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特開2023-122693細胞サイズリポソーム、プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122693
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】細胞サイズリポソーム、プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230829BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C12N1/00 L
G01N33/02
C12N1/00 Z
C12N1/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026340
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】依田 毅
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA99X
4B065AC20
4B065CA41
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コストで行うことのできる、HPLCでの精密分析を行うサンプルを選ぶための予備分析、スクリーニングのような形の簡易なプロシアニジン分析手法を提供すること。
【解決手段】細胞サイズリポソーム10、10’は、一または二種以上のリン脂質2、3、ならびに一または二種以上のステロール系脂質5が、一定組成をもって用いられてなる脂質成分系と、およびプロシアニジン8とによって構成される細胞サイズリポソームであって、プロシアニジン8の濃度により異なる相分離ドメイン生成パターンを生じ、これにより相分離ドメイン生成パターンからのプロシアニジン濃度推定に用いることができる。リン脂質2、3は、不飽和リン脂質、飽和リン脂質とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一または二種以上のリン脂質ならびに一または二種以上のステロール系脂質が一定組成をもって用いられてなる脂質成分系と、およびプロシアニジンとによって構成される細胞サイズリポソームであって、プロシアニジン濃度により異なる相分離ドメイン生成パターンを生じ、これにより相分離ドメイン生成パターンからのプロシアニジン濃度推定に用いられることを特徴とする、細胞サイズリポソーム。
【請求項2】
前記リン脂質が不飽和リン脂質および飽和リン脂質であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項3】
前記脂質成分系が1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)、Dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)、およびコレステロールから構成されることを特徴とする、請求項2に記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項4】
室温で用いる場合において、前記脂質成分系のモル濃度組成が、DOPCおよびDPPCはいずれも30以上45以下、コレステロールはその残量であることを特徴とする、請求項3に記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項5】
DOPCおよびDPPCは等量であることを特徴とする、請求項4に記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項6】
相分離ドメイン検出用の蛍光試薬が添加されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項7】
前記蛍光試薬として、液体秩序相(Lo相)染色用、液体無秩序相(Ld相)染色用、またはステロール系脂質染色用の中から一または複数が用いられることを特徴とする、請求項6に記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項8】
静置水和法により作製されることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項9】
プロシアニジンが濃度既知のものであり、相分離ドメイン情報取得用リポソームとして、プロシアニジン濃度未知である推定対象物の濃度推定において用いられることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9のいずれかに記載の細胞サイズリポソームを相分離ドメイン情報取得用リポソームとして用い、濃度推定対象物におけるプロシアニジン濃度を推定する方法であって、該相分離ドメイン情報取得用リポソームは濃度既知のプロシアニジン標品を用いて構成されているものを一または複数用いることとし、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9のいずれかに記載の細胞サイズリポソームにおいてプロシアニジンの替わりに該濃度推定対象物の抽出物が加えられて形成される濃度推定対象細胞サイズリポソームを蛍光顕微観察し、相分離ドメイン生成パターンすなわち相分離ドメインの生成有無またはこれが生成する場合のパターンを読み取り、あらかじめ得てある上記相分離ドメイン情報取得用リポソームにおける相分離ドメイン生成パターンのプロシアニジン濃度依存性情報を参照して、濃度推定対象物に含有されているプロシアニジンの濃度を推定することを特徴とする、プロシアニジン濃度推定方法。
【請求項11】
濃度推定対象がリンゴ、またはリンゴの加工品であることを特徴とする、請求項10に記載のプロシアニジン濃度推定方法。
【請求項12】
複数の試料について、まず請求項10、11のいずれかに記載のプロシアニジン濃度推定方法によってプロシアニジン濃度を推定し、ついで、プロシアニジン濃度推定処理済みの一部の試料について高速液体クロマトグラフィーによるプロシアニジン濃度の精密測定を行うことを特徴とする、プロシアニジン濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞サイズリポソーム、プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法に係り、特に、リンゴジュース等に含まれるプロシアニジンの含有濃度を、低コストかつ比較的短時間に推測することのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンゴ栽培は青森県の主要産業である。2018年の統計によると青森県におけるリンゴの栽培面積は20,800ヘクタールであり、全国の半分を占めている。しかしながら栽培面積は経年的に減少しており、地域産業経済のみならず文化・観光面においても重要な役割を果たしているリンゴ産業の主産地としての地位の維持・確保は、青森県の重要な課題である。当地域では、リンゴに含まれる機能性成分が健康維持や病気予防に効果があるとする研究が蓄積されてきている。たとえば「プライムアップル!」(品種=ふじ、登録商標)は果実としての機能性表示食品の登録を得ているが、それはプロシアニジンが有する内臓脂肪を減らす機能が対象である。
【0003】
リンゴに含まれるプロシアニジンは、リンゴに含まれるポリフェノール(総称:リンゴポリフェノール)の主成分である。リンゴポリフェノールは様々な成分で構成されているが、その約6割を占めているのが「プロシアニジン」である((一社)青森県りんご対策協議会HPより)。プロシアニジンは、特に抗酸化機能が高いことで知られており、また脂肪低減効果が有り、プロシアニジンを多く含むリンゴ果実そのものが機能性表示食品として販売されている。このような状況下、リンゴやリンゴジュース等の商品価値を高めるために、出願人組織に係る弘前工業研究所では従来から、依頼試験業務項目の一つとしてプロシアニジン濃度測定を行っている。
【0004】
プロシアニジン濃度測定試験ではHPLC(高速液体クロマトグラフィー)が使用されている。この装置は、購入時に非常に高価であるだけでなく、測定毎に分析用の高純度有機溶媒を用いるため、ランニングコストも高いという欠点がある。また、装置の立ち上げには数時間を要する上、標準試料を複数流して検量線を作成し、それからようやく濃度測定を行うものであるため、相当の時間がかかっている。
【0005】
プロシアニジン類の測定技術については従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、プロシアニジン類を特異的に精度良く測定できる定量方法として、飲食品中のプロシアニジン類(カテキンのn重合体など:n≧1、nは整数)の定量方法であって、サイズ排除クロマトグラフィーによって分離したプロシアニジン類を蛍光検出法により定量することを特徴とする方法が開示されている。ここではまた、サイズ排除クロマトグラフィーによって分離したプロシアニジン類を蛍光検出法により定量する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-156813号公報「プロシアニジン類の定量方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、リンゴのポリフェノールとして知られ、健康機能性成分であるプロシアニジンの注目度は高くなっており、プロシアニジンの含有量をリンゴ加工食品等に表記することによる当該食品等の高付加価値化が期待できる。しかし、プロシアニジン測定に用いるHPLCは、初期コストもランニングコストも高価な上、相当の手間や時間を要するという問題点があった。HPLCほどの精度ではなくともよいが、しかし極力低コストで行うことのできる、HPLCでの精密分析を行うサンプルを選ぶための予備分析、つまり、いわゆるスクリーニングのような形の簡易な分析手法があれば便利である。
【0008】
さて、最も単純化された生体膜モデルとして多くの実験・研究に利用されているリポソームは、親水性部分と疎水性脂肪鎖の双方を備えているリン脂質が親水性部分を外側に向けて自己集合して脂質二重膜となり、これが袋状に閉じることで形成されている。リポソームのうち直径が数μm~数十μmのものは、生きた細胞とほぼ同じサイズであり、細胞サイズリポソーム(ジャイアントリポソーム)と呼ばれる。細胞サイズリポソームは、光学顕微鏡で直接観察できること、細胞を模した実験モデルの作製に利用できること等の利点によって、生体膜の制御機構の解明等の研究に有用である。
【0009】
また、細胞膜上には飽和脂質やコレステロールが豊富な相分離ドメイン(ラフトドメイン)が存在し、信号伝達等の機能を担っていることが明らかになっているが、ラフトドメインは細胞間の信号伝達等に伴ってくっついたり離れたりしながら動いているとされる。脂質から人工的に作製されたリポソームでも同様のドメイン構造が観察されることが分かっており、この方面の研究も盛んに行われている。生体モデル膜(人工細胞膜)およびヒト由来細胞を用いたこれらの研究により、膜の三次元ダイナミクス・二次元(ドメイン構造)の集積ダイナミクスと細胞内カルシウムイオンを指標とした信号伝達が関わっていること、脂質やステロール類の構造を変化させるとドメイン構造の温度応答が変化することなどが明らかにされている。
【0010】
発明者はこれまで、生体モデル膜や細胞サイズリポソームの動き・相分離構造を顕微鏡で観察し、その観察動画や画像から細胞膜の機能を明らかにする研究を行い、成果を発表してきた。たとえば、酸化ストレスに対する生体モデル膜のダイナミクスにおいて不飽和脂質よりもコレステロールが重要な役割を持つことの発見(T.Yoda et al.,Chem.Lett.2010)、酸化ストレスで生成した酸化コレステロールの検出、生体モデル膜小胞の顕微鏡観察による酸化コレステロールを含む生体モデル膜は温度応答性が著しいことの発見、である。
【0011】
また、抗酸化物質を含む膜が酸化ストレスを受けるとドメイン構造が生じることを明らかにした。すなわち、抗酸化機能性成分として知られるレスベラトロールやテアフラビンといったポリフェノール類溶液と細胞サイズリポソームを混合させると、膜の収縮や揺動などの膜ダイナミクスを引き起こし、観察時に相分離ドメインが出現する観察例の発見である(HHT.Phan,T.Yoda et al.,Biochim.Biophys.Acta,Biomembr.2014)。その他、刀豆に含まれていて免疫を活性化させる機能性成分であるコンカナバリンAが、細胞膜上のドメイン構造の集積を引き起こすことや、細胞内信号伝達を活性化することも、蛍光顕微鏡観察によって明らかとなっている(S.Yabuuchi et al.,2017 J.Biosci.Bioeng.)。
【0012】
細胞サイズリポソーム上のドメインは、不飽和脂質1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)と飽和脂質(Dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)を等量混合させて作製した時には、DOPCが豊富な液体無秩序相(liquid disordered phase domain,Ld domain)とDPPCが豊富な固体秩序相(solid ordered phase domain,So domain)に相分離する。また、これにさらにコレステロールを加えたときには、DOPCが豊富な液体無秩序相(liquid disordered phase domain,Ld domain)と、DPPCとコレステロールが豊富な液体秩序相(liquid ordered phase domain,Lo domain)に相分離する細胞サイズリポソームが多く観察されることが明らかとなっている。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、これまでのリポソームを用いた研究の進展ならびに成果、および機能性成分プロシアニジン測定に係る従来技術の状況を踏まえ、HPLCほどの精度ではなくともよいが、しかし極力低コストで、かつ短時間で行うことのできる、HPLCでの精密分析を行うサンプルを選ぶための予備分析、つまり、いわゆるスクリーニングのような形の簡易なプロシアニジン分析手法を提供することである。換言すれば、プロシアニジンと膜との相互作用により観察で特徴づけられる明かな差異を利用した簡易な測定方法を、細胞サイズリポソームを用いて簡単に判別するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、上記課題をもって研究を進めた。細胞サイズリポソームを作製する際にプロシアニジン溶液を加えた場合の膜の相分離ドメイン構造を観察したところ、まず、DOPCのみの細胞サイズリポソームを作製する際にプロシアニジンを混合させると、サイズが有意に大きくなること、また、プロシアニジン濃度によってドメイン構造の割合が異なることを発見した。そして、この割合に基づいて、リンゴジュース等の試料中におけるプロシアニジン含有量を液体秩序相/液体無秩序相分離(Liquid ordered/Liquid disordered)相分離の比率により判別できることを見出した。
【0015】
また、リンゴジュースを用いた実験によって以上のことを確認し、試算によってコスト低減効果も確認し、細胞サイズリポソームをプロシアニジン濃度分析ツールとして使用できることが確認できた。すなわち、リンゴジュース等に含まれるプロシアニジンを分析するために、抽出したプロシアニジンと不飽和脂質、飽和脂質、コレステロールを含む細胞サイズリポソームのドメイン構造の割合を観察することで、短時間でプロシアニジン含有濃度を推定するという方法である。このようにして完成した本発明、つまり上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0016】
〔1〕 一または二種以上のリン脂質ならびに一または二種以上のステロール系脂質が一定組成をもって用いられてなる脂質成分系と、およびプロシアニジンとによって構成される細胞サイズリポソームであって、プロシアニジン濃度により異なる相分離ドメイン生成パターンを生じ、これにより相分離ドメイン生成パターンからのプロシアニジン濃度推定に用いられることを特徴とする、細胞サイズリポソーム。
〔2〕 前記リン脂質が不飽和リン脂質および飽和リン脂質であることを特徴とする、〔1〕に記載の細胞サイズリポソーム。
〔3〕 前記脂質成分系が1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)、Dipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)、およびコレステロールから構成されることを特徴とする、〔2〕に記載の細胞サイズリポソーム。
〔4〕 室温で用いる場合において、前記脂質成分系のモル濃度組成が、DOPCおよびDPPCはいずれも30以上45以下、コレステロールはその残量であることを特徴とする、〔3〕に記載の細胞サイズリポソーム。
【0017】
〔5〕 DOPCおよびDPPCは等量であることを特徴とする、〔4〕に記載の細胞サイズリポソーム。
〔6〕 相分離ドメイン検出用の蛍光試薬が添加されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
〔7〕 前記蛍光試薬として、液体秩序相(Lo相)染色用、液体無秩序相(Ld相)染色用、またはステロール系脂質染色用の中から一または複数が用いられることを特徴とする、〔6〕に記載の細胞サイズリポソーム。
〔8〕 静置水和法により作製されることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
〔9〕 プロシアニジンが濃度既知のものであり、相分離ドメイン情報取得用リポソームとして、プロシアニジン濃度未知である推定対象物の濃度推定において用いられることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の細胞サイズリポソーム。
【0018】
〔10〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載の細胞サイズリポソームを相分離ドメイン情報取得用リポソームとして用い、濃度推定対象物におけるプロシアニジン濃度を推定する方法であって、該相分離ドメイン情報取得用リポソームは濃度既知のプロシアニジン標品を用いて構成されているものを一または複数用いることとし、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載の細胞サイズリポソームにおいてプロシアニジンの替わりに該濃度推定対象物の抽出物が加えられて形成される濃度推定対象細胞サイズリポソームを蛍光顕微観察し、相分離ドメイン生成パターンすなわち相分離ドメインの生成有無またはこれが生成する場合のパターンを読み取り、あらかじめ得てある上記相分離ドメイン情報取得用リポソームにおける相分離ドメイン生成パターンのプロシアニジン濃度依存性情報を参照して、濃度推定対象物に含有されているプロシアニジンの濃度を推定することを特徴とする、プロシアニジン濃度推定方法。
〔11〕 濃度推定対象がリンゴ、またはリンゴの加工品であることを特徴とする、〔10〕に記載のプロシアニジン濃度推定方法。
〔12〕 複数の試料について、まず〔10〕、〔11〕のいずれかに記載のプロシアニジン濃度推定方法によってプロシアニジン濃度を推定し、ついで、プロシアニジン濃度推定処理済みの一部の試料について高速液体クロマトグラフィーによるプロシアニジン濃度の精密測定を行うことを特徴とする、プロシアニジン濃度測定方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の細胞サイズリポソーム、プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法は上述のように構成されるため、これらによれば、プロシアニジンと膜との相互作用により観察で特徴づけられる明かな差異を利用した簡易な測定方法、細胞サイズリポソームを用いた簡単な判別方法を提供することができる。具体的には、従来よりも大幅に低コストかつ短時間でプロシアニジン濃度の分析を行うことができる。
【0020】
高価なHPLCを要する従来の測定方法では、装置立ち上げ等に長時間を要するという問題があったが、本発明に係る濃度推定方法により、比較的安価な蛍光観察顕微鏡を測定機器として使用できるようになり、イニシャルコストはもちろんランニングコストも低減でき、リンゴジュース等のプロシアニジン濃度分析に容易に取り組めるようになり、また迅速に測定を行うことができるようになった。 本発明は、測定対象たるプロシアニジンを取り込ませた形で細胞サイズリポソームを作製し、これを蛍光顕微鏡で観察するというものであるが、細胞サイズリポソームを構成する脂質の組み合わせとして好適な条件を決定しさえすれば、後は短時間の観察を行うことのみによって含有プロシアニジン濃度を推定することができる。
【0021】
なお、効果的な使用例として、HPLCでの精密分析を行うサンプルを選ぶための予備分析用、いわばスクリーニングのような形の簡易なプロシアニジン濃度判定用に本発明を用いるものとすることができ、有用性が高い。本発明方式によれば少なくとも、試料中のプロシアニジン含有量が脂質に対しておよそ20%あるかないかを判別することが可能である。したがって、本発明方式とHPLCとの組み合わせによる、迅速・低コストで、なおかつ精密な分析体系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明細胞サイズリポソームの基本構成を示す概念図である。
図2】本発明細胞サイズリポソームにおける相分離ドメイン生成パターンの例を示す写真図である。
図3】本発明細胞サイズリポソームの構成要素例である脂質、およびプロシアニンジンB2の化学構造式である。
図4】本発明細胞サイズリポソームの作製方法例を示す説明図である。
図5】本発明プロシアニジン濃度推定方法の構成を概念的に示す説明図である。
図6】本発明プロシアニジン濃度測定方法の構成を示すフロー図である。(以下の各図は実施例に係る。)
図7】各濃度の参照用リポソームにおける相分離ドメイン構造組成を示すグラフである。
図8】実施例(ケース1、2、3)に係る推定対象リポソームにおける相分離ドメイン構造組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面も用いつつ本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明細胞サイズリポソームの基本構成を示す概念図である。図中の(a)に示すように本細胞サイズリポソーム10は、一または二種以上のリン脂質2、3、ならびに一または二種以上のステロール系脂質5が、一定組成をもって用いられてなる脂質成分系と、およびプロシアニジン8とによって構成される細胞サイズリポソームであって、プロシアニジン8の濃度により異なる相分離ドメイン生成パターンを生じ、これにより相分離ドメイン生成パターンからのプロシアニジン濃度推定に用いられることを、主たる構成とする。
かかる構成により本細胞サイズリポソーム10は、これに含有されているプロシアニジン8の濃度によって異なる相分離ドメイン生成パターンを生じ、呈するため、この相分離ドメイン生成パターンを用いて、含有されるプロシアニジン濃度を推定することができる。少なくとも、試料のプロシアニジン含有量が脂質に対して約20%あるかないかの判別を、相分離ドメイン生成パターンを観察することによって可能である。
【0024】
本発明細胞サイズリポソーム10には、既知濃度のプロシアニジンを添加して作製する相分離ドメイン情報取得用リポソームが該当するとともに、プロシアニジン濃度未知の試料すなわちプロシアニジンが含有されていることは確かだがその濃度不明である試料からの抽出物が加えられて形成される濃度推定対象細胞サイズリポソームも該当する。詳細は後述する。
【0025】
図2は、本発明細胞サイズリポソームにおける相分離ドメイン生成パターンの例を示す写真図である。これらは典型的な各パターンを示す顕微鏡写真であるが、このうち、Aは、均一な膜小胞である。Bは、Lo(液体秩序相)/Ld(液体無秩序相)ドメイン構造、そしてCは、So(固体秩序相)/Ld(液体無秩序相)ドメイン構造である。蛍光顕微鏡を用いた観察の結果、本発明では特に、Bに示したLo/Ldドメイン構造のパターンを濃度推定用として好適に用いることができる。蛍光顕微鏡による観察についてはさらに後述する。
【0026】
本発明細胞サイズリポソームは、リン脂質として特に不飽和リン脂質および飽和リン脂質の双方を用いる構成とすることができる。本発明では特に、不飽和リン脂質として1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(DOPC)を、また飽和リン脂質としてDipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)を用いるものとすることができ、併せてステロール系脂質としてはコレステロール(Chol)を用いる脂質成分系とすることができる。以降の説明では、かかる脂質成分系を主として説明する。
【0027】
なお図3は、本発明細胞サイズリポソームの構成要素例である脂質、およびプロシアニンジンB2(PB2)の化学構造式である。図中、AはDOPC、BはDPPC、Cはコレステロール、DはPB2である。プロシアニジンB2はプロシアニジンの二量体の一つであり、濃度測定の標準物質として使用されている。
【0028】
本発明細胞サイズリポソームの脂質成分系は、室温で用いる場合のモル濃度組成を、DOPCおよびDPPCはいずれも30以上45以下、コレステロールはその残量、とすることができる。本発明においてプロシアニジン濃度判定用の観察用として最も望ましい相分離ドメイン組成は、上述の通りLo/Ldドメインである。このドメインが観察されるモル濃度組成には従来、次のような報告例がある。
DOPC:DPPC:Chol=30~45:30~45:10~40
DOPC:DPPC:Chol=32.5~42.5:32.5~42.5:15~35
【0029】
このように報告例によって組成範囲が異なるのは、ドメイン形成が温度の影響を受けるためである。発明者が室温(20℃前後)で行った結果によれば、
DOPC:DPPC:Chol=30~45:30~45:残量
である。たとえばCholを20とした場合、DOPC60~30、DPPC20~50のモル濃度組成範囲で、Lo/Ldドメイン構造を得ることができる。DOPCおよびDPPCを等量としても、もちろんよい。後述する実施例では、DOPCおよびDPPCを等量(40)としている。
【0030】
なお、相分離ドメイン自体はコレステロールが存在しない場合でも観察される。たとえば、コレステロールが10以下、リン脂質が45以上あるいは42.5以上の場合は、So/Ld固体秩序相/液体無秩序相)ドメインが観察される。しかしながらこのドメインパターンでは、ドメイン形成割合とプロシアニジン濃度との間における対応関係が確認されなかった。
【0031】
前出図1中の(b)における細胞サイズリポソーム10’のように本発明細胞サイズリポソームは、相分離ドメイン検出用の蛍光試薬9が添加されている構成とすることができる。相分離ドメイン構造の有無は細胞サイズリポソームの蛍光観察によって判断されるが、蛍光試薬9はそのために添加されるものであり、相分離形成には作用しない。蛍光試薬9としては、液体秩序相(Lo相)染色用、液体無秩序相(Ld相)染色用、またはステロール系脂質染色用の中から一または複数を用いて本細胞サイズリポソーム10’を構成するものとすることができる。
【0032】
後述する実施例では蛍光試薬として、Rhodamine B 1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine Triethylammonium Salt(Rhodamine DHPE)を脂質の1モル濃度%加えているが、これはDOPCが豊富なLd相を染色する蛍光試薬として比較的よく用いられている。一方、DPPCが豊富なLo相を染める蛍光試薬としては、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-(7-nitro-2-1,3-benzoxadiazol-4yl)(ammonium salt)(NBD-PEがある。これらは互いに蛍光波長が異なるので、使い分けたり、また同時に二種類を用いること可能である。
【0033】
また、コレステロールの部分を蛍光染色として、たとえばNBD-Cholesterolがある。Lo/Ldドメイン構造を用いる本発明では、DPPCが豊富なLoドメインを染色する。なお本発明では、以上説明した以外の蛍光試薬の使用も、もちろん可能である。
【0034】
図4は、本発明細胞サイズリポソームの作製方法例を示す説明図である。図に例示するように本細胞サイズリポソームは、試験管などの容器中で溶媒(図ではクロロホルムCH(Cl))にリポソーム構成用の脂質を溶解し、溶媒を飛ばして容器内壁に脂質膜を形成させ、蒸留水により水和させるという方法を基本として用い、作製することができる。後述する実施例では、この静置水和法を用いて細胞サイズリポソームを作製した。
【0035】
相分離ドメイン構造は、製造方法ではなく構成脂質などの膜にある成分に依存して決定される。したがって、本発明細胞サイズリポソームの具体的な作製方法は限定されず、従来公知の方法を適宜用いればよい。たとえば、エレクトロフォーメーション法、液滴法やその新法(特許第6031711号)などがあるが、本発明では特に静置水和法を好適に用いることができる。静置水和法は一般によく知られた方法であり、試験管とガス、所定の溶液などがあれば、特別の器具が必要なく、簡単に作製できるという利点を有し、本発明には最適である。
【0036】
図5は、本発明プロシアニジン濃度推定方法の構成を概念的に示す説明図である。ここまで述べたいずれかの構成の本発明細胞サイズリポソームは、含有されているプロシアニジンを濃度既知のものとし、プロシアニジン濃度未知である推定対象物の濃度推定において用いられるリポソーム、すなわち「相分離ドメイン情報取得用リポソーム」として用いることができる。この「相分離ドメイン情報取得用リポソーム」に含有せしめるプロシアニジンとしては、プロシアニジン標品(純品)を用いることができる。本図では「相分離ドメイン情報取得用リポソーム」を「参照用リポソーム」と略称しており、以降の説明でもこの略称を併用する。
【0037】
図5では、左側に表形式で参照用リポソーム群10a、10b、・・・を概念的に示し、右側にプロシアニジン濃度未知である形態の本発明細胞サイズリポソーム10xを示している。図示するように本発明プロシアニジン濃度推定方法は、上記相分離ドメイン情報取得用リポソーム(参照用リポソーム)10a等を用いて濃度推定対象物におけるプロシアニジン濃度を推定する方法である。参照用リポソーム10a等には濃度既知のプロシアニジン標品を用いて構成されているものを一または複数用いることとする。
【0038】
参照用リポソーム10a等に含有されているプロシアニジンの濃度n、所定濃度nのプロシアニジンが含有されている参照用リポソーム、当該参照用リポソームが有するドメイン構造生成パターン(ドメイン生成パターン)を各列とし、濃度の相違を各行として、図中の表に示されている。すなわち、濃度n=aであるプロシアニジン8aを含有する参照用リポソーム10aはドメイン生成パターンDaを有する、濃度n=bであるプロシアニジン8bを含有する参照用リポソーム10bはドメイン生成パターンDbを有する。
【0039】
一方、右に示された、図1~4を用いつつ説明したいずれかの構成の細胞サイズリポソームにおいてプロシアニジンの替わりに濃度推定対象物の抽出物が加えられて形成される濃度推定対象細胞サイズリポソーム、換言すればプロシアニジン濃度未知である形態の本発明細胞サイズリポソーム10xは、プロシアニジンまたはそれとの比較対象要素8xを含有しており、蛍光顕微観察により相分離ドメイン生成パターンDxを有するものである。
【0040】
本発明プロシアニジン濃度推定方法は、上記濃度推定対象細胞サイズリポソーム10xを蛍光顕微観察し、相分離ドメイン生成パターンDxすなわち相分離ドメインの生成有無またはこれが生成する場合のパターンを読み取り、あらかじめ得てある参照用リポソーム10a等における相分離ドメイン生成パターンDa、Db、・・・のプロシアニジン濃度依存性情報を参照して、濃度推定対象物に含有されているプロシアニジンの濃度を推定する方法である。なお、以降、「濃度推定対象細胞サイズリポソーム」を単に「推定対象リポソーム」とも略称する。
【0041】
かかる構成により本プロシアニジン濃度推定方法では、推定対象リポソーム10xが蛍光顕微観察されて、相分離ドメイン生成パターンDxすなわち相分離ドメインの生成有無またはこれが生成する場合のパターンが読み取られ、ついで相分離ドメイン生成パターンDcは、あらかじめ得てある参照用リポソーム10a等における相分離ドメイン生成パターンDa、Db、・・・のプロシアニジン濃度依存性情報と参照、比較され、一致する相分離ドメイン生成パターンを有する参照用リポソームにおける濃度が、すなわち濃度推定対象物に含有されているプロシアニジンの濃度である、と推定される。
【0042】
図6は、本発明プロシアニジン濃度測定方法の構成を示すフロー図である。図示するように本プロシアニジン濃度測定方法は、複数の試料について、まず上述のプロシアニジン濃度推定方法により濃度推定対象の全試料Nについてプロシアニジン濃度を推定する濃度推定過程P10、ついで、プロシアニジン濃度推定処理済みの一部の試料nについてHPLCによるプロシアニジン濃度の精密測定を行う精密測定過程P20から構成される。
【0043】
本プロシアニジン濃度測定方法は、精密測定過程P20においてHPLCでの精密分析を行うサンプルを選ぶための予備分析用、いわばスクリーニングのような形の簡易なプロシアニジン濃度判定を、濃度推定過程P10にて行うという方法であり、濃度推定過程P10で試料中のプロシアニジン含有量が脂質に対しておよそ20%あるかないかの判別した上で、一部の試料nについての精密測定過程P20が実施される。したがって、迅速・低コスト、かつ精密な分析体系を実現することができる。
【0044】
以上説明した本発明プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法は、プロシアニジンを含有すると見込まれる全ての推定・測定対象物に対して用いることができ、プロシアニジンを含む果実であるリンゴ、またはその加工品も、これら本発明方法の適用対象であることは言うまでもない。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。なお、本発明完成に至る実験結果の一部についての概要説明をもって、実施例説明とする。また、実験では、K.Sugahara et al., 2015 Chem.Lett. に記載された方法を基礎とし、同報告におけるLidcaine、TetracaineをPB2に替えて行った。

〔研究課題〕
人工生体モデル膜の相分離ドメイン構造観察を利用した、リンゴ等含有プロシアニジン簡易検出法の開発
〔研究目的〕
リンゴやリンゴジュースの主成分であるプロシアニジン濃度に依存する相分離ドメイン構造の作製を行い、これを用いたプロシアニジン濃度推定技術、すなわち精密測定用のスクリーニング技術を確立すること。
【0046】
〔実験の詳細〕
〔1.細胞サイズリポソーム作製の基本〕
細胞サイズリポソーム作製方法は上述図4による。脂質成分系の構成は次の通りとした。また、添加する蛍光試薬にはDOPCが豊富なLd相を染色するものを用いた。
DOPC/DPPC/Chol=4:4:2
+Lissamine Rhodamine B 1,2-Dihexadecanoyl-sn-Glycero-3-Phosphoethanolamine Triethylammonium Salt(Rhodamine DHPE) 1% (stained liquid disordered domain)
これにより、上述図2中のBに示したような、Lo/Ldドメイン構造を有するリポソームが得られる。
【0047】
〔2.プロシアニジン混合条件〕
プロシアニジンB2純品の混合条件は次の通りとした。
0%(Control)、10%、20%、30%、40%、50%
脂質成分系とPB2による最終濃度は0.2mM、容量400μLとし、これにRhodamine DHPEを2μM添加し、各濃度の参照用リポソームとした。すなわち、混合に用いた各容量は次の例の通りである。
・Control:
DOPC/DPPC/Chol/PB2=16/16/8/0
・PB2_10%:
DOPC/DPPC/Chol/PB2=16/16/8/4.44
・PB2_50%:
DOPC/DPPC/Chol/PB2=16/16/8/40
・DOPCのみ:
DOPC/DPPC/Chol/PB2=40/0/0/0
【0048】
〔3.相分離ドメイン構造の蛍光顕微観察〕
相分離ドメイン構造の蛍光顕微観察条件は次の通りである。
使用顕微鏡:Olympus BX51
観察条件:WIG(励起波長530-550nm,蛍光波長575nm)
なお、WIY(励起波長545-580nm,蛍光波長610nm)でも観察可能である。
【0049】
〔4.参照用リポソーム〕
図7は、各プロシアニジン濃度の参照用リポソームにおける相分離ドメイン構造組成を示すグラフである。ドメイン構造の観察された割合をそれぞれ均一な膜小胞(白),Lo/Ldドメイン構造(明るい灰色)、So/Ldドメイン構造(濃い灰色)で示している。図示するように、各濃度と相分離ドメイン構造組成の対応関係は次の通りとなった。
【0050】
濃度0%:Lo/Ldドメインが約90%を占める
濃度10%:Lo/Ldドメイン約50%、So/Ldドメイン2%以下
濃度20%:Lo/Ldドメイン約15%
濃度30%:Lo/Ldドメイン約15%
濃度40%:Lo/Ldドメイン約5%
濃度50%:Lo/Ldドメイン約20%
【0051】
〔5.リンゴジュースから抽出したPB2を用いての実験〕
リンゴジュース中のPB2濃度は5~15mg/100g であるとの報告がある(長野県産のリンゴおよびネギの機能性成分に関する研究)。発明者も以前に行った分析により8.3mg/100g という値を得ている。本研究では、リンゴジュースから抽出したPB2を用いて細胞サイズリポソームを作製し、その相分離ドメイン構造を観察し、プロシアニジン濃度推定を試みることとした。なお、用いたリンゴジュースは次の通りである。
製造元 青森県農村工業農業協同組合連合会(JAアオレン)
銘柄名 希望の雫
【0052】
アセトンによるPB2の抽出方法は、上記文献(長野県産のリンゴおよびネギの機能性成分に関する研究)記載の方法によった。すなわち、所定量の試料リンゴジュースにアセトン17.5mLを加え、ミリQ(超純水)で25mLにメスアップし、フィルターで抽出して各試料(ケース1、2、3)とした。
ケース1(リンゴジュース) ジュース5mL
ケース2(2倍希釈リンゴジュース) ジュース2.5mL
ケース3(純水) ジュース0mL
【0053】
細胞サイズリポソーム各成分の分子量を次の通りとして、
DOPC:786
DPPC:734
Chol:387
PB2 :578
脂質0.2mM/400μLとした場合における細胞サイズリポソーム各成分の重量を算出した。脂質0.2mM/400μL中の脂質重量は0.08mMであるから、次の通りとなる。
DOPC:786×0.08×400/1000/1000×1000 =25.15μg
DPPC:687×0.08×400/1000/1000×1000 =21.98μg
Chol:387×0.04×400/1000/1000×1000 = 6.192μg
また、Mol濃度10%のPB2は、
PB2=578×0.02×400/1000/1000=4.624μg
【0054】
ケース1 リンゴジュース
上記文献値に基づき、リンゴジュースから抽出した濃度未知のPB2濃度を10mg/100gと仮定し、5倍に希釈して用いた。仮定によれば濃度2mg/100gとなったこの希釈物を20mL添加して、細胞サイズリポソームを作製した。仮定に基づくプロシアニジン重量は、
2×20/1000/1000×1000=0.04mg=40μg
したがって、mol濃度は、
40/1000×1000×1000/400/578=0.17mM
である。
【0055】
400μL中における脂質合計濃度0.2mM、プロシアニジン濃度0.17mMであるから、作製される細胞サイズリポソーム中におけるプロシアニジン濃度は、
0.17/(0.2+0.17)×100=45.9mol% ≒約50mol%
と算定される。そうすると相分離ドメイン構造は、図7を参照すれば、Lo/Ldドメインが20%程度となるであろうことが予想される。
【0056】
なお参考までに、上述した細胞サイズリポソーム各成分の算出重量を、ケース1について100g換算すると、下記の通りとなる。
内訳 DOPC(40% 0.08mM)
100g当たり6.29mg
DPPC(40% 0.08mM)
100g当たり6.87mg
Chol(20% 0.04mM)
100g当たり1.55mg
PB2(10% 0.17mM)
100g当たり14.71mg
【0057】
ケース2 2倍希釈リンゴジュース
あらかじめリンゴジュースを薄めて、PB2濃度を5mg/100gとした。上記文献値に基づき、リンゴジュースから抽出した濃度未知のPB2濃度を10mg/100gと仮定し、5倍希釈で1mg/100gとし、20mL添加して、細胞サイズリポソームを作製した。仮定に基づくプロシアニジン重量は、
1×20/1000/1000×1000=0.02mg=20μg
したがって、mol濃度は、
20/1000×1000×1000/400/578=0.085mM
である。
ケース1のおおむね約半分の濃度と捉えれば、作製される細胞サイズリポソーム中におけるプロシアニジン濃度は33mol%前後と推定される。そうすると相分離ドメイン構造は、図7を参照すれば、Lo/Ldドメインが10%以下程度となるであろうことが予想される。
【0058】
ケース3 純水
リンゴジュースは無添加、純水を用いる。したがって作製される細胞サイズリポソーム中におけるプロシアニジン濃度は0mol%である。そうすると相分離ドメイン構造は、図7を参照すれば、Lo/Ldドメインが約90%となるであろうことが予想される。
【0059】
〔6.実験結果〕
図8は、実施例(ケース1、2、3)に係る推定対象リポソームにおける相分離ドメイン構造組成を示すグラフである。図示する通りケース3純水(Pure water)を用いた推定対象リポソームでは、蛍光顕微観察の結果、So/Ldドメインが約5%、Lo/Ldドメインが約90%であった。これを図7の参照用リポソームのグラフと対照すると、PB2濃度0%、あるいは10%の相分離ドメイン構造組成と合致した。すなわち、ケース3純水におけるプロシアニジン濃度(含有量)は、脂質に対して10mol%以下であるという推定結果となった。純水のプロシアニジン濃度は当然ながら0mol%であるから、得られた推定結果は妥当であることが確認できた。
【0060】
ケース1リンゴジュース(Pure juice)ではドメインが観察されにくかったが、それでも約8%のLo/Ldドメインが蛍光顕微観察により確認できた。これを図7の参照用リポソームのグラフと対照すると、PB2濃度0%や10%の相分離ドメイン構造組成とは合致せず、合致するのは濃度20%以上であることが示された。すなわち、ケース1リンゴジュースにおけるプロシアニジン濃度(含有量)は、脂質に対して20mol%以上であるという推定結果となった。既に述べた通り、希釈と添加量から標準的なジュースに含まれるPB2量から求めた計算では濃度約50mol%となる。したがって、得られた推定結果は妥当であることが確認できた。
【0061】
ケース2の2倍希釈リンゴジュース(Two times diluted juice)ではさらにドメインが観察されにくく、蛍光顕微観察により確認できたLo/Ldドメインは2%未満だった。これを図7の参照用リポソームのグラフと対照すると、PB2濃度0%や10%の相分離ドメイン構造組成とは合致せず、合致するのは濃度20%以上であることが示された。すなわち、ケース2の2倍希釈リンゴジュースにおけるプロシアニジン濃度(含有量)は、脂質に対して20mol%以上であるという推定結果となった。既に述べた通り、希釈と添加量から標準的なジュースに含まれるPB2量から求めた計算では濃度約33mol%となる。したがって、得られた推定結果は妥当であることが確認できた。
【0062】
〔7.コスト低減効果の試算〕
HPLCによる従来の測定方法と、本発明方法について、コスト(費用と時間)を試算した。
1)既存方法(HPLC)
イニシャルコスト
HPLC装置 15,730,000円(アジレント社製)
ランニングコスト
アセトン ガロン瓶 6,000円
アセトニトリル ガロン瓶 17,000円
PB2 92,200円
合計 115,200円
測定所用時間
1~2日(装置立ち上げ、検量線サンプル測定を含む)
【0063】
2)本発明方法(細胞サイズリポソーム)
イニシャルコスト
顕微鏡 1,146,260円
蛍光ユニット 1,400,000円(いずれもオリンパス社製)
合計A 2,546,260円
なお、データベース作成に必要な脂質およびPB2を含めた場合は、
脂質およびPB2 159,800円
合計B 2,706,060円
ランニングコスト
脂質 DOPC 8,400円
DPPC 9,000円
Chol 9,400円
Rhodamin 40,800円
アセトン ガロン瓶 6,000円
合計 73,600円
測定所用時間
準備:8時間(リポソーム作製(フィルム作製1H+真空乾燥3H+水和4H))
測定:1時間(60サンプル観察に要する時間)
合計:9時間
【0064】
以上の通り、本発明方法は従来のHPLC使用による方法と比較して、イニシャルコストが13,000、000円程度、ランニングコストが40,000円程度、それぞれ安価になると試算された。また、測定所要時間も半日程度で済み、短縮になるという試算結果であった(なお、ガラス器具、ピペット、プラスチックチューブ、フィルター、シリンジは安価であり、それによっては差がつかないため、本試算では計上を割愛した)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の細胞サイズリポソーム、プロシアニジン濃度推定方法、およびプロシアニジン濃度測定方法によれば、従来よりも大幅に低コストかつ短時間でプロシアニジン濃度の分析を行うことができる。ことができる。したがって、特に食品栄養分析、食品品質管理の各分野、および関連する全分野において産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0066】
2、3…リン脂質
5…ステロール系脂質
8、8a、8b、8c、8d、8n…プロシアニジン
8x…プロシアニジン、またはそれとの比較対象要素
9…相分離ドメイン検出用の蛍光試薬
10、10’…細胞サイズリポソーム
10a、10b、10c、10d…細胞サイズリポソーム(参照用リポソーム)
10x…細胞サイズリポソーム(推定対象リポソーム)
Da、Db、Dc、Dd、Dx…相分離ドメイン生成パターン
N…濃度推定対象の全試料
n…濃度推定処理済みの一部の試料
P10…濃度推定過程
P20…精密測定過程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8