(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122666
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】核磁気共鳴法を用いたキノコ培地に発生した菌糸塊およびキノコ原基を検出する装置および検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
G01N24/08 510Q
G01N24/08 510D
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026298
(22)【出願日】2022-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出強化研究推進事業、「MRIを用いた原木・菌床内部の菌糸の可視化と生育状態監視システムによるシイタケの大型化栽培法の抽出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514037893
【氏名又は名称】小川 邦康
(72)【発明者】
【氏名】小川 邦康
(57)【要約】
【課題】
キノコ培地に発生した菌糸塊およびキノコ原基を検出する装置および検出する方法を提供する。
【解決手段】測定装置は、試料526に対し静磁場を印加する磁石520、試料526に対し励起用振動磁場を印加し、試料526で発生した核磁気共鳴信号を取得する小型RFコイル524、小型RFコイル524で取得した核磁気共鳴信号に基づいて、信号強度を算出する演算部542を有する。取得された前記信号強度と所定の値を比較部546で比較し、取得した前記信号強度が前記所定の値よりも大きいと判断部548で判断された場合には前記小型RFコイル524が前記核磁気共鳴信号を取得した試料526の計測位置には菌糸塊およびキノコ原基が発生していると判断する装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ栽培に用いられる培地および前記培地内および前記培地表面に生育する菌糸を試料として核磁気共鳴法を用いて前記培地および前記菌糸内に含まれる水を構成する水素原子核から放出される核磁気共鳴信号を取得する計測装置であって、
前記培地および前記菌糸に静磁場を印加する静磁場印加部と、前記培地および前記菌糸に対して励起用振動磁場を印加するとともに、前記培地および前記菌糸から発生した核磁気共鳴信号を取得するRFプローブと、
前記励起用振動磁場の印加をシーケンステーブルに保存されているパルスシーケンス、または、パラメータに基づいて作成されたパルスシーケンスにしたがって実行させる制御部と、
前記RFプローブで前記核磁気共鳴信号を取得し、前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する演算部と、
前記演算部で算出された前記信号強度と、所定の信号強度を比較した比較結果を出力する比較部と、
前記比較結果が、前記所定の信号強度よりも前記信号強度が大きい場合には、前記培地内または前記培地表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する判断部と、
前記判断部で判断される判断結果を表示する出力部と、
を備えることを特徴とする測定装置
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置において、
前記所定の信号強度を記憶する記憶部を備え、
前記演算部で算出された前記信号強度と、前記記憶部に記憶されている信号強度を比較部で比較することを特徴とする測定装置。
【請求項3】
請求項1、請求項2に記載の測定装置において、
前記所定の信号強度が、前記培地内および前記培地表面で菌糸塊やキノコ原基が発生していない場所から前記RFプローブが受信するベース信号強度であって、
前記演算部で算出された前記信号強度と、前記ベース信号強度を比較部で比較することを特徴とする測定装置。
【請求項4】
請求項1、請求項2、請求項3に記載の測定装置において、
前記所定のパルスシーケンスが
(a)第一の励起パルスである90°パルス、および、
(b)(a)のパルスから時間TE/2経過後に印加される第二の励起パルスである180°パルス、
の複数のパルスで構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記パルス群によって(a)のパルスから略時間TE経過後付近に生ずる核磁気共鳴信号に基づいて信号強度を算出する演算部を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3に記載の測定装置において、
前記所定のパルスシーケンスが
(a)第一の励起パルスである90°パルス
で構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記パルス群によって(a)のパルスからある一定時間経過後付近に生ずる核磁気共鳴信号に基づいて信号強度を算出する演算部を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項6】
請求項4、請求項5に記載の測定装置において、
前記所定のパルスシーケンスが
前記(a)のパルスから時間TR経過後に前記パルス群が再び印加される操作を含むパルスシーケンスであることを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3に記載の測定装置において、
前記所定のパルスシーケンスが
(c)90°パルスよりも小さな励起用振動励起磁場である第一の励起パルス
で構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記パルス群によって(c)のパルスからある一定時間経過後付近に生ずる核磁気共鳴信号に基づいて信号強度を算出する演算部を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の測定装置において、
前記所定のパルスシーケンスが
前記(c)のパルスから時間TR経過後に前記パルス群が再び印加される操作を含むパルスシーケンスであることを特徴とする測定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8に記載の測定装置において、
前記培地よりも小さい寸法の小型RFコイルで共振回路を構成する小型RFプローブと、
前記小型RFプローブで前記核磁気共鳴信号を取得し、前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する演算部を備えることを特徴とする測定装置
【請求項10】
請求項9に記載の測定装置において、
前記小型RFコイルの形状が平面状であり、前記培地に前記小型RFコイルを接触または近づけることによって前記小型RFコイルで前記核磁気共鳴信号を取得し、前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する演算部を備えることを特徴とする測定装置
【請求項11】
請求項10に記載の測定装置において、
前記小型RFコイルの形状が略円形または略楕円形であり、
前記静磁場印加部が前記小型RFコイルの平面に垂直な法線に対して略垂直方向に静磁場を印可することができることを特徴とする測定装置
【請求項12】
請求項10に記載の測定装置において、
前記小型RFコイルの形状が略半円形の二つのコイルを組み合わせたバタフライコイルであり、
前記静磁場印加部が前記小型RFコイルの平面に垂直な法線に対して略並行方向に静磁場を印可することができることを特徴とする測定装置
【請求項13】
請求項9から請求項12に記載の測定装置において、
前記静磁場印加部の内部に前記培地を入れることなく、前記培地に前記静磁場印加部を接触または近づけることで静磁場を印可することができることを特徴とする測定装置
【請求項14】
請求項13に記載の測定装置において、
前記静磁場印加部が前記培地よりも寸法が小さい小型磁石であることを特徴とする測定装置
【請求項15】
請求項1から請求項14までの記載の測定装置において、
前記培地および前記菌糸に対して勾配磁場を印加する勾配磁場コイルを備え、
前記培地内および前記菌糸内に含まれる水を構成する前記水素原子核が作る核磁化の位相と周波数を前記勾配磁場コイルに流す電流によって操作することで核磁化の空間分布を画像化することができる画像化パルスシーケンスを前記シーケンステーブルに含み、前記画像化パルスシーケンスが所定の時間TRの間隔で繰り返し前記励起用振動磁場を印加するパルスシーケンスであって、
前記制御部が前記画像化パルスシーケンスに従って前記励起用振動磁場と前記勾配磁場を印加することによって、
前記RFプローブまたは前記小型RFプローブで前記核磁気共鳴信号を取得し、
取得された前記核磁気共鳴信号を基にして前記培地内および前記菌糸の信号強度の空間分布を画像化できる演算手法と、
前記信号強度の強い領域の信号強度を演算できる計算手法と、
前記信号強度の空間分布から信号強度の強い領域の形状を認識できる演算手法と、
前記信号強度の空間分布から信号強度の強い領域の寸法を計算できる演算手法を前記演算部に含み、
前記比較部で前記信号強度の強い領域の信号強度と、所定の信号強度または前記記憶部に記憶されている信号強度または前記ベース信号強度の大小関係を比較した信号強度比較結果を出力し、
前記信号強度の強い領域の形状が略円形であるかどうかを判定した形状認識結果を出力し、
前記信号強度の強い領域の寸法が所定の寸法の範囲内であるかどうかを判定した寸法範囲比較結果を出力する比較部を備え、
前記信号強度比較結果が、前記所定の信号強度または前記記憶部に記憶されている信号強度または前記ベース信号強度よりも前記信号強度が大きく、かつ、前記形状判断結果の成否、かつ、寸法範囲比較結果の成否を組み合わせることによって、前記培地または菌糸表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する判断部を備えることを特徴とする測定装置
【請求項16】
請求項15に記載の測定装置において、
前記信号強度の強い領域の寸法が略2から略10mmまでの大きさであることを特徴とする測定装置
【請求項17】
キノコ栽培に用いられる培地および前記培地内および前記培地表面に生育する菌糸を試料として核磁気共鳴法を用いて前記培地および前記菌糸内に含まれる水を構成する水素原子核から放出される核磁気共鳴信号を取得する計測方法であって、
前記培地および前記菌糸に静磁場を印加する第一ステップと、
前記培地および前記菌糸に対して励起用振動磁場を印加するシーケンステーブルに保存されているパルスシーケンス、または、パラメータに基づいて作成されたパルスシーケンスにしたがって励起用振動磁場を印加し、前記パルスシーケンスに対応する核磁気共鳴信号を取得する第二ステップと、
前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する第三ステップと、
前記信号強度と所定の信号強度を比較して比較結果を出力する第四ステップと、
前記比較結果が、前記所定の信号強度よりも前記信号強度が大きい場合には、前記培地内または前記培地表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する第五ステップを含むことを特徴とする測定方法
【請求項18】
請求項17に記載の測定方法において、
前記第四ステップにおいて、前記所定の信号強度が前記記憶部で保持している信号強度であることを特徴とする測定方法
【請求項19】
請求項17および請求項18に記載の測定方法において、
前記第四ステップにおいて、前記所定の信号強度が、前記培地内および前記培地表面で菌糸塊やキノコ原基が発生していない場所で取得されたベース信号強度であることを特徴とする測定方法
【請求項20】
請求項17から請求項19に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
(a)第一の励起パルスである90°パルス、および、
(b)(a)のパルスから時間TE/2経過後に印加される第二の励起パルスである180°パルス、
の複数のパルスで構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加するとともに、
第三ステップにおいて、前記パルス群によって(a)のパルスから略時間TE経過後付近に生ずる核磁気共鳴信号に基づいて信号強度を算出する演算手法を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項21】
請求項20に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
前記(a)のパルスから時間TR経過後に前記パルス群が再び印加される操作を含むパルスシーケンスであって、
第三ステップにおいて、取得された複数の前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する第三ステップを含むことを特徴とする測定方法
【請求項22】
請求項17から請求項19に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
(a)第一の励起パルスである90°パルス
で構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加する手法を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項23】
請求項22に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
前記(a)のパルスから時間TR経過後に前記パルス群が再び印加される操作を含むパルスシーケンスであって、
第三ステップにおいて、取得された複数の前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する手法を含むことを特徴とする測定方法
【請求項24】
請求項17から請求項19に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
(c)90°パルスよりも小さな励起用振動励起磁場である第一の励起パルス
で構成される一連のパルス群であって、
前記パルスシーケンスに基づいて前記励起用振動磁場を印加する手法を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項25】
請求項24に記載の測定方法において、
前記第二ステップにおいて、前記所定のパルスシーケンスが
前記(a)のパルスから時間TR経過後に前記パルス群が再び印加される操作を含むパルスシーケンスであって、
第三ステップにおいて、取得された複数の前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する手法を含むことを特徴とする測定方法
【請求項26】
請求項17から請求項25に記載の測定方法において、
前記第一ステップにおいて、前記培地に対して勾配磁場を印加し、
前記第二ステップにおいて、前記培地内に含まれる水を構成する前記水素原子核が作る核磁化の位相と周波数を前記勾配磁場コイルに流す電流によって操作することによって核磁化の空間分布を画像化することができる画像化パルスシーケンスをシーケンステーブルに含み、
前記画像化パルスシーケンスが、前記励起用振動磁場を照射した後に発生する核磁気共鳴信号を取得する手法を含み、
前記第三ステップにおいて、
取得された前記核磁気共鳴信号を基にして前記培地内および前記菌糸の信号強度の空間分布を画像化できる演算手法と、
前記信号強度の強い領域の信号強度を演算できる演算手法と、
前記信号強度の空間分布から信号強度の強い領域の形状を認識できる演算手法と、
前記信号強度の空間分布から信号強度の強い領域の寸法を計算できる演算手法を含み、
前記第四ステップにおいて、
前記比較部で前記信号強度の強い領域の信号強度と、所定の信号強度または前記記憶部に記憶されている信号強度または前記ベース信号強度の大小関係を比較する手法と、
前記信号強度の強い領域の形状が略円形であるとした形状認識の判定を行う方法と、
前記信号強度の強い領域の寸法が所定の寸法の範囲内であるかどうかの判定を行う方法を含み、
前記第五ステップにおいて、
前記信号強度比較結果が、前記所定の信号強度または前記記憶部に記憶されている信号強度または前記ベース信号強度よりも前記信号強度が大きく、かつ、前記形状判断結果の成否、かつ、寸法範囲比較結果の成否を組み合わせることによって、前記培地または菌糸表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する手法を備えることを特徴とする測定方法
【請求項27】
請求項26に記載の測定方法において、
信号強度の強い領域の寸法が略2から略10mmまでの大きさであることを特徴とする測定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴法を用いてキノコ培地に発生した菌糸塊およびキノコ原基を検出する装置および検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シイタケが発生する直前の原木・菌床の表面には直径が2~10 mm程度の菌糸塊または原基とも呼ばれる菌糸の塊(以降では、菌糸塊と呼ぶ)が形成される。この菌糸塊が大きく成長して、幼子実体となり、シイタケとなる。
原木栽培の場合、シイタケ菌を接種するための種駒が用いられる。種駒を植菌した穴(以降では、植菌穴と呼ぶ)には種駒の乾燥を防止するために発泡スチロールの栓が埋められる。この栓のために植菌穴の中で10~11月頃に菌糸塊が発生したとしても、菌糸塊の発生を外観からは識別することはできない。なお、菌糸塊は植菌穴の数に対して半数以下の数しか発生しない。さらに、菌糸塊が子実体にまで成長する割合はさらに半数以下である。すなわち、植菌から一年目でシイタケが収穫できる数は植菌穴の数の3分の1以下である。さらに、子実体が発生する時期は植菌穴によって異なり、12月~2月の長期間に渡って1,2個ずつ発生する。栽培農家としては、子実体が発生する時期とその数がより早い時期に認識できると、子実体が発生する前に原木に十分に吸水させることができるようになる、この早めの給水作業によってシイタケは大型化し、その商品価値は上がると考えている。
【0003】
菌床栽培の場合、シイタケが密集して同時に発生し、シイタケが小型化することを抑制するために高温抑制処理(通常の栽培温度は21℃程度。高温処理温度は26~28℃程度)が行われる。高温抑制処理によって菌床表面に形成された菌糸塊の数や密度が減少する、もしくは、菌糸塊からシイタケに成長するタイミングを分散させることができる。これによって、シイタケの集中発生を防ぐことができ、シイタケが大型化する。しかし、高温抑制処理の期間(3~8日間ほど)が長過ぎると菌糸は弱り、シイタケの発生数が減少し過ぎて総収穫量が減少する。逆に短過ぎると高温抑制処理の効果が表れない。
高温抑制処理は褐変した菌床に対して行われるため、菌床の表面は茶褐色であり、凹凸が激しい。このため外観からは菌糸塊がどこに発生しているかを見つけ出すことは難しい。このため、栽培農家は菌糸塊の数やその密度やその減少量などを定量的に把握できておらず、栽培農家が自身の経験と勘を頼りにして高温抑制処理を終える時期を判断している。このため、高温抑制処理は失敗するリスクが大きく、慎重にならざるを得ない。もし、菌糸塊の数やその密度や減少量が定量的に分かれば、実際に発生した菌糸塊の数や数密度に応じた高温抑制処理の終了時期を適切に判断することができるようになると考えている。
【0004】
シイタケ菌糸が成長している原木と菌床をMRI(核磁気共鳴画像法)で計測した特許文献と非特許文献が合計で4つある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2018-152288(特開2020-27042)、発明者:小川邦康、出願人:小川邦康、発明の名称:核磁気共鳴法を用いた培地内の菌糸計測装置
【特許文献2】特願2020-096913、発明人:小川邦康、出願人:小川邦康、発明の名称:核磁気共鳴法を用いた培地内のキノコ菌糸計測装置
【非特許文献1】田中ほか2名、ほだ木におけるシイタケ菌成長過程のMRIによる追跡、NMRマイクロイメージング研究会、OP9, 2015
【非特許文献2】田中ほか3名、シイタケ栽培におけるシイタケ生育過程のMRIによる追跡、NMRマイクロイメージング研究会、8, 2016
【0006】
特許文献1では、菌床内に成長したシイタケ菌糸をMRIによって可視化する手法を提供している。この文献では、菌床に植菌した直後から菌床全体に菌糸が蔓延するまでの期間にわたって菌床をMRIで計測した結果を示している。菌床内を菌糸が成長していく様子をT1強調画像のコントラストで捉えており、菌糸が成長した領域は輝度が弱い領域(灰色の領域)として得ている。また、T1緩和時定数の空間分布も算出し、T1緩和時定数が200~400msと長くなった領域が菌糸の成長領域であるとしている。しかし、菌糸塊およびシイタケ原基が発生するまでの菌床を計測していないために菌糸塊やシイタケ原基がMRIでどのように画像化されるかは不明である。
【0007】
特許文献2では、原木を計測対象とし、原木内に成長したシイタケ菌糸をMRIによって可視化する手法を提供している。この文献では、原木に植菌した直後から原木の約半分の領域まで菌糸が成長するまでの期間にわたって原木をMRIで計測した結果を示している。また、菌糸が原木内を成長していく様子をT1緩和時定数の空間分布も算出している。菌糸が成長した領域のT1緩和時定数は200~400msに長くなり、信号強度が強くなったことを示している。しかし、菌糸塊および原基が発生するまでは原木を計測していないために菌糸塊およびシイタケ原基がMRIでどのように画像化されるかは不明である。
【0008】
非特許文献1では、原木内のシイタケ菌糸の可視化をMRI計測で試みている。しかし、文献中にはMRIの計測条件が明記されておらず、著者らがどのような計測条件でシイタケ菌糸を可視化できたかが不明確である。また、著者らはMR画像の中で、白い領域(信号強度が強い領域)が原木内にシイタケ菌糸が成長・蔓延した場所であると主張しているが、外部からの光学観察や破壊試験などの別の可視化方法と対比して、MR画像を検証していないために、菌糸が可視化できているかどうかは明確ではない。単に水分量が多い領域である可能性がある。さらに、菌糸塊およびシイタケ原基が発生したときの原木を計測していないために、MRIでどのように画像化されるかが不明である。
【0009】
非特許文献2では、非特許文献1と同じ研究グループがMRI計測を行った結果の報告である。ここでのMRI計測条件は繰り返し時間間隔TRを300ms、エコー時間TEを=7msとしている。TRが長く、T1強調画像とは言えない計測条件にある。著者らは白い領域(信号強度が強い領域)が原木内にシイタケ菌糸が成長した場所であると主張しているが、シイタケ菌糸であるというはっきりした証拠が示されていない。この点は著者らもその判断が曖昧であることを文献中で認めている。さらに、菌糸塊およびシイタケ原基が発生したときの原木を計測していないために、MRIでどのように画像化されるかが不明である。
以上の合計四つの特許文献と非特許文献では、原木と菌床に発生した菌糸塊およびシイタケ原基を可視化することはできていない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、核磁気共鳴法を用いてキノコ培地に発生した菌糸塊およびキノコ原基を検出することができる核磁気共鳴装置と、菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断するために必要な方法を提供するものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シイタケ原木の樹皮下や褐変したシイタケ菌床の表面に菌糸塊およびシイタケ原基が発生したかどうかを外観から判断することは非常に難しい。
原木シイタケの栽培農家としては、子実体が発生する時期が予め分かれば子実体が発生する前に原木に十分に吸水させることができる。原木には水が浸み込み難く、吸水に数日間程度の時間がかかるためである。原木に十分な吸水をさせることで、シイタケは大型化し、その商品価値は上がる。
さらには、シイタケが発生する位置が予め分かれば、シイタケの成長時にシイタケに傷を付けたり、成長を邪魔するような障害物を取り除いたり、原木の位置や向きを変えたりするなどの栽培環境を栽培農家が整備することができる。シイタケの原木栽培において原基の発生時期と位置が事前に把握できることは大型で良質なシイタケを栽培するためには非常に重要な要素である。
また、菌床栽培の場合には、高温抑制処理を終える時期を栽培農家の経験と勘を頼りにして判断しているために曖昧であり、判断を間違えると収穫量が減るリスクがある。もし、菌糸塊の数やその密度や減少量が定量的に分かれば、高温抑制処理の終了時期を適切に判断することができるようになる。高温抑制処理が適切になされれば、シイタケの集中発生が抑制されてシイタケが大型化し、商品価値が上昇すると期待できる。
このように、シイタケの原木・菌床栽培において菌糸塊およびシイタケ原基の発生を検出できる装置が存在すればシイタケ栽培農家にとって有益であると考えられるが、そのような装置はこれまでになかった。以上より、シイタケ原木と菌床に発生する菌糸塊およびシイタケ原基を検出できる装置を作ることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、キノコ栽培に用いられる培地および前記培地内および前記培地表面に生育する菌糸を試料として核磁気共鳴法を用いて前記培地および前記菌糸内に含まれる水を構成する水素原子核から放出される核磁気共鳴信号を取得する計測装置であって、前記培地および前記菌糸に静磁場を印加する静磁場印加部と、前記培地および前記菌糸に対して励起用振動磁場を印加するとともに、前記培地および前記菌糸から発生した核磁気共鳴信号を取得するRFプローブと、前記励起用振動磁場の印加をシーケンステーブルに保存されているパルスシーケンス、または、パラメータに基づいて作成されたパルスシーケンスにしたがって実行させる制御部と、前記RFプローブで前記核磁気共鳴信号を取得し、前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する演算部と、前記演算部で算出された前記信号強度と、所定の信号強度を比較した比較結果を出力する比較部と、前記比較結果が、前記所定の信号強度よりも前記信号強度が大きい場合には、前記培地内または前記培地表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する判断部と、前記判断部で判断される判断結果を表示する出力部と、を備えることを特徴とする測定装置が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、キノコ栽培に用いられる培地および前記培地内および前記培地表面に生育する菌糸を試料として核磁気共鳴法を用いて前記培地および前記菌糸内に含まれる水を構成する水素原子核から放出される核磁気共鳴信号を取得する計測方法であって、前記培地および前記菌糸に静磁場を印加する第一ステップと、前記培地および前記菌糸に対して励起用振動磁場を印加するシーケンステーブルに保存されているパルスシーケンス、または、パラメータに基づいて作成されたパルスシーケンスにしたがって励起用振動磁場を印加し、前記パルスシーケンスに対応する核磁気共鳴信号を取得する第二ステップと、前記核磁気共鳴信号から信号強度を算出する第三ステップと、 前記信号強度と所定の信号強度を比較して比較結果を出力する第四ステップと、前記比較結果が、前記所定の信号強度よりも前記信号強度が大きい場合には、前記培地内または前記培地表面に菌糸塊またはキノコ原基が存在していると判断する第五ステップを含むことを特徴とする測定方法が提供される。
【0014】
菌糸塊は原木の樹皮下や菌床の褐変した表皮の下にあり、可視光を用いて外観からは認識できない。そこで、それらを透過できる電磁波を用いた手法によって内部の様子を可視化する。本発明では、核磁気共鳴(NMR)法を用いる。計測対象は原木と菌床および菌糸の中に含まれる水である。0.1~1Tの静磁場が原木と菌床および菌糸に印加されたとき、水を構成する水素原子核の共鳴周波数は約4.6~46MHzであり、その範囲の周波数の電磁波は樹皮や菌床表面を透過することができる。
発明した装置の検出器として、
図9に概略図を示すように、以下の二種類の形状を用いることができる。検出器の形状に応じて菌糸塊の判断方法が異なる。その判断方法を以下に示す。
(1)原木・菌床の表面を走査する平面状検出器
平面状検出器は平面状のコイルで構成され、そのコイルを原木・菌床の表面に接触または近づけることで表面近傍の水のNMR信号を受信する。得られたNMR信号の強弱から菌糸塊の有無を判断できる。操作者が表面コイルを移動させ、原木・菌床の表面全体を走査してNMR信号を受信することによって原木・菌床のどの位置に菌糸塊が形成されているかを判断することができる。
(2)原木・菌床全体を覆う円筒形検出器
円筒形検出器はソレノイド型コイルやバードケージ型コイルなどで構成される。検出器内部に原木・菌床を挿入して菌糸塊内部に存在する水のNMR信号を受信する。MRI計測と同様の手法で勾配磁場を印加して得られたNMR信号からMR画像(空間分布)を再構成する。MR画像に見られる輝点が種駒を打った穴の中、樹皮下または表皮の下にあり、その信号強度が他の部位よりも強く、丸い形状であれば、輝点が菌糸塊またはシイタケ原基であると判断できる。
【0015】
NMR信号は原木・菌床の全部、または、局所的な一部から得ることができる。計測できる試料の範囲は磁石の静磁場領域とRFコイルの励起領域で決まる。二つの領域が重なる領域に試料全体が入れば、試料の全体からNMR信号が得られ、試料の全体が計測対象となる。反対に、二つの領域が重なる領域が試料の一部のみであるならば、試料の局所的な一部分のみからNMR信号が得られ、その局所的な一部分が計測対象となる。
核磁気共鳴法で原木・菌床を計測した場合には、原木・菌床の全部か、または、原木・菌床の局所的な一部からNMR信号を得ることができる。さらに、画像化できる装置や方法を用いれば、計測領域内を空間分解した信号強度の空間分布を得ることができる。信号強度の空間分布を基にして、原木・菌床内に発生した菌糸塊およびシイタケ原基の信号強度とその形状および寸法を把握することができる。
【発明の効果】
【0016】
図1に示すように、試料526が放出するNMR信号をRFコイル524で受信し、データ受付部540で受け付けた後、演算部542で信号強度を演算する。演算された信号強度が記憶部544に記憶された所定の信号強度よりも大きいか小さいかを比較部546で比較し、その比較結果の大小関係から判断部548で培地内に菌糸塊およびシイタケ原基が存在すると判断する装置となる。
この装置において、RFコイル524が計測している領域が試料526よりも小さければ、培地の局所領域で菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断することができる
【0017】
また、
図2に示すように、試料526の全体を静磁場印加装置520、勾配磁場印加装置522およびRFコイル524で覆い、試料526の全体からNMR信号を受信する。その際、画像化シーケンスに従って勾配磁場印加装置522によって試料526に勾配磁場を印加する。NMR信号をデータ受付部540で受け付けた後、演算部542で画像化し、信号強度が大きい領域の信号強度を演算する。さらに、演算部542で強い信号強度の領域の形状がおおよそ円形であるか、その寸法を演算する。その後、その演算された信号強度が記憶部544に記憶された所定の信号強度よりも大きいか小さいか、円形であるかどうか、寸法が範囲内であるかどうかを比較部546で比較し、それらを組み合わせて判断部548で培地内に菌糸塊およびシイタケ原基が存在するかどうかを判断する装置となる。
【0018】
図3に、本発明の流れを示すフローチャートを示す。ステップ1のS102で試料に静磁場を印加し、ステップ2のS104で励起用振動磁場を印加して、試料からのNMR信号を取得する。ステップ3のS106でNMR信号から信号強度を算出する。シイタケ原木・菌床に菌糸塊およびシイタケ原基が発生した時の信号強度が既知であれば、それを所定値として入力または記憶しておき、ステップ4のS108で取得した信号強度と所定の信号強度を比較して比較結果を出力する。ステップ5のS110で比較結果の大小関係を基にして菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断できる。その結果をステップ6のS112で出力する。
ここで示した大小関係は、取得・算出された信号強度が所定の信号強度よりも大きいか、小さいかである。比較の結果、取得・算出された信号強度が大きければ、菌糸塊およびシイタケ原基が発生していると判断する。また、所定の信号強度は、菌糸塊およびシイタケ原基が発生していない場所での信号強度としても良いし、ノイズ強度としても良い。ノイズ強度は試料なしで計測されるノイズの強度としても良い。
【0019】
図4には、画像化した際の本発明の流れを示すフローチャートを示す。ステップ1のS202で試料に静磁場を印加し、ステップ2のS204で励起用振動磁場および勾配磁場を印加して、試料からのNMR信号を取得する。ステップ3のS206でNMR信号から信号強度の空間分布を算出する。この過程は画像化処理とも言われ、以下では信号強度の空間分布を「画像」と呼ぶ。シイタケ原木・菌床に菌糸塊およびシイタケ原基が発生した時の信号強度および寸法の範囲が既知であれば、それを所定値として入力または記憶しておく。
ステップ4のS208で画像の中で高信号強度の領域の信号強度を算出する。ステップ4のS210で信号強度と所定の信号強度を比較して信号強度の比較結果を出力する。さらに、ステップ4のS212で画像の中の高信号強度領域の形状を認識する。ステップ4のS214でその形状がおおよそ円形であるかどうかを判定し、形状の判定結果を出力する。さらに、ステップ4のS216で画像の中から認識された形状の寸法を算出する。ステップ4のS218でその寸法が所定の範囲内であるかどうかを判定し、寸法の判定結果を出力する。
ステップ5のS220で信号強度の大小関係、形状の判定結果および寸法の判定結果を基にして菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断できる。その結果をステップ6のS222で出力する。
ここで示した大小関係は、取得・算出された信号強度が所定の信号強度よりも大きいか、小さいかである。比較の結果、取得・算出された信号強度が大きければ、菌糸塊およびシイタケ原基が発生していると判断する。また、所定の信号強度は、菌糸塊およびシイタケ原基が発生していない場所での信号強度としても良いし、ノイズ強度としても良い。ノイズ強度は試料なしで計測されるノイズの強度としても良い。また、形状の判定結果は円形に近いか、否かである。寸法の判定結果は約2から約10mmの範囲内であるか、否かである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
この菌糸計測装置は、
図1に示すように、NMR・MRI計測部1と、演算部・比較部・判断部2と、磁場印加部3を備える。
(NMR・MRI計測部の構成)
NMR・MRI計測部1は、
図1に示すように、励起用電磁波の波形を整形する整形器502、励起用電磁波を発生する励起用電磁波発振器504、整形器から出力される波形で励起用電磁波を変調する変調器506、励起用電磁波を増幅するアンプ508、励起用電磁波と受信した核磁気共鳴信号の波形とを電気的に切り替える切替器(SW)510、核磁気共鳴信号を増幅する低ノイズアンプ(LNA)512、核磁気共鳴信号をデジタル信号に変換し、励起用電磁波で検波するするアナログ/デジタル(A/D)変換器・検波器516、A/D変換器・検波器から出力された信号を、整形器やA/D変換器・検波器および電流制御部などを制御する制御部530、計測部532、シーケンステーブル534、データ受付部540、勾配磁場印加装置に電流を供給する電流制御部528を有する。
(演算部・比較部・判断部の構成)
演算部・比較部・判断部2は、核磁気共鳴信号から信号強度を演算する演算部542、菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断する所定の信号強度を保存する記憶部544、演算部542で演算した信号強度と所定の信号強度を比較して比較結果を出力する比較部546、信号強度の比較結果を基に大小関係の組み合わせから菌糸塊およびシイタケ原基に有無を判断する判断部548、判断結果などを出力する出力部550を有する。
(磁場印加部の構成)
磁場印加部3は、試料526に静磁場を印加する静磁場印加装置520、試料526に励起用振動磁場を印加し、核磁気共鳴信号を受信するRFコイル524を有する。RFコイル524を核磁気共鳴周波数付近で共振させるためにRFコイル524は共振回路521に接続されている。
【0021】
RFコイル524は試料526に励起用振動磁場を印加し、試料526から放出される核磁気共鳴信号を受信するための装置である。RFコイル524は試料526の全体を覆う寸法を持つ形状としても良いし、試料526の一部のみを覆う寸法を持つ形状としても良い。RFコイル524が試料526の一部を覆う寸法の形状の場合には、例えば、表面コイルのように、試料526の一部のみから核磁気共鳴信号を受信することができる。この場合は試料526の局所計測となる。なお、この場合には、試料526を動かしたり、RFコイル524と静磁場印加装置520を動かしたりすることによって、試料526内から放出される核磁気共鳴信号を計測する位置と対応させて局所計測を試料全体に行うことができる。この方法を用いれば試料526内に発生した菌糸塊およびシイタケ原基の空間分布を得ることができる。
【0022】
計測部532はシーケンステーブル534から、
図5から
図8に示すようなシーケンス、または、シーケンスを構築するために必要なパラメータを制御部530を介して読み出し、制御部530に計測に必要な制御命令を送る。制御部530はシーケンスに従って整形器502、発振器504、A/D変換器・検波器516、電流制御部528、データ受付部540を含む装置に制御命令を送る。制御部530は整形器502にシーケンスに対応した励起用電磁波を整形するための波形を送る。
発振器504は制御部530から計測に対応した周波数情報を受け取り、励起用電磁波となる基本波形を発振する。整形器502で整形された波形と、発振器504から出力された基本波形とを変調器506が受け取って基本波形を変調し、励起用電磁波を形成する。この励起用電磁波をアンプ508で増幅し、切替器(SW)510を介して、RFコイル524に励起用電磁波を送る。これにより、RFコイル524は試料526を励起する。
【0023】
試料526から放出され、RFコイル524で受信した核磁気共鳴信号を切替器(SW)510を介して、低ノイズアンプ(LNA)512に送る。低ノイズアンプが核磁気共鳴信号を増幅し、増幅した信号をA/D変換器・検波器516でデジタル信号に変換し、発振器504から受けた基準波形を用いて核磁気共鳴信号を検波し、信号の周波数を低くする。A/D変換器・検波器516から出力された信号はデータ受付部540に取得される。
【0024】
演算部542はデータ受付部540で得られた信号を基にしてシーケンスに対応した信号強度を必要に応じて演算する装置である。演算部542は信号強度の空間分布に対応する画像を演算することもできる。さらに、画像の中から必要とされる試料の一部の領域での信号強度の平均値を演算することもできる。また、画像の中から高信号強度の領域の形状を認識する演算も、さらにはその形状の寸法も演算できる。記憶部544は菌糸塊およびシイタケ原基の有無を判断する際の信号強度の所定値やノイズ強度などを記憶しておく装置である。記憶部544に記憶される所定値は信号強度のみだけでなく、設定されたNMR・MRI計測条件としての時間TRやTEなどである。
【0025】
画像化する場合の装置構成を
図2に示した。
図1から変更した部分のみを以下で説明する。
(磁場印加部の構成)
磁場印加部3は、試料526の全体に静磁場を印加する静磁場印加装置520、試料526の全体に勾配磁場を印加する勾配磁場印加装置522、試料526の全体に励起用振動磁場を印加し、核磁気共鳴信号を受信するRFコイル524を有する。
試料526を画像化して計測するためには、試料526に勾配磁場を印加する必要がある。試料526に勾配磁場を印加するために勾配磁場印加装置522と、勾配磁場印加装置に電流を供給する電流制御部528を追記した。
【0026】
本発明によれば、シイタケ栽培で培地として用いられる原木・菌床に発生した菌糸塊およびシイタケ原基を非侵襲的に検出できる装置が提供される。これによって、シイタケ栽培農家の勘や経験に頼ることなく、菌糸塊やシイタケ原基の発生時期とその密度や、消滅時期などの情報が得られる。栽培農家はそれらの情報を基にしたシイタケ栽培が行え、大型で良質なシイタケの栽培が効果的に行えるようになる。
さらには、核磁気共鳴法は水に含まれる水素原子核の核磁気共鳴(NMR)現象を利用しているため、水の濃度に依存したNMR信号が計測される。これにより、NMR信号の強度がシイタケ原木や菌床の水分量に依存しているため、本発明は原木・菌床の水分量計測装置としても利用することができる。
【0027】
図5には一般的なスピンエコー法によってNMR信号(図中ではエコー信号)を取得するシーケンスの概略を図示した。第一の励起パルスとしての励起用振動磁場を試料に印加する。第二の励起パルスとしての励起用振動磁場を第一の励起パルスからエコー時間TEの半分の時間TE/2だけ経過した後に試料に印加する。第一の励起パルスと第二の励起パルスを第N番目のパルス群と呼ぶ。第一の励起パルスから時間TEだけ経過した後にエコー信号が取得される。これをN番目のパルス群によって計測されたN番目のエコー信号と呼ぶ。N番目のパルス群から時間TR経過後に、N番目のパルス群と同一のパルスで構成される、(N+1)番目のパルス群を印加する。これによって(N+1)番目のエコー信号が取得される。時間TRとTEは測定者が任意に設定することができる。得られたエコー信号を基にしてその強度である信号強度を算出することができる。
【0028】
信号強度の取得はスピンエコー法でなくても可能である。その一形態を
図6に示す。
図6には、N番目のパルスが第一の励起パルスのみで構成される。第一の励起パルスから時間TFだけ経過した後にFID信号(FIDは自由誘導減衰)を取得する。FID信号を基に信号強度が算出できる。時間TFは測定者が任意に設定することができる。
第一の励起パルスは90度励起パルスであっても良いし、90度励起パルスよりも核磁化の励起角度が小さくても良い。
【0029】
図5のスピンエコー法に、画像化するための勾配磁場パルスを付与して、
図7に概略を示すような画像化シーケンスとしても良い。
図7には、三つの方向(X、Y、Z方向)に勾配磁場を印加した、スライス選択励起パルスによる二次元MR画像シーケンスを示した。このシーケンスを用いてMRI計測することで、試料内部から放出されるNMR信号の空間分布(画像に相当)を得ることができる。
図6のパルスシーケンスに画像化するための勾配磁場パルスを印加しても良い。この場合にはグラジエントエコー法という画像化シーケンスが好ましい。
図8にはグラジエントエコー法による画像化シーケンスの概略図を示した。
【実施例0030】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
図10に示す円筒形検出器を使用して原木を計測した場合の実施例を以下に示す。
円筒形検出器は内径φ150mmの8本柱のバードケージ型コイル(エム・アール・テクノロジー製)である。計測領域は内径150mm、軸方向に120mmである。この円筒形検出器を超電導磁石の中に挿入してMRI計測を実施した。
用いた超電導磁石(四肢計測用、JASTEC製)は磁場強度が1.1 Tesla、内径がφ280mmである。超電導磁石の中には勾配磁場コイルを挿入してMRI計測でのXYZ方向の勾配磁場印加に用いた。1Hの共鳴周波数は46.567 MHzであった。
【0031】
計測対象の原木は石川県産のコナラである。平成3年3月に菌興115号を種駒として原木に植菌した。この原木を「R03植菌原木」と呼ぶ。原木の直径は85~95mmであった。R03植菌原木はハウス内で栽培された。10月下旬から気温が下がり、11月下旬に幼子実体が発生していることが確認された。原木を長さ290 mmに切断して慶大に輸送した。慶大では11月30日~12月06日までの一週間に渡り、MRI計測が実施された。12月06日に一個のシイタケを収穫した。シイタケの質量は51.80 gであった。これを「第一回目のシイタケ発生」と呼ぶ。
シイタケを収穫後の12月07日に原木を浸水させて24時間の給水をした。原木(1207 g)は322 gの水を吸収した。原木は恒温槽(6℃。加湿器あり)に入れて保管した。12月25日に原木から幼子実体(高さ5mm、直径10mm)が発生していることが確認された。その際の写真を
図11(d)に示す。
植菌時の原木表面には白色の丸い形状に見える種駒が打ち込まれている。白色の丸い形状の物は発泡スチロール栓であり、種駒が乾燥することを防止するために種駒の上から被されている。幼子実体は発泡スチロール栓を押し上げて外に出てくる。植菌から一、二年が経過した原木では種駒の位置からシイタケが発生する。
原木は二日に一度の頻度でMRIにより計測された。原木全体のMRI計測時間は12.5時間である。計測していない時の原木は恒温槽(6℃。加湿器あり)に保管された。01月08日に一個のシイタケを収穫した。シイタケの質量は42.96 gであった。これを「第二回目のシイタケ発生」と呼ぶ。
【0032】
円筒形検出器を用いて縦切り断面と輪切り断面のMR画像を取得した計測シーケンスを以下に示す。
(a)縦切り断面(YZ)のMR画像を計測したシーケンス
・単純スピンエコー法を用いたマルチスライスシーケンス
・90度励起パルス幅:2ms、波形:Sinc、180度励起パルスも同様で振幅のみ√2倍。
・繰り返し励起パルス間隔TR=1500ms、エコー時間TE=11ms
・エコー信号の取得時間間隔DW=20μs、バンドパスフィルタLPF=20kHz
・画素数は128×128、スライス厚さは10mm、積算回数は4回
・計測領域は170mm×170mm、計測時間は12分間
・スライス位置Xは-50, -40, -30, -20, -10, 0, 10, 20, 30, 40, 50 mm(11枚)
(b)輪切り断面(XY)のMR画像を計測したシーケンス
・単純スピンエコー法を用いたマルチスライスシーケンス
・90度励起パルス幅:2ms、波形:Sinc、180度励起パルスも同様で振幅のみ√2倍。
・繰り返し励起パルス間隔TR=1500ms、エコー時間TE=11ms
・エコー信号の取得時間間隔DW=20μs、バンドパスフィルタLPF=20kHz
・画素数は128×128、スライス厚さは10mm、積算回数は4回
・計測領域は170mm×170mm、計測時間は12分間
・スライス位置Zは-50, -40, -30, -20, -10, 0, 10, 20, 30, 40, 50 mm(11枚)
【0033】
R03植菌原木を円筒形検出器内に挿入し、縦切り断面、輪切り断面の二通りでMR画像を取得した。
図11にMR画像を示す。図(a)の左から順に計測日が12月07日、12月11日、12月25日と時間が経過している。12月11日のMR画像は原木に24時間給水を行った後の画像である。信号強度が強い領域を白色で、反対に信号強度がゼロの領域を黒色で示し、その間をグレースケールで示した。すなわち、MR画像では、信号強度が強く、水分が多い領域を白い領域で示している。
12月07日のMR画像は第一回目のシイタケを収穫した後の画像である。下部に二つの輝点(原基)が見える。輝点は信号強度が他の領域よりも強い領域である。8月から10月にかけて計測した原木ではこのような輝点は見られなかった。この原基は計測を始めた11月30日にはすでに形成されていた。
12月11日のMR画像は給水後の画像であり、吸水によって原木の含水量が増加し、信号強度が大きくなっている。下部の輝点の右側が大きくなっている。12月25日のMR画像では原基が大きくなり、幼子実体になったことが分かる。
12月25日に計測したR03植菌原木に発生した幼子実体の写真を
図11(d)の左側に示す。このMR画像では幼子実体が上側にある。この理由は、
図11(c)でのMRI計測で幼子実体が下向きに発生していることが分かり、下向きではその後の子実体の成長を阻害する(成長する空間がない)ため、原木の天地を反転させたためである。
図12(e)~(g)にそれぞれ12月29日、01月02日、01月04日に計測したMR画像を示す。幼子実体が子実体に成長していく様子が捉えられている。
図11、
図12に示した一連のシイタケ成長過程のMR画像から「原木に発生した2~5mmの輝点(白色の丸い明るい点。信号強度が他の領域よりも強い)はシイタケ原基であり、それが子実体に成長する」ことが分かった。
このことから、原木をMRIで計測し、得られたMR画像を基にして、輝点が植菌穴の中にある、または樹皮直下にあり、輝点の信号強度(原木よりも信号強度が強い)と寸法(2~5mm程度)および形状(丸い形状)から輝点がシイタケ原基であると判別することができると言える。(ただし、原基のすべてが子実体に成長する訳ではない。)
【0034】
(実施例2)
図13(a)に示す平面状コイルを使用して原木を計測した場合の実施例を以下に記す。
コイルを平面状にすることでコイルの寸法よりも大きな試料であってもNMR計測をすることができる。
図13(b)に平面状コイルと試料の関係を図示した。平面状コイルを原木表面に当てると、平面状コイル(内径D)の平面に垂直な方向(z軸方向)の2D/3程度の深さまでNMR信号を受信することができる。具体的には、内径Dが10 mmの平面状コイルであれば、z軸方向に約7 mmの深さまで計測できる。原木の樹皮(厚さが約3 mm)下に菌糸塊(直径が2~5mm)が形成されていれば、菌糸塊内の水のNMR信号を平面状コイルで検出することができる。
【0035】
平面状コイルの利点を以下に示す。
(1) 送受信コイル(円筒形や平面状コイル)よりも大きな試料を計測できる。コイル内に試料を挿入する必要がないため、試料の寸法が制限されない。大きな原木であっても計測することができる。
(2) 1秒程度の短時間でNMR信号を受信でき、信号強度の強弱から菌糸塊の有無を判断できる。
図13(b)右側図に示すように、平面状コイルの計測領域はコイル直下の半円(半径D/2)の内側で特に感度が高い。それよりも遠く離れると受信感度は低下するが、2D/3程度までは信号を受信できる。それよりも遠く離れると信号は微弱となり、ノイズと区別できなくなる。すなわち、コイルの寸法によって計測位置を制限することができる。勾配磁場コイルによって位置を特定するMRIとは異なり、平面状コイルが置かれた位置によって計測位置を特定するために、勾配磁場印加が不要であり、1秒という短時間で計測が完了する。平面状コイルの位置を移動させることで、原木表面全体を走査して、菌糸塊が形成されている場所を特定することができる。
【0036】
用いた平面状検出器を
図14に示す。平面状表面コイルとチップコンデンサーおよび可変容量コンデンサーによって共振回路を構成している。平面状コイルは三回巻きとし、その内径は10mmである。共振周波数は46.57 MHzである。
【0037】
計測対象の原木は石川県産のコナラである。平成2年3月に菌興115号を種駒として原木に植菌した。この原木を「R02植菌原木」と呼ぶ。
図16(a)にR02植菌原木の写真を示す。原木の直径は約110 mmであった。R02植菌原木は露地で栽培された。10月下旬から気温が下がり、12月09日に幼子実体が発生していることが確認された。原木は宅配便で慶大に輸送された。慶大で12月10日~12月20日までの11日間に渡り、MRI計測が実施された。12月20日に一個のシイタケを収穫した。シイタケの質量は51.80 gだった。
シイタケを収穫後の12月23日に原木を浸水させて24時間の給水をした。原木(1560 g、長さ245mm)は191 gの水を吸水した。原木は恒温槽(6℃。加湿器あり)に入れて保管した。植菌穴に番号#1~3を付けた。MRI計測によって植菌穴#1と2には菌糸塊が発生していることが分かった。
【0038】
円筒形検出器を用いてR02植菌原木のMR画像を取得し、植菌穴の中に原基が形成されているかどうかを確認した。植菌穴は#1~3までの3個を対象とする。
図15(a)から(c)に示した写真のように、これらの植菌穴を塞いでいる発泡スチロール栓は埋め込まれたままで隆起しておらず、外観からは菌糸塊の有無は識別できない。
図15(a)から(c)に植菌穴#1から3までのMR画像を示した。このMR画像から植菌穴#1と2には輝点があり、植菌穴の中に原基が形成されていることが分かった。一方、植菌穴#3には輝点がなく、原基が形成されていないことが分かった。
【0039】
平面状検出器をR02植菌原木に接触させた様子を
図16(b)に示す。植菌穴#1の発泡スチロール栓の上に平面状コイルが押し付けられている。これにより、平面状コイルの計測領域内に発泡スチロール栓の下に形成されている菌糸塊が入るようにした。
図16(c)に示すように、この原木と平面状検出器を超電導磁石内に入れて静磁場を印加した。
以下に平面状検出器を用いてNMR信号を取得した際のシーケンスを示す。
(a)スピンエコーシーケンス
・90度励起パルス幅:10μs、波形:矩形、180度励起パルス幅:20μs、波形と振幅は90度と同じ。
・エコー時間TEは10ms
・エコー信号の取得時間間隔DW=10μs、バンドパスフィルタLPF=20kHz
・サンプリング点数:2048点
・繰り返し励起パルス間隔TR=1000ms、積算回数は4回
(b) FIDシーケンス
・90度励起パルス幅:10μs、波形:矩形
・エコー信号の取得時間間隔DW=10μs、バンドパスフィルタLPF=20kHz
・サンプリング点数:2048点
・繰り返し励起パルス間隔TR=1000ms、積算回数は4回
【0040】
平面状検出器を植菌穴#1から3に接触させてNMR信号を計測した。その結果を以下に示す。
植菌穴#1で取得されたスピンエコー信号とFID信号を
図17(a)、(b)に示す。図中の赤線と青線は直交検波で得られた実部と虚部の波形であり、緑線は信号強度(実部と虚部の二乗和の平方根)を示している。この図から明確なNMR信号が得られていることが分かる。この時のエコー信号のピーク強度(緑線)は2.3であった。(以降のNMR信号では励起パルス強度やグラフのスケールなどはすべて同条件で計測・表示されている) 90度励起パルス直後のFID信号の信号強度は2.3であった。
植菌穴#2で取得されたスピンエコー信号とFID信号を
図18(a)、(b)に示す。エコー信号とFID信号は植菌穴#1に比べて低下している。この時のエコー信号のピーク強度(緑線)は1.9であった。90度励起パルス直後のFID信号の信号強度は1.5であった。この信号強度の低下は
図15(b)のMR画像で示されている植菌穴#2の中の原基が、植菌穴#1よりも小さく、輝度が小さいことに対応している。
植菌穴#3で取得されたスピンエコー信号とFID信号を
図19(a)、(b)に示す。エコー信号とFID信号は植菌穴#1と2に比べて低下している。この時のエコー信号のピーク強度(緑線)は0.8であった。90度励起パルス直後のFID信号の信号強度は1.5であった。この信号強度の低下は
図15(c)のMR画像で示されている植菌穴#3の中には原基がないことに対応している。ただし、FIDの信号強度はスピンエコー信号に比べてあまり低下しなかった。
樹皮に平面状検出器を接触させて取得されたスピンエコー信号とFID信号を
図20(a)、(b)に示す。エコー信号とFID信号は植菌穴#1~3に比べて低下している。この時のエコー信号のピーク強度(緑線)は0.25であった。90度励起パルス直後のFID信号の信号強度は1.1であった。この信号強度の低下は
図15(a)から(c)までのMR画像で示されている樹皮の輝度が植菌穴#1~3の輝度よりも小さいことに対応している。
【0041】
図21(a)に平面状検出器を用いて原木の植菌穴#1~3および樹皮で取得されたNMR信号強度の比較を示した。原基(または菌糸塊)が形成されている植菌穴#1と2のエコー信号強度は、原基ができていない植菌穴#3と樹皮よりも2倍以上大きいことが分かった。これより、信号強度の大小によって植菌穴に原基(または菌糸塊)が発生しているかどうかを判断することができる。
一方、
図21(b)にはFID信号の比較も示した。FID信号強度は植菌穴の原基(または菌糸塊)があれば大きいが、原基が無い場合に比べてもスピンエコー信号ほどの差はない。すなわち、FID信号は原基の有無に対して鈍感であると言える。この結果から、FID信号よりもエコー信号を用いて原基(または菌糸塊)の有無を判断する方が確度が高いと言える。
【0042】
(実施例3)
図10に示す円筒形検出器を使用して菌床を計測した場合の実施例を以下に示す。
計測対象である菌床の培地は広葉樹おが粉、米ぬか、ふすまを混合し、培地の含水率を62%に調整した。培地質量は500gとし、通気口のある培養袋に入れた。培地は蒸気滅菌(121℃、2時間)を行った。10月29日に菌床上部からシイタケ種菌(北研607号)を植菌した。菌床の寸法は高さ110 mm、幅100 mm、奥行き100 mmであった。菌床をMRI計測用ホルダーに入れて培養室(21℃、湿度75%)内で培養した。菌床表面は全体が褐色化し、表面には凹凸が多数あるために、原基がどこで発生しているかは目視では識別できない。原基がある程度の大きさに成長して芽切(褐色表面がひび割れて、内部の白い菌糸が見える状態)が生じて、初めて菌床表面に原基が発生したことが分かる。
植菌から96~99日が経過した菌床の外観写真を
図22(a)から(c)に示した。計測対象としているシイタケはオレンジ色の矢印で示したシイタケである。日数の経過とともに大きく成長していく様子が分かる。図(c)の植菌から99日後のシイタケの寸法は高さ30mm、傘の直径が約25mmである。
【0043】
植菌から93~99日が経過した菌床のMR画像を
図23(a)から(e)に示した。図(e)に示したMR画像で菌床の右側面上部にシイタケが発生していることが分かる。このシイタケの発生位置を図(a)にさかのぼって見ると、何もないことが分かる。図(b)では輝点が生じ、それが図(c)では大きくなり、図(d)では幼子実体になっていることが分かる。これより、21℃の恒温槽内で栽培された菌床の場合、MR画像では菌糸塊(原基)は数mm直径の輝点として画像化されることが分かった。輝点の発生から子実体になるまでの日数は3日間ほどであることも分かった。
この観察画像から「植菌から30~50日後に菌床表面に輝点として見える菌糸塊が多数発生するが、その後、菌糸塊の信号強度は落ちる。90日から110日の間に再び菌糸塊が発生し、それが原基となって子実体が発生する」ことが分かった。
これより、原木と同様に、MR画像中に「菌床表面に発生した信号強度が強く、直径が2~5mm程度である球形」が画像化されれば、それが菌糸塊(原基)である、ということができる。
【0044】
(実施例4)
図13(a)に示す平面状コイルを使用して菌床を計測した場合の実施例を以下に記す。
慶大培養菌床#8(02月01日に計測。植菌から95日経過)を計測対象とした。菌床内の原基を認識するためにMR計測を行った。
図24に計測されたMR画像を示す。縦切り断面および横切り断面のどちらにも輝点がある。この輝点が原基である。この位置に対応した外観写真が
図25(a)に示されており、図中のオレンジ色の円内に輝点がある。
図25(b)に示すように、この輝点に平面状コイルを接触させ、菌床と平面状検出器を超電導磁石内に入れて、NMR信号を取得した。NMR信号はスピンエコー信号(TE = 10 ms)とFID信号を取得した。TRは1000ms、信号は4回積算した。
【0045】
図26に平面状検出器を用いて菌糸塊(原基)上で取得されたNMR信号を示す。上図(a)からエコー信号強度は2.0であり、下図(b)からFID信号強度は2.9であることが分かる。
一方、
図27には平面状検出器を用いて菌糸塊(原基)がない場所で取得されたNMR信号を示す。上図(a)からエコー信号強度は0.9であり、下図(b)からFID信号強度は2.3であることが分かる。
図26、27での計測結果の信号強度を
図28の棒グラフにまとめた。原基の有無で信号強度を比較すると、原基がある場合のエコー信号の信号強度は原基がない場合に比べて2倍以上大きいことが分かる。また、両者の比はFID信号よりもエコー信号の方が大きいことが分かる。これより、エコー信号またはFID信号を取得することで原基の有無が判断できる。
【0046】
この発明は、八島武志氏(石川県農林総合研究センター)、吉住真理子氏(徳島県立農林水産総合技術支援センター)、阿部正範氏(徳島県立農林水産総合技術支援センター)から多大なる協力を得て行われたため、ここに氏らの名前を記す。