IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同メタル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図1
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図2
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図3
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図4
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図5
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図6
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図7
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図8
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図9
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図10
  • 特開-車両用スライドドアのガイドローラ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122499
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】車両用スライドドアのガイドローラ
(51)【国際特許分類】
   E05D 15/06 20060101AFI20230825BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230825BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20230825BHJP
   F16C 29/04 20060101ALI20230825BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
E05D15/06 104
F16C19/06
F16C33/58
F16C29/04
E05D15/06 118
B60J5/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026239
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174182
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 広人
(72)【発明者】
【氏名】奥平 賢嗣
【テーマコード(参考)】
2E034
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
2E034AA08
2E034BA03
2E034BD01
3J104AA15
3J104AA17
3J104AA23
3J104AA33
3J104AA69
3J104CA02
3J104CA13
3J104DA14
3J104EA10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701DA14
3J701EA03
3J701EA31
3J701FA31
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】 被覆部材の剥離および割れを防止することが可能な車両用スライドドアのガイドローラを提供する。
【解決手段】 2つの偏心溝51a,51bを備える構成では、被覆部材7の上縁部がガイドレール部材と接触することで大きな負荷を受けながら転動されたとしても、外輪5の外周面50と被覆部材7とが外輪5の回転軸線中心X0周りに相対的に滑り変位し難くなり、被覆部材7が外輪5の外周面50から剥離することを防止することができる。また、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの間には、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びる同心溝52が形成されているため、弾性変形量の差によるせん断応力が緩和され、被覆部材7の割れを防止することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に設けられるレールに沿って転動するガイドローラであって、スライドドアに連結される支持部材に回転自在に軸支されるガイドローラにおいて、
前記ガイドローラは、金属製のリング状の内輪と、該内輪の外周面にベアリングを保持するリテーナを介して回転可能に装着された金属製のリング状の外輪と、該外輪の外周面に装着された合成樹脂製の被覆部材と、から構成され、
前記外輪の外周面には、周方向に延び、前記外輪の回転軸線中心に対して偏心中心が互いに点対称であり、外周面からの溝深さが周方向に変化する2つの偏心溝を備え、
2つの前記偏心溝は、前記外輪の外周面にて前記外輪の軸線方向に離間して形成され、
前記外輪の外周面における2つの前記偏心溝の間には、前記外輪の回転軸線中心に対して同心であり、周方向全長に亘って延びる同心溝と同心凸条部とのいずれかを備え、
前記被覆部材は、前記外輪の外周面と、2つの前記偏心溝と、前記同心溝または前記同心凸条部と、を覆うように形成されていることを特徴とする車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項2】
前記偏心溝は、前記外輪の外周面の周方向全長に亘って延びることを特徴とする請求項1記載の車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項3】
前記同心溝または前記同心凸条部は、前記外輪の外周面における2つの前記偏心溝の中央部に形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用スライドドアのガイドローラ。
【請求項4】
前記偏心溝の幅は、周方向に変化することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用スライドドアのガイドローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側に設けられるレールに沿って転動し、スライドドアに連結される支持部材に回転自在に軸支される車両用スライドドアのガイドローラに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のスライドドアは、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ、及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させることによって、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、スライドドアをスライド開閉できるようにしている。
【0003】
図11に示すように、車体側に設けられるガイドレールに沿って転動するガイドローラ21は、金属製の内輪22と、内輪22の外周面にベアリング23を保持するリテーナ24を介して回転可能に装着された金属製の外輪25と、外輪25の外周面を覆う合成樹脂製の被覆部材27と、から構成される。この構造によると、金属製のガイドレールと外輪25とが接することがなく、被覆部材27がガイドレールに転接するため、ドア開閉時の静音性が向上する。
【0004】
ところで、ガイドローラがガイドレールに沿って転動するときには、外輪25の外周面と合成樹脂製の被覆部材27とが回転軸線中心X0周りに相対的に滑り変位し、合成樹脂製の被覆部材27が外輪25の外周面から剥離することがある。このような剥離を防止するため、ガイドローラとして、特許文献1の図2に示すように、外輪の外周面に回転軸線に対して中心軸線が互いに逆方向に偏心し、溝深さが連続して変化し、外周面の周方向に延びる2つの偏心溝が形成され、外輪の外周面および2つの偏心溝を覆うように被覆部材を接合したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008―57568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記提案のスライドドアのガイドローラは、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ-ラ自体が傾いたまま転動される場合がある。この場合、樹脂製の被覆部材の上縁がガイドレール面と接触することで大きな負荷を受けながら転動され、その結果、2つの偏心溝の間の外周面のうち、一方の偏心溝の溝深さが最大であり、且つ、他方の偏心溝の溝深さが最小である付近の外周面に被覆された被覆部材に割れが発生することがある。これは、一方の偏心溝の溝深さが最大となる付近での被覆部材は、ローラの転動による負荷により偏心溝に押し込まれるように弾性変形するために、外輪の外周面の沿った方向への弾性変形量が大きくなるが、他方の偏心溝の溝深さが最小となる付近での被覆部材は、偏心溝の狭いくさび形状が弾性変形の抵抗となるので、外輪の外周面の沿った方向への弾性変形量が小さくなり、この弾性変形量の差により、2つの偏心溝の間の外周面のうち、一方の偏心溝の溝深さが最大であり、且つ、他方の偏心溝の溝深さが最小である付近の外周面に被覆された被覆部材の内部に大きなせん断応力が生じ、被覆部材に割れが発生すると考えられる。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、被覆部材の剥離および割れを防止することが可能な車両用スライドドアのガイドローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、
車体側に設けられるレールに沿って転動するガイドローラであって、スライドドアに連結される支持部材に回転自在に軸支されるガイドローラにおいて、
前記ガイドローラは、金属製のリング状の内輪と、該内輪の外周面にベアリングを保持するリテーナを介して回転可能に装着された金属製のリング状の外輪と、該外輪の外周面に装着された合成樹脂製の被覆部材と、から構成され、
前記外輪の外周面には、周方向に延び、前記外輪の回転軸線中心に対して偏心中心が互いに点対称であり、外周面からの溝深さが周方向に変化する2つの偏心溝を備え、
2つの前記偏心溝は、前記外輪の外周面にて前記外輪の軸線方向に離間して形成され、
前記外輪の外周面における2つの前記偏心溝の間には、前記外輪の回転軸線中心に対して同心であり、周方向全長に亘って延びる同心溝と同心凸条部とのいずれかを備え、
前記被覆部材は、前記外輪の外周面と、2つの前記偏心溝と、前記同心溝または前記同心凸条部と、を覆うように形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明においては、請求項1記載の車両用スライドドアのガイドローラにおいて、前記偏心溝は、前記外輪の外周面の周方向全長に亘って延びることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に記載の車両用スライドドアのガイドローラにおいて、前記同心溝または前記同心凸条部は、前記外輪の外周面における2つの前記偏心溝の中央部に形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用スライドドアのガイドローラにおいて、前記偏心溝の幅は、周方向に変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明においては、外輪の外周面に、周方向に延び、外輪の回転軸線中心に対して偏心中心が互いに点対称であり、外周面からの溝深さが周方向に変化する2つの偏心溝を備え、2つの偏心溝は、外輪の外周面にて外輪の軸線方向に離間して形成され、被覆部材は、外輪の外周面と、2つの偏心溝と、を覆うように形成されている。このため、アーム部材の揺動により支軸が傾いてガイドロ-ラ自体が傾いたまま転動される場合、被覆部材の上縁部がガイドレール部材と接触することで大きな負荷を受けながら転動されたとしても、外輪の外周面と被覆部材とが外輪の回転軸線中心周りに相対的に滑り変位し難くなり、被覆部材が外輪の外周面から剥離することを防止することができる。また、一方の偏心溝の溝深さが最大となる付近での被覆部材の弾性変形量と、隣接する被覆部材として、他方の偏心溝の溝深さが最小となる付近での被覆部材の弾性変形量の差が大きくなるが、外輪の外周面における2つの偏心溝の間には、外輪の回転軸線中心に対して同心であり、外輪の外周面の全長に亘って延びる同心溝または同心凸条部のいずれかが形成されるために、弾性変形量の差によるせん断応力が緩和され、被覆部材の割れを防止することができる。
【0013】
また、請求項2に係る発明においては、偏心溝は、外輪の外周面の周方向全長に亘って延びることで、外輪の外周面と被覆部材とが外輪の回転軸線中心周りに相対的に滑り変位し難くなる効果が高まり、外輪からの被覆部材の剥離を防止することができる。
【0014】
また、請求項3に係る発明においては、同心溝または同心凸条部は、外輪の外周面における2つの偏心溝の中央部に形成されることで、被覆部材の内部に発生するせん断応力を抑制する効果が高まり、被覆部材の割れを防止することができる。
【0015】
また、請求項4に係る発明においては、偏心溝の幅は、周方向に変化することで、外輪の外周面と被覆部材とが外輪の回転軸線周りに相対的に滑り変位し難くなる効果が高まり、外輪からの被覆部材の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガイドローラの断面を示す側面図である。
図2】ガイドローラを構成する外輪の断面を示す側面図(A)、正面図(B)である。
図3】外輪に形成された偏心溝の断面を示す模式図である。
図4】外輪に形成された同心溝の断面を示す模式図である。
図5】第二実施形態のガイドローラの断面を示す側面図である。
図6】外輪に形成された同心凸条部の断面を示す模式図である。
図7】第三実施形態のガイドローラの断面を示す側面図である。
図8】第三実施形態のガイドローラを構成する外輪の側面図(A)、正面図(B)である。
図9】外輪に形成された偏心溝の断面を示す模式図である。
図10】外輪に形成された同心凸条部の断面を示す模式図である。
図11】従来のガイドローラの断面を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態(第一実施形態)に係る車両用スライドドアのガイドローラ1について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は、ガイドローラ1の断面を示す側面図であり、図2は、ガイドローラ1を構成する外輪5の断面を示す側面図(A)、正面図(B)であり、図3は、外輪5の外周面50に形成された偏心溝51a,51bの断面を示す模式図であり、図4は、外輪5の外周面50に形成された同心溝52の断面を示す模式図である。
【0018】
車両のスライドドアは、前述したように、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレールに、スライドドアの前端上部に設けたアッパガイドローラ、後端の高さ方向中央部に設けたセンタガイドローラ、及び前端下部に設けたロアガイドローラをそれぞれ転動可能に係合させることによって、スライドドアを車体側壁に沿ってスライド可能に支持し、スライドドアをスライド開閉できるようにしている。
【0019】
図1に示すように、ガイドローラ1は、金属製のリング状の内輪2と、内輪2の外周面に複数のベアリング3を保持するリテーナ4を介して回転可能に装着された金属製のリング状の外輪5と、外輪5の外周面50を覆う合成樹脂製の被覆部材7と、外輪5と内輪2を密閉するシールリング8と、から構成されている。なお、シールリング8は、外輪5と内輪2を密閉することにより、内部に異物が混入しないようにするとともに、ガイドローラ1内に介在するグリスが漏れないようにする機能を有している。
【0020】
図2(A)に示すように、外輪5の外周面50には、2つの偏心溝51a,51bが外輪5の軸線方向に離間して形成されている。また、図2(B)に示すように、2つの偏心溝51a,51bは、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びており、偏心溝51aの偏心中心X1aと偏心溝51bの偏心中心X1bが、外輪5の回転軸線中心X0に対して互いに点対称であり、外輪5の外周面50からの径方向の溝深さD1が周方向に変化している。このような構成では、被覆部材7の上縁部がガイドレール部材と接触することで大きな負荷を受けながら転動されたとしても、外輪5の外周面50と被覆部材7とが外輪5の回転軸線中心X0周りに相対的に滑り変位し難くなり、被覆部材7が外輪5の外周面50から剥離することを防止することができる。
【0021】
また、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの中央部には、外周面50から径方向の内側に向けて同心溝52が形成されている。この同心溝52は、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びており、外輪5の回転軸線中心X0に対して同心であり、外輪5の外周面50からの径方向の溝深さD2が周方向全長に亘って一定になっている。このような構成では、偏心溝51a,51bのいずれか一方の溝深さD1が最大となる付近での被覆部材7の弾性変形量と、隣接する被覆部材7として、偏心溝51a,51bのいずれか他方の溝深さD1が最小となる付近での被覆部材7の弾性変形量の差が大きくなるが、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの間には、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びる同心溝52が形成されているために、弾性変形量の差によるせん断応力が緩和され、被覆部材7の割れを防止することができる。
【0022】
なお、2つの偏心溝51a,51bは、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びているが、このような構成では、2つの偏心溝51a,51bが、外輪5の外周面50の周方向の一部にしか形成されない構成よりも、外輪5の外周面50と被覆部材7とが外輪5の回転軸線中心X0周りに相対的に滑り変位し難くなる効果が高まり、被覆部材7が外輪5の外周面50から剥離することを防止することができる。
【0023】
また、同心溝52の形成位置は、2つの偏心溝51a,51bの間の中央部に限定されないで、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの間の何れの位置に形成されてもよい。ただし、同心溝52が、2つの偏心溝51a,51bの間の中央部に形成された構成では、中央部に形成されない構成よりも、弾性変形量の差によるせん断応力を抑制する効果が高まり、被覆部材7の割れを防止する効果を高めることができる。
【0024】
図3に示すように、偏心溝51a,51bは、矩形の断面形状に形成されている。また、偏心溝51a,51bにおける外輪5の外周面50からの径方向の溝深さD1は、外輪5の周方向に連続し変化するようになっており、偏心溝51a,51bの溝幅W1は、外輪5の周方向の全長に亘って一定になっている。なお、偏心溝51a,51bの断面形状は、矩形に限定されないで、他の形状とすることもできる。
【0025】
図4に示すように、同心溝52は、矩形の断面形状に形成されている。また、同心溝52における外輪5の外周面50からの径方向の溝深さD2、および同心溝52の溝幅W2は、外輪5の周方向全長に亘って一定になっている。なお、同心溝51の断面形状は、矩形に限定されないで、他の形状とすることもできる。
【0026】
本構成の寸法の一例としては、ガイドローラ1の外径(直径)が15~23mm、外輪5の外周面の外径(直径)が10~20mm、ガイドローラ1の軸線方向幅が5~10mmであり、偏心溝51a,51bの最大溝深さD1maxが0.3~3mmであり、偏心溝51a,51bの最小深さD1minが0.1~1mm(ただし、偏心溝51a,51bの最小溝深さD1minと最大溝深さD1max比(D1min/D1max)が0.2以上)であり、偏心溝51a,51bの溝幅W1が0.5~2mmであり、同心溝52の溝深さD2が0.1~2mmであり、同心溝52の溝幅W2が1~4mmである。ただし、本発明のガイドローラ1は、上記に示した寸法に限定されない。
【0027】
被覆部材7を構成する合成樹脂は、ポリアミド樹脂に繊維状粒子を添加した繊維強化樹脂の適用が好ましい。ただし、被覆部材7の材料は、繊維強化樹脂に限定されるものではない。被覆部材7は、樹脂と添加材との合成樹脂で構成され、インサート成型により外輪5に被覆される。ここで、樹脂とは、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。また、添加材とは、例えば、アラミド繊維、カーボン繊維、2硫化モリブデン、2硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0028】
なお、被覆部材7は、外輪5の外周面50、偏心溝51a,51b、同心溝52に被覆され、外輪5の軸線方向中央付近で、最も外径が大きくなる曲率を有するように形成されている。
【0029】
内輪2および外輪5は、軸受鋼(SUJ-2)等のFe合金を適用することができる。また、内輪2および外輪5の軌道部には、高周波焼入れ処理が施されることにより、支持軸(図示しない)にかしめ固着し易くするとともに、ベアリング3との摩擦摩耗に対して、耐久性を有するように構成することができる。
【0030】
本例では、外輪5の外周面50(偏心溝51a,51b、同心溝52を除く)をフラット(平坦形状)としているが、外輪5の外周面50の形状は、これに限定されないで、外周面50が1つの曲面あるいは複数の曲面からなるように形成されてもよい。
【0031】
次に、第二実施形態に係る車両用スライドドアのガイドローラ1について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、第二実施形態のガイドローラ1の断面を示す側面図であり、図6は、外輪5の外周面50に形成された同心凸条部53の断面を示す模式図である。なお、第二実施形態のガイドローラ1は、第一実施形態のガイドローラ1に対して、同心溝52に代えて、外輪5の外周面50に同心凸条部53が形成された構成のみが異なる。
【0032】
図5に示すように、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの中央部には、外周面50から径方向の外側に向けて同心凸条部53が形成されている。この同心凸条部53は、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びており、外輪5の回転軸線中心X0に対して同心であり、外輪5の外周面50からの径方向の高さD3が周方向全長に亘って一定になっている。このような構成では、偏心溝51a,51bのいずれか一方の溝深さD1が最大となる付近での被覆部材7の弾性変形量と、隣接する被覆部材7として、偏心溝51a,51bのいずれか他方の溝深さD1が最小となる付近での被覆部材7の弾性変形量の差が大きくなるが、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの間には、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びる同心凸条部53が形成されているために、弾性変形量の差によるせん断応力が緩和され、被覆部材7の割れを防止することができる。
【0033】
なお、同心凸条部53の形成位置は、2つの偏心溝51a,51bの間の中央部に限定されないで、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの間の何れの位置に形成されてもよい。ただし、同心凸条部53が、2つの偏心溝51a,51bの間の中央部に形成された構成では、中央部に形成されない構成よりも、弾性変形量の差によるせん断応力を抑制する効果が高まり、被覆部材7の割れを防止する効果を高めることができる。
【0034】
図6に示すように、同心凸条部53は、矩形の断面形状に形成されている。また、同心凸条部53における外輪5の外周面50からの径方向の高さD3、および同心凸条部53の溝幅W3は、外輪5の周方向全長に亘って一定になっている。なお、同心凸条部53の断面形状は、矩形に限定されないで、他の形状とすることもできる。
【0035】
本構成の寸法の一例としては、同心凸条部53の高さD3が0.1~2mmであり、同心凸条部53の幅W3が1~4mmである。ただし、同心凸条部53の高さD3、および同心凸条部53の幅W3は、上記に示した寸法に限定されない。
【0036】
次に、第三実施形態に係る車両用スライドドアのガイドローラ1について、図7乃至図10を参照して説明する。図7は、第三実施形態のガイドローラ1の断面を示す側面図であり、図8は、ガイドローラ1を構成する外輪5の側面図(A)、正面図(B)であり、図9は、外輪5の外周面50に形成された偏心溝51a,51bの断面を示す模式図であり、図10は、外輪5の外周面50に形成された同心凸条部53の断面を示す模式図である。なお、第三実施形態のガイドローラ1は、第一実施形態のガイドローラ1に対して、外輪5に形成された偏心溝51a,51bの形状と、同心溝52に代えて外輪5の外周面50に同心凸条部53が形成された構成と、外輪5の外周面50の軸線方向の一方の端部から径方向の外側に延びる鍔部6を備える構成と、が異なる。
【0037】
図8(A)に示すように、外輪5の外周面50には、2つの偏心溝51a,51bが外輪5の軸線方向に離間して形成されている。また、図8(B)に示すように、2つの偏心溝51a,51bは、外輪5の外周面50の周方向に延びており、偏心溝51aの偏心中心X1aと偏心溝51bの偏心中心X1bが、外輪5の回転軸線中心X0に対して互いに点対称であり、周方向長さ(外輪5の外周面50での形成範囲)が外輪5の外周面50の周方向全長よりも小さくなっている。なお、偏心溝51a,51bの周方向長さは、外輪5の外周面50で円周角度300°以上に相当する長さとすることが好ましい。
【0038】
図9に示すように、偏心溝51a,51bは、逆台形の断面形状に形成されている。また、偏心溝51a,51bにおける外輪5の外周面50からの径方向の溝深さD1、および偏心溝51a,51bの溝幅W1は、外輪5の周方向に連続し変化するようになっている。このように、偏心溝51a,51bの溝幅W1が、外輪5の周方向に変化する構成では、外輪5の周方向に一定にした構成よりも、外輪5の外周面50と被覆部材7とが外輪5の回転軸線中心X0周りに相対的に滑り変位し難くなる効果が高まり、被覆部材7が外輪5の外周面50から剥離することを防止することができる。なお、偏心溝51a,51bの断面形状は、逆台形に限定されないで、他の形状とすることもできる。
【0039】
図7に示すように、外輪5の外周面50における2つの偏心溝51a,51bの中央部には、外周面50から径方向の外側に向けて同心凸条部53が形成されている。この同心凸条部53は、外輪5の外周面50の周方向全長に亘って延びており、外輪5の回転軸線中心X0に対して同心であり、外輪5の外周面50からの径方向の高さD3が周方向全長に亘って一定になっている。
【0040】
図10に示すように、同心凸条部53は、円弧形の断面形状に形成されている。また、同心凸条部53における外輪5の外周面50からの径方向の高さD3、および同心凸条部53の溝幅W3は、外輪5の周方向全長に亘って一定になっている。
【0041】
また、外輪5は、外周面50の軸線方向の一方の端部から径方向の外側に延びる鍔部6を備え、被覆部材7は、外輪5の外周面50、偏心溝51a,51b、同心凸条部53、鍔部6の軸線方向の内側側面を覆うように形成されている。このような構成では、被覆部材7が外輪5の鍔部6の内側側面にも接触することで、被覆部材7と外輪5の接合がより強固となる。本例では、外輪5の鍔部6が軸線方向に対して垂直に延びるように形成されているが、鍔部6の伸長方向はこれに限定されないで、例えば、外輪5の鍔部6が外周面50から外輪5の軸線方向の外側へ向かって傾斜して延びるように形成されてもよい。
【0042】
以上説明した本発明のガイドローラ1は、車両用スライドドアに使用されるものであって、車体開口部の上縁部に設けたアッパレール、車体開口部に隣接する車体後部側壁の高さ方向中央部に設けたセンタレール、及び車体開口部の下縁部に設けたロアレール、のいずれにも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ガイドローラ
2 内輪
3 ベアリング
4 リテーナ
5 外輪
6 鍔部
7 被覆部材
8 シールリング
50 外周面
51 偏心溝
52 同心溝
53 同心凸条部起
X0 回転軸線
X1 偏心中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11