(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122752
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】加熱コイル及び高周波焼入装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20230829BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20230829BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20230829BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H05B6/36 Z
C21D1/10 R
H05B6/10 371
C21D9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026435
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 祥
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AB09
3K059AB19
3K059AD05
3K059AD39
4K042AA25
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC02
4K042DD04
4K042DE02
4K042DF01
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】ワークの均一な加熱と加熱されたワークの速やかな冷却の両立を可能とする加熱コイル及び高周波焼入装置を提供する。
【解決手段】加熱コイルは、内半径が第1内半径である第1円弧部分と、内半径が前記第1内半径よりも大きい第2内半径である第2円弧部分と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内半径が第1内半径である第1円弧部分と、
内半径が前記第1内半径よりも大きい第2内半径である第2円弧部分と、
を備えた加熱コイル。
【請求項2】
前記第2円弧部分は前記第1円弧部分に電気的に接続された請求項1に記載の加熱コイル。
【請求項3】
前記第1円弧部分及び前記第2円弧部分は1本の金属パイプにより形成された請求項2に記載の加熱コイル。
【請求項4】
前記第2円弧部分の中心軸は前記第1円弧部分の中心軸と一致する請求項1~3のいずれか1つに記載の加熱コイル。
【請求項5】
前記第1円弧部分の少なくとも一部と前記第2円弧部分の少なくとも一部は同一平面上に配置されている請求項1~4のいずれか1つに記載の加熱コイル。
【請求項6】
前記第1円弧部分の中心角は180度以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の加熱コイル。
【請求項7】
内半径が前記第1内半径とは異なり前記第2内半径よりも小さい第3内半径であり、中心軸が前記第1円弧部分の中心軸と一致する第3円弧部分と、
前記第1円弧部分の中心軸が延びる第1方向から見て前記第2円弧部分と重なり、内半径が前記第2内半径であり、中心軸が前記第2円弧部分の中心軸と一致し、前記第3円弧部分に電気的に接続された第4円弧部分と、
をさらに備えた請求項1~6のいずれか1つに記載の加熱コイル。
【請求項8】
外半径が前記第1内半径よりも小さい第1部分、及び、外半径が前記第1内半径よりも大きく前記第2内半径よりも小さい第2部分を含むワークを加熱する請求項1~7のいずれか1つに記載の加熱コイル。
【請求項9】
請求項8に記載の加熱コイルと、
前記第1円弧部分の中心軸が延びる第1方向において前記加熱コイルから離隔した位置に配置され、前記加熱コイルにより加熱された前記ワークを冷却する冷却手段と、
前記ワーク、前記加熱コイル及び前記冷却手段の位置関係を、前記第1方向から見て前記ワークの一部が前記第1円弧部分内に位置する第1関係と前記第1方向から見て前記ワークの前記第2部分が前記加熱コイルの前記第1円弧部分から離れた第2関係との間で変更可能であると共に、前記第2関係と前記ワークが前記冷却手段によって冷却可能となる第3関係との間で変更可能な移動手段と、
を備えた高周波焼入装置。
【請求項10】
前記移動手段は、
前記加熱コイルを前記第1関係を実現する位置と前記第2関係を実現する位置との間で移動可能な第1移動部と、
前記ワークを前記第2関係を実現する位置と前記第3関係を実現する位置との間で移動可能な第2移動部と、
を有する請求項9に記載の高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加熱コイル及び高周波焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入装置によってワークに焼入処理を施す場合に、ワーク全体を均一に加熱することが望まれる場合がある。ワーク全体を均一に加熱するためには、ワークの表面との距離ができるだけ一定になるような位置に加熱コイルを配置することが好ましい。一方、加熱されたワークを速やかに冷却するためには、加熱コイルと冷却手段との間でワークを移動可能であることが好ましい。しかしながら、ワークに直径が異なる部分があると、直径が小さい部分の近傍に配置された加熱コイルが直径が大きい部分と干渉し、ワークの移動を妨げる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の目的は、ワークの均一な加熱と加熱されたワークの速やかな冷却の両立を可能とする加熱コイル及び高周波焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る加熱コイルは、内半径が第1内半径である第1円弧部分と、内半径が前記第1内半径よりも大きい第2内半径である第2円弧部分と、を備える。
【0006】
本発明の実施形態に係る高周波焼入装置は、ワークを加熱する加熱コイルと、冷却手段と、移動手段と、を備える。前記加熱コイルは、内半径が第1内半径である第1円弧部分と、内半径が前記第1内半径よりも大きい第2内半径である第2円弧部分と、を有する。前記ワークは、外半径が前記第1内半径よりも小さい第1部分、及び、外半径が前記第1内半径よりも大きく前記第2内半径よりも小さい第2部分を含む。前記冷却手段は、前記第1円弧部分の中心軸が延びる第1方向において前記加熱コイルから離隔した位置に配置され、前記加熱コイルにより加熱された前記ワークを冷却する。前記移動手段は、前記ワーク、前記加熱コイル及び前記冷却手段の位置関係を、前記第1方向から見て前記ワークの一部が前記第1円弧部分内に位置する第1関係と前記第1方向から見て前記ワークの前記第2部分が前記加熱コイルの前記第1円弧部分から離れた第2関係との間で変更可能であると共に、前記第2関係と前記ワークが前記冷却手段によって冷却可能となる第3関係との間で変更可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、ワークの均一な加熱と加熱されたワークの速やかな冷却の両立を可能とする加熱コイル及び高周波焼入装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態におけるワークを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る加熱コイルを示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態に係る加熱コイルの外周部及びワークを示す上面図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態に係る加熱コイルの外周部及びワークを示す断面図である。
【
図10】
図10(a)~(c)は、第1の実施形態に係る高周波焼入装置の動作を示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す断面図である。
【
図12】
図12は、第3の実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る高周波焼入装置1においては、加熱コイル10、冷却手段80、及び、移動手段90が設けられている。高周波焼入装置1はワーク100に対して焼入処理を施す。ワーク100は鋼部材である。加熱コイル10はワーク100を高周波加熱する。冷却手段80は、加熱コイル10により加熱されたワーク100を冷却する。移動手段90は、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を変更可能である。
【0010】
先ず、本実施形態において高周波焼入処理の対象となるワーク100について説明する。
図2は、本実施形態におけるワークを示す斜視図である。
図2に示すように、ワーク100の形状は回転体である。ワーク100には、ワーク100の中心軸100Cに沿って、部分101、部分102(第2部分)、部分103(第1部分)、部分104がこの順に設けられている。部分101~104は鋼により一体的に形成されている。部分102(第2部分)の外半径R2は、部分103(第1部分)の外半径R1よりも大きい。また、部分101の外半径R3は外半径R1よりも小さい。部分104の外半径は外半径R2と等しい。すなわち、R3<R1<R2である。
【0011】
また、ワーク100には、中心軸100Cに沿って、貫通孔110が設けられている。貫通孔110の中心軸は中心軸100Cと一致する。ワーク100は、例えば、キャタピラの転輪である。
【0012】
次に、加熱コイル10について説明する。
図3は、本実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す斜視図である。
図4は、本実施形態に係る加熱コイルを示す斜視図である。
図5は、本実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
図6は、本実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
図7は、本実施形態に係る加熱コイルの外周部を示す斜視図である。
図8は、本実施形態に係る加熱コイルの外周部及びワークを示す上面図である。
図9は、本実施形態に係る加熱コイルの外周部及びワークを示す断面図である。
図4は
図3からワーク100を省略した図である。
図5~
図7は
図4から加熱コイル10の内周部71を省略した図であり、相互に異なる方向から見た図である。
図8及び
図9においても、加熱コイル10の内周部71は省略されている。
【0013】
図3に示すように、加熱コイル10においては、ワーク100を加熱するときにワーク100の外側に配置される外周部11と、ワーク100の貫通孔110の内部に配置される内周部71と、が設けられている。外周部11と内周部71とは、相互に離隔している。
【0014】
図3~
図9に示すように、外周部11は、1本の金属パイプ、例えば銅からなる1本の角パイプ12が曲げ加工されて形成されている。角パイプ12は、1本の電流経路であると共に、内部には冷却材が流通する流路が形成されている。冷却材は例えば水である。
【0015】
角パイプ12の一端部は、上下方向に延びる垂直部21となっている。垂直部21には、電極13が接合されている。垂直部21の上端には、冷却材の給排口15が取り付けられている。角パイプ12の他端部は、上下方向に延びる垂直部67となっている。垂直部67には、電極14が接合されている。垂直部67の上端には、冷却材の給排口15が取り付けられている。また、給排口15は、円弧部34、円弧部42、円弧部54に、一対ずつ取り付けられている。すなわち、角パイプ12には合計8つの給排口15が取り付けられている。
【0016】
角パイプ12は、一端から他端に向かって、垂直部21、水平部22、直線部23、円弧部24、直線部25、半円部26、直線部27、円弧部28、垂直部29、円弧部30、直線部31、半円部32、直線部33、円弧部34、垂直部35、円弧部36、直線部37、半円部38、直線部39、円弧部40、垂直部41、円弧部42、直線部43、半円部44、直線部45、円弧部46、垂直部47、円弧部48、直線部49、半円部50、直線部51、円弧部52、垂直部53、円弧部54、直線部55、半円部56、直線部57、円弧部58、垂直部59、円弧部60、直線部61、半円部62、直線部63、円弧部64、直線部65、水平部66、垂直部67を形成している。
【0017】
上述の各半円部の形状は半円状である。すなわち、各半円部の中心角は約180度である。各円弧部の形状は円弧状である。各円弧部の中心角は180度未満である。各垂直部の形状は垂直方向に延びる直線状である。各直線部の形状は水平方向に延びる直線状である。各半円部及び各円弧部の中心軸は相互に一致する。この中心軸を加熱コイル10の中心軸Cとする。中心軸Cは例えば垂直方向に延びている。
【0018】
角パイプ12のうち、円弧部24、直線部25、半円部26、直線部27、円弧部28、垂直部29、円弧部30、直線部31、半円部32、直線部33及び円弧部34により、2ターンからなる上部構造体17が構成されている。
【0019】
円弧部24、半円部26及び円弧部28は同一平面上に配置されている。円弧部30、半円部32及び円弧部34は同一平面上に配置されている。円弧部30は円弧部24の直下域に配置されている。円弧部34は円弧部28の直下域に配置されている。半円部32は半円部26の直下域に配置されている。円弧部28は垂直部29によって円弧部30に繋がり、一段下降する。円弧部28の中心角と円弧部30の中心角の和は約180度である。上部構造体17のうち、半円部26及び半円部32はそれぞれ第5円弧部分17aに相当する。円弧部28及び円弧部30からなる半円は第6円弧部分17bに相当する。
【0020】
角パイプ12のうち、円弧部36、直線部37、半円部38、直線部39、円弧部40、垂直部41、円弧部42、直線部43、半円部44、直線部45、円弧部46、垂直部47、円弧部48、直線部49、半円部50、直線部51及び円弧部52により、3ターンからなる中部構造体18が構成されている。
【0021】
円弧部36、半円部38及び円弧部40は同一平面上に配置されている。円弧部42、半円部44及び円弧部46は同一平面上に配置されている。円弧部48、半円部50及び円弧部52は同一平面上に配置されている。円弧部42は円弧部36の直下域に配置されている。円弧部46は円弧部40の直下域に配置されている。円弧部48は円弧部42の直下域に配置されている。円弧部52は円弧部46の直下域に配置されている。半円部44は半円部38の直下域に配置されている。半円部50は半円部44の直下域に配置されている。円弧部40は垂直部41によって円弧部42に繋がり、一段下降する。円弧部40の中心角と円弧部42の中心角の和は約180度である。円弧部46は垂直部47によって円弧部48に繋がり、一段下降する。円弧部46の中心角と円弧部48の中心角の和は約180度である。
【0022】
中部構造体18のうち、半円部38、半円部44及び半円部50はそれぞれ第1円弧部分18aに相当する。円弧部40及び円弧部42からなる半円、並びに、円弧部46及び円弧部48からなる半円は、それぞれ、第2円弧部分18bに相当する。上部構造体17と中部構造体18とは垂直部35によって接続されている。
【0023】
角パイプ12のうち、円弧部54、直線部55、半円部56、直線部57、円弧部58、垂直部59、円弧部60、直線部61、半円部62、直線部63及び円弧部64により、2ターンからなる下部構造体19が構成されている。
【0024】
円弧部54、半円部56及び円弧部58は同一平面上に配置されている。円弧部60、半円部62及び円弧部64は同一平面上に配置されている。円弧部60は円弧部54の直下域に配置されている。円弧部64は円弧部58の直下域に配置されている。半円部62は半円部56の直下域に配置されている。円弧部58は垂直部59によって円弧部60に繋がり、一段下降する。円弧部58の中心角と円弧部60の中心角の和は約180度である。
【0025】
下部構造体19のうち、半円部56及び半円部62はそれぞれ第3円弧部分19aに相当する。円弧部58及び円弧部60からなる半円は第4円弧部分19bに相当する。中部構造体18と下部構造体19とは垂直部53によって接続されている。
【0026】
第1円弧部分18aである半円部38、半円部44及び半円部50の内半径は、いずれも第1内半径r1である。第2円弧部分18bである円弧部40及び円弧部42からなる半円、並びに、円弧部46及び円弧部48からなる半円の内半径は、いずれも第2内半径r2である。第2内半径r2は第1内半径r1よりも大きい。第3円弧部分19aである半円部56及び半円部62の内半径は、いずれも第3内半径r3である。第3内半径r3は第1内半径r1よりも小さい。すなわち、r3<r1<r2である。
【0027】
第4円弧部分19bである円弧部58及び円弧部60からなる半円の内半径は、いずれも第2内半径r2である。第5円弧部分17aである半円部26及び半円部32の内半径は、いずれも第3内半径r3である。第6円弧部分17bである円弧部28及び円弧部30からなる半円の内半径は、いずれも第2内半径r2である。
【0028】
加熱コイル10とワーク100との寸法の関係は、以下のとおりである。
図9に示すように、ワーク100の部分101の外半径R3は、加熱コイル10の第3内半径r3よりも小さい。ワーク100の部分102(第2部分)及び部分104の外半径R2は、加熱コイル10の第1内半径r1よりも大きく第2内半径r2よりも小さい。ワーク100の部分103(第1部分)の外半径R1は、加熱コイル10の第3内半径r3よりも大きく第1内半径r1よりも小さい。すなわち、R3<r3<R1<r1<R2<r2である。
【0029】
次に、加熱コイル10の内周部71について説明する。
図4に示すように、内周部71は、1本の金属パイプ、例えば銅からなる1本の角パイプ72が曲げ加工されて構成されている。角パイプ72は、1本の電流経路であると共に、内部には冷却材が流通する流路が形成されている。冷却材は例えば水である。角パイプ72の一端には電極73が接続されており、他端には電極74が接続されている。角パイプ72の中間部は、例えば4ターンのらせん状となっている。角パイプ72には冷却材の給排口75が例えば2対取り付けられている。
【0030】
図1に示すように、冷却手段80は、加熱コイル10の中心軸Cが延びる方向において加熱コイル10から離隔した位置に配置されている。例えば、冷却手段80は加熱コイル10の直下に配置されている。冷却手段80は、加熱コイル10により加熱されたワーク100に冷却液を噴射してワーク100を冷却する。冷却液は例えば水である。
【0031】
移動手段90においては、加熱コイル10の外周部11を水平方向に移動させる水平移動部91(第1移動部)と、ワーク100を垂直方向に移動させる垂直移動部92(第2移動部)と、水平移動部91及び垂直移動部92を制御する制御部93と、が設けられている。制御部93は、加熱コイル10及びその電源部、並びに、冷却手段80及びその冷却液供給部を制御してもよい。
【0032】
移動手段90は、水平移動部91及び垂直移動部92を協働させることにより、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を、中心軸Cが延びる方向から見てワーク100の一部が、第1円弧部分18aである半円部38、半円部44及び半円部50、第3円弧部分19aである半円部56及び半円部62、並びに、第5円弧部分17aである半円部26及び半円部32の内部に位置するような関係とすることができる。この関係を「第1関係」という。
【0033】
なお、第1関係においては、中心軸Cが延びる方向から見てワーク100の残部は、第2円弧部分18bである円弧部40及び円弧部42からなる半円、並びに、円弧部46及び円弧部48からなる半円、第4円弧部分19bである円弧部58及び円弧部60からなる半円、並びに、第6円弧部分17bである円弧部28及び円弧部30からなる半円の内部に位置する。
【0034】
また、移動手段90は、水平移動部91及び垂直移動部92を協働させることにより、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を、中心軸Cが延びる方向から見てワーク100の部分102(第2部分)が加熱コイル10の第1円弧部分18aである半円部38、半円部44及び半円部50から離れた関係とすることができる。この関係を「第2関係」という。
【0035】
なお、第2関係において、ワーク100の少なくとも一部は、第2円弧部分18bである円弧部40及び円弧部42からなる半円、並びに、円弧部46及び円弧部48からなる半円、第4円弧部分19bである円弧部58及び円弧部60からなる半円、並びに、第6円弧部分17bである円弧部28及び円弧部30からなる半円の内部に位置する。
【0036】
具体的には、水平移動部91が加熱コイル10の外周部11を水平方向に移動させることにより、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を上述の第1関係と第2関係との間で変更することができる。
【0037】
更に、移動手段90は、水平移動部91及び垂直移動部92を協働させることにより、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を、ワーク100が冷却手段80によって冷却可能となる関係とすることができる。この関係を「第3関係」という。
【0038】
具体的には、垂直移動部92がワーク100を垂直方向に移動させることにより、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を上述の第2関係と第3関係との間で変更することができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る高周波焼入装置1の動作について説明する。
図10(a)~(c)は、本実施形態に係る高周波焼入装置の動作を示す図である。
なお、
図10(a)~(c)においては、加熱コイル10の内周部71を省略している。
【0040】
先ず、
図1及び
図10(a)に示すように、移動手段90がワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を上述の第1関係とする。すなわち、中心軸Cが延びる方向から見て、ワーク100の一部を加熱コイル10の外周部11の第1円弧部分18a内、第3円弧部分19a内及び第5円弧部分17a内に配置する。また、加熱コイル10の内周部71をワーク100の貫通孔110内に配置する。このとき、ワーク100の中心軸100Cを加熱コイル10の中心軸Cと一致させる。そして、ワーク100を中心軸100Cを中心として自転させる。
【0041】
次に、加熱コイル10の外周部11の角パイプ12内に、給排口15を介して冷却材を流通させる。また、内周部71の角パイプ72内に、給排口75を介して冷却材を流通させる。冷却材には例えば水を用いる。
【0042】
この状態で、電極13及び電極14を介して角パイプ12に高周波電流を供給すると共に、電極73及び電極74を介して角パイプ72に高周波電流を供給する。これにより、ワーク100が誘導加熱される。ワーク100は自転しながら加熱コイル10の外周部11によって外側から加熱され、内周部71によって内側から加熱される。ワーク100から見て、加熱コイル10の各半円部(第1円弧部分18a、第3円弧部分19a及び第5円弧部分17a)は各円弧部(第2円弧部分18b、第4円弧部分19b及び第6円弧部分17b)よりも近くに配置されているため、各半円部による加熱は各円弧部による加熱よりも強い。
【0043】
ワーク100が所定の温度、例えば、オーステナイト変態点以上の温度まで加熱されたら、加熱コイル10に対する高周波電流の供給を停止する。これにより、ワーク100の加熱が停止する。
【0044】
次に、
図10(b)に示すように、移動手段90の水平移動部91が加熱コイル10の外周部11を水平に移動させて、上述の第2関係とする。すなわち、中心軸Cが延びる方向から見て、ワーク100の部分102(第2部分)が加熱コイル10の第1円弧部分18aである半円部38、半円部44及び半円部50から離れるようにする。
【0045】
次に、
図10(c)に示すように、移動手段90の垂直移動部92がワーク100を下降させて、上述の第3関係とする。すなわち、ワーク100を冷却手段80によって冷却可能な位置に配置する。例えば、ワーク100を冷却手段80によって囲まれる位置に配置する。
【0046】
次に、冷却手段80がワーク100に対して冷却液を噴射する。これにより、ワーク100の表面が急冷されて、焼入硬化する。このようにして、ワーク100の表面に焼入処理が施される。
【0047】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態によれば、ワーク100及び加熱コイル10の位置関係が第1関係にあるときに、加熱コイル10の外周部11の各半円部(第1円弧部分18a、第3円弧部分19a及び第5円弧部分17a)を、ワーク100の外表面に沿って配置している。また、各半円部の中心軸Cをワーク100の中心軸100Cと一致させている。さらに、ワーク100を中心軸100Cを中心として自転させながら加熱している。これにより、ワーク100を均一に加熱することができる。特に、ワーク100のうち外半径が相対的に小さい部分101及び部分103(第1部分)に加熱コイル10を近接させて、これらの部分を確実に加熱することができる。
【0048】
また、加熱コイル10の外周部11に円弧部(第2円弧部分18b、第4円弧部分19b及び第6円弧部分17b)を設け、各円弧部の中心軸もワーク100の中心軸100Cと一致させている。これにより、ワーク100の各部が半円部の反対側に位置するときも、円弧部によって均一に加熱することができる。
【0049】
さらに、加熱終了後に移動手段90が加熱コイル10の外周部11を移動させることにより、ワーク100及び加熱コイル10の位置関係を第1関係から第2関係に変化させて、ワーク100を加熱コイル10の半円部から離隔させている。これにより、ワーク100を加熱コイル10に対して下方に移動させても、ワーク100における相対的に外半径が大きい部分102(第2部分)及び部分104が、加熱コイル10における相対的に内半径が小さい部分(半円部)と接触することがなくなる。この結果、ワーク100、加熱コイル10及び冷却手段80の位置関係を第2関係から第3関係に変化させることが可能となる。
【0050】
位置関係を第3関係とすることにより、加熱コイル10によって加熱された直後のワーク100を、冷却手段80によって速やかに冷却することができる。このように、本実施形態によれば、ワーク100の均一な加熱とワーク100の速やかな冷却の両立が可能となる。
【0051】
さらにまた、本実施形態においては、加熱コイル10の外周部11及び内周部71がそれぞれ1本の金属パイプにより構成されているため、高周波電流の損失を抑制できると共に、外周部11内及び内周部71内に冷却材を流通させることができる。また、角パイプ12に複数対の給排口15を設けているため、流路の途中で加熱された冷却材を排出し、加熱されていない冷却材を供給することができる。これにより、角パイプ12の冷却効率が向上する。角パイプ72についても同様である。
【0052】
なお、本実施形態において、加熱コイル10に内周部71は設けられていなくてもよい。また、加熱コイル10の外周部11において、上部構造体17、中部構造体18及び下部構造体19は、それぞれ1ターンのみで構成されていてもよく、4ターン以上で構成されていてもよい。
【0053】
<第2の実施形態>
本実施形態は、前述の第1の実施形態を簡略化した例である。
図11は、本実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す断面図である。
【0054】
図11に示すように、本実施形態に係る加熱コイル10aには、外周部11のみが設けられており、内周部71は設けられていない。また、外周部11には第1円弧部分18a及び第2円弧部分18bのみが設けられており、第3~第6円弧部分は設けられていない。第1円弧部分18a及び第2円弧部分18bの中心角は、いずれも約180度である。
【0055】
また、本実施形態において焼入処理を施すワーク100aは、部分103(第1部分)及び部分102(第2部分)のみが設けられており、部分101、部分104及び貫通孔110は設けられていない。
【0056】
加熱コイル10aの第2円弧部分18bの第2内半径r2は、第1円弧部分18aの第1内半径r1よりも大きい。また、ワーク100aの部分103(第1部分)の外半径R1は加熱コイル10aの第1内半径r1よりも小さい。さらに、部分102(第2部分)の外半径R2はワーク100aの第1内半径r1よりも大きく第2内半径r2よりも小さい。すなわち、R1<r1<R2<r2である。
【0057】
本実施形態においては、加熱コイル10aに対するワーク100aの相対的な位置が上述の第1関係を満たす第1位置P1であるときに、加熱コイル10aがワーク100aを高周波誘導加熱する。このとき、加熱コイル10aの第1円弧部分18aはワーク100aの部分103(第1部分)の近傍に配置されるため、ワーク100aを均一に加熱することができる。
【0058】
加熱終了後、移動手段90(
図1参照)がワーク100aを第1位置P1から直接下降させようとすると、ワーク100aの部分102(第2部分)が加熱コイル10aの第1円弧部分18aに接触する。このため、移動手段90は加熱コイル10aに対するワーク100aの相対的な位置を一旦、上述の第2関係を満たす第2位置P2とする。このとき、移動手段90は加熱コイル10aを移動させてもよく、ワーク100aを移動させてもよい。これにより、中心軸Cが延びる方向から見て、ワーク100aの部分102(第2部分)が加熱コイル10aの第1円弧部分18aから離れる。
【0059】
その後、移動手段90はワーク100aの位置を上述の第3関係を満たす第3位置P3とする。第2位置P2から第3位置P3への移動に際しては、ワーク100aが加熱コイル10aに接触することがない。そして、冷却手段80(
図1参照)がワーク100aを冷却する。このようにして、加熱コイル10aにより加熱されたワーク100aを冷却手段80により速やかに冷却することができる。
本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0060】
<第3の実施形態>
本実施形態は、加熱コイルの各円弧部分の中心角が180度以外の角度である例である。
図12は、本実施形態に係る加熱コイル及びワークを示す上面図である。
図12においては、ワーク100aは部分103(第1部分)のみを示し、部分102(第2部分)は省略している。
【0061】
図12に示すように、本実施形態に係る加熱コイル10bにおいては、第1円弧部分18c及び第2円弧部分18dが設けられている。第2円弧部分18dの第2内半径r2は、第1円弧部分18cの第1内半径r1よりも大きい。そして、第1円弧部分18cの中心角θ1は180度よりも小さく、第2円弧部分18dの中心角θ2は180度よりも大きい。これによっても、第1及び第2の実施形態と同様な効果を得ることができる。
本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第2の実施形態と同様である。
【0062】
前述の各実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこれらの実施形態には限定されない。例えば、前述の各実施形態において、いくつかの構成要素を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。例えば、加熱コイル10の外周部11において、上部構造体17、中部構造体18及び下部構造体19は、それぞれ1ターンのみで構成されていてもよく、4ターン以上で構成されていてもよい。また、第1円弧部分18a、第3円弧部分19a、第5円弧部分17aの中心角は相互に異なっていてもよく、第2円弧部分18b、第4円弧部分19b、第6円弧部分17bの中心角は相互に異なっていてもよい。但し、第1関係から第2関係へスムーズに移行させるために、第1円弧部分18a、第3円弧部分19a、第5円弧部分17aの中心角は180度以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1:高周波焼入装置
10、10a、10b:加熱コイル
11:外周部
12:角パイプ
13、14:電極
15:給排口
17:上部構造体
17a:第5円弧部分
17b:第6円弧部分
18:中部構造体
18a、18c:第1円弧部分
18b、18d:第2円弧部分
19:下部構造体
19a:第3円弧部分
19b:第4円弧部分
21、29、35、41、47、53、59、67:垂直部
22、66:水平部
23、25、27、31、33、37、39、43、45、49、51、55、57、61、63、65:直線部
24、28、30、34、36、40、42、46、48、52、54、58、60、64:円弧部
26、32、38、44、50、56、62:半円部
71:内周部
72:角パイプ
73、74:電極
75:給排口
80:冷却手段
90:移動手段
91:水平移動部
92:垂直移動部
93:制御部
100、100a:ワーク
100C:ワークの中心軸
101、102、103、104:部分
110:貫通孔
C:中心軸
P1:第1位置
P2:第2位置
P3:第3位置
R1:第1外半径
R2:第2外半径
R3:第3外半径
r1:第1内半径
r2:第2内半径
r3:第3内半径