば、上記界面活性剤、脂肪酸エステルおよび高分子型帯電防止剤が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸およびオレイン酸のエステルなどが挙げられ、高分子型帯電防止剤としては、例えば、ポリエーテルエステルアミドなどが挙げられる。
【0093】
顔料としては、例えば、無機顔料(酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、硫化カドミウム等)、および有機顔料(アゾレーキ系、チオインジゴ系、フタロシアニン系、アントラキノン系)が挙げられる。染料としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系およびトリフェニルメタン系などが挙げられる。
【0094】
上記の各種添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲で用途に応じて、特に限定されないが、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、それぞれ合計で、0.01~10質量部であることが好ましい。
【0095】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、石油樹脂(D)、および「その他の添加剤」に該当しない重合体(以下「その他重合体」ともいう)を含有してもよい。その場合、樹脂組成物における「その他重合体」の含有量は、共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、および石油樹脂(D)の合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0096】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本発明の樹脂組成物の製造方法には特に限定されることはなく、例えば、従来公知の製造方法が使用できる。本発明の樹脂組成物を構成する共重合体(A)、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)、エチレン重合体(C)、石油樹脂(D)、任意に「その他の成分」および/または「その他重合体」を公知の混合機を用いて、ドライブレンドする方法が挙げられる。ここで、上記混合機として、例えば、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、V-ブレンダー等が挙げられる。
【0097】
上記の混合機でドライブレンドした後、例えば、180~240℃の温度設定下で、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等により溶融混練後、造粒あるいは粉砕する方法を採用することができる。これらの中でも、各成分の混合性や生産性の観点から、二軸押出機やバンバリーミキサーによる溶融混練が好ましい。これらの方法によって、各成分が均一に混合分散された樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0098】
<摩擦体>
本発明の一実施形態は、上記樹脂組成物を含む摩擦体である。本発明の摩擦体は、その作製方法に制限はないが、例えば、上記樹脂組成物から射出成形により好適に作製することができる。
【0099】
本発明の摩擦体は、従来の摩擦体と同様に熱変色性インキによる筆跡や描画を擦過することで、筆跡や描画を変色および消色させるために用いられる。その際、本発明の摩擦体は、弾性体として作用することで擦過時に摩擦熱を発現し、さらに粘性体としても作用することで熱変色性インキを吸着剥離させる性能が得られる。即ち、単体の摩擦体において、化学的消去性と物理的消去性を併せてもつことができる。
【0100】
本発明の摩擦体を従来の筆記具本体に装着して構成することで、新規構成のインキによる筆跡や描画であっても、消去時に筆跡や描画の周辺に残色を生じて見栄えを損なうということがなく、十分な消去性が確保できる利便性と実用性を兼ね備えた筆記具が得られる。その際、本発明の摩擦体は、従来の筆記具本体に設けられている摩擦体と同様に単一部材で形成できるため、筆記具の外装自体がそのまま利用できることから、汎用性の高いものとなる。
【0101】
また、本発明の摩擦体は、従来の消しゴムと類似した吸着剥離による物理的消去作用を発現できることから、例えば、紙面から黒鉛を剥離することも可能となる。そのため、本発明の摩擦体は、ひとつの摩擦体で熱変色性インキの熱変色と、鉛筆芯、シャープ芯等による筆跡や描画の除去とを可能にする新しい消去具を構成できる。
【0102】
さらに、本発明の摩擦体は、筆跡や描画を手動により擦過する際に、静摩擦係数を低減させて紙面での剥離や破損を抑制できる。一方、動摩擦係数を向上させることにより熱変色を促進させることができるため、熱変色性インキに対して優れた消去性が得られる。特に、表面強度が低い色紙などの紙質への筆跡や描画の消去に有利である。紙の「表面強度」としては、例えば、JAPAN TAPPI No.1:2000に準拠した試験方法により評価することができる。なお、具体的な摩擦係数の測定方法については、後述の実施例に記載する内容のとおりである。
【0103】
〔熱変色性インキ〕
熱変色性インキとしては、従来汎用の加熱により変色、あるいは消色可能なインキがいずれも適用できる。なお、インキ中に配合される着色剤としては、電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物、及び上記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物を用いたものが好適であり、特に、可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させてなるマイクロカプセル顔料が有効である。
【0104】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された所定の温度(変色点)を境として、その前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、上記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、上記熱または冷熱の適用がなくなれば、常温域で呈する状態に戻るヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔHが1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物が例示でき、これをマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
【0105】
さらに、可逆熱変色性組成物として、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH値が8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示すものが例示できる。ヒステリシス特性が大きいとは、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合で、大きく異なる経路を辿って変色することを示唆する。
【0106】
このような可逆熱変色性組成物は、完全発色温度以下の低温域での発色状態または完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有し、これを内包する加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
【0107】
なお、色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度として、-30℃~-10℃、かつ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱で得られる温度として、60℃~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40℃~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度領域)で呈する色彩の保持に有効に機能するものを挙げることができる。
【0108】
上記可逆熱変色性組成物を内包するマイクロカプセル顔料を用いる場合、その平均粒子径が例えば0.5μm~3.0μmの範囲のものが筆記性能と筆跡濃度の観点から好適である。さらに、本発明の摩擦体を用いた消色性能をより効率的に発揮することを目的とし、マイクロカプセル顔料の平均粒子径を2.0μm以上とした際には、摩擦熱による化学的消色と、吸着剥離による物理的消去を利用した消色(変色)が可能となるため、不可逆的な消去や変色には高い効果を発揮する。なお、平均粒子径は、例えば、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(マウンテック社製Mac-View)を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0109】
また、上記可逆熱変色性組成物を内包するマイクロカプセル顔料の全ての粒子或いは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、例えば、精密粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製Multisizer 4e)を用いてコールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径を測定することができる。
【0110】
さらに、着色剤成分として、筆跡に熱変色を伴わない所望の色相を付与するためには、染料や一般顔料等を用いることが可能である。例えば、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。一般顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に媒体中に分散された分散顔料製品等が用いられる。その他、金属粉やパール顔料等の金属光沢顔料、蛍光顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン等の特殊顔料も適用できる。なお、これらの着色剤成分は上記可逆熱変色性組成物を内包するマイクロカプセル顔料と併用してもよいし、該マイクロカプセル顔料中に内包させることも可能である。
【0111】
特に、金属光沢顔料を熱変色性インキに添加した場合、メタリック調のインキが構成できるため、筆記時には光沢感を備えた加飾性に富んだ筆跡が形成され、より有用なものとなる。また、上記可逆熱変色性組成物を内包するマイクロカプセル顔料を着色剤として使用した際には、上記熱変色性マイクロカプセル顔料が透明化した際に得られる白紙上の筆跡が、光輝性もなく完全に消去したように視覚されるため、透明性金属光沢顔料が有用である。
【0112】
上記筆跡を消去する場合、熱変色と剥離除去を行う必要があるため、従来は表面硬度が大きい弾性体からなる摩擦体と、表面硬度が小さい弾性体や消しゴムの2種類を用いる必要があった。しかしながら、本発明の摩擦体であれば、一つの摩擦体を用いた一度の擦過で、摩擦熱と吸着剥離による消色(変色)が可能となるため、特に利便性が高いものとなる。また、使用する金属光沢顔料は粉末の固形物であり、その平均粒子径が10μm以上である場合には、光輝性の高い筆跡が得られるとともに吸着剥離性が高くなるため、本発明の摩擦体を筆記具セットとして用いた場合には、筆跡加飾性と不可逆的消去性に高い効果を発揮する。
【0113】
透明性金属光沢顔料としては、例えば、天然雲母、合成雲母、偏平ガラス片、および薄片状酸化アルミニウム等から選ばれる材料を芯物質とし、該芯物質を金属酸化物で被覆した光輝顔料、およびコレステリック液晶型光輝顔料などが挙げられる。一般的に光輝顔料とは、光の多重反射や干渉現象を利用して、パール状のような深みのある光沢を発現するものを示す。
【0114】
天然雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面に酸化チタンを被覆したもの、上記酸化チタンの上層に酸化鉄や非熱変色性染顔料を被覆したもの等が有効であり、具体的には、メルク社製イリオジン(登録商標)、BASF社製ルミナ(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。
【0115】
合成雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属化合物で被覆したものが有効である。金属酸化物としては、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を挙げられ、好ましくは酸化チタンを主成分とする金属酸化物が挙げられる。具体的には、日本光研工業社製アルティミカ(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。
【0116】
偏平ガラス片を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したもの等が有効であり、具体的には、日本板硝子社製メタシャイン(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。
【0117】
薄片状酸化アルミニウムを芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものが有効であり、金属酸化物としては、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を例示でき、好適には酸化チタンを主成分とする金属酸化物が挙げられる。具体的には、メルク社製シラリック(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。
【0118】
コレステリック液晶型光輝顔料として用いられる液晶ポリマーは、光の干渉効果によって広いスペクトル領域で入射する光の一部の領域のみが反射し、それら以外の領域は全て光が透過する性質を有するものであり、優れた金属光沢と視点により色相が変化するカラーフロップ性と透明性を併せて有する。コレステリック液晶型光輝顔料として具体的には、ワッカーケミー社製ヘリコーンHC(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。また、フィルムに金、銀等金属を真空蒸着させた後、箔を剥離して細かく粉砕した光輝顔料として、尾池工業社製エルジーneo(登録商標)等の市販されているものを挙げることができる。
【0119】
上記金属光沢顔料は、その平均粒子径が10~40μmの範囲のものが、筆記性能と輝度の観点から好適である。なお、平均粒子径の測定は、例えば、レーザー回析散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製LA-350)を用いて粒子径分布を測定し、その数値により体積基準で平均粒子径(メジアン径)を算出することができる。
【0120】
特に、金属光沢顔料の平均粒子径が10μm以上のものは輝度が極めて高い反面、筆記時に紙面内に浸透し難い。そのため、弾性体からなる従来の摩擦体での擦過には散乱する傾向があり、視認角度によっては、擦過部分全体に散乱した金属光沢顔料が視覚され、見栄えを損なうことがある。特に、黒色紙上では高い輝きが強調されるため、さらに見栄えが悪いものとなる。一方、粘弾性体からなる摩擦体を用いて擦過することで、上記金属光沢顔料を吸着することが可能となり、擦過部分に散乱させることなく剥離し、筆跡をきれいに消去することができる。したがって、金属光沢調熱変色性インキによる筆跡は、摩擦熱による化学的消色と、吸着剥離による物理的消去を利用した消色(変色)が可能となるため、不可逆的な消去や変色には特に高い効果を発揮する。
【0121】
熱変色性インキには、その他必要に応じて、各種添加剤を添加することもできる。水性インキであれば、従来適用されるような、pH調整剤、防錆剤、防腐剤或いは防黴剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、潤滑剤、樹脂等の定着剤、剪断減粘性付与剤、ペン先乾燥防止剤、垂れ下がり防止剤等を添加することができる。また、油性インキであれば、従来から適用されている粘性調節剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、潤滑剤、分散剤、カスレ防止剤、洩れ防止剤、界面活性剤等を添加することができる。
【0122】
<筆記具>
本発明の一実施形態は、上記摩擦体を有する筆記具である。本発明の筆記具において、上記摩擦体は、筆跡を擦過できる形態で構成され実用に供される。その際、上記摩擦体は単独で構成される他、摩擦部分が筆跡(紙面)に接触できる形態で硬質樹脂等の他部材へ併設する等の把持できる状態で構成されればよい。その他、熱変色性インキを内蔵する筆記具に設けた熱変色性筆記具形態や、別体からなる熱変色性インキを内蔵する筆記具形態などとして構成することができる。例えば、本発明の筆記具は、筆記具本体と、該筆記具本体に装着された上記摩擦体とを備え、該筆記具本体内に熱変色性インキを内蔵する。
【0123】
本発明の筆記具の形態としては、万年筆、マーキングペン、ボールペン、ラメボールペン、繰り出し式固形筆記具等が挙げられ、ペン先(チップ)を覆うキャップを備えたキャップ式形態の他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式形態であってもよい。出没式形態とする場合、レフィルを一本収容するタイプだけでなく、二本以上収容して所望のレフィルを選択的に出没できる複式タイプとすることもできる。また、相異なる形態のペン先を装着させたり、相異なる色相のインキを導出させるペン先を装着させたりする両頭式形態であってもよい。
【実施例0124】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における樹脂物性の測定方法、樹脂組成物の使用材料、試験片の作製方法、および物性評価方法は次のとおりである。
【0125】
<樹脂物性の測定方法>
〔構成単位の含有率〕
ポリマー中の4-メチル-1-ペンテン、およびα-オレフィンの含量の定量化は、以下の装置および条件により13C-NMRで測定した結果を基にした。ただし、本測定結果のα-オレフィンの含量には、4-メチル-1-ペンテンの含量は含まれない。
【0126】
日本電子社製ECP500型核磁気共鳴装置を用いて、オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィンの組成を定量化した。
【0127】
〔極限粘度〕
極限粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、デカリン溶媒中135℃で測定した。具体的には、先ず、重合パウダー、およびペレットまたは樹脂塊を約20mg採取し、デカリン15mLに溶解して、135℃に加熱したオイルバス中で比粘度ηspを測定した。次に、このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同じように比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)をゼロに外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として算出した(下式を参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0128】
〔メルトフローレイト(MFR)〕
ASTM D1238に準拠して、温度230℃、21.18Nで測定した。
【0129】
〔重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn値)〕
分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
具体的には、液体クロマトグラフとしてWaters社製ALC/GPC150-Cplus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、分離カラムとして東ソー社製GMH6-HTを2本、およびGMH6-HTLを2本直列接続して用い、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼン、酸化防止剤として0.025質量%のジブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業社製)を用い、移動相媒体を1.0mL/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500μLとし、検出器は示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンとしては、重量平均分子量(Mw)が1,000以上、4,000,000以下において、東ソー社製の標準ポリスチレンを用いた。
【0130】
得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを用いて検量線を作成して解析することで、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn値)を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0131】
〔密度〕
密度は、JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて測定した。
【0132】
〔融点(Tm)〕
JIS K7121に準拠し、ティー・エイ・インスツルメント社製示差走査熱量計Discovery DSC2500を用い、昇温速度10℃/分で測定される融解ピーク頂点の最も高い温度を融点とした。
【0133】
樹脂組成物の使用材料
<共重合体(A)の合成>
共重合体(A)として、4-メチル-1-ペンテンの含有量、および炭素原子数2~4のα-オレフィンの含有量を調整した共重合体(A-1)を以下のようにして合成した。
【0134】
〈共重合体(A-1)の合成〉
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃でn-ヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテン450mlを装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0135】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.40MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlをオートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。
【0136】
重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0137】
得られた溶媒を含むパウダー状の共重合体を100℃、減圧下で12時間乾燥した。生成物である共重合体(A-1)の重量は36.9gで、共重合体(A-1)中の4-メチル-1-ペンテンの含有量は72.4モル%、プロピレンの含有量は27.6モル%であった。示差走査熱量計(DSC)で測定を行ったところ、融点は観測されなかった。各物性の測定結果を表1に示す。
【0138】
<動的粘弾性の測定>
上記方法で得られた共重合体(A-1)をSUS製型枠に所定量充填した。加熱盤を200℃に設定し、油圧式熱プレス機(神藤金属工業所社製NSF-50)を用いて、予熱7分間、ゲージ圧10MPaで2分間加圧した後、20℃に設定した冷却盤に移し替え、ゲージ圧10MPaで圧縮して3分間冷却し、厚み2mmの測定用プレスシートを作製した。
【0139】
次に、上記方法で得られた厚み2mmの測定用プレスシートを、レオメーター(アントンパール社製MCR301)により、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み量0.1%、昇温速度2℃/分の条件で、-40~150℃における動的粘弾性の温度分散を観測し、tanδピーク値およびtanδピーク温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
<ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B)として、以下のものを使用した。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B-1):三井化学社製ミラストマー6030NS〔MFR:40g/10分(温度230℃、98.07N)、密度880kg/m3、表面硬度:ショアA58〕
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B-2):三井化学社製ミラストマー7030NS〔MFR:35g/10分(温度230℃、98.07N)、密度880kg/m3、表面硬度:ショアA70〕
【0142】
<エチレン重合体(C)>
エチレン重合体(C)として、以下のものを使用した。
エチレン重合体(C-1):プライムポリマー社製エボリューSP4030〔直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、〈MFR:3.8g/10分(温度190℃、21.18N)〕、密度:938kg/m3、融点(Tm):127℃、表面硬度:ショアD59〕
【0143】
<石油樹脂(D)>
石油樹脂(D)として、以下のものを使用した。
石油樹脂(D-1):荒川化学工業社製アルコンP-125〔脂環族飽和炭化水素樹脂、軟化点125℃)を使用した。
【0144】
樹脂組成物の作製
後述の表2に示す実施例および比較例の組成によりドライブレンドして得られた該樹脂成分100質量部に対して、二次抗酸化剤として、トリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを1000ppm、耐熱安定剤として、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピネートを1000ppm、塩酸吸収剤として、ステアリン酸カルシウムを500ppm配合した。
【0145】
次に、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX25αIII、スクリュー径Φ25mm、L/D=52)を用いて、シリンダー設定温度200℃、押出量5kg/時間、スクリュー回転数100rpmの条件でストランドを吐出し、水槽に浸漬しながらペレタイザー(カツミック社製KM-100)まで導き、造粒して樹脂組成物の例示の形態であるペレットを得た。
【0146】
<測定用プレスシートの作製>
上記方法で得られた樹脂組成物の各ペレットをSUS製型枠に所定量充填した。加熱盤温度を200℃に設定し、油圧式熱プレス機(神藤金属工業所社製NSF-50)を用いて、予熱7分間、ゲージ圧10MPaで2分間加圧した後、20℃に設定した冷却盤に移し替え、ゲージ圧10MPaで圧縮して3分間冷却し、厚み2mmの測定用プレスシートを作製した。
【0147】
<表面硬度>
上記方法で得られた厚み2mmの測定用プレスシートを3枚重ねて試験片として、ASTM D2240準拠して、23℃で硬度計の押針を試験片の表面に押しつけた直後と、15秒後とのそれぞれについて、ショアA硬度を測定した。それぞれのショアA硬度の値をもとに、下式によりΔHSの値を算出した。それらの結果を表2に示す。
ΔHS=〔押針接触開始直後のショアA硬度値〕-〔押針接触開始から15秒後のショアA硬度値〕
【0148】
<応力吸収性>
上記「測定用プレスシートの作製」の方法に準じて作製した厚み2mmの測定用プレスシートから所定寸法(長さ35mm、幅10mm)に打ち抜き加工し、レオメーター(アントンパール社製MCR301)を用いて、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み量0.1%、昇温速度2℃/分の条件で、-40~150℃における動的粘弾性の温度分散を観測し、tanδピーク値およびtanδピーク温度を測定した。その結果を表2に示す。
【0149】
試験片の作製
上記方法で得られた樹脂組成物の各ペレットを、射出成形機(東芝機械社製ES75SX III:型締力735kN、スクリュー径Φ32mm)を用いて、後述の実施例および比較例による摩擦係数の算出に使用する試験片を作製した。なお、成形条件と試験片の内容は、以下のとおりである。
【0150】
〔成形条件〕
シリンダー設定温度:180~220℃
スクリュー回転数:100rpm
射出圧力:18~24MPa
射出速度:15~20mm/秒
金型温度:40℃
冷却時間:40秒
【0151】
〔試験片〕
円柱(直径Φ8mm、長さ50mm)の片方端部に、R値4mmの丸みを設けた試験片を作製した。
【0152】
<摩擦係数の算出>
上記試験片より、丸み形状を設けた端部から長さ10mmに切断したものを「摩擦体」とした。次に、学振摩耗試験機(新東科学社製トライボギア Type30S)を用いて、圧子には「摩擦体」の丸みを設けた端部が摺動部位となるように取り付け、試験荷重1000gf、移動速度7500mm/分、移動距離100mm、摺動テーブルには以下2種の紙をそれぞれ1枚置いて、静摩擦係数および動摩擦係数を算出した。その結果を表2に示す。
【0153】
〔紙の種類〕
・普通紙(白色紙):PPC Paper Type-Fw(厚み0.090mm、坪量67g/m2
・黒色紙:トーヨー社製色画用紙(厚み0.174mm、坪量114g/m2
【0154】
<消去試験>
上記「普通紙(白色紙)」の紙面に、黒色鉛筆(三菱鉛筆9800H)および熱変色性インキを充填した筆記具(パイロットコーポレーション社製「フリクションボール」:ブラック、0.7mm)を手書きで螺旋形の丸を5個連続に筆記した後、上記「試験片」の丸みを設けた端部と紙面が接触するように手で擦過し、消色した状態を目視により観察して評価した。また、擦過後の紙面の状態についても目視で観察して評価した。
【0155】
さらに、上記「黒色紙」の紙面に、金属光沢顔料を含有する熱変色性インキを充填した筆記具(パイロットコーポレーション社製ラメボールペン「ケセラメ」:ピンク、0.7mm)を手書きで螺旋形の丸を5個連続に筆記した後、上記「試験片」の丸みを設けた端部と紙面が接触するように手で擦過し、消色した状態を目視により観察して評価した。また、擦過後の紙面の状態についても目視で観察して評価した。それぞれの評価に対する判定基準は以下のとおりである。これらの結果を表2に示す。
【0156】
〔筆跡消去性〕
A:残色は認められず、筆跡が消去された。
B:筆跡が薄く残った。
C:黒鉛または熱変色性インキが紙面で拡散し、筆跡の消去が困難であった。
【0157】
〔紙面の状態〕
A:紙面に問題はなかった。
B:紙面に若干の剥離が認められた。
C:紙面に剥離や破損が認められた。
【0158】
〔実施例1〕
共重合体(A-1)35質量部、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(B-1)40質量部、エチレン重合体(C-1)20質量部、および石油樹脂(D-1)5質量部の合計100質量部〔該樹脂成分100質量部に対して、トリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを1000ppm、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピネートを1000ppm、ステアリン酸カルシウムを500ppm配合した。〕を、上記「樹脂組成物の作製」の方法とおりに樹脂組成物(X-1)のペレットを得た。
【0159】
次いで、上記方法とおりに「測定用プレスシート」と「試験片」を作製して上記の内容とおりに物性評価を行った。
【0160】
〔実施例2〕
樹脂成分を表2の組成に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(X-2)のペレットを得て、これを用いて、実施例1と同様に物性評価を行った。
【0161】
〔実施例3〕
樹脂成分を表2の組成に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(X-3)のペレットを得て、これを用いて実施例1と同様に物性評価を行った。
【0162】
〔実施例4〕
樹脂成分を表2の組成に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(X-4)のペレットを得て、これを用いて、実施例1と同様に物性評価を行った。
【0163】
〔比較例1〕
樹脂成分を表2の組成に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(Y-1)のペレットを得て、これを用いて、実施例1と同様に物性評価を行った。
【0164】
〔比較例2〕
樹脂成分を表2の組成に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(Y-2)のペレットを得て、これを用いて、実施例1と同様に物性評価を行った。なお、表2中、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(E-1)は、旭化成社製S.O.E.「S1605」、MFR:5g/10分(温度230℃、21.18N)、表面硬度:ショアA87))を使用した。
【0165】
実施例1~4、および比較例1~2の各物性評価の結果を表2に示す。
【0166】
【表2】
【0167】
実施例1~4により得られた摩擦体は、弾性体としての性能を発揮するため、筆跡を擦過することで、黒鉛や熱変色性インキを効果的に消去できることが示された。また、表面強度が低い色紙での筆記を擦過する際には、静摩擦係数を低減させて紙面での剥離や破損を抑制し、一方で動摩擦係数の向上により熱変色が促進されるため、金属光沢顔料を吸着剥離するとともに、熱変色性インキの消去性に優れることが示された。