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特開2023-122759金属ナノワイヤ製造方法、複合基板および金属ナノワイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122759
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】金属ナノワイヤ製造方法、複合基板および金属ナノワイヤ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/22 20060101AFI20230829BHJP
   C23C 14/16 20060101ALI20230829BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C23C14/22 A
C23C14/16 Z
C23C14/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026447
(22)【出願日】2022-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:公益社団法人 応用物理学会、刊行物名:2021年 第68回応用物理学会春季学術講演会 予稿集、発行日:令和3年2月26日 集会名:2021年 第68回応用物理学会春季学術講演会、開催日:令和3年3月16日、開催場所:WEB開催 ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2021s/subject/16a-Z34-1/tables?cryptoId=、掲載日:令和3年2月26日
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】高廣 克己
(72)【発明者】
【氏名】水谷 仁美
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA05
4K029CA01
4K029CA09
4K029DA08
4K029FA01
(57)【要約】
【課題】工程数の低減を図りつつ、一般的なMEMSの製造への適用が容易である金属ナノワイヤ製造方法、複合基板および金属ナノワイヤを提供する。
【解決手段】金属ナノワイヤ製造方法は、Si基板の厚さ方向における一面側にSi基板の一面側の一部を覆うようにマスクを載置した状態で、Si基板の一面側へイオンビームを照射することによりSi基板の一面側にアモルファスSiを含む改質層を形成する改質層形成工程と、Si基板の一面側に金属粒子を堆積させることにより金属ナノワイヤを成長させる成長工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板の厚さ方向における一面側に前記Si基板の前記一面側の一部を覆うようにマスクを載置した状態で、前記Si基板の前記一面側へイオンビームを照射することにより前記Si基板の前記一面側にアモルファスSiを含む改質層を形成する改質層形成工程と、
前記Si基板の前記一面側に金属粒子を堆積させることにより金属ナノワイヤを成長させる成長工程と、を含む、
金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項2】
前記改質層形成工程の後且つ前記成長工程の前に、前記Si基板の前記一面側を大気に暴露する大気暴露工程を更に含む、
請求項1に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項3】
前記改質層形成工程において、前記イオンビームは、Arイオンを含み、前記イオンビームのドーズ量は、2.0×1015/cm以上4.5×1016/cm以下である、
請求項1または2に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項4】
前記改質層形成工程において、前記イオンビームのエネルギは、1keV以上である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項5】
前記成長工程において、前記金属ナノワイヤを形成する金属とSiとの共晶合金の共融点温度をTcmとすると、前記Si基板の温度を、Tcm近傍の温度で維持する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項6】
前記金属ナノワイヤは、Auから形成されており、
前記成長工程において、前記Si基板の温度を、300℃に維持する、
請求項5に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項7】
前記マスクは、複数の開口部が形成されたメッシュ状であり、
前記複数の開口部それぞれの最大寸法は、10μm以上600μm以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の金属ナノワイヤ製造方法。
【請求項8】
厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した第1領域と非改質層が露出した第2領域とが形成されたSi基板と、
前記Si基板の前記第1領域における、前記第1領域と前記第2領域との領域境界と、前記第1領域における前記領域境界よりも内側に規定距離だけ離間した位置と、の間に形成され且つ長軸方向の方向指数が<110>である金属ナノワイヤと、を備え、
前記規定距離は、0μmよりも長く600μm以下である、
複合基板。
【請求項9】
厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した第1領域と非改質層が露出した第2領域とが形成されたSi基板上に形成されたSi基板の前記第1領域における、前記第1領域と前記第2領域との領域境界と、前記第1領域における前記領域境界よりも内側に規定距離だけ離間した位置と、の間に形成され且つ長軸方向の方向指数が<110>であり、前記規定距離が0μmよりも長く600μm以下である、
金属ナノワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤ製造方法、複合基板および金属ナノワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
金属のナノワイヤから形成されたナノワイヤ構造体を製造する方法として、誘電性のテンプレートフィルムを用いた製造方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この製造方法では、まず、テンプレートフィルムにイオンビームを照射することによりテンプレートフィルムを貫通する多数のトラックを形成した後、ウェットエッチングによりトラックを広げてナノ細孔を形成する。次に、金属を含む電解質を用いてテンプレートフィルムのナノ細孔内に金属を堆積させた後、テンプレートフィルムを溶解させて除去することによりナノワイヤ構造体を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/115227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、少なくともテンプレートフィルムへのイオンビーム照射工程、ウェットエッチング工程、金属堆積工程およびテンプレートフィルム除去工程の4つの工程を行う必要があり、工程数の低減が要請されている。また、このような金属のナノワイヤのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)への適用を容易に行うことを考慮すれば、MEMSの製造で一般的に採用される加工プロセスのみで金属のナノワイヤを作製できることが要請される。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、工程数の低減を図りつつ、一般的なMEMSの製造への適用が容易である金属ナノワイヤ製造方法、複合基板および金属ナノワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金属ナノワイヤ製造方法は、
Si基板の厚さ方向における一面側(鏡面研磨側)に前記Si基板の前記一面側の一部を覆うようにマスクを載置した状態で、前記Si基板の前記一面側へイオンビームを照射することにより前記Si基板の前記一面側にアモルファスSiを含む改質層を形成する改質層形成工程と、
前記Si基板の前記一面側に金属粒子を堆積させることにより金属ナノワイヤを成長させる成長工程と、を含む。
【0007】
他の観点から見た本発明に係る複合基板は、
厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した第1領域と非改質層が露出した第2領域とが形成されたSi基板と、
前記Si基板の前記第1領域における、前記第1領域と前記第2領域との領域境界と、前記第1領域における前記領域境界よりも内側に規定距離だけ離間した位置と、の間に形成され且つ長軸方向の方向指数が<110>である金属ナノワイヤと、を備え、
前記規定距離は、0μmよりも長く600μm以下である。
【0008】
他の観点から見た本発明に係る金属ナノワイヤは、
厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した第1領域と非改質層が露出した第2領域とが形成されたSi基板上に形成されたSi基板の前記第1領域における、前記第1領域と前記第2領域との領域境界と、前記第1領域における前記領域境界よりも内側に規定距離だけ離間した位置と、の間に形成され且つ長軸方向の方向指数が<110>であり、前記規定距離が0μmよりも長く600μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MEMSの製造で一般的に採用されるSi基板へイオンビームを照射する改質層形成工程と、Si基板の一面側に金属粒子を堆積させる成長工程と、を行うことにより、金属ナノワイヤをSi基板上に形成することができる。従って、金属ナノワイヤの製造における工程数の低減を図ることができるとともに、MEMSの製造への適用が比較的容易であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る複合基板の平面図である。
図2】実施形態1に係る改質工程を説明するための図であり、(A)は斜視図であり、(B)は側面図である。
図3】実施形態2に係る複合基板の平面図である。
図4】(A)は実施の形態2に係る改質工程を説明するための側面図であり、(B)は実施の形態2に係る改質工程で使用するマスクを示す図である。
図5】(A)は実施例1に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は(A)の破線で囲んだ部分の拡大SEM写真である。
図6】(A)は実施例1に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は実施例1に係る複合基板の表面における位置P1のSEM写真である。
図7】(A)は実施例1に係る複合基板の表面における位置P2のSEM写真であり、(B)は実施例1に係る複合基板の表面における位置P3のSEM写真であり、(C)は実施例1に係る複合基板の表面における位置P4のSEM写真である。
図8】(A)は実施例1に係る金属ナノワイヤのTEMの明視野画像であり、(B)は実施例1に係る金属ナノワイヤのEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)分析の結果を示す図である。
図9】(A-1)は実施例1に係る金属ナノワイヤのTEMの明視野画像であり、(A-2)は(A-1)に示す金属ナノワイヤの電子線回折パターンを示す図であり、(B-1)は実施例1に係る他の金属ナノワイヤのTEMの明視野画像であり、(B-2)は(B-1)に示す金属ナノワイヤの電子線回折パターンを示す図であり、(C-1)は実施例1に係る他の金属ナノワイヤのTEMの明視野画像であり、(C-2)は(C-1)に示す金属ナノワイヤの電子線回折パターンを示す図である。
図10】(A)は比較例1に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は実施例2に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(C)は実施例3に係る複合基板の表面のSEM写真である。
図11】(A)は実施例1に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は実施例4に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(C)は実施例5に係る複合基板の表面の拡大SEM写真である。
図12】(A)は実施例1に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は比較例2に係る複合基板の表面のSEM写真である。
図13】(A)は実施例6に係る複合基板の表面のSEM写真であり、(B)は(A)の一部を拡大したSEM写真であり、(C)は(B)の一部を拡大したSEM写真である。
図14】(A)は実施例6に係る複合基板の表面の顕微鏡写真であり、(B)は(A)のA―A線におけるAFMプロファイルを示す図である。
図15】(A)は実施例6に係る複合基板を作製する際の改質工程を説明するための模式図であり、(B)は実施例6に係る複合基板の状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態に係る金属ナノワイヤ製造方法および複合基板について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る複合基板1は、厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した第1領域11と非改質層が露出した第2領域12とが形成されたSi基板を備える。そして、複合基板1は、Si基板の第1領域11における、第1領域11と第2領域12との領域境界Bと第1領域11における領域境界Bよりも内側に規定距離L10だけ離間した位置P10との間のサブ領域111に形成された金属ナノワイヤ(図示せず)を備える。ここで、規定距離L10は、0μmよりも長く600μm以下である。また、金属ナノワイヤの長軸方向の方向指数は、<110>である。また、金属ナノワイヤは、金、銀等の貴金属から形成されている。
【0012】
次に、本実施形態に係る金属ナノワイヤの製造方法について説明する。本実施の形態に係る金属ナノワイヤの製造方法では、Si基板の一面側にアモルファスSiを含む改質層を形成する改質層形成工程と、Si基板を大気に暴露する大気暴露工程と、Si基板上に金属ナノワイヤを成長させる成長工程と、を順次行う。改質層形成工程では、図2に示すように、Si基板Wの厚さ方向における一面側にSi基板Wの一面側の一部を覆うようにマスクM1を載置した状態で、矢印AR1に示すように、イオン源SからSi基板Wの一面側へイオンビームを照射する。ここで、イオン源Sとしては、例えばFIB(Focused Ion Beam)装置を使用することができる。また、イオンビームとしては、Arイオン、Heイオン、Gaイオン等のイオンビームを採用することができる。また、イオンビームのドーズ量は、Arイオンの場合、2.0×1015/cm以上4.5×1016/cm以下であり、好ましくは、6.0×1015/cm以上1.6×1016/cm以下である。更に、イオンビームのエネルギは、1keV以上であり、好ましくは、5keV以上である。マスクM1としては、例えばアルミニウム箔のような金属から形成されたマスクを使用することが好ましく、これにより、マスクM1へのチャージアップを抑制することができる。このようにして、改質層形成工程では、Si基板Wに、Si基板Wの一面側に改質層が露出した第1領域A11と、Si基板Wの一面側にイオンビームが照射されていない非改質層が露出した第2領域A12と、を形成する。
【0013】
大気暴露工程は、前述の改質層形成工程を行った後、成長工程を行う前に、Si基板の一面側を大気に暴露する。
【0014】
また、成長工程では、内側が高い真空度に維持されたチャンバ(図示せず)内で、Si基板Wをその改質層が露出する一面側を鉛直下方に向けた状態で保持する。そして、金属ナノワイヤを形成する金属とSiとの共晶合金の共融点温度をTcmとした場合、Si基板の温度を、Tcm近傍の温度で維持する。例えば金属ナノワイヤがAuから形成されている場合、Si-Au系の共晶合金の共融点温度Tcmが363℃であるが、Si基板の温度を300℃で維持する。ここで、チャンバ内の気圧は、例えば10-5Pa以下に設定される。そして、金属ナノワイヤの材料となる金属が充填されたるつぼ(図示せず)を、チャンバ内におけるSi基板Wの鉛直下方に配置し、金属粒子を蒸発させることにより、Si基板Wの改質層が露出する一面側に金属粒子を堆積させる。金属ナノワイヤの材料となる金属は、金属ナノワイヤを形成する材料に応じて選択されるものであり、金、銀等である。
【0015】
以上説明したように、本実施形態に係る金属ナノワイヤ製造方法によれば、MEMSの製造で一般的に採用されるSi基板Wへイオンビームを照射する改質層形成工程と、Si基板の一面側に金属粒子を堆積させる成長工程と、を行うことにより、金属ナノワイヤをSi基板上に形成することができる。従って、金属ナノワイヤの製造における工程数の低減を図ることができるとともに、MEMSの製造への適用が比較的容易であるという利点がある。
【0016】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る金属ナノワイヤ製造方法は、改質層形成工程において、複数の開口部が形成されたメッシュ状のマスクを使用する点で実施の形態1と相違する。図3に示すように、本実施の形態に係る複合基板2は、厚さ方向における一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した複数の矩形状の第1領域21が格子状に配置され、複数の第1領域21の間に非改質層が露出した第2領域22が形成されたSi基板を備える。ここで、矩形状の第1領域21の図3における横方向、縦方向の長さL11、L12は、いずれも0μmよりも長く且つ600μm以下に設定され、例えば長さL11が10μm、長さL12が6μmに設定される。なお、隣り合う2つの第1領域21の間の長さL12、L22は、特に限定されない。そして、複合基板2は、Si基板の第1領域21の内側に形成された金属ナノワイヤ(図示せず)を備える。また、金属ナノワイヤの長軸方向の方向指数は、実施の形態1と同様に、<110>である。また、金属ナノワイヤの材料は実施の形態1と同様である。
【0017】
次に、本実施形態に係る金属ナノワイヤの製造方法について説明する。本実施の形態に係る金属ナノワイヤの製造方法では、実施の形態1で説明した金属ナノワイヤ製造方法と略同様であり、改質層形成工程において、図4(A)および(B)に示すように、複数の開口部HL2が形成されたマスクM2を使用する点が相違する。ここで、マスクM2に形成された平面視矩形状の開口部HL2の寸法は、複合基板2の第1領域21の寸法と同じ寸法に設定されており、図4(B)に示すように、開口部HL2の横方向、縦方向の長さL11、L12は、いずれも10μm以上600μm以下に設定されている。なお、開口部HL2の平面視形状は矩形状に限定されるものではなく、円形、三角形、その他多角形の形状を有するものであってもよい。また、隣り合う2つの開口部HL2の間の長さL12、L22は、特に限定されない。これにより、Si基板Wの一面側にアモルファスSiを含む改質層が露出した複数の矩形状の第1領域21が格子状に配置されたものが形成される。そして、この改質層形成工程の後、実施の形態1で説明した堆積工程を行うことで、Si基板Wにおける第1領域21の内側に金属ナノワイヤが形成される。
【0018】
以上説明したように、本実施形態に係る金属ナノワイヤ製造方法によれば、前述の改質層形成工程において、最大寸法が10μm以上600μm以下の複数の開口部HL2が形成されたメッシュ状のマスクM2を使用する。これにより、Si基板上における複数の開口部HL2に対応した部分それぞれに最大寸法が10μm以上600μm以下の第1領域21を形成することができる。従って、第1領域21それぞれに比較的高い密度で金属ナノワイヤを形成することができる。
【実施例0019】
本発明に係る基体について、実施例および比較例に基づいて説明する。7つの実施例1乃至7および4つの比較例1乃至4の全てにおいて、Si基板として、抵抗率3乃至5Ω・cm、厚さ625±15μmのn型のSi基板を採用した。また、改質層形成工程において、イオンビームとしてはArイオンのイオンビームを用い、イオンビームのSi基板に対する入射角は0度に設定した。更に、成長工程において、AuのSi基板への蒸着を行った。また、実施例1乃至7および比較例1乃至4の全てにおいて、改質層形成工程を行った後、Si基板を大気に暴露する大気暴露工程を行ってから、成長工程を行った。実施例1乃至7、比較例1乃至4それぞれに係る改質層形成工程におけるイオンビームのドーズ量、加速エネルギ、電流密度および成長工程におけるSi基板の温度は以下の表1に示す通りである。
【0020】
【表1】
【0021】
次に、実施例1乃至7および比較例1乃至4に係る複合基板の金属ナノワイヤについて、SEM観察、EDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)による成分元素分析、結晶構造の分析、AFM観察を実施することにより評価した結果について説明する。なお、SEM観察には、電界放出型走査型電子顕微鏡(JSM-7600F FE-SEM:日本電子製)を使用した。また、成分元素分析には、エネルギ分散型X線分光装置(JSM-7600F INCA Version 4.11:日本電子製)を使用した。更に、結晶構造の分析には、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いた。
【0022】
実施例1に係る複合基板では、図5(A)および(B)に示すように、イオンビームが照射された改質層が露出する第1領域におけるイオンビームが照射されていない非改質層が露出する第2領域との境界から50μm乃至200μm程度離間した位置にナノワイヤが確認された。そして、実施例1に係る複合基板について、図6(A)に示すように、第2領域内の位置P1、第1領域における第2領域との境界近傍の位置P2、第1領域における第2領域との境界から400μm程度離間した位置P3および第1領域における第2領域との境界から1mm程度離間した位置P4それぞれについて、表面モフォロジを詳細に確認した。図6(B)に示すように、位置P1では、Au粒子が確認されたが、ナノワイヤは全く確認されなかった。また、図7(A)に示すように、位置P2では、Auナノ粒子に加えて粒径50μm乃至100μmの大きさの島状の塊が観測されたが、ナノワイヤは観測されなかった。そして、図7(B)に示すように、位置P3では、略六角柱状に成長したナノワイヤが観測された。一方、図7(C)に示すように、位置P4では、位置P2と同様に、粒径50μm乃至100μmの大きさの島状の塊が観測されたが、ナノワイヤは観測されなかった。但し、位置P2に比べて島状の塊の密度が低かった。
【0023】
また、実施例1に係る複合基板について、図8(A)に示す位置P3で確認されたナノワイヤについて、EDXによる成分元素分析を行ったところ、図8(B)に示すようにAuに対応するピークが観測された。このことから、実施例1に係る複合基板の位置P3においてAuのナノワイヤが形成されていることが判った。
【0024】
更に、実施例1に係る複合基板の位置P3に形成されている図9(A-1)、(B-1)、(C-1)に示す3つのAuのナノワイヤそれぞれについて、図9(A-2)、(B-2)、(C-2)に示す電子線回折パターンが観測された。これらの電子線回折パターンから、Auのナノワイヤの長軸方向の方向指数が<110>であることが判った。
【0025】
次に、Auナノワイヤのイオンビームのドーズ量依存性について評価した結果について実施例1乃至4に係るSEM観察結果および比較例1に係るSEM観察結果を用いて説明する。比較例1に係る複合基板の第1領域では、図10(A)に示すように、Auのナノワイヤが確認されなかった。実施例1乃至4に係る複合基板の第1領域では、図10(B)、(C)および図11(A)、(B)に示すようにAuのナノワイヤが確認された。但し、実施例2では、Auのナノワイヤとともに島状の塊が観測され、Auのナノワイヤの数は、実施例1、3のそれに比べて少なかった。また、実施例4に係る複合基板の第1領域におけるAuのナノワイヤの数は、実施例1、3のそれに比べて少なかった。このことから、イオンビームのドーズ量が2.0×1015/cm以上4.5×1016/cm以下であればAuのナノワイヤが形成されることが判った。但し、Auのナノワイヤを多数形成する観点からすれば、イオンビームのドーズ量は、6.0×1015/cm以上1.6×1016/cm以下であることが好ましいことが判った。
【0026】
続いて、Auのナノワイヤのイオンビームの加速エネルギ依存性について評価した結果について実施例1、5に係るSEM観察結果および比較例2,3に係るSEM観察結果を用いて説明する。比較例2、3に係る複合基板の第1領域では、Auのナノワイヤが全く確認されなかった。実施例5に係る複合基板の第1領域では、図11(C)に示すようにAuのナノワイヤが確認された。但し、実施例5に係るAuのナノワイヤのうちの最長のものの長さが20μm程度であるのに対して、実施例1に係るAuのナノワイヤのうちの最長のものの長さが100μm程度であった。このことから、イオンビームの加速エネルギが、1keV以上であればAuのナノワイヤが形成されることが判った。但し、Auのナノワイヤの長尺化の観点からすれば、イオンビームの加速エネルギは、5keV以上であることが好ましいことが判った。
【0027】
ここで、実施例1、5および比較例2、3に係る複合基板について第1領域の改質層の深さとAuのナノワイヤの形成有無並びにAuのナノワイヤが形成された場合のその長さとの関係を評価した結果について説明する。Si基板の表面には通常1nm程度の自然酸化膜(SiO)が形成されている。そこで、Si基板にイオンビームを照射したときに検出されるスパッタリングされた酸素の量とSiの量とイオンビームのドーズ量とから酸素のスパッタ率、Siのスパッタ率を算出し、自然酸化膜を1nmとしたときの酸化膜除去に必要な必要ドーズ量を算出した。そして、実施例1、5および比較例2、3に係るイオンビームのドーズ量から必要ドーズ量を差し引いて得られる差分量に基づいて改質層の深さを算出した。算出した酸素のスパッタ率、Siのスパッタ率、必要ドーズ量および改質層の深さを下記表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示す結果から、改質層の深さが1.9nm以下の場合、Auのナノワイヤが形成されないことが判った。また、改質層の深さが2.3nm以上であればAuのナノワイヤが形成され、改質層の深さが深いほど形成されるAuのナノワイヤの長さが長くなることが判った。
【0030】
また、Auのナノワイヤの成長工程におけるSi基板の温度依存性について評価した結果について実施例1に係るSEM観察結果および比較例4に係るSEM観察結果を用いて説明する。比較例4に係る複合基板の第1領域では、図12(A)に示すようにAuのナノワイヤが全く確認されなかった。一方、実施例1に係る複合基板の第1領域では、図12(B)に示すようにAuのナノワイヤが確認された。即ち、成長工程におけるSi基板の温度が300℃であればAuのナノワイヤが形成されることが判った。
【0031】
つまり、Si基板の温度が、Au-Si系共晶合金の共融点温度近傍の300℃である場合にAuのナノワイヤが成長し、前述の共融点温度から100℃程度離れた温度ではAuのナノワイヤが成長しないことが判った。このことから、Auのナノワイヤは、気相状態でSi基板の第1領域へ供給されたAu原子が、第1領域の改質層中のアモルファスSiとで形成される液相のSi-Au合金の状態を経てから固相成長するVLS(Vapor Liquid Solid)またはVSS(Vapor Solid Solid)成長に類似した成長機構により形成されることが判った。そして、実施例1に係るAuのナノワイヤの長さが、実施例5に係るAuのナノワイヤの長さよりも長くなるのは、実施例1に係る複合基板の改質層の深さが実施例5に係るそれに比べて厚く、その分、改質層からSi-Au合金を形成するためのSiがより多く供給されることに起因するものと考えられる。
【0032】
実施例6に係る複合基板は、実施の形態2で説明した金属ナノワイヤ製造方法により作製された。ここで、改質層形成工程では、図4に示す長さL11、L12が10μmであり、長さL12、L22が6μmであるメッシュ状のマスクを使用した。実施例6に係る複合基板では、図13(A)および(B)に示すように、イオンビームが照射された改質層が露出する矩形状の第1領域においてAuのナノワイヤが観測された。また、図13(C)に示すように、複合基板の第1領域において、Auのナノワイヤが略六角柱状に成長していることが観測された。また、実施例6に係る複合基板において、その改質層が露出する面側の表面プロファイルをAFMにより観測したところ、図14(A)および(B)に示すように、第1領域の周部が突出したアモルファスSiが形成された場合に特徴的なプロファイルが観測された。即ち、図15(A)に示すように、Si単結晶(c-Si)からなる基板WにマスクM2を介して基板W上の第1領域A21にArのイオンビームを照射することにより、図15(B)に示すように、アモルファスSiを含む改質層A23が形成されていることを反映していることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る基体は、MEMSデバイスの製造に好適である。
【符号の説明】
【0034】
1,2:複合基板、11,21:第1領域、12,22:第2領域、111:サブ領域、M1,M2:マスク
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