(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012240
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】水平連続鋳造装置、アルミニウム合金鋳造棒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/04 20060101AFI20230118BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20230118BHJP
B22D 11/055 20060101ALI20230118BHJP
B22D 11/07 20060101ALI20230118BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20230118BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20230118BHJP
B22D 11/059 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
B22D11/04 114
B22D11/00 E
B22D11/055 Z
B22D11/04 311E
B22D11/04 311H
B22D11/07
B22D27/04 G
C22C21/06
B22D11/059 120A
B22D11/059 120Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115761
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳文
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AA02
4E004AC01
4E004BA03
4E004JA10
4E004KA03
4E004MC30
4E004NA03
4E004NB02
4E004NB03
4E004NB04
4E004NB06
4E004NC08
4E004SB03
4E004SB04
4E004SD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多量の潤滑油を供給しても鋳塊に焼き付きが生じることを防止して、鋳塊不良を低減することが可能な水平連続鋳造装置、およびアルミニウム合金鋳造棒の製造方法を提供する。
【解決手段】溶湯受部11内のアルミニウム合金溶湯Mを、中空部21の中心軸が水平方向に沿うように配置された中空の鋳型12でアルミニウム合金鋳造棒Bを製造する水平連続鋳造装置10において鋳型の一端側に配置され、鋳型の中空部に潤滑流体を供給する流体供給管22と、鋳型の中空部の内周面21aよりも外側に形成され、内周面を冷却する冷却水Wを収容する冷却水キャビティ24とを有し、内周面と、内周面に対向する冷却水キャビティの内底面とは互いに平行面を成し、内周面と、内底面との間の鋳型の冷却壁部27は、アルミニウム合金溶湯から冷却水に向かう単位面積当たりの熱流束が10×10
5W/m
2以上となるように形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯受部内のアルミニウム合金溶湯を、中空部の中心軸が水平方向に沿うように配置された中空の鋳型の一端側から該鋳型の中空部に供給してアルミニウム合金鋳造棒を製造する水平連続鋳造装置において、
前記鋳型の一端側に配置され、前記鋳型の中空部に潤滑流体を供給する流体供給管と、
前記鋳型の中空部の内周面よりも外側に形成され、該内周面を冷却する冷却水を収容する冷却水キャビティと、を有し、
前記内周面と、前記内周面に対向する前記冷却水キャビティの内底面とは、互いに平行面を成し、
前記内周面と、前記内底面との間の前記鋳型の冷却壁部は、前記アルミニウム合金溶湯から前記冷却水に向かう単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上となるように形成されることを特徴とする水平連続鋳造装置。
【請求項2】
前記熱流束値は、50×105W/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の水平連続鋳造装置。
【請求項3】
前記鋳型の冷却壁部の厚みは、0.5mm以上、3.0mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に水平連続鋳造装置。
【請求項4】
前記冷却水キャビティと前記鋳型の中空部とを連通させる冷却水噴射通路を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の水平連続鋳造装置。
【請求項5】
前記溶湯受部と、前記鋳型の一端側との間に断熱部材が配されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の水平連続鋳造装置。
【請求項6】
前記アルミニウム合金溶湯は、マグネシウムの含有量が0.5質量%以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の水平連続鋳造装置。
【請求項7】
前記アルミニウム合金溶湯の成分は、Si(含有率0.05~1.3質量%)、Fe(含有率0.1~0.7質量%)、Cu(含有率0.1~2.5質量%)、Mn(含有率0.05~1.1質量%)、Mg(含有率0.8~3.5質量%)、Cr(含有率0.04~0.4質量%)、およびZn(含有率0.05~8.0質量%以下)を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の水平連続鋳造装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の水平連続鋳造装置を用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法であって、
前記鋳型の一端側から前記中空部に前記合金溶湯を連続して供給するとともに、前記冷却水キャビティに冷却水を供給し、前記冷却壁部における単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上の条件で前記合金溶湯を冷却、凝固させてアルミニウム合金鋳造棒を製造することを特徴とするアルミニウム合金鋳造棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に配置された鋳型の中空部に合金溶湯を供給し、アルミニウム合金鋳造棒を連続して鋳造する水平連続鋳造装置、およびこれを用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、最近の輸送機器においては、その軽量化の要求から、アルミニウム合金部品の採用が多くなっている。このようなアルミニウム合金部品は、アルミニウム合金棒材を所定の長さに切断して鍛造用素材とし、その鍛造用素材を鍛造によって部品に成形することで得られる。そして、アルミニウム合金棒材は、例えば水平連続鋳造によって作製された素材に塑性加工や熱処理を施すことによって製造されている。
【0003】
この水平連続鋳造では一般に、次のような過程を経て金属溶湯から円柱状、角柱状あるいは中空柱状の長尺鋳塊を製造する。すなわち、金属溶湯を溜める溶湯受部に入った溶湯は、耐火物製の溶湯通路を通った後、ほぼ水平に設置された中空筒状の鋳型の中空部に入り、ここで強制冷却されて溶湯本体の外表面に凝固殻が形成される。さらに鋳型から引き出された鋳塊に水などの冷却剤が直接放射され、鋳塊内部まで金属の凝固が進行しつつ棒状の鋳塊が連続的に引き出される。
【0004】
こうした水平連続鋳造では、鋳型の入口側(一端側)の内周壁に供給管から潤滑油を注入し、金属溶湯が鋳型の中空部の内周壁に焼き付くことを防止している(例えば、特許文献1を参照)。水平連続鋳造において、特に焼き付きを生じやすい合金、例えばMgを含有するアルミニウム合金では、供給管から供給する潤滑油量を多くして焼き付きを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水平連続鋳造では、鋳塊の上面と下面にかかる重力の差により、鋳型の内周壁の下部壁面から上部壁面へと潤滑油は押し上げられる。また潤滑油の加熱により発生した分解ガスも上部壁面へと上昇する。このため、焼き付き防止用の潤滑油を多量に供給すると、過剰に気化した潤滑油のガスが鋳型の上部壁面に滞留し、溶湯と鋳型の抜熱を妨げる。
【0007】
これにより鋳塊の上部と下部とで冷却状態に違いが生じ、その結果、鋳塊の合金組織の上下差が大きくなる。合金組織の上下差が大きくなると、均一な合金組織の鋳塊と比較して、機械強度に上下差が生じる懸念がある。また、滞留した多量の潤滑油のガスと溶湯が接触して反応し、反応生成物、例えば炭化物が鋳塊の表面に巻き込まれる恐れがあり、その場合には、鋳塊表面の切削代が増加したり、製品として利用できない鋳塊が生じやすいという課題があった。
【0008】
この発明は上記に鑑み提案されたもので、多量の潤滑油を供給しても、鋳塊に焼き付きが生じることを防止して、鋳塊不良を低減することが可能な水平連続鋳造装置、およびこれを用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが潤滑油を多量に必要とする原因調査を行うために、鋳型の中空部内に合金溶湯が接触している内周面のうち、冷却水キャビティの内底面と対向している領域の温度測定を行った結果、この領域の壁面温度は180℃~200℃であることが確認され、この温度範囲で潤滑油量を減らすと、合金溶湯が固化した鋳塊に焼き付きが発生した。このため、鋳型の中空部の内周面と、冷却水キャビティの内底面との間の熱交換を適正に行うために、この領域の熱流束値を特定の範囲にすることにより、焼き付きを防止できるという新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、上述した知見に基づいてなされたものであって、本発明の水平連続鋳造装置は、溶湯受部内のアルミニウム合金溶湯を、中空部の中心軸が水平方向に沿うように配置された中空の鋳型の一端側から該鋳型の中空部に供給してアルミニウム合金鋳造棒を製造する水平連続鋳造装置において、前記鋳型の一端側に配置され、前記鋳型の中空部に潤滑流体を供給する流体供給管と、前記鋳型の中空部の内周面よりも外側に形成され、該内周面を冷却する冷却水を収容する冷却水キャビティと、を有し、前記内周面と、前記内周面に対向する前記冷却水キャビティの内底面とは、互いに平行面を成し、前記内周面と、前記内底面との間の前記鋳型の冷却壁部は、前記アルミニウム合金溶湯から前記冷却水に向かう単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上となるように形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、冷却水キャビティの内底面と鋳型の中空部の内周面とが対向する、鋳型の冷却壁部の単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上になるようにすることで、鋳造時に焼き付きが発生しやすい組成のアルミニウム合金の鋳造であっても、潤滑材反応生成物の発生を確実に抑制して、良好な品質のアルミニウム合金鋳造棒を製造することができる。
【0012】
また、本発明では、前記熱流束値は、50×105W/m2以下であってもよい。
【0013】
また、本発明では、前記鋳型の冷却壁部の厚みは、0.5mm以上、3.0mm以下の範囲であってもよい。
【0014】
また、本発明では、前記冷却水キャビティと前記鋳型の中空部とを連通させる冷却水噴射通路を有していてもよい。
【0015】
また、本発明では、前記溶湯受部と、前記鋳型の一端側との間に断熱部材が配されていてもよい。
【0016】
また、本発明では、前記アルミニウム合金溶湯は、マグネシウムの含有量が0.5質量%以上であってもよい。
【0017】
また、本発明では、前記アルミニウム合金溶湯の成分は、Si(含有率0.05~1.3質量%)、Fe(含有率0.1~0.7質量%)、Cu(含有率0.1~2.5質量%)、Mn(含有率0.05~1.1質量%)、Mg(含有率0.8~3.5質量%)、Cr(含有率0.04~0.4質量%)、およびZn(含有率0.05~8.0質量%以下)を含んでいてもよい。
【0018】
本発明のアルミニウム合金鋳造棒の製造方法は、前記各項に記載の水平連続鋳造装置を用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法であって、前記鋳型の一端側から前記中空部に前記合金溶湯を連続して供給するとともに、前記冷却水キャビティに冷却水を供給し、前記冷却壁部における単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上の条件で前記合金溶湯を冷却、凝固させてアルミニウム合金鋳造棒を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多量の潤滑油を供給しても、鋳塊に焼き付きが生じることを防止して、鋳塊不良を低減することが可能な水平連続鋳造装置、およびこれを用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の水平連続鋳造装置の鋳型付近の一例を示す要部概略断面図である。
【
図2】
図1の冷却水キャビティ付近を示す要部拡大断面図である。
【
図3】本発明に係る冷却壁部の熱流束を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の水平連続鋳造装置、およびアルミニウム合金鋳造棒の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
最初に、本実施形態の水平連続鋳造装置によって製造されるアルミニウム合金鋳造棒の一例について説明する。アルミニウム合金鋳造棒は、中心軸がほぼ水平(ほぼ水平とは、横方向のことである。)となるよう保持され、冷却手段を備えた中空の筒状鋳型を用いる水平連続鋳造法で製造され、直径が、例えば10mm~100mmの範囲とすることができる。
【0023】
アルミニウム合金鋳造棒は、こうした直径範囲以外でも対応は可能であるが、工業的に後工程の塑性加工、例えば、鍛造、ロールフォージング、引抜き加工、転動加工、インパクト加工等の設備を小規模、かつ、安価とするため、直径を10mm~100mmの範囲にするのが好ましい。直径を変更して鋳造する場合は、直径に対応する内径を有する着脱可能な筒状鋳型に交換し、それに合わせて溶湯温度、鋳造速度を変更することで対応可能である。冷却水量、潤滑油量の設定も必要に応じて変更すればよい。
【0024】
こうしたアルミニウム合金鋳造棒は、例えば、後工程の塑性加工、例えば、鍛造、ロールフォージング、引抜き加工、転動加工、インパクト加工等の素材として用いられる。あるいは、バーマシニングやドリリング加工などの機械加工等の素材として用いることもできる。
【0025】
次に本発明の一実施形態の水平連続鋳造装置について説明する。
図1は本発明の水平連続鋳造装置の鋳型付近の一例を示す断面図である。
本実施形態の水平連続鋳造装置10は、溶湯受部(タンディッシュ)11と、中空筒状の鋳型12と、この鋳型12の一端側12aと溶湯受部11との間に配される耐火物製板状体(断熱部材)13と、を有している。
【0026】
溶湯受部11は、外部の溶解炉等によって規定の合金成分に調整されたアルミニウム合金溶湯(以下、合金溶湯と称する)Mを受ける溶湯流入部11a、溶湯保持部11b、鋳型12の中空部21への流出部11cから構成されている。溶湯受部11は、合金溶湯Mの上液面のレベルを鋳型12の中空部21の上面よりも高い位置に維持し、かつ、多連鋳造の場合には、それぞれの鋳型12に合金溶湯Mを安定的に分配するものである。
【0027】
溶湯受部11内の溶湯保持部11bに保持された合金溶湯Mは、耐火物製板状体13に設けられた注湯用通路13aから鋳型12の中空部21内に注湯される。そして、中空部21内に供給された合金溶湯Mは、後述する冷却装置23によって冷却されて固化し、凝固鋳塊であるアルミニウム合金鋳造棒Bとして、鋳型12の他端側12bから引き出される。
【0028】
鋳型12の他端側12bには、鋳造されたアルミニウム合金鋳造棒Bを一定速度で引き出す引出駆動装置(図示略)が設置されていればよい。また、連続して引き出されたアルミニウム合金鋳造棒Bを任意の長さに切断する同調切断機(図示略)が設置されていることも好ましい。
【0029】
耐火物製板状体13は、溶湯受部11と鋳型12との間の熱移動を遮断する部材であり、例えば、ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカ、アルミナとシリカの混合物、窒化珪素、炭化珪素、グラファイト等の材料で構成されていても良い。こうした耐火物製板状体13は、互いに構成材料の異なる複数の層から構成することもできる。
【0030】
鋳型12は、本実施形態では中空円筒状の部材であり、例えば、アルミニウム、銅、もしくはそれらの合金から選ばれる1種または2種以上の組み合わせた材料から形成されている。こうした鋳型12の材料は、熱伝導性、耐熱性、機械強度の点から最適な組み合わせを選択すればよい。
【0031】
鋳型12の中空部21は、鋳造するアルミニウム合金鋳造棒Bを円筒棒状にするために断面円形に形成されており、この中空部21の中心を通る鋳型中心軸(中心軸)Cがほぼ水平方向に沿うように鋳型12が保持されている。
【0032】
鋳型12の中空部21の内周面21aは、アルミニウム合金鋳造棒Bの引出し方向に向けて鋳型中心軸Cに対して0度~3度(より好ましくは0度~1度。)の仰角で形成されている。すなわち、内周面21aは引き出し方向に向かってコーン状に開いたテーパー状に構成されている。そしてそのテーパーのなす角度が仰角である。
【0033】
仰角が0度未満ではアルミニウム合金鋳造棒Bが鋳型12から引き出される際に鋳型出口である他端側12bで抵抗を受けるために鋳造が困難になる。一方、仰角が3度を越えると、内周面21aの合金溶湯Mへの接触が不充分になり、合金溶湯Mやこれが冷却固化した凝固殻から鋳型12への抜熱効果が低下することによって凝固が不十分になる懸念がある。その結果、アルミニウム合金鋳造棒Bの表面に再溶融肌が生じ、または、アルミニウム合金鋳造棒Bの端部から未凝固の合金溶湯Mが噴出するなどの鋳造トラブルにつながる可能性が高くなるので好ましくない。
【0034】
なお、鋳型12の中空部21の断面形状(鋳型12の中空部21を他端側21bから見たときの平面形状)は、本実施形態の円形以外にも、例えば、三角形や矩形断面形状、多角形、半円、楕円もしくは対称軸や対称面を持たない異形断面形状を有した形状など、鋳造するアルミニウム合金鋳造棒の形状に合わせて選択されればよい。
【0035】
鋳型12の一端側12aには、鋳型12の中空部21内に潤滑流体を供給する流体供給管22が配置されている。流体供給管22から供給される潤滑流体としては、気体潤滑材、液体潤滑材から選ばれるいずれか1種または2種以上の潤滑流体とすることができる。気体潤滑材と液体潤滑材を両方供給する場合には、それぞれ流体供給管を別々に設けることが好ましい。流体供給管22から加圧供給された潤滑流体は、環状の潤滑材供給口22aを通って鋳型12の中空部21内に供給される。
【0036】
本実施形態では、圧送された潤滑流体が潤滑材供給口22aから鋳型12の内周面21aに供給される。なお、液体潤滑材は加熱されて分解気体となって、鋳型12の内周面21aに供給される構成であってもよい。また、潤滑材供給口22aに多孔質材料を配して、この多孔質材料を介して潤滑流体を鋳型12の内周面21aに滲出させる構成であってもよい。
【0037】
鋳型12の内部には、合金溶湯Mを冷却、固化させる冷却手段である冷却装置23が形成されている。本実施形態の冷却装置23は、鋳型12の中空部21の内周面21aを冷却するための冷却水Wを収容する冷却水キャビティ24と、この冷却水キャビティ24と鋳型12の中空部21とを連通させる冷却水噴射通路25とを有している。
【0038】
冷却水キャビティ24は、鋳型12の内部で中空部21の内周面21aよりも外側に、中空部21を取り巻くように環状に形成され、冷却水供給管26を介して冷却水Wが供給される。
鋳型12は、冷却水キャビティ24に収容される冷却水Wによって内周面21aが冷却されることにより、鋳型12の中空部21内に充満した合金溶湯Mの熱を鋳型12の内周面21aに接触する面から奪って、合金溶湯Mの表面に凝固殻を形成させる。
【0039】
また、冷却水噴射通路25は、中空部21に臨むシャワー開口25aから、鋳型12の他端側12bにおいてアルミニウム合金鋳造棒Bに向けて直接、冷却水を当ててアルミニウム合金鋳造棒Bを冷却する。こうした冷却水噴射通路25の縦断面形状は、本実施形態の円状以外にも、例えば、半円、洋ナシ形状、馬蹄形状であってもよい。
【0040】
なお、本実施形態では、冷却水供給管26を介して供給される冷却水Wをまず冷却水キャビティ24に収容して鋳型12の中空部21の内周面21aの冷却を行い、さらに冷却水キャビティ24の冷却水Wを冷却水噴射通路25からアルミニウム合金鋳造棒Bに向けて噴射しているが、これらをそれぞれ別系統の冷却水供給管によって供給する構成にすることもできる。
【0041】
冷却水噴射通路25のシャワー開口25aの中心軸の延長線が、鋳造されたアルミニウム合金鋳造棒Bの表面に当たる位置から、鋳型12と耐火物製板状体13との接触面までの長さを有効モールド長Lと称し、この有効モールド長Lは、例えば、10mm~40mmであるのが好ましい。この有効モールド長Lが、10mm未満では、良好な皮膜が形成されない等から鋳造不可となり、40mmを超えると、強制冷却の効果が無く、鋳型壁による凝固が支配的になって、鋳型12と合金溶湯Mもしくはアルミニウム合金鋳造棒Bとの接触抵抗が大きくなって、鋳肌に割れが生じたり、鋳型内部で千切れたりする等、鋳造が不安定になるので好ましくない。
【0042】
これら冷却水キャビティ24への冷却水の供給や、冷却水噴射通路25のシャワー開口25aからの冷却水の噴射は、制御装置(図示略)からの制御信号によってそれぞれ動作を制御できることが好ましい。
【0043】
冷却水キャビティ24は、鋳型12の中空部21寄りの内底面24aが、鋳型12の中空部21の内周面21aに対して、互いに平行面になるように形成されている。なお、ここでいう平行とは、冷却水キャビティ24の内底面24aに対して、鋳型12の中空部21の内周面21aが0度~3度の仰角で形成されている場合、すなわち、内底面24aが内周面21aに対して0度を超えて3度まで傾斜している場合も含む。
【0044】
図2に示すように、こうした冷却水キャビティ24の内底面24aと鋳型12の中空部21の内周面21aとが対向する部分である鋳型12の冷却壁部27は、中空部21の合金溶湯Mから冷却水キャビティ24の冷却水Wに向かう単位面積当たりの熱流束値が10×10
5W/m
2以上、50×10
5W/m
2以下の範囲になるように形成されている。
【0045】
こうした鋳型12の冷却壁部27の厚みt、即ち冷却水キャビティ24の内底面24aと鋳型12の中空部21の内周面21aとの間隔が、例えば、0.5mm以上、3.0mm以下、好ましくは0.5mm以上、2.5mm以下の範囲になるように鋳型12が形成されていればよい。また、鋳型12の少なくとも冷却壁部27の熱伝導率が100W/m・K以上、400W/m・K以下の範囲なるように、鋳型12の形成材料が選択されればよい。
【0046】
本発明の水平連続鋳造装置の作用について説明する。
図1において、溶湯受部11中の合金溶湯Mは、耐火物製板状体13を経て鋳型中心軸Cがほぼ水平になるように保持された鋳型12の一端側12aから供給され、鋳型12の他端側12bで強制冷却されてアルミニウム合金鋳造棒Bとなる。アルミニウム合金鋳造棒Bは鋳型12の他端側12b近くに設置された引出駆動装置(図示略)によって一定速度で引き出されるため、連続的に鋳造されて長尺のアルミニウム合金鋳造棒Bが形成される。引き出されたアルミニウム合金鋳造棒Bは、例えば、同調切断機(図示略)によって所望の長さに切断される。
【0047】
溶湯受部11内に貯留するアルミニウム合金の合金溶湯Mの組成は、例えばSi(含有率0.05~1.3質量%)、Fe(含有率0.10~0.70質量%)、Cu(含有率0.1~2.5質量%)、Mn(含有率0.05~1.1質量%)、Mg(含有率0.5~3.5質量%)、Cr(含有率0.04~0.4質量%)、およびZn(含有率0.05~8.0質量%以下)を含むものとする。Mgの含有率は好ましくは0.8~3.5質量%である。
【0048】
また、例えばSi(含有率0.05~1.3質量%)、Fe(含有率0.1~0.7質量%)、Cu(含有率0.1~2.5質量%)、Mn(含有率0.05~1.1質量%)、Mg(含有率0.5~3.5質量%)、Cr(含有率0.04~0.4質量%)、およ
びZn(含有率0.05~8質量%以下)を含むものとする。Mgの含有率は好ましくは0.8~3.5質量%である。
【0049】
鋳造したアルミニウム合金鋳造棒Bの組成比は、例えば、JIS H 1305に記載されているような光電測光式発光分光分析装置(装置例:日本島津製作所製PDA-5500)による方法で確認できる。
【0050】
溶湯受部11内に貯留された合金溶湯Mの液面レベルの高さと、鋳型12の上側の内周面21aとの高さの差は、0mm~250mm(より好ましくは50mm~170mm。)とするのが好ましい。こうした範囲にすることで、鋳型12内に供給される合金溶湯Mの圧力と潤滑油および潤滑油が気化したガスとが好適にバランスするために鋳造性が安定する。
【0051】
液体潤滑材は、潤滑油である植物油を用いることができる。例えば、菜種油、ひまし油、サラダ油を挙げることができる。これらは環境への悪影響が小さいので好ましい。
【0052】
潤滑油供給量は0.05mL/分~5mL/分(より好ましくは0.1mL/分~1mL/分。)であるのが好ましい。供給量が過少だと、潤滑不足によってアルミニウム合金鋳造棒Bの合金溶湯が固まらずに鋳型から漏れる恐れがある。供給量が過多だと、余剰分がアルミニウム合金鋳造棒B中に混入して内部欠陥となる恐れがある。
【0053】
鋳型12からアルミニウム合金鋳造棒Bを引抜く速度である鋳造速度は200mm/分~1500mm/分(より好ましくは400mm/分~1000mm/分。)であるのが好ましい。それは、この範囲の鋳造速度であれば、鋳造で形成される晶出物のネットワーク組織が均一微細となり、高温下でのアルミニウム生地の変形に対する抵抗が増し、高温機械的強度が向上するためである。
【0054】
冷却水噴射通路25のシャワー開口25aから噴射される冷却水量は鋳型当り10L/分~50L/分(より好ましくは25L/分~40L/分。)であるのが好ましい。冷却水量がこれよりも少ないと、合金溶湯が固まらずに鋳型から漏れる恐れがある。また、鋳造したアルミニウム合金鋳造棒Bの表面が再溶融して不均一な組織が形成され、内部欠陥として残存する恐れがある。一方、冷却水量がこの範囲よりも多い場合、鋳型12の抜熱が大き過ぎて途中で凝固してしまう恐れがある。
【0055】
溶湯受部11内から鋳型12へ流入する合金溶湯Mの平均温度は、例えば、650℃~750℃(より好ましくは680℃~720℃。)であるのが好ましい。合金溶湯Mの温度が低すぎると、鋳型12およびその手前で粗大な晶出物を形成してアルミニウム合金鋳造棒Bの内部に内部欠陥として取り込まれる。一方、合金溶湯Mの温度が高すぎると、合金溶湯255中に大量の水素ガスが取り込まれやすく、アルミニウム合金鋳造棒B中にポロシティーとして取り込まれ、内部の空洞となる恐れがある。
【0056】
そして、本実施形態のように、鋳型12の冷却壁部27において、中空部21の合金溶湯Mから冷却水キャビティ24の冷却水Wに向かう単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上、50×105W/m2以下の範囲にすることによって、アルミニウム合金鋳造棒Bの焼き付きが発生することを防止できる。
【0057】
鋳型12の冷却壁部27は、合金溶湯Mからの抜熱によって熱を受け、この熱を冷却水キャビティ24に収容される冷却水Wで冷却することで熱交換を行っているが、この熱交換の状態について、
図3に示す説明図のように、単位面積あたりの熱流束に着目した。
単位面積あたりの熱流束は、フーリエの法則にて以下の式(1)で表される。
Q=-k×((T1-T2/L)・・・(1)
Q:熱流束
k:熱を通過する箇所(本実施形態では鋳型12の冷却壁部27)の熱伝導率(W/m・K)
T1:熱が通過する箇所の低温側温度(本実施形態では冷却水キャビティ24の内底面24a)
T2:熱が通過する箇所の高温側温度(本実施形態では鋳型12の中空部21の内周面21a)
L:熱が通過する箇所の区間長さ(mm) (本実施形態では鋳型12の冷却壁部27の厚みt)
【0058】
鋳造時に潤滑油量を減らしても良好な結果が得られた鋳型材質、厚み、測温データに基づいて、単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上になるように鋳型12の冷却壁部27を構成することで、鋳造したアルミニウム合金鋳造棒Bの焼き付きを防止することができる。また、単位面積当たりの熱流束値が50×105W/m2以下にすることが好ましい。
【0059】
鋳型12の冷却壁部27をこうした熱流束値の範囲にするために、鋳型12の冷却壁部27の厚みtを例えば、0.5mm以上、3.0mm以下の範囲になるように鋳型12を形成すればよい。また、鋳型12の少なくとも冷却壁部27の熱伝導率を100W/m・K以上、400W/m・K以下の範囲にすればよい。
【0060】
本発明の一実施形態のアルミニウム合金鋳造棒の製造方法は、上述した水平連続鋳造装置を用いて、溶湯受部11内に貯留された合金溶湯Mを、鋳型12の一端側12aから中空部21内に連続して供給する。また、冷却水キャビティ24に冷却水Wを供給するとともに、流体供給管22から潤滑流体、例えば潤滑油を供給する。
【0061】
そして、中空部21内に供給された合金溶湯Mを、冷却壁部27における単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上の条件で冷却、凝固させてアルミニウム合金鋳造棒Bを鋳造する。また、アルミニウム合金鋳造棒Bを鋳造時において、冷却水Wによって冷却される鋳型12の冷却壁部27の壁面温度を100℃以下にすることが好ましい。
【0062】
こうして得られるアルミニウム合金鋳造棒Bは、冷却壁部27における単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上の条件で冷却、凝固させることによって、潤滑油のガスと合金溶湯Mとの接触による反応生成物、例えば炭化物の固着が抑制される。これにより、アルミニウム合金鋳造棒Bの表面の炭化物等を切削除去する必要が無く、高収率でアルミニウム合金鋳造棒Bを製造することができる。
【0063】
以上のように、本実施形態の水平連続鋳造装置、およびこれを用いたアルミニウム合金鋳造棒の製造方法によれば、冷却水キャビティ24の内底面24aと鋳型12の中空部21の内周面21aとが対向する、鋳型12の冷却壁部27の単位面積当たりの熱流束値が10×105W/m2以上になるようにすることで、鋳造時に焼き付きが発生しやすいアルミニウム合金、例えば、マグネシウムを0.5質量%以上(好ましくは0.8質量%以上)含有するアルミニウム合金の鋳造であっても、潤滑材反応生成物の発生を確実に抑制して、良好な品質のアルミニウム合金鋳造棒Bを製造することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0065】
本発明の効果を検証した。
検証にあたっては、
図1に示す構造の水平連続鋳造装置10を用いて、鋳型12の構成材料、冷却壁部27の厚さを変えた実施例1~4、および比較例1、2の条件で、それぞれの冷却壁部27の単位面積当たりの熱流束を算出するとともに、鋳造したアルミニウム合金鋳造棒Bの焼き付きの有無を目視で確認した。合金溶湯は、マグネシウムを0.5質量%含有するアルミニウム合金を用いた。
こうした検証結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示す結果によれば、冷却壁部27の厚さを0.5mm~2mmとして、この冷却壁部27の単位面積当たりの熱流束を10×105W/m2以上にすることによって、鋳造したアルミニウム合金鋳造棒Bの焼き付きの発生を防止できることが確認された。