(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122548
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
A63B37/00 432
A63B37/00 344
A63B37/00 216
A63B37/00 618
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015276
(22)【出願日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2022025662
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 淳志
(57)【要約】
【課題】白色ボールに近い使用時の視覚的使い易さを保持するとともに、近くでは白色ボールとの識別性に優れ、遠くからは白く見えて視認性がよいゴルフボールを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、コアとカバーとの間に少なくとも1層の中間層が形成され、該カバーの外表面は塗料層が形成されるゴルフボールにおいて、上記カバーは、透明性又は半透明性を有する樹脂組成物により形成され、上記中間層は樹脂組成物により形成され、該中間層をコアに被覆した球体(中間層被覆球体)のJIS Z 8722に基づくLab表示のL値(明度)が92以上であり、彩度Cが10以下であると共に、上記塗料層は単層又は複数層であり、この層の少なくとも1層は偏光性を有する光輝性材料を含有し、且つ上記塗料層の内側にはマーキング部が施されており、該マーキング部のL値(明度)は塗料層を塗装する前の測定値で60以下であるゴルフボールを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとカバーとの間に少なくとも1層の中間層が形成され、該カバーの外表面は塗料層が形成されるゴルフボールにおいて、上記カバーは、透明性又は半透明性を有する樹脂組成物により形成され、上記中間層は樹脂組成物により形成され、該中間層をコアに被覆した球体(中間層被覆球体)のJIS Z 8722に基づくLab表示のL値(明度)が92以上であり、彩度Cが10以下であると共に、上記塗料層は単層又は複数層であり、この層の少なくとも1層は偏光性を有する光輝性材料を含有し、且つ上記塗料層の内側にはマーキング部が施されており、該マーキング部のL値(明度)は塗料層を塗装する前の測定値で60以下であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
中間層には白色系顔料が含まれる請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
白色系顔料が酸化チタンである請求項2記載のゴルフボール。
【請求項4】
中間層被覆球体のJIS Z 8722に基づくLab表示のL値(明度)が94以上であり、且つ、彩度Cが5以下である請求項2又は3記載のゴルフボール。
【請求項5】
塗料層を塗装したゴルフボールと中間層被覆球体との色差ΔEが10以下である請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項6】
偏光性を有する光輝性材料が、核とする雲母とこの核を被覆するコート層とを有する複合粒子からなる材料である請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項7】
偏光性を有する光輝性材料の配合量が、塗料層のベース樹脂100質量部に対して3~23質量部である請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとカバーとの間に少なくとも1層の中間層が形成され、該カバーの外表面は塗料層が形成される白色系のゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
市場で販売されているゴルフボールの大多数は白色である。白色であるゴルフボールは、ボールが静止しているとき、及び実打した後のボールの軌跡を追うときに見やすいものである。しかしながら、通常、大半のゴルファーは白色系のボールを使用するものであり、白色系のボールに単にマーキング部のデザインや色に工夫を加えただけでは、ボールの外観上の高級感は感じられ難いものであった。
【0003】
また、外観に高級感を有するゴルフボールとしては、カバーや塗料層のベース樹脂に光輝性材料を含有した技術がいくつか提案されている。例えば、特開2008-161375号公報には、ゴルフボール本体または塗膜には、コア層が金属で被覆された光輝性材料を含有している。しかし、このゴルフボールは、中間層の白色度が不明であり、マーキング部の表面に塗料層が形成される状態において、そのマーキング部を目視したときに高級感を有するまでには至っていない。
【0004】
更に、特開平6-170013号公報、特開2000-254251号公報、特開2008-183148号公報、特開2009-45234号公報、特開2009-45347号公報及び特開2009-106720号公報には、塗料層に偏光材料を含有したゴルフボールが記載されている。しかし、これらのゴルフボールは白色を基調としたゴルフボールにおいて、特にマーキング部が明瞭に識別しつつボール全体として高級感を呈するようなゴルフボールには至っていない。
【0005】
そのほか、本発明の白色系ゴルフボールに関連する技術しては、特開2001-87423号公報や米国特許出願公開第2010/0227710号明細書には、カバー材料に光沢性添加剤を配合することが記載されている。また、米国特許出願公開第2007/0149323号明細書には、中間層が着色され、カバーが透明性を呈し、中間層またはカバーに反射率の高い光学活性粒子を含有するゴルフボールが記載されている。更に、特開2004-166719号公報には、透明被覆層が特有の光輝性材料を含有し、且つLab方式のL値(明度)が低い色調のマーキング部を被覆したゴルフボールが提案されている。しかし、これらのゴルフボールにおいても、高級感のある白色を呈し、且つ、マーキング部の表示も、塗料層と相まって特有の高級感を呈するゴルフボールとは言えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-161375号公報
【特許文献2】特開平6-170013号公報
【特許文献3】特開2000-254251号公報
【特許文献4】特開2008-183148号公報
【特許文献5】特開2009-45234号公報
【特許文献6】特開2009-45347号公報
【特許文献7】特開2009-106720号公報
【特許文献8】特開2001-87423号公報
【特許文献9】米国特許出願公開第2010/0227710号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2007/0149323号明細書
【特許文献11】特開2004-166719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、白色ボールに近い使用時の視覚的使い易さを保持するとともに、近くでは白色ボールとの識別性に優れ、遠くからは白く見えて視認性がよいゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コアとカバーとの間に中間層が形成されたゴルフボールにおいて、中間層を白色の樹脂組成物により形成し、カバーは透明性を有するようにゴルフボールを作製することでボール外観の白色は中間層の表色により発現するようにした。そして、カバー外表面には塗料層を形成し、この塗料層に光輝性材料を含有し、且つ、塗料層の内側に、明度が比較的小さいマーキング部を形成することにより、ボール全体としては高級感を呈し、マーキング部は、該マーキング部の濃さと上記塗料層とが相まって、きらびやかな高級感のある表示に見えることを知見し、本発明をなすに至ったものである。特に、塗料層に含まれる光輝性材料が偏光性を有する場合には、ボール外観が見る角度によって、色合いが変わり、高級感を増すこととなる。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.コアとカバーとの間に少なくとも1層の中間層が形成され、該カバーの外表面は塗料層が形成されるゴルフボールにおいて、上記カバーは、透明性又は半透明性を有する樹脂組成物により形成され、上記中間層は樹脂組成物により形成され、該中間層をコアに被覆した球体(中間層被覆球体)のJIS Z 8722に基づくLab表示のL値(明度)が92以上であり、彩度Cが10以下であると共に、上記塗料層は単層又は複数層であり、この層の少なくとも1層は偏光性を有する光輝性材料を含有し、且つ上記塗料層の内側にはマーキング部が施されており、該マーキング部のL値(明度)は塗料層を塗装する前の測定値で60以下であることを特徴とするゴルフボール。
2.中間層には白色系顔料が含まれる上記1記載のゴルフボール。
3.白色系顔料が酸化チタンである上記2記載のゴルフボール。
4.中間層被覆球体のJIS Z 8722に基づくLab表示のL値(明度)が94以上であり、且つ、彩度Cが5以下である上記2又は3記載のゴルフボール。
5.塗料層を塗装したゴルフボールと中間層被覆球体との色差ΔEが10以下である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
6.偏光性を有する光輝性材料が、核とする雲母とこの核を被覆するコート層とを有する複合粒子からなる材料である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
7.偏光性を有する光輝性材料の配合量が、塗料層のベース樹脂100質量部に対して3~23質量部である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールによれば、高級感のある白色ボールであり、近くでは白色ボールとの識別性に優れ、遠くからは白く見えて視認性がよく、特にマーキング部はきらびやかな高級感のある表示となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施態様であるゴルフボールの概略断面図である。
【
図2】実施例1のゴルフボールの外観を現わす写真である。
【
図3】実施例2のゴルフボールの外観を現わす写真である。
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、コアとカバーと、これらの間に形成される中間層と、該カバーの外表面に形成される塗料層とを具備する。例えば、
図1では、コア1と、該コア1を被覆する中間層2と、該中間層を被覆するカバー3を有している3層構造のゴルフボールGが挙げられる。中間層は単層に形成されているが、複数層に形成することもできる。上記カバー3は、塗膜層を除き、ゴルフボールの層構造での最外層に位置するものである。上記カバー(最外層)3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。また、カバー3の表面には、塗料層4が形成され、塗料層の内側にはマーキング部Mが施されている。塗料層は単層に形成されているが、複数層に形成することもできる。以下、上記の各層について詳述する。
【0013】
コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、チタン系、コバルト系、ニッケル系、ネオジウム系等のチーグラー系触媒、コバルト及びニッケル等の金属触媒により合成することができる。
【0014】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤、ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0015】
上記コアの周囲には、コアを被覆する部材として、少なくとも1層の中間層とカバーを形成することができる。また、中間層が2層からなる場合は、各層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。さらには、中間層が3層以上からなってもよく、その場合は、内側から順に、内側包囲層、外側包囲層、中間層及び最外層と称することがある。
【0016】
中間層は樹脂組成物により形成される。この樹脂組成物としては、従来からゴルフボール用材料として採用される樹脂を主材とする樹脂組成物が挙げられる。樹脂としては、例えば、アイオノマー系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーなどが例示される。特に、反発性と成型性の点から、アイオノマー系樹脂が好適である。
【0017】
上記樹脂組成物には白色顔料を配合することが好適である。白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫化亜鉛、ホワイトマイカなどが挙げられる。これらの白色顔料を使用することにより、ボール外観として白色の度合いを際立たせたゴルフボールを発現し得る。
【0018】
中間層の厚さは、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.2mm以上であり、上限値は、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。
【0019】
コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)のL値(明度)は92以上であり、好ましくは94以上、より好ましくは96以上である。この値が小さすぎると、ボール全体のL値も小さくなり、暗く見え、ボールの識別性と高級感が低くなってしまう。
【0020】
中間層被覆球体のC値(彩度)は10以下であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。この値が大きいと、ボール全体の色相が人の目で感じられるようになり、白色のボールではないと認識されるようになり、白色のボールを使用球としているユーザーにとって違和感となるおそれがある。
【0021】
なお、上記のL値、C値は、JIS Z8722の規格に基づいたLab表示のL値、C値を意味する。明度(L値)は、色の明るさ度合いを示し、色味の情報を持たない。明度(L値)が高い場合は明るい色を意味し、低い場合は暗い色またはくすんだ色を意味する。また、C値(彩度)は、色の鮮やかさや混じりけのなさを表し、C=(a2+b2)1/2で表すことができる。これらの数値の測定方法は、公知の色差計を用いることができ、例えば、形式MSC-IS-2DH(スガ試験機(株)製)が挙げられる。以下、本明細書に記載において、L値、C値は全て上記の意味である。
【0022】
カバーは樹脂組成物により形成される。この樹脂組成物としては、特に制限されないが、具体的には、アイオノマー樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、熱硬化性ポリウレタン、またはこれらの混合物を樹脂組成物の主成分として使用して形成することができる。また、カバーには、上記主成分の他に、他の熱可塑性エラストマーや、ポリイソシアネート化合物、脂肪酸又はその誘導体、塩基性無機金属化合物、充填剤などを添加することができる。
【0023】
上記カバーの樹脂組成物は、透明性又は半透明性を有する。具体的には、カバーの可視領域光透過度が60%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。可視領域光透過度は、JIS K 0115規格に基づいて市販品の分光光度計などを用いて計測することができる。上記カバーの可視領域光透過度を計測する場合は、カバーのシート成型物をサンプルとして、その可視領域光透過度を計測することや、完成品であるゴルフボールからカバー剥離させ、使用する測定器の測定サンプル設置形状に合わせて短冊状に切り出し、測定器に設置することで可視領域光透過度を測定することができる。
【0024】
カバーの樹脂組成物には着色剤を含まないことが好適である。ここで言う着色剤とは、顔料、染料、酸化チタン等のように、カバーを積極的に着色する添加剤を意味する。即ち、本発明では、上述したように、中間層が白色を呈する樹脂組成物により形成されるものであるから、カバーの内側に相当する中間層の白色度合がそのままボール外観全体の白色を呈することになる。カバーが着色されて透明性を失った場合は、ボールの高級感が得られなくなることがある。
【0025】
カバーの厚さは、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.6mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上であり、上限値は、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.7mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。このカバーの厚さが薄すぎると、普通の白カバーの外観に近くなり、白色カバーボールとの識別性(違い)が小さくなってしまう。
【0026】
上記樹脂組成物は、例えば、混練型(単軸又は)2軸押出機,バンバリー,ニーダー等の各種の混練機を用いて上述した各成分を混合することにより得ることができる。
【0027】
カバーの表面には、通常、1種類又は2種以上の多数のディンプルを形成することができ、そのディンプルの形状、直径、深さ、個数、占有表面積等は適宜選定される。
【0028】
後述する塗料層の塗装前のゴルフボールを作製する方法としては、特に限定されず、射出成型、圧縮成形などの公知の成型方法により成形して得ることができる。例えば、射出成形機の金型にコアをセットした状態で上述した中間層用樹脂組成物を供給し、コアに中間層を被覆した被覆球体(中間層被覆球体)を作製し、その後、別の射出成形機の金型に、中間層被覆球体をセットし、カバー用樹脂組成物を射出することによりカバーを被覆した(未塗装の)ゴルフボールを作製することができる。
【0029】
塗料層は塗料用組成物にて形成される。この塗料用組成物のベース樹脂としては、特に制限はないが、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂等が例示される。塗料層の耐久性の観点から、二液硬化型ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
2液硬化型のウレタン樹脂の場合、主剤としては、飽和ポリエステルポリオール、アクリルポリオールやポリカーボネートポリオール等の各種ポリオールを用いるとともに、イソシアネートとしては、無黄変ポリイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等のアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体、又はこれらの混合物を用いることが好適である。
【0031】
塗料用組成物には光輝性材料が含まれる。この光輝性材料としては、本発明では、偏光性を有するものが用いられる。塗料層が複数層の場合は、複数層全ての層の塗料用組成物に光輝性材料が含まれる必要はなく、少なくとも1層の塗料用組成物に光輝性材料が含まれていればよい。
【0032】
光輝性材料は、大別すると、金属酸化物被覆雲母,塩基性炭酸鉛,酸塩化ビスマス,天然魚燐箔に分類されるが、無毒で化学的安定性に最も優れている点から、金属酸化物被覆雲母を選択することが好ましい。この金属酸化物としては、一般には、二酸化チタンや酸化鉄が多く用いられており、その被覆率(被覆層の厚み)を変えることにより、様々な色彩や干渉作用を得ることができる。これら顔料の粒径は大きいほど光輝性が得られる。しかし、顔料の粒径は大きいほど光輝性材料が沈降し易くなるので、適切な粒径を有する顔料を選択することが望まれる。
【0033】
本発明で用いる光輝性材料としては、核とする雲母とこの核を被覆するコート層とを有する複合粒子からなる材料が好適であり、上記の金属酸化物被覆雲母がこれに相当する。また、本発明で用いる光輝性材料としては、例えば、特開2009-45347号公報(本明細書において先行技術文献の[特許文献6])に記載された偏光材料が用いられる。具体的には、市販品を用いることができ、メルク社製の「イリオジン 7000シリーズ」や「イリオジン 200シリーズ」を挙げることができる。本発明では、光輝性材料として偏光性を有する材料を用いることにより、見る角度によってボールの見た感じが変化し、特にマーキング部の外観の高級感を高めることができる。
【0034】
塗料層に含まれる光輝性材料の配合量は、特に制限はないが、塗料のベース樹脂100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、上限値は、好ましくは23質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは17質量部以下である。この配合量が少なすぎると、ボール全体の高級感が達成することが困難となる場合があり、一方、上記配合量が多すぎると、塗装後のマーキング部のL値が下がり、マーキングがぼやけて見えるようになる場合がある。
【0035】
塗料用組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等の各種の添加剤を適量で配合することができる。
【0036】
カバーの表面に上記の塗料を塗装する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、静電塗装、スプレーガン塗装、刷毛塗り等が採用されうる。
【0037】
カバーに塗装された塗料層の厚さについては、特に制限はないが、通常、3~100μm、好ましくは10~20μmである。
【0038】
塗料層の内側にはマーキング部が施される。即ち、カバーの外表面にマーキング部が印刷されると共に、該マーキング部は塗料層により被覆される形態となる。このようにマーキング部の上に塗料層に形成されることにより、ゴルフボールを繰り返し使用した後でも該マーキング部が保護されることになる。
【0039】
マーキング部をカバー表面に印刷する方法は、特に制限はないが、例えば、パッド印刷、刻印式印刷、インクジェット式印刷、転写フィルム式印刷等が採用される。
【0040】
マーキング部のL値(明度)については、塗料層を塗装する前の測定値で60以下であることを要する。このL値は、50以下であることが好ましく、より好ましくは40以下である。このL値が高すぎると、偏光性のある光輝材料を含んだ塗料層をカバー及びマーキングの表面に形成すると、ボール外観において、マーキング部がぼやけてしまい識別性が低下すると共に、高級感が失われてしまう。
【0041】
ボール全体のL値(明度)は、好ましくは83以上、より好ましくは86以上、さらに好ましくは89以上である。この値が小さすぎると、暗く見え、ボールの識別性と高級感とが低くなることがある。
【0042】
ボール全体のLab表示のa値は、好ましくは-2.0以上、より好ましくは-1.5以上、さらに好ましくは-1.0以上であり、上限値は、好ましくは+2.0以下、より好ましくは+1.5以下、さらに好ましくは+1.0以下である。上記のa値は、プラス方向が大きくなると赤味が強い色になり、小さくなると緑味が強い色になる。従って、上記数値範囲を逸脱すると、白色を基調とする本発明のボール外観を損なうおそれがある。
【0043】
ボール全体のLab表示のb値は、好ましくは-5.0以上、より好ましくは-4.0以上、さらに好ましくは-3.0以上であり、上限値は、好ましくは+5.0以下、より好ましくは+4.0以下、さらに好ましくは+3.0以下である。上記のb値は、プラス方向が大きくなると黄味が強い色になり、小さくなると青味が強い色になる。従って、上記数値範囲を逸脱すると、白色を基調とする本発明のボール外観を損なうおそれがある。
【0044】
C値(彩度)は、上述したとおり、C=(a2+b2)1/2で表すことができる。ボール全体のC値(彩度)は、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.0以下である。このC値が大きいと、ボール全体の色相が人の目で感じられるようになり、白色ボールではないと認識されるようになり、また、白色ボールを使用球としているユーザーが違和感を生じるおそれがある。
【0045】
なお、上記のボール全体のL値(明度)及びC値(彩度)は、マーキング部以外のボール表面の箇所の明度及び彩度を意味する。
【0046】
また、塗料層を塗装したゴルフボールと、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)との色差ΔEは、好ましくは1.0以上、より好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上であり、上限値は、好ましくは10.0以下、より好ましくは8.5以下、さらに好ましくは7.0以下である。この値が小さすぎると、単なる白色ボールとの違いが認識し難くなり、識別性及び高級感に劣る場合がある。一方、上記値が大きすぎると、白色ボールを使用し続けているユーザーにとっては、白色ボールの範疇から逸脱してしまい、違和感を生じる場合がある。なお、上記の色差は、ΔE=〔(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2〕1/2 により算出することができる。
【0047】
本発明のゴルフボールの質量、直径等のボール規格はゴルフ規則に従って適宜設定することができる。
【実施例0048】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
〔実施例1~7,比較例1~7〕
実施例及び比較例の各例に共通するコアとして、下記表1に示ゴム配合によりコア組成物を調整した後、153℃で13分間加硫を行い、直径37.3mm、質量32.85gのコアを作製した。
【0050】
【0051】
上記の配合についての詳細は下記のとおりである。
・ポリブタジエン:商品名「BR01」(JSR社製)
・酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛3種」(堺化学社製)
・ステアリン酸亜鉛:商品名「ジンクステアレートG」(日油社製)
・老化防止剤:商品名「ノクラックNS-6」(大内新興化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
・アクリル酸亜鉛:商品名「ZN-DA85S」(日本触媒社製)
・有機過酸化物(1):ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・有機過酸化物(2):1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーオキサC-40」(日油社製)
【0052】
中間層被覆球体の形成
次に、射出成形用金型を用いて、上記のコア表面の周囲に、表2に示す中間層の樹脂材料Aにより射出成形し、厚さ1.45mmでショアD硬度「50」の中間層をコアに被覆した球体を作製した。また、上記と同様に、上記のコア表面の周囲に、表2に示す中間層の樹脂材料Bにより射出成形し、厚さ1.45mmでショアD硬度「50」の中間層をコアに被覆した球体(中間層被覆球体)を作製する。
【0053】
【0054】
カバーの形成
次に、上記とは別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、表3に示すカバー(最外層)の樹脂材料Iにより射出成形し、厚さ1.25mm、ショアD硬度「59」のカバーを形成した。
【0055】
【0056】
上記の表2及び表3の「配合についての詳細は下記のとおりである。
「AM7318」「AM7327」三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
「AN4319」三井・ダウポリケミカル社製の「ニュクレル」エチレン・(メタ)アクリル酸共重合樹脂
「ステアリン酸マグネシウム」日油社製の製品名「ジンクステアレートG」
「酸化マグネシウム」協和化学工業社製の製品名「キョーワマグMF-150」
「酸化チタン」Pigment White 6
「黄色顔料(1)」Pigment Yellow 53
【0057】
マーキング部の形成
実施例1~6は、カバー表面に各種色のカラーチップと同色のマーキング部を転写フィルム式印刷による方法で印刷した。
実施例7及び比較例1~7は、各種色のカラーチップを用い、当該カラーチップ自体の色調を計測する。なお、カラーチップは下記の6種類を用いる。
<カラーチップ>
・黒色のカラーチップ(色番号:DIC582)
・紺色のカラーチップ(色番号:PANTONE281U)
・橙色のカラーチップ(色番号:PANTONE165C)
・黄色のカラーチップ(色番号:DIC87)
・緑色のカラーチップ(色番号:DIC249)
・赤色のカラーチップ(色番号:PANTONE192U)
【0058】
塗料層の形成
次に、全ての実施例及び比較例に共通する塗料組成物として、表4に示す配合の2液硬化型のポリウレタン樹脂を用いる。
【0059】
【0060】
主剤のポリオール(A)としては、以下の方法によって合成したポリエステルポリオールを用いた。
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得る。
硬化剤のイソシアネート(B)としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)である旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)を用いる。
主剤の溶剤(A)としては酢酸ブチルを用い、硬化剤(B)の溶剤としては、酢酸エチルと酢酸ブチルを用いる。
【0061】
実施例1~6については、用いられる光輝性材料の種類及び配合量を表5に示す。光輝性材料の配合量は基材樹脂100質量部に対する量で表される。基材樹脂の量は主剤(固形分)と硬化剤(固形分)との合計量を意味する。これらの各例については、カバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより塗料組成物を塗装し、厚み15μmの塗料層を形成したゴルフボールを作製した。実施例7及び比較例1~7については、上記と同様、塗料層を形成したゴルフボールを作製する。
【0062】
【0063】
上記の「Iriodin シリーズ」は、メルク社製の雲母ベースのパール顔料である。天然マイカの表面を酸化チタンや酸化鉄などの高屈折率金属酸化物で被覆した化学的安定性のある粉末状の無機パール顔料であり、金属酸化物層とマイカとの屈折率差で生じる多重反射が真珠光沢のようなパール光沢をもたらす。
「Iriodin シリーズ」のうち、「7000シリーズ」は干渉色系であり、偏光性材料に相当し、「100シリーズ」はシルバー色系であり、偏光性材料には該当しない。
【0064】
得られた各ゴルフボールにつき、各層の構成の詳細を表6及び表7に示す。なお、各球体のたわみ量及び色調を下記の方法で評価する。
【0065】
コア、中間層被覆球体及びボールの圧縮変形量(たわみ量)
コア、中間層被覆球体及びボールの各対象球体について、23.9±1℃に調整された恒温槽で3時間以上調温後、23.9±2℃の室内にて測定する。10mm/sの速度で圧縮し、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷した時までの対象球体のたわみ量(mm)を計測し、測定個数10個の平均値を求める。
【0066】
各球体(中間層被覆球体及びボール)及びマーキング部の色調
各球体(中間層被覆球体及びボール)の色調については、色差計(型式MSC-IS、スガ試験機株式会社製)を用いて測定し、JIS Z8722のLab表色に基づき、明度(L値)、彩度(C値)を求める。
マーキング部の色調については、カバー表面にマーキングを印字した状態で該マーキング部の色を計測する。またはマーキング部の色と同一色のカラーチップを用いて、該カラーチップの色を計測することによる。
ボール全体(マーキング部以外)の色調を測定する場合は、測定孔径φ30mmを用い、マーキング部を測定する場合は、測定孔径φ5mmを用いる。
【0067】
【0068】
【0069】
得られた各ゴルフボールにつき、ボール外観を下記の方法で評価した。
白色のボールを使用球としているハンディキャップ10以下の上級者10人を対象にヒヤリングを行い、下記の基準でボールの高級感を評価した。その評価結果を表8に示す。
【0070】
ボール全体の高級感
◎ ・・・ ボール全体の外観に高級感を感じる人が8人以上
○ ・・・ ボール全体の外観に高級感を感じる人が5~7人
△ ・・・ ボール全体の外観に高級感を感じる人が3~4人
× ・・・ ボール全体の外観に高級感を感じる人が2人以下
【0071】
マーキング部の高級感
◎ ・・・ マーキング部の色合いに高級感を感じる人が8人以上
○ ・・・ マーキング部の色合いに高級感を感じる人が5~7人
△ ・・・ マーキング部の色合いに高級感を感じる人が3~4人
× ・・・ マーキング部の色合いに高級感を感じる人が2人以下
【0072】
ボール全体の違和感
◎ ・・・ 違和感を感じない人が8人以上
○ ・・・ 違和感を感じない人が5~7人
△ ・・・ 違和感を感じない人が3~4人
× ・・・ 違和感を感じない人が2人以下
【0073】
総合点数
各項目の評価において、◎を3点、○を2点、△を1点、×を0点とし、上記の3項目の評価結果の点数を合計して総合点数とした。
【0074】
なお、上記の実施例及び比較例のうち、実施例1のゴルフボール外観の写真を
図2に示し、実施例2のゴルフボール外観の写真を
図3に示す。
【0075】
【0076】
表8に示すように、実施例1~7のゴルフボールは、総合点数が高く、白色ゴルフボールにおいて、全体的に高級感があり、マーキング部にも高級感があることを認識しており、ボール全体に違和感がほとんどない評価を得ている。
これに対して、比較例1~7は、下記の評価結果のとおりである。
比較例1は、マーキング部の塗装前のL値が60より大きいものであり、マーキング部の高級感が劣る。
比較例2は、マーキング部の塗装前のL値が60より大きいものであり、マーキング部の高級感が劣る。
比較例3は、塗料層に光輝性材料が含まれておらず、ボール本体及びマーキング部の高級感が劣る。
比較例4は、マーキング部の塗装前のL値が60より大きいものであり、マーキング部の高級感が劣る。
比較例5は、マーキング部の塗装前のL値が60より大きいものであり、マーキング部の高級感が劣る。
比較例6は、塗料層に光輝性材料(偏光性材料)が含まれておらず、且つ、中間層被覆球体が黄色味のあるボールである。このため、ボール本体の高級感、マーキング部の高級感、及びボール全体の違和感の評価について上記実施例に比べて低くなる。
比較例7は、塗料層に含まれている光輝性材料が偏光性のものではなく、色がシルバーで色相を持たないものである。このため、ボール本体の高級感、マーキング部の高級感、及びボール全体の違和感の評価について上記実施例に比べて低くなる。