(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122418
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】立ちこぎ運動用具
(51)【国際特許分類】
B62K 17/00 20060101AFI20230825BHJP
B62M 3/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
B62K17/00
B62M3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026101
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
【テーマコード(参考)】
3D212
【Fターム(参考)】
3D212BB15
3D212BB24
3D212BB44
3D212BB56
3D212BB62
(57)【要約】
【課題】脚だけの操作で高速度領域における、回転半径の小さな鋭い旋回が可能な立ちこぎ運動用具を提供する提供する。
【解決手段】運動用具1を、使用者2の左右に配置された左右の車輪21L,21Rと、左右の車輪21L,21Rにそれぞれハブ22L,22Rを介して取付けられた左右の車軸11L,11Rと、左右の車軸11L,11Rの一方向のみ回転を左右の車軸11L,11Rにそれぞれ伝達する回転伝達機構と、左車軸11Lの左輪21L側とは反対側の端部と右車軸11Rの右輪21R側とは反対側の端部とを連結する接続部材12とから構成するとともに、上記左右の連結箇所が所定の距離を隔てて配置されており、かつ、上記左右の連結箇所の中点Oが左右の車軸11L,11Rの作る平面上にあるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が立ちこぎ操作をすることで走行する運動用具であって、
前記使用者の左右に配置されて床もしくは地面に接地して転動する左輪及び右輪と、
前記左輪及び右輪にそれぞれハブを介して取付けられた左車軸及び右車軸と、
前記ハブ内に設けられて前記左車軸及び右車軸の一方向のみ回転を前記左輪及び右輪にそれぞれ伝達する回転伝達機構と、
前記左車軸の前記左輪側とは反対側の端部と前記右車軸の前記右輪側とは反対側の端部とを連結する接続部材とを備え、
前記接続部材と前記左車軸との連結箇所と前記接続部材と前記右車軸との連結箇所とが所定の距離を隔てて配置されており、かつ、前記接続部材と前記左車軸との連結箇所と前記接続部材と前記右車軸との連結箇所の中点が、前記左車軸と前記右車軸との作る平面上にあることを特徴とする立ちこぎ運動用具。
【請求項2】
左車軸と右車軸とにそれぞれペダルを設けたことを特徴とする請求項1に記載の立ちこぎ運動用具。
【請求項3】
前記ペダルに、後方に延長する延長部を設けるとともに、前記延長部の下部にキャスターを取付けたことを特徴とする請求項2に記載の立ちこぎ運動用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が乗って立ちこぎ操作をすることで走行し、蛇行・旋回を楽しむ立ちこぎ運動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人が乗って立ちこぎ操作する運動用具もしくは移動装置としては、自転車や一輪車などが知られている。しかしながら、自転車は大きくかつ重いだけでなく、長距離を走行しないと十分な運動効果が得られない。また、一輪車は運動効果は高いものの乗りこなすのが難しいといった問題がある。
そこで、互いに平行な2つの車輪を持つ運動用の並輪車が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この並輪車は、ペダル付クランク軸の両端を車軸とする互いに平行な2つの車輪と、それぞれの車軸の外側に取り付けられて、車軸を中心に揺動する操舵棒とを備えたもので、一方の操舵棒を引いて、操舵棒の挺部で車輪を押し上げて空転させるようにすれば、走行方向を変えることができるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の並輪車は、旋回するためには挺部もしくは挺部とキャスターとが必要であるだけでなく、挺部を操作するために両手が必要であった。
また、特許文献1の並輪車は、ペダルが常に左右方向に水平なため、身体重心を旋回中心側に傾けることが困難である。そのため、低速度領域における回転半径の大きなゆっくりした旋回はできるものの、身体重心に生じる遠心力を活用した、高速度領域における回転半径の小さな鋭い旋回をすることができない、といった問題点があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、挺部やキャスターが不要で、かつ、脚だけの操作で高速度領域における、回転半径の小さな鋭い旋回が可能な立ちこぎ運動用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、使用者が立ちこぎ操作をすることで走行する運動用具であって、前記使用者の左右に配置されて床もしくは地面に接地して転動する左輪及び右輪と、前記左輪及び右輪にそれぞれハブを介して取付けられた左車軸及び右車軸と、前記ハブ内に設けられて前記左車軸及び右車軸の一方向のみ回転を前記左輪及び右輪にそれぞれ伝達する回転伝達機構と、前記左車軸の前記左輪側とは反対側の端部と前記右車軸の前記右輪側とは反対側の端部とを連結する接続部材とを備え、前記接続部材と前記左車軸との連結箇所と前記接続部材と前記右車軸との連結箇所とが所定の距離を隔てて配置されており、かつ、前記接続部材と前記左車軸との連結箇所と前記接続部材と前記右車軸との連結箇所の中点が、前記左車軸と前記右車軸との作る平面上にあることを特徴とする。
このような構成を採ることで、本発明の運動用具は脚だけで操作できるので、両手が使えるという利点を有する。したがって、例えば、荷物を手にした状態で操作できるだけでなく、万が一転倒した場合でも、地面に手をつくなどの身体を保護することが容易である。
また、挺部やキャスターがなくても走行方向を変えることができるので、構成を簡素化でき、製造コストを抑えることができる。また、用具を小さくかつ軽くできるので、持ち運びが容易である。
また、回転半径の小さな鋭い旋回が可能なので、走行時の速度を増すことができるだけでなく、小回りが効くので、狭い通路などでも走行することができる。
また、左車軸と右車軸とにそれぞれペダルを設けることで、使用者が車軸を踏み易くしたので、操作の安定性が増大した。
また、ペダルに、後方に延長する延長部を設けるとともに、前記延長部の下部にキャスターを取付けたることで、使用者は軸周りのバランスをとる必要がないようにしたので、操作の安定性が更に増大した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る立ちこぎ運動用具を示す図である。
【
図2】立ちこぎ運動用具を車軸方向から見た図である。
【
図3】フリーホイール付きハブの一例を示す図である。
【
図4】立ちこぎ運動用具の動作を説明するための図である。
【
図5】立ちこぎ運動用具の操作方法(走行前)を説明するための図である。
【
図6】立ちこぎ運動用具の操作方法(右足操作;1)を説明するための図である。
【
図7】立ちこぎ運動用具の操作方法(右足操作;2)を説明するための図である。
【
図8】立ちこぎ運動用具の操作方法(左足操作;1)を説明するための図である。
【
図9】立ちこぎ運動用具の操作方法(左足操作;2)を説明するための図である。
【
図10】走行中における小休止の方法の一例を示す図である。
【
図11】立ちこぎ運動用具における直進方向を説明するための図である。
【
図12】立ちこぎ運動用具の直進走行と旋回走行とを説明するための図である。
【
図13】本発明による立ちこぎ運動用具の他の例を示す図である。
【
図14】本発明による立ちこぎ運動用具の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(a)~(c)は、本実施の形態に係る立ちこぎ運動用具(以下、運動用具1という)を示す正面図で、運動用具1は、使用者2が上に立って操作する操作部10と、地面3上を走行する車輪部20とを備える。
操作部10は、左右の車軸11L,11Rと、左右の車軸11L,11Rを連結する接続部材12とを備え、車輪部20は、左右の車輪21L,21Rと、各車輪21a,21Rの中心にあって車輪21L,21Rと左右の車軸11L,11Rとをそれぞれ連結する左右のハブ22L,22Rとを備える。ここで、左側及び右側は、使用者2が運動用具1に乗った時の左側及び右側をいう。なお、左右の定義については後述する。
操作部10及び車輪部20を構成する各部材は、軽量でかつ強度の高いスチールまたはアルミニウム合金などから構成されている。
運動用具1は、接続部材12の中心Oを対称中心点とした点対称の構造を持つ。具体的には、接続部材12と左車軸11Lとの連結箇所と接続部材12と右車軸11Rとの連結箇所とが所定の距離を隔てて配置されており、かつ、接続部材12の中心O(接続部材12と左車軸11Lとの連結箇所と接続部材12と右車軸11Rとの連結箇所の中点)が、左車軸11Lと右車軸11Rとの作る平面上にある。
以下、接続部材12の中心Oを対称中心点という。
また、運動用具1は対称中心点Oに対して点対称な構造であるため、自ずと左右方向に傾き、その結果、傾斜角αが生じる。傾斜角αは地面3と車軸11L,11Rの延長方向との成す角度である。以下、運動用具1が右側に傾いている場合について説明する。
図1(a)において、紙面に垂直な方向をx軸方向、紙面の左右方向をy軸方向、紙面の上下方向をz軸方向とする。また、地面3を水平面に平行な面(xy平面)とし、z軸方向を地面3に垂直な方向(鉛直方向)とする。
【0009】
本例では、対称中心点Oを通り、運動用具1の動きに伴って方向が変化する座標系であるXYZ座標系を以下のように設定し、このXYZ座標系に基づいて、運動用具1の「上下方向」、「左右方向」、及び、「前後方向」を定義する。
対称中心点Oを通り、xy平面(地面3)をx軸周りに傾斜角αだけ回転させた面に垂直な方向をZ軸方向、対称中心点Oを通り、左右の車軸11L,11Rの延長方向に平行な方向で、かつ、右の車輪21Rから左の車輪21Lへ向かう方向をY軸方向、Y軸方向とZ軸方向とに直交する方向を前後方向(X軸方向)とする。
図1(b)は運動用具1をX軸方向(+X側)から見たときの図(運動正面図)、
図1(c)は、運動用具1をZ軸方向(+Z側)から見たときの図(運動平面図)で、
図2はY軸方向(+Y側)から見たときの図(運動側面図)である。なお、
図2では操作部10の各要素を見やすくするため、車輪部20を細い一点鎖線で示した。
【0010】
次に、「上下方向」、「左右方向」、及び、「前後方向」の定義について説明する。
図1(b)の左右方向に延長する一点鎖線で示す、対称中心点Oを通りZ軸方向に垂直な面(XY平面)を水平中心面4とし、この水平中心面4で分断される空間のうちの+Z側の空間を上側、-Z側の空間を下側とする。
また、上下方向に延長する一点鎖線で示す、対称中心点Oを通りY軸方向垂直な面(ZX平面)を鉛直左右中心面5とし、この鉛直左右中心面5で分断される空間のうちの+Y側の空間を左側、-Y側の空間を右側とする。
また、
図1(c)の左右方向に延長する一点鎖線で示す、対称中心点Oを通りX軸方向に垂直な面(YZ平面)を鉛直前後中心面6とし、この鉛直前後水平面6で分断される空間のうちの+X側の空間を前側、-X側の空間を後側とする。
なお、上下方向に延長する一点鎖線で示す、対称中心点Oを通りY軸方向に垂直な面は上記の鉛直左右中心面5(ZX平面)である。
XYZ座標系とxyz座標系との関係を
図1(a)の右上の図に示す。
本発明の運動用具1は、接続部材12、左右の車軸11L,11R、及び、左右の車輪21L,21Rが揺動しながら前進もしくは旋回するので、xyz座標系からみると、水平中心面4、鉛直左右中心面5、及び、鉛直前後中心面6は走行状態により変化する。すなわち、上記定義した前後方向、左右方向、及び、上下方向は、
図5~
図9に示すように、走行状態によりその向きが変化する。
【0011】
図1(b),(c)に示すように、左右の車軸11L,11Rは左右方向に延長する棒状の部材で、左の車軸11Lは一端が左の車輪21Lのハブ22Lに連結され他端は接続部材12に固定されている。また、右の車軸11Rは一端が右の車輪21Rのハブ22Rに連結され、他端は接続部材12に固定されている。なお、車軸11L,11Rは、使用者2が左右の足を載せて踏み込む操作を行う際の「踏み棒」の機能を有することから、車軸11L,11Rを操作部10の構成要素とした。
接続部材12は、左の車軸11Lと右の車軸と11Rとの作る平面上にあって、対称中心点Oを中心に揺動しながら回転する平板状の部材である。運動用具1が右側に傾いている状態では、接続部材12の上端側に右の車軸11Rが位置し、下端側に左の車軸11Lが位置している。なお、図は省略するが、運動用具1が左側に傾いた状態では、接続部材12は、
図1(a)の位置から対称中心点Oを中心にY軸周りに180°回転するとともに左側に揺動した位置にある。すなわち、運動用具1が左側に傾いた状態では、接続部材12の上端側には左の車軸11Lが位置し、下端側には右の車軸11Rが位置することになる。
【0012】
車輪部20の車輪21L,21Rは地面3に接地して転動する走行手段で、本例では、
図2の一点鎖線で示す方向を前進方向とし、円弧状の矢印の方向を正転方向とした。
本例ではハブ22L,22Rとして、車軸21L,21Rの一方向のみ回転を車輪21L,21Rに伝達するフリーホイールを備えたフリーホイール付ハブを用いた。
また、本例では、フリーホイールとして、
図3に示すような周知のラチェット23を用いた。ラチェット23は、自転車の後輪などに用いられている回転伝達機構で、入力部材23aと、係止部材23bと、支持バネ23cとを備えている。
本例では、運動用具1が前進するときの車輪21L,21Rの回転方向を正転方向と定義する。すなわち、同図の実線の矢印で示す、反時計回りの方向を順方向とし、その回転を正転とする。対して、同図の破線の矢印で示す、時計回りの方向を逆方向、その回転を逆転とする。
入力部材23aは、内側に車軸11L(または、車軸11R)が挿入・固定された、車軸11L(または、車軸11R)の回転に伴って回転する、車軸11Lと同軸である筒状の部材である。
係止部材23bは、入力部材23aに回転自在に取付けられて、ハブ22L(または、ハブ22R)の内周側に形成された切り込み22kの方向へ延長する棒状の部材で、支持バネ23cは入力部材23aと係止部材23bとの間に設けられて、係止部材23bを逆転方向に付勢するバネ部材である。
【0013】
以下、左のハブ22Lの作用について説明するが、右のハブ22Rの作用も同様である。
入力部材23aも正転時には、係止部材23bは切り込み22kと噛み合うことで入力部材23aの回転をハブ22Lに伝達する。なお、入力部材23aの逆転時には、係止部材23bと切り込み22kとは噛み合わないので、入力部材23aの回転はハブ22Lに伝達されない。
したがって、車軸11Lをハブ22Lに取り付け、使用者2が車軸11Lを前方に踏み込んで車軸11Lを正転させた場合には、係止部材23bと切り込み22kとが噛み合うので、車軸11Lの回転は入力部材23aを介してハブ22Lに伝達されて車輪21Lは正転し、運動用具1は前側に進む。
また、使用者2が車軸11Lの踏み込みを止めて車輪21Lだけが回転している(運動用具1が前進している)場合には、係止部材23bがハブ22Lによって押込まれて引っ込むので、ハブ22Lは空転し、車輪21Lだけ回転する。
一方、同図の破線に示すように、使用者2が車軸11Lを後方に踏み込んで車軸11Lを逆転させても、係止部材23bと切込み22kとは噛み合わないので入力部材23aは空転する。このとき、車輪21Lは静止しているか回転し続ける。
すなわち、運動用具1が静止している場合には、車軸11Lを逆転させても車輪21Lは回転しない。また、運動用具1が前進している場合に車軸11Lを逆転させても、ハブ22Lは空転し、車輪21Lだけ回転する。
なお、本例では、フリーホイールとしてラチェット23を用いたが、ローラクラッチやカムクラッチなどの他のワンウェイクラッチを用いててもよい。
【0014】
次に、運動用具1の作用・効果について、
図4(a),(b)を参照して説明する。
運動用具1の車軸11L,11Rは地面3に対して傾斜するので、傾斜角α及びキャンバー角βが生じる。傾斜角αは、上述したように、地面3と車軸11L,11Rの延長方向との成す角度で、キャンバー角βは、運動用具1を正面から見たときの車輪21L,21Rの地面3に対する角度である。したがって、使用者2の身体重心Gを旋回中心K側に傾けることが容易となる。その結果、使用者2には重力Fgと遠心力Frとの合力F1が作用する。なお、本例では、車輪21L,21Rに初期キャンバー角を与えていないので、β=αとなる。
図4(a)に示すように、運動用具1が右側に傾いた場合には、右の車輪11Rには向心力Fr’と垂直抗力FNの合力F2が生じる。したがって、使用者2自らが身体重心Gの位置を制御して使用者2側の合力F1と運動用具1側の合力F2とを釣り合わせることで、高速度領域における、半径の小さな鋭い旋回が可能となる。運動用具1が左側に傾いた場合も同様である。また、旋回半径を小さくできるため、狭い通路なども走行できるという利点もある。
【0015】
運動用具1を前進させるには、使用者2が左右の車軸11L,11Rを交互に踏み込むようにすればよい。
例えば、
図4(a)に示すように、使用者2が左の車軸11Lを前側に踏み込むと、操作部10に踏力Fkが生じる。左の車軸11Lはこの踏力Fkを、
図4(b)に示すモーメントMkとして車輪部20伝達する。左の車輪21LはこのモーメントMkを回転トルクTkとして地面3に伝達することで回転する。
また、左の車軸11Lに踏力Fkが作用すると、接続部材12はy軸周りに回転するとともにx軸周りに揺動するので、右の車軸11Rも左の車軸11Lと同じ方向に回転する。その結果、右の車輪21Rも左の車輪21Lと同じ方向に回転する。
一方、使用者2が右の車軸11Rを前側に踏み込むと、左の車軸11Lを踏んだときと同様に右の車輪21Rが回転し、これに伴い左の車輪21L右の車輪21Rと同じ方向に
回転する。
よって、使用者2が左右の車軸11L,11Rを交互に踏み込むようすれば、運動用具1は左右に揺動しながら前進する。
なお、本例では、ハブ22L,22Rとしてフリーホイール付ハブを用いているので、車輪11L,11Rが回転している場合は、踏み込みがなくても車輪11L,11Rは慣性力を以って回転し続けることができる。したがって、踏み込みを中断して小休止をとることも可能である。
【0016】
次に、運動用具1の操作方法について説明する。
図5(a),(b)は、運動用具1の操作開始前の状態で、運動用具1及び使用者2は静止状態にある。この状態を初期状態という。ここでは、初期状態を車輪11L,11Rが右側に傾いている状態としたが、運動用具1の操作方法は、車輪11L,11Rが左側に傾いている状態を初期状態としても同様である。
初期状態は安定した静止状態ではないので、使用者2は運動用具1上でバランスを保つために常に身体制御する必要がある。具体的には、身体重心Gを対称中心点である原点Oの鉛直線上に配置するようにバランスをとることが肝要である。
図5(b)の側面図に示すように初期状態では、左側の車軸11Lの位置/高さは右の車輪21Rに対して最下点にある。この状態において、左の車軸11Lに踏力Fkを負荷すると、踏力Fkが「おきあがりこぼし」における重りの代わりとなるため、右の車輪21Rは回転することなく自ずと静止状態を保つ。したがって、使用者2がバランスをとって左右の車軸11L,11R上で立ち続けることができれば、運動用具1は自ずと静止状態を保つことができる。
なお、左右の車輪21L,21Rは両方とも地面3に接地しているものとする(片輪のみの接地もありうるが、本例では、安全走行のため、片輪のみの接地は想定していない)。
【0017】
初期状態から運動用具1を走行させるには、
図6(a)に示すように、使用者2は位置/高さが最上点にある車軸である右の車軸11Rを踏み込めばよい。これにより、右の車軸11Rに踏力FRが生じる。その結果、接続部材12に対称中心点O周りのモーメントMRが生じ、接続部材12は対称中心点Oを中心として、使用者2の前方向(y軸周りに-z方向)に回転するとともに、使用者2の左方向(x軸周りに+y方向)に揺動する。
一方、ハブ22Lのラチェット23内では、モーメントMRの向きが車輪21Rの正転方向なので、モーメントMRは車輪21Rに伝達される。このラチェット2323を経由して伝達されたモーメントMRによって、右の車輪21Rの地面3との接地部に回転トルクTRが生じる。その結果、右の車輪21Rは地面3上を転動する。また、接続部材12は対称中心点Oを中心としてモーメントMRの向きに回転するので左の車輪21Lも回転し、運動用具1は同図の矢印で示す前進方向に走行を開始する。
使用者2が右の車軸11Rを更に踏み込むと、
図6(b)に示すように、車軸11L,11R、及び、車輪21L,21Rは更に回転し、右の車軸11Rの高さと左の車軸11Lの高さとが等しくなる。すなわち、傾斜角はα=0となる。また、接続部材12は対称中心点Oを中心として使用者2の前側に回転するとともに使用者2の左方向に揺動する。このときには、XYZ座標系とxyz座標とが一致する。
使用者2が右の車軸11Rを更に踏み込むと、
図7(a)に示すように、今度は、右の車軸11Rの高さが左の車軸11Lの高さよりも低くなり、車軸11L,11Rの延長方向は
図6(a)のときとは反対側に傾斜する。また。接続部材12は対称中心点Oを中心として使用者2の前側に回転するとともに使用者2の左方向に揺動する。
使用者2が右の車軸11Rを更に踏み込むと、
図7(b)に示すように、右側の車軸11Rの位置/高さが左の車輪21Lに対して最下点にある状態となる。すなわち、XYZ座標系で見たときの車軸11L,11Rの位置/高さ、及び、車輪21L,21Rの位置/高さは、
図5(b)に示した初期状態とは上下関係が逆の状態になる。
【0018】
図7(b)の状態では、右の車軸11Rの位置/高さ最下点なので、次は、踏み込む足を右足から左足に変える必要がある。
すなわち、
図8(a)に示すように、使用者2はこの位置/高さが最上点にある車軸である左の車軸11Lを踏み込むようにすればよい。これにより、左の車軸11Lに踏力FLが生じる。その結果、接続部材12に対称中心点O周りのモーメントMLが生じ、接続部材12は対称中心点Oを中心として、使用者1の前方向(y軸周りに-z方向)に回転するとともに、使用者2の右方向(x軸周りに-y方向)に揺動する。
また、このモーメントMLによって、左の車輪21Lの地面3との接地部に回転トルクTLが生じる。その結果、左の車輪21Lは地面3上を転動する。また、接続部材12は対称中心点Oを中心として前方に回転するので、右の車輪21Rも回転する。したがって、運動用具1は同図の矢印で示す前進方向への走行を継続する。
使用者2が左の車軸11Lを更に踏み込むと、
図8(b)に示すように、右の車軸11Rの高さと左の車軸11Lの高さとが等しくなる。すなわち、傾斜角はα=0となるとともに、接続部材12は対称中心点Oを中心として使用者2の前側に回転するとともに使用者2の右方向に揺動する。このときも、
図6(b)の場合と同様に、XYZ座標系とxyz座標とが一致する。
使用者2が左の車軸11Lを更に踏み込むと、
図9(a)に示すように、今度は、左の車軸11Lの高さが右の車軸11Rの高さよりも低くなり、接続部材12は
図8(b)のときとは反対側に傾斜する。接続部材12は対称中心点Oを中心として使用者2の前側に回転するとともに使用者2の右方向に揺動する。
使用者2が左の車軸11Lを更に踏み込むと、
図9(b)に示すように、左側の車軸11Lの位置/高さが左の車輪21Lに対して最下点にある状態、すなわち、運動用具1は、
図5(b)に示した初期状態と同じ状態に戻る。
このように、使用者2が、
図6(a)~
図9(b)の操作を繰り返すことで、運動用具1を前進させることができる。
【0019】
次に、走行中に小休止を取るための操作について説明する。
図10に示すように、小休止を取る際には、使用者2は車軸11L,11Rのいずれも踏み込まずに車軸11L,11Rの上に立った状態を保持しておけばよい。
このとき、接続部12の延長方向が水平になるように、左右の車軸11L,11Rを接続部材12の前後に配置することが好ましい。これにより、車軸11L,11R間の距離(軸間距離D)が最大になるので、車軸11L,11R間に身体重心Gを配置し易くなる。つまり、使用者2は、運動用具1上で立った状態を保持し易くなる。
走行中において、運動用具1は慣性力によって前進し続ける。その結果、左右の車輪21L,21Rはともに、同図の矢印で示す正転方向に回転し続ける。このとき、
図10(b)に示すように、ハブ22L,22R内では、車輪21L,21Rの回転に伴って係止部材23bも回転するが、係止部材23bが切り込み22kにかからない為、車輪21L,21Rの回転は車軸11L,11Rに伝達されない。すなわち、左右の車輪21L,21Rが回転しても、車軸11L,11R及び接続部材12は動かない。
よって、使用者2が踏み込まなくても車輪21L,21Rは回転し続け、運動用具1は前進し続けるので、走行中であっても小休止を取ることができる。
なお、運動用具1の操作に慣れてバランスをとることが上達すれば、接続部12の延長方向が水平でない状態であっても、小休止を取ることは十分に可能である。
【0020】
次に、運動用具1の直進走行及び旋回走行について説明する。
本発明における「直進」を以下のように定義する。
図11(a),(b)の白抜きの矢印で示す運動用具1の直進を「装置直進」、黒の矢印で示す車輪21L,21Rの直進を「車輪直進」とする。
図11(b)に示す乗用車のような一般的な四輪車50では車輪51の直進する方向である「車輪直進」の向きと、車体52の直進する方向である「装置直進」の向きとが一致する。これに対して、
図11(a)に示す本発明の運動用具1は、車輪21L,21Rが同方向に傾きながら前進するので、「装置直進」の向きと「車輪直進」の向きとは必ずしも一致しない(「装置直進」の向きと「車輪直進」の向きとが一致するのは、左右の車軸11L,11Rを接続部材12の前後に位置したときである)。
なお、以下に述べる「直進」は「装置直進」を意味するものとする。
【0021】
運動用具1が直進できるのは、運動用具1が対称中心点Oを中心とする点対称な構成/構造であるためである。すなわち、運動用具1が点対称な構成であるなら、左右の車輪21L,21Rの接地部における形状は等しいので、左右の車輪21L,21Rの転がる条件が同じであるなら、
図12(a)に示すように、左の車輪21Lが転がることで生じる距離L1と右の車輪21Rが転がることで生じる距離L2とが等しくなる。左右の車輪21L,21Rの転がる距離L1,L2が等しいということは、運動用具1が直進していることを意味している。
なお、
図11(a)に示したように、左右の車輪21L,21Rの「車輪直進」の向きは、運動用具1が直進するにしたがって、運動用具1の直進方向に対して左、右、左、……と順次に傾きが変化しているので、運動用具1は、左右の車輪21L,21Rが揺動しながら前進することがわかる。
一方、運動用具1を旋回させるには、左右の車輪21L,21Rの転がる距離L1,L2に差が生じるように左右の車輪21L,21Rを転がせればよい。具体的には、
図12(b)に示すように、右側の車軸11Rに掛ける負荷(踏力)を大きくすることが考えられる。その結果、右側の車輪21Rの角速度が左側の車輪21Lの角速度よりも大きくなる。すなわち、右側の車輪21Rの転がる距離L2’が左側の車輪21Lの転がる距離L1’よりも長くなるので、運動用具1を左側に旋回させることができる。
なお、運動用具1を右側に旋回させるには、左側の車軸11Lに掛ける負荷(踏力)を大きくしてやればよい。
【0022】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0023】
例えば、前記実施の形態では、使用者2が車軸11L,11Rに足を載せて運動用具1を操作したが、
図13(a),(b)に示すように、車軸11L,11R上にペダル13L,13Rを設ければ、使用者2の安定性を高めることができる。ペダル13L,13Rとしては、平板状のものが好ましく、これにより、足裏と接する面積が増えるので使用者2が安定した状態で立つことができる。なお、自転車の場合と同様に、ペダル13L,13Rは車軸11L,11Rには固定せず、車軸11L,11R周りに摺動できるようにする必要がある。これは、ペダル13L,13Rを車軸11L,11R周りに固定すると、走行中の車輪21L,21Rや車軸11L,11Rの回転に伴い、ペダル13L,13Rの面があらぬ方向を向くため、使用者2が立ち続けることが困難となるからである。
また、ペダル13L,13Rに替えて、
図14(a),(b)に示すようなキャスター付ペダル14L,14Rを用いれば、使用者2の安定性を更に高めることができる。
図14(c)にも示すように、キャスター付ペダル14L,14Rは、ペダル13L,13Rを後方に延長した長尺平板状の足載せ部141と足載せ部141を車軸11L,11Rに取付けるための取付部142とから成るペダル本体14aと、ペダル本体14aの後端部の裏側(地面3側)に設けられたキャスター14bとを備える。
キャスター付ペダル14L,14Rは、キャスター14bを地面3に接地させることでペダル本体14aの回転が制限されるが、使用者2は、車軸11L,11R周りのバランスを取る必要がなくなるため、上記のペダル13L,13Rよりも安定して立つことができる。なお、キャスター14bとしては「自在」式のものを選ぶ必要がある。キャスター14bを「固定」式とすると運動用具1の走行操作における直進性が増す反面、旋回操作が困難となるからである。
【符号の説明】
【0024】
1 立ちこぎ運動用具、2 使用者、3 地面、
10 操作部、11L,11R 車軸、12 接続部材、
20 車輪部20、21L,21R 車輪、22L,22R ハブ、22k 切り込み、23 ラチェット、23a 入力部材、23b 係止部材、23c 支持バネ、
O 対称中心点、G 身体重心、K 旋回中心。