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特開2023-122709眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122709
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセット
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
G02C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026362
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】下條 朗
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BC01
2H006BC02
2H006BC03
2H006BC07
(57)【要約】
【課題】外側光学部のシリンダーパワーのコントロールを可能にする。
【解決手段】近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、近用部と遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、近用部または遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった遠用部または近用部である外側光学部が中間部の外縁に環状に配された光学部4を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズ6であって、前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、近用部のシリンダーパワーは近用部に設定される乱視矯正度数と等しく、遠用部のシリンダーパワーは遠用部に設定される乱視矯正度数と等しい、眼用レンズ6およびその関連技術を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーは前記近用部に設定される乱視矯正度数と等しく、前記遠用部のシリンダーパワーは前記遠用部に設定される乱視矯正度数と等しい、眼用レンズ。
【請求項2】
前記中間部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1を有し、且つ、X方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1’を有する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分A2を有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A2’を有する、請求項2に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとは等しい、請求項2または3に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記眼用レンズはコンタクトレンズである、請求項1~4のいずれかに記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記眼用レンズは眼内レンズである、請求項1~4のいずれかに記載の眼用レンズ。
【請求項7】
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとを等しくする、眼用レンズの設計方法。
【請求項8】
前記中間部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1を有し、且つ、X方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1’を有する、請求項7に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項9】
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分A2を有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A2’を有する、請求項8に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項10】
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとは等しい、請求項8または9に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項11】
前記眼用レンズはコンタクトレンズである、請求項7~10のいずれ一つかに記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項12】
前記眼用レンズは眼内レンズである、請求項7~10のいずれか一つに記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項13】
請求項7~12のいずれか一つに記載の眼用レンズの設計方法によって眼用レンズを設計する設計工程と、
設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、
を有する、眼用レンズの製造方法。
【請求項14】
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとが等しい、眼用レンズセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセットに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズとしては、例えばコンタクトレンズや眼内レンズ等が知られている(本明細書においては眼用レンズとしては眼鏡レンズは除く)。例えばコンタクトレンズには、1枚のレンズで近方距離を見るための近用度数と遠方距離を見るための遠用度数を確保するマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)が存在する。この多焦点レンズの構成としては、例えばレンズの中央に近用度数を備えた近用部を配し、その外縁に対し、度数変化をもたらす中間部を環状に配し、その外縁に対し、遠用度数を備えた遠用部を環状に配する構成が挙げられる(例えば特許文献1の[図1][図4])。その逆に、レンズの中央に遠用度数を備えた遠用部を配し、その外縁に対し、度数変化をもたらす中間部を環状に配し、その外縁に対し、近用度数を備えた近用部を環状に配する構成も知られている(例えば特許文献2の[図14])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006-505011号公報
【特許文献2】WO2006/129707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題を説明する前に、光学部について説明を加える。なお、以降においてはマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ。単にレンズとも称する。)であってレンズの中央に近用度数を備えた近用部を配し、その外縁に対し、度数変化をもたらす中間部を環状に配し、その外縁に対し、遠用度数を備えた遠用部を環状に配する多焦点レンズをあくまで一例として例示する。
【0005】
図1は、従来の多焦点レンズを平面視した概略図である。
図1では、レンズの前面(凸面)を上にしてレンズを水平台に載置した際に光軸方向において天地の天の方向から地の方向を見ている。平面視については以降同様とする。平面視した際のレンズ上の距離のことを平面視距離と称する。符号10は近用部、符号20は遠用部、符号30は中間部、符号40は光学部、符号50は周辺部、符号60は多焦点レンズを指す。下一桁の0を削除した符号が、後掲の本実施形態に係るレンズの対応各部である。以降、符号は省略する。
【0006】
図1に示すように、レンズの光学中心Oを同心として中央に近用部、その外縁に環状の中間部、更にその外縁に遠用部を配する。本例では光学中心Oを幾何中心と一致させる。こうして近用部、中間部および遠用部を有する光学部が構成される。そして光学部の更に外縁に環状の周辺部を有する。周辺部はレンズを角膜上に載置した際に瞼の裏に入り込みやすいフランジ形状を有するのが通常である。つまり光学部と周辺部により本例のレンズは構成される。ただし、光学部と周辺部とは各々が上記の機能を奏するために区別されているのであって、光学部と周辺部との間に段差等のように目視で確認可能な明確な境目があるわけではない。
【0007】
図2は、参考例としてのトーリック多焦点レンズを平面視した概略図であって、該レンズにおける、X方向断面でのパワー分布(タンジェンシャル)の概略(下図)と、Y方向断面でのパワー分布(タンジェンシャル)の概略とを示す図(右図)である。いずれのパワー分布も、縦軸:パワー(単位:ディオプター(D))、横軸:光学中心からの距離(mm)である。Y方向断面でのパワー分布の概略とを示す図(右図)では上下軸が横軸、左右軸が縦軸である。いずれのパワー分布も、実線は、水平(左右)方向のパワーを示し、破線は、垂直(上下)方向のパワーを示す。
【0008】
図2において、αは近用部のシリンダーパワーを示し、βは遠用部のシリンダーパワーを示す。
【0009】
以下、本発明の課題について説明する。
【0010】
図3は、多焦点レンズの外側光学部において非点収差が発生する様子を示す説明図である。
【0011】
図3に示すように、多焦点レンズのパワー分布を設計した時点で、外側光学部には既にシリンダーパワーが含まれることになる。そのため、図2のトーリック多焦点レンズでは、外側光学部(ここでは遠用部)のシリンダーパワーが、遠用部に設定される乱視矯正度数と一致しなくなる。つまり、図2のトーリック多焦点レンズにおいては、外側光学部のシリンダーパワーのコントロールは困難であった。
【0012】
本発明の課題は、外側光学部のシリンダーパワーのコントロールを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様は、
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーは前記近用部に設定される乱視矯正度数と等しく、前記遠用部のシリンダーパワーは前記遠用部に設定される乱視矯正度数と等しい、眼用レンズである。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記中間部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1を有し、且つ、X方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1’を有する。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の態様であって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分A2を有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A2’を有する。
【0016】
本発明の第4の態様は、第2または第3の態様に記載の態様であって、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとは等しい。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記眼用レンズはコンタクトレンズである。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1~第4のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記眼用レンズは眼内レンズである。
【0019】
本発明の第7の態様は、
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとを等しくする、眼用レンズの設計方法である。
【0020】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の態様であって、
前記中間部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1を有し、且つ、X方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも、前記中間部の外縁に環状に配された、前記遠用部の遠用度数または前記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1’を有する。
【0021】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の態様であって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分A2を有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A2’を有する。
【0022】
本発明の第10の態様は、第8または第9の態様に記載の態様であって、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとは等しい。
【0023】
本発明の第11の態様は、第7~第10のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記眼用レンズはコンタクトレンズである。
【0024】
本発明の第12の態様は、第7~第10のいずれか一つの態様に記載の態様であって、
前記眼用レンズは眼内レンズである。
【0025】
本発明の第13の態様は、
第7~第12のいずれか一つの態様に記載の眼用レンズの設計方法によって眼用レンズを設計する設計工程と、
設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、
を有する、眼用レンズの製造方法である。
【0026】
本発明の第14の態様は、
近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとが等しい、眼用レンズセットである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、外側光学部のシリンダーパワーのコントロールを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、従来の多焦点レンズを平面視した概略図である。
図2図2は、参考例としてのトーリック多焦点レンズを平面視した概略図であって、該レンズにおける、X方向断面でのパワー分布(タンジェンシャル)の概略(下図)と、Y方向断面でのパワー分布(タンジェンシャル)の概略とを示す図(右図)である。
図3図3は、多焦点レンズの外側光学部において非点収差が発生する様子を示す説明図である。
図4図4は、実施例1の眼用レンズを平面視した概略図であって、該レンズにおける、X方向断面でのパワー分布の概略(下図)と、Y方向断面でのパワー分布の概略とを示す図(右図)である。
図5図5は、実施例1の眼用レンズにおいて光学中心Oを中心とした周方向における表面の高さ(サグ値)を示す概略図であり、横軸は回転角(単位:°)、縦軸(下方向)はサグ値を指す。
図6図6は、実施例1の眼用レンズの平面視でのパワー分布を示す図である。
図7図7は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのタンジェンシャルパワー分布である。
図8図8は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのサジタルパワー分布である。
図9図9は、実施例1の眼用レンズの平面視でのシリンダーパワー分布を示す図である。
図10図10は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのシリンダーパワー分布である。
図11図11は、実施例2の眼用レンズの平面視でのパワー分布を示す図である。
図12図12は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのタンジェンシャルパワー分布である。
図13図13は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのサジタルパワー分布である。
図14図14は、実施例2の眼用レンズの平面視でのシリンダーパワー分布を示す図である。
図15図15は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのシリンダーパワー分布である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.コンタクトレンズ
1-1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)
1-2.好適例1
1-3.好適例2
1-4.好適例3
1-5.その他のコンタクトレンズ
2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)
3.眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)
4.眼用レンズセット
5.変形例
【0030】
なお、以下に記載が無い構成については、公知の構成を適宜採用しても構わない。また、本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
また、本明細書にて扱う眼用レンズ(コンタクトレンズ、または眼内レンズにおけるレンズ本体)は互いに対向する二つの面を有する。該眼用レンズを装用者が装着した際に網膜側に位置する方を「後面」とし、その逆の物体側に位置する方を「前面」とする。
また、本明細書にて度数とはパワー(単位はディオプター[D])のことを指す。
また、本明細書では、形状に関する記載は、特記無い限り、平面視における各領域(近用部、遠用部、中間部)の形状を指す。平面視とは、眼用レンズを装用した状態で装用者を正面視した状態でもあり、その状態での天地の天の方向を上方、地の方向を下方ともい、水平方向を左右方向ともいう。左右の向きは装用者を正面視したときの方向とする。但し、眼用レンズがコンタクトレンズである場合、角膜上でコンタクトレンズが回転することはままある。厳密な上下左右の方向に本発明は限定されない。
また、本明細書では、光学中心Oを内側、眼用レンズの外縁側を外側という。中央から周辺に向かう方向は、光学中心O(一例としては幾何中心と一致)からの径方向である。以降、単に「径方向」ともいう。また、光学中心Oを同心とする方向をであって径方向に垂直な方向を「周方向」ともいう。
X方向とは正反対の方向であって眼用レンズの中央から周辺に向かう方向をX’方向とする。一例として、X方向を右方向、X’方向を左方向とする。
X方向と垂直な方向をY方向とする。
Y方向とは正反対の方向であって眼用レンズ中央から周辺に向かう方向をY’方向とする。一例として、Y方向を上方向、Y’方向を下方向とする。
光学中心Oからの回転角は、X方向を起点として反時計回りの角度とし、X方向を0°、Y方向を90°、X’方向を180°、Y’方向を270°とする。
【0031】
<1.コンタクトレンズ>
1-1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)
本実施形態においてはマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ。以降、単にレンズとも称する。)を主として例示する。
【0032】
本実施形態におけるレンズは、先に説明した従来のレンズと同様、光学性能に主として寄与する略円形状の光学部と、該光学部の周縁に位置する環状の周辺部を備える。
【0033】
先ほど述べたように周辺部はレンズを角膜上に載置した際に瞼の裏に入り込みやすいフランジ形状を有するのが通常である。
【0034】
そして光学部は、近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離(無限遠含む)を見るための遠用度数を備えた遠用部と、近用部と上記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有するものである。なお、中間部は、度数が連続的に変化する領域であって径方向および周方向の曲率が連続的に変化する領域であり、レンズ表面に段差の無い領域である。中間部により多重像の発生を抑制する。
なお、本明細書における近方距離とは遠方距離よりも近い距離ならば特に限定は無い。もちろん、絶対的距離としての近方距離(例えば100cm以下、または読書距離である40cm以下)であってもよい。
【0035】
そして本実施形態においては、近用部が中央に配され、近用部の外縁に環状の中間部が配され、中間部の外縁に遠用部が環状に配された例を挙げる。つまり、本例においては、「中央光学部」は近用部であり、「外側光学部」が遠用部である。
【0036】
本例においては、光学中心Oをレンズの幾何中心と一致させた例を挙げるが、本発明はそれに限定されない(以降同様)。
【0037】
本実施形態のレンズの光学部における近用部は、光学中心OからX方向(外周に向かう方向)で見た時に最後に近用度数から度数が減少する部分と、光学中心OからX’方向で見た時に最後に近用度数から度数が減少する部分との間を指す。「最後に」を付しているのは、近用部の中央において近用度数以下となる部分が一部存在する場合も考慮してのことである。
【0038】
本実施形態のレンズの光学部における環状の中間部は、X方向で見た時、近用部の外縁から、度数が遠用度数まで減少した部分までの間を指す。なお、後掲の好適例2の場合、近用部の外縁から、度数が減少し、遠用度数よりも更に減少した後、遠用度数まで増加した部分までの間を指す。いずれの場合においても、X’方向で見た時も同様である。
【0039】
本実施形態のレンズの光学部における環状の遠用部は、近用部および中間部以外の部分であり、X方向およびX’方向で見た時、中間部にて度数が遠用度数まで減少した以降の部分を指す。
【0040】
先ほども述べたように、本実施形態のレンズでは、近用部が中央に配され、近用部の外縁に環状の中間部が配され、中間部の外縁に遠用部が環状に配されている。その関係上、光学中心Oの方が遠用部よりも度数が高く設定されている。本明細書での「度数が高く」とは、度数の値が大きいことを意味する。以降、度数の高低については同様とする。
【0041】
なお、レンズの処方としては、通常、遠用度数Sと加入度数ADD(そして乱視矯正を行う場合は乱視度数C)の値が与えられるが、近用度数とは(S+ADD)の値である(各度数の単位は[D]、以降同様)。近用部において光学中心Oの近傍の度数を近用度数の値とする。なお、光学中心Oの位置の度数を近用度数の値(すなわち光学中心Oにおける度数=近用度数)とする一方で、光学中心Oが幾何中心からずれた場合、幾何中心においては近用度数の値からわずかにずれても構わない。
【0042】
本実施形態では、上記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、上記近用部のシリンダーパワーは上記近用部に設定される乱視矯正度数と等しく、上記遠用部のシリンダーパワーは上記遠用部に設定される乱視矯正度数と等しい。
「近用部のシリンダーパワー」とは、近用部における乱視矯正度数を指す。より具体的には、近用部における径方向(タンジェンシャル)のシリンダーパワーと、該径方向に垂直な方向(周方向、サジタル)のシリンダーパワーとの差の絶対値を表す。
「遠用部のシリンダーパワー」とは、同様に、遠用部における径方向(タンジェンシャル)のシリンダーパワーと、該径方向に垂直な方向(周方向、サジタル)のシリンダーパワーとの差の絶対値を表す。
本実施形態では、上記近用部のシリンダーパワーは上記近用部に設定される乱視矯正度数と等しい。同様に、上記遠用部のシリンダーパワーは上記遠用部に設定される乱視矯正度数と等しい。この「等しい」は、完全一致の場合も含むし、公差内(±0.12D)も含む。近用部に設定される乱視矯正度数と遠用部に設定される乱視矯正度数とは、大抵の場合は一律に同じ(具体的には遠方視の際の乱視矯正度数を採用)であってもよいし、相違してもよい。上記近用部のシリンダーパワーと上記遠用部のシリンダーパワーとは等しくてもよいし、互いに異ならせてもよい。上記近用部に設定される乱視矯正度数と上記遠用部に設定される乱視矯正度数とが処方として互いに異なる場合、自ずと、上記近用部のシリンダーパワーと上記遠用部のシリンダーパワーとも互いに異なる。
【0043】
ちなみに、装用者情報の処方値は、眼用レンズの仕様書に記載されている。つまり、仕様書があれば、装用者情報の処方値に基づいた眼用レンズの物としての特定が可能である。そして、眼用レンズは仕様書とセットになっていることが通常である。そのため、仕様書が付属したがん累進屈折力レンズも本発明の技術的思想が反映されているし、眼用レンズと仕様書とのセットについても同様である。
【0044】
先に述べたように、累進構造を有する光学部の周辺側では、意図しないシリンダーパワーが生じる。この意図しないシリンダーパワーを解消すべく、累進構造に対し、該意図しないシリンダーパワーを打ち消すトーリック面を合成する。本実施形態では、累進構造は前面により実現される。そして、累進面である前面に対し、上記トーリック面が合成される。累進面とトーリック面との合成については、WO97/019382(日本の特許3852116号)の記載内容を全て参照可能である。なお、累進構造が前面により実現される場合、後面の形状には限定は無いが、一例としては、後面(少なくとも光学部の後面側)は球面またはトーリック面である。
【0045】
本実施形態によれば、外側光学部での意図しないシリンダーパワーの発生を抑制する。なお、具体的な前面の形状には限定は無く、外側光学部に生じる意図しないシリンダーパワーを打ち消す形状であればよい。具体的な態様の好適例は以下の通りである。
【0046】
1-2.好適例1
本実施形態は、WO2020/075312(日本では特許6559866号)に記載の発明を好適例として適用してもよい。
【0047】
好適例1を採用することにより、中間部の外縁の遠用部または近用部においてシリンダーパワーが小さな領域を広く確保できる。本実施形態では、この効果を、外側光学部のシリンダーパワーのコントロールを可能にすることに利用する。
【0048】
本発明の課題の欄で述べたように、図2のトーリック多焦点レンズのパワー分布を設計した時点で、外側光学部には既にシリンダーパワーが含まれることになる。そのため、図2のトーリック多焦点レンズでは、外側光学部(ここでは遠用部)のシリンダーパワーが、遠用部に設定される乱視矯正度数と一致しなくなる。
【0049】
そこで、好適例1を採用することにより、外側光学部に既に含まれるシリンダーパワーをコントロール可能となる。
【0050】
元々、好適例1では、中間部の外縁の遠用部または近用部において意図しないシリンダーパワーを相殺し、結果としてシリンダーパワーが小さな領域を広く確保することが技術的特徴である。この技術的特徴を、乱視矯正度数と一致しなくなるシリンダーパワーのコントロール(例えば該シリンダーパワーの相殺)に活用し、結果として、近用部のシリンダーパワーは近用部に設定される乱視矯正度数と等しくし、且つ、遠用部のシリンダーパワーは遠用部に設定される乱視矯正度数と等しくすることに、本実施形態の特徴の一つがある。
【0051】
以下、該国際公報の内容の概要を記載するが、該国際公報の内容を本明細書に全て組み込み可能である。以下、本明細書の記載を簡潔化するため、遠用部を中央に配置し、近用部を中央の外縁に環状に配置する場合は記載を省略する。
【0052】
本実施形態の好適例は以下の通りである。
「上記中間部において、上記X方向で見た時に、上記中間部の外縁に環状に配された、上記遠用部の遠用度数または上記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1を有し、且つ、X方向とは正反対の方向であって光学中心Oから周辺に向かうX’方向で見た時にも、上記中間部の外縁に環状に配された、上記遠用部の遠用度数または上記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分A1’を有し、
上記中間部において、上記Y方向で見た時に、上記中間部の外縁に環状に配された、上記遠用部の遠用度数または上記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分B1を有し、且つ、Y方向とは正反対の方向であって光学中心Oから周辺に向かうY’方向で見た時にも、上記中間部の外縁に環状に配された、上記遠用部の遠用度数または上記近用部の近用度数よりも度数を強めた後に弱めた部分B1’を有し、
上記光学部の上記部分Aは、上記部分A1および上記A1’でもあり、
上記光学部の上記部分Bは、上記部分B1および上記B1’でもある。」
【0053】
本明細書において、中央に近用部が配され且つ中央の外縁に遠用部が環状に配される場合、遠用部において「遠用度数を強め」とは、より遠くが見える方向すなわちマイナス方向に強めることを指し、度数を減少させることを指す(例:0.00D→-0.10D)。逆に「遠用度数を弱め」とは、遠くが見えにくくなる方向すなわちプラス方向に見て弱めることを指し、度数を増加させることを指す(例:-0.10D→0.00D)。
その一方、中央に遠用部が配され且つ中央の外縁に近用部が環状に配される場合、近用部において「近用度数を強め」とは、より近くが見える方向すなわちプラス方向に強めることを指し、度数を増加させることを指す(例:5.00D→5.10D)。逆に「近用度数を弱め」とは、近くが見えにくくなる方向すなわちプラス方向に見て弱めることを指し、度数を減少させることを指す(例:5.10D→5.00D)。
つまり、中央の外縁に遠用部が配されるか近用部が配されるか未定の段階での「度数を強め」とは、遠用度数または近用度数を強めることを意味し、「度数を弱め」とは遠用度数または近用度数を弱めることを意味する。
【0054】
本実施形態のレンズの中間部は、部分A1のX方向および部分A1'のX'方向で見た時、遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。ここで言う部分A1および部分A1'とは、中間部内において例えば部分A1をX方向に見た時だと度数が減少した後に遠用度数以下へと減少し(好ましくは度数が単調減少)た後、再び遠用度数に至るまで度数が増加す(好ましくは度数が単調増加)る部分のことを指す。
【0055】
本実施形態のレンズにおいては、X方向およびX'方向で見た時にシリンダーパワー(単位:ディオプター)が以下の各条件を満たすのが好ましい。
<条件1-1>
(上記部分A1において上記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に度数を弱めて上記遠用度数に到達したときのシリンダーパワー)≦0.30D(好ましくは0.25D、より好ましくは0.20D、更に好ましくは0.15D)
<条件2-1>
(上記部分A1'において上記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に度数を弱めて上記遠用度数に到達したときのシリンダーパワー)≦0.30D(好ましくは0.25D、より好ましくは0.20D、更に好ましくは0.15D)
上記各条件を満たせば、中間部の外縁の遠用部において、シリンダーパワーが絶対値として小さな領域を確実に広く確保できる。
【0056】
上記条件1-1および条件2-1を、以下の条件1’ -1および条件2’ -1に置き換えまたは上記条件1-1および2-1に追加しても構わない。
<条件1’-1>
(上記部分A1において上記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に度数を弱めて上記遠用度数に到達したときのシリンダーパワー)/(上記中間部における最大シリンダーパワー)≦0.30(好ましくは≦0.25、より好ましくは≦0.20、更に好ましくは≦0.15)
<条件2’-1>
(上記部分A1'において上記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に度数を弱めて上記遠用度数に到達したときのシリンダーパワー)/(上記中間部における最大シリンダーパワー)≦0.30(好ましくは≦0.25、より好ましくは≦0.20、更に好ましくは≦0.15)
上記各条件を満たせば、レンズの中央から周辺に向かって(すなわちX方向およびX’方向で)見た時に、中間部に生じたシリンダーパワーが確実に速やかに減少することになる。
【0057】
なお、部分A1において度数が極小となる箇所は1か所のみであるのが好ましく、且つ、部分A1'においても度数が極小となる箇所は1か所のみであるのが好ましい。この規定により、度数プロットで見たときに多数の小さな凹部分を設けなくて済み、レンズ設計を複雑化せずに済む。ただ、上記規定は必須ではなく、例えば2、3か所の極小となる箇所を設けても構わない。
【0058】
また、部分A1において度数が極小となる(最外縁側の)箇所と、部分A1'において度数が極小となる(最外縁側の)箇所との間の平面視距離Lは2.0~5.0mmであるのが好ましい。下限は、より好ましくは2.2mmであり、上限は、より好ましくは4.8mmである。この規定により、度数の減少後増加させる位置を確実に適切なものとし、具体的な寸法を基にシリンダーパワーの小さい遠用部を確保できる。ただ、上記数値範囲は必須ではなく、レンズの種類に応じて適宜平面視距離Lを設定しても構わない。
【0059】
また、近用度数と遠用度数との差に対する、部分A1および部分A1'における度数の極小値と遠用度数との差の割合は、0.15以上且つ1.0以下であるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.25、更に好ましくは0.30、非常に好ましくは0.40であり、上限は、より好ましくは0.90、更に好ましくは0.80、非常に好ましくは0.70である。
【0060】
例えば、X方向で見た時に、中間部における上記度数変化を経て遠用度数へと至った後、度数が一定となる以外に、度数が単調増加したり単調減少したりという度数プロットを有しても構わない。但し、遠用部は、近方距離よりも遠くの所定の距離を見るための遠用度数を備えた部分であるため、過度の度数変化は好ましくなく、遠用度数から±0.50D(好ましくは±0.25D)の範囲内とするのが好ましい。
【0061】
中央の近用部についても同様、近用度数に比べて度数が増加したり減少したりという度数プロットを有しても構わない。但し、近用部は近方距離を見るための近用度数を備えた部分であるため、過度の度数変化は好ましくなく、近用度数から±0.50D(好ましくは±0.25D)の範囲内とするのが好ましい。更に、近用部において近用度数よりも度数が減少すると、上記近方距離を見るための度数が足りないこととなり好ましくない。そのため、近用度数から+0.50D(好ましくは+0.25D)の範囲内とするのが更に好ましい。また、近用部において近用度数を十分確保すべく、光学中心OからX方向およびX’方向に見た時、近用度数よりも近用へと度数を強めた形状を近用部に備えさせてもよい。
【0062】
好適例2だと、中間部の外縁の遠用部または近用部においてシリンダーパワーが0.25D以下となっており、ほとんどがゼロ近傍となっている。つまり、中間部で生じたシリンダーパワーが速やかに減少し、中間部の外縁の遠用部または近用部においてシリンダーパワーが小さな領域を広く確保できている。
【0063】
なお、本実施形態のレンズは、上記各構成によって遠用部において広い範囲で低シリンダーパワーを実現できる。具体的には、レンズに対して直線X-X'を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、遠用部においてシリンダーパワーが0.50D以下の部分が80面積%以上であるのが好ましく、90面積%以上がより好ましく、95面積%以上が更に好ましい。
【0064】
なお、本明細書において「面積%」とは、平面視した際の光学部の面積に対し、同じく平面視した際の、光学中心Oからみて、レンズに対して直線X-X'を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに上記の形状を有する部分(例えば光学中心Oと光学部の最外縁の円弧で囲まれる扇形の2か所の部分(0°~180°にある部分A1、180°~360°にある部分A1'))の面積の合計の百分率を意味する。
【0065】
ちなみに、レンズにおける光学部と周辺部との間には、先に述べたように目視で確認可能な境目があるわけではないが、レンズの度数を測定する装置(パワーメータ)を使用することにより判別可能である。
【0066】
1-3.好適例2
本実施形態は、WO2018/138931(日本では特許6188974号)に記載の発明を好適例として適用してもよい。以下、該国際公報の内容の概要を記載するが、該国際公報の内容を本明細書に全て組み込み可能である。以下、本明細書の記載を簡潔化するため、遠用部を中央に配置し、近用部を中央の外縁に環状に配置する場合は記載を省略する。
【0067】
本実施形態の好適例は以下の通りである。
「上記中央光学部において、上記X方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分A2を有し且つX方向とは正反対の方向であって光学中心Oから周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A2’を有し、
上記中央光学部において、上記Y方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分B2を有し且つY方向とは正反対の方向であって光学中心Oから周辺に向かうY’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分B2’を有し、
上記光学部の上記部分Aは、上記部分A2および上記A2’でもあり、
上記光学部の上記部分Bは、上記部分B2および上記B2’でもある。」
【0068】
なお、部分A2において度数が極大となる箇所は1か所のみであり、且つ、部分A2'においても度数が極大となる箇所は1か所のみであるのが好ましい。言い換えると、度数プロットで見たときに上に凸部分が2か所(すなわち凹部分が1か所)存在するのが好ましい。この規定により、度数プロットで見たときに多数の小さな凸部分を設けなくて済む。
【0069】
また、部分A2において度数が極大となる箇所と、部分A2'において度数が極大となる箇所との間の平面視距離Lは1.0~2.8mmであるのが好ましい。下限は、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.4mm、非常に好ましくは1.6mmであり、上限は、より好ましくは2.6mm、さらに好ましくは2.4mmである。この規定により、度数の増加後減少させる位置を確実に適切なものとすることが可能となる。ただ、それは必須ではなく、レンズの種類に応じて適宜平面視距離Lを設定しても構わない。
【0070】
また、部分A2における度数の極大値と近用度数との差は0.05~0.25Dであり、且つ、部分A2'における度数の極大値と近用度数との差も0.05~0.25Dであるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.10D、さらに好ましくは0.12D、非常に好ましくは0.15Dであり、上限は、より好ましくは0.20Dである。
【0071】
中央の近用部、周縁の遠用部に加え、そのさらに周縁に環状の近用部を設ける場合も本発明は排除しない。また、後で詳述するが中央に遠用部を設け、周縁に近用部、そのさらに周縁に環状の遠用部を設ける場合も同様である。
【0072】
なお、本実施形態のレンズは、部分A2および部分A2'においては近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。例えば、レンズに対して直線X-X'を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、該形状を有する部分が光学部全体(説明の便宜上、単に光学部とも称する。)の50面積%以上であるのが好ましく、80面積%以上がより好ましく、90面積%以上がさらに好ましい。
【0073】
この好適例を採用することにより、光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保ち、光学部の中央に遠用部が配された場合、遠用部において遠用度数を十分に確保しつつも遠用部とその外縁に設けられた近用部とのバランスを良好に保てる。
【0074】
1-4.好適例3
本実施形態では、老若男女問わず人間の入射瞳の直径(以降、入射瞳径とも称する。)を採用すればよい。本明細書では、入射瞳径は、眼用レンズを通過する光束のうち、絞り穴(ここでは装用者の瞳孔)に入射する光が該レンズ(正確には該レンズの前面)に形成する直径を指す。つまり、入射瞳径とは、平面視における該レンズの円形領域の直径を指す。一例としては、想定入射瞳径は4.0~5.0mmであってもよく、4.4mmであってもよい。以降は、想定入射瞳径として4.4mmを挙げる。想定入射瞳径は、光学中心Oを中心とした仮想円の直径でもある。想定入射瞳径のことを単に入射瞳径と呼ぶこともある。想定入射瞳径は、装用者の瞳孔中心と光学中心とを一致させて眼用レンズを装用者に装用させた状態を仮定して定義される
【0075】
「中間部の外縁は想定入射瞳径内に収まる」ことにより、外側光学部である遠用部の少なくとも一部が入射瞳径内に存在することが規定される。「外側光学部の外縁は想定入射瞳径外に存在する」ことにより、遠用部は入射瞳径の範囲外にも存在する程度には大きいことが規定される。
【0076】
本実施形態に係る眼用レンズの光学部では、前記想定入射瞳径内において、X方向で見た時の遠用パワー団と近用パワー団との比率(比率X1)と、Y方向で見た時の遠用パワー団と近用パワー団との比率(比率Y1)とが異なる。詳しく言うと、X方向で見た時の光学部の部分Aのパワー分布を構成する遠用パワー団と近用パワー団との比率X1と、Y方向で見た時の前記光学部の部分Bのパワー分布を構成する遠用パワー団と近用パワー団との比率Y1とが異なる。
【0077】
本明細書では、光学部のパワー分布とは、以下のプロットを指す。プロットの横軸は、レンズを平面視した際のX方向断面における光学中心Oからの距離(単位:mm)を示す。縦軸は、レンズの球面度数(単位:ディオプター[D])を示す。以降、球面度数をプロットした図については同様とする。本明細書においては、特記無い限り、「断面」は光学中心Oを通過する。
【0078】
該プロットを得るために、光線追跡を用いた光学設計解析ソフトウェア(Zemax OpticStudio:Zemax,LLC製)を使用してもよい。アパーチャ径は8.0mmに設定し、光の波長は550nmとしてもよい。以降、本明細書においては特記無い限りこれらを採用した例を挙げる。
【0079】
本態様では、光学部のパワー分布は遠用パワー団(mass)と近用パワー団とからなる。本明細書では、遠用度数に加入度数の1/2を足した値以上の度数を近用パワー団とし、それ以外を遠用パワー団とする。遠用パワー団は主に遠用部によりもたらされ、近用パワー団は主に近用部によりもたらされる。そのため、遠用パワー団は遠用部側に属すると表現し、近用パワー団は近用部側に属すると表現する。パワー団をパワー帯(belt)と呼んでも構わない。
【0080】
上記比率X1の求め方の一例は、以下の通りである。まず、光学部のパワー分布を得る。即ち、横軸を光学中心Oからの距離、縦軸をレンズの球面度数とした上記プロットを、前記想定入射瞳径内の部分Aについて得る。そして、上記プロットにおいて、遠用度数に加入度数の1/2を足した値を閾値とし、近用パワー団とみなされるプロットと横軸との間の面積NAと、遠用パワー団とみなされる部分と横軸との間の面積FAとの比率がX1である。
【0081】
上記面積NAの定義は、外側光学部が遠用部の場合は、部分Aにおける最小度数を有する横線と、近用パワー団とみなされるプロットと、の間の面積であり、外側光学部が近用部の場合は、部分Aにおける最大度数を有する横線と、近用パワー団とみなされるプロットと、の間の面積である。
【0082】
上記面積FAの定義は、外側光学部が遠用部の場合は、部分Aにおける最小度数を有する横線と、遠用パワー団とみなされるプロットと、の間の面積であり、外側光学部が近用部の場合は、部分Aにおける最大度数を有する横線と、遠用パワー団とみなされるプロットと、の間の面積である。
【0083】
比率Y1も、比率X1と同様の手法で得る。なお、上記比率X1および上記比率Y1は、NA:FAで表してもよいし、NA/FAで表してもよいし、FA/NAで表してもよい。
【0084】
また、上記比率X1は、上記NAの横軸方向距離と上記FAの横軸方向距離との比率で表してもよい。
【0085】
本明細書の「上記比率X1と上記比率Y1とを相違」は、少なくともいずれかの上記定義に則って相違することを指す。
【0086】
上記比率X1と上記比率Y1とを相違させる具体的な光学部の構成には限定は無い。以下、具体例を挙げる。
【0087】
本明細書において「比率X1と比率Y1とが異なる」とは、部分Aのパワー分布と部分Bのパワー分布とが同一形状ではないことを指す。該パワー分布の中でも外側光学部(本例では遠用部)および中間部の少なくともいずれかのパワー分布が同一形状ではないことを指す。
【0088】
本明細書において「比率X1と比率Y1とが異なる」は、以下のように具体的に表現することも可能である。
「以下の各条件の一つを満たす。
(条件1)想定入射瞳径内において、X方向で見た時の遠用部の幅と、Y方向で見た時の遠用部の幅とが相違する。
(条件2)X方向で見た時の遠用部の幅と、Y方向で見た時の遠用部の幅とが一致する一方、中間部の環の帯状の領域は幅広部分と幅狭部分とを有する。
(条件3)X方向で見た時の遠用部の幅と、Y方向で見た時の遠用部の幅とが一致し、且つ、中間部の環の帯状の領域の幅が一定である一方、少なくとも中間部を径方向に見たときの度数の変化の挙動が、X方向とY方向とで異なる。」
上記条件1~3は、それぞれ具体例1~3に対応する。
また、条件1を満たしつつ、中間部の環の帯状の領域は幅広部分と幅狭部分とを有する、および、少なくとも中間部を径方向に見たときの度数の変化の挙動が、X方向とY方向とで異なる、という条件の少なくともいずれかを満たしてもよい。
【0089】
いずれの具体例にせよ、中央光学部である近用部または遠用部が光学機能を発揮し、中間部により多重像の発生を抑制しつつ、外側光学部である遠用部側に属する遠用パワー団または外側光学部である近用部側に属する近用パワー団を確保しやすくなることに変わりはない。
【0090】
いずれの具体例でも共通する規定であるが、前記近用部の平面視での面積は3.14mm2以上であってもよく、前記近用部は、光学中心Oを中心とした面積3.14mm2以上の円を包含してもよい。中央光学部(本例では近用部)の直径は2mmを確保するのが好ましいことを考慮して上記面積の値は規定されている。但し、後掲の実施例が示すように、該面積は2.50mm2以上であってもよく、2.75mm2以上であってもよく、3.00mm2以上であってもよい。
【0091】
いずれの具体例でも共通する規定であるが、中間部の外縁が直径4.5mmの円の枠内に収まれば、中間部の外側にある遠用部を広く確保できるため好ましい。中間部の外縁が直径4.0mmの円に収まってもよい。中間部の内縁つまり近用部の外縁の大きさとしては近用部の機能を十分に発揮できれば限定は無いが、例えば近用部の外縁が直径2.5mm(或いは直径3.0mm)の円を包含する程度に大きければよい。
【0092】
中央光学部(本例では近用部)の大きさの上限は、装用者に合わせて適宜変更すればよいが、外側光学部(本例では遠用部)を確保するという観点から適度な大きさが好ましい。例えば、中央光学部は直径2.5mmの円内に包含される程度の大きさでもよい。
【0093】
また、X方向が所定の一つの値の回転角の場合において比率X1と比率Y1とが異なればよい。そうすれば、仮に比率X1において遠用パワー団の比率が最小の場合、少なくとも図1の正円(各回転角において比率X1で一定)の場合に比べ、比率Y1において遠用パワー団の比率がX1よりも必ず大きくなる。その一方、光学部において、比率X1と比率Y1とが異なる領域が占める割合が大きいほど、本実施形態の効果は顕著に奏される。該割合を示すために光学中心Oからの回転角を使用してもよい。比率X1と比率Y1とが異なる領域か否かを、回転角の範囲ごとに変えてもよい。その場合、該領域は扇状となる。
【0094】
回転角の範囲が大きいほど扇状の該領域を広く備えることになり、ひいては本実施形態の構成を広く備えることを意味するため、好ましい。例えば、光学中心Oから径方向に見たときに、本実施形態の構成を備える回転角の範囲が合計で180°以上(光学部全体の50面積%以上)となるのが好ましく、210°以上(光学部全体の58面積%以上)、240°以上(光学部全体の67面積%以上)、270°以上(光学部全体の75面積%以上)、300°以上(光学部全体の83面積%以上)、330°以上(光学部全体の92面積%以上)、或いは、360°(つまり全体)(光学部全体の100面積%)である。
【0095】
なお、上記においてはパワー分布により本実施形態を説明したが、パワー分布の代わりに前面の形状(曲率)にて本実施形態を規定することも可能である。なぜなら、従来のレンズだと、角膜と接する方の面(後面)は角膜の形状に倣った面(例えば球面やトーリック面)に準ずる形状としなければならない。そうなると、度数の調整を瞼側の面(前面)の形状により行わなければならない。実際、本明細書にて言及したパワー分布は、後面を球面とし、前面の形状を調整することにより得ている。
その結果、度数プロットの特徴がレンズの前面の形状(曲率)により表すことも可能である。
ちなみに度数にて規定した場合の好適例を、曲率半径を用いた場合に対し、適宜度数を曲率半径へと変換したうえで適用することも可能である。
【0096】
1-5.その他のコンタクトレンズ
本実施形態においてはマルチフォーカルコンタクトレンズを例示したが、それ以外のコンタクトレンズにも本発明の技術的思想を適用することが可能である。
【0097】
例えば、マルチフォーカルトーリックコンタクトレンズにおいても、トーリック形状だからといって上記のような度数の挙動は妨げられない。なぜならトーリックコンタクトレンズだとレンズの一面に一様な曲率差(径方向と周方向との曲率差)が設けられるのであり、本発明の知見として述べた、中間部にて周方向の曲率が径方向の曲率に近づかせることに何ら支障はないためである。そのため、トーリックコンタクトレンズであっても本発明の技術的思想を適用することが可能である。
【0098】
なお、先に説明した各部分を備える本実施形態のレンズは、ソフトコンタクトレンズであってもハードコンタクトレンズであっても適用可能であるが、角膜上での配置がほとんど動かないソフトコンタクトレンズだと、十分な光学性能および装用者への顧客満足を提供する点でより好ましい。
【0099】
また、本実施形態のレンズに対し、近視進行抑制効果を備えさせてもよい。このレンズを近視進行抑制レンズと称する。近視進行抑制効果は、眼球に入射する光を網膜の手前(網膜から見て物体側の方向)にて収束させることにより近視進行抑制効果が得られる。
【0100】
この近視進行抑制効果は、例えば、中心遠用のレンズにて実現可能である。具体的には、中央の遠用部は処方値が反映された形状を有しつつ、中間部を挟んでその外縁には、遠用部よりも度数が高い近用部(光を網膜の手前に収束)を設けてもよい。
【0101】
逆に、この近視進行抑制効果は、中心近用のレンズでも実現可能である。具体的には、中央の近用部では光を網膜の手前に収束させつつ、中間部を挟んでその外縁には、近用部よりも度数が低いすなわち処方値が反映された形状を有する遠用部を設けてもよい。
【0102】
つまり、近視進行抑制効果を備えさせたレンズの場合、レンズ内に同心円状に配置されるいずれかの領域のうちいずれかの領域の形状が装用者の処方値を反映していれば、本発明の効果を奏する。本実施形態の特徴を備えた円環状の中間部からみて中心寄りおよび外縁寄りの遠用部および近用部(特に近用部)は、必ずしも装用者の処方値が反映された形状でなくともよい。本明細書における“近方距離に対応する近用度数”とは、これまで使用してきた表現“近方距離を見るための近用度数”すなわち装用者の処方値に対応する度数も含むし、網膜の手前に光を収束させるものも含む。誤解が生じない表現にするのならば、“近方距離に対応する度数”と称してもよい。
【0103】
以上の結果、本実施形態の各例によれば、レンズの中央から周辺に向かって見た時に、中間部に生じたシリンダーパワーを速やかに減少させ、中間部の外縁の遠用部または近用部のシリンダーパワーを小さくすることが可能となり、ひいては中間部の外縁の遠用部または近用部においてシリンダーパワーが小さな領域を広く確保することが可能となる。
【0104】
<2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)>
上記の内容は、コンタクトレンズの設計方法や製造方法においても十分に適用可能である。例えば設計方法については以下の構成となる。
「近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとを等しくする、眼用レンズの設計方法。」
【0105】
なお、具体的な設計手法に関してであるが公知のレンズの設計方法や設計装置にて設計を行えば足りる。また、<1.コンタクトレンズ>にて述べた場合分け(中央に近用部を配する場合と遠用部を配する場合)および各好適例は本項目に適用可能であり、<1.コンタクトレンズ>の記載と重複してしまうため、ここでは記載を省略する。
【0106】
上記中間部の外縁を平面視にて正円から楕円に変形するよう設計変更する際、正円の半径からの楕円の短軸長さへの減少量は、正円の半径からの楕円の長軸長さへの増加量よりも大きくしてもよい。これにより、正円のときよりも遠用部の面積を確実に大きくできる。
【0107】
また、製造方法に関してであるが、上記の眼用レンズの設計方法(場合によっては各好適例を適宜組み合わせる)によって眼用レンズを設計する設計工程と、設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、を有する。なお、具体的な加工手法に関してであるがこれも公知のレンズの加工装置を用いて加工を行えば足りる。具体的な手法は公知の手法を応用すればよい。例えば、WO02/048779(日本での特許5031808号)に記載の内容を適用してもよい。
【0108】
<3.眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)>
本発明の技術的思想は、眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)においても十分に適用可能である。眼内レンズとしては特に限定は無く、水晶体嚢内に配置する形式(イン ザ バッグ)の眼内レンズや、嚢外に配置する形式(アウト ザ バッグ)の眼内レンズや、縫着型の眼内レンズ等々に適用可能である。
【0109】
なお、本発明の技術的思想を眼内レンズに適用する場合、少なくとも光学部があればよい。なお、<1-1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)>で述べたのと同様に、光学性能に主として寄与する光学部の周縁に環状の周辺部を設けても構わないが、ここで挙げる本例の眼内レンズは、光学部と、水晶体嚢内にて光学部を支持する支持部とで構成される。比較的多いケースとしては、眼内レンズが、上記の光学部と、光学部から延在する支持部とを備える場合である。支持部については公知の眼内レンズの支持部の形状を採用すればよいが、例えば光学部から腕状に延在する2本の支持部を光学部に設け、これを眼内レンズとしても構わない。
【0110】
なお、眼内レンズの設計方法(製造方法)についてであるが、光学部の設計は<2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)>で述べたのと同様であることから記載を省略する。具体的な設計(製造)手法に関してであるが公知の眼内レンズの設計方法(加工装置)にて設計を行えば足りる。また、<1.コンタクトレンズ>にて述べた場合分け(中央に近用部を配する場合と遠用部を配する場合)および各好適例は本項目に適用可能であり、<1.コンタクトレンズ>の記載と重複してしまうため、ここでは記載を省略する。
【0111】
<4.眼用レンズセット>
上記の内容は、本実施形態にて例示したコンタクトレンズを複数備えるコンタクトレンズセットや、同じく本実施形態にて例示した眼内レンズを複数備える眼内レンズセットにおいても十分に適用可能である。これらのレンズセットを総称して「眼用レンズセット」と称する。
【0112】
少なくともコンタクトレンズを製品として販売する際には、1枚のコンタクトレンズを販売するのみならず、多種多様な度数(パワー)やベースカーブを有する複数のコンタクトレンズをひとまとめにして(例:同じベースカーブを有する一方で度数が異なる複数のコンタクトレンズ)一商品名として頻繁に販売されている。
【0113】
そこで、先に詳述した本実施形態のコンタクトレンズ(または眼内レンズ等)のような度数の挙動を示すものを複数揃えた眼用レンズセットに関しても、本発明の技術的思想が十分に反映されている。
見方を変えると、本実施形態における眼用レンズセットを構成するすべての眼用レンズセットが先に述べた度数の挙動を示す。これは、従来技術において上記の度数の挙動を示す眼用レンズが1枚作製されたとしても、偶々作製されたこの眼用レンズと、本実施形態における眼用レンズセットとでは、構成として全く相違することを意味する。
【0114】
上記の眼用レンズを複数備える眼用レンズセットの構成は以下のとおりである。なお、以下の構成に対し、先に挙げた好適例を適宜組み合わせてもよい。
【0115】
「近方距離に対応する近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離に対応する遠用度数を備えた遠用部と、前記近用部と前記遠用部との間を繋ぐ環状の中間部と、を有し、前記近用部または前記遠用部である中央光学部が中央に配され、中央に配されなかった前記遠用部または前記近用部である外側光学部が前記中間部の外縁に環状に配された光学部を備え、且つ、物体側に配される前面と該前面に対向する後面とを有する眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記前面は、累進面とトーリック面との合成面であり、
前記近用部のシリンダーパワーと前記遠用部のシリンダーパワーとが等しい、眼用レンズセット。」
【0116】
<5.変形例>
本発明は上記の各例に限定されることはなく、上記の各例および好適例を適宜組み合わせてももちろん構わない。
【0117】
例えば、「中央光学部」が遠用部であり、「外側光学部」が近用部であってもよい。その場合、上記文章において近用部と遠用部とを交換し、度数の高低の表現もそれに合わせて変更すれば、本発明を適用可能である。それ以外の内容については、本実施形態で説明した内容を援用可能である。
【実施例0118】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0119】
<実施例1>
本実施例は、好適例2を適用したレンズである。
本実施例は、ベースカーブ(BC)が8.50、遠用度数(球面度数)Sは-5.00D、近用度数(S+ADD)は-3.00D、乱視度数Cは-1.50Dに設定している。つまり、加入度数ADDは+2.00Dである。本明細書において「加入度数」とは、近用度数から遠用度数を引いた値である。レンズの中心厚(CT)は0.10mm、レンズの屈折率(n)は1.44である。以降、特記無い限り同様とする。
【0120】
図4は、実施例1の眼用レンズを平面視した概略図であって、該レンズにおける、X方向断面でのパワー分布の概略(下図)と、Y方向断面でのパワー分布の概略とを示す図(右図)である。いずれのパワー分布も、縦軸:パワー(D)、横軸:光学中心からの距離(mm)である。本明細書では、乱視度数のパワー分布はシリンダーパワー分布と称する。単に「パワー分布」という表現は、球面度数のパワー分布を指す。
図5は、実施例1の眼用レンズにおいて光学中心Oを中心とした周方向における表面の高さ(サグ値)を示す概略図であり、横軸は回転角(単位:°)、縦軸(下方向)はサグ値を指す。
図6は、実施例1の眼用レンズの平面視でのパワー分布を示す図である。
図7は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのタンジェンシャルパワー分布である。
図8は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのサジタルパワー分布である。
図9は、実施例1の眼用レンズの平面視でのシリンダーパワー分布を示す図である。
図10は、実施例1の眼用レンズにおける、Y方向断面でのシリンダーパワー分布である。
本明細書におけるパワー分布中の縮尺は、+1が+4.0mmを示し、-1が-4.0mmを示す。レンズ中心からのX方向の距離をX-pupil、レンズ中心からのY方向の距離をY-pupilともいう。
【0121】
<実施例2>
図11は、実施例2の眼用レンズの平面視でのパワー分布を示す図である。
図12は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのタンジェンシャルパワー分布である。
図13は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのサジタルパワー分布である。
図14は、実施例2の眼用レンズの平面視でのシリンダーパワー分布を示す図である。
図15は、実施例2の眼用レンズにおける、Y方向断面でのシリンダーパワー分布である。
【0122】
本実施例では、Sを-3.00Dに設定し、図10図14に記載した(シリンダー)パワー分布とした以外は、実施例1と同様とした。
【符号の説明】
【0123】
10……近用部
20……遠用部
30……中間部
4………光学部
5………周辺部
6………マルチフォーカルコンタクトレンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15