(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122720
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ワークロールの速度設定方法、圧延方法、圧延鋼板の製造方法、及び、圧延設備
(51)【国際特許分類】
B21B 1/26 20060101AFI20230829BHJP
B21B 27/02 20060101ALI20230829BHJP
B21B 1/42 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B21B1/26 D
B21B27/02 A
B21B1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026378
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慎也
(72)【発明者】
【氏名】植野 雅康
【テーマコード(参考)】
4E002
4E016
【Fターム(参考)】
4E002AD01
4E002BB10
4E002BB11
4E002BC02
4E002CA08
4E016AA03
4E016BA01
4E016BA04
4E016CA04
4E016DA19
(57)【要約】
【課題】安定的な圧延を行うことができるワークロールの速度設定方法、圧延方法、圧延鋼板の製造方法、及び、圧延設備を提供すること。
【解決手段】本発明のワークロールの速度設定方法は、圧延材を挟んで対向する一対の主軸のそれぞれの周りに配置された2本以上のワークロールが、主軸を中心に公転しながら自転して圧延材を圧延するプラネタリミルにおける、ワークロールの公転速度とワークロールの自転速度とから決定される圧延速度を、プラネタリミルの出側での圧延材速度よりも大きくなるように設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を挟んで対向する一対の主軸のそれぞれの周りに配置された2本以上のワークロールが、前記主軸を中心に公転しながら自転して前記圧延材を圧延するプラネタリミルにおける、前記ワークロールの公転速度と前記ワークロールの自転速度とから決定される圧延速度を、前記プラネタリミルの出側での圧延材速度よりも大きくなるように設定することを特徴とするワークロールの速度設定方法。
【請求項2】
前記プラネタリミルの出側での圧延材速度は、実測値または計算値によって求めることを特徴とする請求項1に記載のワークロールの速度設定方法。
【請求項3】
前記ワークロールと前記圧延材との接触中の前記プラネタリミルの出側での圧延材速度をv1とし、前記圧延材の入側板厚をh0とし、前記圧延材の出側板厚をh1とし、ワークロール接触時間/公転周期をaとし、平均板速度をv1mとしたとき、前記圧延材速度v1を、v1={h0-(1-a)×h1}/ah0×v1mの数式を用いて算出することを特徴とする請求項1または2に記載のワークロールの速度設定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のワークロールの速度設定方法を用いて設定した圧延速度で前記プラネタリミルにより前記圧延材を圧延することを特徴とする圧延方法。
【請求項5】
請求項4に記載の圧延方法を用いて圧延鋼板を製造することを特徴とする圧延鋼板の製造方法。
【請求項6】
圧延材を挟んで対向して配置される一対の主軸のそれぞれの周りに配置された2本以上のワークロールによって前記圧延材を圧延するプラネタリミルと、
前記プラネタリミルよりも前記圧延材の移動方向で上流側に配置された、前記圧延材を搬送するためのフィードロールと、
を備え、
圧延後の圧延材速度よりも、前記ワークロールの公転速度と前記ワークロールの自転速度とから決定される圧延速度が高速であることを特徴とする圧延設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークロールの速度設定方法、圧延方法、圧延鋼板の製造方法、及び、圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板の熱間圧延において、圧延ラインの設備簡略化、圧延機導入スタンド数の削減や加工材質制御を目的として、圧下率おおよそ60[%]を超える大圧下を実現可能な圧延機が種々開発されている。例えば、特許文献1や特許文献2に記載のロールキャスト式のプラネタリミルは、主軸の周りに配置された4本~8本のワークロールが高速で公転しながら、それぞれ独立に自転し、バックアップロールなしで、ワークロールの遠心力により、圧延材を低速にて鍛造圧延する圧延機であり、特許文献3などに記載されているような、その他のプラネタリミルよりも、機構が単純なため設備保守が容易であるという特徴を有する。一方、圧延材は、プラネタリミルのワークロールによって圧延方向とは反対側に力を受けるため、プラネタリミル単体では圧延材を引き込むことができず、プラネタリミルの入側に配置された、圧延材を挟んで対向する一対のフィードロールによって、圧延材をプラネタリミルに向けて押し込みながら圧延を行うことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-85305号公報
【特許文献2】特開昭51-14755号公報
【特許文献3】特開昭62-176603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィードロールによって圧延材をプラネタリミルに向けて押し込む押し込み力に対して、一対のフィードロールによって圧延材を挟むように押圧する押圧力が不十分であると、圧延材とフィードロールとの間でスリップが生じ、安定的な圧延を実現することができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、安定的な圧延を行うことができるワークロールの速度設定方法、圧延方法、圧延鋼板の製造方法、及び、圧延設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るワークロールの速度設定方法は、圧延材を挟んで対向する一対の主軸のそれぞれの周りに配置された2本以上のワークロールが、前記主軸を中心に公転しながら自転して前記圧延材を圧延するプラネタリミルにおける、前記ワークロールの公転速度と前記ワークロールの自転速度とから決定される圧延速度を、前記プラネタリミルの出側での圧延材速度よりも大きくなるように設定することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明に係るワークロールの速度設定方法は、上記の発明において、前記プラネタリミルの出側での圧延材速度は、実測値または計算値によって求めることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係るワークロールの速度設定方法は、上記の発明において、前記ワークロールと前記圧延材との接触中の前記プラネタリミルの出側での圧延材速度をv1とし、前記圧延材の入側板厚をh0とし、前記圧延材の出側板厚をh1とし、ワークロール接触時間/公転周期をaとし、平均板速度をv1mとしたとき、前記圧延材速度v1を、v1={h0-(1-a)×h1}/ah0×v1mの数式を用いて算出することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る圧延方法は、上記の発明のワークロールの速度設定方法を用いて設定した圧延速度で前記プラネタリミルにより前記圧延材を圧延することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る圧延鋼板の製造方法は、上記の発明の圧延方法を用いて圧延鋼板を製造することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る圧延設備は、圧延材を挟んで対向して配置される一対の主軸のそれぞれの周りに配置された2本以上のワークロールによって前記圧延材を圧延するプラネタリミルと、前記プラネタリミルよりも前記圧延材の移動方向で上流側に配置された、前記圧延材を搬送するためのフィードロールと、を備え、圧延後の圧延材速度よりも、前記ワークロールの公転速度と前記ワークロールの自転速度とから決定される圧延速度が高速であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るワークロールの速度設定方法、圧延方法、圧延鋼板の製造方法、及び、圧延設備は、安定的な圧延を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係るプラネタリミルを備えた圧延設備の概略図である。
【
図2】
図2は、プラネタリミルにおいてワークロールが無駆動回転の場合の力の作用図である。
【
図3】
図3は、プラネタリミルにおいてワークロールが圧延材の出側板速度に比べて小さい圧延速度で駆動回転する場合の力の作用図である。
【
図4】
図4は、プラネタリミルにおいてワークロールが圧延材の出側板速度に比べて大きい圧延速度で駆動回転する場合の力の作用図である。
【
図5】
図5は、プラネタリミルにおける圧延時の速度変化を説明する概略図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の圧延材速度の取得方法について説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例における速度変動の概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例におけるスリップ発生有無の調査結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例におけるスリップ発生有無の調査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るワークロールの速度設定方法、鋼板の製造方法、及び、圧延設備の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、本実施形態では、熱延鋼板を製造する熱間圧延設備を例に挙げて説明する。なお、本発明は、熱間圧延ラインの粗圧延設備や厚鋼板を製造する厚板圧延設備、冷延鋼板を製造する冷間圧延設備、また、薄スラブ連続鋳造機と直結した熱延ラインについても適用可能であり、厚鋼板と薄鋼板の違い、鋳造との設備接続レイアウト、熱間と冷間の違いには限定されない。
【0015】
図1は、実施形態に係るプラネタリミル10を備えた圧延設備の概略図である。実施形態に係るプラネタリミル10は、圧延材3を挟んで対向する一対の主軸である公転軸2A,2Bと、公転軸2A,2Bのそれぞれの外周に配置された複数のワークロール1A、1Bと、を備えている。ワークロール1A,1Bは、モータ駆動によって自転可能に設けられている。プラネタリミル10は、複数のワークロール1A,1Bからなるワークロール群を公転軸2A,2Bを中心に公転させながら、各ワークロール1A,1Bを自転させて、ワークロール1Aとワークロール1Bとによって圧延材3を挟み込んで圧延を行う。
【0016】
ワークロール1A,1Bの公転方向は、
図1に矢印で示すように、圧延材3を圧延方向の送り出す回転方向である。また、ワークロール1A,1Bの自転方向は、
図1に矢印で示すように、公転方向とは逆方向の回転方向であって圧延材3の変形部分の表面上を転がるように回転する。なお、本実施形態では、ワークロール1A,1Bの公転方向及び自転方向それぞれについて、上記した回転方向(すなわち、それぞれのロール・板において
図1中の矢印の方法)を回転速度の正と定義する。また、以下の説明において、圧延材3に対して上側に配置された公転軸2Bの周りに配置された上側のワークロール群のワークロール1Aと、圧延材3に対して下側に配置された公転軸2Bの周りに配置された下側のワークロール群のワークロール1Bとを、特に区別しない場合には、単にワークロール1とも記す。
【0017】
なお、実施形態に係るプラネタリミル10は、ワークロール1をモータ駆動による駆動回転で自転させながら圧延を行う圧延機であるロールキャスト式のプラネタリミルであって、ワークロール1をモータ駆動させず無駆動回転で自転させるプラネタリミルとは区別する。また、以下の説明において、プラネタリミル10のことを単に圧延機とも記し、圧延機入側とは圧延機であるプラネタリミル10よりも圧延材3の移動方向で上流側を指し、圧延機出側とは圧延機であるプラネタリミル10よりも圧延材3の移動方向で下流側を指す。
【0018】
また、実施形態に係るプラネタリミル10において、公転軸周りにワークロール1A,1Bをそれぞれ2本~8本配置することが可能であり、上側の公転軸2Aの周りに配置するワークロール1Aと、下側の公転軸2Bの周りに配置するワークロール1Bとの両方合わせると4本~16本となる。
図1では、公転軸周りにワークロール1A,1Bをそれぞれ4本配置した場合を示している。圧延材3の表面に対する正味の圧延速度として、ワークロール1の圧延速度を、ワークロール1の公転速度-ワークロール1の自転速度、と定義する。ワークロール1の圧延速度は、ワークロール1の公転包絡径上での速度である。ワークロール1の圧延速度の正負の定義は、ワークロール1の公転速度のそれと同じである。圧延速度は、圧延材3の出側板速度と同じ方向である必要があるため、正の値となるよう設定される。
【0019】
プラネタリミル10よりも圧延材3の移動方向で上流側には、圧延材3を挟んで対向する一対のフィードロール4A,4Bが配置されている。フィードロール4A,4Bは、圧延材3を上下方向(圧延材3の厚み方向)の圧下力によって拘束しつつ、圧延材3をプラネタリミル10に向けて押し込んで搬送する。なお、以下の説明において、圧延材3に対して上側に配置されたフィードロール4Aと、圧延材3に対して下側に配置されたフィードロール4Bとを、特に区別しない場合には、単にフィードロール4とも記す。
【0020】
プラネタリミル10よりも圧延材3の移動方向で下流側には、圧延材3を挟んで対向する一対のメジャーリングロール5A,5Bが配置されている。メジャーリングロール5A,5Bは、ローラエンコーダを有している。そして、メジャーリングロール5A,5Bは、それぞれ圧延材3の上面及び下面に接触し、圧延材3の表面移動に連れ回ることによって、プラネタリミル10による圧延材3の圧延後の圧延材速度を測定する。なお、以下の説明において、圧延材3に対して上側に配置されたメジャーリングロール5Aと、圧延材3に対して下側に配置されたメジャーリングロール5Bとを、特に区別しない場合には、単にメジャーリングロール5とも記す。なお、
図1ではメジャーリングロール5を用いているが、圧延材速度を測定する手法は、これに限るものではない。
【0021】
次に、プラネタリミル10での圧延に必要な入側押し込み力について説明する。
図2は、プラネタリミル10においてワークロール1が無駆動回転の場合の力の作用図である。
図3は、プラネタリミル10においてワークロール1が圧延材3の出側板速度に比べて小さい圧延速度で駆動回転する場合の力の作用図である。
図4は、プラネタリミル10においてワークロール1が圧延材3の出側板速度に比べて大きい圧延速度で駆動回転する場合の力の作用図である。
【0022】
なお、
図2~
図4は、圧延材3に対して上側の圧延設備(ワークロール1A、公転軸2A、フィードロール4A、及び、メジャーリングロール5A)を示しており、圧延材3に対して下側の圧延設備(ワークロール1B、公転軸2B、フィードロール4B、及び、メジャーリングロール5B)の図示は省略している。また、
図2~
図4中の「p」は、圧延材3からワークロール1Aの中心に向かって作用する圧延荷重である。また、
図2中の「θ」は、圧延荷重が作用する方向と鉛直方向とでなす角度である。また、
図2~
図4を用いて、圧延材3に対して上側の圧延設備(ワークロール1A、公転軸2A、フィードロール4A、及び、メジャーリングロール5A)を例示して説明するが、圧延材3に対して下側の圧延設備(ワークロール1B、公転軸2B、フィードロール4B、及び、メジャーリングロール5B)についても同様の説明が成り立ち、その説明は適宜省略する。
【0023】
図2に示すように、ワークロール1Aが無駆動回転で自転する場合には、圧延材3はワークロール1Aから鉛直下方向にpcosθの圧下力を受け、且つ、ワークロール1Aが圧延材3を引き込む力が生じない。そのため、圧延機入側からフィードロール4Aによって圧延材3をプラネタリミル10に向けて押し込みながら圧延する必要がある。なお、本実施形態においては、フィードロール4Aによって圧延材3をプラネタリミル10に向けて押し込む力を入側押し込み力と定義する。
【0024】
一方、
図3及び
図4に示すように、ワークロール1Aが駆動回転で自転する場合には、ワークロール1Aの圧延速度と圧延材3の出側板速度との速度差に応じて、ワークロール1Aと圧延材3の表面とがすべり状態になる。そのため、そのすべり方向に応じた摩擦力μpcosθが発生し、必要な入側押し込み力は、ワークロール1Aが無駆動回転で自転する場合とは異なる。なお、ここでは、ワークロール1と圧延材3との間のすべり摩擦係数をμとしている。
【0025】
図3に示すように、ワークロール1Aの圧延速度が圧延材3の出側板速度に比べて小さい場合、すなわち、ワークロール1Aの公転速度が小さい場合や、ワークロール1Aの自転速度が大きい場合には、ワークロール1と圧延材3とのすべり方向が圧延材3をプラネタリミル10から押し戻す方向となる。そのため、必要な入側押し込み力は、ワークロール1Aを無駆動回転で自転させる場合に比べて増加する。
【0026】
逆に、
図4に示すように、ワークロール1Aの圧延速度が圧延材3の出側板速度に比べて大きい場合、すなわち、ワークロール1Aの公転速度が小さい場合や、ワークロール1Aの自転速度が小さい場合には、ワークロール1Aと圧延材3とのすべり方向が圧延材3をプラネタリミル10に引き込む方向となる。そのため、必要な入側押し込み力は、ワークロール1Aを無駆動回転で自転させる場合に比べて軽減する。
【0027】
上記のように、ワークロール1の圧延速度の設定次第では、必要な入側押し込み力が想定以上に大きくなり、圧延機入側でのフィードロール4A,4Bによる圧延材3の拘束力(フィードロール4A,4Bによる上下方向の圧下力)が不十分であると、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップが生じ、表面疵の発生原因となる。フィードロール4の圧下力を増加させてフィードロール4による圧延材3の拘束力を高めようとしても、圧下力の設備上限やフィードロール4にかかる熱負荷の問題があるだけでなく、圧延材3が高温であり変形抵抗が小さいため必要な拘束力を得ることができない場合がある。そのため、このような理由により、フィードロール4A,4Bによる上下方向の圧下力は、単位板幅あたり0.05[tonf/mm]~0.2[tonf/mm]程度が好適である。
【0028】
図5は、プラネタリミル10における圧延時の速度変化を説明する概略図である。プラネタリミル10では、ワークロール1と圧延材3との接触が間欠的な断続加工である。そのため、
図5に示すように、圧延材速度は、ワークロール1と圧延材3との接触位置に応じて周期的に変動する。このため、ワークロール1の圧延速度の設定次第では、ワークロール1と圧延材3の表面とのすべり方向が安定せず、それがワークロール1の圧延速度の適正な設定を困難にしている。
【0029】
本願発明者らは、詳細な調査を実施し、ロールキャスト式のプラネタリミル10において、ワークロール1の圧延速度が圧延材3の出側板速度よりも常に大きくなるように設定することで、入側押し込み反力を安定的に軽減することができることを見出した。
【0030】
ロールキャスト式のプラネタリミル10において、入側押し込み反力を軽減し、且つ、安定とするには、ワークロール1と圧延材3の表面とのすべり方向を常に一定とする必要がある。ワークロール1と圧延材3とが接触している間の圧延材3の出側板速度は、ワークロール1が下死点に位置するときに最大となり、その速度は圧延機出側での圧延材速度(圧延材3の出側板速度)と同じである。そのため、ワークロール1と圧延材3の表面とのすべり方向を常に一定とするには、圧延機出側での圧延材速度をワークロール1の圧延速度が上回ればよい。
【0031】
次に、本実施形態における圧延材速度の取得方法について説明する。
図6は、本実施形態の圧延材速度の取得方法について説明するための図である。
【0032】
図6に示すように、プラネタリミル10による圧延後の圧延材速度は、圧延機出側にて、メジャーリングロール5A,5Bを用いて測定することができる。圧延材速度の測定サンプリング周期は、ワークロール1と圧延材3との接触中の速度変動を捉えるため、ワークロール1と圧延材3との接触時間のおよそ5分の1程度で測定する。そして、ワークロール1と圧延材3との接触1回あたりに相当する時間の圧延速度を少なくとも1周期以上測定し、その間の最大値を圧延材速度の最大値と定義する。なお、圧延材速度の取得方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、レーザードップラー計を用いて圧延材速度を取得する周知の方法なども採用することができる。
【0033】
ワークロール1と圧延材3との接触時間は、圧延荷重が生じる時間と等価なので、圧延荷重を測定するロードセルの出力から確認することができる。例えば、直径400[mm]のワークロール1A,1Bを上下4本ずつ、公転径1500[mm]であるロールキャスト式のプラネタリミル10にて、公転速度50[rpm」で板厚100[mm]の圧延材3を圧延する場合は、ワークロール1と圧延材3との接触時間が約0.06[s]となる。この間の圧延材速度は、約0.01[s]毎の速度測定にて、圧延材速度の最大値を捉えるに十分である。
【0034】
ワークロール1の圧延速度は、ワークロール1の公転速度から自転速度を減じたものであるため、公転速度と自転速度との両者を決定する必要がある。まず、公転速度は、ワークロール1と圧延材3との接触1回あたりの圧延材3の変形量に反比例するため、高速であるほど圧延荷重及び圧延トルクなどの圧延負荷が小さい。そのため、公転駆動モータの主機容量と速度応答性とに応じて決定される。ただし、ワークロール1の公転速度を一意に決定する必要はなく、圧延中に変更してもよい。
【0035】
ワークロール1の自転速度は、圧延後(圧延機出側)の圧延材速度よりも高速であり、ワークロール1の圧延速度が圧延材速度の最大値よりも大きくなるように決定することで、ワークロール1と圧延材3の表面とのすべり方向を常に一定とし、入側押し込み力の反力を安定的に軽減することができる。なお、圧延材速度は、ワークロール1との1回接触当たりの圧延材3の変形量に応じて決まり、ワークロール1の自転速度を変更しても変わらない。そのため、圧延材速度の最大値は、ワークロール1と圧延材3との接触回数毎に取得することができるが、接触毎にワークロール1の自転速度を変更する必要はなく、圧延機入側での圧延材速度に変化がある場合に、ワークロール1の自転速度を変更すればよい。
【0036】
また、ワークロール1の圧延速度の上限値、つまりワークロール1の自転速度の下限値は、圧延材3の表面疵の発生に応じて決定する。ワークロール1と圧延材3の表面との滑り速度が大きいと表面疵などの表面欠陥が生じることが知られており、表面欠陥(表面疵)の過去の発生履歴をもとにして、ワークロール1の圧延速度の上限値を設定すればよい。例えば、一般炭素鋼の熱間圧延の場合には、おおよそ80[mpm]がワークロール1の圧延速度の上限値である。
【0037】
圧延開始時のワークロール1の自転速度は、例えば、過去の圧延実績と同様に設定してもよいし、圧延機入側での圧延材速度と等価であるフィードロール4A,4Bの回転速度と等しく設定してもよい。もしくは、下記のように圧延材速度の予測計算値に応じて、圧延材速度を測定することなく、予め設定することも可能である。
【0038】
ワークロール群における同一のワークロール1の公転周期をΔtとしたとき、単位板幅あたりの圧延機入側のマスフローΔV0は、入側圧延材速度をv0とし、入側板厚をh0としたとき、下記数式(1)で表される。
【0039】
【0040】
一方、圧延機出側のマスフローΔV1は、ワークロール接触時間/回転周期をa、ワークロール1と圧延材3との接触中の圧延機出側での圧延材速度をv1とすると、下記数式(2)のようになる。
【0041】
【0042】
ここで、圧延による板幅広がりを無視すると、圧延機入側のマスフローΔV0と圧延機出側のマスフローΔV1とは等しいため、下記数式(3)のようになる。
【0043】
【0044】
ここで、ワークロール接触時間/回転周期aは、ワークロール公転包絡半径をRとし、ワークロール本数をNとしたとき、下記数式(4)のようになるため、ワークロール1と圧延材3との接触中の圧延機出側での圧延材速度v1が簡易的に求まる。
【0045】
【0046】
なお、圧延機出側での圧延材速度の平均をv1m(=v0×h0/h1)とすると、下記数式(5)のようになる。
【0047】
【0048】
例えば、ワークロール公転包絡半径R=2000[mm]、ワークロール本数N=4、入側板厚h0=150[mm]、出側板厚h1=95[mm]とすると、下記数式(6)のようになり、ワークロール接触中における圧延速度の平均速度に対する変動を予測することが可能である。
【0049】
【0050】
以上から、圧延機出側での圧延材速度v1を上回るように、ワークロール1の圧延速度を決定することができる。また、上記数式(1)~数式(6)の計算式による圧延材速度の予測計算以外にも、過去の他条件での圧延実績から、例えば機械学習や重回帰式による圧延材速度の予測値を用いてもよい。
【0051】
なお、圧延機入側でのフィードロール4のスリップを回避するには、フィードロール4の圧下力を増加させることも効果的であるが、圧下系の設備上限に制約がある場合も多く、また、圧延材3が高温で変形抵抗が小さい場合にはフィードロール4の圧下力により減肉が生じ、プラネタリミル10での板厚変動の要因にもなる場合もある。
【0052】
以上のように、圧延機出側での圧延材速度をワークロール1の圧延速度が上回るように、ワークロール1の自転速度を設定することによって、ワークロール1と圧延材3の表面とのすべり方向を常に一定として、入側押し込み力の反力を安定的に軽減することができる。その結果、圧延方法として、実施形態に係るワークロール1の速度設定方法を用いて設定した圧延速度でプラネタリミル10により圧延材3を圧延する圧延方法を採用することにより、圧延機入側でのフィードロール4のスリップを回避して、安定的な圧延が可能となる。また、前記圧延方法を用いて、熱延鋼板や厚鋼板や冷延鋼板などの圧延鋼板を製造することにより、圧延鋼板に表面疵などの表面欠陥が生じるのを抑制して安定的な圧延鋼板の製造を効率よく行うことができる。
【実施例0053】
以下に本発明の実施例を示す。ここでは、本発明を熱延鋼板の熱間圧延ラインに適用した実施例について説明する。
【0054】
本実施例の圧延設備は、
図1に示した圧延設備と同様の構成であり、ロール直径500[mm]、公転包絡径2000[mm]のワークロール1を上下4本ずつ有するロールキャスト式のプラネタリミル10にて、板厚200[mm]の一般低炭素鋼からなる圧延材3を圧延する。圧延機上流側には、圧延材3を圧延機に送り込むフィードロール4A,4Bが配置されている。圧延機下流側には、圧延材速度を測定するメジャーリングロール5A,5Bが配置されている。フィードロール4の速度設定は5[mpm]であり、また、圧延機出側の板厚が50[mm]となるように上下のワークロールギャップを調整した。また、ワークロール1の公転速度は、ワークロール公転包絡径上で628[mpm]と設定した。
図7に示すように、圧延機出側での圧延材速度は、5[mpm]~70[mpm]の間で周期的な変動をしており、この場合、圧延材速度の最大値は70[mpm]となる。
【0055】
図8に示すように、フィードロール4の圧下力とワークロール1の圧延速度を変更し、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップ発生有無を調査した。このとき、ワークロール1の公転速度は628[mpm]で固定であり、ワークロール1の自転速度のみを変更している。
【0056】
ワークロール1の圧延速度が圧延材3の圧延速度よりも常に低い場合、つまり最低速度よりも低い場合は、フィードロール4Aとフィードロール4Bとによる圧延材3の拘束力が圧延機入側での必要な押し込み力よりも小さく、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップが発生した。また、圧延材3の圧延速度の変動の中間程度にワークロール1の圧延速度を設定した場合にも、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップが発生した。一方で、ワークロール1の圧延速度が圧延材3の最高速度よりも大きい場合には、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップは発生しなかった。さらに、フィードロール4の圧下力が極端に小さい場合には、ワークロール1の圧延速度によらず、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップが生じた。これらの結果は、ワークロール1の圧延速度が圧延材3の最高速度に比べて大きい場合、ワークロール1と圧延材3とのすべり方向が、常に圧延材3を引き込む方向となるため、圧延機入側での必要な押し込み力が安定して軽減することを意味している。なお、本実施例の条件では、ワークロール1の圧延速度が120[mpm]を超えると、圧延材3に表面疵が生じた。
【0057】
以上のように、ワークロール1の圧延速度が圧延機出側での圧延材速度を上回るように、ワークロール1の自転速度を設定することによって、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップが生じることなく安定した圧延が可能となる。
【0058】
また、上記と同じ熱間圧延ラインにて、上記数式(1)~数式(6)の予測計算式を用いて求めた圧延機出側での圧延材速度に応じて、ワークロール1の自転速度を決定し圧延を行った。
図9に、その際のスリップ発生有無を調査した結果を示す。なお、圧延材3は、板厚220[mm]の一般低炭素鋼であり、出側板厚が60[mm]となるよう上下ワークロールギャップを調整した。また、フィードロール4の回転速度は5[mpm]であり、ワークロール1の公転速度は628[mpm]である。このとき、圧延機出側での圧延材速度v
1は、上記数式(3)から算出することができる。
【0059】
ここで、ワークロール接触時間/回転周期aは、上記数式(4)から算出することができるため、圧延機出側での圧延材速度v1は57[mpm」となる。
【0060】
また、ワークロール1の公転速度を固定し、ワークロール1の自転速度を変更して圧延を行い、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップの発生有無を調査したところ、ワークロール1の圧延速度を圧延機出側での圧延材速度よりも大きく設定することによって、圧延材3の表面でのフィードロール4のスリップの発生が生じないことが分かった。
【0061】
以上の結果のように、ワークロール1の自転速度を設定することによって、熱間圧延の大圧下条件においても、圧延に必要な入側押し込み力を軽減し、圧延機入側でのフィードロール4A,4Bのスリップを回避して、安定的な圧延を実現することができる。