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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122736
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系無延伸フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
B32B27/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026415
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】道満 光生
(72)【発明者】
【氏名】土本 達郎
(72)【発明者】
【氏名】深貝 佳孝
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB10D
4F100AB33D
4F100AH03B
4F100AK05A
4F100AK07D
4F100AK42D
4F100AK48D
4F100AK64A
4F100AK64B
4F100AK64C
4F100AL02B
4F100AL02C
4F100AL09B
4F100AL09C
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA19B
4F100CB03A
4F100CB03C
4F100EH20
4F100EJ38D
4F100GB15
4F100JK06
4F100JK14A
4F100JK16A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】
滑り性に優れ、ヒートシール強度とラミネートが高く、製膜およびラミネート時のシワ発生がなくて、製膜工程およびラミネート工程の安定生産性に優れ、電池包装材として用いたときの絞り成型性に優れたポリプロピレン系無延伸フィルムを提供することである。
【解決手段】
表層A/基材層B/表層Cの3層積層フィルムであって、表層Aがエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分として超高分子量高密度ポリエチレンを1~20質量%含有してなり、表層Aの十点平均表面粗さRzが2~7μmであるポリプロピレン系無延伸フィルム
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層A/基材層B/表層Cの3層積層フィルムであって、表層Aがエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分として超高分子量高密度ポリエチレンを1~20質量%含有してなり、表層Aの十点平均表面粗さRzが2~7μmであるポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項2】
前記表層Aと金属板SUS430(JIS Z 3043:1990)との動摩擦係数が0.05~0.5の範囲である請求項1に記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項3】
前記基材層Bがエチレン・プロピレンブロック共重合体を主成分とし、エチレン・プロピレンランダム共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を5~45質量%含有する樹脂組成物である請求項1または2に記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項4】
前記表層Cが、エチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分とし、エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を10~40質量%含有する樹脂組成物である請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項5】
前記3層積層フィルムの基材層Bに、脂肪酸アミド系滑剤を200~2000ppm含有する請求項1~4のいずれかに記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項6】
前記3層積層フィルムの表層A同士を重ねて170℃でヒートシールした後、23℃雰囲気下でのヒートシール強度が45N/15mm以上で、80℃雰囲気下でのヒートシール強度が10N/15mm以上である請求項1~5のいずれかに記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項7】
前記3層積層フィルムの表層Cと他基材をラミネートした後、23℃雰囲気下でのラミネート強度が10N/15mm以上である請求項1~6のいずれかに記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【請求項8】
前記他基材が、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム、および、アルミニウム箔からなる群から選ばれる少なくとも一種以上である請求項7に記載のポリプロピレン系無延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に包装袋および成型容器等へ好適に用いられるポリプロピレン系無延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートシール性フィルムとしては、ポリエチレン系やポリプロピレン系の樹脂を主成分とする無延伸フィルムが使用されてきた。その主たる使用方法は、耐熱性のポリエチレンテレフタレート延伸フィルム(以下PETと称する)、ナイロン延伸フィルム(以下ONyと称する)、アルミニウム箔(以下ALと称する)等のラミネート基材層と貼合わせ、PET/ONy/AL/ヒートシール性フィルム、PET/AL/ONy/ヒートシール性フィルム、またはPET/AL/ヒートシール性フィルム構成の積層体とした後、包装袋や容器などの包装材として使用されるというものである。
【0003】
こうした包装材を得るために、包装材に良好な耐衝撃性、ヒートシール性などのほか、加工工程での良好な滑り性、巻取性などの特性も求められている。
【0004】
そのため、ヒートシール性フィルムには一般的に有機滑剤や無機または有機の粒子が添加され、滑り性、巻取り性、ラミネート性が良好となっている。
【0005】
また、従来のヒートシール性フィルムにおいては、接着剤を介してPETやONyなどのフィルム、アルミニウム箔などと貼り合わせ、接着剤を硬化させるために一定以上の温度をかけてエージングすると、フィルム表面に滲み出た有機滑剤(とくに、脂肪酸アミド系滑剤)によってラミネート強度が低下する傾向があり、また、樹脂の融点が低いことにより耐ブロッキング性に劣るという問題があった。
【0006】
例えば、特許文献1では、低密度ポリエチレンに滑剤を添加して用いることで、良好な耐衝撃性と低温ヒートシール性を有することができるが、融点が低いために滑り性に劣り、加工工程でのラミネート性が悪く、フィルムのシワの発生や巻取性が悪いという問題があった。
【0007】
特許文献2には、ポリプロピレンに滑剤を含有した積層フィルムが開示されているが、滑剤の量を多くして滑り性を付与しているため、エージング処理後にフィルム表面の滑剤量が多くなりすぎて、製膜やラミネート加工時のロール等に滑剤が付着して工程汚染や作業環境上の問題が生じ、また、他基材とのラミネート強度が低くなるという問題があった。
【0008】
特許文献3には、ポリプロピレン樹脂に、低分子量のポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスと、ブロッキング防止剤として無機または有機粒子を添加し、さらに滑剤を添加して滑り性を付与したフィルムの開示があるが、多種の添加剤を添加しているために、エージング後の滑り性、ラミネート性、ヒートシール性をコントロールすることが困難であった。
【0009】
特許文献4には、ブロッキング防止剤として無機または有機粒子を添加せず、GPC重量平均分子量が300,000以上の成分と滑剤を含有し、樹脂層A表面の算術平均うねりWaが0.050μm以上であるシーラントフィルムがあるが、ラミネート時での金属ロールとの滑り性に劣ってシワが入りやすく、工程通過性としては満足できるものではなかった。
【0010】
このようにヒートシール性フィルムを包装材として使用する場合に、ヒートシール性、滑り性、ラミネート性、成型性等の特性が高いレベルでバランス良く優れていることが求められるが、従来のフィルムは、上記高い要求に対し必ずしも満足できるものではなかった。特に近年、厳しい条件下での易滑性とヒートシール強度やラミネート強度の維持が求められることがあるが、このような厳しい条件下で易滑性とヒートシール強度やラミネート強度を両立したポリプロピレン系無延伸フィルムは見当たらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許2013-95065号公報
【特許文献2】特開平9-77881号公報
【特許文献3】特開2003-64194号公報
【特許文献4】国際公開第2021/6069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の課題は、滑り性に優れ、ヒートシール強度とラミネートが高く、製膜およびラミネート時のシワ発生がなく、包装材作成時の工程通過性に優れ、蓄電デバイス用外装材として用いたときの絞り成型性に優れたポリプロピレン系無延伸フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、以下のとおりとした。
【0014】
表層A/基材層B/表層Cの3層積層フィルムであって、表層Aがエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分として超高分子量高密度ポリエチレンを1~20質量%含有してなり、表層Aの十点平均表面粗さRzが2~7μmの範囲であるポリプロピレン系無延伸フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、滑り性、ヒートシール性、ラミネート性、絞り成型性等の特性が高いレベルでバランス良く優れており、良好な包装袋および成型容器等への加工性が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、表層A/基材層B/表層Cの3層積層フィルムからなり、表層Aがエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分として超高分子量高密度ポリエチレンを1~20質量%含有してなり、表層Aの十点平均表面粗さRzが2~7μmの範囲である。
【0017】
上記表層Aのエチレン・プロピレンランダム共重合体は、230℃でのメルトフローレート(以下MFRと省略することがある)が2~10g/10分、融点が130~150℃であることが好ましい。
【0018】
本発明において、主成分とは、各層中で50質量%を超える成分を言う。表層Aがエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分としない、つまり、エチレン・プロピレンランダム共重合体が50質量%以下ではヒートシール強度およびラミネート強度が低下することがあるので好ましくない。
【0019】
上記エチレン・プロピレンランダム共重合体の融点は130~150℃の範囲が好ましく、その範囲を外れるとヒートシール強度およびラミネート強度が低下することがある。
【0020】
上記エチレン・プロピレンランダム共重合体の230℃でのMFRは2g/10分以上が好ましく、2g/10分未満では基材層Bとの均一な積層性が悪くなってヒートシール強度が低下することがあり、一方、MFRは10g/10分以下が好ましく、10g/10分を超えると結晶性が高くなって、滑剤の表面への移行性が悪くなり、滑り性が低下することがある。
【0021】
上記エチレン・プロピレンランダム共重合体とは、プロピレンに、α-オレフィンを少なくとも1種以上共重合したものであり、α-オレフィンとしては、エチレン、ブテン、オクテンなどが好ましく挙げられるが、滑り性とヒートシール性からエチレン量が3~6質量%のエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましい。
【0022】
上記表層Aにはエチレン・プロピレンランダム共重合体に、表層Aの十点平均表面粗さRzを2~7μmの範囲とする目的で超高分子量高密度ポリエチレンを1~20質量%含有することが必要である。上記超高分子量高密度ポリエチレンとしては、三井化学社製の超高分子量高密度ポリエチレン粒子“ミペロン(登録商標)”(平均粒径10μm)が好ましく用いられる。“ミペロン(登録商標)”は官能基を持たず、側鎖・二重結合がなく、結晶化度の高い分子構造を持っているものである。上記超高分子量高密度ポリエチレンは、ベース樹脂のエチレン・プロピレンランダム共重合体への分散性がよいことから均一な表面粗さを形成することができ、十点平均表面粗さRzが2~7μmの範囲とすることができる。
【0023】
上記超高分子量高密度ポリエチレンの含有量が1質量%未満では滑り性に劣り、製膜時およびラミネート加工時にフィルムにシワが入りやすく、また、絞り成型時に金型との滑りが悪くて成型性に劣ることがある。20質量%を超えるとヒートシール強度が低下することがある。
【0024】
上記超高分子量高密度ポリエチレンの密度は、0.930~0.980g/cmの範囲であることが好ましい。密度が0.930g/cm未満では十点平均表面粗さRzが2~7μmの範囲とならずに滑り性、成型性に劣ることがあり、0.980g/cmを超えると分散性が悪化して、ヒートシール強度と製膜性が劣ることがある。
【0025】
上記超高分子量高密度ポリエチレンは、耐熱性を向上させるために架橋したものも好ましい。架橋方法としては、電子線架橋や過酸化物存在下での動的架橋等、公知の架橋方法を採用できる。
【0026】
本発明における表層Aの十点平均表面粗さRz(以下、単にRzと表記することもある)は2~7μm以下の範囲であり、より好ましくは2~5μmの範囲、さらに好ましくは3~5μmの範囲である。Rzが2μm未満の場合には、滑り性に劣り、製膜時およびラミネート加工時にフィルムにシワが入りやすく、また、絞り成型時に金型との滑りが悪くて成型性に劣り、Rzが7μmを超えるとヒートシール強度が劣ることがある。
【0027】
上記表層Aには樹脂組成総量に対して、脂肪酸アミド系滑剤を100~1000ppm添加することが好ましい。脂肪酸アミド系滑剤の添加量が100ppm未満では滑り性が悪くなることがあり、1000ppmを超えると溶融押出時に熱飛散が多くなり製膜工程を汚して製膜性の悪化や、絞り成型時の金型を汚染して成型時の歩留まりが悪化することがあり、ヒートシール強度も低下することがある。
【0028】
上記脂肪酸アミド系滑剤とは、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ベヘン酸アミド等が好ましく挙げられ、特にエルカ酸アミドが樹脂組成への分散性と滑り性の発現性から好ましい。
【0029】
上記表層Aの表面滑剤量は、40℃・7日エージング後で1~10mg/m範囲が好ましい。滑剤量が40℃・7日エージング後で1mg/m未満では、絞り成型に使われる時に、金型との滑りが悪くなり成型性が悪化することがある。一方、10mg/mを超えると他基材とのラミネート工程や成型時の金型に滑剤が付着して工程汚染が起こる場合がある。
【0030】
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、表層Aと金属板SUS430(JIS Z 3043:1990)との動摩擦係数が0.05~0.5の範囲であることが好ましい。表層Aと金属板との摩擦係数が0.05未満では絞り成型時に金型からのフィルムのずれが起こって成型不良が起こりやすく、摩擦係数が0.5を超えると成型時に金型との滑りが悪く皺が入り、成型不良が起こることがある。
【0031】
表層Aには、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、および、プロピレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を5~30質量%含有することにより、フィルム表面の滑剤量の制御や摩擦係数を制御することができるので好ましい。含有量が5質量%未満では添加効果が見られないことがあり、30質量%を超えると、ヒートシール強度が低下することがある。
【0032】
上記ホモポリプロピレンは、230℃でのMFRが2~10g/10分の範囲で、融点が155~165℃の範囲であることが好ましい。MFRが2g/10分未満では上記エチレン・プロピレンランダム共重合体への分散性が悪くなることがあり、10g/10分を超えるとヒートシール強度が低下することがある。また、融点が155℃未満では摩擦係数が大きくなることがあり、融点が165℃を超えるとヒートシール強度が低下することがある。
【0033】
上記エチレン・プロピレンブロック共重合体は、20℃キシレンの可溶部の極限粘度[η]Cxsと同不溶部の極限粘度[η]Cxisの比([η]Cxs/[η]Cxis)が、1.2以上が好ましく、1.2~2.0の範囲がより好ましい。[η]Cxs/[η]Cxisが1.2未満では、160℃以上でヒートシールした際にフィルムの潰れによる薄膜化でヒートシール強度の低下することがあり、ヒートシールや絞り成型時の加圧によって樹脂のはみ出しが起こり、包装材製造工程や成型工程の汚れが起こることがある。また、[η]Cxs/[η]Cxisが2.0を超えると、小さなゲル状の欠点ができてフィルム突起となることがあり、ヒートシール強度が低下して内容物の漏れを生じることがある。
【0034】
上記キシレン可溶部のエチレン含有率は20~50質量%の範囲が好ましい。該含有率が20質量%より小さければ絞り成型時に白化が起こることがあり、50質量%より大きければヒートシールや絞り成型時にフィルムの潰れによる薄膜化が起こることがある。
【0035】
上記プロピレン系エラストマーは、プロピレンにエチレンを共重合したゴム弾性を有する樹脂で、プロピレン成分が80質量%以上のものをいう。プロピレン成分が80質量%未満では上記エチレン・プロピレンランダム共重合体との相溶性が低下することがあり、絞り成型時に白化が起こることがある。
【0036】
上記プロピレン系エラストマーは、230℃でのメルトフローレートが2~50g/10分の範囲で、密度が0.860~0.890g/cmの範囲とすることがエチレン・プロピレンランダム共重合体への分散性がよく、フィルム表面の滑剤量の制御や摩擦係数を制御することができるので好ましい。
【0037】
本発明における基材層Bは、エチレン・プロピレンブロック共重合体を主成分とすることが好ましい。エチレン・プロピレンブロック共重合体は、20℃キシレンの可溶部の極限粘度[η]Cxsと同不溶部の極限粘度[η]Cxisの比([η]Cxs/[η]Cxis)が、1.6以上が好ましく、1.6~2.0の範囲がより好ましい。[η]Cxs/[η]Cxisが1.6未満では、160℃以上でヒートシールした際にフィルムの潰れによる薄膜化でヒートシール強度の低下することがあり、ヒートシールや絞り成型時の加圧によって樹脂のはみ出しが起こり、包装材製造工程や成型工程の汚れが起こることがある。また、[η]Cxs/[η]Cxisが2.0を超えると、フィルム内に小さなゲル状の欠点ができてフィルム突起となることがあり、他基材とのラミネート時に界面に空気を噛み込んでラミネート強度が低下することがある。また、ヒートシール強度が低下して内容物の漏れを生じることがある。
【0038】
上記のエチレン・プロピレンブロック共重合体は、ポリプロピレン部の割合を示す20℃キシレン不溶部の割合が70~85質量%で、該キシレン不溶部の極限粘度[η]Cxisは、1.7~2.5dl/gが好ましく、エチレン・プロピレン共重合のゴム成分の割合を示す20℃キシレン可溶部の極限粘度[η]Cxsは、2.7~5.0dl/gであることが好ましい。
【0039】
キシレン不溶部の極限粘度[η]Cxisは、1.7未満では、ヒートシールや絞り成型時にフィルムの潰れによる薄膜化が起こることがあり、2.5dl/gを超えると、フィルムが硬くなり過ぎて、絞り成型性が悪化することがある。また、キシレン可溶部の極限粘度[η]Cxsが2.7dl/g未満ではヒートシール強度が低下することがあり、5.0dl/gを超えるとゴム成分の粒径が非常に大きく、フィルムの海島構造の界面にクラックが生じ、成型時に白化が起こって成型性に劣り、また、ヒートシール強度の低下が生じることがある。
【0040】
上記キシレン可溶部のエチレン含有率は20~50質量%の範囲が好ましい。該含有率が20質量%より小さければ絞り成型時に白化が起こることがあり、50質量%より大きければヒートシールや絞り成型時にフィルムの潰れによる薄膜化が起こることがある。
【0041】
本発明における基材層Bは、上記エチレン・プロピレンブロック共重合体に、エチレン・プロピレンランダム共重合体、低密度ポリエチレン系重合体、および、プロピレン系エラストマー、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が配合されることが好ましい。
【0042】
本発明者らの知見によれば、蓄電デバイス用外装材に用いた時に、絞り成型加工時の変形の際に、フィルム中にクラック(白化)が生じると、内容物である電解液が漏れる懸念がある。よって、基材層Bのエチレン・プロピレンブロック共重合体中の島成分となる部分(ゴム成分)の個々の分散径を極めて小さくする(分散性が向上する)設計が必要であり、エチレン・プロピレンランダム共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を5~45質量%含有することにより、島成分(ゴム成分)の分散性が向上して分散径を極めて小さくすることができる。特にエチレン・プロピレンランダム共重合体とプロピレン系エラストマーである場合が好ましい。
【0043】
上記基材層Bのエチレン・プロピレンランダム共重合体は、上記表層Aに用いるエチレン・プロピレンランダム共重合体と同じ樹脂であることが、積層性および層間接着力が高く、基材層Bに自己回収したときに特性が維持できて好ましい。
【0044】
上記プロピレン系エラストマーは、プロピレンにエチレンを共重合したゴム弾性を有する樹脂で、プロピレン成分が80質量%以上のものをいう。プロピレン成分が80質量%未満では上記エチレン・プロピレンランダム共重合体およびエチレン・プロピレンブロック共重合体との相溶性が低下することがあり、絞り成型時に白化が起こることがある。
【0045】
上記プロピレン系エラストマーは、230℃でのメルトフローレートが2~50g/10分の範囲で、密度が0.860~0.890g/cmの範囲とすることがエチレン・プロピレンブロック共重合体への分散性がよく、エチレン・プロピレンブロック共重合体のゴム成分の分散効果が高いので好ましい。
【0046】
上記エチレン系エラストマーは、、低結晶性若しくは非晶性の共重合体エラストマーであり、主成分としての50~90質量%のエチレンと共重合モノマーのα-オレフィンとのランダム共重合体であり、具体的にはメタロセン系触媒により製造されるものが好ましい。
【0047】
なお、α-オレフィンとしては、炭素数が3~10のプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のものが使用でき、具体的なα-オレフィン共重合体エラストマーとしては、エチレン・プロピレンランダム共重合体(EPRと略称)、エチレン・ブテンランダム共重合体(以下、EBRと略称することがある。)、エチレン・オクテンランダム共重合体等を挙げることができる。
【0048】
上記エチレン系エラストマーは、密度が0.86~0.90g/cmの範囲であることが好ましい。密度が0.86g/cmの未満では絞り成型時につぶれが生じてフィルム厚さが低下することがあり、密度が0.90g/cmを越えると耐低温衝撃性が悪くなることがある。
【0049】
上記エチレン系エラストマーの190℃のメルトフローレートは、0.5~7g/10分の範囲であることが、上記エチレン・プロピレンブロック共重合体への分散性がよく、エチレン・プロピレンブロック共重合体中のゴム成分の分散性効果が高くなるので好ましい。
【0050】
基材層Bには、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどを添加することが好ましく、特に直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレン・プロピレンブロック共重合体中のゴム成分の分散効果が高く、成型時の耐白化性がよくなるので好ましい。
【0051】
上記直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.910~0.935g/cmの範囲で、MFRが0.5~20g/10分の範囲であることが、エチレン・プロピレンブロック共重合体への分散性がよく、エチレン・プロピレンブロック共重合体のゴム成分の分散効果が高いので好ましい。
【0052】
上記基材層Bは、脂肪酸アミド系の滑剤を200~2000ppm含有することが好ましい。本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムを40℃・7日のエージングをされる場合に、基材層Bの脂肪酸アミド系滑剤が表層Aおよび表層Cの界面側に移行し、さらにはそこから表層Aおよび表層Cへと移行する。その結果、他基材とラミネート後にエージングがされる時に、表層Aおよび表層Cの各表面の滑剤が、表層Aおよび表層C内部に移行されようとするのに対し、基材層Bから表層Aおよび表層Cへと移行されてきた滑剤と適切にバランスされ、結果的にラミネート後の滑り性が問題とされるポリプロピレン系無延伸フィルム表面において、滑剤量が最適な範囲、例えば40℃・7日間エージング後の表層Aの表面にブリードした脂肪酸アミド系滑剤量の範囲が1~10mg/mに維持されることが可能になり、絞り成型時の摺動性がよくなり成型性が良好となる。
【0053】
上記基材層Bの脂肪酸アミド系滑剤の含有量が200ppm未満では、表層Aの表面の脂肪酸アミド系滑剤量が少なくて滑り性が悪化することがあり、絞り成型での易滑性が求められる蓄電デバイス外装材用途では満足に使用することができないことがある。また、2000ppmを超えるとフィルム表面への滑剤量が多くなりすぎて、製膜やラミネート工程でのロール等に滑剤が付着して作業環境上の問題が生じることがある。また、ヒートシールやラミネートをする際に、フィルム界面に滑剤が溜まりヒートシール強度やラミネート強度も低下することがある。
【0054】
本発明における表層Cにおいて、脂肪酸アミド系滑剤含有量を表層Aよりも少なくすると、他基材とのラミネート強度が高くなり好ましい。
【0055】
本発明における表層Cは、表層Aと同じエチレン・プロピレンランダム共重合体を主成分とし、エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を10~40質量%含有させることが好ましい。エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、表層Cの表面への滑剤ブリードを抑制することがより容易となる。エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン系エラストマー、および、エチレン系エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が10質量%未満では、表層Cの表面への滑剤量の移行量が多くなってラミネート強度が低下することがあり、40質量%を超えると絞り成型時に白化が起こって成型性が悪化することがある。
【0056】
上記表層Cの脂肪酸アミド系の含有量は、樹脂組成総量に対して0~500ppmとすることが好ましい。脂肪酸アミド系滑剤の含有量が500ppmを超えるとラミネート強度が低下することがある。
【0057】
上記表層Cの脂肪酸アミド系滑剤とは、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ベヘン酸アミド等が好ましく挙げられ、特にエルカ酸アミドが、樹脂組成への分散性と滑り性の発現性から好ましい。
【0058】
上記表層Cの表面滑剤量は、40℃・7日エージング後で基材層Bからの滑剤移行により0.5~5mg/mの範囲が好ましい。上記表面滑剤量が40℃・7日エージング後で0.5mg/m未満では、フィルムの巻取り性が悪化することがあり、巻き皺や空気の噛み込みによるツブ欠点ができやすくなることがある。一方、5mg/mを超えると他基材とのラミネート工程に滑剤が付着して工程汚染が起こる場合があり、また、他基材とのラミネート強度が低下することがある。
【0059】
上記表層Cにはラミネート強度が低下しない範囲で、無機または有機の粒子を300~3000ppm添加すると、脂肪酸アミド系滑剤の含有量を減らしても滑り性が向上することがあり、フィルムを長尺に巻き取るときに皺や空気抜け不良によるツブ欠点が減少することがあるので好ましい。含有量が300ppm以下では滑り性付与効果がみられないことがあり、3000ppmを超えるとラミネート強度の低下や粒子の脱落が起こることがある。
【0060】
該無機粒子としては、シリカ、ゼオライト、炭酸カルシウム等が好ましく挙げられ、該有機粒子としては、架橋ポリスチレン(PS)、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が好ましく挙げられる。それらの平均粒径は1~5μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が1μm未満では添加効果がみられないことがあり、5μmを超えるとラミネート強度が低下することがある。
【0061】
また、表層Cの表面にはコロナ放電処理をして濡れ張力38mN/m以上に上げることにより、その上に接着剤を塗布して他基材とラミネートする際に、ラミネート強度が高くなるのでより好ましい。
【0062】
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、表層Aおよび表層Cの厚さは各々1μm以上が好ましく、3層フィルムのトータル厚さが20~200μmの範囲にあることが好ましい。
【0063】
本発明における表層Aおよび表層Cの厚さが1μm未満では、上記の十分なヒートシール強度およびラミネート強度が得られないことがあり、2~30μmの範囲が好ましい。また、3層フィルムのトータル厚さが20μm未満では絞り成型性が十分に得られないことがあり、蓄電デバイス外層材として用いたときに、内容物である電池の電解液の液漏れが起こる懸念がある。また、3層フィルムのトータル厚さが200μmを超えるとラミネート加工性および成型性が低下して製造コストが高くなるので、好ましくない。
【0064】
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、表層Aの表面同士を重ねて170℃でヒートシールした後、23℃雰囲気下でのヒートシール強度が45N/15mm以上で、80℃雰囲気下でのヒートシール強度が10N/15mm以上あることが好ましい。23℃雰囲気下での表層Aの表面同士のヒートシール強度が45N/15mm以上であることが蓄電デバイス外層材として用いたときに、内容物保護において好ましい。蓄電デバイス外装材では充放電時に80℃近くに温度が上がることがあり、高温シール性が求められる。80℃でのヒートシール強度が10N/15mm未満では充放電時の熱による内圧上昇で電解液の漏れが生じることがある。
【0065】
本発明における表層C側に、他基材の1つ以上がラミネートされた積層体からなる包装材も提供できる。他基材としては、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム、および、アルミニウム箔からなる群から選ばれる他基材の1つ以上が好ましく例示される。
【0066】
上記積層体の製造方法としては、積層体の構成フィルムに接着剤を用いて貼合わせる通常のドライラミネート法が好適に採用できるが、必要に応じて本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムと他基材の貼合わせには直接接着性のポリオレフィン系樹脂を押出してラミネートする方法も採用できる。
【0067】
上記ドライラミネート用接着剤としては特に限定されるものではないが、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとラミネートするときは、ポリウレタン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、および、ポリエーテル系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液と、イソシアネートからなる第2液(硬化剤)とで構成される2液反応型接着剤などが挙げられる。また、アルミニウム箔とラミネートするときは、例えば、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、エラストマー系接着剤、フッ素系接着剤等により形成された接着剤層が挙げられる。中でも、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤を用いるのが好ましく、電池用包装材として用いたときに耐電解液性及び水蒸気バリア性を向上させることができる。
【0068】
上記表層Cと上記他基材とのラミネート強度は、23℃雰囲気下でのラミネート強度が10N/15mm以上であることが好ましい。23℃雰囲気下でのラミネート強度が10N/15mm未満では、内容物充填および絞り成型時に層間剥がれが起こり、実用不可となることがある。
【0069】
これら積層体は本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムの表層Aを積層体の表層(シールする側の層)として、包装材に加工されて使用される。また、これら積層体の積層構造は、包装材および蓄電デバイス外装材の要求特性、例えば内容物の質量に対応できるサイズや耐電解液性などに応じて適宜選択される。
【実施例0070】
以下に、実施例について本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、各種物性値の測定方法、および評価方法を以下に示す。
【0071】
(1)フィルム厚さおよび厚さ構成
フィルム厚さは、ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992)A-2法に準じて、フィルムの任意の10ヶ所について厚さを測定した。その平均値をフィルム厚みとした。また、積層フィルムの場合の各層の厚さは、積層フィルムをエポキシ樹脂に包埋しフィルム断面をミクロトームで切り出し、該断面を走査型電子顕微鏡で3,000倍の倍率で観察して、各層の厚みを算出した。
【0072】
(2)エチレン・プロピレンブロック共重合体の20℃キシレン不溶部と可溶部の含有量
ペレット5gを沸騰キシレン(関東化学(株)製1級)500mLに完全に溶解させた後に、20℃に降温し、4時間以上放置する。その後、これを析出物と溶液とにろ過して可溶部と不溶部に分離した。可溶部は濾液を乾固して減圧下70℃で乾燥し、その質量を測定して含有量(質量%)を求めた。
【0073】
(3)20℃キシレン可溶部と不溶部の極限粘度([η]Cxs、[η]Cxis)
上記(2)により可溶部と不溶部に分離したサンプルを用い、ウベローデ型粘度計を用いて135℃テトラリン中で測定を行った。
【0074】
(4)共重合体のエチレン含量
高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)616頁に記載されている方法により、赤外分光法で測定を行って求めた。
【0075】
(5)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210(1999)に準拠し、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体、プロピレン系エラストマーは温度230℃、エチレン系エラストマー、低密度ポリエチレン系重合体は温度190℃で、それぞれ荷重21.18Nにて測定した。
【0076】
(6)樹脂の融点
示差走査熱量計(島津製作所製 DSC-60)を用いて、20℃から10℃/分の速度で昇温し、250℃まで加熱した際の融解ピークの最も高いピーク温度を融点とした。
【0077】
(7)樹脂の密度
JIS K7112(1999)に準拠し、密度勾配管による測定法で測定した。
【0078】
(8)表面滑剤量
各実施例、比較例における各フィルムサンプルを40℃で7日間保存した直後に各サンプルで内寸が20cm×25cmの袋を作り、その中に50mlのエタノールを入れ、3分間攪拌してエタノール中に溶解させた。滑剤が溶解したエタノールを、水素塩イオン検出器付薄層クロマトグラフィー(LSIメディエンス製のイアトロスキャン)を用い、定量分析を行った。
【0079】
(9)23℃でのヒートシール強度
蓄電デバイス外装材として、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルム(PET-BO)と厚さ15μmのナイロン6延伸フィルム(ONy)と、両面を化成処理した厚さ40μmのアルミニウム箔と本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムの表層Cとをウレタン系接着剤を用いて通常のドライラミネート法で貼合わせ、60℃で3日間エージングして、PET-BO/接着剤/ONy/接着剤/アルミニウム箔/接着剤/本発明のポリプロピレン系無延伸フィルム(最外層は表層A面)の積層体(A)を得た。
【0080】
蓄電デバイス外装材の評価としては、上記積層体(A)を用いて、平板ヒートシーラーを使用し、表層A面同士を重ねてシール温度170℃、シール圧力0.2MPa、 シール時間2秒の条件でヒートシールした後、15mm幅の短冊状に切断し、オリエンテック社製のテンシロンを使用して300mm/分の引張速度で、T型剥離法にてヒートシール強度を測定した。ヒートシール強度が、45N/15mm以上であれば(○)とし、45N/15mm未満を(×)とした。
【0081】
(10)80℃でのヒートシール強度
(9)のヒートシール強度測定サンプルを、加熱オーブンの付いたオリエンテック社製のテンシロンを使用して80℃の雰囲気中で上記(9)と同じ条件でヒートシール強度を測定した。ヒートシール強度が、10N/15mm以上であれば(○)とし、10N/15mm未満を(×)とした。
【0082】
(11)ラミネート強度
(9)の積層体作成時に、アルミニウム箔とポリプロピレン系無延伸フィルム間にスペーサーを入れて剥離点を作成して、ラミネート強度測定用のサンプルを作成した。ラミネート強度測定条件は上記(9)と同じく15mm幅の短冊状に切断し、オリエンテック社製のテンシロンを使用して300mm/分の引張速度で、T型剥離法にてヒートシール強度を測定した。ラミネート強度が、10N/15mm以上であれば(○)とし、8N/15mm以下を(×)とした。
【0083】
(12)ラミネート性、絞り成型性
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムの製膜工程において、積層乱れおよび工程ロールの汚れや、上記(9)のヒートシール強度測定用サンプル作成用の積層体ラミネート工程において、工程ロールの汚れや皺の発生、また、絞り成型時の白化等をみて、下記の評価をした。
【0084】
尚、成型に使用したラミネートフィルム構成は、80μmポリプロピレン系無延伸フィルム/アルミニウム箔(40μm 8079タイプ)/二軸延伸ナイロンフィルム(25μm ボニールRX-F 興人社製)とし、各層のラミネートには、脂肪族系接着剤(DIC社製ディックドライLX732/KVM-90)を使用した。ラミネート条件は以下の通りである。
<ラミネート条件>
配合比 LX-732:KVM-90=15:1
希釈溶剤 酢酸エチル
塗布量 接着剤固形分重量で4mg/m
ドライヤー温度 60℃
貼合方法 500g荷重ハンドローラにて一往復
エージング条件 40℃×3日 (0.5Mpa加圧)
【0085】
尚、絞り成型性として成型時の白化等については、株式会社JMT製の深絞り成型装置を用いて、10cm×15cmにカットした外装材の表層Aの面が成型体の収容凹部の内側に来るように、下記成型条件で外装材に深さ7mmの直方体形状に深絞り成型を行い、得られた成型体の収容凹部の内側の表面を目視により観察を行った。
<成型条件>
成型型雄型:89mm×54mm、R=2mm
成型型雌型:118mm×175mm、R=2mm
成型圧:0.5MPa(エア源圧力)
材質:ステンレス鋼
○:製膜工程、ラミネート工程でのロール汚れや巻取り時の皺等の発生がなく、外観良好な製品が得られ、絞り成型時の白化もなく成型性も良好であった。
×:製膜工程、ラミネート工程でのロール汚れや巻取り時の皺等の発生や、絞り成型時の白化があり成型性が不良であった。
【0086】
(13)十点平均表面粗さRz
十点平均粗さRzは、小坂研究所製の高精度微細形状測定器(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601-1994に準拠し、下記測定条件にて測定を行った。なお、1種類の積層フィルムにつき各方向3回測定を行い、合計6回測定した算術平均値を用いた。
測定範囲:長手方向(MD方向)0.2mm、幅方向(TD方向)2mm
測定ピッチ:長手方向(MD方向)10μm、幅方向(TD方向)0.2μm
触針:先端半径2.0μmのダイヤモンド針
荷重:100μN
カットオフ:0.8mm。
【0087】
(14)金属板(SUS)との動摩擦係数
卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-X,摩擦係数測定装置を使用して、JIS K7312-1996に沿って試験を行った。フィルムを移動試験片(一辺が63.5 mmの正方形のもの)は金属製そりに両面テープで貼り付け、金属板SUS430(JIS Z 3043:1990)上に乗せて測定を行い、n数3の平均値を用いた。
【0088】
実施例1~10および比較例1~4の表層A、基材層B、表層C用の樹脂と滑剤として、下記を準備した。
(1)エチレン・プロピレンランダム共重合体(a)
MFR3.5g/10分、融点143℃のエチレン・プロピレンランダム共重合体をEPCと表示。
(2)エチレン・プロピレンブロック共重合体-1
20℃キシレン可溶部13質量%、該可溶部の極限粘度[η]Cxs2.0dl/g、20℃キシレン不溶部87質量%、該不溶部の極限粘度[η]Cxis2.0dl/g、[η]Cxs/[η]Cxis=1.0のエチレン・プロピレンブロック共重合体をBPP-1と表示。
(3)エチレン・プロピレンブロック共重合体-2
20℃キシレン可溶部18質量%、該可溶部の極限粘度[η]Cxs2.4dl/g、20℃キシレン不溶部82質量%、該不溶部の極限粘度[η]Cxis2.0dl/g、[η]Cxs/[η]Cxis=1.2のエチレン・プロピレンブロック共重合体をBPP-2と表示。
(4)エチレン・プロピレンブロック共重合体-3
20℃キシレン可溶部20質量%、該可溶部の極限粘度[η]Cxs3.2dl/g、20℃キシレン不溶部80質量%、該不溶部の極限粘度[η]Cxis1.9dl/g、[η]Cxs/[η]Cxis=1.7のエチレン・プロピレンブロック共重合体をBPP-2と表示。
(5)ホモポリプロピレン
MFR6.0g/10分、融点163℃のホモポリプロピレンをHPPと表示。
(6)プロピレン系エラストマー
プロピレン成分が80質量%、エチレン成分が20質量%の共重合体で、230℃でのMFRが20g/10分で、密度が0.863g/cmのエラスマーをPERと表示。
(7)脂肪酸アミド系滑剤
脂肪酸アミド系滑剤として、エルカ酸アミドを用いた。
(8)超高分子量高密度ポリエチレン
超高分子量高密度ポリエチレンとして、三井化学社製の超高分子量ポリエチレン“ミペロン(登録商標)”PM200(平均粒径が10μm)を用いて、HW-HDPEと表示。
【0089】
実施例1~10では、表に示すように、
表層Aとして上記エチレン・プロピレンランダム共重合体EPCに、超高分子量高密度ポリエチレンとエルカ酸アミドを混合し、
基材層Bとして、上記エチレン・プロピレンランダム共重合体EPCと、エチレン・プロピレンブロック共重合体と、プロピレン系エラストマーと、エルカ酸アミドの組成を変更して混合し、
表層Cとして、エチレン・プロピレンランダム共重合体EPCと、エチレン・プロピレンブロック共重合体と、エルカ酸アミドの組成を変更して混合した。
表層A、基材層B、表層Cそれぞれ別々の押出機に供給して、表層A/基材層B/表層Cの3層共押出からなる無延伸の3層複合フィルムを作製した。それぞれの層の厚さは、10μm/55μm/15μmの合計80μmとした。
【0090】
実施例1~10では、表1に示すように、表層A、基材層B、表層Cの原料組成を本発明の範囲としたことにより、表2に示すように表層Aの十点平均表面粗さRzが本発明の範囲なり、また、本発明の目的とするヒートシール強度とラミネート強度が高く、金属板との摩擦係数が低くて滑り性に優れ、ラミネート性および成型性に優れたものであった。
【0091】
比較例1では、表層Aに超高分子量高密度ポリエチレンを含有していないために、金属との動摩擦係数が高くなり、絞り成型性に劣ったものであった。
【0092】
比較例2では、表層Aに超高分子量高密度ポリエチレンの含有量が多いために、十点平均表面粗さRzが高くなり過ぎて、ヒートシール強度が低いものであった。
【0093】
比較例3では、滑り性を向上させるために滑剤量を増やしたが、金属板との摩擦係数が高く、ヒートシール強度およびラミネート強度が低下し、成型性およびラミネート性にも劣っていた。
【0094】
比較例4では、表層Aの樹脂組成をエチレン・プロピレンランダム共重合体40質量%、エチレン・プロピレンブロック共重合体56質量%としたことにより、ヒートシール強度が低いものであった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のポリプロピレン系無延伸フィルムは、エージングしてもフィルム表面の滑剤量を適切な範囲内に維持できて、ヒートシール強度とラミネート強度が高く、絞り成型性に優れ、包装材および蓄電デバイス用外装材のシーラント層として好適に使用できるものである。