(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122348
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】パラメータ算出装置、パラメータ算出プログラムおよびパラメータ算出方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230825BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20230825BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230825BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q10/04
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026004
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森 純一
(72)【発明者】
【氏名】高倉 優理子
(72)【発明者】
【氏名】寺島 光
【テーマコード(参考)】
3C100
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA05
3C100AA12
3C100AA16
3C100AA29
3C100AA32
3C100AA47
3C100BB21
3C100BB31
3C100EE10
5L049AA04
5L049CC04
(57)【要約】
【課題】鋼材の製造ライン特有の条件を考慮したシミュレーションの精度向上を実現する。
【解決手段】パラメータ算出装置(100)は、離散事象シミュレータ(S)を取得するシミュレータ取得部(41)と、実績データ(D)を取得する実績データ取得部(42)と、離散事象シミュレータ(S)および実績データ(D)に基づいて評価関数値を算出する評価関数値算出部(43)と、評価関数値に基づいて獲得関数値を算出する獲得関数値算出部(44)と、獲得関数値を用いたベイズ最適化によりパラメータの最適値を算出するパラメータ算出部(45)と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の製造ラインの途中に設けられた、前記鋼材となる前の中間製品が一時的に載置される置場における、前記中間製品の滞留個数の推移を予測する離散事象シミュレータで用いられるパラメータの最適値を算出するパラメータ算出装置であって、
前記離散事象シミュレータを取得するシミュレータ取得部と、
前記製造ラインで過去に鋼材を製造したときの前記滞留個数の実際の推移を示す実績データを取得する実績データ取得部と、
前記離散事象シミュレータおよび前記実績データに基づいて、前記最適値となり得る複数の候補値のうちの一つと前記離散事象シミュレータの予測精度との関係を表す評価関数値を算出する評価関数値算出部と、
前記評価関数値に基づいて獲得関数値を算出する獲得関数値算出部と、
前記獲得関数値を用いたベイズ最適化により、前記最適値を算出するパラメータ算出部と、を有するパラメータ算出装置。
【請求項2】
前記評価関数値算出部は、前記実績データから得られた前記滞留個数の実際値と、前記離散事象シミュレータが予測した前記滞留個数の予測値と、の差に関する情報を前記評価関数値として算出する、請求項1に記載のパラメータ算出装置。
【請求項3】
前記評価関数値算出部は、前記実績データから得られた、前記中間製品が所定状態となった時刻の実際値と、前記離散事象シミュレータが予測した前記時刻の予測値と、の差に関する情報を前記評価関数値として算出する、請求項1に記載のパラメータ算出装置。
【請求項4】
前記製造ラインで過去に鋼材を製造したときの、前記パラメータの探索に関する探索補助情報を取得する探索補助情報取得部を更に備え、
前記獲得関数値算出部は、前記評価関数値および前記探索補助情報に基づいて前記獲得関数値を算出する、請求項1~3のいずれか一項に記載のパラメータ算出装置。
【請求項5】
前記製造ラインが備える少なくとも一つの装置には、複数種類のジョブが設定されており、
前記パラメータは、前記装置がいずれのジョブを実行するかを選択する際の基準である、請求項1~4のいずれか一項に記載のパラメータ算出装置。
【請求項6】
前記装置は、前記中間製品を搬送する搬送装置を含み、
前記搬送装置には、前記置場からの搬送先が複数設定されており、
前記パラメータは、前記搬送装置がいずれの搬送先へ搬送するかを選択する際の基準である、請求項5に記載のパラメータ算出装置。
【請求項7】
前記離散事象シミュレータに、搬送装置の搬送能力および前記置場の収容能力を含むシミュレーション条件を設定する条件設定部を更に備える、請求項1に記載のパラメータ算出装置。
【請求項8】
請求項1に記載のパラメータ算出装置としてコンピュータを機能させるためのパラメータ算出プログラムであって、
上記シミュレータ取得部、上記実績データ取得部、上記評価関数値算出部、上記獲得関数値算出部および上記パラメータ算出部としてコンピュータを機能させるためのパラメータ算出プログラム。
【請求項9】
鋼材の製造ラインの途中に設けられた、前記鋼材となる前の中間製品が一時的に載置される置場における、前記中間製品の滞留個数の推移を予測する離散事象シミュレータで用いられるパラメータの最適値を、コンピュータを用いて算出するパラメータ算出方法であって、
前記離散事象シミュレータを取得するステップと、
前記製造ラインで過去に鋼材を製造したときの前記滞留個数の実際の推移を示す実績データを取得するステップと、
前記離散事象シミュレータおよび前記実績データに基づいて、前記最適値となり得る複数の候補値のうちの一つと前記離散事象シミュレータの予測精度との関係を表す評価関数値を算出するステップと、
前記評価関数値に基づいて獲得関数値を算出するステップと、
前記獲得関数値を用いたベイズ最適化により、前記最適値を算出するステップと、を有するパラメータ算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ算出装置、パラメータ算出プログラムおよびパラメータ算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の鋼材を効率的に製造するためには、製造ラインにおける各設備の能力のバランスをとることにより、物流上の問題が生じないようにすることが重要である。前記物流上の問題として、例えば、鋼材になる前の中間製品(コイル等)が一時的に載置される置場の収容能力が逼迫して前工程を停止せざるを得なくなるという問題、置場に中間製品がなく後工程を開始できないという問題が挙げられる。このような問題が生じないようにするためには、製造に着手する前に、置場における中間製品の在庫数の推移をできるだけ正確に予測し、物流上の問題が生じなくなるような対策をとっておくことが望ましい。置場における中間製品の在庫数の推移をシミュレーションする技術は従来知られている。例えば特許文献1には、中間製品の量に関する情報と置場間の経路情報とを含む入力情報を入力し、入力情報に基づく数理モデルを作成し、数理モデルに基づいて置場における中間製品の在庫量の推移を出力する、在庫量推移シミュレーション方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術は、中間製品の量を、重量に基づく連続量として扱っている。このため、従来技術には、鋼材の製造ライン特有の条件(例えば、搬送機器が一回に搬送することのできる中間製品の個数には限りがあることや、搬送機器が他の中間製品の搬送に使われていて目的の中間製品を直ちに搬送できない場合があること等)を考慮したシミュレーションができないという問題がある。
本発明の一態様は、鋼材の製造ライン特有の条件を考慮したシミュレーションの精度向上を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るパラメータ算出装置は、鋼材の製造ラインの途中に設けられた、前記鋼材となる前の中間製品が一時的に載置される置場における、前記中間製品の滞留個数の推移を予測する離散事象シミュレータで用いられるパラメータの最適値を算出するパラメータ算出装置であって、前記離散事象シミュレータを取得するシミュレータ取得部と、前記製造ラインで過去に鋼材を製造したときの前記滞留個数の実際の推移を示す実績データを取得する実績データ取得部と、前記離散事象シミュレータおよび前記実績データに基づいて、前記最適値となり得る複数の候補値のうちの一つと前記離散事象シミュレータの予測精度との関係を表す評価関数値を算出する評価関数値算出部と、前記評価関数値に基づいて獲得関数値を算出する獲得関数値算出部と、前記獲得関数値を用いたベイズ最適化により、前記最適値を算出するパラメータ算出部と、を有する。
【0006】
本発明の各態様に係るパラメータ算出装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記パラメータ算出装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記パラメータ算出装置をコンピュータにて実現させるパラメータ算出装置のパラメータ算出プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0007】
また、本発明の一態様に係るパラメータ算出方法は、鋼材の製造ラインの途中に設けられた、前記鋼材となる前の中間製品が一時的に載置される置場における、前記中間製品の滞留個数の推移を予測する離散事象シミュレータで用いられるパラメータの最適値を、コンピュータを用いて算出するパラメータ算出方法であって、前記離散事象シミュレータを取得するステップと、前記製造ラインで過去に鋼材を製造したときの前記滞留個数の実際の推移を示す実績データを取得するステップと、前記離散事象シミュレータおよび前記実績データに基づいて、前記最適値となり得る複数の候補値のうちの一つと前記離散事象シミュレータの予測精度との関係を表す評価関数値を算出するステップと、前記評価関数値に基づいて獲得関数値を算出するステップと、前記獲得関数値を用いたベイズ最適化により、前記最適値を算出するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、鋼材の製造ライン特有の条件を考慮したシミュレーションの精度向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るパラメータ算出装置で用いられる離散事象シミュレータの構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態に係るパラメータ算出装置の機能的構成を示す図である。
【
図3】同パラメータ算出装置を用いたパラメータ算出方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
[離散事象シミュレータ]
まず、本実施形態に係るパラメータ算出装置100(以下、算出装置100)が算出したパラメータが適用される離散事象シミュレータS(以下、シミュレータS)の一例について説明する。
図1はシミュレータSの構成を示すブロック図である。
【0012】
中間製品を連続量として扱う従来のシミュレータの問題を解決するため、ここで用いられるシミュレータSは、鋼材の製造ラインの途中に設けられた置場における、中間製品の滞留個数の推移を予測するためのものとなっている。本実施形態に係るシミュレータSは、鋼材の製造ラインにおける中間製品の流れをシミュレーションすることにより、中間製品の滞留個数の推移を予測する。なお、シミュレータSは、離散事象シミュレーション技術を用いて作成された一般的なものでよい。
【0013】
鋼材の製造ラインの途中に設けられる置場は、中間製品が一時的に載置される場所である。
【0014】
中間製品は、鋼材(最終製品)となる前のものである。中間製品は、例えば、連続鋳造後の鋼片(スラブ、ブルーム、ビレット)、熱間圧延後~冷間圧延前のコイル、冷間圧延後~表面処理(めっき等)前のコイル等を含む。中間製品は、個数で計数可能なものである。すなわち、中間製品の滞留個数は離散量である。
【0015】
本実施形態に係るシミュレータSは、製造ラインの一部における中間製品の流れをシミュレーションするものとなっている。具体的には、本実施形態に係るシミュレータSは、
図1に示したように、鋼材製造の一工程を担う第一工場1で処理を開始する前から、中間ヤード3を通り、次工程を担う第二工場2での処理を終了した後までの中間製品の流れをシミュレーションするものとなっている。なお、シミュレータSは、三つ以上の工場間の中間製品の流れをシミュレーションするものであってもよい。
【0016】
第一工場1は、鋳造工場、熱延工場、冷延工場、焼鈍工場のいずれかである。
【0017】
第二工場2は、熱延工場、冷延工場、焼鈍工場、連続溶融亜鉛めっき工場のうち、第一工場1を出た後の次工程を担う工場である。
【0018】
シミュレーション対象の製造ラインは、少なくとも一つの装置と、置場と、を備えている。本実施形態に係る装置は、処理装置と、搬送装置と、を含む。すなわち、本実施形態に係るシミュレータには、処理装置、置場、搬送装置の位置、動作等が設定されている。
【0019】
(処理装置)
処理装置は、中間製品に所定処理を施す。本実施形態に係る処理装置は、第一処理装置11と、第二処理装置21と、を含む。
【0020】
第一処理装置11は、第一工場1に設置されている。そして、第一処理装置11は、中間製品に、一工程に対応する処理(連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延、または焼鈍)を施す。
【0021】
第二処理装置21は、第二工場2に設置されている。そして、第二処理装置21は、中間製品に、次工程に対応する処理(熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、またはめっき)を施す。
【0022】
(置場)
置場は、中間製品が一時的に載置される。本実施形態に係る置場は、第一前面置場12と、第一前面バッファ13と、第一後面置場14と、第一後面バッファ15と、第二前面置場22と、第二前面バッファ23と、第二後面置場24と、第二後面バッファ25と、仮置場31と、第一パレット32と、第二パレット33と、を含む。なお、置場は、仮置場31を含まなくてもよい。
【0023】
第一前面置場12は、第一工場1における第一処理装置11の前面(入口)側に設けられている。
【0024】
第一前面バッファ13は、第一処理装置11と第一前面置場12との間に設けられている。第一前面バッファ13に載置された中間製品は、順次第一処理装置11へセットされる。
【0025】
第一後面置場14は、第一処理装置11の後面(出口)側に設けられている。
【0026】
第一後面バッファ15は、第一処理装置11と第一後面置場14との間に設けられている。第一処理装置11で処理された中間製品は、順次第一後面バッファ15へ載置される。
【0027】
第二前面置場22は、第二工場2における第二処理装置21の前面側に設けられている。
【0028】
第二前面バッファ23は、第二処理装置21と第二前面置場22との間に設けられている。第二前面バッファ23に載置された中間製品は、順次第二処理装置21へセットされる。
【0029】
第二後面置場24は、第二処理装置21の後面側に設けられている。
【0030】
第二後面バッファ25は、第二処理装置21と第二後面置場24との間に設けられている。第二処理装置21で処理された中間製品は、順次第二後面バッファ25へ載置される。
【0031】
仮置場31は、中間ヤード3(第一工場1と第二工場2との間)に設けられている。
【0032】
第一パレット32は、搬送装置によって移動する。停止中の第一パレット32は、第一後面置場14または仮置場31の入口側に隣接する。
【0033】
第二パレット33は、搬送装置によって移動する。停止中の第二パレット33は、仮置場31の出口側または第二前面置場22に隣接する。
【0034】
(搬送装置)
搬送装置は、中間製品を搬送するものである。本実施形態に係る搬送装置は、クレーンと、キャリア35と、を含む。
【0035】
クレーンは、中間製品を吊り上げて搬送する。本実施形態に係るクレーンは、第一前面クレーン16と、第一後面クレーン17と、第二前面クレーン26と、第二後面クレーン27と、仮置きクレーン34と、を含む。
【0036】
第一前面クレーン16は、第一処理装置11の前面側に設けられている。第一前面クレーン16には、第一前面置場12に載置されている中間製品を第一前面バッファ13へ搬送するジョブが設定されている。
【0037】
第一後面クレーン17は、第一処理装置11の後面側に設けられている。第一後面クレーン17には、複数種類のジョブが設定されている。具体的には、第一後面バッファ15に載置されている中間製品を第一後面置場14へ搬送するジョブ、および第一後面置場14に載置されている中間製品を第一パレット32へ搬送するジョブの二種類である。第一後面クレーン17は、一方のジョブを実行している間、他方のジョブを実行することができない。
【0038】
第二前面クレーン26は、第二処理装置21の前面側に設けられている。第二前面クレーン26には、複数種類のジョブが設定されている。具体的には、第一パレット32または第二パレット33に載置されている中間製品を第二前面置場22へ搬送するジョブ、および第二前面置場22に載置されている中間製品を第二前面バッファ23へ搬送するジョブの二種類である。第二前面クレーン26は、一方のジョブを実行している間、他方のジョブを実行することができない。
【0039】
第二後面クレーン27は、第二処理装置21の後面側に設けられている。第二後面クレーン27には第二後面バッファ25に載置されている中間製品を第二後面置場24へ搬送するジョブが設定されている。
【0040】
仮置きクレーン34は、仮置場31に設けられている。仮置きクレーン34には、複数種類のジョブが設定されている。具体的には、第一パレット32に載置されている中間製品を仮置場31へ搬送するジョブ、および仮置場31へ載置されている中間製品を第二パレット33へ搬送するジョブの二種類である。仮置きクレーン34は、一方のジョブを実行している間、他方のジョブを実行することができない。
【0041】
なお、第一後面クレーン17、第二前面クレーン26、および仮置きクレーン34の少なくともいずれかには、一種類または三種類以上のジョブが設定されていてもよい。また、第一前面クレーン16、および第二後面クレーン27の少なくとも一方は、二種類以上のジョブが設定されていてもよい。
【0042】
キャリア35は、中間製品を積載して搬送する。本実施形態に係るキャリア35は、少なくとも一つの中間製品が載置された第一パレット32または第二パレット33を積載して搬送する。キャリア35には、置場からの搬送先が複数設定されている。具体的には、第二前面置場22、および仮置場31の二つである。なお、キャリア35には、一つまたは三つ以上の搬送先が設定されていてもよい。また、キャリアは、第一パレットを搬送する第一キャリアと、第二パレットを搬送する第二パレットと、に分かれていてもよい。
【0043】
以上説明してきたシミュレータSを用いれば、鋼材の製造ライン特有(流体等の製造ラインにはない)条件(例えば、個々の中間製品を搬送装置で搬送すること、搬送装置が1回に運ぶことのできる中間製品には限りがあること、運びたいときに搬送装置がいない場合があること等)を加味した(実際の鋼材製造プロセスに即した)シミュレーションが可能となる。
【0044】
なお、シミュレータSは、算出装置100がパラメータの最適値を算出する際にも用いられる。算出装置100がどのようにシミュレータSを用いるかの詳細については後述する。
【0045】
[算出装置100の構成]
次に、算出装置100の構成について説明する。
図2は算出装置100の機能的構成を示すブロック図である。
【0046】
算出装置100は、上記シミュレータSで用いられるパラメータの最適値を算出するためのものである。算出装置100は、
図2に示したように、制御部4と、記憶部5と、を有する。本実施形態に係る算出装置100は、操作部6と、出力部7と、を更に備える。
【0047】
記憶部5は、不揮発性メモリで構成されている。本実施形態に係る記憶部5は、上記シミュレータSと、評価関数F1と、獲得関数F2と、を記憶している。評価関数F1および獲得関数F2の詳細については後述する。また、本実施形態に係る記憶部5は、実績データDと、探索補助情報Iと、を記憶することが可能となっている。実績データDおよび探索補助情報Iの詳細については後述する。なお、算出装置100は、シミュレータS、実績データD、各種数式および探索補助情報Iの少なくともいずれかを他の装置から受信するようになっていてもよい。その場合、記憶部5はこれらを記憶していなくてもよい。
【0048】
操作部6は、ユーザが操作するものである。操作部6は、キーボード、マウス、タッチパネル等を含む。操作部6は、ユーザによってなされた操作に応じた情報を制御部4へ入力する。
【0049】
出力部7は、制御部4の演算結果を出力するものである。出力部7は、演算結果を表示する表示装置、演算結果を印刷するプリンタ、演算結果のデータを他の装置へ送信する通信モジュール等を含む。
【0050】
制御部4は、シミュレータ取得部41と、実績データ取得部42と、評価関数値算出部43と、獲得関数値算出部44と、パラメータ算出部45と、を備えている。また、本実施形態に係る制御部4は、条件設定部46と、探索補助情報取得部47と、探索補助情報作成部48と、を更に備えている。
【0051】
(シミュレータ取得部)
シミュレータ取得部41は、上記シミュレータSを取得する。本実施形態に係るシミュレータ取得部41は、シミュレータSを、記憶部5から読み取るようになっている。なお、シミュレータ取得部41は、シミュレータSを、算出装置100に挿入されたメディアから読み取るようになっていてもよい。通信モジュールを介して他の装置から受信するようになっていてもよい。
【0052】
(条件設定部)
条件設定部46は、シミュレータSに、搬送機器の搬送能力、および置場の収容能力を含むシミュレーション条件を設定する。本実施形態に係る条件設定部46は、ユーザにより操作部6になされた操作によって入力されたシミュレーション条件を設定する。本実施形態に係る条件設定部46は、処理装置の処理能力もシミュレーション条件として設定する。本実施形態に係る条件設定部46は、すべての処理装置(第一処理装置11および第二処理装置21)の処理能力を設定する。処理能力は、下記表1に示したように、処理可能個数と、処理時間と、を含む。処理可能個数は、第一処理装置11および第二処理装置21が一回の処理で処理することのできる中間製品の数である。処理時間は、1回の処理に要する時間である。処理時間は、コイル属性(サイズ、品質等)に応じて変える数値である。
【0053】
【0054】
また、本実施形態に係る条件設定部46は、すべての搬送装置(第一前面クレーン16、第一後面クレーン17、第二前面クレーン26、第二後面クレーン27、仮置きクレーン34およびキャリア35)の搬送能力を設定する。搬送能力は、下記表2に示したように、搬送可能個数と、搬送時間と、を含む。搬送可能個数は、各搬送装置が一回の搬送で同時に搬送することのできる対象物(中間製品、第一パレット32、第二パレット33)の個数である。搬送時間は、一回の搬送に要する時間である。
【0055】
【0056】
上述したように、上記シミュレータSの第一後面クレーン17および第二前面クレーン26には、それぞれ二つのジョブが設定されている。このため、本実施形態に係る条件設定部46は、第一後面クレーン17および第二前面クレーン26にジョブ選択条件をそれぞれ設定する。
【0057】
第一後面クレーン17には、例えば下記のようなジョブ選択条件を設定する。
・第一後面バッファ15のコイル数≧第一後面バッファ15の収容能力-α本のときは第一後面バッファ15から第一後面置場14への搬送を優先する。
・第一後面バッファ15のコイル数<第一後面バッファ15の収容能力-α本のときは第一後面置場14から第一パレット32への搬送を優先する。
【0058】
また、第二前面クレーン26には、例えば下記のようなジョブ選択条件を設定する。
・第二前面バッファ23のコイル数≧第二前面バッファ23の収容能力-β本のときは、第一パレット32または第二パレット33から第二前面置場22への搬送を優先する。
・第二前面バッファ23のコイル数<第二前面バッファ23の収容能力-β本のときは、第二前面置場22から第二前面バッファ23への搬送を優先する。
【0059】
条件中のα,βは、これから最適値を算出する対象のパラメータである。また、パラメータの最適値は、装置がいずれのジョブを実行するかを選択する際の基準(オペレータの判断に相当)である。このようにすれば、装置があるジョブを実行している間、他のジョブを実行できなくなる(例えば、前工程から置場への搬送、置場から後工程への搬送の2つのジョブが設定され、一方の搬送をしている間他方の搬送はできない)ような製造ラインにおける滞留個数をシミュレーションする場合であっても、置場の中間製品の滞留個数の推移をより正確に予測することができる。
【0060】
また、上記シミュレータSのキャリア35は、一度に複数の中間製品を搬送可能である。このため、本実施形態に係る条件設定部46は、キャリア35に搬送開始条件を設定する。搬送開始条件は、例えば下記のようなものとする。
・第一パレット32または第二パレット33に中間製品が所定重量分(例えば135t)積載されたら搬送を開始する。
・最初の中間製品が第一パレット32または第二パレット33に積載されてから所定時間(例えば1時間)が経過した場合には、中間製品の合計重量が所定重量に達していなくても搬送を開始する。
【0061】
このようにすれば、キャリア35の搬送パターン(一度に搬送する中間製品の数)が複数あるような製造ラインにおける滞留個数をシミュレーションする場合であっても、置場の中間製品の滞留個数の推移をより正確に予測することができる。
【0062】
また、上記シミュレータSのキャリア35には、二つの搬送先が設定されている。このため、本実施形態に係る条件設定部46は、キャリア35に搬送先選択条件を設定する。搬送先選択条件は、例えば下記のようなものとする。
・第二前面置場22に空きがあるときは、第二前面置場22へ搬送する。
・第二前面置場22が満杯のときは、仮置場31へ搬送する。
【0063】
なお、上記搬送先選択条件を、下記のようなものとしてもよい。
・第二前面置場22の収容可能数≧γ本のときは、第二前面置場22へ搬送する。
・第二前面置場22の収容可能数<γ本のときは、仮置場31へ搬送する。
【0064】
この場合、条件中のγは、これから最適値を算出する対象のパラメータの一つとなる。また、パラメータの最適値は、キャリア35がいずれの搬送先へ搬送するかを選択する際の基準となる。このようにすれば、製造ラインにおける中間製品の搬送ルートが枝分かれしているシミュレータSを用いる場合であっても、置場の中間製品の滞留個数の推移をより正確に予測することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る条件設定部46は、すべての置場(第一前面置場12、第一前面バッファ13、第一後面置場14、第一後面バッファ15、第二前面置場22、第二前面バッファ23、第二後面置場24、第二後面バッファ25、仮置場31、第一パレット32および第二パレット33)の収容能力を設定する。本実施形態に係る条件設定部46は、下記表3に示したように、第一パレット32および第二パレット33の収容能力を重量(t)で、それ以外の置場の収容能力を個数で設定する。
【0066】
【0067】
条件設定部46が以上説明してきたシミュレーション条件を設定することにより、シミュレーション条件が設定されていない汎用のシミュレータSを用いてシミュレーションすることができる(装置でシミュレータSをカスタマイズできる)。また、このようにすれば、予めシミュレーション条件が設定されたシミュレータSを取得した場合であっても、そのシミュレーション条件を後から調整することが可能となる。
【0068】
なお、ここでは、第一後面クレーン17および第二前面クレーン26にジョブ選択条件を設定する場合を例示したが、条件設定部46は、第一後面クレーン17および第二前面クレーン26のいずれか一方に他の装置にジョブ選択条件を設定するようになっていてもよい。また、条件設定部46は、第一後面クレーン17および第二前面クレーン26以外の他のクレーンにジョブ選択条件を設定するようになっていてもよい。また、ここでは、キャリア35に搬送先選択条件を設定する場合を例示したが、搬送先選択条件をクレーンに設定するようになっていてもよい。また、ここでは、ユーザの入力に基づいて(手動で)シミュレーション条件を設定する場合を例示したが、条件設定部46は、シミュレーション条件を自動で設定するようになっていてもよい。
【0069】
(実績データ取得部)
実績データ取得部42は、実績データDを取得する。実績データDは、製造ラインで過去に鋼材を製造したときの滞留個数の実際の推移に関するものである。
【0070】
(評価関数値算出部)
評価関数値算出部43は、シミュレータSおよび実績データDに基づいて、評価関数値を算出する。評価関数値は、最適値となり得る複数の候補値のうちの一つとシミュレータSの予測精度との関係を表すものである。上述したように、本実施形態に係るシミュレータSは、最適値を算出する対象のパラメータを複数(n)種類有している。このため、本実施形態に係る評価関数値は、各パラメータからそれぞれ一つずつ候補値を選び取ることによって得られる複数通りの組み合わせ(以下、候補値の組み合わせ)のうちの一つとシミュレータSの予測精度との関係を表すものとなっている。前記候補値の組み合わせの数は、(1種類目のパラメータがとり得る候補値の数)×(2つ目のパラメータがとり得る候補値の数)×・・×(n種類目のパラメータがとり得る候補値の数)によって算出できる。本実施形態に係る評価関数値算出部43は、実績データDから得られた滞留個数の実際値と、シミュレータSが予測した滞留個数の予測値と、の差に関する情報を評価関数値J(x)として算出する。具体的には、記憶部に記憶されている下記数1を取得し、当該数1に予測値および実際値を代入して算出する。
【0071】
【0072】
ここで、xは候補値の組み合わせ[α,β・・]、y^tは時刻tにおける滞留個数の予測値、ytは実際値である。このようにすれば、置場の中間製品の滞留個数を定期的にカウントするというシンプルな方法によって得られた実績データDおよび予測値に基づいて、評価関数値を容易に算出することができる。
【0073】
なお、評価関数値は、予測値と実際値の差に関するものであれば上記実施形態のものに限られない。例えば、評価関数値算出部43は、実績データDから得られた、中間製品が所定状態となった時刻の実際値と、シミュレータSが予測した時刻の予測値と、の差に関する情報を評価関数値として算出するようになっていてもよい。所定状態となった時刻は、処理装置による処理が開始された時刻、処理が終了した時刻(最終処理が終了して鋼材(完成品)となった時刻を含む)、置場に載置された時刻等を含む。
【0074】
また、一般に、中間製品は複数製造される。例えば、下記表4に示したような、第一処理装置11による処理が完了した時刻の、中間製品ごとの予測値および実測値が得られた場合、各中間製品の時刻差の絶対値の和(|3|+|-2|+|3|=8)を評価関数値としてもよいし、最後の中間製品Cの時間差(3)を評価関数値としてもよい。
【0075】
【0076】
時刻の実際値と予測値の差は置場の中間製品の滞留個数と相関を有する。このため、このようにすれば、例えば置場の中間製品の滞留個数を直接カウントできない場合であっても、評価関数値を算出することができる。
【0077】
(探索補助情報取得部)
探索補助情報取得部47は、探索補助情報Iを取得する。探索補助情報Iは、製造ラインで過去に鋼材を製造したときの、パラメータの最適値の探索に関するものである。例えば、最適値を算出したいパラメータがαおよびβの二種類の場合、探索補助情報Iは、αがとりうる候補値の数×βがとりうる候補値の数のマトリクス状に並ぶ数値群となる。数値群を構成する各候補値は、1に近くなるほど探索の優先度が高いことを示す。なお、探索補助情報Iは、上記のような候補値群ではなく、候補値群から読み取れる傾向や、人(オペレータ、製造ラインの管理者等)の記憶(例えば、α=4のとき中間製品の流れがよさそうといった経験則)であってもよい。
【0078】
(獲得関数値算出部)
獲得関数値算出部44は、評価関数値に基づいて獲得関数値を算出する。本実施形態に係る獲得関数値算出部44は、これまでに得られた評価関数値の最小値から改善することが可能な量の期待値(期待値改善度(EI:Expected Improvement))を獲得関数値として算出する。具体的には、記憶部に記憶されている下記数2を取得し、当該数2に必要な数値を代入して算出する。また、本実施形態に係る獲得関数値算出部44は、候補値の組み合わせの一つに応じた複数の獲得関数値を、一の獲得関数値群として算出する。
【0079】
【0080】
ここで、xは候補値の組み合わせ[α,β・・]、μ(x)およびσ(x)はこれまでに得られた観測値から構築されたガウス過程回帰モデルによって計算される平均値および標準偏差、φは標準ガウス関数、Φはその累積密度関数である。なお、獲得関数値は、最適値がありそうな領域と不確実性の高い領域とのバランスの良さを指標となり得るものであれば上記実施形態のものに限られない。
【0081】
事前に探索補助情報Iが得られている場合、獲得関数値算出部44は、評価関数値および探索補助情報Iに基づいて獲得関数値を算出する。具体的には、獲得関数値算出部44は、上記数2の代わりに、例えば下記数3を用いて獲得関数値を算出する。
【0082】
【0083】
ここで、Prio(x)は探索補助情報Iにおけるxに対応する数値である。すなわち、この数3は、上記数2に探索補助情報Iを構成する数値群の一つを乗じたものである。このようにすれば、最適値の探索に関する探索補助情報Iに基づいて、優先度の高い探索候補(候補値の組み合わせ)を絞り込むことができるため、パラメータの最適値をより早く算出することができる。
【0084】
(パラメータ算出部)
パラメータ算出部45は、獲得関数値を用いたベイズ最適化により、パラメータの最適値を算出する。本実施形態に係るパラメータ算出部45は、一連の動作の組(上記評価関数値算出部43に、最大の(初回のみ任意の)獲得関数値に対応する評価関数値を算出させる動作、獲得関数値算出部44に獲得関数値群を算出させる動作、および獲得関数値群から最大の獲得関数値を選択する動作)を、所定回数、または選択した最大の獲得関数値が所定の基準値以下となるまで繰り返す。
【0085】
(探索補助情報作成部)
探索補助情報作成部48は、探索補助情報Iを算出する。本実施形態に係る探索補助情報作成部48は、まず、上記評価関数値算出部43が算出しなかった候補値の組み合わせに対応する新たな評価関数値を、算出した評価関数値を用いたガウス過程回帰によって算出する。また、本実施形態に係る探索補助情報作成部48は、算出した新たな評価関数値および上記評価関数値算出部43が算出した評価関数値を含む評価関数値群を、1に近づくほど誤差が小さくなるように0-1に正規化する。また、本実施形態に係る探索補助情報作成部48は、正規化された評価関数値群を、新たな探索補助情報Iとして記憶部5に記憶させる。
【0086】
製造ラインにおいては、オペレータの判断ルールが定期的に変更される。このため、判断ルールの変更に合わせて、算出装置100を用いてパラメータの最適値を算出する必要がある。探索補助情報作成部48が算出する新たな探索補助情報Iは、次回以降にパラメータの最適値を算出する際に、探索補助情報取得部47が取得する探索補助情報Iとして用いることができる。
【0087】
[パラメータ算出方法の流れ]
次に、上記算出装置100を用いたパラメータ算出方法(以下、算出方法)について説明する。
図3は算出方法の流れを示すフローチャートである。
【0088】
まず、ユーザが算出装置100に所定操作(例えば、電源ON操作、所定の開始操作等)すると、
図3に示したように、シミュレータ取得部41がシミュレータSを取得する(ステップS1)。
【0089】
本実施形態に係る算出方法においては、シミュレータSを取得した後に、算出装置100がシミュレーション条件の入力を受け付ける。ユーザによってシミュレーション条件が入力されると、条件設定部46が入力されたシミュレーション条件を設定する(ステップS2)。なお、シミュレータ取得部41が、予めシミュレーション条件が設定されたシミュレータSを取得する場合、このステップ2は無くてもよい。
【0090】
シミュレーション条件を設定した後は、制御部4が評価関数F1(数1)を取得する(ステップS3)。本実施形態に係る算出方法においては、記憶部5から評価関数F1のデータを読み出す。
【0091】
本実施形態に係る算出方法において、評価関数F1を取得した後は、制御部4が探索補助情報Iが存在するか否かを判断する(ステップS4)。具体的には、制御部4が例えば算出装置100の記憶部5に記憶されているか否かを判断する。
【0092】
探索補助情報Iが存在すると判断した場合(ステップS4:Yes)には、探索補助情報取得部47が探索補助情報Iを取得する(ステップS5)。一方、探索補助情報Iが存在しないと判断した場合には、ステップS5をスキップする。
【0093】
探索補助情報Iを取得した、またはステップS5をスキップした後は、制御部4が獲得関数F2を取得する(ステップS6)。本実施形態に係る算出方法においては、記憶部5から獲得関数F2のデータを読み出す。ステップS5で探索補助情報Iを取得した場合には、制御部4が数3の獲得関数F2を取得する。一方、ステップS5で探索補助情報Iを取得しなかった場合には、制御部4が数2の獲得関数F2を取得する。
【0094】
獲得関数F2を取得した後は、実績データ取得部42が実績データDを取得する(ステップS7)。本実施形態に係る算出方法においては、記憶部5から実績データDを読み出す。
【0095】
なお、ここでは、評価関数F1、探索補助情報I、獲得関数F2、および実績データDの順に取得する場合を例示したが、これらのデータがステップS8を開始するまでに揃うのであれば、その取得順序は自由である。
【0096】
評価関数F1、探索補助情報I、獲得関数F2、および実績データDを取得した後は、評価関数値算出部43が、任意の候補値の組み合わせに基づいて初期の評価関数値を算出する(ステップS8)。候補値の組み合わせの決定は、ユーザが行ってもよいし、算出装置100が自動で行ってもよい。
【0097】
評価関数値を算出した後は、獲得関数値算出部44が、評価関数値に基づいて獲得関数値群を算出する(ステップS9)。
【0098】
獲得関数値群を生成した後は、パラメータ算出部45がパラメータの最適値を算出する(ステップS10)。具体的には、パラメータ算出部45は、まず、獲得関数値群の中から最大の獲得関数値を選択する(ステップS11)。最大の獲得関数値を選択した後、パラメータ算出部45は、選択した最大の獲得関数値が基準値以下であるか否かを判断する(ステップS12)。ここで、基準値以下ではないと判断した場合は、評価関数値算出部43が、最大の獲得関数値に対応する候補値の組み合わせに基づいて新たな評価関数値を算出する(ステップS13)。そして、獲得関数値算出部44が、新たな評価関数値に基づいて獲得関数値群を算出する(ステップS9)。このような流れにより、基準値以下のものの中で最大の獲得関数値が見つかるまでステップS9,S11~S13が繰り返される。一方、ステップS12で、基準値以下であると判断した場合は、パラメータ算出部45が、選択した最大の獲得関数値に対応する候補値の組み合わせを、最適値として出力部へ出力する(ステップS14)。なお、ステップS12では、最大の獲得関数値が基準値以下であるか否かを判断するのではなく、ステップS13,S9,S10を所定回数繰り返したか否かを判断してもよい。
【0099】
パラメータの最適値を算出した後、探索補助情報作成部48が探索補助情報Iを算出する(ステップS15)。
【0100】
[作用効果]
離散量を予測するシミュレータSの予測精度を向上させるには、シミュレーション条件を正確に設定する必要がある。ところが、置場の中間製品の滞留個数に影響する各種判断(シミュレータSにおけるパラメータの最適値に対応)は、オペレータの経験による曖昧なところがあった。このため、全てのシミュレーション条件を正確に設定することは困難である。しかし、本実施形態に係る算出装置によれば、実績データDに基づいて、よりオペレータの判断に近いパラメータの最適値を得ることができる。また、パラメータの種類およびパラメータがとり得る候補値の数が少ない場合には、候補値のすべての組み合わせを一つずつ総当たりで確認していくことも不可能ではないが、これでは時間がかかりすぎてしまう。特に、パラメータの種類が増えていくと、候補値の組み合わせは指数的に増加していくため、現実的な時間内で確認を終えることは不可能となる。しかし、本実施形態に係る算出装置100は、ベイズ最適化を用いて最適値を予測する。このため、本実施形態に係る算出装置100によれば、最適値となる(よりオペレータの判断に近い)候補値の組み合わせを、より迅速に得ることができる。また、本実施形態に係る算出装置100によれば、パラメータの種類が多くても、最適値となる候補値の組み合わせを現実的な時間内で得ることが可能となる。
【0101】
また、この最適値を利用してシミュレーション条件を設定すれば、鋼材の製造ライン特有の条件を考慮したシミュレーションの精度向上を実現することができる。また、得られた最適値を、熟練オペレータの判断ノウハウと同等のものとして残しておけば、熟練オペレータの不在時等に未熟なオペレータがそれを利用することができる。また、このような構成によれば、シミュレータSの精度が向上することにより、生産ラインにおける各装置の動作効率が向上し、消費エネルギー量を低減することができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【実施例0102】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0103】
まず、上記シミュレータS(製造ライン)の第一後面クレーン17に、下記のようなジョブ選択条件(判断ルール)を設定した。
・第一後面バッファ15のコイル数≧第一後面バッファ15の収容能力-α本のときは第一後面バッファ15から第一後面置場14への搬送を優先する。
・第一後面バッファ15のコイル数<第一後面バッファ15の収容能力-α本のときは第一後面置場14から第一パレット32への搬送を優先する。
【0104】
そして、ジョブ選択条件中のαを、最適値を算出する対象のパラメータの一つとした。第一後面バッファ15の収容能力は5個であり、α=5では上記場合分けが成立しないため、αの取り得る値は0,1,2,3,4の5つとなる。
【0105】
また、第二前面クレーン26に、下記のようなジョブ選択条件(判断ルール)を設定した。
・第二前面バッファ23のコイル数≧第二前面バッファ23の収容能力-β本のときは、第一パレット32または第二パレット33から第二前面置場22への搬送を優先する。
・第二前面バッファ23のコイル数<第二前面バッファ23の収容能力-β本のときは、第二前面置場22から第二前面バッファ23への搬送を優先する。
【0106】
そして、ジョブ選択条件中のβを、最適値を算出する対象のもう一つのパラメータとした。第二前面バッファ23の収容能力は5個であり、β=5では上記場合分けが成立しないため、βの取り得る値は0,1,2,3,4の5つとなる。
【0107】
また、本実施例では、探索補助情報Iを事前に取得しておいた。本実施例に係るα、βはそれぞれ5つの値を取り得るため、探索補助情報Iは表5に示したような5×5=25のマトリクス状の数値群となる。また、本実施例では、探索を終了する基準となる基準値を3に設定した。
【0108】
【0109】
次に、シミュレータSの候補値の組み合わせ(α,β)を(0,0),(4,4)に設定して初回のシミュレーションを行い、コイルの滞留個数の予測値を算出した。また、製造ラインの判断ルールの(α,β)を(0,0),(4,4)に設定して初回のライン稼働を行い、コイルの滞留個数の実測値を得た。予測値および実測値に基づいてJ(x)を算出したところ、J(0,0)=110.62、J(4,4)=25.22となった。
【0110】
次に、得られたJ(x)のうち最小の方(J(4,4))、および獲得関数F2に基づいて、表6に示したような初回の獲得関数値群を算出した。なお、本実施例では、上記探索補助情報Iを加味して獲得関数値群を算出した。得られた獲得関数値群の中では、EI(4,3)=6.67が最大の獲得関数値であった。
【0111】
【0112】
次に、シミュレータSの(α,β)を(4,3)に設定して2回目のシミュレーションを行い、コイルの滞留個数の予測値を算出した。また、製造ラインの判断ルールの(α,β)を(4,3)に設定して2回目のライン稼働を行い、コイルの滞留個数の実測値を得た。予測値および実測値に基づいてJ(x)を算出したところ、J(4,3)=20.98となった。
【0113】
次に、得られたJ(4,3)、獲得関数F2、および探索補助情報Iに基づいて、表7に示したような2回目の獲得関数値群を算出した。得られた獲得関数値群の中では、EI(4,0)=3.70が最大の獲得関数値であった。
【0114】
【0115】
次に、シミュレータSの候補値の組み合わせ(α,β)を(4,0)に設定して3回目のシミュレーションを行い、コイルの滞留個数の予測値を算出した。また、製造ラインの判断ルールの(α,β)を(4,0)に設定して3回目のライン稼働を行い、コイルの滞留個数の実測値を得た。予測値および実測値に基づいてJ(x)を算出したところ、J(4,0)=20.89となった。
【0116】
次に、得られたJ(4,0)、獲得関数F2、および探索補助情報Iに基づいて、表8に示したような3回目の獲得関数値群を算出した。得られた獲得関数値群の中では、EI(4,1)=2.83が最大の獲得関数値であった。このとき、EI(4,1)が基準値の3を下回ったため、ここで探索完了とした。参考情報として、全ての候補値の組み合わせで探索したところ(α,β)を(4,0)に設定したときの評価関数値J(x)が最小となっていることを確認できた。このように、全ての候補値の組み合わせ(25通り)についてシミュレーションおよびライン稼働するよりも少ない回数(本実施例では3回)で最適値に到達することができた。
【0117】
【0118】
次に、新たな探索補助情報Iを算出した。既に算出済みのJ(0,0),J(4,4),J(4,3),J(4,0)を用いたガウス過程回帰により、これら以外の候補値の組み合わせについてJ(x)を算出し、表9に示したような評価関数値群を得た。そして、表9に示された評価関数値群を1-0に正規化し、表10に示したような探索補助情報Iを得た。
【0119】
【0120】
【0121】
表9は、次回の最適値の算出でα=4、β=1~3の範囲を探索すると効率良く探索できることを示している。
【0122】
〔ソフトウェアによる実現例〕
上記算出装置100の機能は、当該算出装置100としてコンピュータを機能させるためのパラメータ算出プログラムであって、当該算出装置100の各制御ブロック(特に制御部4に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのパラメータ算出プログラムにより実現することができる。この場合、上記算出装置100は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えば制御部4)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記パラメータ算出プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。上記パラメータ算出プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記算出装置100が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記パラメータ算出プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0123】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0124】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記算出装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0125】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。