(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122433
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20230825BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230825BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20230825BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
B22D41/02 A
B22D11/10 310J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026132
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】松井 剛
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA06
4K051BB03
(57)【要約】
【課題】拘束下での熱膨張が抑制され、剥離損耗が低減され、耐用性に優れるアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を提供する。
【解決手段】アルミナ質耐火原料、アルミナ-シリカ質耐火原料、シリカ超微粉、アルミナセメント、及び、ムライトを含むアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物であって、前記アルミナ質耐火原料のうち粒径75μm未満のもの、前記シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状の前記ムライトが造粒物を構成しており、前記造粒物の粒径が0.3mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ質耐火原料、アルミナ-シリカ質耐火原料、シリカ超微粉、アルミナセメント、及び、ムライトを含むアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物であって、
前記アルミナ質耐火原料のうち粒径75μm未満のもの、前記シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状の前記ムライトが造粒物を構成しており、
前記造粒物の粒径が0.3mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物。
【請求項2】
JIS R2209に準拠した耐火れんがの荷重軟化点の試験方法において、室温から1500℃に到達した時点での熱膨張率の測定値が0.5%以上1.0%以下となることを特徴とする、
請求項1に記載のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を内張り炉材として備える、
タンディッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュの内張り炉材に用いられるアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、使用中に発生する亀裂が原因で剥離損耗を生じる課題があった。亀裂の発生には、タンディッシュに内張りされた前記キャスタブル耐火物の施工体の構造が関係する。前記キャスタブル耐火物をタンディッシュに内張りする場合には、その上端部分を金物で拘束する。これは、使用中にタンディッシュの側壁部に施工された前記キャスタブル耐火物の脱落を防止するためである。このように、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の上端を拘束した状態で使用すると、前記耐火物の熱膨張により座屈が生じ、亀裂が発生することになる。
【0003】
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の使用中の座屈を防止するために、次の2点の方法が検討されてきた。1点目は、熱膨張を制御することにより、その熱膨張により発生する応力を低減する方法である。2点目は、熱膨張により発生する応力を緩和するために、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物にクリープを付与する方法である。
【0004】
特許文献1では、熱膨張を制御するために、アンダルサイトとムライトとからなる配合物を骨材として規定量配合したキャスタブル耐火物が開示されている。特許文献2では、0.2MPaの荷重下における1500℃で5時間保持した時のクリープ量を規定したアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-17241号公報
【特許文献2】特開2005-152908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載のキャスタブル耐火物は、その使用中に発生する亀裂を起点とした剥離損耗が十分に抑制されるものとは言い難い。従来技術ではアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物において、拘束下での熱膨張を制御することについて改善の余地がある。
【0007】
本発明は、拘束下での熱膨張が制御されたアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、タンディッシュの内張り炉材に用いられるアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の損耗機構を調べた結果、剥離損耗の原因となる使用中に耐火物に生じる亀裂は、拘束下での前記耐火物の熱膨張率が原因で発生することを見出した。本発明者が鋭意検討した結果、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物が使用中に座屈により剥離損耗の原因となる亀裂が発生するか否かは、前記耐火物の拘束下での1500℃における熱膨張率と相関し、拘束下での熱膨張率が制御された耐火物であれば、剥離損耗が少なくできることを知見し、本発明のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の開発を成すに至った。
【0009】
即ち、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1) アルミナ質耐火原料、アルミナ-シリカ質耐火原料、シリカ超微粉、アルミナセメント、及び、ムライトを含むアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物であって
前記アルミナ質耐火原料のうち粒径75μm未満のもの、前記シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状の前記ムライトが造粒物を構成しており、
前記造粒物の粒径が0.3mm以上1.0mm以下であることを特徴とする、
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物。
(2) JIS R2209に準拠した耐火れんがの荷重軟化点の試験方法において、室温から1500℃に到達した時点での熱膨張率の測定値が0.5%以上1.0%以下となることを特徴とする、(1)に記載のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物。
(3) (1)又は(2)に記載のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を内張り炉材として備える、タンディッシュ。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、拘束下での熱膨張が制御されたものであり、拘束下で使用された場合の亀裂起因の剥離損耗が少なく、耐用性に極めて優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】タンディッシュの断面における耐火物ライニングの構成を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物
一実施形態に係るアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、アルミナ質耐火原料、アルミナ-シリカ質耐火原料、シリカ超微粉、アルミナセメント、及び、ムライトを含む。ここで、前記アルミナ質耐火原料のうち粒径75μm未満のもの、前記シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状の前記針状ムライトが造粒物を構成しており、前記造粒物の粒径が0.3mm以上1.0mm以下である。
【0013】
1.1 成分
1.1.1 アルミナ質耐火原料
アルミナ質耐火原料としては、例えば、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、アルミナ超微粉、及び、アルミナゾルからなる群より選ばれる少なくとも1種の耐火原料を使用することができる。中でも、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト及びアルミナ超微粉からなる群より選ばれる少なくとも1種の耐火原料が好ましい。尚、本願にいう「アルミナ超微粉」とは、10μm以下の粒径(SEM画像等から特定される面積円相当直径、及び、篩分級による粒径、のうちの少なくとも一方であればよい)を有するアルミナ粉をいう。アルミナ質耐火原料の形状や大きさは特に限定されるものではない。ただし、後述するように、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物には、造粒物を構成する成分として粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料が必須で含まれる。尚、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれる粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料は、そのすべてが後述の造粒体を構成していてもよく、或いは、その一部が造粒体を構成せずに遊離した状態等で存在していてもよい。例えば、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれる粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料は、その90質量%以上が後述の造粒体を構成していてもよい。また、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物には、骨材として粒径75μm以上のアルミナ質耐火原料が含まれ得る。アルミナ質耐火原料の含有量は特に限定されるものではない。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、アルミナ質耐火原料を、例えば、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上又は25質量%以上含んでいてもよく、45質量%以下、40質量%以下又は35質量%以下含んでいてもよい。中でも40質量%以下が好ましい。
【0014】
1.1.2 アルミナーシリカ質耐火原料
アルミナ-シリカ質耐火原料としては、例えば、アンダルサイト、及び、シャモットのうちの少なくとも一方を使用することができる。特に、アンダルサイトがより好適に使用され得る。アルミナ-シリカ質耐火原料の形状や大きさは特に限定されるものではない。また、アルミナーシリカ質耐火原料の含有量も特に限定されるものではない。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、アルミナーシリカ質耐火原料を、例えば、20質量%以上、24質量%以上、25質量%以上又は28質量%以上含んでいてもよく、60質量%以下、58質量%以下又は56質量%以下含んでいてもよい。中でも25質量%以上が好ましい。
【0015】
1.1.3 シリカ超微粉
シリカ超微粉としては、シリコンやシリコン合金の製造時に副生するシリカフラワーやシリカヒュームといったもの、気相法で製造したエアロゾル状のもの、湿式法で合成した非晶質含水シリカ、及び、それを乾燥させたもの、から選ばれる少なくとも1種のシリカ粉が使用できる。尚、本願にいう「シリカ超微粉」とは、1μm以下の粒径(SEM画像等から特定される面積円相当直径、及び、篩分級による粒径、のうちの少なくとも一方であればよい)を有するシリカ粉をいう。シリカ超微粉は、後述するシリカ質耐火原料としても機能し得る。シリカ超微粉の含有量は特に限定されるものではない。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、シリカ超微粉を、例えば、1質量%以上、2質量%以上又は3質量%以上含んでいてもよく、10質量%以下、7質量%以下又は5質量%以下含んでいてもよい。中でも1質量%以上5質量%以下が好ましい。尚、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれるシリカ超微粉は、そのすべてが後述の造粒体を構成していてもよく、或いは、その一部が造粒体を構成せずに遊離した状態等で存在していてもよい。例えば、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれるシリカ超微粉は、その90質量%以上が後述の造粒体を構成していてもよい。
【0016】
1.1.4 アルミナセメント
アルミナセメントとしては、例えば、CaO・Al2O3を含有するアルミナセメントが使用できる。CaO・Al2O3に加えて、アルミナやスピネルを含むアルミナセメントを使用することも可能である。アルミナセメントの含有量は特に限定されるものではない。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、アルミナセメントを、例えば、1質量%以上、2質量%以上又は4質量%以上含んでいてもよく、10質量%以下、8質量%以下又は6質量%以下含んでいてもよい。中でも4質量%以上が好ましい。
【0017】
1.1.5 ムライト
ムライトとしては、例えば、ムライト繊維を粉砕したものが使用できる。後述するように、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物には、造粒物を構成する成分として所定の形状を有する針状ムライトが必須で含まれる。具体的には、造粒物を構成する針状ムライトは、その長さが75μm未満である。「針状」とは、直径に対して、それよりも長い長さを有することを意味する。長さの下限は特に限定されるものではないが、例えば、25μm以上であってもよい。直径についても特に限定されるものではないが、例えば、5μm以上7μm以下であってよい。針状ムライトの長さや直径は、例えば、SEMによる観察及び元素分析等によって特定され得る。すなわち、「長さ」は、SEM等にて観察される一つの針状ムライトについての長手方向の最大長さであってよく、「直径」は、SEM等にて観察される一つの針状ムライトの短辺方向(幅方向)の最大長さ、及び、短辺方向の断面における面積円相当直径の最大値、のうちの少なくとも一方であってよい。或いは、SEM等の画像解析に替えて、篩分級等の機械的操作によって針状ムライトの長さや直径が特定されてもよい。針状ムライトの含有量は特に限定されるものではない。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、長さ75μm未満の針状ムライトを、例えば、5質量%以上、7質量%以上又は10質量%以上含んでいてもよく、40質量%以下、35質量%以下又は30質量%以下含んでいてもよい。中でも10質量%以上30質量%以下が好ましい。尚、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれる長さ75μm未満の針状ムライトは、そのすべてが後述の造粒体を構成していてもよく、或いは、その一部が造粒体を構成せずに遊離した状態等で存在していてもよい。例えば、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に含まれる長さ75μm未満の針状ムライトは、その90質量%以上が後述の造粒体を構成していてもよい。
【0018】
1.1.6 その他の成分
アルミナーシリカ質キャスタブル耐火物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。例えば、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、上記のシリカ超微粉以外のシリカ質耐火原料を含んでいてもよい。シリカ超微粉以外のシリカ質耐火原料としては、例えば、石英、溶融シリカのほか、未使用、或いは、使用済みの珪石煉瓦の破砕粒子等が例示できる。尚、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、シリカ超微粉以外のシリカ質耐火原料を、例えば、10質量%以下含んでいてもよい。
【0019】
また、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、長さ75μm未満の針状ムライトに加えて、所望の効果が発揮される範囲で、それ以外のムライト(その他のムライト)を含んでいてもよい。その他のムライトが存在していても、存在していなくても、所望の効果が奏される。アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物において、その他のムライトの含有量は、例えば、10質量%以下、5質量%以下又は1質量%以下であってもよい。
【0020】
また、アルミナーシリカ質キャスタブル耐火物は、分散剤や爆裂防止剤といった各種添加剤に由来する成分を含んでいてもよい。
【0021】
分散剤としては、一般に使用されるものでよい。例えばトリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、ポリカルボン酸ソーダ、スルホン酸ソーダ、ナフタレンスルホン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、炭酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、クエン酸ソーダ等が使用できる。
【0022】
爆裂防止剤としては、一般に使用されるものでよい。例えばビニロンファイバー、乳酸アルミニウム、発泡剤である金属アルミニウム、アゾジカルボンアミド等が使用できる。
【0023】
1.2 熱膨張率について
本実施形態に係るアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、JIS R2209に準拠した耐火れんがの荷重軟化点の試験方法において、室温(20℃)から1500℃に到達した時点での熱膨張率の測定値が0.5%以上1.0%以下となり得る。これにより、耐亀裂性に一層優れたものとなる。
【0024】
1.2.1 熱膨張率に影響を与える化学反応
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物において、0.2MPaの圧力を負荷しながら、1500℃まで加熱する過程では、例えば、下記の反応が生じることになる。
アンダルサイト → ムライト + 液相 (1)式
アルミナ + シリカ → ムライト (2)式
【0025】
(1)式では、生成した液相の毛細管力によりアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は収縮し、(2)式ではムライト生成時に付随する体積膨張により前記耐火物は膨張することになる。したがって、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物のJIS R2209に準拠した耐火れんがの荷重軟化点の試験方法における室温から1500℃に到達した時点での熱膨張率は、前記耐火物を構成する耐火原料自体の熱膨張に加え、上記の(1)式による収縮や、(2)式による膨張を重畳した結果を表している。
【0026】
熱膨張率の測定値が0.5%未満では、上記の(1)式の反応により液相生成量が多くなったものと判定される。タンディッシュに溶鋼等の溶融金属が存在する、つまり、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物が加熱されている際には、亀裂が発生することはない。しかし、タンディッシュに溶鋼等の溶融金属が存在しない、つまり、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物が冷却された際には、上記液相の固化時の体積収縮により、前記耐火物の収縮が過剰となり、亀裂が発生することになる。
【0027】
熱膨張率の測定値が1.0%超では、上記の(2)式の反応が促進されたものと判定される。つまり、上記(2)式の反応により、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の熱膨張が大きくなり、座屈が原因で、亀裂が発生することになる。
【0028】
つまり、アルミナ質耐火原料、アルミナ-シリカ質耐火原料、シリカ質耐火原料、及び、アルミナセメントから成るアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物において、拘束下での熱膨張率を規定するには、アルミナ-シリカ質耐火原料の一種であるアンダルサイトの上記(1)式の反応は不可避であることから、上記(2)式のアルミナとシリカの反応によるムライトの生成を制御することが重要となる。
【0029】
1.2.2 上記(2)式の反応に起因する熱膨張率を制御するための形態
本実施形態においては、粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ質耐火原料の一種であるシリカ超微粉、及び、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトが造粒物を構成することで、上記(2)式のアルミナとシリカの反応によるムライトの生成を制御することができる。
【0030】
造粒に使用するアルミナ質耐火原料の最大粒径を75μm未満とするのは、上記(2)式のシリカとの反応を制御するためである。アルミナ質耐火原料の最大粒径が75μm未満であると、上記(2)式のシリカとの反応が促進され易い。このような反応性の高いアルミナ質耐火原料をシリカ超微粉とともに造粒することで、上記(2)式の反応が適度に進行することとなり、拘束下での熱膨張率の測定値が0.5%以上1.0%以下に制御され易くなる。造粒物を構成するアルミナ質耐火原料の粒径の下限は特に限定されるものではないが、好ましくは25μm以上である。一方で、アルミナ質耐火原料の最大粒径が大き過ぎると、上記(2)式のシリカとの反応が進行しない結果、反応に付随する膨張が発現せず、上記(1)式の反応に起因する収縮のみが不可避的に生じることで、拘束下での熱膨張率の測定値が0.5%未満となり易い。
【0031】
造粒の際、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトを使用するのは、最大粒径が75μm未満のアルミナ質耐火原料とシリカ超微粉との反応によるムライトの生成が促進されることで、膨張が効果的に発現するからである。前記のアルミナとシリカとは高温で反応し、生成した液相からムライト結晶を析出させるが、ムライトの結晶核の生成には多大なエネルギーが必要となるため、容易にはムライトの析出は起こらない。このアルミナとシリカとの反応点の近傍に、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトが存在すると、アルミナとシリカとの反応によるムライトの析出、並びに、ムライトの成長が容易に起こる。結果として、上記(2)式の反応が適度に進行することとなり、拘束下での熱膨張率の測定値が0.5%以上1.0%以下に制御され易くなる。尚、粒径5μm以上7μm以下の粒状ムライトでは、膨張が効果的に発現するほどのムライトの生成、成長が生じない。この点、「粒状」ムライトではなく、上記のように一定の長さを有する「針状」ムライトを用いる必要がある。また、針状ムライトの長さが大き過ぎると、立体的な障害になり、最大粒径が75μm未満のアルミナ質耐火原料とシリカ超微粉との反応によるムライトの生成が阻害され易い。結果として、上記(2)式の反応が十分に進行せず、上記(1)式の反応のみが不可避的に生じて収縮が生じることで、拘束下での熱膨張率の測定値が0.5%未満となり易い。
【0032】
1.2.3 造粒方式
粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトを造粒する方式としては、乾式での高速混合方式や湿式での混合方式を用いることができる。
【0033】
湿式での混合方式では、粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトを、例えば、ミキサーに装填して混合し、撹拌中に樹脂材料、例えばエポキシ樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂のいずれか1つの樹脂を有機溶剤で希釈した溶液を添加することで、化学結合力により造粒物を作製することができる。
【0034】
1.2.4 造粒物の大きさ
粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ムライトによって構成される造粒物は、0.3mm以上1.0mm以下の粒径を有する。このような粒径を有することで、ムライトの生成時に付随する体積膨張が制御され易くなる。造粒物の粒径が小さ過ぎると、ムライトの生成時に付随する体積膨張が過少となる。一方で、造粒物の粒径が大き過ぎると、ムライトの生成時に付随する体積膨張が過剰となる。尚、本願において、造粒物の粒径は、例えば、以下のようにして測定することができる。すなわち、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物をSEM等で観察し、耐火物に含まれる粒子の形状を観察するとともに、EDX等による元素分析によって、観察画像に含まれる造粒物を特定する。特定された造粒物の面積を円に換算し、「面積円相当直径」として造粒物の粒径を特定する。或いは、原料の段階で篩分級によって粒径が選別されてもよい。
【0035】
1.3 補足
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の拘束下での熱膨張率をJIS R2209に準拠した耐火れんがの荷重軟化点の試験方法で測定する理由は以下の通りである。
【0036】
JIS R2209に記載された耐火れんがの荷重軟化点の試験方法とは、耐火れんがに0.2MPaの圧力を負荷しながら、室温から所定温度まで加熱し、その温度で所定の時間、加熱する過程での熱膨張を測定する方法である。ここで、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物に負荷する0.2MPaという圧力が、使用中のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の拘束条件の代表値として適切であるためである。負荷する圧力が小さ過ぎると、拘束条件が弱いために、前記耐火物の熱膨張率を過大に測定することになり、負荷する圧力が大き過ぎると、拘束条件が強いために、前記耐火物の熱膨張率を過少に測定することになり、前記耐火物の耐亀裂性を正確に評価することができない。
【0037】
0.2MPaの圧力下でのアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の熱膨張率の測定温度を1500℃とするのは、使用中に前記耐火物が曝されている温度の代表値として適切であるためである。測定温度が低過ぎても、高過ぎても、使用中の前記耐火物の熱膨張率を正確に測定することができないため、前記耐火物の耐亀裂性を正確に評価することができない。
【0038】
2.アルミナーシリカ質キャスタブル耐火物の製造方法
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、例えば、以下のような製造方法によって製造され得る。すなわち、一実施形態に係るアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の製造方法は、
第1工程:粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料と、シリカ超微粉と、長さ75μm未満(好ましくは、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下)の針状ブライトとを造粒して造粒物を得ること、及び、
第2工程:アルミナ質耐火原料と、アルミナーシリカ質耐火原料と、アルミナセメントと、前記造粒物とを混合すること、
を含むものであってもよい。
【0039】
第1工程については上述した通りである。第2工程については、一般的な方法によって混合されればよい。具体的な混合方法については、施工時の条件等に応じて適宜選択されればよい。例えば、前記組成を満たすキャスタブル耐火物100質量%に対し、外掛けで5~8質量%の水を添加し、ミキサーで混練し型枠に流し込むことによって、各種形状に成形された耐火物を作製してもよい。作製の際には充填性を向上させるため、混練物を流し込んだ型枠に振動を付与してもよい。
【0040】
3.用途の一例
本実施形態に係るアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物は、拘束下での熱膨張が制御され、拘束しつつ使用される場合に、亀裂起因の剥離損耗が少なく、耐用性に極めて優れる。このような特性が生かされる用途としては様々なものがあるが、特に、タンディッシュの内張り炉材が好適である。すなわち、本開示の技術は、上記のアルミナーシリカ質キャスタブル耐火物を内張り炉材として備えるタンディッシュとしての側面も有する。
図1に、一実施形態に係るタンディッシュ10の断面における耐火物ライニングの構成を概略的に示す。
図1に示されるように、タンディッシュ10は、外枠としての金物1と、金物1の内壁の少なくとも一部を覆うパーマ耐火物2と、パーマ耐火物2の表面の少なくとも一部を覆う内張り炉材3と、内張り炉材3の表面の少なくとも一部を覆うコーティング材4とを備えるものであってよい。ここで、
図1に示されるように、内張り炉材3は、その上端部分が、金物1によって拘束され得る。このような内張り炉材3が上記のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物によって構成されることで、拘束下での熱膨張が制御され、亀裂起因の剥離損耗等が抑制され易い。尚、金物1、パーマ耐火物2及びコーティング材4については、従来公知のものが採用されればよく、各々の形状等についても、タンディッシュ10の形状等に応じて適宜決定されればよい。
【実施例0041】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
表1に、アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の原料配合と評価結果を示す。表1の配合で作製したキャスタブル耐火物100質量%に対して、外掛けで5~8質量%の範囲で水を添加し、二軸ミキサーを用いて3分間混練し、混練物を所定寸法の金枠に振動を付与させながら流し込んだ。そして、室温で24時間養生した後に、110℃で24時間乾燥させることにより評価試料を作製した。比較例1は特許文献1(特開平5-17241号公報)で開示されたアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を模して作製した例であり、比較例2は特許文献2(特開2005-152908号公報)で開示されたアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物を模して作製した例である。
【0043】
長さ75μm未満の針状ムライトは、三菱ケミカル社製ムライト繊維(直径5μm以上7μm以下)を粉砕し、目開き75μmの篩を通過したもの(長さ75μm未満のもの)と、通過しなかったもの(長さ75μm以上のもの)とを使用した。尚、本実施例において、長さ75μm以上の針状ムライトは、目開き75μmの篩を実質的に通過しないことが確認された。
【0044】
粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状ムライトの造粒は湿式混合方式を用いて行った。具体的には、粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満、且つ、直径5μm以上7μm以下の針状ムライトをプロシェアミキサーを用いて混合、撹拌し、撹拌中にエチレングリコール溶液で1000分の1に希釈したフェノール樹脂を添加することにより、造粒を行った。得られた造粒物に対しては、篩分けを行い、粒径0.3mm未満の造粒物と、粒径0.3mm以上1.0mm以下の造粒物と、粒径1.0mm超の造粒物とを各々を得た。
【0045】
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の拘束下での1500℃での熱膨張率の測定は、JIS R2209に規定された耐火れんがの荷重軟化点の試験方法に準じて行った。
【0046】
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の1500℃でのクリープ量の測定は、JIS R2209に規定された耐火れんがの荷重軟化点の試験方法に準じて行った。クリープ量は、1500℃到達時点での熱膨張率から、1500℃で5時間経過した時点での熱膨張率を差し引くことで算出した。
【0047】
アルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の無拘束下での熱膨張率の測定は、JIS-R2207に規定された耐火物の熱膨張の試験方法に準じて行った。
【0048】
一方で実機使用時のアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物の亀裂起因の剥離損耗の発生有無の確認は、表1の各例の配合割合からなるアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物100質量%に対して、外掛けで5~8質量%の範囲で水を添加し、二軸ミキサーを用いて3分間混練し、混練物を容量70tのタンディッシュの内張り炉材として施工し、このタンディッシュを400回(ch)繰り返し使用した後に、タンディッシュ側壁部に施工された当該耐火物の表面を目視観察することで行った。
【0049】
【0050】
表1に示されるように、実施例1~5のキャスタブル耐火物は、粒径75μm未満のアルミナ質耐火原料、シリカ超微粉、及び、長さ75μm未満の針状ムライトが造粒され、かつ、造粒物の粒径が0.3mm以上1.0mm以下であることから、ムライトの生成に付随する体積膨張を制御できた結果、拘束下での1500℃の熱膨張率が0.5%~1.0%の範囲にあり、実機で使用しても亀裂起因の剥離損耗が発生しないことが実証された。
【0051】
比較例1、比較例2では、長さ75μm未満の針状ムライトが配合されておらず、さらには、造粒もされていないために、実際に実機で使用すると亀裂起因の剥離損耗が発生していた。
【0052】
比較例3では、使用した針状ムライトの長さが75μm以上であったため、拘束下での1500℃の熱膨張率が0.5%未満となった結果、実際に実機で使用すると亀裂起因の剥離損耗が発生していた。
【0053】
比較例4では、造粒物の粒径が0.3mm未満であったために、ムライトの生成時に付随する体積膨張が過少となり、拘束下での1500℃の熱膨張率が0.5%未満となった結果、実際に実機で使用すると亀裂起因の剥離損耗が発生していた。
【0054】
比較例5では、造粒物の粒径が1mm超であったために、ムライトの生成時に付随する体積膨張が過剰となり、拘束下での1500℃の熱膨張率が1.0%超となった結果、実際に実機で使用すると亀裂起因の剥離損耗が発生していた。
本発明によれば、耐用性に極めて優れたアルミナ-シリカ質キャスタブル耐火物及び当該キャスタブル耐火物を用いた実機(例えば、タンディッシュ)を製造することができる。