(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122657
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026282
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA18
3J027FB40
3J027GB03
3J027GC06
3J027GC08
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE22
3J027GE30
(57)【要約】
【課題】起振体と起振体軸受とを好適に嵌合させる。
【解決手段】撓み噛合い式歯車装置1は、起振体10Aと、起振体10Aにより撓み変形する外歯歯車12と、外歯歯車12と噛合う内歯歯車22g、23gと、起振体10Aと外歯歯車12の間に配置される起振体軸受15と、を備えている。起振体軸受15は、起振体10Aとは別体で、起振体10Aに外嵌される内輪15Aを有し、起振体軸受15の内輪15Aの内周長が、起振体10Aの外周長よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、前記起振体と前記外歯歯車の間に配置される起振体軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受は、前記起振体とは別体で、前記起振体に外嵌される内輪を有し、
前記起振体軸受の内輪の内周長が、前記起振体の外周長よりも大きい、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記起振体の外周は、回転軸に垂直な断面が、互いに直交する長軸と短軸とを有する略楕円状に形成され、
前記起振体軸受の前記内輪の内周と前記起振体の外周とは、前記起振体の長軸位置において互いに当接し、前記起振体の短軸位置において両者の間に隙間が設けられる、
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記起振体軸受の前記内輪の内周と前記起振体の外周とは、少なくとも前記内歯歯車の歯と前記外歯歯車の歯とが噛合う範囲において互いに当接する、
請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
当該撓み噛合い式歯車装置の減速比が50以下の場合、前記起振体軸受の前記内輪の内周と前記起振体の外周とは、少なくとも前記起振体の長軸位置の±28度の角度範囲において互いに当接する、
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
当該撓み噛合い式歯車装置の減速比が80以下の場合、前記起振体軸受の前記内輪の内周と前記起振体の外周とは、少なくとも前記起振体の長軸位置の±26.5度の角度範囲において互いに当接する、
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
当該撓み噛合い式歯車装置の減速比が100以下の場合、前記起振体軸受の前記内輪の内周と前記起振体の外周とは、少なくとも前記起振体の長軸位置の±24.5度の角度範囲において互いに当接する、
請求項3に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記起振体の外周形状は、前記起振体の短軸位置において前記内歯歯車の歯と前記外歯歯車の歯とが接触しないように構成されている、
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、起振体により撓み変形される外歯歯車と、起振体と外歯歯車との間に配置される起振体軸受とを備える撓み噛合い式歯車装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種の撓み噛合い式歯車装置では、起振体軸受の内輪も起振体により撓み変形する。起振体軸受の内輪は、一般に全周締り嵌めで起振体に外嵌され、起振体に対する軸方向への移動が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、起振体軸受の内輪と起振体とを全周締り嵌めとすると、内輪に生じる応力が大きい。また、嵌合作業時に両者をぶつけて傷を付けるおそれがある。焼き嵌めや冷やし嵌め等の適用によりその可能性を低減できるが、その場合には組立工数が増加する。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、起振体と起振体軸受とを好適に嵌合させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、前記起振体と前記外歯歯車の間に配置される起振体軸受と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受は、前記起振体とは別体で、前記起振体に外嵌される内輪を有し、
前記起振体軸受の内輪の内周長が、前記起振体の外周長よりも大きい構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、起振体と起振体軸受とを好適に嵌合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図2】起振体と起振体軸受との嵌め合い、及び、内歯と外歯との噛合いを示す模式図である。
【
図3】内歯と外歯の噛合い範囲と、減速比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[撓み噛合い式歯車装置の構成]
図1は、本実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す断面図である。
以下では、図中の回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1から垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」と定義する。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結される側(図中の左側)を「負荷側」といい、負荷側とは反対側(図中の右側)を「反負荷側」という。
【0011】
図1に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、外歯歯車12が撓み変形して回転軸O1回りの回転運動が伝達される筒型の撓み噛合い式歯車装置である。
具体的に、撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸10、起振体軸10により撓み変形される外歯歯車12、外歯歯車12と噛合う第1内歯歯車22g及び第2内歯歯車23g、並びに、起振体軸受15を備える。さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、第1ケーシング22、内歯歯車部材23、第2ケーシング24、第1カバー26、第2カバー27、主軸受33を備える。
【0012】
起振体軸10は、中空軸状であり、回転軸O1に垂直な断面の外形(外周)が(互いに直交する長軸と短軸を有する)楕円状である起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられ回転軸O1に垂直な断面の外形が円形である軸部10B、10Cとを有する。なお、楕円状とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転し、起振体10Aの回転軸O1に垂直な断面の外形形状の中心は回転軸O1と一致する。この起振体軸10は、モータ等の駆動源(図示省略)に連結されて駆動力が入力される入力軸である。また、起振体軸10は、中実軸であってもよい。
【0013】
外歯歯車12は、可撓性を有する円筒状の金属であり、外周に歯が設けられている。
【0014】
第1内歯歯車22gと第2内歯歯車23gは、回転軸O1に軸心を一致させて配置される。
これら第1内歯歯車22gと第2内歯歯車23gは、軸方向に並んで設けられ、外歯歯車12と噛合している。具体的には、第1内歯歯車22g及び第2内歯歯車23gの一方が、外歯歯車12の軸方向の中央より片側の歯部に噛合し、他方が、外歯歯車12の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯部に噛合する。第1内歯歯車22gは、第1ケーシング22の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。第2内歯歯車23gは、内歯歯車部材23の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。
【0015】
起振体軸受15は、例えば複列玉軸受であり、起振体10Aと外歯歯車12との間に配置される。起振体軸受15は、起振体10Aの外周に嵌合される内輪15Aと、外歯歯車12の内周に嵌入される外輪15Bと、複数の転動体15Cと、複数の転動体15Cを保持する保持器15Dとを有する。複数の転動体15Cは、内輪15Aの外周面と外輪15Bの内周面とを転動面として転動する。なお、起振体軸受15は、外輪15Bを有していなくともよい。また、内輪15Aの軸方向両側であって後述の入力軸受31、32との間には、これらの軸方向の移動を規制するスペーサ38、39が配置され、起振体軸10に外嵌されている。
内輪15Aと起振体10Aとの嵌め合いの詳細については後述する。
【0016】
外歯歯車12の軸方向の両側には、これに当接して軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング36、37が設けられている。
【0017】
第1ケーシング22及び第2ケーシング24は、ボルト57により互いに連結されて、第1内歯歯車22g、第2内歯歯車23g及び外歯歯車12の径方向外側を覆う。このうち、第1ケーシング22は、上述のように、内周部の一部に内歯が設けられており、第1内歯歯車22gと一体的に構成されている。また、撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、第1ケーシング22と第2ケーシング24は相手装置に共締めにより連結される。
【0018】
内歯歯車部材23は、第2ケーシング24の径方向内側でかつ起振体軸10の径方向外側に、少なくとも一部が配置されている。また、内歯歯車部材23は、上述のように、内周部の一部に内歯が設けられており、第2内歯歯車23gと一体的に構成されている。
【0019】
第1カバー26は、ボルト51により第1ケーシング22に連結され、外歯歯車12と第1内歯歯車22gとの噛合い箇所を反負荷側から覆う。第1カバー26と起振体軸10の軸部10Bとの間には入力軸受31(例えば玉軸受)が配置され、第1カバー26は当該入力軸受31を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
【0020】
第2カバー27は、ボルト52により内歯歯車部材23と連結され、外歯歯車12と第2内歯歯車23gとの噛合い箇所を負荷側から覆う。第2カバー27と起振体軸10の軸部10Cとの間には入力軸受32(例えば玉軸受)が配置され、第2カバー27は当該入力軸受32を介して起振体軸10を回転自在に支持している。撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、第2カバー27と内歯歯車部材23は、相手装置の被駆動部材に共締めにより連結され、減速された回転を当該被駆動部材に出力する。
【0021】
主軸受33は、例えば玉軸受であり、内歯歯車部材23と第2ケーシング24との間に配置される。第2ケーシング24は、主軸受33を介して内歯歯車部材23を回転自在に支持する。なお、主軸受33は、玉軸受に限定されず、例えばクロスローラ軸受等であってもよい。また、主軸受33は、専用の内輪や外輪を有していなくともよい。また、主軸受33は、内部に潤滑剤が封入されたシール付きの軸受であってもよい。
【0022】
[動作説明]
上記構成の撓み噛合い式歯車装置1にあっては、モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が起振体軸受15を介して外歯歯車12に伝わる。このとき、外歯歯車12は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車12は、固定された第1内歯歯車22gと起振体10Aの長軸位置で噛合っているので、起振体10Aと等速で回転することはなく、撓み変形により起振体10Aの長軸位置が移動する。
例えば、外歯歯車12の歯数が100で、第1内歯歯車22gの歯数が102である場合、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車12は、第1内歯歯車22gとの歯数差分だけ回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車12に伝達される。
一方、外歯歯車12は、第2内歯歯車23gとも噛合っているため、例えば、第2内歯歯車23gの歯数と外歯歯車12の歯数とが同数であるとすると、外歯歯車12と第2内歯歯車23gとは等速で回転する。これらにより、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、内歯歯車部材23及び第2カバー27へ伝達され、この回転運動が被駆動部材に出力される。
【0023】
[各部材の素材]
各部材の素材は、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、以下のように構成されている。
起振体軸10、外歯歯車12、スペーサリング36、37は、鉄鋼素材等の金属素材から構成される。特に制限されないが、より具体的には、起振体軸10が、クロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材から構成される。なお、起振体軸10は、アルミニウム合金により構成されてもよい。外歯歯車12は、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材から構成される。スペーサリング36、37は、高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成される。
【0024】
また、入力軸受31,32及び主軸受け33は、内外輪及び転動体が金属(例えば、高炭素クロム軸受鋼等)から構成される。
また、起振体軸受15は、内輪15A、外輪15B、転動体15C及び保持器15Dが金属(例えば、高炭素クロム軸受鋼等)から構成される。なお、保持器15Dは樹脂により構成されてもよい。
また、各ボルト51、52、57は、金属(例えば、一般構造用圧延鋼材、冷間圧造用炭素鋼線、機械構造用炭素鋼鋼材等)から構成される。
【0025】
一方、第1ケーシング22、内歯歯車部材23、第2ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27は、特に限定はされないが、樹脂によって構成されている。
【0026】
第2ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27に使用される樹脂としては、本実施形態においては樹脂の母材に強化用の繊維が含有されるものが使用される。なお、強化用の繊維を含有しない樹脂を使用してもよい。
母材の樹脂は、例えば、50~60℃程度の耐熱性を持つエンジニアリングプラスチック(汎用エンジニアリングプラスチック)が使用される。具体的には、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。ここでいう耐熱性とは、静的に形状が維持できる温度ではなく、歯車としての性能を維持できる温度のことを示す。
強化用の繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等が挙げられる。
【0027】
第1ケーシング22、内歯歯車部材23に使用される樹脂としては、本実施形態においては、樹脂の母材に強化用の繊維が含有されるものが使用される。
母材の樹脂は、70℃以上の耐熱性を持つ樹脂が好ましく、例えば、100℃以上の耐熱性を持つスーパーエンジニアリングプラスチック(特種エンジニアリングプラスチック)が使用される。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、芳香族ポリアミド(PPA)、液晶ポリマー(LCP)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、熱可塑性ポリイミド(TPI)等が挙げられる。
強化用の繊維としては、前述した強化用の繊維よりも熱伝導性の高い繊維(例えば、カーボン繊維等)が挙げられる。
【0028】
なお、第1ケーシング22、内歯歯車部材23に使用される樹脂及び強化用の繊維については、排熱を考慮して、第2ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27よりも熱伝導率や耐熱性が高いものが好ましいが、第2ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27について例示したものと同一としても良い。
【0029】
[起振体と起振体軸受との嵌め合い]
図2は、起振体10Aと起振体軸受15(の内輪15A)との嵌め合い、及び、内歯(第1内歯歯車22g又は第2内歯歯車23gの歯)と外歯(外歯歯車12の歯)との噛合いを示す模式図である。
図2では、分かり易さのために、これらの嵌め合い及び噛合いを誇張して図示している。
この図に示すように、起振体10Aと起振体軸受15の内輪15Aとは、全周に亘って接触していた従来と異なり、周方向に部分的に接触している。より詳しくは、起振体軸受15の内輪15Aの内周長が、起振体10Aの外周長よりも大きく(長く)形成されている。そして、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、起振体10Aの長軸位置(x軸上の位置)において互いに当接し、起振体10Aの短軸位置(y軸上の位置)において両者の間に隙間が設けられている。また、本実施形態においては、起振体10Aの外周形状は、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周との間の短軸位置での隙間量を予測した上で、起振体10Aの短軸位置において内歯と外歯が接触しないように(歯先干渉しないように)構成されている。
【0030】
ここで、外歯歯車12と内歯歯車22g、23gとは、上述のとおり起振体10Aの長軸位置で噛合っている。そのため、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、少なくとも内歯(第1内歯歯車22g又は第2内歯歯車23gの歯)と外歯(外歯歯車12の歯)とが噛合う範囲において互いに当接するのが好ましい。これにより、内歯と外歯の噛合いへの影響を抑制できる。
図3は、内歯と外歯の噛合い範囲と、減速比との関係を示すグラフである。内歯と外歯の噛合い範囲は、長軸位置からの周方向の角度αで表す(
図2参照)。
この図に示すように、内歯と外歯とは長軸位置を略中心として噛合い、その噛合い範囲(角度α)は、高減速比になるほど小さくなる。起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、この噛合い範囲に対応して互いに当接するのが好ましい。具体的には、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、減速比が50以下の場合には、少なくとも起振体10Aの長軸位置の±28度の角度範囲において互いに当接するのが好ましく、減速比が80以下の場合には、少なくとも起振体10Aの長軸位置の±26.5度の角度範囲において互いに当接するのが好ましく、減速比が100以下の場合には、少なくとも起振体10Aの長軸位置の±24.5度の角度範囲において互いに当接するのが好ましい。
【0031】
なお、起振体10Aと起振体軸受15の内輪15Aとは、全周に亘って接触していた従来と異なり、周方向に部分的にしか接触していないため、相互の保持力は小さくなる。そのため、この保持力が、トルク等によって発生するスラスト力に負けないように(つまり、これらが互いに軸方向に移動しないように)、互いの接触範囲等を適宜設計する必要がある。
【0032】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸受15は、起振体10Aとは別体で、起振体10Aに外嵌される内輪15Aを有しており、この内輪15Aの内周長が起振体10Aの外周長よりも大きい。
これにより、起振体軸受15の内輪15Aと起振体10Aとが全周に亘って締り嵌めされていた従来に比べ、内輪15Aに生じる応力を低減できる。また、これらの嵌合が容易(圧入、焼き嵌め、冷し嵌めが不要)になり、組立性が向上する。したがって、従来に比べ、起振体10Aと起振体軸受15とを好適に嵌合させることができる。
【0033】
また、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、起振体10Aの長軸位置において互いに当接し、起振体10Aの短軸位置において両者の間に隙間が設けられる。
これにより、内歯と外歯の噛合い(すなわちトルク伝達)への影響を抑制しつつ、起振体10Aと起振体軸受15とを好適に嵌合させることができる。
【0034】
また、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸受15の内輪15Aの内周と起振体10Aの外周とは、少なくとも内歯と外歯とが噛合う範囲において互いに当接する。
これにより、内歯と外歯の噛合い(すなわちトルク伝達)への影響をより確実に抑制しつつ、起振体10Aと起振体軸受15とを好適に嵌合させることができる。
【0035】
また、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体10Aの外周形状は、起振体10Aの短軸位置において内歯と外歯とが接触しないように構成されているので、短軸位置における歯先干渉の発生を抑制できる。
【0036】
<その他>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、起振体軸受15は、少なくとも内輪15Aの内周長が起振体10Aの外周長よりも大きく形成されていればよい。
【0037】
また、上記実施形態では、撓み噛合い式歯車装置1として、所謂筒型のものを例示した。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば所謂カップ型又はシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置にも適用可能である。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 撓み噛合い式歯車装置
10A 起振体
12 外歯歯車
15 起振体軸受
15A 内輪
15B 外輪
22g 第1内歯歯車
23g 第2内歯歯車
O1 回転軸
α 角度