(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122599
(43)【公開日】2023-09-04
(54)【発明の名称】撥水面構造
(51)【国際特許分類】
B32B 33/00 20060101AFI20230828BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
B32B33/00
C09K3/18 104
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026249
(22)【出願日】2022-02-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】安田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 英樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4H020
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK17A
4F100AK17B
4F100AK52A
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DD02B
4F100JB06B
4F100YY00B
4H020BA02
4H020BA12
4H020BA32
(57)【要約】
【課題】塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造において、撥水効果を発揮するための凸部同士の間に塵芥が溜まり難く、撥水効果を長期に亘って維持できる撥水面構造を提供する。
【解決手段】塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造1であって、樹脂製の基板2と、基板2の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部3と、撥水凸部3同士の間の基板2の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、撥水凸部3同士の間の基板2の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路4a、4b、4cと、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造であって、
樹脂製の基板と、
該基板の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部と、
該撥水凸部同士の間の基板の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、前記撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路と、を備えたことを特徴とする撥水面構造。
【請求項2】
前記撥水凸部は、前記基板に繋がる底面が円形で底面直径D=10~100μm、底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20であり、
ピッチPが底面直径Dよりも5~20%大きいことで、前記撥水凸部同士の間の前記基板の表面にストレート状の塵芥排出通路が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の撥水面構造。
【請求項3】
前記撥水凸部の表面に、高さ及び間隔が0.1~1μmのサブ凸部がランダムに形成されており、前記塵芥排出通路には、前記サブ凸部が形成されていない、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水面構造。
【請求項4】
前記撥水凸部が、前記基板の表面に三角格子状に複数配置されている、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の撥水面構造。
【請求項5】
前記基板が重力に対して傾斜して配置されている、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の撥水面構造。
【請求項6】
前記基板は、プラスチック等の合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成である、こと特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の撥水面構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に微小な凸部が間隔を隔てて複数形成された撥水面構造に係り、特に、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置された場合であっても撥水効果を長期に亘って維持できる撥水面構造に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水面構造として、基板の表面に100μm以下の微小な凹部と凸部とが交互に所定ピッチで配設されたグレーティング状の周期構造が形成され、この周期構造の表面に周期構造の凸部及び凹部よりも微小な100nm以下の粗さが内包されているものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、超疎油性基体として、基板の表面に間隔を隔てて複数のマイクロメートル規模の微小な凹部及び凸部が形成され、凹部及び凸部の表面にそれらよりも更に微小なナノメートル規模の凹凸部が形成されているものが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、撥水性反射防止構造として、基板の表面に数百ナノメートル規模の微小な円錐台形状の凸部が間隔を隔てて複数形成され、これら円錐台状の凸部の頂部に高屈折材層が設けられているものが知られている(特許文献3参照)。
【0005】
これらの構造においては、基板に水が接触したとき、基板に形成された微小な凸部及び凹部と水滴との間に空気層が形成され、この空気層によって撥水性が発揮されると考えられる。これは、ハスの葉の構造と同様である。ハスの葉の表面には微小な凹凸部があり、凹凸部に形成された空気層によって撥水性が発揮されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6130004号公報
【特許文献2】特表2013-533115号公報
【特許文献3】特開2009-294341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したように基板に微小な凹凸部が形成された構造が、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置された場合、経年使用によって塵芥が微小な凹凸部の凹部の底に溜まり、空気層のボリュームが減って撥水性能が低下する可能性がある。
【0008】
例えば、上記の文献1~3に記載された構造が屋外の風や雨水に晒される環境に置かれた場合、屋外の塵芥が凹部の底に入り込むことが考えられる。その状態で雨水が付着すると、凹部の底の塵芥によって空気層のボリュームが減った状態となるため、撥水性能が低下してしまう。また、仮に塵芥を含んだ雨水が凹部に入り込んでしまった場合、その後の晴天の日光によって水分は乾燥するものの、塵芥が凹部の底に残ってしまい、同様に撥水性能が低下してしまう。
【0009】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造において、撥水効果を発揮するための凸部同士の間に塵芥が溜まり難く、撥水効果を長期に亘って維持できる撥水面構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造であって、樹脂製の基板と、基板の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部と、撥水凸部同士の間の基板の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路と、を備えたことを特徴とする撥水面構造が提供される。
【0011】
本発明に係る撥水面構造においては、撥水凸部は、基板に繋がる底面が円形で底面直径D=10~100μm、底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20であり、ピッチPが底面直径Dよりも5~20%大きいことで、撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状の塵芥排出通路が形成されていてもよい。
【0012】
本発明に係る撥水面構造においては、撥水凸部の表面に、高さ及び間隔が0.1~1μmのサブ凸部がランダムに形成されており、前記塵芥排出通路には、前記サブ凸部が形成されていないものであってもよい。
【0013】
本発明に係る撥水面構造においては、撥水凸部が、基板の表面に三角格子状に複数配置されていてもよい。
【0014】
本発明に係る撥水面構造においては、基板が重力に対して傾斜して配置されていてもよい。
【0015】
本発明に係る撥水面構造においては、基板は、プラスチック等の合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る撥水面構造は、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置されるところ、撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状の塵芥排出通路が形成されているので、撥水凸部同士の間に入り込んだ塵芥が、塵芥排出通路を吹き抜ける風によって吹き飛ばされ、或いは塵芥排出通路を流れる水等の液体によって押し流される。よって、撥水凸部同士の間に塵芥が溜まり難くなり、撥水効果を長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る撥水面構造の一部(280μm×220μm四方)を顕微鏡で拡大して見た斜視図である。
【
図2】
図1の撥水面構造の説明図であり、(a)は撥水面構造の平面図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図(撥水凸部のピッチ方向断面図)、(d)は(a)のd-d線断面図(撥水凸部のピッチ方向断面図)、である。
【
図3】
図2(c)の部分拡大図であり、(a)は撥水凸部の表面にサブ凸部が形成されていない実施形態を示す断面図、(b)は撥水凸部の表面にサブ凸部が形成された変形実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(撥水面構造1の概要)
図1は、本発明の一実施形態に係る撥水面構造1の一部(横寸法A=280μm×縦寸法B=220μm四方)を顕微鏡で拡大して見た斜視図である。本実施形態に係る撥水面構造1は、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造1であって、樹脂製の基板2と、基板2の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部3と、撥水凸部3同士の間の基板2の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、撥水凸部3同士の間の基板2の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路4と、を備えている。なお、撥水凸部3の頂部に放射状に描かれた細線は、撥水面構造1が光で照らされた際の照りや陰影を表すものであり、模様や形状ではない。以下、各構成要素について説明する。
【0020】
(基板2)
図1に示す基板2は、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境(例えば屋外)において、重力に対して傾斜して配置されている。なお、基板2の配置場所は、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境であれば屋外に限られず屋内でもよく、また、重力に対する基板2の傾斜配置は必須ではない。基板2は、プラスチック等の合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成である。これらの添加剤によって、基板2および基板2にそれと同材料で一体的に形成された撥水凸部3の撥水性を高めることができる。すなわち、フッ素系樹脂は、水に比べて表面張力が極めて低いため撥水性が高まり、シリコーン系樹脂およびオレフィン系樹脂は、疎水性を有するため撥水性が高まる。基板2の材質は、撥水面構造1が設置される場所に応じて要求される耐候性、耐熱性、耐久性に問題が無ければ、より量産性に優れた樹脂でもよい。基板2の主要材料である樹脂は、所望の形状に加工、成形できる高分子材料が好ましい。
【0021】
基板2に用いることのできる樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、ポリアクリロニトリル、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリル、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂、合成ゴム、光硬化性樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの材料を用いて基板2および撥水凸部3から成る撥水面構造1を成形する際に、各材料に合った成形方法が適宜選定される。また、撥水面構造1の成形に用いる樹脂は、無色透明、有色透明、無色不透明、有色不透明のいずれかであっても構わず、撥水面構造1の使用目的に応じて適宜選定される。
【0022】
(撥水凸部3)
図1に示すように、基板2の表面には、微細な撥水凸部3が所定間隔を隔てて複数形成されている。撥水凸部3は、上述した添加剤が含有又は重合されたプラスチック等の合成樹脂を原料として用い、射出成形することで基板2と一体的に成形される。
図2(a)に示すように、本実施形態においては、撥水凸部3は、基板2の表面に三角格子状に複数配置されている。これにより、撥水凸部3同士の間にストレート状に形成される塵芥排出通路4が三方向に形成される(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c参照)。
【0023】
図2(b)に第1の塵芥排出通路4aを示し、
図2(c)に第1の塵芥排出通路4aに対して傾斜する第2の塵芥排出通路4bを示し、
図2(d)に第1の塵芥排出通路4aに対して第2の塵芥排出通路4bとは対称に傾斜する第3の塵芥排出通路4cを示す。なお、撥水凸部3の格子配置は、正三角格子、二等辺三角格子でもよく、斜方格子、菱形格子、六角格子、正方格子であってもよい。各格子の配置に応じて、撥水凸部3同士の間にストレート状の塵芥排出通路4が複数形成される(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c参照)。
【0024】
図2(c)の拡大図である
図3(a)に示すように、撥水凸部3は、基板2に繋がる底面が円形で底面直径D=10~100μm、底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部3の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20となっている。撥水凸部3のピッチPが撥水凸部3の底面直径Dよりも5~20%大きいことで、
図2(a)に示すように、撥水凸部3同士の間の基板2の表面にストレート状の塵芥排出通路4(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c)が形成されている。
【0025】
図3(a)に示す撥水凸部3のピッチPや底面直径Dは、液滴や雨滴の最小粒径(一般的に125μm程度)よりも小さくすることが好ましい。これにより、一滴の液滴や雨滴が少なくとも2以上の撥水凸部3と接することになり、一滴の液滴や雨滴に接する撥水凸部3の数を少なくとも2以上確保でき、液滴や雨滴に接して撥水に寄与する撥水凸部3の数が増え、撥水効果が高まる。本実施形態では、撥水凸部3の最大底面直径Dmax=100μm、撥水凸部3の最大ピッチPmax=Dmax×1.20=120μmと設定しているので、一滴の液滴や雨滴が仮に最小粒径(125μm程度)であっても少なくとも2以上の撥水凸部3と接することになる。
【0026】
また、明視の距離における人間の目の分解能(約0.1mm)の観点からも、撥水凸部3のピッチPや底面直径Dは0.1mm程度(100μm程度)以下とすることが好ましい。これにより、人間が撥水面構造1を目視したとき撥水凸部3の形状が目立たなくなり、撥水面構造1を付加する前の部品デザインが阻害されなくなって、製品のデザイン自由度が高まる。本実施形態では、撥水凸部3の最大底面直径Dmax=100μm、撥水凸部3の最大ピッチPmax=120μmであるので、人間が目視したとき撥水凸部3の凹凸形状を殆ど認識できない。
【0027】
また、一般的な塵芥のサイズは十数μmであり、PM2.5粒子では粒径2.5μmであるところ、
図3(a)において、隣接する撥水凸部3同士の隙間すなわち塵芥排出通路4(第1~第3塵芥排出通路4a、4b、4c)の通路幅Wは、これらと同程度(2.5μm~数十μm)とすることが好ましい。こうすれば、仮に塵芥やPM2.5(以下塵芥等)が、塵芥排出通路4(第1~第3塵芥排出通路4a、4b、4c)に入った場合、通路4の幅Wに嵌り込んだ状態となるため、通路4を流れる流体(風、水等)が通路底面と塵芥等の下面と間に流入して塵芥等を浮き上がらせて排出させ易くなる。
【0028】
図3(a)を参照して、本実施形態における撥水凸部3の底面直径D(D=10~100μm)およびピッチP(P=D×1.05~D×1.20)に基づいて、塵芥排出通路4の最小通路幅Wmin、最大通路幅Wmaxを算出してみる。最小通路幅Wminは、撥水凸部3の最小底面直径Dmin=10μmのときの最小ピッチPmin=Dmin×1.05=10×1.05=10.5μmに基づくと、最小通路幅Wmin=Pmin-Dmin=10.5-10=0.5μmとなる。他方、最大通路幅Wmaxは、撥水凸部3の最大底面直径Dmax=100μmのときの最大ピッチPmax=Dmax×1.20=100×1.20=120μmに基づくと、最大通路幅Wmax=Pmax-Dmax=120-100=20μmとなる。よって、本実施形態における塵芥排出通路4の通路幅Wは、0.5~20μmとなり、一般的な塵芥のサイズ(十数μm)やPM2.5粒子のサイズ(粒径2.5μm)に好適な範囲となる。
【0029】
(作用・効果)
以上の構成からなる本実施形態に係る撥水面構造1によれば、次のような効果を発揮できる。
【0030】
本実施形態に係る撥水面構造1は、塵芥が付着し風又は水に晒される環境に配置されるところ、
図2(a)~
図2(d)に示すように、撥水凸部3同士の間の基板2の表面にストレート状の塵芥排出通路4(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c)が形成されているので、撥水凸部3同士の間に入り込んだ塵芥が、塵芥排出通路4a、4b、4cを吹き抜ける風によって吹き飛ばされ、或いは塵芥排出通路4a、4b、4cを重力方向下方に向かって流れる水によって押し流される。
【0031】
ここで、
図2(a)に示すように、塵芥排出通路4a、4b、4cがストレート状に形成されているので、撥水凸部3同士の間に入り込んだ塵芥は、塵芥排出通路4a、4b、4cを通過する風や水によって各通路4a、4b、4cに沿って的確に効率よく移動され、
図1、
図2(a)に示すように、基板2の端部の塵芥排出通路4a、4b、4cに形成された通路出口4xから排出される。よって、撥水凸部3同士の間に塵芥が溜まり難くなり、撥水効果を長期に亘って維持することができる。
【0032】
図3(a)に示すように、撥水凸部3の底面直径D=10~100μm、撥水凸部3の底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部3の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20とすることで、適切な撥水効果と排水効果を両立できる。すなわち、撥水凸部3のピッチPが底面直径Dの5%よりも小さいと、塵芥排出通路4a、4b、4cの通路幅が狭くなり過ぎて塵芥排出通路4a、4b、4cに入り込んだ塵芥を風や水で流すことが困難となり、撥水凸部3のピッチPが底面直径Dの20%よりも大きいと、塵芥排出通路4a、4b、4cの通路幅が広くなり過ぎて撥水効果が低減してしまう。また、撥水凸部3の高さHが10μm未満であると、水滴が付着した際のエアボリュームが小さくなって撥水効果が発揮されず、撥水凸部3の高さHが50μmを上回ると凹凸の差が大きすぎ射出成形が困難となると共に適切な撥水効果が発揮されない。
【0033】
図2(a)に示すように、撥水凸部3が三角格子状に配置されているので、撥水凸部3同士の間にストレート状に形成される塵芥排出通路4が三方向となる(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c)。この結果、塵芥排出通路4a、4b、4cを特定の風向きと一致させる方向が三方向となり、二方向となる四角格子配置の場合よりも、特定の風向きによって塵芥を移動させるという点を考慮すると、基板2の配置姿勢および向きの自由度を高めることができる。
【0034】
図2(a)に示す本実施形態に係る撥水面構造1の基板2を重力に対して傾斜して配置することで、基板2に付着した水が重力方向に落下するところ、撥水凸部3が三角格子状に配置されているので、撥水凸部3同士の間にストレート状に形成される塵芥排出通路4が三方向となる(第1、第2、第3塵芥排出通路4a、4b、4c)。この結果、塵芥排出通路4a、4b、4cを重力方向に一致させる方向が三方向となり、二方向となる四角格子配置の場合よりも、重力に沿って移動する水等の液体によって塵芥を押し流すという点を考慮すると、基板2の配置姿勢および向きの自由度を高めることができる。
【0035】
図1に示す基板2は、プラスチック等の合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成である。これらの添加剤の疎水性によって、基板2および基板2に一体的に形成された撥水凸部3の撥水性と液体の滑落姓を高めることができる。
【0036】
(変形実施形態)
図3(b)に、本発明の変形実施形態に係る撥水面構造1xを示す。この変形実施形態においては、撥水凸部3の表面に、高さ及び間隔が0.1~1μmのサブ凸部5がランダムに形成されていている点を除き、前実施形態と同様の構成となっている。よって、前実施形態と同様の構成要素について同一の符号を付して説明を省略し、前実施形態と相違するサブ凸部5について説明する。
【0037】
図3(b)に示すように、サブ凸部5は、撥水凸部3の表面(特に上部表面)に形成されており、その高さ及び間隔が0.1~1μmとなっている。塵芥排出通路4(第1~第3塵芥排出通路4a、4b、4c)には、サブ凸部5は形成されていない。サブ凸部5は、撥水凸部3を基板2と一体的に射出成形する際、同時に成形される。すなわち、撥水凸部3を基板2と一体的に射出成形する金型の撥水凸部3に相当する部分にサブ凸部5のネガ形状が形成されており、射出成形の際にサブ凸部5も撥水凸部3と共に基板2に一体成形される。撥水凸部3は半球形状や略円錐形状であることで、サブ凸部5を撥水凸部3表面のあらゆる方向に対して形成することが可能となる。
【0038】
この変形実施形態によれば、撥水凸部3の表面に高さ及び間隔が0.1~1μmのサブ凸部5をランダムに形成することで撥水凸部3の表面積が拡大されて水滴が付着した際の空気層のボリュームが増大するので、撥水効果が向上する。なお、サブ凸部5の高さ及び間隔が0.1μm未満であると滑らかな平面に近づくため撥水性が低下し、サブ凸部5の高さ及び間隔が1μmを上回ると表面積を十分拡大できないため効率よく撥水性を向上することができない。
【0039】
また、塵芥排出通路4(第1~第3塵芥排出通路4a、4b、4c)にはサブ凸部5は形成されていないため、通路に4に流入した流体(風、水等)が通路4内を流れる際、流路抵抗が小さくなる。よって、塵芥排出通路4を流れる流体によって通路4や撥水凸部3に付着した塵芥等を的確に浮き上がらせて流体と共に排出でき、洗浄効果が高まる。
【0040】
(その他)
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0041】
本成形品の基板2の表面は、必ずしも平板状である必要はなく、曲板状であってもよい。これにより、本発明の撥水構造1が適用される製品のデザイン性と撥水性を両立できる。例えば、湾曲状の基板2の表面において、曲率を基板2の部分によって適宜変更することで、製品のデザイン性を悪化させることなく、基板2の表面に格子状に形成された撥水凸部3の格子パターンの隙間(塵芥排出通路4)の方向を、基板2が配置される環境における風や水等の流体が流れる方向、若しくは水滴が落下する重力方向に沿った方向に一致させる調節が容易となり、製品としてのデザイン性を維持しつつ的確な撥水効果を発揮できる。
【0042】
また、基板2の表面の形状は平坦状でも湾曲状でもよいので、例えば、屋内外を問わず、電波用部品分野、車載分野、半導体分野の筐体カバーに、本発明に係る撥水構造1を適用することができる。加えて、本発明に係る撥水面構造1は、水以外の液体に晒される環境に配置されるものにも適用でき、例えば、噴射部品、洗浄、食品用容器や衛生消毒用品分野におけるノズルやスプレー部に、本発明に係る撥水構造1を適用してもよい。具体的には、シャンプー容器や台所洗剤容器等の液体洗剤容器のノズルの内面、醤油差し等の食料品液体容器のノズルの内面、血液や唾液等の体液が付着されそれらの成分・性状を測定するPCR検査チップ等のマイクロ流路チップの表面に、本発明に係る撥水面構造1を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、基板の表面に微小な凸部が間隔を隔てて複数形成された撥水面構造に係り、特に、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置された場合であっても撥水効果を長期に亘って維持できる撥水面構造に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 撥水面構造
2 基板
3 撥水凸部
4 塵芥排出通路
4a 第1の塵芥排出通路
4b 第2の塵芥排出通路
4c 第3の塵芥排出通路
5 サブ凸部
D 撥水凸部の底面直径
H 撥水凸部の高さ
P 撥水凸部のピッチ
【手続補正書】
【提出日】2023-06-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造であって、
樹脂製の基板と、
該基板の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部と、
該撥水凸部同士の間の基板の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、前記撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路と、を備え、
前記撥水凸部の表面には、前記撥水凸部よりもサイズが小さいサブ凸部がランダムに形成されており、
前記塵芥排出通路には、前記サブ凸部が形成されていない、ことを特徴とする撥水面構造。
【請求項2】
前記塵芥排出通路の通路底面が、前記基板の表面に平坦に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の撥水面構造。
【請求項3】
前記撥水凸部は、前記基板に繋がる底面が円形で底面直径D=10~100μm、底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20であり、
前記サブ凸部は、高さ及び間隔が0.1~1μmである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水面構造。
【請求項4】
前記撥水凸部が、前記基板の表面に三角格子状に複数配置されている、ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の撥水面構造。
【請求項5】
前記基板が重力に対して傾斜して配置されている、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の撥水面構造。
【請求項6】
前記基板は、合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成である、ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の撥水面構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
上述した目的を達成すべく創案された本発明によれば、塵芥が付着し風や水等の流体に晒される環境に配置される撥水面構造であって、樹脂製の基板と、基板の表面に、所定間隔を隔てて複数微細に形成された撥水凸部と、撥水凸部同士の間の基板の表面に付着した塵芥を風や水等の流体と共に排出するため、撥水凸部同士の間の基板の表面にストレート状に形成された塵芥排出通路と、を備え、撥水凸部の表面には、撥水凸部よりもサイズが小さいサブ凸部がランダムに形成されており、塵芥排出通路には、サブ凸部が形成されていない、ことを特徴とする撥水面構造が提供される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明に係る撥水面構造においては、塵芥排出通路の通路底面が、基板の表面に平坦に形成されていてもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明に係る撥水面構造においては、撥水凸部は、基板に繋がる底面が円形で底面直径D=10~100μm、底面からの高さH=10~50μm、隣り合う撥水凸部の中心同士のピッチP=D×1.05~D×1.20であり、サブ凸部は、高さ及び間隔が0.1~1μmであってもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明に係る撥水面構造においては、基板は、合成樹脂から成り、シリコーン系、フッ素系、オレフィン系の何れか1種あるいは複数種の添加剤が含有又は重合されている組成であってもよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
また、塵芥排出通路4(第1~第3塵芥排出通路4a、4b、4c)にはサブ凸部5は形成されていないため、通路4に流入した流体(風、水等)が通路4内を流れる際、流路抵抗が小さくなる。よって、塵芥排出通路4を流れる流体によって通路4や撥水凸部3に付着した塵芥等を的確に浮き上がらせて流体と共に排出でき、洗浄効果が高まる。