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特開2023-122568散乱電離放射線用遮蔽マスクおよびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122568
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】散乱電離放射線用遮蔽マスクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/02 20060101AFI20230825BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G21K1/02 G
G21K1/00 X
G21K1/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023025306
(22)【出願日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】10 2022 104 180.8
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】521518943
【氏名又は名称】ショット ノース アメリカ インク.
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT North America Inc.
【住所又は居所原語表記】2 International Drive, Rye Brook, NY 10573, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ゾーア
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン ロイグナー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ トライス
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン テイバー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ダージー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】X線撮像装置用の散乱X線を遮蔽するための改良された格子を提供する。
【解決手段】散乱X線に対する遮蔽格子(1)において、遮蔽格子(1)は、第1の面(5)と、第1の面(5)に対向する第2の面(7)とを有する板状体(3)を備え、板状体(3)は、板状体(3)の第2の面(7)に向かって開口したウェル(15)の配列を有し、板状体(3)は、第1の面(5)に向かって開口したトレンチ(11)から構成される格子を有し、トレンチ(11)に、X線吸収材料(13)が充填されており、トレンチ(11)は、ウェルとトレンチ(11)との間に壁(19)が残るように、一方の面(5,7)から見てウェル(15)から距離を置いてウェル(15)の間に延在している、遮蔽格子(1)が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱電離放射線に対する遮蔽格子(1)であって、特にX線撮像装置用の遮蔽格子(1)において、前記遮蔽格子(1)は、
- 第1の面(5)と、前記第1の面(5)に対向する第2の面(7)とを有する板状体(3)
を備え、前記板状体(3)は、
- 前記板状体(3)の前記第2の面(7)に向かって開口したウェル(15)の配列を有し、
- 前記板状体(3)は、前記第1の面(5)に向かって開口したトレンチ(11)から構成される格子(9)を有し、
- 前記トレンチ(11)に、X線吸収材料(13)が充填されており、
- 前記トレンチ(11)は、前記ウェルと前記トレンチ(11)との間に壁(19)が残るように、一方の面(5,7)から見て前記ウェル(15)から距離を置いて前記ウェル(15)の間に延在している、遮蔽格子(1)。
【請求項2】
前記板状体が、板ガラスとして形成されている、請求項1記載の遮蔽格子(1)。
【請求項3】
以下の特徴:
- 前記トレンチ(11)の深さと幅との比が、少なくとも40:1である、
- 前記トレンチの前記深さが、少なくとも1.5ミリメートルである、
- トレンチ(11)またはウェルの前記壁(25)の角度の、目標角度からの、特に中心軸線(17)の方向からのずれが5°未満である、
- 2つの隣接するトレンチの中心間距離が、それらの深さよりも小さく、有利には3分の1以下である、
- 前記トレンチ(11)の前記幅が、前記ウェル(15)の前記幅と最大で2倍異なる、
- 前記トレンチ(11)の前記幅が、最大で100μm、有利には最大で50μmである
のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項2記載の遮蔽格子(1)。
【請求項4】
前記ウェル(15)および/または前記トレンチ(11)の前記中心軸線(17)が、共通の仮想点源(18)に向けられている、請求項1から3までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)。
【請求項5】
以下の特徴:
- 前記X線吸収材料(13)が、初期溶融または溶融ガラスを含む、
- 前記X線吸収材料(13)が、鉛および/またはビスマス含有ガラスを含む、
- 前記X線吸収材料(13)が、初期溶融または溶融材料、有利にはガラスに埋め込まれた粒子、特に金属粒子(23)および/または鉱物粒子および/またはセラミック粒子を含む、
- 前記X線吸収材料(13)が、少なくとも9g/cm、有利には少なくとも11g/cmの密度を有する、
- 前記X線吸収材料(13)の密度が、前記板状体(3)の材料の密度の少なくとも4倍である、
- 前記X線吸収材料(13)が、少なくともZ=56の原子番号を有する元素を少なくとも10重量%、有利には少なくとも25重量%有する、
- 前記X線吸収材料(13)が、タングステン含有材料の粒子を、有利には金属タングステン、タングステン合金および/またはタングステン含有鉱物および/またはタングステン含有セラミックの形態で含む、
- 前記X線吸収材料(13)の線熱膨張係数と前記板状体(3)の材料の線熱膨張係数との差が、3ppm/K未満の量である、
- 前記トレンチ(11)内の前記X線吸収材料(13)の充填度が、少なくとも40体積%、有利には少なくとも60体積%である、
- 前記X線吸収材料(13)の前記ガラスが、前記板状体3の前記ガラスのガラス転移温度Tより少なくとも160℃、有利には少なくとも220℃低いガラス転移温度Tを有する、
- 前記X線吸収材料(13)の前記ガラスが、前記ガラスの10dPa・sの粘度で、前記板状体(3)の前記ガラスの加工温度よりも少なくとも100℃低い加工温度を有する、
- 前記X線吸収材料(13)の前記ガラスが、前記板状体(3)の前記ガラスの軟化点の温度よりも低い加工温度を有し、前記軟化点は、107.6dPa・sの粘度で規定されている、
- 前記X線吸収材料(13)が、0℃~200℃の温度範囲の少なくとも一部において1ppm/K未満または負の線熱膨張係数を有する少なくとも1種の成分を粒子形態で含む
のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)。
【請求項6】
以下の特徴:
- 前記トレンチ(11)が、少なくとも部分的に前記板状体(3)の両面(5,7)において開口している、
- 前記トレンチ(11)が、底部開口部(110)を有する
のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)。
【請求項7】
以下の特徴:
- 前記X線吸収材料(13)が、d50値の異なる少なくとも2種の粉末、特に金属粉末および/または鉱物粉末および/またはセラミック粉末の混合物の形態の粒子を含む、
- 前記X線吸収材料(13)が、前記金属粒子(23)の粒度分布に適合させた粒子径dのアンドレアゼン分布F(d)=100×(d/dmaxの指数nがn=0.33より小さく、有利にはn=0.28より小さい粒度分布を有する粒子を含み、ここで、dmaxは、適合させたアンドレアゼン分布の最大粒子径である、
- 前記X線吸収材料(13)中の前記粒子の前記粒度分布が、二峰性または多峰性である、
- 前記X線吸収材料(13)が、溶加材(60)に埋め込まれた金属粒子(23)を含み、前記溶加材(60)は、前記金属粒子(23)の融点よりも低く、かつ前記板状体(3)の前記ガラスの変態温度Tよりも低い融点を有する、
- 前記X線吸収材料(13)が、金属粒子(23)を含み、前記金属粒子(23)は、コーティング(230)を有し、前記コーティング(230)は、有利には前記金属粒子(23)の材料よりも高い表面エネルギーを有するかまたはX線を吸収する、
- 前記X線吸収材料(13)が、シラン化金属粒子23を含む、
前記X線吸収材料が、球状の金属粒子231を含む、
- 前記X線吸収材料が、前記金属粒子(23,231)の粒度に関して異なる2種の金属粉末を含み、平均粒度は少なくとも2倍異なり、大きい方の金属粒子(23)は、球状である
のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)。
【請求項8】
以下の特徴:
- 前記板状体(3)の少なくとも一方の面(5,7)に薄型の板ガラス(8)が取り付けられている、
- 前記板状体(3)の表面の少なくとも一部に有機封止体(10)が施与されている
のうちの少なくとも1つを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)。
【請求項9】
X線撮像装置、特にコンピュータ断層撮影装置(2)であって、X線源と、前記X線源から発せられたX線を検出するためのX線検出器(39)の前面に配置された請求項1から8までのいずれか1項記載の遮蔽格子(1)とを備える、X線撮像装置。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項記載の、散乱X線に対する遮蔽格子(1)の製造方法であって、
- 第1の面(5)と、前記第1の面(5)に対向する第2の面(7)とを有する板状体(3)を提供するステップと、
- 前記板状体(3)にレーザ光線(40)を照射するステップであって、前記板状体(3)の材料が前記レーザ光線(40)に対して透明であるため、前記レーザ光線(40)が前記板状体(3)を貫通し、その際、
- 前記レーザ光線(40)が、前記板状体(3)を通る前記レーザ光線(40)の経路に沿ってフィラメント状損傷(41)を残し、その際、前記フィラメント状損傷(41)の第1の群(43)が前記第1の面(5)で終わり、前記フィラメント状損傷(41)の第2の群(44)が前記第2の面(7)で終わるように前記フィラメント状損傷(41)が導入されるものとするステップと、
- 前記フィラメント状損傷(41)の第1および第2の群(43,44)の領域における前記板状体(3)の材料を、エッチング媒体(45)による前記板状体(3)のエッチングによって除去するステップであって、
- 前記第2の群(44)の領域の材料を除去することによって、前記板状体(3)の前記第2の面(7)に向かって開口したウェル(15)の配列が形成され、
- 前記第1の群(43)の領域の材料を除去することによって、前記第1の面(5)に向かって開口したトレンチ(11)から構成される格子(9)が形成されるものとするステップと、次いで
- 前記トレンチ(11)にX線吸収材料(13)を充填するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
粉末状ガラス、有利には前記X線吸収材料(13)の成分としてのはんだガラス(21)、有利には粉末状ガラスと粒子との混合物を前記トレンチ(11)に充填し、その際、前記はんだガラス(21)を溶融または初期溶融させることによって、前記トレンチ(11)の前記壁に付着する強固なX線吸収材料(13)を形成する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記フィラメント状損傷(41)が、前記板状体(3)の前記面(5,7)のうちの一方に対して少なくとも部分的に斜めに導入される、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一部、有利には両群(43,44)の前記フィラメント状損傷が、前記板状体(3)内で終わっている、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記板状体(3)の同じ面(5,7)に前記レーザ光線(40)を照射し、前記板状体に対する前記レーザ光線(40)の焦点の位置を変化させて、両群(43,44)の前記フィラメント状損傷(41)の少なくとも一部を前記レーザ光線(40)に沿った方向で形成する、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
ガラス粒子と金属粒子(23)とを含むペーストを提供し、前記ペーストを前記トレンチ(11)に充填し、前記板状体(3)を加熱することにより前記ガラス粒子を軟化させて、ガラス中に粒子が埋め込まれたX線吸収材料(13)を得る、請求項10から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
- 粉砕ガラスと少なくとも1種のさらなる粉末との混合物の充填密度を測定または算出するステップと、
- 前記混合物の充填密度を算出または測定するステップと、
- 混合比を変化させた混合物の充填密度を少なくとも一度算出または測定するステップと、
- 算出または測定の少なくとも2つの結果から前記トレンチ(11)への充填を行うための調合物の混合比を選択または決定するステップと、
- 前記混合比の調合物を製造するステップと
を含む、請求項10から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記トレンチ(11)に金属粒子(23)を充填し、前記充填後に前記金属粒子(23)にX線吸収コーティング(230)を施す、請求項10から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記トレンチ(11)に前記X線吸収材料(13)を充填するステップが、球状の金属粒子(231)を有する第1の金属粉末(232)を充填し、次いで第2の金属粉末(233)を充填するステップを含み、その際、前記第2の金属粉末(233)の前記金属粒子(23)が、前記第1の金属粉末(232)の球状の金属粒子(231)よりも小さい平均粒径を有する、請求項10から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記板状体(3)の前記トレンチ(11)が、底部開口部(110)を備え、前記底部開口部(110)の断面は、それぞれ前記トレンチ(11)の断面よりも小さく、前記トレンチ(11)に金属粒子(23)を含む分散体(57)を流すことにより、前記分散体(57)の分散媒(59)が前記底部開口部(110)で流出し、前記金属粒子(23)が前記底部開口部(110)で沈降し、これによって、さらなる金属粒子(23)の通路が塞がれ、前記分散体(57)をさらに流して前記金属粒子(23)を沈降させることによって前記トレンチ(11)への充填を行う、請求項10から18までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、電離放射線を用いた撮像法、例えば特にX線撮像法に関する。特に本発明は、放射線検出器を散乱電離放射線から遮蔽するためのマスクに関する。
【0002】
電離放射線を用いた撮像法として、診断学における放射線プロセスとして使用されるようなコンピュータ断層撮影法が知られている。この方法では、検査対象物にX線ファンビームを様々な面や方向で透過照射する。そして、空間的に分解された記録信号から、コンピュータを使用して対象物の3次元モデルを再構成する。
【0003】
コンピュータ断層撮影法の一形態として、デジタルボリュームトモグラフィー(DVT)がある。この方法では、対象物に可能な限り点状のX線源からの放射線を透過照射し、マトリックス検出器で記録する。
【0004】
S/N比、つまり断層像の解像度やコントラストには、検出器の手前で散乱放射線を遮ることが有利である。このために、X線源への直接の直線的な経路に対して斜めに検出器に入射する放射線を吸収するための格子を使用することが知られている。このような格子の現在使用されている一実施形態において、鉛ストリップのスタックが提供され、この鉛ストリップの間にはスペーサとして紙ストリップが存在する。この場合の欠点は、特に、このような構造が、一平面上でしか、すなわち鉛ストリップの表面に対して垂直方向にしか散乱放射線を抑制しないことである。さらに、このような構造は、機械的にさほど安定しておらず、容易に永久的な変形を生じる可能性がある。また、このような構造は、総じて非常に微細な構造化を行うことができず、これが今度は断層撮影装置の空間分解能にも影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
国際公開第2007/034352号から、同様にタングステンやモリブデンなどのX線吸収材料の薄層を硬質発泡材料に埋め込み、この硬質発泡材料で機械的に安定させたX線吸収格子が知られている。
【0006】
米国特許出願公開第2016163408号明細書には、シリコン基板を用いたX線吸収格子の製造が記載されている。このため、シリコン基板にエッチングで空所が形成され、そこにX線吸収金属がガルバニック充填される。
【0007】
米国特許第5581592号明細書から知られているX線吸収格子は、有利にはプラスチック製の基板にソーイングによりチャネルを導入することにより製造される。これには、チップ製造におけるシリコンウェハーの切断に使用されるような鋸の刃を使用することができる。次いで、X線吸収合金を溶融することにより該合金をチャネルに導入する。そのためには、基板が軟化せずに溶融温度に耐えられることが必要である。
【0008】
本発明は、散乱電離放射線、特にX線を遮蔽するための改良された格子を提供するという課題に基づく。この課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、それぞれの従属請求項に示されている。
【0009】
したがって、本発明は、散乱X線に対する遮蔽格子であって、特にX線撮像装置、例えばX線コンピュータ断層撮影装置用の遮蔽格子において、遮蔽格子は、
- 第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを有する板状体
を備え、板状体は、
- 板状体の第2の面に向かって開口したウェルの配列を有し、
- 板状体は、第1の面に向かって開口したトレンチから構成される格子を有し、
- トレンチに、X線吸収材料が充填されており、
- トレンチは、ウェルとトレンチとの間に壁が残るように、一方の面から見てウェルから距離を置いてウェルの間に延在している、遮蔽格子を提供する。
【0010】
したがって、板状体の一方の面の方向から見ると、トレンチの間にウェルが配置されている。ウェルの位置では、直接X線が板状体を容易に通過することができる。ウェルの周囲には、板状体の材料から構成される壁が配置されているため、たとえトレンチ内のX線吸収材料自体が機械的負荷に耐え得るものでなくても、板状体に十分な機械的安定性が付与される。ウェルとトレンチとは板状体の異なる面に向かって開口しており、したがってウェルはトレンチが開口している面に対して閉じているため、トレンチにX線吸収材料を充填する際にウェルも同時に充填されることを容易に回避することができる。X線吸収材料とは、本開示の趣意において、69.5keVのエネルギーのX線に対するX線吸収係数が、板状体の材料のX線吸収係数の少なくとも3倍である材料を意味する。代替的または追加的な好ましい一実施形態によれば、X線吸収材料とは、板状体の材料の密度の少なくとも4倍の密度を有する材料である。X線吸収材料としての効果には、特に、原子番号が大きい元素が含まれていることも重要である。さらに代替的または追加的な一実施形態によれば、X線吸収材料は、少なくともZ=56の原子番号を有する元素を少なくとも10重量%有し、Z≧56のかかる元素を有利には少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%の割合で有する材料である。本開示の趣意において、X線吸収材料には、総じて、電離放射線、特にここでは電磁放射線を吸収する材料も含まれる。そのような材料はまた、典型的には、粒子状電離放射線に対して高い吸収効率を有する。したがって、本開示は、全体として、散乱電離放射線に対する前述の遮蔽格子に関する。この趣意において、X線吸収材料という用語は、高エネルギー放射線の吸収に適したすべての材料に対する簡略化である。さらに、X線吸収材料には、X線不透過材料も含まれる。
【0011】
以下、図を参照しながら本発明をより詳細に説明する。ここで、図中の同一の参照符号は、それぞれ同一のまたは対応する要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】遮蔽格子を有するコンピュータ断層撮影装置を概略的に示す図である。
図2】遮蔽格子の断面図である。
図3】遮蔽格子の上面図である。
図4】遮蔽格子の一変形例を示す図である。
図5】点源に向かうように配向されたウェルを有する遮蔽格子の一変形例の断面図である。
図6】フィラメント状損傷を板状体に導入するためのレーザ加工装置を示す図である。
図7】フィラメント状損傷が導入された板状体の断面図である。
図8】エッチング後の板状体を示す図である。
図9】トレンチにX線吸収材料を充填した後の板状体を示す図である。
図10図9による実施形態の、薄肉化された板状体を有する一変形例を示す図である。
図11】X線吸収材料の断面を概略的に示す図である。
図12】粉砕はんだガラスの粒度分布を示す図である。
図13】粉砕ガラス、2種の金属ダストおよびそれらの混合物の粒度分布を示す図である。
図14図2に示す実施形態の一発展形態を示す図である。
図15図2に示す実施形態のさらなる一発展形態を示す図である。
図16】遮蔽格子のトレンチにX線吸収材料を充填するためのプロセスステップを示す図である。
図17】遮蔽格子のトレンチにX線吸収材料を充填するためのプロセスステップを示す図である。
図18】遮蔽格子のトレンチにX線吸収材料を充填するためのプロセスステップを示す図である。
図19】遮蔽格子のトレンチにX線吸収材料を充填するためのプロセスステップを示す図である。
図20】製造方法のさらなる一実施形態による充填のためのプロセスステップを示す図である。
図21】製造方法のさらなる一実施形態による充填のためのプロセスステップを示す図である。
図22】製造方法のさらなる一実施形態による充填のためのプロセスステップを示す図である。
図23】製造方法のさらなる一実施形態による充填のためのプロセスステップを示す図である。
図24】トレンチ充填において間隙を埋めるためのプロセスステップを示す図である。
図25】トレンチ充填において間隙を埋めるためのプロセスステップを示す図である。
図26】トレンチ充填を異なる粒度および粒子形態の金属粉末で行う方法の一変形例を示す図である。
図27】トレンチ充填を異なる粒度および粒子形状の金属粉末で行う方法の一変形例を示す図である。
図28】トレンチに分散体を流すトレンチ充填の一実施形態を示す図である。
図29】トレンチに分散体を流すトレンチ充填の一実施形態を示す図である。
図30】トレンチに分散体を流すトレンチ充填の一実施形態を示す図である。
図31】トレンチ製造のためのレーザ加工用セットアップを示す図である。
【0013】
図面の詳細な説明
本発明は、遮蔽格子に加え、X線撮像装置、例えばコンピュータ断層撮影装置にも関する。X線撮像装置は、総じて、X線源と、X線検出器と、X線源から発せられたX線を検出するためのX線検出器の前面に配置された遮蔽格子1とを備える。本発明によって提供される遮蔽格子1の機能を、図1を参照して説明する。図1は、X線撮像装置2の概略的な構造を示す。X線撮像装置2は、図示の実施形態において、X線源、特にX線管30を備え、X線管30は、真空バルブ33と、真空バルブ33中に配置された陽極31と、陰極32とを備える。動作時には、陽極からX線が放射される。検査対象物、例えば患者や身体の一部は、X線管30とX線検出器39との間に配置される。
【0014】
本発明は、いわゆるコーンビームコンピュータ断層撮影法に特に適している。本方法では、回転するファンビームでシーケンシャルスキャンを行うのではなく、X線管30から発せられるコーンビームをマトリックス検出器で検出する。検査対象物を直線的に通過するX線35から断層像に適したデータを得ることができる。一方、散乱X線は、位置情報を含まず、ノイズを増加させるだけである。図1からわかるように、散乱X線は、X線管と検出器との間の直線的な経路に対して斜めにX線検出器39に入射する。遮蔽格子1は、ここで、X線管30から直線的に来るX線35のみを可能な限り減衰させずに通過させ、一方で、散乱X線36を吸収することが望ましい。これは、X線吸収材料から構成される格子の間隙によって画定される通路によって達成され、この通路は、直線的な通路に対して小さな角度の光線しか通過させない。
【0015】
図2に、遮蔽格子1の断面を示す。遮蔽格子1は、支持体またはベース要素としての板状体3を備える。本発明の特に好ましい一実施形態によれば、そして図示された例に限定されるものではないが、板状体3は、板ガラスである。特に、ガラスは延性を示さず、したがって機械的作用によって永久的な変形を生じることがないため、ガラスは材料として特に好ましい。これにより、コリメート特性あるいは直接X線と散乱X線との選択性の変化が回避される。もう1つの理由は、既にガラスを非常に微細に構造化できるようになったことで、同様に高い選択性を有する遮蔽格子の製造が容易になったことである。また、ガラスの種類を適切に選択することで、ガラスの温度膨張を調整できるという利点もある。したがって、例えば、X線検出器39の画素に対する格子の温度に起因する変位を最小限に抑えることができる。これは、比較的大きな寸法にも該当する。したがって、一発展形態によれば、そして遮蔽格子の特定の材料に限定されるものではないが、遮蔽格子1が少なくとも0.25mの面積を有することが提供される。特に、面積は、さらには少なくとも1/3mであってもよい。例えば、一実施形態例によれば、600mm×600mmの寸法を有する遮蔽格子が提供される。
【0016】
板状体3は、2つの対向面5,7を有する。有利には、板状体3は面平行に形成されているため、対向面5,7も同様に平行に延在する。図2からわかるように、両面5,7には、ウェルが導入されている。第1の面5に導入されたウェルは、この場合、トレンチ11として形成されている。対向する第2の面7には、トレンチ11の間に位置するウェル15が導入されている。ウェル15は、第2の面7に向かって開口している。これに対応して、トレンチ11は、対向する第1の面5に向かって開口している。トレンチ11が第1の面5に向かって開口していることにより、トレンチ11にX線吸収材料13を充填することができる。トレンチ11は板状体3内に実質的に垂直に延在しているため、その中に存在するX線吸収材料は、斜めに板状体3に入射するX線を効果的に吸収することができる。説明のために、ウェル15を通って板状体3を通過することができる実質的に垂直に入射するX線35がこれに描き込まれている。一方で、検査対象物での散乱によって生じるような、斜めに入射するX線36は、X線吸収材料13に吸収される。したがって、ウェル15は、たとえ板状体3が厚い場合であっても、X線と板状体3の材料、有利にはガラスとの相互作用を最小限に抑える役割を果たす。X線は、単に、板状体3の厚さよりもはるかに薄型の底壁16を通過するだけでよい。
【0017】
総じて、板状体3は、少なくとも2ミリメートル、有利には少なくとも3ミリメートルの厚さを有するものが好ましい。これにより、それに応じて深いトレンチ11を導入することができ、ひいては、斜めに入射する散乱放射線を良好に遮蔽することができる。しかし、トレンチ11を依然としてX線吸収材料で容易に充填できるようにするには、厚さが10ミリメートル未満でもあることが有利である。
【0018】
ウェル15とトレンチ11との間には、壁19が存在する。これらの壁の領域では、板状体3の厚さが減少しないが、壁19を狭く保つことができる。さらに、これらの壁は、配列にその機械的安定性を付与する。
【0019】
機械的安定性をさらに高めるために、本発明の一発展形態によれば、ウェル15もトレンチ11も有しない、板状体3の縁部領域27を設けることもできる。したがって、この縁部領域は、安定化作用を有する枠として機能する。図示された例に限定されるものではないが、縁部領域は、トレンチおよびウェルのシーケンスの周期長さの少なくとも2倍の幅を有することができる。トレンチ11の周期、あるいはトレンチ11の中心から中心まで測定したトレンチ11の間隔は、好ましい一実施形態によれば最大で500μmである。これは、撮像において高い空間分解能を達成するのに特に有利である。
【0020】
トレンチ11およびウェル15の配列は、特に、検出器の画素ピッチに適合されていてもよい。特に、このような画素のマッチングが行われている場合には、例えば機械的な変形による遮蔽格子1の小さな変化でさえも、かなりの伝送損失をもたらし得る。この理由からも、板状体3の特に好ましい材料はガラスである。総じて、ホウケイ酸ガラスが、安定性の点でも構造化可能性の点でも特に適している。しかし、ガラスセラミック、セラミックまたは特定のプラスチックのような他の材料も考えられる。ホウケイ酸ガラスの他には、総じてソーダ石灰ガラスやアルミノケイ酸ガラスも板状体の材料として好適である。板状体3の材料を選択する上での1つの基準となり得るのが、総じてその線形熱膨張係数である。これをX線吸収材料の膨張係数に近づけることにより、温度に起因する機械的応力を低く抑えることができる。例えば、X線吸収材料13が高い熱膨張係数を有する場合には、ソーダ石灰ガラスが好適であり得る。
【0021】
図3に、遮蔽格子1の第1の面5の上面図を示す。本発明の好ましい一発展形態によれば、トレンチ11の格子9は、図示の例のように交差格子として形成されている。交差するトレンチ11がセルを形成し、このセル内にウェル15が配置されている。しかし、他の配置も可能である。例えば、直接X線に対する高い透過率を、六角形の格子を用いて達成することができる。六角形の格子を有するそのような変形例を、図4に示す。
【0022】
総じて、格子9の形状を、検出器39の画素の形状に適合させることができる。よって、図3および図4を用いて示した例の他に、別の形状も考えられる。例えば、格子9は、矩形、円形、三角形、または例えば八角形のチャネルも画定することができる。
【0023】
図3および図4の図示は、単に概略的なものに過ぎないと理解されるべきである。図示では、トレンチ11がウェル15よりも明らかに狭く示されている。しかし実際には、散乱放射線の良好な遮蔽を達成すべく、トレンチ11とウェル15の幅を同様にし、あるいはそれに付随してトレンチ11の幅に関連してトレンチからトレンチまでの距離を小さくすることが通常有利である。この点で、図2の図示は、好ましい一実施形態に近いものである。この点で、本発明の一発展形態によれば、トレンチ11の幅がウェル15の幅と最大で2倍異なることが提供される。
【0024】
また、深さとトレンチの幅との比が大きいことも、直接X線の透過および散乱放射線の遮蔽に特に有利となる。特に、後に説明する方法を用いて、深さと幅との比が40:1以上であれば、トレンチ11にX線吸収材料を充填することも可能である。しかし、アスペクト比が高すぎると、十分に均一な充填や完全な充填が保証されなくなる場合がある。したがって、幅と深さとの比を150:1以下に制限することが好ましい。ここでも、図面は単に概略的なものに過ぎないことが明らかである。図2のトレンチ11のアスペクト比は、40:1よりかなり小さい。代替的または有利には追加的な一発展形態によれば、トレンチ11の幅は、最大で100μm、有利には最大で50μmである。これは、幅を小さくすることでシャドウイングを回避することによって、検出器の均一な投光に総じて有利である。大きな深さ、あるいは対応するアスペクト比との組合せにより、トレンチ11の幅が小さくても、高いX線吸収率が得られる。
【0025】
散乱放射線の良好な遮蔽および直接放射線の透過のためのさらなる代替的または追加的な因子は、トレンチ11の深さである。有利には、トレンチ11の深さは、少なくとも1.5ミリメートル、有利には少なくとも2ミリメートルである。
【0026】
また同様に、格子9のトレンチ11によって画定される通路またはチャネルが可能な限り長い場合には、散乱放射線の高度の遮蔽という特性にとって有利である。これらのチャネルが幅に対して長いほど、直接放射線の通過と斜めに入射する散乱放射線の遮蔽とに対する格子の選択性が高くなる。したがって、本発明のもう1つの発展形態によれば、2つの隣接するトレンチの中心間距離が、それらの深さよりも小さいことが提供される。有利には、中心間距離は、さらにはトレンチ11の深さの3分の1以下である。
【0027】
最後に、良好な遮蔽のためには、トレンチ11の壁が、面5,7の平面に対して可能な限り垂直に延在することが望ましい。この点で、トレンチ11の壁25と第1の面5とが成す角の直角からのずれが5°未満であると好ましい。5°未満の小さなテーパ角度も、特に板ガラスにおいて、後述する製造方法で実現することができる。これは、板状体に垂直に切り込むトレンチ11およびウェル15の特別な場合に適用される。
【0028】
図2に示す例では、トレンチ11は、面5,7に対して垂直な方向に互いに平行に延在する。このような配置は、検出されるX線が平行光線束として入射する場合、すなわち、例えばX線源が遠くにある場合に特に好適である。しかし、典型的には、例えばコンピュータ断層撮影装置のようなX線撮像装置では、より近くに配置されたX線源が使用されるため、遮蔽格子に円錐形の光線束が当たる。したがって、総じて、本発明の一実施形態において、トレンチ11が傾斜の変化を示すため、トレンチ11の壁が、共通の仮想点源を指す方向に沿って延在することが提供される。言い換えれば、トレンチ11は、隣接するトレンチ11によって画定されるチャネルの中心軸線が共通の仮想点源を指すような傾斜で板状体3内に導入されている。これに応じて、このことはウェル15の中心軸線についても該当する。したがって、本発明の一実施形態において、ウェル15の中心軸線17が、共通の仮想点源に向けられていることが提供される。このような配置を、図5に概略的に示す。ウェル15の中心軸線17は、総じて、隣接するトレンチ11によって画定されるチャネル12の中心軸線とも一致する。チャネル12には、ウェル15に加えてさらに板状体3の材料も含まれており、この材料が、壁16,19を形成する。図から明らかであるように、トレンチ11も仮想点源18に向けられているため、トレンチ11の壁が点源18の方向に延在する。円錐形の光線経路により、ウェル15およびトレンチ11の幅も、図示のように、板状体3内の経路において変化することになる。ここで、点源18に面する側(ここでは第2の面7)の幅は、対向する面の幅より小さくなる。しかし、実際には、このことは通常は必要ではなく、それというのも、点源は、総じて板状体3の厚さに対して図5の図示よりもずっと遠いためである。したがって、トレンチ11およびウェル15が、光線方向、あるいは面5,7に対して垂直な方向に一定の幅を有することが好ましい。よって、この幅の推移は、図2の図示に相当する。
【0029】
以下に、本発明による遮蔽格子1の製造方法につき説明する。散乱X線に対する遮蔽格子1の製造方法は、
- 第1の面5と、第1の面5に対向する第2の面7とを有する板状体3を提供するステップと、
- 板状体3にレーザ光線を照射するステップであって、板状体3の材料がレーザ光線に対して透明であるため、レーザ光線が板状体3を貫通し、その際、
- レーザ光線が、板状体3を通る該レーザ光線の経路に沿ってフィラメント状損傷を残し、その際、フィラメント状損傷の第1の群が第1の面で終わり、フィラメント状損傷の第2の群が第2の面7で終わるようにフィラメント状損傷が導入されるものとするステップと、
- フィラメント状損傷の第1の群および第2の群の領域における板状体3の材料を、エッチング媒体による板状体3のエッチングによって除去するステップであって、
- 第2の群の領域の材料を除去することによって、板状体3の第2の面7に向かって開口したウェル15の配列が形成され、
- 第1の群の領域の材料を除去することによって、第1の面5に向かって開口したトレンチ11から構成される格子9が形成されるものとするステップと、次いで
- トレンチ11にX線吸収材料13を充填するステップと
を含む。
【0030】
フィラメント状損傷の導入には、特に超短パルスレーザが適している。図6には、これに関して、板状体3にフィラメント状損傷41を導入し、その後これからエッチングプロセスでトレンチ11およびウェル15を形成するためのレーザ加工装置を示す。装置50は、上流の集束光学系52を有する超短パルスレーザ51と位置決めユニット53とを備える。位置決めユニット53により、超短パルスレーザ51のレーザ光線40の入射点54を、加工すべき板状体3の面5,7のうちの一方に横方向に位置決めすることができる。図示の例では、位置決めユニット53は、x-yテーブルを備え、このx-yテーブルに、板状体3の面5,7のうちの一方が載置されている。しかし、代替的または追加的に、光学系を移動可能にしてレーザ光線40を移動させることで、レーザ光線40の入射点54を板状体3上で移動可能にすることも可能である。集束光学系52は、レーザ光線40を、光線方向に、すなわちそれに応じて板状体3の照射面に対して横方向に長い焦点に集束させる。このような焦点は、例えば、円錐レンズ(いわゆるアキシコン)や球面収差の大きいレンズで形成することができる。位置決めユニット53および超短パルスレーザ51の制御は、有利には、プログラムで設定される演算ユニット55によって行われる。図6の図示では、レーザ光線40は、板状体3に垂直に入射している。しかし、好ましい一実施形態によれば、位置決めユニット53および/または集束光学系52は、それぞれ設けられた中心軸線17に対して平行な長手方向にある、あるいは仮想点源18への方向に対して概ね平行にあるフィラメント状損傷41を形成すべく、斜めの照射が可能となるように形成されていてもよい。したがって、総じて、ここに図示された特定の実施形態例に限定されるものではないが、本方法の発展形態において、フィラメント状損傷41が板状体3の面5,7のうちの一方に対して少なくとも部分的に斜めに導入されることが提供される。位置決めユニット53を使用して、所定のパターンに従って板状体3上に分布する入射点あるいはフィラメント状損傷41の位置を連続的に導入することにより、所定のパターンを形成することができ、これらのパターンは、次いでその後のエッチングステップで仕上げ処理される。
【0031】
一実施形態例によれば、レーザ光線には以下のパラメータを使用することができる:レーザ光線の波長は、YAGレーザに代表される1064nmである。生ビーム径12mmのレーザ光線が形成され、次いでこれを焦点距離16mmの両凸レンズ状の光学系で集束させる。超短パルスレーザのパルス持続時間は、20ps未満であり、一実施形態例では約10psである。パルスは、2以上、好ましくは4以上のパルスを有するバーストで発せられる。バースト周波数は、12~48ns、一例では約20nsであり、パルスエネルギーは、少なくとも200マイクロジュールであり、バーストエネルギーは、それに対応して少なくとも400マイクロジュールである。一実施形態によれば、超短パルスレーザは、1kHz~1000kHz、有利には2kHz~100kHz、特に好ましくは3kHz~200kHzであるバーストあるいはパルスパケットの繰返し周波数で動作させることができる。ここで、この繰返し周波数および/または走査速度は、隣接する損傷/チャネル間の所望の距離が達成されるように選択することができる。ビーム源として、Nd:YAGレーザの他の変形例、例えば、周波数2倍化(SHG)または周波数3倍化(THG)によって生じる波長532nmあるいは355nm、またはさらには1030nmの発光波長で動作するYb:YAGレーザを、適切に使用することができる。
【0032】
レーザのビームコンディショニングにより、ブラインドホール/チャネルの製造に向けて本方法を特別に適合させることが可能である。特に、極めて短い焦点距離、特にf<20mmの焦点距離を使用することができる。代替的または追加的な一実施形態によれば、強度に拡大された生ビームが使用される。特に好ましくは、このために、レーザ光線は、レンズあるいは集束光学系に当たったときに少なくとも4mmのビーム径を有する。
【0033】
もう1つの方策は、強度分布の変更である。このために、最大強度を、光軸から集束光学系の縁部領域へシフトさせてもよいし、総じてより大きな領域に分布させてもよい。このような特徴を有するビームプロファイルには、特にフラットトッププロファイルやドーナツプロファイルがある。
【0034】
点源へのウェルおよびトレンチの配向は斜め照射をも伴うため、特にブルースター角の近傍で、基板表面に対して平行な偏光配向でカップリングを行うことがさらに有利である。さらに、より大きな入射角を得るために、必要に応じて集束光学系への非対称的な照射を行うことができる。
【0035】
フィラメント状損傷を導入する方法およびそれに適したレーザパラメータ、ならびにその後のエッチングのパラメータに関する実施形態は、DE102017101673.2、DE102018110211.9およびPCT/EP2021/077030から引用することもできる。これらの出願も、フィラメント状損傷41を導入するための実施形態ならびにレーザ照射およびエッチングのパラメータに関して完全に本開示の主題を成す。
【0036】
図7は、フィラメント状損傷が導入された板状体3を示す。フィラメント状損傷41は、2つの群43,44に分けられる。ここで、第1の群43のフィラメント状損傷41は、第1の面5で終わり、第2の群44のフィラメント状損傷41は、第2の面7で終わる。図示された例に限定されるものではないが、フィラメント状損傷41の少なくとも一部、有利にはすべて、または両群43,44のフィラメント状損傷が、図示のように板状体3内で終わっていると総じて特に好ましい。こうすることで、その後のエッチングの際に板状体を全面的にエッチング媒体に曝しても、ブラインドホールの形態のウェル15、あるいは板状体内で終わるトレンチ11が容易に形成される。フィラメントは、有利にはガラスの厚さの50%~90%を通っているため、エッチング工程の後に、ウェル15およびトレンチ11が形成するチャネルまたはブラインドホール/空所は、有利にはガラスの厚さの55%~95%に達する。
【0037】
したがって、フィラメント状損傷41は、一方では板状体の内部で、他方では面5,7のうちの一方で終わっている。図6からもわかるように、フィラメント状損傷41はまた、後に想定される仮想点源への方向の角度に応じて斜めに導入されている。ここで、本方法の一実施形態によれば、フィラメント状損傷41の導入のために板状体3を裏返す必要はない。レーザ光線40の長い焦点の位置を適合あるいは変更すれば十分である。このために、レンズの位置および/または板状体3の位置を変更することができる。例えば、板状体3において図7に従ってレーザ光線40が第1の面5に照射される場合、群43のフィラメントに対する長い焦点の始まりは、板状体3の上またはその手前に位置することができる。次に、群44のフィラメントを導入するために、レーザ光線40の長い焦点の始まりが板状体3内に位置するように、焦点を光線方向にシフトさせることができる。したがって、特定の実施形態例に限定されるものではないが、本方法の一実施形態によれば、板状体3の同じ面5,7にレーザ光線40を照射し、板状体に対するレーザ光線40の焦点の位置を変化させて、両群43,44のフィラメント状損傷41の少なくとも一部をレーザ光線40に沿った方向で形成することが提供される。
【0038】
板状体3の材料としてガラスを用い、エッチング媒体として苛性溶液を用いると、特にエッチングをゆっくりと行った場合に、トレンチ11およびウェル15の壁に特徴的な表面トポグラフィーを実現することができる。特に、トレンチ11およびウェルの表面は、互いに隣接する複数の小さなドーム状のウェルを有することができる。有利には、ドーム状のウェルは、10μm未満、好ましくは5μm未満、好ましくは2μm未満の深さを有し、ここで、深さは、ウェル低部の中心とウェルを取り囲む稜線部の中央ピークとの差により定められる。ドーム状のウェルについては、DE102017101673.2、DE102018110211.9およびPCT/EP2021/077030にも詳細に説明されており、これに関する内容も完全に本開示の対象である。ドーム状のウェルを有する表面トポグラフィーにより、板状体3とX線吸収材料との良好な接続が得られる。特に、X線吸収材料が特にはんだガラスのような溶融ガラスを含む場合、強力な接続を達成することができる。ここで、ウェルにより、材料結合のための表面積が増加し、両材料の適切な噛み合わせが達成される。
【0039】
図8に、エッチング後の板状体3を示す。板状体3の材料は、そのような損傷のない領域よりも、フィラメント状損傷41に沿ってはるかに迅速にエッチングすることができる。したがって、エッチング時に、フィラメント状損傷41を拡張させながら、材料、有利にはガラスが除去される。このようにして形成されたチャネルは、最終的に一体化し、第1の面5から出発して板状体3内に延在するトレンチ11、および第2の面7から出発して板状体3内に延在するウェル15の形態の所望の構造を形成する。フィラメント状損傷41の傾きに応じて、図5に示すように、トレンチ11およびウェル15も仮想点源に向かうように配向されている。
【0040】
最後に、面5において、X線吸収材料13を、例えばペーストの形態でトレンチ11に充填することができ、それにより、図9に示す遮蔽格子1が得られる。本方法の一発展形態によれば、総じて、図示された特定の実施形態に限定されるものではないが、例えばX線吸収を低減するために、X線吸収材料13の充填後に板状体3を薄肉化することも可能であることが提供される。図9には、第2の面7に平行にかつ近接して延びる破線が引かれている。ここで、板状体3を面7上でこの線まで研削すると、図10に示すような板状体3が得られる。図10の実施形態でも実現されるさらに代替的または追加的な一発展形態によれば、板状体が薄肉化されると、トレンチ11、ひいてはX線吸収材料13が第2の面7で露出される。したがって、総じてトレンチ11が板状体3の両面5,7で少なくとも部分的に開いている実施形態が得られる。本実施形態は薄肉化に限定されず、例えば、フィラメント状損傷41が両面5,7で終わるように、フィラメント状損傷41を少なくとも部分的に板状体3の全体にわたって導入することも可能である。また、一方または他方の面5,7で交互に終わる、互いに近接したフィラメント状損傷41を導入することも可能である。その後、エッチングの際に、フィラメント状損傷41に沿って形成されたチャネル同士がつながって、両面5,7を連続的に接続するトレンチ11が形成される。しかし、ここで、トレンチ11に隣接する板状体3のセクション間の直接的な接続は、場合によってはもはや存在しない。しかし、機械的安定性を維持するために、例えば、深さが減少したトレンチ11の領域により得られるブリッジ状物をそのまま残すことができる。代替的または追加的な方法の1つとして、トレンチ11の壁と材料結合をするX線吸収材料を提供することが挙げられる。総じて、図10の変形例に限らず、X線吸収材料13の成分としてガラス、特にはんだガラスを提供することが好ましく、その際、ガラスが溶融され、したがって板状体3の材料との材料結合、有利には同様に一体的なガラスが製造される。場合によっては、ガラスを溶融させれば十分である。X線吸収材料13の成分として好適なのは、それが溶融形態であるか否かにかかわらず、特に、例えば鉛ガラスなどの鉛および/またはビスマス含有ガラスである。鉛および/またはビスマス含有ガラスは、その鉛あるいはビスマスの含有量により、電離放射線、特にX線に対して良好な遮蔽効果を有する。また、ガラスは、完全または部分的に結晶化することができる。特殊な結晶化ガラスやはんだガラスが知られている。しかしこの場合も、本開示の趣意において、X線吸収材料の成分として溶融または初期溶融ガラスが挙げられる。したがって、総じて、一実施形態において、X線吸収材料13が初期溶融または溶融ガラスを含むことが提供される。
【0041】
さらに、X線吸収材料13が溶融はんだガラスを含む場合、X線吸収材料13と板状体3との材料結合および/またはX線吸収材料13のトレンチ11内での永久的な安定的固定に有利である。ここでは、鉛含有はんだガラスが存在することが非常に有利である。特にガラス成分としての酸化鉛は、低い軟化点を提供するのに好適であり、それと同時に高い遮蔽効果を提供する。板状体3を変形させることなくトレンチ11内でガラスを溶融させることができるように、総じて、X線吸収材料13のガラスおよび板状体3のガラスに以下の特徴のうちの少なくとも1つが該当すると好ましい:
- X線吸収材料13のガラスは、板状体3のガラスのガラス転移温度Tより少なくとも100℃、有利には少なくとも160℃、またはさらには少なくとも220℃低いガラス転移温度Tを有する、
- X線吸収材料13のガラスは、該ガラスの10dPa・sの粘度で、板状体3のガラスの加工温度よりも少なくとも100℃、特に少なくとも200℃、特に好ましくは少なくとも250℃低い加工温度を有する、
- X線吸収材料13のガラスは、該ガラスの10dPa・sの粘度で、板状体3のガラスの軟化点の温度よりも低い加工温度を有し、その際、軟化点は、107.6dPa・sの粘度で規定されている。
【0042】
一例において、X線吸収材料13には、Schott-AG社製G017-52型はんだガラスが使用される。Schott-AG社製Borofloat 33ガラスから構成される板状体3の場合には、ガラス転移温度Tの違いが263℃となる。はんだガラスG017-052の粘度は、347℃で107.6dPa・sである。この温度は、Borofloat 33ガラスの軟化点より218℃低い。
【0043】
X線吸収材料の成分としてのガラスは、ガラスが鉛を含むか否かにかかわらず、本明細書に記載の配置に関連してさらに別の利点を有する。ガラスは、脆性破壊を生じ易い材料として、非常に細かく粉砕することができる。その際、ガラスダストは、例えばペースト状の調合物の成分として、狭く深いトレンチ11に充填するのにも非常に適している。その際、充填は、例えばドクターブレードによって容易に行うことができる。一実施形態例では、ペースト状調合物をトレンチ11に充填した後、有利には100℃~200℃で乾燥させる。特にトレンチ11のアスペクト比が大きい場合には、トレンチ11への完全な充填を行うために充填および乾燥を繰り返すことができる。トレンチ11への十分な充填が行われたら、350℃~450℃での熱処理を行うことができ、その際に調合物のガラスを溶融させることで、トレンチ11の壁にしっかりと接続されたX線吸収材料13が得られる。したがって、一実施形態によれば、粉末状ガラス、有利にはX線吸収材料13の成分としてのはんだガラス21、有利には粉末状ガラスと粒子との混合物をトレンチ11に充填し、その際、はんだガラス21を溶融または初期溶融させることによって、トレンチ11の壁に付着する強固なX線吸収材料13を形成することが提供される。
【0044】
図11は、X線吸収材料の好ましい一実施形態を概略的に示す。本実施形態によれば、X線吸収材料13は、総じて粒子、有利には金属粒子23を含む。特に好ましい発展形態において、X線吸収材料13は、溶融材料に埋め込まれた粒子、特に金属粒子23および/または鉱物粒子および/またはセラミック粒子を含む。粒子形態のまたは粒子としての成分とは、本開示の趣意において、金属の粒状体あるいは粒子に加えて、セラミックもしくはガラスセラミックあるいは半結晶性のガラス、ならびにさらには粒状体もしくは粒子としての晶子(単結晶または多結晶の晶子)、またはそれらの組合せも含まれるものと理解される。溶融材料は、好ましくは図示の例のように、溶融ガラスまたははんだガラス21であってよい。ガラスは、X線吸収材料13と板状体3との強固でかつ総じて機械的な負荷にも耐え得る結合を提供する。したがって、特定の実施形態に限定されるものではないが、製造方法の一発展形態において、ガラス粒子と粒子、有利には金属粒子23とを含むペーストを提供し、ペーストを、有利にはドクターブレードによってトレンチ11に充填し、トレンチ11内にガラス粒子および粒子を有する板状体3を加熱することによりガラス粒子を軟化させて、ガラス中に粒子、好ましくは金属粒子23が埋め込まれたX線吸収材料13を得ることが提供される。
【0045】
特定の実施形態例に限定されるものではないが、好ましい一実施形態によれば、ペーストが、各種固形分、有利には少なくともガラスダストおよび金属ダスト、あるいは金属粒子23に加えて、有機溶媒または有機懸濁剤を含むことが提供される。したがって、総じて、ペーストは、好ましい実施形態において、粉砕ガラスと金属ダストと1つ以上の有機溶媒との混合物である。適切な場合には、さらなる添加物質、例えば結晶性無機材料が含まれている。有機溶媒または有機懸濁剤として好ましいのは、低粘度でかつ高沸点の液体有機材料である。有利には、沸点は少なくとも120℃であり、特に好ましくは少なくとも180℃である。20℃での粘度は、有利には5mPa・s未満である。各種グリコールエーテルが特に好適である。
【0046】
金属粒子23には、特に重金属、または少なくとも1つの重金属との合金を使用することが有用である。総じて、金属粒子23が、原子番号が55より大きい金属を少なくとも66at%の割合で含むことが好ましい。代替的または追加的な一実施形態によれば、金属粒子23は、良好なX線吸収を達成するために、少なくとも9g/cmの密度を有する。特に、X線吸収材料13の密度は、好ましくは、板状体3の密度よりもはるかに高い。それにより、異なる材料における非常に異なるX線吸収と、それに対応して高いコントラストとが達成される。したがって、X線吸収材料13の密度が、板状体3の材料の密度の少なくとも4倍であると好ましい。
【0047】
特に好ましくは、X線吸収材料13は、タングステン含有材料の粒子を、有利には金属タングステンまたはタングステン合金の形態で含む。タングステンは、特に高い密度を有する。純粋な金属形態において、タングステンは19.25g/cmの密度を有する。代替的または追加的に、タングステン含有鉱物および/またはタングステン含有セラミックの粒子が含まれていてもよい。タングステンのような重金属を用いることで、高密度のX線吸収材料13も達成できる。したがって、好ましい一実施形態において、X線吸収材料13が、少なくとも9g/cm、有利には少なくとも11g/cmの密度を有することが提供される。特に、重金属の金属粒子とガラス、特に鉛ガラスまたははんだガラスとの組合せにより、このような高い密度を達成することができる。これらの密度は、X線吸収材料に関しても当然のものではない。例えば、タングステンが付与されたプラスチックやポリマーペーストが達成する密度は、通常は8g/cmをわずかに超える程度に過ぎない。
【0048】
さらに、X線吸収材料13の成分により、その熱膨張係数を調整することも可能である。これらの成分および板状体3の適切な材料、特に適切なガラスを選択することにより、遮蔽格子1のもう1つの発展形態によれば、X線吸収材料13の線熱膨張係数と板状体3の材料の線熱膨張係数との差を3ppm/K未満の量に制限することができる。膨張係数を互いに適合させるため、または少なくとも板状体の膨張係数とX線吸収材料の膨張係数との差を減少させるために、一実施形態によれば、X線吸収材料において、0℃~200℃の温度範囲の少なくとも一部において1ppm/K未満、またはさらには負の線熱膨張係数を有する少なくとも1種の成分を、有利には粒子形態で、あるいはその調合物用の粒状の添加物質として設けることが提供される。粒子は、例えば、少なくとも部分的に晶子の形態であってよい。ここでは、これらの条件を満たし、したがって依然として良好な遮蔽効果をも有する高密度の材料も存在することが特に有利である。特に、このような熱膨張係数を有する鉛またはタングステンの化合物が知られている。ここで、本実施形態の発展形態において、X線吸収材料13は、チタン酸鉛および/またはタングステン酸ジルコニウムの化合物のうちの少なくとも1つを含む。
【0049】
さらにもう1つの実施形態によれば、X線吸収材料13のガラスの線熱膨張係数と金属粒子23の線熱膨張係数も互いに適合されている。有利には、ガラスおよび金属粒子23は、線熱膨張係数の大きさの差が最大で5ppm/Kとなるように選択される。以下、X線吸収材料13あるいはX線吸収材料13を製造するためのペーストの成分の一実施形態例について説明する。ガラスとして、酸化鉛を含有するG017-52型のはんだガラスが使用される。このガラスは、鉛の含有量が多く、PbOの含有量が86重量%である。さらなる成分として、タングステン金属粒子が加わる。これから製造されたX線吸収材料の特性および組成を、下表に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
本実施形態例からわかるように、材料を組み合わせることで、9g/cmを明らかに上回る、さらには11g/cmをさらに明らかに上回る非常に高い密度を達成することができる。
【0052】
X線吸収材料に使用可能なさらなるガラスは、Schott-AG社製ビスマスはんだガラスG018-423である。このはんだガラスは、Biを最大で84重量%含む。
【0053】
上記のようなドクターブレードによりトレンチ11への充填を行う際の課題の1つに、トレンチ11が、高いアスペクト比ゆえに非常に狭く、深いことが挙げられる。それにもかかわらず、トレンチ11は可能な限り完全であることが望ましい。また、ガラスの溶融後に、孔が形成されないか、または可能な限り少なく、小さいことが望ましい。これらの特性は、材料の粒径によって驚くほど効果的に影響を受けることができる。
【0054】
図12は、アトライターで粉砕されたはんだガラスの粒度分布を示す。好適なガラスの種類の1つとして、特に本出願人によるはんだガラスG017-052が挙げられる。破線の曲線は、ガラス粒子径のヒストグラムである。実線は、粒度の累積の推移を示す。ガラス粒子は球状ではないため、グラフの横軸に示された直径は、横方向の寸法の平均値を示している。ガラス粉末は、1.39μmの90%径を有する。これは、ガラス粒子の90%が最大で有する直径である。50%径は0.67μmであり、10%径は0.24μmである。本方法の一発展形態によれば、充填度が最大化されるように、使用される成分、すなわち特にガラス粉末および金属粒子を選択することが提供される。典型的には、この選択は、金属粒子の含有量を可能な限り高くするという二次的条件下で行われる。この二次的条件および場合によっては予め定められた粒度分布の下でも、粒度分布の異なる2種の金属粉末をペーストあるいはより一般的にはガラス粒子と金属粒子との混合物に加えることによって、充填度を適合させることができる。両粉末の異なる加重によって、またガラス粉末の粒度分布を考慮して、充填度を最適化することができる。好ましい一実施形態によれば、充填され、必要に応じて有利には上述のようにガラスの溶融または初期溶融によって固化されたトレンチ11内の材料13の充填度は、少なくとも40体積%、有利には少なくとも60体積%である。さらに、少なくとも70体積%の充填度が目標とされ、達成可能である。
【0055】
充填度は、例えばアンドレアゼンモデルで算出することができる。アンドレアゼンモデルでは、以下の式の粒度分布が想定される
F(d)=100×(d/dmax
【0056】
ここで、粒子径に依存する関数値F(d)は、直径がd以下の粒子の累積パーセンテージである。したがって、関数値F(d)は、累積値Q3、あるいは図12のグラフの実線に相当する。分布の形状は、特に定数nによって決まる。パラメータdmaxは、存在する粒子の最大径を示す。
【0057】
最適化は、当業者に知られている他のモデルでも行うことができる。代替モデルは、例えば、Ψモデル、またはディンガー関数モデルである。
【0058】
図13は、一実施形態例による粒度分布を示す。特に、図12に示す粉砕ガラスの粒度分布に加えてさらに、タングステン金属粉末B10およびB20についての2つの粒度分布、ならびに3成分すべての混合物、すなわち粉砕ガラスと両金属粉末との混合物についての粒度分布が示されている。粒度分布は、特にそのd50値で特徴付けることができる。これは、大きな粒子の数と小さな粒子の数とが等しくなる値である。言い換えれば、各ダストまたは粉砕物の全粒子の半分が、d50値よりも小さい直径を有する。金属粉末B10のd50値は3μmであり、金属粉末B20のd50値は5μmであり、粉砕ガラスのd50値はわずか0.67μmである。金属粉末B10およびB20は、株式会社アライドマテリアル(日本国)から提供される。
【0059】
図13からわかるように、ガラスが最も小さく、金属粉末B20が最も大きい粒度を有する。したがって、一実施形態によれば、少なくとも3種の成分、すなわちここでは粉砕ガラスと両金属粉末とが、可能な限り高い充填密度が得られるように混合される。したがって、一発展形態によれば、本方法は、総じて、粉砕ガラス(またはガラスダスト)と少なくとも1種のさらなる粉末との混合物の充填密度を測定または算出するステップと、混合物の充填密度を算出および/またはさらに測定するステップと、混合比を変化させた混合物の充填密度を少なくとも一度算出または測定するステップと、算出または測定の少なくとも2つの結果からトレンチ11への充填を行うための調合物の混合比を選択または決定するステップと、その混合比の調合物を製造するステップとを含む。しかし、調合物のための選択された混合比は、測定または算出された混合比のうちの1つと同じでなくてもよい。したがって、理想的な混合比を、結果から補間または外挿することもできる。
【0060】
充填密度に関して最適化されたガラス粉末と両金属粉末B10,B20との混合物の粒度分布は、一方では金属粉末と、他方ではガラスダストとの間の粒度で存在する。一実施形態例によれば、調合物は、以下の混合物を有する。
【0061】
【表2】
【0062】
したがって、タングステン金属粒子は、80重量パーセントをわずかに超える重量割合および約30体積パーセントの体積割合を有する。
【0063】
金属粒子の代わりに、または金属粒子に加えて、重元素、特に重金属を含む鉱物またはセラミックを使用することもできる。重元素とは、上記の定義にしたがって、原子番号が55より大きい元素であると理解される。ここでも、X線吸収材料は、金属粒子が追加的に含まれない場合でも、少なくともZ=56の原子番号を有する元素を少なくとも10重量%有し、Z≧56のかかる元素を有利には少なくとも25重量%、特に好ましくは少なくとも50重量%の割合で有する材料であると好ましい。好適な鉱物は、特に灰重石あるいはタングステン酸カルシウム(CaWO)、酸化鉛および硫化鉛である。
【0064】
好ましいようにトレンチ11に充填された混合物を加熱することでガラスが溶融または軟化し、したがって金属粒子23のための固体マトリックスが形成されると、ガラス粒子は総じて、完成した遮蔽格子上でもはや検出されない。しかし、金属粒子23が、微細度の異なる2種の金属ダストの混合物ゆえに広いサイズ分布を有することは、高い充填密度を有する好ましい混合物の特徴であり、ひいては高い吸収効率を有するX線吸収材料13の特徴でもある。したがって、総じて、上記で説明した例に限定されるものではないが、有利にはガラスに固定された粒子が、d50値の異なる少なくとも2種の粉末、特に金属粉末および/または鉱物粉末および/またはセラミック粉末の混合物の形態で存在するX線吸収材料13が提供される。特に、これらのd50値は、実施形態例と同様に少なくとも1.5μm程度異なることもある。この混合物は、粒度分布が比較的広く、少なくとも個々に得られた両金属ダストの粒度分布よりもはるかに広いという事実も伴っている。上式によるアンドレアゼン分布をこのような実分布に当てはめると、比較的小さな指数nが得られる。したがって、一発展形態によれば、粒子、有利には金属粒子23であって、金属粒子23の粒度分布に適合させた粒子径dのアンドレアゼン分布F(d)=100×(d/dmaxの指数(またはモジュラス)nが、n=0.33より小さく、有利にはn=0.28より小さい粒度分布を有するものを含むX線吸収材料13が提供され、ここで、dmaxは、適合させたアンドレアゼン分布の最大粒子径である。アンドレアゼン分布は、理想化されたものであり、金属粒子23の実際の分布に適合されているため、dmax値は、金属粒子23の実際の最大粒子径と一致する必要はない。図13の両対数表示において、アンドレアゼン分布は、実際に示された粒度分布のような曲線ではなく、直線である。
【0065】
微細度の異なる2種の金属粉末を使用することにより、粒度分布が広くなるだけではない可能性がある。代替的または追加的な一実施形態によれば、X線吸収材料13中の粒子、特に金属粒子23の粒度分布は、二峰性または多峰性であってもよい。これは、図12の粉砕ガラスについて示されるような粒度分布の図示において、ヒストグラムが2つ以上の区別できる極大を有することを意味する。
【0066】
タングステンダストの他に、さらに他の成分が粒子形態で存在していてもよい。例えば、X線吸収材料の熱膨張係数を調整することができる添加物質、例えば低膨張材料、またはさらにはチタン酸鉛やタングステン酸ジルコニウムのような負の温度膨張を有する成分がここで考慮される。トレンチ11およびウェルを導入することによって、板状体3の材料の大部分が除去される。特に、図2図8および図9の実施形態からわかるような板状体3の材料の連続的な接続が、この構造化によって直線的ではなく蛇行しながら延在する可能性がある。これは、板状体3の安定性を低下させる。例えば溶融ガラスあるいははんだガラス21の形態で提供されるような強固なX線吸収材料13の材料の定着によって、強度を再び増加させることができる。それにもかかわらず、構造化板状体3により高い強度を与えることが望ましい場合がある。これを行う方法の1つとして、板状体3をさらなる板状体に接続することが挙げられる。この場合、有利には、板状体3に板ガラスを接続することができる。特に、これに薄型の板ガラスを使用することができる。これに関して、図14は、本実施形態の一例を示す。一変形例によれば、図示のように、薄型の板ガラス8が板状体3の第2の面7に取り付けられる。この配置の利点は、追加的にウェル15が密閉されるため、ウェル15の不純物混入または汚染が回避されることである。薄型の板ガラス8は、本開示の趣意において、最大で250μm、有利には最大で150μmの厚さを有する板ガラスであると理解される。薄型のガラスは、材料の厚さが小さく、X線吸収がわずかにしかないため、この場合特に好適である。同時に、薄型のガラスであっても、配置の機械的安定性がかなり向上することが特に有利である。なぜならば、ウェル15は、典型的には小さな幅あるいは横方向の幅しか有していないためである。それにより、薄型のガラスはウェル15上でほとんど曲がることができないため、剛性の大きな増大が達成される。それに応じて、板状体3の第1の面5に取り付けられた薄型の板ガラス8についても同じことが該当する。したがって、総じて、図示された例に限定されるものではないが、一実施形態において、板状体3の少なくとも一方の面5,7に薄型の板ガラス8が取り付けられていることが提供される。取付けには、いくつかの方法が適している。単純な一変形例としては、例えばエポキシ樹脂やシリコーンを用いた接着が挙げられる。また、はんだガラス、例えばX線吸収材料13にも使用されているのと同じはんだガラスを使用することも考えられる。はんだガラスで接続することにより、板状体3への薄型の板ガラス8の取付けと、X線吸収材料13のはんだガラスの溶融とを1ステップで行うことが可能となる。同様に、両板状体3,8をレーザで溶着することも可能である。また、陽極接合も考えられる。
【0067】
遮蔽格子1の代替的または追加的なさらなる加工の1つとして、例えば浸漬による有機層の施与または封止が挙げられる。これに関する一例を、図15に示す。本例では、遮蔽格子1の板状体3は、有機封止体10で完全に囲まれている。封止体10はまた、図示のように、ウェル15を完全にまたは少なくとも部分的に充填することができる。有機材料が高度のX線吸収を示さないことを条件として、これはウェル15内の著しい吸収損失を招かない。有機封止体としては、特にポリマー、ラッカー、合成樹脂、シリコーンが適している。図示とは異なり、有機封止体10が、板状体3の一部のみ、例えば第1の面5のみに施与されていてもよい。したがって、総じて、本実施形態によれば、板状体3に少なくとも部分的に、あるいは板状体3の面の少なくとも一部に有機封止体10が施与されていることが提供される。本実施形態を、当然のことながら、薄型の板ガラス8を有する実施形態と組み合わせることもできる。この場合、有機封止体10は、例えば、板状体3、特に薄型の板ガラス8に対する機械的保護として機能することができる。
【0068】
以下に、板状体3のトレンチ11にX線吸収材料を充填するための種々の実施形態について説明する。図16図19は、第1の実施形態によるプロセスステップを示す。簡略化のため、単一のトレンチ11を有する板状体3の1セクションのみが図示されている。充填を容易にするために、キャビティまたはトレンチ11を脱気することが好ましい。次に、図16に示すように、金属粒子23と分散媒59とを含む分散体57をトレンチ11に充填する。分散体57は、上述した実施形態に従って総じてペーストと呼ばれることもある。分散体は、既に説明したような金属粒子23に加えて、他の粒子、例えばガラス粒子も含むことができる。
【0069】
トレンチ11への充填を良好に行えるようにするために、充填は、有利には加圧下で行われる。次のステップでは、分散体57を乾燥させ、その際に分散媒59が除去される。これにより、粒子が沈降し、緻密になる。しかしその結果、図17に示すように、トレンチ11が完全に充填されなくなり得る。したがって、可能な限り高い充填度を達成するために、図18に示すような分散体を充填するプロセスと、図19に示すような乾燥あるいは分散媒の除去とを1回以上繰り返すことができる。理想的な場合には、それにより、図19に示すように、分散体の粒子によるトレンチ11の完全な充填が達成される。したがって、図16図19に示された特定の例に限定されるものではないが、一実施形態によれば、以下の方法が提供される:
- 有利には減圧環境、特に真空中で保管される板状体3のトレンチ11に、分散媒59と金属粒子23とを有する分散体57を充填するステップ、
- 分散媒59を除去することにより、金属粒子23を沈降させるステップ、
- これらの2つのステップを、有利には少なくとも1回繰り返すステップ。
【0070】
しかし、場合によっては、トレンチ11の充填において空洞が依然として存在し得る。この問題を解決するために、トレンチ11内の金属粒子23の可能な限り高い圧密化の代わりにまたはそれに加えて、粒子間の間隙を埋めるさらなる金属を含む化合物を製造することも可能である。これに関して、図20図23は、製造方法のさらなる一実施形態による充填のためのプロセスステップを示す。まず、図20に示すように、トレンチ11に金属粒子23を充填する。ここで、この充填は、図16図19で説明した方法に従って行うこともできる。続いて、図22に示すように、板状体3の面5上に溶加材60を配置する。その後、これを溶融させ、これがトレンチ11に流れ込んで金属粒子23の間隙を埋める。この結果を図23に示す。溶加材60は、総じて、有利には、その融点がガラスの変態温度T未満であり、かつ金属粒子23の融点未満となるように選択される。さらに、遮蔽格子を用いた場合のX線コントラストを改善するためには、十分に高いX線吸収が存在することも望ましい。したがって、もう1つの発展形態によれば、溶加材は、タングステンのX線吸収の少なくとも半分のX線吸収を有するように選択される。したがって、溶加材には、特に、例えばスズおよび/または鉛を含むような低融点金属または合金が適している。溶加材60の融点は、有利には300℃未満である。このような特性は、特にはんだによって満たされる。
【0071】
溶加材60が間隙に流入できるようにするには、金属粒子23の良好な濡れ性が有利である。これに関して、一発展形態によれば、図21に示すように、金属粒子23にコーティング230を施すことが提供される。これに関して、より良好な濡れ性のために、コーティング230は、金属粒子23の表面よりも高い表面エネルギーを有することができる。金属粒子23にタングステンまたはタングステン含有合金を用いた場合、金属粒子23は既に非常に高い表面エネルギーを有しているため、コーティング230がなくても良好な濡れ性を得ることが可能である。図23の図示では、面5の表面に溶加材60の一部が残っていることが示されている。この表面の溶加材60を、例えば研磨によって除去することができる。この金属膜が非常に薄ければ、必要に応じてこれを残してもよい。さらに、表面の溶加材60の除去を容易にするため、または濡れを避けるために、面5の表面を研磨することができる。
【0072】
さらに、溶加材60または金属粒子23に、濡れ性を向上させるための融剤を施与することもできる。総じて、図20図23に従った方法により、溶加材60に埋め込まれた金属粒子23を含むX線吸収材料13が得られる。総じて、図20図23を参照して説明される実施形態により、さらに、X線吸収材料13の以下の特徴のうちの1つ以上をもたらすことができる:
- 溶加材は、金属粒子23の融点よりも低く、かつ板状体3のガラスの変態温度Tよりも低い融点を有する。
- 金属粒子23が溶加材60に埋め込まれているか否かにかかわらず、X線吸収材料13の金属粒子23は、金属粒子23の材料よりも高い表面エネルギーを有するコーティング230を有することができる。このようなコーティング230は、金属粒子23の流動性を向上させる役割も果たすことができる。本発展形態は、特に図16図19の実施形態に関連しても有利になり得る。これには、特にシラン化金属粒子23が適している。したがって、もう1つの発展形態によれば、X線吸収材料13が、シラン化金属粒子23を含むことが提供される。このようなコーティングは、例えばCVDプロセスを用いてプラズマ中で堆積させることができる。他の表面改質もまた、プラズマ中で達成することができる。したがって、本方法の一発展形態によれば、金属粒子23を含むX線吸収材料13をトレンチ11に充填し、その際、金属粒子23の表面をプラズマで改質することが提供される。改質は、充填前に行うことができ、必要に応じて充填後になってから行うこともできる。
【0073】
図24および図25を参照してさらなる一実施形態によるプロセスステップを説明するが、この場合、充填の際に間隙を埋めるかまたは閉じることができる。
【0074】
まず、図20に示すようにトレンチ11に金属粒子23を充填する。次に、図24に示すように金属インキ62を充填し、これが金属粒子23間の間隙を埋める。金属インキ62を乾燥させると、図25に示すように、この金属インキ62は、金属粒子23およびトレンチ11の壁上に、金属または金属を含有するコーティング230を残す。可能な限り高密度の充填を達成するためには、このプロセスを必要に応じて1回以上繰り返すことができる。コーティング230の金属として、この場合にも高いX線吸収を有するものが適している。総じて、層堆積プロセスに関係なく、これに関して、一実施形態によれば、トレンチ11に、X線を吸収するコーティング230を有する金属粒子23を含むX線吸収材料13が充填されていることが提供される。これには、本開示によるX線吸収材料に関する上記の基準が特に適用され、すなわち、69.5keVのエネルギーのX線に対するX線吸収係数が、板状体の材料のX線吸収係数の少なくとも3倍である材料、および/または板状体の材料の密度の少なくとも4倍の密度を有する材料、および/または少なくともZ=56の原子番号を有する元素を少なくとも10重量%有する材料である。
【0075】
金属粒子23およびトレンチ11の壁上にX線吸収コーティング230を堆積させるためのさらなる方法の1つとして、原子層堆積法が挙げられ、これはALD(Atomic Layer Deposition)法とも呼ばれる。この方法では、様々なガス状前駆体が交互に導入され、これを表面と反応させることにより、それぞれ非常に薄い層が、そしてさらには単原子層が堆積される。非常に有利なことに、この方法によりタングステンコーティングも堆積させることができる。このために、前駆体としてBまたはSiHをWFと組み合わせて使用することが知られている。X線吸収コーティング230を堆積させ、ひいては金属粒子23間の間隙を少なくとも部分的に埋めるためのさらに別の方法は、例えばITOまたはAZO膜を製造するための浸漬コーティング、および電気メッキである。したがって、総じて、図24および図25を参照して説明される方法の様々な実施形態の発展形態において、トレンチ11に金属粒子23を充填し、充填後に金属粒子23にX線吸収コーティング230を施すことが提供される。これらの方法変形例を、例えばガラス粉末含有ペーストの充填など、トレンチ11への充填を行うための本明細書に記載の他の方法と組み合わせることもできる。したがって、ペーストの乾燥後に、この場合にも金属粒子をコーティングすることも可能であるし、トレンチ11が異なる深さで異なる構成のX線吸収材料を有するように、異なる方法を層ごとに組み合わせることも可能である。この組合せ可能性は、以下に説明する方法変形例にも同様に適用される。
【0076】
図26および図27は、トレンチ11に金属粒子を充填するための方法のさらなる一実施形態を示す。本実施形態では、粒度や粒子形状の異なる金属粉末232,233を順次トレンチに充填していく。まず、図26に示すように、球状の金属粒子231を有する金属粉末232による充填が行われる。球状の金属粒子231は、有利には比較的大きいため、金属粒子間に大きな間隙が残る。このような球状の金属粒子231は、例えば3D印刷に使用される。球形は、3D印刷の際に、高い流動性を提供するための一助となり、ひいては、除去によって印刷の対象となる物体上にルーズな粒子の非常に薄い層を形成する可能性を提供するための一助となる。したがって、この高い流動性は、トレンチ11の容易な充填をも可能にする。球状あるいは少なくともほぼ球状の金属粒子231を有する3D印刷用の金属粉末は、通常はアトマイゼーションによって製造される。これには、ガスまたは液体ジェット、典型的にはウォータージェットが利用され、それによって溶融金属流を非常に小さな液滴に分割する。本実施形態に従って提供されるような、粒子231の少なくともほぼ球形の形状は、特に前述のアトマイゼーションプロセスから生じる。第2のステップでは、図27に示すように、球状の金属粒子231よりも著しく小さい金属粒子23を有する金属粉末233が添加される。これらのより小さい金属粒子は、球状の金属粒子231の間に大きな間隙があるため、これらの間隙をうまく埋めることができる。図示とは異なって、後から添加される金属粉末233のより小さい金属粒子も球状であってよい。このことも同様に、このような粒子の良好な流動性ゆえに好ましい。
【0077】
特定の例に限定されるものではないが、図26図27の実施形態を参照すると、以下の特徴のうち少なくとも1つを有する遮蔽格子1が提供される:
- X線吸収材料は、球状の金属粒子231を含む、
- X線吸収材料は、金属粒子23,231の粒度に関して異なる2種の金属粉末を含み、その際、平均粒度は少なくとも2倍異なり、大きい方の金属粒子23は球状である。したがって、X線吸収材料13は、全体として、2つの極大を有する少なくとも二峰性の粒度分布を有する。その場合、対応する製造方法は、トレンチ11にX線吸収材料13を充填するステップが、球状の金属粒子231を有する第1の金属粉末232を充填し、次いで第2の金属粉末233を充填するステップを含み、その際、第2の金属粉末233の金属粒子23が、第1の金属粉末232の球状の金属粒子231よりも小さい平均粒径を有することを特徴とする。本実施形態も、トレンチ11の充填に関して本明細書に記載の他の実施形態とも同様に、トレンチ11を板状体3においてどのように形成するかとは無関係である。
【0078】
図28図30は、トレンチ11への充填を行うためのもう1つの実施形態を示す。本実施形態も、例えば図26図27による2段階充填のような他の充填方法と組み合わせることが可能である。図28図30を参照して説明されるような実施形態では、トレンチにペーストまたは分散体57を流し、その際、金属粒子23を、流れる際にトレンチ11に沈降あるいはそこに堆積させる。この種の充填を実施できるようにするために、板状体3の一発展形態において、そのトレンチ11がそれぞれ底部開口部110を有することが提供される。これは、既に上述した実施形態の一変形例であり、それによれば、トレンチ11は、少なくとも部分的に板状体3の両面5,7において開口している。
【0079】
充填のために、分散媒59の割合が高いペーストあるいは分散体57をトレンチ11に流して、図28に示すように分散媒59が底部開口部110で再び現れるようにする。金属粒子23の少なくとも一部は、過度に大きいため底部開口部110に達することができない。これにより、底部開口部110が塞がれて、分散媒59のみが開口部を通過でき、一方で例えばタングステン粒子などの金属粒子23がふるい分けられてトレンチ11内に留まる。場合によっては、依然として非常に小さな粒子は、最初に底部開口部110の障壁を通過することができる。この状態を図29に示す。その後、キャビティあるいはトレンチ11への充填が十分に行われるまで、この流れは継続される。このようにして埋められたトレンチ11を図30に示す。図28図30の特定の例に限定されるものではないが、これに関して、本方法の一実施形態によれば、板状体3のトレンチ11が、底部開口部110を備え、その断面は、それぞれトレンチ11の断面よりも小さく、このトレンチ11に金属粒子23を含む分散体57を流すことにより、分散体57の分散媒59が底部開口部110で流出し、金属粒子23が底部開口部110で沈降し、これによって、さらなる金属粒子23の通路が塞がれ、分散体57をさらに流して金属粒子を沈降させることによってトレンチへの充填を行うことが提供される。
【0080】
本発明は、図面に示すような特定の実施形態例に限定されるものではなく、本開示の範囲内で様々に変化させることができることは、当業者にとって明らかである。ここで特に、様々な実施形態を互いに組み合わせることもできる。例えば、図26図30の分散体57は、金属粒子23のみを含むように図示されている。分散体57は、上述したペーストの実施形態と同様に、例えばガラス粒子などの他の粒子を含んでいてもよい。充填後、次にこれらを前述のように溶融させることができ、これにより、トレンチ11内のX線吸収材料13が固化してトレンチ11に強固に接続される。本製造方法は、特にトレンチ11の充填に関してさらに、本明細書に記載のX線マスク以外の装置にも使用することができる。例えば、放射線吸収トレンチの配列を、例えば二次元的に拡張された導光体などの光学デバイスにも使用することができる。そのような場合は、トレンチ11の充填物がX線吸収性であることも必要ではない。放射線のスペクトル分布に適合した放射線吸収が存在することができる。必要に応じて、トレンチ内の材料の高い透磁率などの他の特性も存在することができる。したがって、もう1つの実施形態によれば、金属粒子の少なくとも一部が強磁性であってよいことが提供される。これは、例えば、選択的な誘導加熱に使用することができる。したがって、総じて、さらなる一実施形態において、トレンチ11の配列、特に交差トレンチの格子を有する要素の製造方法であって、既に上述した以下のステップを含む方法が提供される:
- 第1の面5と、第1の面5に対向する第2の面7とを有する板状体3を提供するステップと、第1の面5に向かって開口したトレンチ11の配列を製造するステップと、トレンチ11に放射線吸収材料を充填し、充填を、特に金属粒子23を有する分散体またはペーストを用いて行うステップ。遮蔽格子に関して、特にまた製造方法、トレンチ11の形状および寸法、トレンチの充填、例えばはんだガラスの溶融による固化、ならびに充填材料に関して本明細書に記載された開示内容全体が、トレンチ11の配列を有するこのような他の要素にも適用可能である。
【0081】
以下、図6に関する説明に補足して、斜めに延在するトレンチ11およびウェル15を板状体3に導入する実施形態例について説明する。図31は、これに関して、図6の実施形態の発展形態としての、フィラメント状損傷を板状体に導入するためのレーザ加工装置の一部を示す。有利には、そして図示された例に限定されるものではないが、レーザ光線40を、回転ミラー46を経て板状体3に向ける。図6の例のようにレーザ51が板状体3に対して垂直に発光するように、追加の偏光ミラー47を設けることが特に好ましい。円で表されている2つの回転装置、有利にはターンテーブル48,49が設けられており、これによって回転ミラー46および集束光学系52を回転させることができる。これらの回転装置は、その回転軸線が一致するように互いに同軸に配置されている。回転ミラー46は、回転装置のうちの一方、例えばターンテーブル48上にある。他方の回転装置、すなわちターンテーブル49は、図6の例のように有利にはレンズ520を含む集束光学系を回転させる。レーザ光線を所定の角度Θで板状体に向けるために、集束ユニット52をこれに応じてターンテーブル49でこの角度だけ適宜回転させ、一方で回転ミラー46を、ターンテーブル48で同じ方向にこの半分の角度だけ回転させる。これら2つの回転の結合は、機械的またはさらには電子的に行うことができる。さらに、図6の例のように、板状体3への入射箇所の調整は、簡略化のために図31には図示されていない位置決めユニット53を用いて行うことができる。
【0082】
一実施形態例によれば、(集束)レンズ520は両凸状で球面収差が大きいか、または撮像光学系全体の球面収差が大きい。これにより、焦線の形態の長い焦点が形成される。レンズ520はまた、それに応じて非球面であってもよいし、さらにはアキシコンレンズとして形成されていてもよい。一変形例では、さらにレーザ光線40の横方向の強度プロファイルは、レーザ光線40が横方向の「トップシェイプ」プロファイルを有するように形成され、すなわち、レーザ光線の1/eビーム径の70%、好ましくは80%、特に好ましくは85%の距離にわたって、この範囲における強度の平均値からの強度の偏差が、30%未満、好ましくは25%未満、好ましくは20%未満、特に好ましくは10%未満となる。さらなる一実施形態例において、集束レンズ520によって形成される長い焦線に沿った強度も、先に述べたパラメータで光軸に沿って「トップシェイプ」状に分布している。ターンテーブル49は、垂直入射方向に対して-40°~+90°の角度範囲で回転させることができる。集束光学系52、特にレンズ520の焦点距離は、8mm~30mmの範囲、有利には10mm~24mmの範囲であり、焦点あるいは光線方向におけるその中心は、板状体3内にある。集束前のビーム径は8mm~18mmの範囲、有利には12mmである。一実施形態例によれば、ガラス製の板状体3の加工は、以下のパラメータで実施される:波長は、1000nm~1100nmの範囲であり、任意に、特に周波数2倍化によって500nm~600nmの範囲の波長を選択することが可能である。パルス持続時間は、0.3ps~10psの範囲である。レーザパルスの繰返し周波数は、30kHz~100kHzである。レーザを、1バーストあたり1~8、有利には2~4のパルスで、バーストモードで動作させる。パルスエネルギーは、5μJ~500mJの範囲、好ましくは50μJ~50mJの範囲、特に好ましくは100μJ~10mJの範囲である。板状体3を、製造すべき幾何学的形状に応じて、100mm/s~500mm/sの速度で走査する。フィラメント状損傷または改質の好ましい間隔は、2μm~20μmの範囲、好ましくは3μm~10μmの範囲である。
【0083】
フィラメント状損傷または改質を導入した後、板状体3をエッチングプロセスに供して、トレンチ11およびウェル15を生じさせる。必要に応じて、材料の応力を緩和するために、エッチングの前にさらに熱処理を実施することができる。このアニーリングは、ガラス転移温度Tの範囲、特にそれをわずかに上回って、例えばT+20℃で行われる。一例では、ガラス転移温度が525℃である場合に、熱処理時の温度は545℃である。次いで、板状体3を、酸性または好ましくはアルカリ性のエッチング媒体、特にKOH溶液に曝す。ここで、KOH濃度は、4mol/l~22mol/lの範囲、有利には12mol/l~18mol/lの範囲である。エッチングは、60℃~100℃の温度で行われる。これにより、毎時0.5μm未満~毎時8μmのエッチング速度が達成される。トレンチ11およびウェル15を生じさせるために、エッチングプロセスの期間は、総じて2~12時間、典型的には4~8時間である。エッチングプロセスは、超音波撹拌によって支援することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 遮蔽格子
2 X線撮像装置
3 板状体
5 3の第1の面
7 3の第2の面
8 薄型の板ガラス
9 格子
10 有機封止体
11 トレンチ
12 チャネル
13 X線吸収材料
15 ウェル
16 15の底壁
17 15の中心軸線
18 点源
19 11と15との間の壁
21 はんだガラス
23 金属粒子
25 11の壁
27 1の縁部領域
30 X線管
31 陽極
32 陰極
33 真空バルブ
34 対象物
35 X線
36 散乱X線
39 検出器
40 レーザ光線
41 フィラメント状損傷
43 フィラメント状損傷41の第1の群
44 フィラメント状損傷41の第2の群
45 エッチング媒体
46 回転ミラー
47 偏光ミラー
48,49 ターンテーブル
50 レーザ加工装置
51 超短パルスレーザ
52 集束光学系
53 位置決めユニット
54 40の入射点
55 演算ユニット
57 分散体
59 分散媒
60 溶加材
62 金属インキ
110 11における底部開口部
230 コーティング
231 球状の金属粒子
232,233 金属粉末
520 レンズ
521 鏡筒
図1
図2
図3
図4
図5
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図26
図27
図28
図29
図30
図31
【外国語明細書】