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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122694
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/12 20060101AFI20230829BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20230829BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 K
B62D21/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026341
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】池嶋 大貴
【テーマコード(参考)】
3D203
3J066
【Fターム(参考)】
3D203CA07
3D203CA23
3D203CA25
3D203CA26
3D203CA33
3D203CA34
3D203CA37
3D203CA45
3J066AA02
3J066AA03
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC01
3J066BF03
3J066BG08
(57)【要約】
【課題】部材が長尺の場合においても、座屈起点と変形方向を制御することで荷重を略一定に保つことができる衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】衝撃吸収部材は、先端から受けた衝撃により座屈を開始し、衝撃方向に沿って変形する第1構造部と、第1構造部に連結し、第1構造部よりも座屈強度が高く衝撃方向に沿って変形する第2構造部と、第2構造部に連結し、第2構造部よりも座屈強度が高く反衝撃端を形成する第3構造部と、を有することを特徴とする衝撃吸収部材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から受けた衝撃により座屈を開始し、衝撃方向に沿って変形する第1構造部と、第1構造部に連結し、第1構造部よりも座屈強度が高く衝撃方向に沿って変形する第2構造部と、第2構造部に連結し、第2構造部よりも座屈強度が高く反衝撃端を形成する第3構造部と、を有することを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
第1構造部から第3構造部の少なくともいずれかの外側面部に、衝撃を受ける先端側から反衝撃端側に向けて末広がり状となるテーパーが設けられている、請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
第2構造部が複数段で構成されている、請求項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
第1構造部が、X字形状の構造部分、くの字形状の構造部分、クラッシュビートまたはノッチを有する構造部分を有する、請求項1~3のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
第2構造部が、第1構造部の構成部材よりも座屈強度が高い構成部材により構成されているか、第1構造部を構成する構造よりも座屈強度が高い構造に構成されている、請求項1~4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
第3構造部が、第2構造部の構成部材よりも座屈強度が高い構成部材により構成されているか、第2構造部を構成する構造よりも座屈強度が高い構造に構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成されている、請求項1~6のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項8】
車両用衝撃吸収部材である、請求項1~7のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から受けた衝撃に対して座屈の発生起点と変形方向を制御することにより衝撃エネルギーを効率よく吸収するように改良された衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車もしくは鉄道車両等の輸送機器では、衝撃エネルギーを吸収して衝突時のショックを和らげる衝撃吸収部材が車両の前方、側方または/および後方に設けられている。このような車両用衝撃吸収部材においては、歩行者や乗員への衝撃を抑制しつつ、効率よくエネルギー吸収量を確保するために、荷重を略一定に保つ(衝突時の荷重-変位線図を矩形波にする)ことが望ましい。
【0003】
このような中、天面部と衝撃時の荷重を支えるためのリブにより構成された衝撃吸収部材(特許文献1)、あるいは同軸上に座屈波長が同じ複数の筒体を配置することで規則的な座屈変形を発生させる衝撃吸収部材(特許文献2)が提案されている。また、座屈変形しやすい複数の小室を設ける衝撃吸収部材(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-67291号公報
【特許文献2】特開2005-41340号公報
【特許文献3】特開平11-139341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以下のように、衝突時、衝撃荷重をある荷重以下に抑えつつエネルギー吸収量を確保するために衝撃荷重を略一定に保つことは、現状では難しい。
【0006】
例えば、特許文献1および特許文献2では、衝撃時の荷重を支える構造はリブのみのため、衝撃吸収部材がある程度長尺である場合においては、以下の式1(数1)により計算される座屈荷重Pが所望の荷重よりも下回る際にリブが座屈するため、荷重が極端に下がり、荷重を略一定に保つことができない。また、特許文献3では、座屈起点を制御できる一方で、小室の変形方向を制御できないため、小室の座屈方向によっては荷重が極端に下がり、荷重を略一定に保つことができない。
【0007】
【数1】
【0008】
そこで、本発明の課題は、上述した問題に鑑み、部材が長尺の場合においても、座屈起点と変形方向を制御することで荷重を略一定に保つことができる衝撃吸収部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る衝撃吸収部材は、先端から受けた衝撃により座屈を開始し、衝撃方向に沿って変形する第1構造部と、第1構造部に連結し、第1構造部よりも座屈強度が高く衝撃方向に沿って変形する第2構造部と、第2構造部に連結し、第2構造部よりも座屈強度が高く反衝撃端を形成する第3構造部と、を有することを特徴とするものからなる。
【0010】
このような本発明に係る衝撃吸収部材においては、座屈起点は先端から受けた衝撃により座屈を開始する第1構造部に限定され、まず座屈強度の最も低い第1構造部が座屈するとともに変形し、かつその際の変形方向が衝撃方向に沿う方向とされる。続いて衝撃吸収のための部材の座屈、変形が進められる場合には、第1構造部に連結し、第1構造部よりも座屈強度が高い第2構造部が座屈するとともに変形し、かつその際の変形方向が衝撃方向に沿う方向とされる。さらに衝撃吸収のための部材の座屈、変形が進められる場合には、第2構造部に連結し、第2構造部よりも座屈強度が高い第3構造部が座屈するとともに変形する。この第3構造部は、上記衝撃が入力される第1構造部の先端とは反対側の反衝撃端を形成する構造部として設けられ、反衝撃端は、通常、車両等のフレーム部材等に固定されるので、該反衝撃端はそれを固定するフレーム部材等に対して相対的に横ずれ(衝撃方向に対して垂直な方向へのずれ)が発生しない構造部として設けられる。すなわち、第3構造部は、変形の形態が限られた構造部となる。このように、衝撃吸収部材における座屈起点、および、衝撃吸収のための部材の座屈、変形が進められる場合の座屈箇所の順序、各構造部の変形の方向と形態が予め定めた所定の順序、所定の変形方向と変形形態に制御されることになり、衝撃吸収の際の荷重の変化が小さく抑えられて略一定に保たれ、効率の良い衝撃エネルギーの吸収が可能になる。
【0011】
このような本発明に係る衝撃吸収部材においては、第1構造部から第3構造部の少なくともいずれかの外側面部に、衝撃を受ける先端側から反衝撃端側に向けて末広がり状となるテーパーが設けられている形態を採用することができる。このようなテーパーが設けられることにより、衝撃吸収部材の重心を衝撃面より遠ざけることで力学的に安定する構造となる点で好ましい。
【0012】
また、第1構造部から第3構造部の少なくともいずれかが、とくに第2構造部が複数段で構成されている形態を採用することができる。このようにいずれかの構造部が、とくに第2構造部が複数段で構成されることにより、長尺の衝撃吸収部材にも容易に適応可能である。
【0013】
また、第1構造部が、X字形状の構造部分、くの字形状の構造部分、クラッシュビートまたはノッチを有する構造部分を有する形態を採用することができる。上記の構造はいずれも座屈起点を容易に形成できるという点で好ましい。
【0014】
また、第2構造部が、第1構造部の構成部材よりも座屈強度が高い構成部材により構成されているか、第1構造部を構成する構造よりも座屈強度が高い構造に構成されていることが好ましい。このような形態を採用することで、衝撃を受ける面から衝撃方向に沿って逐次的に座屈を発生させることができ、衝撃エネルギーの吸収効率が高い。
【0015】
また、同様に、第3構造物が、第2構造部の構成部材よりも座屈強度が高い構成部材により構成されているか、第2構造部を構成する構造よりも座屈強度が高い構造に構成されていることが好ましい。このような形態を採用することで、衝撃吸収部材が衝撃方向に垂直な方向へ転倒することを抑制することができ、衝撃エネルギーの吸収効率が高い。
【0016】
また、本発明の衝撃吸収部材を構成する材料は特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂組成物もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る衝撃吸収部材は、車両用衝撃吸収部材として好適なものであるが、効率の良い衝撃エネルギーの吸収が求められるあらゆる分野の衝撃吸収部材に適用可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る衝撃吸収部材によれば、部材が長尺の場合においても、衝撃を加えた際に荷重が略一定となる荷重特性を得ることができるので、高効率な衝撃エネルギー吸収特性を発現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態(実施例1)に係る衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略斜視図、(b)は概略正面図である。
図2】(a)は第1実施形態の第1構造部にクラッシュビートを設けた場合の一例を示す衝撃吸収部材の概略斜視図、(b)は第1実施形態の第1構造部にノッチを設けた場合の一例を示す衝撃吸収部材の概略斜視図である。
図3】第1実施形態(実施例1)に係る衝撃吸収部材の落錘試験のシミュレーションモデルを示す概略正面図である。
図4】比較例1の衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略正面図、(b)は落錘試験のシミュレーションモデルにおける変形の様子を示す概略正面図である。
図5】比較例2の衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略正面図、(b)は落錘試験のシミュレーションモデルにおける変形の様子を示す概略正面図である。
図6】実施例1、比較例1および比較例2の荷重-変位線図である。
図7】比較例3の衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略正面図、(b)は落錘試験のシミュレーションモデルにおける変形の様子を示す概略正面図である。
図8】比較例4の衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略正面図、(b)は落錘試験のシミュレーションモデルにおける変形の様子を示す概略正面図である。
図9】実施例1、比較例3および比較例4の荷重-変位線図である。
図10】比較例5の衝撃吸収部材を示しており、(a)は概略正面図、(b)は落錘試験のシミュレーションモデルにおける変形の様子を示す概略正面図である。
図11】実施例1および比較例5の荷重-変位線図である。
図12】本発明の第2実施形態(実施例2)に係る衝撃吸収部材の落錘試験のシミュレーションモデルを示す概略正面図である。
図13】実施例1および実施例2の荷重-変位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態(実施例1)に係る衝撃吸収部材を示している。図1において、100は衝撃吸収部材を示しており、衝撃吸収部材100には衝撃方向(図のZ方向でかつ図における下方に向かう方向)に沿って第1構造部101、第2構造部102および第3構造部103がこの順に設けられている。衝撃吸収部材100は、例えば、輸送機器の前部、側面部、もしくは後部いずれにも好適に用いることができる。図1における104は、衝撃を受ける衝撃吸収部材100の先端を示しており、105は、衝撃吸収部材100を固定するための反衝撃端を示している。第1構造部101は、先端104から受けた衝撃により座屈を開始し、衝撃方向に沿って変形する構造部として構成され、第2構造部102は、第1構造部101に連結し、第1構造部101よりも座屈強度が高く衝撃方向に沿って変形する構造部として構成され、第3構造部103は、第2構造部102に連結し、第2構造部102よりも座屈強度が高く反衝撃端105を形成する構造部として構成されている。
【0021】
第1構造部101は、例えば図1(a)および(b)に示すように、X字形状に構成された2枚の板状部材110および111により構成することができる。第1構造部101には、座屈の起点となり得る構造を用いることができるので、上記のようなX字形状の構造部分の他、くの字形状の構造部分、クラッシュビートまたはノッチを有する構造部分を有する形態を採用することもできる。例えば、図2(a)は第1構造部の側面にクラッシュビートを設けた場合の一例を示す衝撃吸収部材、図2(b)は第1構造部にX字型形状の構造部分と側面部にノッチを設けた場合の一例を示す衝撃吸収部材である。クラッシュビートとは、衝撃吸収部材に設けられる溝のことであって、座屈の起点となりうることから好適に用いられる。第1構造部に設けられるクラッシュビートもしくはノッチは衝撃吸収部材における座屈起点が第1構造部となるために好適に用いられるため、第1構造部の側面に用いてもよいし、X字形状の構造部分、もしくは、くの字形状の構造部分に用いてもよく、これらの形状の組み合わせに限定されるものではない。
【0022】
第2構造部102は、第1構造部101の構成部材よりも座屈強度が高い構成部材(例えば、より厚みの大きい構成部材)により構成されているか、第1構造部101を構成するX字形状に構成された構造よりも座屈強度が高い構造に構成されていることが好ましい。例えば図1(a)および(b)に示すように、第2構造部102は、X字形状に構成された2枚の板状部材120および121に加え、衝撃方向に沿った板状部材122により構成することができる。このような第1構造部101より座屈強度が高い構造の他、第1構造部101が座屈起点となった後に新たな座屈起点となりさえすればよいので、第1構造部101より座屈強度が高い他の構造を用いることもできる。他の構造としては、例えば、第1構造部101と同様に、くの字形状の構造部分、クラッシュビートまたはノッチを有する構造部分を有する形態を採用することができる。第1構造部と第2構造部に同じ構造を用いる場合には、第2構造部が第1構造部よりも座屈強度を高くするために、第1構造部よりも板状部材の厚みを厚くすることが好ましい。また、第2構造部は第1構造部が座屈した後に新たな座屈起点になることが肝要であるため、クラッシュビートもしくはノッチは第2構造部の側面に設けられていてもよいし、X字形状の構造部分、もしくは、くの字形状の構造部分に用いてもよく、これらの形状の組み合わせに限定されるものではない。
【0023】
第3構造部103は、例えば図1(a)および(b)に示すように、衝撃方向に沿った板状部材130により構成することができる。第3構造部103は、第2構造部102より座屈強度が高い構造に構成されればよいが、第3構造部103は、反衝撃端105を形成する構造部であり、反衝撃端105は通常車体等のフレーム部材またはボディ構成部材に固定されるので、少ない構成部材であっても高い座屈強度を発現可能である。換言すれば、第1構造部101における先端104側が、衝撃を受けた際に、衝撃吸収部材100における変位、変形する自由端側、第3構造部103における反衝撃端105側が、衝撃吸収部材100全体として衝撃荷重を受け止め、基本的に変位、変形しない固定端側として機能するので、少ない構成部材であっても高い座屈強度を発現可能である。
【0024】
衝撃吸収部材が長物材の場合、各構造部の長さが長くなることで座屈強度が低下するため、必要に応じて、各構造部、とくに第2構造部102を複数段で構成することもでき、それによって部材の長尺化に容易に対応できる。あるいは、いずれかの構造部を複数の小室に分割してもよい。
【0025】
図1に示す第1実施形態(実施例1)に係る衝撃吸収部材100においては、第1構造部101から第3構造部103にわたって、外側面部140が設けられている。この実施例1では、外側面部140は衝撃方向Zに沿って設けられているが、後述の例に示す如く、第1構造部から第3構造部の少なくともいずれかの外側面部に、衝撃を受ける先端側から反衝撃端側に向けて末広がり状となるテーパーが設けられている形態を採用することもできる。
【0026】
ここで、上記実施例1に係る衝撃吸収部材100の構造による効果について、落錘試験を有限要素法(FEM)によりシミュレーションした結果をもとに効果を説明する。図3は有限要素法を行うためのシミュレーションモデルを示している。学界や産業界などで幅広く活用されている、ANSYS社製シミュレーションソフトウェアLS-DYNA(ヴァージョン 971 R10.2.0)を用いる。ただし、衝撃による衝撃吸収部材の変形を考慮できる解析ソフトウェアおよび外部のプログラムを用いてもよい。
【0027】
シミュレーションモデルにおける衝撃吸収部材100の寸法は、40mm×40mm、高さが80mmである。また、全構成部材の肉厚は3mmとなっている。この解析においては、図3に示すように衝撃吸収部材100を立設させた状態で、衝撃吸収部材100の底面200を反衝撃端(図1における反衝撃端105)として拘束(固定)し、上方から所定の錘201を衝突エネルギー202の方向に落下させて、衝撃吸収部材100を図3のZ方向に押し潰す手法を採用している。この落錘試験の諸条件としては、錘の重さ500kg、落錘高さ2mとして、衝撃吸収部材100の圧縮変形挙動を観察するとともに、衝撃吸収部材100の圧縮変形開始からの変位と、かかる圧縮変形により発生した荷重とを出力した。衝撃吸収部材100に使用する樹脂には、東レ(株)製8207X01B(弾性率:1.8GPa、強度:135MPa)を用いた。
【0028】
上記のような落錘試験のシミュレーションにおいては、図3の(a)に示す初期状態から、図3の(b)に示すように、まず先端104から受けた衝撃により第1構造部101において座屈を開始し、第1構造部101が衝撃方向に沿って変形する。続いて、図3の(c)に示すように、第1構造部101に連結し、第1構造部101よりも座屈強度が高い第2構造部102において、衝撃方向に沿って第2構造部102が変形する。この段階までは、第2構造部102に連結し、第2構造部102よりも座屈強度が高く反衝撃端105を形成する第3構造部は実質的変形せず、衝撃方向に加わる荷重を受け止める。図6は実施例1、比較例1および比較例2の荷重-変位線図であり、実施例1における挙動として、図6の500のような荷重-変位線図を得た。
【0029】
また、比較例1として、図4(a)に示された第1実施形態の衝撃吸収部材100の第1構造部101を設けない衝撃吸収部材300について落錘試験のシミュレーションを実施した。結果、図6の501のような荷重-変位線図を得た。変形直後は荷重が徐々に上昇していくが、図4(b)に示された衝撃吸収部材300における第1構造部101があった箇所301(つまり、衝撃吸収部材300における第1構造部の箇所)の座屈により目標荷重を迎えずに荷重が急落する。これは第1構造部にリブが設けられていない比較例1の構造では、荷重を支える構造が設けられていないため荷重が上昇せず、発生する荷重が目標荷重付近に達しないためと考えられる。
【0030】
さらに、比較例2として図5(a)に示された第1実施形態の衝撃吸収部材100の第1構造部101に格子形状部401を設けた衝撃吸収部材400について落錘試験のシミュレーションを実施した。結果、図6の502のような荷重-変位線図を得た。実施例1および比較例1と同様に変形直後は荷重が徐々に上昇していくが、目標荷重を超えた後に荷重が急落する。この時、図5(b)に示された衝撃吸収部材400は第1構造部で衝撃方向202に直交する方向に変形する。これは、格子形状部401は衝撃方向に対して剛性を発揮する一方で、座屈方向は衝撃方向に直交する方向に発生するため、荷重が急落すると考えられる。したがって、第1構造部は実施例1に代表されるようなX字形状の板状形状構造が衝撃方向に座屈するため、好適に用いられる。その他、くの字形状構造、クラッシュビートまたはノッチを有する構造は、実施例1と同等の結果が得られたので、そのような構造を用いてもよい。
【0031】
次に、比較例3として図7(a)に示された第1実施形態の衝撃吸収部材100の第2構造部に設けない衝撃吸収部材600について落錘試験のシミュレーションを実施した。図9は実施例1、比較例3および比較例4の荷重-変位線図であり、比較例3における挙動として図9の800のような荷重-変位線図を得た。変形直後は荷重が徐々に上昇していくが、図7(b)に示された衝撃吸収部材600の第1構造部があった箇所301の座屈により目標荷重を迎えずに荷重が急落する。これは第1構造部にリブが設けられていない比較例3の構造では、第2構造部に荷重を支える構造が設けられていないため荷重が上昇せず、発生する荷重が目標荷重付近に達しないためと考えられる。したがって、第2構造部は第1構造部よりも座屈強度が高い構造が好適に用いられる。
【0032】
さらに、比較例4として図8(a)に示された第1実施形態の衝撃吸収部材100の第2構造部に格子形状701を設けた衝撃吸収部材700について落錘試験のシミュレーションを実施した。結果、図9の801のような荷重-変位線図を得た。実施例1同様に変形直後は荷重が目標荷重付近を推移していくが、荷重が急落する。この時、図8(b)に示された衝撃吸収部材700は第2構造部で衝撃方向202に直交する方向に変形する。これは、格子形状は衝撃方向に対して剛性を発揮する一方で、座屈方向は衝撃方向に直交する方向に発生するため、荷重が急落すると考えられる。したがって、第2構造部は実施例1に代表されるようなX字形状に構成された2枚の板状部材および衝撃方向に沿った板状部材が、第1構造部よりも座屈強度が高く衝撃方向に座屈するため、好適に用いられる。その他、くの字形状構造、クラッシュビートまたはノッチを有する構造は、実施例1と同等の結果が得られたので、そのような構造を用いてもよい。また、第1構造部と同様の構造を用いる場合、厚みを厚くすることで座屈強度を第1構造部よりも高くすることができるため、好適に用いられる。
【0033】
また、比較例5として図10(a)に示された第1実施形態の衝撃吸収部材100の第3構造部103を設けない衝撃吸収部材900について落錘試験のシミュレーションを実施した。図11は実施例1、比較例5および比較例6の荷重-変位線図であり、比較例5における挙動として図11の1000のような荷重-変位線図を得た。変形直後は荷重が徐々に上昇していくが、図10(b)に示された衝撃吸収部材900の第3構造部があった箇所901の座屈により目標荷重を迎えずに荷重が急落する。これは第3構造部にリブが設けられていない比較例5の構造では、第3構造部に荷重を支える構造が設けられていないため荷重が上昇せず、発生する荷重が目標荷重付近に達しないためと考えられる。したがって、第3構造部は第1構造部および第2構造部よりも座屈強度が高い構造が好適に用いられる。
【0034】
また、衝撃吸収部材100は、熱可塑性樹脂組成物もしくは熱硬化性樹脂組成物により構成されると、衝撃吸収部材が軽量化できかつ衝撃望ましい衝撃吸収特性が得られるため好ましい。
【0035】
図12は、本発明の第2実施形態(実施例2)に係る衝撃吸収部材1100の落錘試験のシミュレーションモデルを示す概略正面図である。この実施例2においては、前述の実施例1に比べ、第1構造部1101、第2構造部1102、第3構造部1103の少なくともいずれかの外側面部1110に、衝撃を受ける先端側から反衝撃端側に向けて末広がり状となるテーパーが設けられている形態を採用されている。図示例では、第1構造部1101から第3構造部1103までの外側面部1110の全長にわたってテーパーが設けられている。このように第1構造部1101を小径、第2構造部1102もしくは第3構造部1103を大径としたテーパーが設けられることによって衝撃吸収部材1100が低重心となり、第1構造部1101から第3構造部1103へかけて安定した座屈が発生するため、好ましい。図13は実施例1および実施例2の荷重-変位線図であり、実施例2における挙動として図13の1200のような荷重-変位線図が得られるため、衝撃吸収部材が長尺となった場合に衝撃吸収部材の重心を衝撃面より遠ざけることで力学的に安定する構造となる点で好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る衝撃吸収部材、とくに車両用衝撃吸収部材は、衝撃吸収が望まれる車両のあらゆる部位に適用可能であり、特に、自動車車体の前部に加え、後部や側面部に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
100 実施例1に係る衝撃吸収部材
101 衝撃吸収部材100に設けられる第1構造部
102 衝撃吸収部材100に設けられる第2構造部
103 衝撃吸収部材100に設けられる第3構造部
104 先端
105 反衝撃端
110 第1構造部に設けられるX字形状に構成された板状部材
111 第1構造部に設けられるX字形状に構成された板状部材
120 第2構造部に設けられるX字形状に構成された板状部材
121 第2構造部に設けられるX字形状に構成された板状部材
122 第2構造部に設けられる衝撃方向に沿った板状部材
130 第3構造部に設けられる衝撃方向に沿った板状部材
140 外側面部
150 第1構造部に設けられたクラッシュビート
160 第1構造部に設けられたノッチ
200 衝撃吸収部材の底面
201 落錘試験のシミュレーションで用いられる錘
202 錘の衝撃方向
300 衝撃吸収部材における第1構造部を設けない衝撃吸収部材
301 衝撃吸収部材における第1構造部があった箇所
400 衝撃吸収部材の第1構造部に格子形状を設けた衝撃吸収部材
401 衝撃吸収部材の格子形状部
500 実施例1の荷重-変位線図
501 比較例1の荷重-変位線図
502 比較例2の荷重-変位線図
600 衝撃吸収部材における第2構造部を設けない衝撃吸収部材
601 衝撃吸収部材における第2構造部があった箇所
700 衝撃吸収部材の第2構造部に格子形状を設けた衝撃吸収部材
701 衝撃吸収部材の格子形状
800 比較例3の荷重-変位線図
801 比較例4の荷重-変位線図
900 衝撃吸収部材における第3構造部を設けない衝撃吸収部材
901 衝撃吸収部材における第3構造部があった箇所
1000 比較例5の荷重-変位線図
1100 実施例2に係る衝撃吸収部材
1101 実施例2の第1構造部
1102 実施例2の第2構造部
1103 実施例2の第3構造部
1110 実施例2の外側面部
図1
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