(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122691
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】サーボモータ、およびその磁束漏れ防止構造
(51)【国際特許分類】
H02K 11/028 20160101AFI20230829BHJP
H02K 1/276 20220101ALI20230829BHJP
【FI】
H02K11/028
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026338
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 広貴
【テーマコード(参考)】
5H611
5H622
【Fターム(参考)】
5H611AA01
5H611AA03
5H611BB01
5H611PP05
5H611QQ03
5H611RR02
5H611UA01
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA13
5H622PP10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ホールICを用いたサーボモータにおいて、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合の磁束漏れ防止を可能とする技術を提供する。
【解決手段】磁束漏れ防止構造は、回転センサとしてホールICを備えたサーボモータにおけるマグネット磁束漏れを防止する構造であって、ロータ1上の周方向に隣接するマグネット2間に空隙5がある構成とする。図ではマグネット2が露出しているが、この上に空隙の無い板が載せられてロータが完成する。空隙5は孔部とする他に、切削部としてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転センサとしてホールICを備えたサーボモータにおけるマグネット磁束漏れを防止する構造であって、ロータ上の周方向に隣接するマグネット間に空隙があることを特徴とする、サーボモータの磁束漏れ防止構造。
【請求項2】
前記空隙は前記ロータのロータコアに軸方向に設けられた孔部であることを特徴とする、請求項1に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
【請求項3】
前記隣接するマグネットの周方向軸線間を直線で結んだ場合に、該直線(以下「境界線」という)よりも外側に前記孔部の少なくとも一部が位置するよう該孔部が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
【請求項4】
前記空隙は前記ロータのロータコア側面に設けられた切削部であることを特徴とする、請求項1に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
【請求項5】
前記ロータコアは積層鋼板により形成されていることを特徴とする、請求項2、3、4のいずれかに記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
【請求項6】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の磁束漏れ防止構造を備えている、サーボモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーボモータ、およびその磁束漏れ防止構造に係り、特にホールICを用いたサーボモータにおいて、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合における磁束漏れ防止技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボモータの安定的な制御を保持するためには、磁束漏れを防止することが重要である。磁束漏れ防止技術はについては従来、特許出願等も多くなされており、たとえば後掲特許文献1には、磁束漏れを防止しつつリラクタンストルクを適切に調整できるモータの回転子として、回転子鉄心の内部で回転軸方向に貫通し、かつその周方向に複数形成された空孔と、空孔内にそれぞれ1つ以上挿入された永久磁石とを備え、永久磁石ごとに構成される複数の磁極部を有する構成が開示されている。さらに、回転子鉄心はその周方向に隣り合いかつ互いに極性の異なる磁極部間において、永久磁石の周方向端部の一部が露出するように設けられた切り欠き部と、回転子鉄心の中央部から径方向外方に延びる延出部とを備えた構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2013/065275「モータの回転子およびそれを備えたモータ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホールICを回転センサとしたサーボモータでは、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい(少ない)場合、隣接するマグネット間の距離が長くなり、磁束漏れが生じやすい。この磁束漏れにより、ステータに設置されたホールICが誤作動することがあり、モータの制御が不安定となるという問題がある。
【0005】
ホールICに磁束が入り過ぎないようにするためには、ホールICとコア表面との間の距離を広くする方法が考えられる。しかし、コア表面の形状が円筒でない場合には、回転バランスの乱れや回転時の騒音の増大が懸念され、好ましくない。また、ある程度の磁束が無ければホールICは作動せず、これが大き過ぎても小さ過ぎても、制御は安定しない。したがって、マグネットは長い方がよいとは言え、それにも限度がある。
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点をなくし、ホールICを用いたサーボモータにおいて、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合の磁束漏れ防止を可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は上記課題について検討した結果、マグネットを挿入するロータコアに、適切な空隙を設けることによって、モータ性能として必要なマグネット磁束を確保しつつ、ホールICに誤作動を生じさせる漏れ磁束を低減させることが可能であることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0008】
〔1〕 回転センサとしてホールICを備えたサーボモータにおけるマグネット磁束漏れを防止する構造であって、ロータ上の周方向に隣接するマグネット間に空隙があることを特徴とする、サーボモータの磁束漏れ防止構造。
〔2〕 前記空隙は前記ロータのロータコアに軸方向に設けられた孔部であることを特徴とする、〔1〕に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
〔3〕 前記隣接するマグネットの周方向軸線間を直線で結んだ場合に、該直線(以下「境界線」という)よりも外側に前記孔部の少なくとも一部が位置するよう該孔部が形成されていることを特徴とする、、〔2〕に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
〔4〕 前記空隙は前記ロータのロータコア側面に設けられた切削部であることを特徴とする、〔1〕に記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
〔5〕 前記ロータコアは積層鋼板により形成されていることを特徴とする、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載のサーボモータの磁束漏れ防止構造。
〔6〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の磁束漏れ防止構造を備えている、サーボモータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のサーボモータ、およびその磁束漏れ防止構造は上述のように構成されるため、これらによれば、ホールICを用いたサーボモータにおいて、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合であっても、モータ性能として必要なマグネット磁束を確保しつつ、ホールICに誤作動を生じさせる漏れ磁束を低減させることができる。また、対策としてホールIC―コア表面間の距離を広くする必要もないため、回転バランスの乱れや回転時の騒音の増大も発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の構成を示す、ロータの斜視である。
【
図3】
図1に示す構成において、マグネット収容前のロータコアを示す平面図である。
【
図4】本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造に係る空隙の配設例を説明する模式図である。
【
図5】空隙として孔部を用いる本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の孔部の構成例を示す要部平面図である。
【
図6】空隙として切削部を用いる本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の構成を示す要部平面図である。(以下の各図は実施例説明に係る。)
【
図7】モータ制御不安定の問題が発生したサーボモータのロータコアの平面図である。
【
図8】
図7に示したサーボモータにおける動作の磁気解析結果を示すグラフであり、ホールIC部分の磁束密度を示す。
【
図9】ロータコアへの追加工前後におけるサーボモータ動作の磁気解析結果を示すグラフであり、ホールIC部分の磁束密度を示す。
【
図10】
図9中にて円で囲んだ要部を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の構成を示す、ロータの斜視である。また、
図2は
図1に示す構成に係る平面図、
図3はマグネット収容前のロータコアを示す平面図である。これらに示すように本磁束漏れ防止構造は、回転センサとしてホールICを備えたサーボモータにおけるマグネット磁束漏れを防止する構造であって、ロータ上の周方向に隣接するマグネット2、2間に空隙5があることを、基本的な構成とする。なお、マグネット2はマグネット収容部3内に収容されている。また、図ではマグネット2、2、・・・を露出させて示しているが、この上に空隙の無い板が載せられて、ロータとして完成する。
【0012】
かかる構成により本磁束漏れ防止構造によれば、隣接する各マグネット2―2、2-2、・・・間(マグネット収容部3―3、3-3、・・・間)に空隙5、5、・・・があることにより、マグネット磁束の不要な漏れが防止される。つまり、マグネット2―2、2-2、・・・間の空隙5、5、・・・により、ホールICとロータコア1との間の空間がより広げられるため、ホールICを通る磁束が低減、磁束漏れ防止がなされる。
【0013】
各図に示す通り、空隙5はロータのロータコア1に、軸方向に設けられた孔部とすることができる。空隙5の具体的形態はこれに限定されないが、孔部は積層鋼板において均一仕様を形成しやすく、製造工程上有利である。
【0014】
図4は、本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造に係る空隙の配設例を説明する模式図である。図示するように本サーボモータの磁束漏れ防止構造に係る空隙5等は、隣接するマグネット2、2等の周方向軸線Aを仮定し、さらにこの周方向軸線A-A間を結ぶ直線であるところの境界線Bを過程した場合に、境界線Bよりも外側に空隙5等(本図では、空隙5等は孔部)の少なくとも一部が位置するように配設されている構成とすることができる。
【0015】
「境界線Bよりも外側に少なくとも一部が位置するように配設されている空隙」は、全体が境界線Bの外側に位置する空隙5の例(図中(a))、一部が境界線Bの外側に位置する空隙15の例(図中(b))のいずれも該当する。かかる構成とすることにより、磁束漏れ防止効果をより安定化することができる。
【0016】
図5は、空隙として孔部を用いる本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の孔部の構成例を示す要部平面図である。図示するように孔部の形状は、孔部5のように楕円状(図中(a))、孔部5bのように略三角形状(図中(b))、孔部5cのように略矩形状(図中(c))など、適宜の形状が可能である。ただし、ロータコア上に設ける全ての孔部を同一形状とすることが望ましい。
【0017】
図6は、空隙として切削部を用いる本発明サーボモータの磁束漏れ防止構造の構成を示す要部平面図である。図示するように空隙25を、ロータのロータコア21側面に設けられた切削部とすることができる。本構成によっても、磁束漏れ防止効果を得ることができる。なお、
図1~3および5により説明した孔部を空隙とする構成と同様に、
図4で説明した境界線Bよりも外側に切削部25の少なくとも一部が位置するように、切削部25は形成されているものとすることができる。
【0018】
本発明磁束漏れ防止構造に係るロータコア1等は、空隙5の具体的形態如何に関わらず積層鋼板により形成するものとすることができる。また、以上説明したいずれかの構成の磁束漏れ防止構造を備えたサーボモータも、本発明の範囲内である。
【実施例0019】
以下、本発明を完成するに至った開発経過の概要説明をもって実施例とするが、本発明がこれに限定されるものではない。
〔1.課題の提起〕
ホールICを回転センサとしたサーボモータでは、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合、隣接するマグネット間の距離が長くなり、磁束漏れが生じやすい。この磁束漏れにより、ステータに設置されたホールICが誤作動することがあり、モータの制御が不安定となる。一定仕様のサーボモータにつきそのマグネット極数をより大きい極数から4極へと減じた例において、一定の速度範囲では回転速度が乱れるという問題が発生した。
図7は、モータ制御不安定の問題が発生したサーボモータのロータコアの平面図である。図示するように4本のマグネット72による4極構成である。
【0020】
〔2.原因の解析〕
図8は、
図7に示したサーボモータにおける動作の磁気解析結果を示すグラフであり、ホールIC部分の磁束密度を示す。なお右のグラフは、左に示したグラフ中にて円で囲んだ要部を拡大したものである。図示する通り、本来発生しない異常な起伏が、15mT/-15mTの振幅で生じている。ホールICの切替磁束密度は公称値で2mT/-2mT程度であるから、異常な切り替わりである。これは、ロータ極数を4極に減じたことで隣り合うマグネット72―72間の間隔が広くなったことによる、極間での磁束漏れ発生と見られる。この磁束漏れにより、ホールICのローハイが意図しない位置で切り替わり、動作が不安定となっていると考えられた。
【0021】
〔3.改善策〕
対策として、ロータコアの形状変更を試みた。具体的には、前出
図6に示した構造の通り、ロータコア形状に空隙を設ける変更を加えた。つまり、各マグネット極間のロータコア表面の一部を切削して空隙(切削部)を設ける追加工を施し、これによってホールICとロータコアとの間に空間を設け、ホールICを通る磁束の低減を図った。
【0022】
〔4.効果〕
図9は、ロータコアへの追加工前後におけるサーボモータ動作の磁気解析結果を示すグラフであり、ホールIC部分の磁束密度を示す。また、
図10は
図9中にて円で囲んだ要部を拡大したグラフである。これらに示す通り、空隙を追加工したサーボモータでは、追加工前では生じていた異常な起伏が解消され、マグネット極間でのホールIC出力に影響する磁束を低減できたことが認められた。また、動作試験の結果、低速~高速に亘る全動作範囲において回転速度は正常であり、一定の速度範囲では回転速度が乱れるという問題を解決できたことが確認された。
本発明のサーボモータ、およびその磁束漏れ防止構造によれば、モータロータサイズに対してマグネット極数が小さい場合であっても、モータ性能として必要なマグネット磁束を確保しつつ、ホールICに誤作動を生じさせる漏れ磁束を低減させることができる。したがって、サーボモータ製造分野、使用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。