(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122558
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20230825BHJP
B09B 3/35 20220101ALI20230825BHJP
C08J 11/06 20060101ALI20230825BHJP
B09B 101/15 20220101ALN20230825BHJP
【FI】
B09B5/00 C
B09B3/35 ZAB
C08J11/06
B09B101:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022156
(22)【出願日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2022025321
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀岡 敬太
(72)【発明者】
【氏名】森田 宜典
(72)【発明者】
【氏名】田畑 奨太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
【Fターム(参考)】
4D004AA22
4D004CA04
4D004CA10
4D004DA03
4D004DA20
4F401AA16
4F401AA22
4F401AC05
4F401CA14
4F401CA27
4F401EA90
4F401FA04Z
4F401FA08Z
(57)【要約】
【課題】太陽電池モジュールから分離した太陽電池セル付きバックシートを粉砕した後、篩分して得られた樹脂濃縮物から樹脂素材毎に高品位かつ高収率に選別することができる太陽電池モジュールのリサイクル方法の提供。
【解決手段】太陽電池モジュールを粉砕した粉砕物を篩分して得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する選別工程を含む太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールを粉砕した粉砕物を篩分して得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する選別工程を含むことを特徴とする太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項2】
前記液体の比重を1.05以上1.15以下に調整する、請求項1に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項3】
前記樹脂濃縮物の粒群が0.5mm以上5mm以下である、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項4】
前記低比重樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体であり、
前記高比重樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項5】
前記液体が凝集防止剤を含有する、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項6】
前記樹脂濃縮物を第1の液体を用いて浮沈分離を行った後、得られた浮揚物又は沈降物を前記第1の液体よりも比重が高い第2の液体を用いて更に浮沈分離を行う、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項7】
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体により浮沈分離を行う、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項8】
粒群が1mm以上2mm以下の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体により浮沈分離を行う、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【請求項9】
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.15の液体により浮沈分離を行う、請求項1から2のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールのリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽の光を利用し、光起電力により電力を発電する太陽電池モジュールが、広く用いられている。このような太陽電池モジュールは、屋外に設置されるので、雨、風、温度変化等の自然環境に対する耐久性が求められる。前記太陽電池モジュールは、通常考えられる気象条件においてはある程度の耐久性を有しているが、台風、豪雨、強風、落雷、火災等の災害によって破損してしまうことがある。また、経年により、太陽電池モジュールの配線が劣化することによる故障及び太陽電池モジュールの積層状態の不具合等による故障の発生や、太陽電池モジュールのモジュール本体の起電力が低下してしまうことがある。破損及び故障した太陽電池モジュール及び経年劣化した太陽電池モジュールは、新しい太陽電池モジュールと取り替えられ、使用済み太陽電池モジュールはリサイクルされる。
【0003】
このような使用済み太陽電池モジュールのリサイクル方法としては、例えば、太陽電池モジュールから裏面保護材を分離させる分離工程と、破砕工程と、軟化工程と、分離工程と、粉砕工程とを含む方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、この提案では、ガラス基板から裏面保護材(バックシート)を分離させてガラス基板をリサイクルに活用するものであり、分離した裏面保護材のリサイクルについては何ら開示されていない。
【0004】
また、使用済み太陽電池モジュールからフレーム及びガラス基板を取り外し、分離した太陽電池セル付きバックシートは、通常、剥離、切断、破砕、篩分、選別等の各工程を経て、タブ線と、セル濃縮物と、樹脂濃縮物とに選別され、リサイクルされている。これらの中でも、前記樹脂濃縮物は複数種類の樹脂素材を含み、更にセル等の金属が混入した混合物であり、樹脂素材毎に高品位に選別することは極めて困難であることから、樹脂濃縮物における樹脂素材毎のリサイクルは実施されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、太陽電池モジュールから分離した太陽電池セル付きバックシートを粉砕した後、篩分して得られた樹脂濃縮物から樹脂素材毎に高品位かつ高収率に選別することができる太陽電池モジュールのリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 太陽電池モジュールを粉砕した粉砕物を篩分して得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する選別工程を含むことを特徴とする太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<2> 前記液体の比重を1.05以上1.15以下に調整する、前記<1>に記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<3> 前記樹脂濃縮物の粒群が0.5mm以上5mm以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<4> 前記低比重樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体であり、
前記高比重樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<5> 前記液体が凝集防止剤を含有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<6> 前記樹脂濃縮物を第1の液体を用いて浮沈分離を行った後、得られた浮揚物又は沈降物を前記第1の液体よりも比重が高い第2の液体を用いて更に浮沈分離を行う、前記<1>から<5>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<7> 粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体により浮沈分離を行う、前記<1>から<5>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<8> 粒群が1mm以上2mm以下の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体により浮沈分離を行う、前記<1>から<5>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
<9> 粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.15の液体により浮沈分離を行う、前記<1>から<5>のいずれかに記載の太陽電池モジュールのリサイクル方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、太陽電池モジュールから分離した太陽電池セル付きバックシートを粉砕した後、篩分して得られた樹脂濃縮物から樹脂素材毎に高品位かつ高収率に選別することができる太陽電池モジュールのリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、太陽電池モジュールの構造の一例を示す概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、太陽電池モジュールからガラスを剥離した太陽電池セル付きバックシートのおもて面の一例を示す写真である。
【
図2B】
図2Bは、太陽電池モジュールからガラスを剥離した太陽電池セル付きバックシートのうら面の一例を示す写真である。
【
図3】
図3は、実施例1における太陽電池セル付きバックシートから樹脂濃縮物を選別する処理の流れを示すフロー図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例1で用いた試料(樹脂濃縮物)を示す写真である。
【
図5】
図5は、実施例1における樹脂濃縮物から樹脂素材毎に選別する処理の流れを示すフロー図である。
【
図6】
図6は、液比重1.0の液体に試料3.0gを添加し、撹拌した後、1時間静置した状態を示す図である。
【
図7】
図7は、
図6において界面活性剤を添加し、撹拌した後、1時間静置した状態を示す図である。
【
図8】
図8は、液比重1.05の液体に試料を添加し撹拌した時の外観を示す図である。
【
図9】
図9は、液比重1.10の液体に試料を添加し撹拌した時の外観を示す図である。
【
図10】
図10は、液比重1.15の液体に試料を添加し撹拌した時の外観を示す図である。
【
図11】
図11は、液比重1.15の液体に試料を添加し撹拌した時のビーカーの底の状態を示す図である。
【
図12】
図12は、液比重1.00での選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図13】
図13は、液比重1.05での重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図14】
図14は、液比重1.10での重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図15】
図15は、液比重1.15での重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図16】
図16は、液比重毎の重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、液比重1.10で重液選別後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である。
【
図18】
図18は、液比重1.10で重液選別後の沈降物(Sink)の顕微鏡画像である。
【
図20】
図20は、実施例2における太陽電池セル付きバックシートから樹脂濃縮物を選別する処理の流れを示すフロー図である。
【
図21】
図21は、2段階の重液選別を行った後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
【
図22】
図22は、2段目の重液選別を1段目で得た浮揚物に対して行った後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である。
【
図23】
図23は、2段目の重液選別を1段目で得た沈降物に対して行った後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である。
【
図24】
図24は、粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)の樹脂濃縮物における1時間静置後の浮沈分離状態を示す図である。
【
図25】
図25は、粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)の樹脂濃縮物における上側浮揚物(Float)と下側沈降物(Sink)の水洗後、乾燥前の状態を示す図である。
【
図26】
図26は、液比重1.00で選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図27】
図27は、液比重1.02で重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図28】
図28は、液比重1.04で重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図29】
図29は、液比重1.05で重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
【
図30】
図30は、粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
【
図31】
図31は、粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
【
図32】
図32は、粒群が2mm以上5mm未満(5/2mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
【
図33】
図33は、液比重1.05の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である(倍率:50倍)。
【
図34】
図34は、液比重1.05の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である(倍率:80倍)。
【
図35】
図35は、液比重1.10の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後の沈降物(Sink)の顕微鏡画像である(倍率:50倍)。
【
図36】
図36は、液比重1.10の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後の沈降物(Sink)の顕微鏡画像である(倍率:80倍)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(太陽電池モジュールのリサイクル方法)
本発明の太陽電池モジュールのリサイクル方法は、太陽電池モジュールを粉砕した粉砕物を篩分して得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する選別工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0011】
本発明の太陽電池モジュールのリサイクル方法においては、まず、太陽光モジュールからアルミニウムフレーム及びガラス基板を取り外し、太陽電池セル付きバックシートを分離する。
次に、分離した太陽電池セル付きバックシートを粉砕し、ガラス、金属、樹脂を含む破砕混合物を選別することにより得られる軽産物を適当な粒群(粒度、粒度範囲)になるように篩分して、樹脂濃縮物を調製する。
次に、樹脂濃縮物を比重調整した液体中に投入し、太陽電池セル付きバックシートを構成していた樹脂素材である封止材(エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA))と、バックシート(ポリエチレンテレフタレート(PET))とを比重差を利用した浮沈分離により、樹脂素材毎に選別する。
選別され各樹脂素材は、洗浄後、乾燥することにより、樹脂を変性させることなく素材毎に回収することができる。
各樹脂素材は、太陽電池セル付きバックシート重量の約8割を占めており、各樹脂素材を樹脂素材毎に高品位かつ高収率に選別でき、効率よくリサイクルできれば、コスト削減、CO2削減などに大きく貢献することができる。
【0012】
<選別工程>
選別工程は、太陽電池モジュールを粉砕した粉砕物を篩分して得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する工程である。
【0013】
-太陽電池モジュール-
太陽電池モジュールの形状、構造、大きさ、種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明の太陽電池モジュールのリサイクル方法は、結晶シリコン系太陽電池モジュール、薄膜シリコン系太陽電池モジュール、化合物系太陽電池モジュールなどの太陽電池モジュールの種類に関係なく用いることができる。
本発明の太陽電池モジュールのリサイクル方法における対象物である太陽電池モジュールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、太陽電池モジュールの製造過程で発生した不良品の太陽電池モジュール、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄される太陽電池モジュール、寿命により廃棄される使用済みの太陽電池モジュールなどが挙げられる。
【0014】
ここで、
図1は、太陽電池モジュール10の構造の一例を示す概略断面図である。この
図1に示す太陽電池モジュール10は、最下層から、バックシート20、封止材30、太陽電池セル40、及びガラス基板50の順で積層されており、更に必要に応じてその他の部材を有する積層構造体である。この積層構造体は、フレーム60によって外側から固定されている。
【0015】
バックシート20は、複数の層からなるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。バックシート20は、太陽電池モジュール10が長期間湿気にさらされても影響がないように、最下層に配置される。
【0016】
封止材30は、太陽電池セル40を封止するシートであり、透明性、柔軟性、接着性、引張強度、及び耐候性に優れたシートである。
図1に示す太陽電池モジュール10は、封止材30で太陽電池セル40を表裏面から挟み、太陽電池セル40を封止している。また、EVAシート30は接着性を有しているため、バックシート20及びガラス基板50と確実に接着することができる利点がある。
【0017】
ここで、
図2Aは、太陽電池モジュールからガラスを剥離した太陽電池セル付きバックシートのおもて面の一例を示す写真、
図2Bは、太陽電池モジュールからガラスを剥離した太陽電池セル付きバックシートのうら面の一例を示す写真である。
図2Aに示すように、封止材30には、通常、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が用いられており、EVAは黒色を呈している。
図2Bに示すように、バックシート20には、通常、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が用いられており、PETは白色乃至透明無色を呈している。したがって、EVAとPETとは目視により判別することが可能である。
なお、バックシート20におけるPET中には耐候性の点から、フッ素が含まれているので、環境性の観点から、PETよりもEVAの方がリサイクルする付加価値が高い。
前記EVAの比重は0.92~0.95であり、前記PETの比重は1.35~1.40である。
【0018】
太陽電池セル40は、太陽光を受光することにより電力を発生させる。太陽電池セル40は、太陽電池モジュール10内に、直列及び並列に配置されている。
図2では図示を省略しているが、各太陽電池セル40は、それぞれが導電材などで接続されている。
【0019】
ガラス基板50は、板状の強化ガラスであり、太陽電池セル40が太陽光を受光する側の最も外側に積層される。ガラス基板50は、太陽光を太陽電池セル40が受光できるように透明である必要があり、更に、外側に積層されるため、熱、圧力、酸などの耐久性を有しているものが好適に使用される。
【0020】
フレーム60は、上記積層構造体を固定する枠体であり、前記積層構造体の端部を覆うように固定する。フレーム60の固定方法としては、例えば、ボルト、ネジ等で螺合させて固定する方法、又は接着して固定する方法が一般的である。フレーム60の材質としては、様々な材質が用いられており、代表的なものとしてアルミニウム製のものが挙げられる。
【0021】
前記その他の部材としては、例えば、端子ボックス、太陽電池セル同士を繋ぐ導電材などが挙げられる。
【0022】
次に、太陽電池モジュールから分離した太陽電池セル付きバックシートから得られた樹脂濃縮物を液体で浮沈分離することにより低比重樹脂と高比重樹脂とに重液選別する。
液体としては、例えば、水などが挙げられる。
前記液体の比重を1.05以上1.15以下に調整することが好ましい。
前記液体の比重は、水に塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム、ポリタングステン酸ナトリウム(Na6[H2W12O6])などを添加することにより調整することができる。
前記液体の比重は、例えば、ボーメ法(標準比重計、日本計量器工業株式会社製)により測定することができる。
【0023】
前記低比重樹脂としては、封止材に用いられているエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
前記高比重樹脂としては、バックシートに用いられているポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などが挙げられる。
前記樹脂濃縮物の粒群は0.5mm以上5mm以下が好ましく、0.5mm以上2mm以下がより好ましい。
前記粒群とは、粒子の大きさの範囲を意味し、「粒度」、「粒度範囲」と同義である。
前記樹脂濃縮物の粒群は、例えば、篩分の際における篩目開きの選定により調整することができ、標準篩を用いた篩分け法(JIS Z 8815:1994)により測定することができる。
【0024】
前記液体は凝集防止剤を含有することが好ましい。
前記凝集防止剤としては、例えば、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、分散剤などが挙げられる。
【0025】
本発明においては、前記樹脂濃縮物を第1の液体を用いて浮沈分離を行った後、得られた浮揚物又は沈降物を前記第1の液体よりも比重が高い第2の液体を用いて浮沈分離を2段階で行うことができる。樹脂濃縮物から樹脂素材毎に高品位かつ高収率に選別する点から好ましい。具体的には、2段目の浮沈分離を1段目で得た浮揚物に対して行うことでより高品位のEVAを回収でき、2段目の浮沈分離を1段目で得た沈降物に対して行うことでより多くの収量でEVAを回収できる。
第1の液体としては水(比重1.0)を用いることが好ましく、第2の液体としては比重1.05の液体を用いることが好ましい。
【0026】
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を液体の比重が1.05程度の液体を用いて浮沈分離を行うことにより、PETとEVAの分離を行うことができる。
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を液体の比重が1.0以上1.05未満の液体を用いて浮沈分離を行うことが、高品質のEVAを選別する点から好ましい。
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を液体の比重が1.10以上の液体を用いて浮沈分離を行うことが、高品質のPETを選別する点から好ましい。
【0027】
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体を用いて浮沈分離を行うことが、EVAの収率を上げる点から好ましい。
【0028】
粒群が1mm以上2mm以下の樹脂濃縮物を比重が1.05の液体を用いて浮沈分離を行うことが、高品質のEVAを得る点から好ましい。
【0029】
粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を比重が1.15の液体により浮沈分離を行うことが、効率よく浮沈分離を行う点から好ましい。
【0030】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
以下のようにして、太陽電池セル付きバックシートから得られた樹脂濃縮物について樹脂素材毎の選別を行った。
【0033】
<試料>
結晶シリコン系太陽電池モジュールからアルミニウムフレーム及びガラス基板を取り外し、太陽電池セル付きバックシートを分離した。
図3に示すフローに沿って、分離した太陽電池セル付きバックシートを粉砕、篩分、風力選別して軽産物として樹脂濃縮物を得た。
次に、得られた樹脂濃縮物を再粉砕した、粒群0.5mm~1mmの試料を用いた。
図4Aに試料(樹脂濃縮物)の外観を示した。
図4Bに
図4Aの拡大した外観(倍率:50倍)を示した。
【0034】
<実験方法>
図5に示すフローに従って、樹脂濃縮物を樹脂素材毎に選別する選別試験を実施した。
液体は液比重(ρ)を1.0とした水、並びに1.05、1.10、及び1.15に調整したNaCl水溶液を使用した。なお、液体の比重はボーメ法(標準比重計、日本計量器工業株式会社製)により測定した。
300mLのビーカーに200mLの水又はNaCl溶液を200mL入れ、そこに試料3.0g、界面活性剤(商品名:「ママレモン」、ライオン株式会社製)1mLを入れ、ガラス棒を使用して30秒間撹拌し、約1分間静置した。その後、浮揚物(Float)を網で回収し、デカンテーションを行って沈降物(Sink)を回収した。イオン交換水で洗浄し、風乾した後、沈降物の重量を測定した。
【0035】
<試験結果>
(1)外観調査
図6は、ビーカー内で液比重1.0の液体(水)200mLに試料3.0gを添加し、撹拌した後、1時間静置した状態を示す図である。
図6から、試料は凝集し全て液体に浮くとともにビーカー内壁に付着する現象が確認された。
図7は、
図6に界面活性剤(商品名:「ママレモン」、ライオン株式会社製)を添加した状態を示す図である。
図7から、陰イオン界面活性剤の添加により試料が分散するとともにビーカー内壁への付着が低減される様子が確認された。このことから、界面活性剤の添加が試料の分散には有効であることがわかった。
【0036】
図8~
図10に、ビーカー内に液比重1.05~1.15の液体に試料を投入し、撹拌した後の外観を示した。また、
図11は液比重1.15の液体に試料を投入し、撹拌した後のビーカーの底の状態を示した。
図11から、沈降物(Sink)としては白色粒子(PET)とともに銅、黒色粒子(セル、ゴムなど)が確認された。
【0037】
次に、各液比重での重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を
図12~
図15に示した。
図12~
図15の結果から、液比重1.0では沈降物(Sink)中に黒色粒子(EVA)が多く混在しているが、液比重1.05以上では沈降物(Sink)中に黒色粒子が少なくなった。即ち、液比重1.05以上ではPETとEVAの選別ができることがわかった。
【0038】
(2)マテリアルバランス
図16は、液比重毎の重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
図16の結果から、液比重1.00と液比重1.05とで沈降物(Sink)と浮揚物(Float)との重量比率が大きく変化し、沈降物(Sink)が減り、浮揚物(Float)が増えることが確認できた。
また、液比重が大きくなるほど沈降物(Sink)が減り、浮揚物(Float)が増えることも確認できた。なお、
図16中の「loss」とは、各産物の回収時又は洗浄時に回収できず失った量を意味する。
【0039】
(3)顕微鏡観察
図17は、液比重1.10で重液選別後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である。
図18は、液比重1.10で重液選別後の沈降物(Sink)の顕微鏡画像である。
図19は、
図18の沈降物(Sink)の拡大画像である。
図17から、浮揚物(Float)側のPET(白色)は、粒子というよりは削られた状態のものであった。
図18から、沈降物(Sink)側には白いPETと無色透明のPET粒子が存在していること、銅や黒いゴム状粒子も存在していた。
図19から、
図18の沈降物(Sink)にはEVAとのセルの片刃粒子も確認された。
【0040】
(4)その他
液比重1.15での重液選別後では、風乾しても乾かない現象が確認された。これは、濯ぎが不十分であり、塩が残っていたためであると考えられる。
【0041】
(5)まとめ
EVAの真比重は一般的に0.95とされるため、本来であれば水(液比重1.0)に浮くはずであるが、セルなどの不純物の付着等により、浮くEVAと沈むEVAとが存在した。したがって、液比重を1.05程度に高めることが樹脂素材毎の選別精度の向上に寄与すると考えられる。
EVAとPETの選別は品位及び収率のいずれを優先するかによって条件が異なる。高品質のEVAを求めるならば液比重を1.0~1.05に設定し、高品質のPETを求めるならば液比重を1.10以上に設定する。ただし、塩濃度が高くなると濯ぎをかなり行う必要がある。
以上の結果から、液比重が1.05以上の重液選別により、EVAとPETの選別が可能であることがわかった。
【0042】
(実施例2)
実施例1で行った
図5に示すフローに従って、1段目は精製水(液比重1.0)を用いて浮沈分離を行い、浮揚物(Float)と沈降物(Sink)とを再度同一のフローにて液比重のみ1.05に変更して2段目の浮沈分離を行った。実施例2における一連のフローを
図20に示す。
【0043】
<試験結果>
図21は、2段階の重液選別を行った後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。
図21の結果から、1段目の重液選別で得られた沈降物(Sink)と浮揚物(Float)との重量比率に対して、2段目の重液選別後は、2段目を1段目で得た浮揚物(Float)に対して行った場合(
図20の(1)のフロー)は沈降物(Sink)が増えて、浮揚物(Float)が減ることが確認できた(
図21参照)。一方、2段目を1段目で得た沈降物(Sink)に対して行った場合(
図20の(2)のフロー)は沈降物(Sink)が減り、浮揚物(Float)が増えることが確認できた。
【0044】
図22は、2段目の重液選別を1段目で得た浮揚物に対して行った後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像である。
図23は、2段目の重液選別を1段目で得た沈降物に対して行った後の浮揚物(Float)顕微鏡画像である。
図22の浮揚物(Float)側のEVA(灰色~黒色)はPET(白色)などの異物の付着が少なく、分離後のEVAの品質が高い状態であった。
図23の浮揚物(Float)側のEVA(灰色~黒色)は一部の表面に異物の付着があり、無色透明のPET粒子やセルの破片などが存在していた。
【0045】
実施例2では、EVAの選別は品位及び収率のいずれを優先するかによって条件を変えればよいことがわかった。PETの混入が少ない、品質の良いEVAを得たい場合は1段目の液比重を1.0~1.05に設定し、2段目の液比重を1段目より大きく設定し、2段目の重液選別を1段目で得た浮揚物に対して行い浮揚物(Float)側を回収することが好ましい。少量のPETの混入を許容してもなお高い収率でEVAを求めるならば、同様の2段階重液選別において、2段目の重液選別を1段目で得た沈降物に対して行い浮揚物(Float)側を回収することが好ましい。
【0046】
(実施例3)
浮沈分離によるEVAとPETの重液選別における、試料の粒群の影響を調べるために以下の実験を行った。
【0047】
<実験方法>
実施例1において、
図5に示すフローのうち篩分条件、液比重及び静置時間を、変化させて、浮沈分離を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3の選別を行った。
太陽電池セル付きバックシートの粉砕後の篩分条件は、(1)粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物、(2)粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)の樹脂濃縮物、(3)粒群が2mm以上5mm未満(5/2mm)の樹脂濃縮物を調製し、液比重は、1.00、1.02、1.04、及び1.05に調製し、静置時間は1時間とした。
【0048】
図24は、(1)粒群が1mm以上2mm未満の樹脂濃縮物における1時間静置後の浮沈分離状態を示した。
図25は、(1)粒群が1mm以上2mm未満の樹脂濃縮物における浮揚物(Float;上側)と沈降物(Sink;下側)との水洗後、乾燥前の状態を示した。
【0049】
<試験結果>
-外観調査-
図26~
図29は、それぞれ液比重1.00、液比重1.02、液比重1.04、及び液比重1.05における重液選別後の浮揚物(Float)と沈降物(Sink)の外観を示す図である。
なお、EVAは概ね黒色、PETは白色あるいは無色透明として観察される。
【0050】
(1)液比重1.00、1.02、1.04、及び1.05の全てに共通
粒群が1mm以上2mm未満の樹脂濃縮物は浮揚物(Float)へのPET混入量が最小となり、粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物は浮揚物(Float)へのPET混入量が最大となった。
(2)粒群0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物
液比重が高くなるほど、浮揚物(Float)へのPETの混入量がやや増加した。
【0051】
-マテリアルバランス-
図30は、粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフ、
図31は、粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフ、
図32は、粒群が2mm以上5mm未満(5/2mm)の樹脂濃縮物を重液選別後のマテリアルバランスの結果を示すグラフである。なお、
図30~
図32中の「loss」とは、各産物の回収時又は洗浄時に回収できず失った量を意味する。
【0052】
(1)全ての粒群の樹脂濃縮物に共通
液比重が大きくなるほど沈降物(Sink)が減り、浮揚物(Float)が増加した。
(2)粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物
液比重が1.05近傍で浮揚物(Float)への重量比率が増加する傾向がみられる。
(3)全ての液比重に共通
粒群が小さくなるほど、浮揚物(Float)への重量比率は増加した。
【0053】
-顕微鏡観察-
図33は、液比重1.05の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を重液選別後の浮揚物(Float)の顕微鏡画像(倍率:50倍)、
図34は、同一の浮揚物を更に拡大した顕微鏡画像(倍率:80倍)、
図35は、液比重1.10の液体で粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を重液選別後の沈降物(Sink)の顕微鏡画像(倍率:50倍)、
図36は、同一の浮揚物を更に拡大した顕微鏡画像(倍率:80倍)である。
【0054】
(1)浮揚物(Float)側
EVAの表面は滑らかな状態であった。
PETの形状は削られたものや、紐状で表面積が大きい状態であった。
【0055】
(2)沈降物(Sink)側
EVA表面にはセルやPETが刺さったような状態、又は微細セル粒子と思われる不純物が表面に付着した状態であった。
EVA粒子は凹凸に富んでいた。
PETは無色透明又は白色のものが存在し、粒子形状は浮揚物(Float)よりも均一的であった。なお、セルや銅粒子も確認された。
【0056】
以上の結果から、EVAの真比重は0.92~0.95の範囲であるとされるため、液比重1.00~1.05の範囲では浮上すると考えられたが、沈降するEVAが存在した。顕微鏡観察によりEVA表面へのセル等の不純物の付着を確認した。セルを構成するSiの真比重は2.3であり、EVA表面への付着量が一定を超えると液比重よりも不純物付着EVAの比重が大きくなり、沈降するEVAが存在すると考えられる。
実施例3における粒群と液比重との関係は、粒群が0.5mm以上5mm未満の範囲で、液比重を1.05に設定することによってEVAとPETとの選別が可能であることがわかった。
高品質のEVAを求める場合には、液比重1.05に設定し、粒群が1mm以上2mm未満の樹脂濃縮物を重液選別することが好適である。
EVAの収率を上げたい場合は、粒群が0.5mm以上1mm未満の樹脂濃縮物を重液選別することが好適である。
【0057】
(実施例4)
以下のようにして、異なる粒群の試料について浮沈分離試験を行った。
<試料>
太陽光発電(PV)リサイクル実証プラントにおいて使用済の太陽電池モジュールから太陽電池セル付きバックシートを物理選別して得られた風力選別後の重量産物(樹脂濃縮物)を用いた。
この樹脂濃縮物にはEVA、PETの他、太陽電池モジュールを構成する金属シリコン、銅、ガラス、アルミニウムなどが混入している。
得られた樹脂濃縮物を篩分して、(1)粒群が0.5mm以上1mm未満(1/0.5mm)、(2)粒群が1mm以上2mm未満(2/1mm)、(3)粒群が2mm以上2.8mm未満(2.8/2mm)、(4)粒群が2.8mm以上4.75mm未満(4.75/2.8mm)、(5)粒群が4.75mm以上5.6mm未満(5.6/4.75mm)の5種類の試料を用意した。
【0058】
<実験方法>
実施例1において、
図5に示すフローにしたがって浮沈分離試験を行った以外は、実施例1と同様にして、液比重毎の液選別後のマテリアルバランスを測定した。結果を表1~表5に示した。
【0059】
<結果>
(1)粒群が0.5mm以上1mm未満の試料
【表1】
【0060】
【0061】
(3)粒群が2mm以上2.8mm未満の試料
【表3】
【0062】
(4)粒群が2.8mm以上4.75mm未満の試料
【表4】
【0063】
(5)粒群が4.75mm以上5.6mm未満の試料
【表5】
【0064】
表1から表5の結果から、試料の粒群が小さくなるほど、また液比重が1.15に近づくほど浮揚物(Float)に分配されることがわかった。したがって、試料を効率的に液分離するためには、対象となる試料の粒群を小さくするとともに、液比重が1.15の重液を用いて浮沈分離することが適していることがわかった。