(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122414
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】セレンの回収方法
(51)【国際特許分類】
C01B 19/02 20060101AFI20230825BHJP
C22B 61/00 20060101ALI20230825BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C01B19/02 E
C22B61/00
C22B3/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026097
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA04
4K001AA22
4K001BA17
4K001DB16
4K001JA01
4K001JA03
4K001JA10
(57)【要約】
【課題】亜セレン酸を含む酸性液からケトンを還元剤としてセレンを沈殿分離させる時に、難還元性セレン化合物の生成を抑制してセレンを回収する方法を提供する。
【解決手段】亜セレン酸を含む酸性液からセレンを還元沈殿して回収する方法であり、酸性液にアセトンを連続的または間歇的に添加しつつ、アセトンと亜セレン酸との反応で生じる有機化合物を酸化剤を用いて酸化する、セレンの回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜セレン酸を含む酸性液からセレンを還元沈殿して回収する方法であり、
前記酸性液にアセトンを連続的または間歇的に添加しつつ、前記アセトンと前記亜セレン酸との反応で生じる有機化合物を酸化剤を用いて酸化する、セレンの回収方法。
【請求項2】
前記酸性液の液温を70℃以上に加温し、前記酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.4mL/L以下の量だけ、1分以上の間隔をとりつつ間歇的に添加する、請求項1に記載のセレンの回収方法。
【請求項3】
前記アセトンを0.4mL/L以下の量だけ、30分以上の間隔をとりつつ間歇的に添加する、請求項2に記載のセレンの回収方法。
【請求項4】
前記酸性液へのアセトンの添加において、一回のアセトンの添加量を段階的に減少させる、請求項1~3のいずれか一項に記載のセレンの回収方法。
【請求項5】
前記酸性液中の亜セレン酸の濃度がセレン濃度として25g/L以下に達した以降は、前記酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.04mL/L以下の量だけ間歇的に添加する、請求項4に記載のセレンの回収方法。
【請求項6】
前記酸性液にアセトンを間歇的に添加し、且つ、前記アセトンの毎回の添加後に前記酸化剤を添加する、請求項1~5のいずれか一項に記載のセレンの回収方法。
【請求項7】
前記セレンを還元沈殿した後の前記酸性液に対し、二酸化硫黄を吹き込んで過剰な酸化剤を分解し、残存セレンを沈殿回収する、請求項1~6のいずれか一項に記載のセレンの回収方法。
【請求項8】
前記酸化剤は、ケトカルボン酸を酸化させる酸化剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載のセレンの回収方法。
【請求項9】
前記ケトカルボン酸を酸化させる酸化剤は、過酸化水素、酸素、次亜塩素酸及びオゾンのいずれか一種以上である、請求項8に記載のセレンの回収方法。
【請求項10】
前記過酸化水素の前記酸性液への添加量は、一回のアセトンの添加量の0.03体積倍以上である、請求項9に記載のセレンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセレンの回収方法に関し、特に、亜セレン酸を含む酸性液からセレンを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅乾式製錬では銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で99%以上の粗銅とした後に電解精製工程において例えば純度99.99%以上の電気銅を生産する。銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
【0003】
このスライムには貴金族類、希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルも同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0004】
このスライムの処理には湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば特許文献1においてはスライムを塩酸-過酸化水素により銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
【0005】
貴金属を回収した後の溶液には希少金属イオン、テルル、セレンが含まれておりさらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法が知られる。
【0006】
とりわけ特許文献1に示されている、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が酸化還元電位の高さに従って順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
【0007】
セレンを還元する二酸化硫黄としては、乾式製錬排ガスを使用することが一般的である。コスト面でのメリットが大きく、反応後には硫酸イオンとなり排水に悪影響を及ぼさないことが理由である。
【0008】
ところが、乾式製錬排ガスを使用する場合、定期的な炉修や突発的な事故で二酸化硫黄を供給できない事態に遭遇することがある。この時、高純度の液化二酸化硫黄で代替するが試薬コストが上昇する。他にも代用品としては亜硫酸塩も可能であるが液中の酸濃度が減少する、ナトリウム濃度が上昇すると難溶性無機塩が析出する、試薬コストが上昇する等の問題がある。
【0009】
安価で効率的な二酸化硫黄の代用還元剤としてはケトン類が挙げられる(特許文献3)。特にアセトンは安価で毒性も低く、単位量当たりの還元効率も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-316735号公報
【特許文献2】特開2004-190134号公報
【特許文献3】特開2018-109207号公報
【特許文献4】特開2019-77902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ケトン類を還元剤にして亜セレン酸を還元すると大部分の亜セレン酸はセレンに還元されるが、一部は難還元性セレン化合物を生じる。本件で記す「難還元性セレン化合物」とは、二酸化硫黄により単体セレンに還元することが困難なセレン化合物を示す。セレン回収後に、さらにテルルや白金族元素といった有価物を二酸化硫黄により還元回収するため、溶液中の当該難還元性セレン化合物は排水処理工程に持ち越される。
【0012】
ところが、セレンには排水中の濃度規制が定められており、少量の副反応生成物とはいえ難還元性セレン化合物は著しく排水処理工程に負荷を与える。このような問題への対応として特許文献4に示すように活性炭による吸着除去法も知られているが、効果は十分とは言えない。活性炭のみで除去すると大量の活性炭を必要とし、活性炭の試薬コストばかりでなく使用後の活性炭処理も考えなければならない。
【0013】
難還元性セレン化合物は、亜セレン酸のごく一部がアセトンと反応した結果生じるものであり、主反応ではない。その詳細な生成機構も判明しておらず、難還元性セレン化合物の生成を抑制しつつ亜セレン酸をセレンとして回収する方法は知られていない。
【0014】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、亜セレン酸を含む酸性液からケトンを還元剤としてセレンを沈殿分離させる時に、難還元性セレン化合物の生成を抑制してセレンを回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸性液にアセトンを連続的または間歇的に添加しつつ、アセトンと亜セレン酸との反応で生じる有機化合物を酸化剤を用いて酸化することにより、難還元性セレン化合物の生成を抑制できることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0016】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1)亜セレン酸を含む酸性液からセレンを還元沈殿して回収する方法であり、
前記酸性液にアセトンを連続的または間歇的に添加しつつ、前記アセトンと前記亜セレン酸との反応で生じる有機化合物を酸化剤を用いて酸化する、セレンの回収方法。
(2)前記酸性液の液温を70℃以上に加温し、前記酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.4mL/L以下の量だけ、1分以上の間隔をとりつつ間歇的に添加する、(1)に記載のセレンの回収方法。
(3)前記アセトンを0.4mL/L以下の量だけ、30分以上の間隔をとりつつ間歇的に添加する、(2)に記載のセレンの回収方法。
(4)前記酸性液へのアセトンの添加において、一回のアセトンの添加量を段階的に減少させる、(1)~(3)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(5)前記酸性液中の亜セレン酸の濃度がセレン濃度として25g/L以下に達した以降は、前記酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.04mL/L以下の量だけ間歇的に添加する、(4)に記載のセレンの回収方法。
(6)前記酸性液にアセトンを間歇的に添加し、且つ、前記アセトンの毎回の添加後に前記酸化剤を添加する、(1)~(5)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(7)前記セレンを還元沈殿した後の前記酸性液に対し、二酸化硫黄を吹き込んで過剰な酸化剤を分解し、残存セレンを沈殿回収する、(1)~(6)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(8)前記酸化剤は、ケトカルボン酸を酸化させる酸化剤である、(1)~(7)のいずれかに記載のセレンの回収方法。
(9)前記ケトカルボン酸を酸化させる酸化剤は、過酸化水素、酸素、次亜塩素酸及びオゾンのいずれか一種以上である、(8)に記載のセレンの回収方法。
(10)前記過酸化水素の前記酸性液への添加量は、一回のアセトンの添加量の0.03体積倍以上である、(9)に記載のセレンの回収方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、亜セレン酸を含む酸性液からケトンを還元剤としてセレンを沈殿分離させる時に、難還元性セレン化合物の生成を抑制してセレンを回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解スライムはカルコゲン元素と貴金属を多く含む。一例を示すと金を10~30kg/ton、銀を100~250kg/ton、パラジウムを1~3kg/ton、白金を200~500g/ton、セレンを5~15質量%程度含有する。
【0020】
塩酸と過酸化水素を添加してこの電解スライムを溶解することで、銅電解殿物の溶解液が生成されるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(PLS)には貴金属元素、希少金属元素、セレン、テルルが分配される。セレンは、当該酸性液中にセレンオキソニウムとして含まれるが大部分は亜セレン酸である。
【0021】
貴金属類は溶媒抽出や酸化還元電位差を利用して回収する。その後セレンを還元回収するが、このとき、二酸化硫黄を使用して回収する方法が一般的である。このセレン回収工程で二酸化硫黄が利用できない時はアセトンにより亜セレン酸をセレンに還元することができる。
【0022】
亜セレン酸又は二酸化セレンはアリール位の炭素-水素結合に対してセレン酸化と呼ばれる反応を起こすことが知られる。アセトンは反応するが、2-プロパノールは反応しないことから、アセトンの場合はケト-エノール互変異性により生じるエノールが反応すると考えられる。アセトンに限定されず、アリール位の炭素-水素結合をもつケトン類はすべて同様の反応を生じ、亜セレン酸をセレンに還元する。
【0023】
セレン酸化反応を受けたアセトンはヒドロキシアセトンとなり、亜セレン酸は還元を受けて単体セレンとして沈殿する。沈殿した単体セレンは温度により赤色セレン、又は黒色セレンとなる。一方で、アセトンに代表されるケトン類はアセチルアルデヒド、ケトカルボン酸となるまで反応は進行し、これらの反応後の化合物はさらに還元反応を起こす余地を残す。
【0024】
おそらくはこのアセチルアルデヒドやケトカルボン酸(アセトンを使用した時はピルビン酸)が還元剤としてさらに作用するためにアセトンの単位量当たりの亜セレン酸還元効率は良いと考えられる。
【0025】
他方で、ピルビン酸を、亜セレン酸を含む酸性液に添加してアセトンで還元すると、亜セレン酸は二酸化硫黄により単体セレンまで還元を受けなくなる。すなわち、難還元性セレン化合物を生じる。当然、一部ピルビン酸も亜セレン酸を還元するが、アセトンと亜セレン酸、ピルビン酸の三者が反応すると、難還元性セレン化合物が生じやすい。これに対し、中間生成物であるケトカルボン酸の生成と同時にこれを酸化分解すれば難還元性セレン化合物の生成抑制につながる。
【0026】
本発明の実施形態では、亜セレン酸を含む酸性液にアセトンを連続的または間歇的に添加しつつ、アセトンと亜セレン酸との反応で生じるピルビン酸等の難還元性セレン化合物の生成を促す有機化合物を、酸化剤を用いて酸化することで、セレンを還元沈殿して回収する。このような構成によれば、亜セレン酸を含む酸性液にアセトンを添加することで生じるピルビン酸等の難還元性セレン化合物の生成を促す有機化合物を、酸化剤の添加によって酸化することで分解することができる。このため、難還元性セレン化合物の生成を抑制することができる。なお、酸化剤の添加によるアセトンへの影響については、もともとケトン類が酸化反応に対して活性が低いため、添加する酸化剤がアセトンによる亜セレン酸の還元に与える影響は小さい。
【0027】
酸化剤は過量添加すると沈殿したセレンを再度溶解することがある。そのため、酸化剤としてはケトカルボン酸を酸化させる酸化剤であるのが好ましく、例えば、過酸化水素、酸素、次亜塩素酸及びオゾンのいずれか一種以上が挙げられる。中でも反応性、非毒性、取り扱いやすさから過酸化水素が最も好適である。
【0028】
酸性液の液温は70℃以上に加温することが好ましい。このような構成によれば、セレンを黒色セレンとして回収しやすくなる。酸性液の液温は75℃以上に加温することがより好ましい。また、加熱効率の観点から、酸性液の液温は100℃以下としてもよい。
【0029】
酸性液の液温を70℃以上に加温し、酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.4mL/L以下の量だけ、1分以上の間隔をとりつつ間歇的に添加することが好ましい。このような構成によれば、アセトンを一度に大量に添加せずに、少量ずつ間歇的に添加することができるため、酸性液中のケトカルボン酸濃度をより良好に抑えることができる。従って、難還元性セレン化合物の生成を良好に抑制することができる。アセトンの添加量を抑えることで、アセトンの添加間隔は短くすることができる。また、アセトンの添加量が多いと、アセトンの添加間隔は長くすることが好ましい。アセトンの添加間隔が長いほど、アセトンが十分に還元剤として反応する時間を設けることができる。このため、アセトンの添加量によって、当該アセトンの添加間隔は、5分以上、10分以上、さらには30分以上としてもよい。
【0030】
また、毎回のアセトンの添加後に、上記の酸化剤を添加するのが好ましい。このように、毎回のアセトンの添加後に酸化剤を添加することで、難還元性セレン化合物の生成をより良好に抑制することができる。
【0031】
酸性液へのアセトンの添加において、一回のアセトンの添加量を段階的に減少させることが好ましい。酸性液において、アセトンと亜セレン酸は最初に反応して有機セレン中間物が生じる。この中間物は転位後にアルデヒドもしくはピルビン酸となる。このうち、ピルビン酸は難還元性セレン化合物の生成原因と考えられる。ピルビン酸自身は熱分解や亜セレン酸に酸化されるが反応速度が速くない。この性質を利用し、酸性液へのアセトンの添加を段階的に減少させることで、亜セレン酸が少なくなる反応後期に添加量を下げることができ、反応系内のピルビン酸が過多にならないよう調節する。このようにして、酸性液中のケトカルボン酸濃度を更に良好に抑えることができる。また、このような観点から、酸性液中の亜セレン酸の濃度がセレン濃度として25g/L以下に達した以降は、酸性液中のセレン濃度1g/Lに対してアセトンを0.04mL/L以下の量だけ間歇的に添加することが好ましい。
【0032】
酸化剤として過酸化水素を使用する場合、過酸化水素は一般に20~60%水溶液として取り扱われるがその濃度は特に指定されない。過酸化水素としての添加量は、一回のアセトンの添加量の0.03体積倍以上であることが好ましい。
【0033】
アセチルアルデヒドやケトカルボン酸が酸性液中に蓄積すると溶液の粘度が高くなり、さらに亜セレン酸の被還元速度が上昇することで析出するセレンが大きな球となることがある。沈殿したセレンはスラリーとして扱うことが好ましく、過酸化水素にはアセチルアルデヒドやケトカルボン酸を酸化分解して沈殿する単体セレンをスラリー化する効果もある。
【0034】
酸性液中に析出した沈殿物に対し、フィルタープレス等により固液分離することでセレンを得る。固液分離で回収された後のセレンは、さらに蒸留することで純度を上げることができる。また、セレンを還元沈殿した後の酸性液に対し、二酸化硫黄を吹き込んで過剰な酸化剤を分解し、残存セレンを沈殿回収してもよい。
【実施例0035】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
<処理対象液(亜セレン酸を含む酸性液)の調製>
銅製錬の銅電解精製工程から回収された電解殿物を硫酸で処理することで銅を除いた。
次に、濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離してPLS(浸出貴液)を得た。
次に、PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した後、酸濃度を2N以上に調整したDBC(ジブチルカルビトール)と当該PLSとを混合して金を抽出した。
金抽出後のPLSを処理対象液とした。処理対象液のセレン濃度は36g/Lであった。
【0037】
(試験例1)
上記処理対象液を300mL量り取り、80~85℃に加温した。
次に、実施例1として、アセトンを1mL添加して反応を開始した。60分ごとにアセトンを1mL添加した。ここで、2回目以降の各アセトンの添加の40分前に、それぞれ過酸化水素水(30体積%)を0.1mL添加した。
また、実施例2として、アセトンを1mL添加して反応を開始した。60分ごとにアセトンを1mL添加した。実施例2では過酸化水素水を添加せず、アセトン添加後から反応停止まで、反応中エアレーションを行った条件で実施した。当該エアレーションとしては、反応液にチューブを差し込み、ポンプを用いて200mL/分で空気を供給した。
実施例1及び2のいずれの場合でも、添加したアセトンの総量が5mLに達した後さらに30分攪拌した。
アセトン添加を終了した後、残ったアルデヒドやピルビン酸を分解してこの後の二酸化硫黄による還元時に難還元性のセレンが発生することを抑制するため、再度過酸化水素水を2mL添加して30分攪拌した。
次に、75℃に反応液の液温を調整し、二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込んだ。1時間後に反応を停止し、固液分離した。この段階で溶液中に残留しているセレンを難還元性セレン化合物とした。セレン還元反応中、減少した水分量は純水で補充した。
【0038】
二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込む前と吹き込み終了後に、それぞれ実施例1及び2のサンプル溶液を採取した。サンプル溶液から2mLを分取して50mLに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のセレン濃度を定量した。
試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1によれば、亜セレン酸の還元中に酸化剤を供給することで難還元性セレンの生成が抑えられたことが分かる。その添加量は過酸化水素で見ると、アセトン1mLに対して過酸化水素水(30体積%)0.1mLで効果を示した。すなわち添加アセトン量の0.03体積倍の過酸化水素であった。
【0041】
(試験例2)
試験例1と同じ処理対象液を300mL量り取り、80~85℃に加温した。
次に、アセトンを0.5mL添加して反応を開始した。30分毎(実施例3)もしくは60分毎(実施例4)にアセトンを0.5mL添加した。アセトンの添加15分前に過酸化水素水を都度0.1mL添加した。アセトン添加量の合計が2mLに達した後30分攪拌し、二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込んだ。
比較例1として初期にアセトンを2mL投入し、120分攪拌後に二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込んで亜セレン酸の還元を行った。
実施例、比較例共に二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込む前に改めて過酸化水素水の添加はしなかった。
後の操作は試験例1に準じる。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)によりセレンの濃度を定量した。
試験条件及び評価結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
表2によれば、アセトン2mL/対象液300mLによって還元-沈殿されるセレンは12g/Lであり、生じた難還元性セレンはアセトン添加間隔が長いほど少量であることがわかった。
アセトンによる亜セレン酸の還元速度は速く、難還元性セレンの生成抑制には亜セレン酸の還元速度が影響するが、アセトンを間歇的に添加すれば難還元性セレンの生成を抑制でき、その時間間隔は30分以上であることがより好ましいことがわかる。
【0044】
(試験例3)
試験例1と同じ処理対象液を300mL量り取り、75~80℃に加温した。
次に、アセトンを1mL添加して反応を開始した。60分毎にアセトンを添加した。アセトンの添加量は徐々に減らした。アセトンの添加15分前に過酸化水素水を都度0.1mL(実施例5、7)もしくは0.2mL(実施例6)添加した。
アセトン添加量の合計が2mLに達した後30分攪拌し、二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込んで残った亜セレン酸の還元を行った。二酸化硫黄と空気の混合気を吹き込む前に改めて過酸化水素の添加はしなかった。
比較例2として、過酸化水素の都度添加を行わなかった還元も実施した。
後の操作は試験例1に準じる。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)によりセレンの濃度を定量した。
試験条件及び評価結果を表3に示す。なお、反応途中のセレン濃度は表4に示す。表4に記載の「アセトン添加量/Se」は、「アセトン一回添加当たりのアセトン添加量(ml/L)÷酸性液中のセレン濃度(g/L)」を示す。
【0045】
【0046】
【0047】
実施例5~7の結果から、亜セレン酸の還元反応中に過酸化水素を添加して、さらに反応の進行に従ってアセトンの添加量を減らすと、難還元性のセレンの生成がより良好に抑制されることが分かった。
【0048】
難還元性のセレンは、アセトンと反応した亜セレン酸が、最終還元生成物の単体セレンに到る前にアセトンと反応した時に生じると考えられる。そこで、中間生成物を過酸化水素で酸化分解し、かつ中間生成物とアセトンの会合を極力抑えるようアセトンを添加することで効果を示した。なお比較例1と比較例2とを比較すると、アセトン添加量を徐々に減らすだけでも効果があることは分かる。
【0049】
実施例3と実施例5~7では反応温度が異なるが、アセトンの添加量を調整すると温度の効果をしのぐことも可能であることを示す。特に実施例7との比較では温度が低いのにもかかわらず難還元性のセレン生成量は半分になっている。