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特開2023-122684試験体の腐食量の測定方法及び試験体の腐食量の測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122684
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】試験体の腐食量の測定方法及び試験体の腐食量の測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2045 20190101AFI20230829BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N33/2045 100
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026329
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 林太
【テーマコード(参考)】
2G001
2G055
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001HA14
2G001LA02
2G001PA12
2G055AA01
2G055BA12
2G055FA04
(57)【要約】
【課題】試験体の腐食を非破壊的に測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定することができる試験体の腐食量の測定方法を提供する。
【解決手段】試験体の腐食量の測定方法であって、測定対象の試験体について、コンピュータ断層撮影法で再構成処理により生成された複数の平行な断面像のそれぞれにおいて腐食領域を選定し、前記選定した腐食領域を、前記複数の平行な断面像について積算することで前記試験体の腐食量を測定する、試験体の腐食量の測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体の腐食量の測定方法であって、
測定対象の試験体について、コンピュータ断層撮影法で再構成処理により生成された複数の平行な断面像のそれぞれにおいて腐食領域を選定し、
前記選定した腐食領域を、前記複数の平行な断面像について積算することで前記試験体の腐食量を測定する、試験体の腐食量の測定方法。
【請求項2】
前記コンピュータ断層撮影法が、X線、中性子線、放射光のいずれかを使用したコンピュータ断層撮影法である、請求項1に記載の試験体の腐食量の測定方法。
【請求項3】
前記コンピュータ断層撮影法が、管電圧が50kV以上300kV以下のX線を用いたX線コンピュータ断層撮影法である、請求項1または2に記載の試験体の腐食量の測定方法。
【請求項4】
前記試験体が、2枚以上の金属材料の板材を板面内で接合した合わせ試験体である、請求項1~3のいずれかに記載の試験体の腐食量の測定方法。
【請求項5】
前記腐食量が、腐食孔の深さ、または、腐食体積である、請求項1~4のいずれかに記載の試験体の腐食量の測定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の腐食量の測定方法に用いる試験体の腐食量の測定装置であって、
測定対象となる試験体を設置する回転台座と、前記試験体に向けてX線、中性子線、放射光のいずれかからなる放射線を照射する放射線発生部と、前記試験体を透過した前記放射線を検出して放射線透過信号を生成する検出部と、前記放射線透過信号を取り込んで放射線透過像を生成し、かつ前記回転台座を回転させることで当該回転台座に設置された前記試験体を回転させながら得た放射線透過像を積算することにより三次元再構成像を生成し画像解析を行う解析部を備える、試験体の腐食量の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種試験体の測定方法に関し、特に金属材料からなる試験体の腐食量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季に融雪塩が道路に散布される地域においては、自動車の穴あき腐食に対する対策が重要な課題になっている。穴あき腐食は、鋼板、アルミニウム合金板をはじめとする板状の金属材料同士をスポット溶接やかしめ等により接合したときに形成される、板の合わせ部(重なり部)内部に発生する腐食である。合わせ部では、その内部(内側面)に化成処理や電着塗装が行き届かず、さらに水分や塩分が滞留しやすいことで、合わせ部内部以外の一般面の腐食よりも腐食速度が大きくなる場合がある。さらに、一般面の腐食と異なり、合わせ部内部では外観からの腐食の程度を把握することができず、管理が困難である。そのため、合わせ部における穴あき腐食に至るまでの寿命は、自動車構造材料の板厚を設定する上で重要な因子である。
【0003】
使用環境における穴あき腐食に至るまでの寿命の実態を把握する上で本質的に重要となるのは、対象とする金属材料の穴あき腐食速度である。腐食速度は、腐食量の微分値であり、腐食量の経時変化を測定し、その腐食量カーブから回帰式により算出される。つまり、ある時点での腐食速度を測定するためには、初めに多くの試験体(試験片)を暴露し、一定期間ごとにそれらの試験片を順次回収して当該試験片の初期状態からの腐食量を求めた過去の一連のデータが必要となる。
【0004】
一般に、試験体の腐食量は、腐食により当該試験体に生成した腐食生成物を除去したうえで、マイクロメータなどを用いた板厚減少量の測定、あるいは重量法による測定により定量的に評価される。前記評価の際に試験体が破壊されることから、同一の試験体において腐食量を経時で追跡することは不可能である。そのため、腐食量の経時変化のデータを採取する場合には、腐食速度を測定するために多数の試験体を準備しておく必要がある。多数の試験体の準備や、それらのデータの採取と管理、解析には多大な労力を要することになる。
【0005】
無塗装で使用される耐候性鋼材の一般面における腐食に対しては、腐食速度と相関があると考えられている錆の状態を判定し、腐食速度を簡便に推定する各種の方法が提案されている。例えば、錆の外観からの判定基準として、非特許文献1に示されている5段階評価基準がある。この基準は、錆外観の粗度、剥離錆の有無から評点をつけて評価するものである。すなわち、外観上で、繊密で密着性のある錆が形成されていれば、腐食速度は十分低減されているものと判定し、維持管理上問題がないとするものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XV)」、建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の5段階評価基準による錆の外観判定では、例えば目視できない試験体の合わせ部内部で生じる腐食に対して適用することができない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、試験体の腐食を非破壊的に測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定することができる試験体の腐食量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意研究を行い、環境に曝露され、腐食を生じた試験体の腐食量を、コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography(CT))により非破壊的に測定可能であることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]試験体の腐食量の測定方法であって、
測定対象の試験体について、コンピュータ断層撮影法で再構成処理により生成された複数の平行な断面像のそれぞれにおいて腐食領域を選定し、
前記選定した腐食領域を、前記複数の平行な断面像について積算することで前記試験体の腐食量を測定する、試験体の腐食量の測定方法。
[2]前記コンピュータ断層撮影法が、X線、中性子線、放射光のいずれかを使用したコンピュータ断層撮影法である、[1]に記載の試験体の腐食量の測定方法。
[3]前記コンピュータ断層撮影法が、管電圧が50kV以上300kV以下のX線を用いたX線コンピュータ断層撮影法である、[1]または[2]に記載の試験体の腐食量の測定方法。
[4]前記試験体が、2枚以上の金属材料の板材を板面内で接合した合わせ試験体である、[1]~[3]のいずれかに記載の試験体の腐食量の測定方法。
[5]前記腐食量が、腐食孔の深さ、または、腐食体積である、[1]~[4]のいずれかに記載の試験体の腐食量の測定方法。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の腐食量の測定方法に用いる試験体の腐食量の測定装置であって、
測定対象となる試験体を設置する回転台座と、前記試験体に向けてX線、中性子線、放射光のいずれかからなる放射線を照射する放射線発生部と、前記試験体を透過した前記放射線を検出して放射線透過信号を生成する検出部と、前記放射線透過信号を取り込んで放射線透過像を生成し、かつ前記回転台座を回転させることで当該回転台座に設置された前記試験体を回転させながら得た放射線透過像を積算することにより三次元再構成像を生成し画像解析を行う解析部を備える、試験体の腐食量の測定装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試験体の腐食を非破壊的に測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定することができる試験体の測定方法を提供できる。
【0012】
本発明によれば、試験体の表面や内部で生じる腐食を非破壊的に定量評価することができ、同一の試験体における腐食量の追跡評価が可能となる。本発明によれば、評価試験体の点数を削減することができ、さらに試験体間の測定ばらつきの影響を低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験体の一例を示す図である。
図2】SAE J2334複合サイクル腐食試験の条件を示す図である。
図3】試験体(接合試験片)をX線CTにより測定し、再構成された板厚内各位置における板面内の断面像から腐食領域を選定した図である。
図4】同一の試験体(接合試験片)を用いて複合サイクル腐食試験を行い、所定サイクル毎に前記試験体をX線CTにより測定したときの前記試験体の合わせ面の腐食状態を示す図である。
図5】実施例で測定された、同一の試験体の腐食量の、腐食試験サイクル数による変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施態様を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0015】
本発明では、測定対象の試験体について、コンピュータ断層撮影法で再構成処理により生成された複数の平行な断面像のそれぞれにおいて腐食領域を選定し、前記選定した腐食領域を、前記複数の平行な断面像について積算することで前記試験体の腐食量を測定する。
【0016】
はじめに、測定対象の試験体について説明する。
【0017】
(試験体)
測定対象の試験体の材質としては、金属材料が好ましい。金属材料としては、普通鋼などの鋼(鉄合金)、ステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金をはじめとする、任意の金属材料が挙げられる。また、本発明では、同種または異種の材料が接合された合わせ部を有する合わせ試験体を測定対象とすることができる。本発明は、特に、2枚以上の板材が板面内で接合(板厚方向に積み重ねられて接合)されることで合わせ部(重なり部)が形成された合わせ試験体を測定対象とする場合に有用である。
【0018】
試験体の合わせ部内部における腐食(穴あき腐食)を評価する上では、同種の金属材料からなる同種合わせ試験体、または異なる金属種の金属材料からなる異種合わせ試験体を用いることができる。さらに、炭素繊維強化プラスチックなどのプラスチック材料や複合材料と金属材料からなる異種合わせ試験体を用いることもできる。このような各種合わせ試験体を測定対象とすることで、これらの材料と接触した金属材料の腐食(穴あき腐食状態)を測定することも可能である。さらに、これらの試験体に塗装を施した試験体を測定対象として用いることも可能である。
【0019】
試験体の合わせ部の形状や面積、クリアランスなどは限定されないが、実製品で形成されうる合わせ部の形状を模擬することが望ましい。合わせ部の形成方法は限定されないが、これも実製品と同様の手法をとることが好ましい。前記手法としては、抵抗スポット溶接、アーク溶接、ろう付けなどの溶融接合のほか、メカニカルクリンチ(かしめ)、摩擦攪拌接合(FSW)、ボルト締結などの各種機械接合等を用いることができる。
【0020】
合わせ試験体を測定対象として、X線を使用したX線コンピュータ断層撮影法(X線CT)により、試験体の合わせ部内部の腐食量を測定する場合、後述する放射線透過像および三次元再構成像で、腐食部と未腐食部(健全部)の明瞭なコントラストを得、腐食量を精度よく測定するためには、X線管電圧50kV以上のX線を用いることが好ましい。前記X線管電圧は、70kV以上がより好ましく、100kV以上がさらに好ましい。前記X線管電圧の上限は特に限定されないが、一例としては、前記X線管電圧は、300kV以下が好ましい。また、鮮明な像を得るために、X線管電流50μA以上10mA以下のX線を用いることが好ましい。試験体としては、鉄合金からなる板材を板面内で接合した合わせ試験体を用い、前記合わせ試験体の板厚(前記板材の板厚の合計)が10mm以下であることが好ましい。前記合わせ試験体の板厚は4mm以下がより好ましく、2mm以下がさらに好ましい。また、前記合わせ試験体を平面視した場合の合わせ部の短辺が70mm以下であることが好ましく、前記合わせ部の短辺が40mm以下であることがより好ましい。かかる合わせ試験体を用いることで、後述のように試験体を回転(自転)させながら撮影した場合に、回転する試験体の合わせ部に対してX線を十分に透過させることができ、合わせ部内部の腐食(穴あき腐食)を精度よく測定しやすくなる。
【0021】
(コンピュータ断層撮影法)
本発明では、コンピュータ断層撮影法(CT)により試験体の腐食を非破壊で測定する。コンピュータ断層撮影法は、測定対象とする試験体を透過可能な放射線を使用するものであれば種類は問わない。例えば、コンピュータ断層撮影法としては、X線、中性子線、放射光を使用するものが挙げられる。装置の維持管理や測定用コストを考慮すると、X線を使用したX線CTが好ましく、汎用的な産業用X線CTを用いることが最も好ましい。
【0022】
試験体の腐食量を測定する測定装置として用いるコンピュータ断層撮影装置(CT装置)は、測定対象の試験体を設置する台座と、前記試験体に向けて放射線を照射する放射線発生部と、前記試験体を透過した前記放射線を検出して放射線透過信号を生成する検出部と、前記検出部で検出した放射線透過信号を取り込んで画像解析を行う解析部を備える。前記台座は、回転(自転)可能な台座(回転台座)であり、前記台座が回転することで、前記台座に設置された試験体は、前記台座の回転軸を軸として回転(自転)する。前記放射線発生部は、当該放射線発生部から照射される放射線の光軸と、前記台座の回転軸とが垂直となるように配置されている。また、前記解析部は、コンピュータで構成されており、前記検出部で検出した放射線透過信号を取り込んで放射線透過像を生成する。さらに、前記解析部は、前記台座(試験体)を回転させながら撮影して得た放射線透過像を積算することにより三次元再構成像を生成し、そして、この三次元再構成像をもとに断面像を生成する(再構成処理)。前記解析部は、当該解析部に含まれるコンピュータプログラムないしソフトウェアにより、断面像として、任意の方向の断面像を生成することが可能であり、また、任意のピッチ(生成させる断面像間の間隔)で複数の断面像を生成することが可能である。例えば、試験体が板材であれば、板材の板厚方向に垂直となる複数の平行な断面像を生成することもできるし、板材の長さ方向または幅方向に垂直となる複数の平行な断面像を生成することもできる。
【0023】
X線を使用したX線コンピュータ断層撮影法(X線CT)を例にとると、X線の吸収計数は原子番号に比例し増大する。すなわち、重元素ほどX線を多く吸収する。また、試験体中に電子密度が異なる領域がある場合、電子密度が高い領域ほどX線を多く吸収する。よって、試験体に腐食が生じて、試験体に酸化鉄等の腐食生成物や空隙が生じると、その領域は未腐食部(健全部)よりも疎となるため、X線の吸収が未腐食部よりも低くなる。このため、腐食が生じた試験体について、X線CTで、再構成処理により、生成した三次元再構成像をもとに断面像を生成すると、前記断面像では、試験体の未腐食部(健全部)と腐食部のコントラストが得られる。本発明では、試験体について、CTで再構成処理により生成された断面像において、未腐食部(健全部)とコントラストが異なる領域を腐食部(腐食領域)として選定する。
【0024】
本発明では、再構成処理により生成された複数の平行な断面像のそれぞれにおいて、未腐食部(健全部)とコントラストが異なる領域を腐食領域として選定する。この選定は、例えば、目視により行ってもよいし、画像処理ソフトウェア等により行ってもよい。そして、前記選定した腐食領域を、前記複数の平行な断面像について積算(前記腐食領域を前記複数の平行な断面像の垂直方向に積算)したものを試験体の腐食量とする。
【0025】
前記腐食量は、例えば、腐食(腐食孔)の深さや、腐食体積として測定(算出)できる。また、腐食試験前の試験体の厚さ(板厚)から、測定した腐食孔の深さを差し引くことで、試験体残厚(板残厚)として腐食量を求めることもできる。
【0026】
なお、前記複数の平行な断面像の数は、求める測定値の精度、解析の負荷等に応じて、適宜設定できる。例えば、解析の負荷は大きくなるが、ピッチを小さくし、より多くの断面像について腐食領域を積算して腐食量を測定するようにすれば、実測の腐食量の数値により近づけることができる。
【0027】
また、本実施形態では、再構成処理で生成された断面像において腐食領域を選定して腐食量を測定したが、これとは逆に、前記断面像において未腐食部(健全部)の領域を選定し、これを複数の平行な断面像について積算することで未腐食部の領域を測定して、これを腐食試験前の試験体の全体から差し引くことで、腐食量を求めることもできる。
【0028】
また、X線CTを用いる場合、測定対象に応じてX線CT装置の管電圧及び管電流を適宜調整し、放射線透過像および三次元再構成像上で、腐食部と未腐食部(健全部)のコントラストを調整することが望ましい。
【0029】
例えば、板厚0.2mm以上5mm以下の鋼板を板面内で2枚重ねた合わせ試験体であって、前記試験体を平面視した場合の合わせ部の短辺の長さが70mm以下の試験体では、X線CTの管電圧を100kV以上300kV以下とすることで、明瞭なコントラストの三次元再構成像を得ることができる。前記板厚が0.2mm以上であると、鋼板の合わせ面と表面(外表面)の腐食の判別がし易くなる。前記板厚が5mm以下及び/又は前記合わせ部の短辺の長さが70mm以下であると、X線が透過しやすくなり鮮明な像が得られやすくなる。このときの管電流は50μA以上が好ましく、3mA以上がより好ましい。また、撮像視野の面積の大小は、三次元再構成像の分解能に影響することから、要求する測定精度に応じて設定することが好ましい。装置の機種にも依存するが、撮像視野の直径は、要求する分解能の概ね1000倍程度の長さとすることで、目標とする精度での測定が可能となる。再構成処理のための計算法は限定されないが、例えば一般的に用いられているフィルター補正逆投影法を用いることができる。
【0030】
上述した本発明の試験体の腐食量の測定方法によれば、試験体の腐食量を非破壊的に測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定することができる。
【0031】
従来、試験体の腐食量を測定するためには、腐食により生成した腐食生成物を試験体から除去(錆落とし)したうえで、マイクロメータにより試験体の板厚減少量を測定したり、除去した腐食生成物量の重量を測定する操作が必要であった。さらに、試験体が合わせ試験体の場合、合わせ部内部の腐食量(穴あき腐食)を測定するためには、合わせ試験体を分解したうえで、上記操作をする必要があった。そのため、同一の試験体を用いた腐食量の測定は一回に限られており、同一の試験体を用いて腐食量を経時で追跡することは不可能であった。そして、腐食量の経時変化を評価する場合には、多数の試験体を準備しておく必要があり、多数の試験体を評価に用いることで、試験体間での測定ばらつきも生じていた。さらに試験体の材料の種類等によっては、腐食がいつ発生するかを予測することは困難であり、特に試験体が合わせ試験体の場合には、合わせ部内部で腐食が発生しているか否かを確認するために、試験体を分解して都度確認する必要があり、より多くの試験体を準備しておく必要あった。
【0032】
本発明によれば、試験体の腐食量を非破壊で測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定できるため、あえて上記のように多数の試験体を準備しておく必要がない。本発明によれば、同一の試験体について、試験体の表面や内部で生じる腐食を非破壊的に定量評価することができ、同一の試験体における腐食量の追跡評価が可能となる。本発明によれば、評価試験体の点数を削減することができ、さらに試験体間の測定ばらつきの影響を低減できる。また、腐食の程度や、腐食が発生するタイミング、腐食がどのように進行していくか(腐食速度や腐食が進行する方向)等も非破壊で評価できる。特に本発明を合わせ試験体の測定に適用した場合には、合わせ試験体を分解して腐食量を測定する工程等が不要となるため、本発明の効果をより享受できる。
【実施例0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0034】
(試験体)
本実施例では、溶接によって形成された鉄鋼材料の隙間部の腐食状態の経時変化を観測する目的で、合わせ試験体として、図1に示す接合試験片を用いた。図1に示すように、60mm×80mm×1mmサイズの鋼板(板1)と、40mm×60mm×1mmサイズ鋼板(板2)を、板厚方向に重ね合わせて、2か所で抵抗スポット溶接した接合試験片を作製した。これにリン酸亜鉛化成処理と電着塗装を施し、表面が塗装され、合わせ部内部(隙間部)は塗料の付き廻らない、すなわち合わせ部内部(隙間部)は塗装されていない接合試験片を作製し、この接合試験片を測定対象とした。
【0035】
(腐食試験)
前記接合試験片を、SAE J2334(5days)に規定され、手動での塩水浸漬と乾湿繰り返しからなる乾湿繰り返し複合サイクル腐食試験に供した(図2)。そして、腐食試験開始前と、腐食試験中15サイクル毎にX線CT測定を行った。
【0036】
(X線CT撮影)
X線CT装置として、アールエフ株式会社製工業用X線CT装置を用いた。このX線CT装置は、上述したCT装置と同様の構成を有しており、放射線発生部として、X線管を有している。また、試験体を設置する台座は、当該台座の試験体設置面が水平面と平行である。
【0037】
上記X線CT装置を用い、上記試験体(接合試験片)の鋼板面がX線の光軸に対し垂直となるように(図1に示す板1と板2の長辺が鉛直方向となるように)、樹脂製のジグを用い、上記接合試験片を台座上で自立させた。そして、管電圧:80kV、管電流:3mAの条件で撮影を行った。解析部では、フィルター補正逆投影法により三次元像を再構成し、さらに板厚方向に100μmピッチで板面内の断面像を生成して、モニターに出力した。
【0038】
図3図4に、上記断面像の例を示す。図3は、腐食試験中60サイクル終了時点の接合試験片の断面像である。図3では、接合試験片の合わせ面を0μmの位置として、接合試験片の板2の板厚方向に、前記合わせ面と平行に、200μm、400μm、600μm、800μmの各位置で生成した断面像を示している。また、図4は、同一の試験体(接合試験片)について、腐食試験15サイクル毎に生成した接合試験片の合わせ面(0μm位置)の断面像を示している。
【0039】
図3において、板厚内各位置における板面内の断面像より、未腐食部(健全部)とコントラストが異なる領域を腐食領域として目視で選定し、各位置における面内の腐食面積を求めた。さらに、前記腐食面積を板厚方向に積算し、これを接合試験片の腐食量(腐食体積)とした。
【0040】
上記と同様に、同一の試験体(接合試験片)について、腐食試験15サイクル毎に測定した腐食量(腐食体積)と腐食試験サイクル数の関係を図5に示す。
【0041】
このように、本発明によれば、試験体の腐食を非破壊的に測定でき、かつ、同一の試験体を用いて腐食量を経時で測定することができる。
【0042】
なお、今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の試験体の腐食量の測定方法および試験体の腐食量の測定装置は、試験体の表面の腐食、試験体内部の穴あき腐食を非破壊的に定量評価することができ、同一の試験体における腐食量の追跡評価が可能である。本発明によれば、評価試験体の点数を削減し、試験体間の測定ばらつきの影響を低減することも可能となることから、各種材料開発はもとより、腐食環境の厳しさの評価などを行う上でも有用である。
図1
図2
図3
図4
図5