(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122409
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の正極の処理方法、および成形体
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20230825BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230825BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20230825BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/66 A
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026089
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】大澤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁
【テーマコード(参考)】
5H017
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE05
5H031AA00
5H031BB02
5H031BB03
5H031EE02
5H031HH03
5H031RR02
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050DA08
5H050DA11
5H050EA10
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】低コストで正極の還元反応を促進させることができる非水電解液二次電池の正極の処理方法、および成形体を提供する。
【解決手段】非水電解液二次電池の正極の処理方法は、Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、前記正極を準備する準備工程S10と、前記正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程S11と、前記加熱処理が行われた前記正極を圧縮成形して成形体を成形する圧密工程S12と、前記箔と前記活物質との反応熱により前記成形体を溶融して溶融物を得る溶融工程S13と、前記溶融物を、前記金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとに分離する分離工程S14とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、
前記正極を準備する準備工程と、
前記正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程と、
前記加熱処理が行われた前記正極を圧縮成形して成形体を成形する圧密工程と、
前記箔と前記活物質との反応熱により前記成形体を溶融して溶融物を得る溶融工程と、
前記溶融物を、前記金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとに分離する分離工程と
を有する非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項2】
前記圧密工程は、バインダーを添加せずに前記正極を圧縮成形する請求項1に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項3】
前記加熱工程に供される前記正極はバインダーを含み、
前記加熱処理は、前記バインダーを分解する温度で加熱を行う請求項1または2に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項4】
前記正極は、正極製造工程で生じる工程屑、未使用の非水電解液二次電池の正極、使用済みの非水電解液二次電池の正極のいずれかである請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項5】
Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する、非水電解液二次電池の正極が圧縮成形された構成を有し、バインダーの含有量が1質量%以下である成形体。
【請求項6】
カーボンの濃度が0.7wt%以下である請求項5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の正極の処理方法、および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電源として用いられており、近年、急激に需要が高まっている。非水電解液二次電池の需要増加に伴い、使用済み非水電解液二次電池、不良品非水電解液二次電池、製造工程で生じる工程屑の量も増加傾向にある。非水電解液二次電池の電極、特に正極にはニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の有価物が含まれている。資源の有効利用のために、非水電解液二次電池から、Ni、Co等の有価物を回収する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、二次電池廃品からコバルトを回収する方法として、電池廃品を600℃以上で焙焼した後、裁断、篩分け、磁選、酸溶解してコバルトを回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された回収方法では、焙焼後に磁選や酸溶解などの工程が必要であるので、リサイクルコストが高くなるという課題がある。
【0006】
金属複合酸化物からなる正極活物質から有価物を含む金属を回収する方法の一つとして「テルミット法」がある。テルミット法は、粉末状態の原料を用いるのが一般的であり、正極金属箔をそのままの状態でテルミット反応させようとすると高周波誘導溶解炉等を用いた高温での外部加熱が必要となり、低コスト化の障壁となっている。また、テルミット法では、連続処理ができず、バッチ処理となるため、1バッチあたりの処理量が少ないとコストが増大するという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、低コストで正極の還元反応を促進させることができる非水電解液二次電池の正極の処理方法、および成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法は、Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、前記正極を準備する準備工程と、前記正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱処理が行われた前記正極を圧縮成形して成形体を成形する圧密工程と、前記箔と前記活物質との反応熱により前記成形体を溶融して溶融物を得る溶融工程と、前記溶融物を、前記金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとに分離する分離工程とを有する。
【0009】
本発明に係る成形体は、Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する、非水電解液二次電池の正極が圧縮成形された構成を有し、バインダーの含有量が1質量%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱処理が行われた正極を圧縮成形することにより、かさ密度が向上した成形体を溶融工程に供するので、低コストで正極活物質の還元反応を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法に使用される非水電解液二次電池の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法を説明するフローチャートである。
【
図3】正極の圧縮成形時の荷重とかさ密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法に使用される非水電解液二次電池10の斜視図である。非水電解液二次電池10は、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車の電源として利用された使用済みのリチウムイオン二次電池である。以下の説明では非水電解液二次電池10がリチウムイオン二次電池である場合を例に説明するが、非水電解液二次電池10としては、リチウムイオン二次電池に限定されず、マグネシウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池等でも良い。非水電解液二次電池10は、使用済みのものに限られず、製造後に不良が確認された未使用の非水電解液二次電池でも良い。また、本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法に使用される正極は、使用済みの非水電解液二次電池から取り出した正極、未使用の非水電解液二次電池から取り出した正極、非水電解液二次電池の製造工程における工程屑(例えば電極体の不良品等)から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑等でも良い。
【0014】
非水電解液二次電池10は、セル容器12に、電極体(図示せず)と非水電解液(図示せず)とを備える。セル容器12は、例えばアルミニウム合金製である。セル容器12は、容器本体14および蓋体16を含む。容器本体14と蓋体16とは、レーザー溶接されている。容器本体14は、有底角筒状に形成されており、内部に電極体と非水電解液とを収容する。蓋体16は、容器本体14の開口に設けられ、容器本体14を密閉する。蓋体16には、安全弁18、正極端子20、および負極端子22が設けられている。安全弁18は、非水電解液二次電池10の内部の圧力を低下させるためのものである。正極端子20は、正極リード(図示せず)を介して、後述する正極と接続している。負極端子22は、負極リード(図示せず)を介して、後述する負極と接続している。
【0015】
電極体は、セパレータ(図示せず)を介して捲回された正極(図示せず)と負極(図示せず)とを含む。電極体は、上記のような捲回型である場合に限られず、正極、負極、およびセパレータを積層した積層型でも良い。
【0016】
正極は、正極集電体および正極活物質層を有する。正極集電体はアルミニウム(Al)を含む箔(以下、Al箔とも言う)である。正極における正極集電体の質量比は、5~25質量%である。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、および導電材を含む。正極活物質層における導電材、バインダーの質量比は、それぞれ正極の0~30質量%、0~20質量%である。
【0017】
正極活物質としては、ニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)を含有する任意の金属複合酸化物を用いることができる。例えば、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等から選択することができる。本実施形態においては、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。なお、正極活物質は、マグネシウムイオン二次電池の場合は任意のマグネシウム複合酸化物を用いることができ、ナトリウムイオン二次電池の場合は任意のナトリウム複合酸化物を用いることができ、カリウムイオン二次電池の場合は任意のカリウム複合酸化物を用いることができ、カルシウムイオン二次電池の場合は任意のカルシウム複合酸化物を用いることができる。
【0018】
バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素化合物を含むフッ素系バインダーである。バインダーとしては、フッ素系バインダーに限られず、ポリイミド系バインダー、SBR(スチレンブタジエンゴム)系バインダー、無機系バインダー等でも良い。導電材は、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料である。
【0019】
負極は、負極集電体および負極活物質層を有する。例えば、負極集電体は銅(Cu)箔であり、負極活物質は黒鉛である。セパレータとしては、一般的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製の多孔質膜または不織布が用いられる。
【0020】
非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解可能なリチウム塩(電解質)とを含む。非水溶媒としては、カーボネート類、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が用いられる。これらの非水溶媒は、1種類単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
電解質としては、フッ素化合物を含むもの、例えば、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF4(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等が用いられる。これらの電解質は、1種類単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
図2に示すように、非水電解液二次電池10の正極の処理方法は、Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、正極を準備する準備工程S10と、正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程S11と、加熱処理が行われた正極を圧縮成形して成形体を成形する圧密工程S12と、箔と活物質との反応熱により成形体を溶融して溶融物を得る溶融工程S13と、溶融物を、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとに分離する分離工程S14とを有する。ここで、「箔と活物質との反応」とは、金属Alである正極集電体と金属酸化物である正極活物質との混合物を反応させた際に、金属Alにより金属酸化物を還元しながら高熱を発生する酸化還元反応であり、テルミット反応とも言う。正極が圧縮成形された成形体は、箔と活物質との反応熱によって自己発熱する。「自己発熱」とは、成形体に対し外部の加熱手段(例えば、高周波誘導溶解炉)から熱エネルギーが付与されなくても、箔と活物質との反応熱によって自己の温度が上昇することを意味する。各工程について、以下に詳細な説明を行う。
【0023】
[準備工程]
準備工程S10では、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより、シート状の正極を準備する。シート状の正極は、次工程である加熱工程S11に供される。なお、準備工程S10では、非水電解液二次電池10を放電させる放電工程、放電させた非水電解液二次電池10のセル容器12内を洗浄液で洗浄するセル内洗浄工程等を行っても良い。準備工程S10で準備する正極は、本実施形態では使用済みの非水電解液二次電池10から取り出した正極であるが、これに限られず、未使用の非水電解液二次電池から取り出した正極、非水電解液二次電池の製造工程における工程屑から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑でも良い。準備工程S10は、正極のみを準備することが好ましい。後述の溶融工程S13において、正極以外の部材(セル容器12、セパレータ、負極等)が含まれていると、テルミット反応が阻害されるからである。
【0024】
[加熱工程]
加熱工程S11は、準備工程S10で得られたシート状の正極に対し加熱処理を行う。加熱処理がされた正極は次工程である圧密工程S12に供される。加熱処理により、溶融工程S13におけるテルミット反応が促進され、後述する成形体を溶融し活物質を還元することが可能となる。
【0025】
加熱処理について説明する。加熱処理に用いる加熱装置は、加熱炉、加熱部、温度計、ガス供給部、流量計、および制御部を有する。加熱炉は、正極を収容するための内部空間を有する。加熱部は、加熱炉内に配置された正極を加熱する。温度計は、加熱炉内の温度を測定する。ガス供給部は、加熱炉内に酸素を含むガス(この例では空気)を供給し、加熱炉内を酸素を含む雰囲気とする。流量計は、加熱炉内の空気の流量を測定する。制御部は、温度計の測定結果に基づき加熱部を制御し、加熱炉内を所定の昇温速度で昇温させ、予め設定された加熱温度に制御する。制御部は、流量計の測定結果に基づきガス供給部を制御し、加熱炉内に供給する空気の流量を制御する。制御部は、加熱温度および流量が所定の時間維持されるように、加熱部とガス供給部とを制御する。加熱温度および流量を維持する時間を「キープ時間」と言う。なお、上記の加熱装置は一例である。このため、加熱装置の構成は、上記の構成に限定されず、適宜設計することができる。
【0026】
加熱処理は、準備工程S10で準備した正極を加熱装置に投入し、予め設定された加熱温度で、予め設定されたキープ時間が経過するまで、酸素を含む雰囲気で正極を加熱する。
【0027】
加熱処理は、Al箔が酸化しない温度で加熱を行うことが好ましい。加熱温度が高すぎるとAlが酸化し、溶融工程S13におけるテルミット法、すなわち箔と活物質との反応熱による反応において、Al箔を還元剤として使用できなくなるからである。また、Al箔の表面を覆うようにアルミナが生成する場合は、活物質とAlとの接触を妨げ、反応を阻害する。Al箔が酸化しない温度で加熱処理を行うことにより、還元剤として使用できるAlを含む正極を圧密工程S12に供することができる。
【0028】
加熱処理は、バインダーを分解する温度で行うことが好ましい。加熱温度が低すぎると、バインダーの分解が不十分となり、正極にバインダーが残留する。正極にバインダーが残留した場合、溶融工程S13において、バインダーの熱分解およびその後の酸化によりH2O、CO2やCO等の水素や炭素の酸化物のガスが発生し、テルミット反応が阻害される。テルミット反応を阻害するガスを反応阻害ガスと称する。また、発生したガスが急激に膨張して溶湯が噴き出したり爆発する場合があり、危険である。バインダーを分解する温度で加熱処理を行うことにより、バインダーが除去された後述の成形体を溶融工程S13に供することができる。加熱工程S11では、正極に含まれていたバインダーを完全に除去することが望ましいが、正極に含まれていたバインダーの一部が僅かに残留していても良い。また、加熱処理は、導電材を酸化除去する温度で行うことが好ましい。
【0029】
加熱処理は、400℃以上650℃以下で加熱を行うことが好ましい。加熱温度を400℃以上650℃以下とすることにより、バインダーが確実に分解されるとともに、導電材が酸化除去される。更に、Al箔の酸化を抑制できる。アルミニウムの融点である660℃以上の加熱温度で正極の加熱処理が行われた場合、Al箔の酸化被膜が破れて酸化反応が進みやすくなると考えられる。また、加熱温度が高すぎると、金属Alと活物質との間にアルミナが形成され、Al箔と正極活物質との密着部分が減少し、テルミット反応が阻害される。更に、正極集電体のAlが還元剤となって意図せぬテルミット反応が起きる場合があり、危険である。加熱処理は、より好ましくは450℃以上600℃以下であり、更により好ましくは500℃以上600℃未満である。
【0030】
正極中の、バインダーや導電材に由来するカーボンの濃度は、加熱処理により低減させることができる。加熱処理後の正極中のカーボンの濃度(質量割合)は、好ましくは0.7wt%以下であり、より好ましくは0.5wt%以下、更に好ましくは0.4wt%以下である。
【0031】
なお、加熱処理に供される正極は、シート状のものでも良いし、例えばシュレッダー等を用いて細い帯状に切断したものや、破砕機で1mm~2mm程度に裁断したものでも良く、粉状となったものが含まれていても構わない。裁断することにより、加熱処理時間の短縮が期待される。ただし、加熱装置に供する正極の大きさに応じて加熱条件を設定する観点からすれば、ある程度大きさが揃っている正極が好ましい。なお、加熱条件はAl箔が酸化されない温度を上限、バインダーや導電材が充分に分解・除去される温度を下限とするものである。また、ロータリーキルン等の加熱処理を連続的に行うことができる加熱装置を用いる場合は、当該加熱装置に連続的に投入可能な大きさの正極であれば良い。一方、裁断すると、その分、かさ密度が低下してしまう。本発明はかさ密度を向上させるものであり、この課題に対処できるものである。
【0032】
加熱工程S11を行った正極に助燃剤を混合し、助燃剤が混合された正極を次工程である圧密工程S12に供しても良い。助燃剤としては、例えば、AlとNaClO3(塩素酸ナトリウム)とを含む粉末が用いられる。正極に助燃剤を混合することにより、溶融工程S13において成形体の燃焼が促進され、テルミット反応をより促進することができる。
【0033】
[圧密工程]
圧密工程S12は、加熱工程S11で加熱処理された正極に対し圧密処理を行うことにより、Alを含む箔と金属複合酸化物としての活物質とを有する正極が圧縮成形された構成を有する成形体を成形する。成形体は、次工程である溶融工程S13に供される。圧密処理は、正極を圧縮し、高密度化する処理である。圧密処理により正極を圧縮することで、かさ密度が向上し、次工程である溶融工程S13における1バッチあたりの処理量を増大させることができる。かさ密度の増大に伴い、溶融工程S13におけるテルミット反応時の単位体積あたりの発熱量が増大する。正極を圧縮成形することにより、Al箔と正極活物質との距離が小さくなり、Al箔と正極活物質との接触面積が大きくなるので、溶融工程S13におけるテルミット反応が促進される。正極が圧縮成形された成形体は、溶融工程S13において、テルミット反応時の単位体積あたりの発熱量が増大し、テルミット反応が促進され、金属材料の収率及び純度を向上させることができる。圧密処理により成形された成形体は崩れにくいので、シート状の正極や粉末状の正極と比べ、移動や保管時等の取り扱いが容易となる。圧密工程S12では、油圧プレス機、ローラーコンパクター、ブリケットマシン等の一般的な圧縮装置を用いて、正極を圧縮成形することができる。
【0034】
圧密工程S12は、バインダーを添加せずに、正極を圧縮成形することが好ましい。溶融工程S13においてバインダーを添加した場合には、添加されたバインダーの熱分解およびその後の酸化により反応阻害ガスが発生し、テルミット反応が阻害される。また、発生したガスが急激に膨張して溶湯が噴き出したり爆発する場合があり、危険である。更に、正極活物質とAlとの接触が妨げられる。また、成形体全体に占めるバインダーの容量分、成形体全体に占める正極活物質とAlの実質有効かさ密度が低下する。正極に含まれていたバインダーは加熱工程S11で分解されるので、圧密工程S12においてバインダーを添加しなければ、バインダーを含まない成形体が得られる。成形体としては、完全にバインダーが含まれていない場合に限定されず、正極に含まれていたバインダーの一部が僅かに残留していても良い。成形体におけるバインダーの含有量(質量比)は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。成形体におけるバインダーの含有量を1質量%以下とすることで、溶融工程S13においてバインダーに起因するガスの発生等のテルミット反応を阻害する要因を抑制することができる。準備工程S10で正極のみを準備することで、成形体に正極以外の部材(セル容器12、セパレータ、負極等)に由来する材料が含まれないため、圧密工程S12でバインダーを添加しなくても、崩れにくい成形体が得られる。
【0035】
圧密工程S12は、100kg/cm2以上の荷重を正極に加えることが好ましい。荷重が小さすぎると正極の圧縮が不十分となり、所望のかさ密度を達成することが難しくなるとともに、成形体が崩れ易くなる。正極に加える荷重を100kg/cm2以上とすることにより、かさ密度がより向上するとともに、より崩れにくい成形体が得られる。Al箔と正極活物質との接触面積がより大きくなるので、溶融工程S13における、金属材料の収率及び純度がより向上する。正極に加える荷重は、より好ましくは200kg/cm2以上であり、更により好ましくは800kg/cm2以上である。正極に加える荷重の上限値は、例えば2000kg/cm2以下としても良いが、特に限定されない。
【0036】
圧密工程S12は、かさ密度が1.7g/cm3以上である成形体を成形することが好ましい。かさ密度が低すぎると、溶融工程S13における1バッチあたりの処理量が少なくなる。かさ密度が1.7g/cm3以上であることにより、溶融工程S13における1バッチあたりの処理量が確実に増大する。かさ密度は、より好ましくは2.3g/cm3以上であり、更により好ましくは2.5g/cm3以上である。かさ密度の上限値は、例えば2.5g/cm3以下としても良いが、特に限定されない。
【0037】
圧密工程S12で得られる成形体は、圧密工程S12に供される正極と同程度のカーボンの濃度を有する。すなわち、成形体中のカーボンの濃度は、好ましくは0.7wt%であり、より好ましくは0.5wt%以下、更に好ましくは0.4wt%以下である。正極に含まれていたバインダーや導電材は加熱工程S11で除去されているため、成形体中のカーボンの濃度が低減されている。
【0038】
[溶融工程]
溶融工程S13は、圧密工程S12で得られた成形体を溶融する。溶融工程S13について、正極活物質としてLiNixCoyMnzO2を用いた場合を例に説明する。溶融工程S13では、成形体に含まれるAl箔が還元剤となり、以下のような反応が生じる。反応の結果、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料として、Ni、CoおよびMnを含有する合金(NixCoyMnz)が得られる。
LiNixCoyMnzO2+Al → 1/2Li2O+NixCoyMnz+1/2Al2O3
【0039】
テルミット反応は、大きな発熱を伴う反応であるため、反応が持続する温度に到達した後は自己発熱(反応熱)により反応が進む。テルミット反応を励起させる方法としては、例えば、坩堝に成形体を入れ、着火するテルミット法がある。基本的に、この着火だけでテルミット反応が進み、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料を得ることができる。なお、テルミット法においては、必要に応じ適宜助燃剤を用いることもできる。あるいは、アーク溶解や高周波誘導溶解炉等の外部から高温の熱を与える装置を用いる方法もあり、この場合は、自己発熱(反応熱)により成形体が溶融するとともに、アーク溶解や高周波誘導溶解等の熱によっても成形体が溶融する。
【0040】
正極に含まれていたバインダーを加熱工程S11で除去しておき、圧密工程S12でバインダーを添加せずに正極を圧縮成形することにより、溶融工程S13において、バインダーに起因するガスの発生が抑制されるので、テルミット反応が良好に進行するとともに、安全性が確保される。仮に、圧密工程でバインダーが添加される場合は、添加されたバインダーの熱分解およびその後の酸化により水素や炭素の酸化物のガスが発生し、テルミット反応を阻害したり、ガスが急激に膨張して溶融炉を破損させる危険があり、好ましくない。
【0041】
[分離工程]
分離工程S14では、溶融物を冷却することにより金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとを分離する。
【0042】
2.作用および効果
本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法では、加熱工程S11の後に圧密工程S12を実施する。加熱工程S11は、正極を加熱処理することにより、溶融工程S13において自発的な酸化還元反応(テルミット反応)を促進させる。圧密工程S12は、加熱処理された正極を圧縮成形することにより、かさ密度が向上した成形体が得られるので、溶融工程S13において、1バッチあたりの処理量を増大させ、かつ、金属材料の収率及び純度を向上させる。加熱工程S11の後に圧密工程S12を実施することで、溶融工程S13において、低コストで正極の還元反応を促進させることができる。
【0043】
圧密工程S12で正極が圧縮成形された成形体は、かさ密度が増大し、Al箔と正極活物質との接触面積が増大しているので、溶融工程S13において、テルミット反応時の単位体積あたりの発熱量が増大し、テルミット反応が良好に進行する。圧縮成形された成形体は崩れにくいので、当該成形体を移動したり保管する際の取り扱いが容易となる。
【0044】
圧密工程S12で100kg/cm2以上の荷重を正極に加えることにより、かさ密度がより向上するとともに、より崩れにくい成形体が得られる。Al箔と正極活物質との接触面積がより増大し、テルミット反応が促進され、金属材料の収率及び純度がより向上する。
【0045】
正極に含まれていたバインダーを加熱工程S11で除去しておき、圧密工程S12でバインダーを添加せずに正極を圧縮成形することにより、溶融工程S13において、バインダーに起因するガスの発生等が抑制されるので、テルミット反応が良好に進行するとともに、安全性が確保される。
【0046】
加熱工程S11において、箔が酸化しない温度で加熱を行うことにより、アルミナの生成が抑制されるので、溶融工程S13においてAl箔を還元剤として有効利用できる。
【0047】
加熱工程S11において、バインダーを分解する温度で加熱を行うことにより、溶融工程S13の段階での反応阻害ガスの発生が抑制され、テルミット反応が促進される。
【0048】
加熱工程S11において、400℃以上650℃以下で加熱を行うことにより、加熱処理中のテルミット反応の発生が抑制され、安全性が向上する。加熱処理によりバインダーと導電材とが除去され、溶融工程S13の段階での反応阻害ガスの発生が抑制される。このため、溶融工程S13におけるテルミット反応が促進される。
【0049】
溶融工程S13は、高温の熱を与える加熱手段を不要とし、箔と活物質との反応熱によって自己発熱してテルミット反応が進行するので、コストをより低減させることができる。
【0050】
3.実施例
以下に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0051】
[実施例1]~[実施例7]
捲回型の電極体と非水電解液とがセル容器12に収容された使用済みの非水電解液二次電池を用意した。用意した非水電解液二次電池に含まれる正極と非水電解液の構成は以下の通りである。
【0052】
<正極>
Al箔 厚さ15μm,20質量%
活物質(LiNi1/6Co2/3Mn1/6O2) 72~73質量%
バインダー(PVDF) 3~4質量%
導電材 4質量%
<非水電解液>
非水溶媒(DMC:EMC:PC) 質量比28:27:28
電解質(LiPF6) 1M
【0053】
実験では、まず、用意した非水電解液二次電池を放電させ、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより正極を準備した(準備工程S10)。準備した正極を、フェローズ社製のシュレッダー(型番:JB-315S、設定裁断サイズ:2mm×2mm)とアイリスオーヤマ社製のシュレッダー(型番:AFS-150C-H、設定裁断サイズ:4mm×10mm)を併用して裁断した後、一般的なロータリーキルンを用いて加熱処理(加熱工程S11)を行い、これを実施例1とした。加熱処理における加熱温度は500℃、キープ時間は30分とした。
【0054】
実施例1のカーボン濃度を測定した。カーボンの濃度は、LECOジャパン合同会社製の炭素・硫黄分析装置(型番:CS744、検出方式:非分散型赤外線吸収方)を用いて測定した。
【0055】
正極中のカーボンの濃度は、加熱処理前は6.5wt%であり、加熱処理後は0.4wt%まで低減した。加熱処理により、バインダーや導電材に由来するカーボンが除去されたことが確認できた。
【0056】
次に、圧密工程S12の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0057】
実施例1と同様の準備工程S10および加熱工程S11を経て、加熱処理された正極を用意した。加熱処理された正極の大きさは、大きいもので4mm×10mm、小さいもので1mm以下や粉状大であった。加熱処理された正極のかさ密度は、0.1~0.2g/cm3であった。かさ密度は、メスシリンダー内に正極を静かに充填したときの正極の質量を、容器内の空隙(正極間の空隙を含む)を含めた体積で除して算出した。加熱処理された正極を圧密工程S12に供し、バインダーを添加せずに、一般的な圧縮装置を用いて正極を圧縮成形した。圧密工程S12において、正極に加える荷重を、100kg/cm2、200kg/cm2、300kg/cm2、800kg/cm2、1000kg/cm2、2000kg/cm2と変えて6種の成形体を製造し、実施例2,3,4,5,6,7とした。実施例2~7のかさ密度は、成形体の質量を体積で除して算出した。
【0058】
図3は、正極の圧縮成形時の荷重とかさ密度との関係を示すグラフである。荷重が大きいほど、かさ密度が増大することが確認できた。荷重100kg/cm
2以上で、かさ密度が1.7g/cm
3以上となる。
【0059】
次に、圧縮成形時の荷重が、800kg/cm2である実施例5、2000kg/cm2である実施例7を溶融工程S13に供し、テルミット反応を評価した。成形体である実施例5,7を別々の坩堝に入れ、助燃剤を使用せずに着火した。溶融工程S13で得られた溶融物を坩堝から取り出し、成形体が溶融したか否かを目視で観察し、以下の基準でテルミット反応を評価した。「◎」および「〇」は合格であり、「×」は不合格である。
【0060】
「◎」:正極が溶融し、金属材料が得られ、テルミット反応が起きた。
「〇」:正極の一部が溶融し、金属材料が得られ、テルミット反応が起きた。
「×」:金属材料が得られず、テルミット反応が起きなかった。
【0061】
実施例5,7のいずれも、成形体が溶融し、金属材料が得られ、テルミット反応が良好であり、評価結果「◎」であることが確認できた。
【0062】
また、圧縮成形時の荷重が1000kg/cm2である実施例6と、同じ質量の実施例1とのテルミット反応を比較した場合、圧密工程S12を行っていない実施例1よりも、圧密工程S12を行った実施例6の方が発光や熱が強いことが確認できた。この結果より、圧密工程S12によるテルミット反応促進効果が確認された。
【0063】
加熱処理された正極を、バインダーを添加せずに圧縮成形したことにより、カーボンの濃度が圧縮成形前の正極と同等の0.4wt%であり、かさ密度の増大に伴い、テルミット反応時の単位体積あたりの発熱量が増大し、テルミット反応が促進されたと考えられる。
【0064】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0065】
成形体の製造方法は、Alを含む箔と、金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程と、前記加熱処理が行われた前記正極を圧縮成形して成形体を成形する圧密工程とを有する。加熱工程の前に、正極を準備する準備工程を有することが好ましい。
【符号の説明】
【0066】
10 非水電解液二次電池
S10 準備工程
S11 加熱工程
S12 圧密工程
S13 溶融工程
S14 分離工程