(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122762
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】電力利用設備およびその制御器
(51)【国際特許分類】
H02J 3/46 20060101AFI20230829BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20230829BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230829BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20230829BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20230829BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/14
H02J7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026450
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 崇
(72)【発明者】
【氏名】梅津 佑介
(72)【発明者】
【氏名】崎元 謙一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和繁
(72)【発明者】
【氏名】野口 直樹
(72)【発明者】
【氏名】友藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】谷村 和彦
【テーマコード(参考)】
5G066
5G503
【Fターム(参考)】
5G066HA15
5G066HB02
5G066HB07
5G066HB09
5G066JB03
5G503AA01
5G503AA05
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
(57)【要約】
【課題】 簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力を種々の需給要求に対応させることができる電力利用設備およびその制御器を提供する。
【解決手段】 電力利用設備は、外部電力系統と接続点を介して接続される少なくとも1つの電力出力装置と、接続点における授受電力を計測する電力計測器と、接続点を介して前記外部電力系統と接続される電力変換器と、電力変換器に接続される蓄電器と、電力出力装置および電力変換器を制御する制御器と、を備える。制御器は、電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、授受電力目標値から授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、第1電力偏差に基づいて、授受電力が授受電力目標値となるように蓄電器の充放電による電力変換器からの第1出力電力を制御し、第1出力電力が所定の設定値になるように電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、
前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、
前記接続点を介して前記外部電力系統に接続される電力変換器と、
前記電力変換器に接続される蓄電器と、
前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器と、を備え、
前記制御器は、
電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、
前記授受電力目標値から前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、
前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、
前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する、電力利用設備。
【請求項2】
前記蓄電器の充電状態を検出する充電状態検出器を備え、
前記制御器は、
所定の充電状態目標値から充電状態の検出値を差し引いた充電状態偏差に基づいて充電状態補正値を生成し、
前記所定の設定値を前記充電状態補正値に応じた値に設定する、請求項1に記載の電力利用設備。
【請求項3】
前記制御器は、
前記充電状態偏差が所定の第1参照値以上である場合に、前記蓄電器を充電する充電補正値を前記充電状態補正値として生成し、
前記充電状態偏差が前記第1参照値未満の第2参照値未満である場合に、前記蓄電器から放電する放電補正値を前記充電状態補正値として生成し、
前記充電状態偏差が前記第2参照値以上かつ前記第1参照値未満の所定の範囲内である場合に、前記充電状態補正値をぜロとし、
前記充電状態補正値がゼロである場合、前記所定の設定値をゼロに設定する、請求項2に記載の電力利用設備。
【請求項4】
前記制御器は、
前記授受電力を積算して得られる授受電力量および前記授受電力目標値を積算して得られる授受電力量目標値を算出し、前記授受電力量の前記授受電力量目標値に対する電力量偏差を算出し、
前記電力量偏差に基づいて電力補正値を生成し、
前記第1電力偏差に前記電力補正値を加算して前記第1電力偏差を補正する、請求項1から3の何れかに記載の電力利用設備。
【請求項5】
前記制御器は、前記設定値から前記第1出力電力を差し引いた第2電力偏差が所定の第1しきい値以上である場合、前記第2出力電力を減少させる減少指令を生成し、前記第2電力偏差が前記第1しきい値より小さい第2しきい値未満である場合、前記第2出力電力を増加させる増加指令を生成し、前記第2電力偏差が前記第2しきい値以上かつ前記第1しきい値未満である場合、前記第2出力電力を維持させる維持指令を生成する、請求項1から4の何れかに記載の電力利用設備。
【請求項6】
前記電力授受要求値は、所定の第1単位時間内に出力を変化させることを要求する第1受電抑制要求量、および、前記第1単位時間より短い第2単位時間ごとの第2受電抑制要求量を含み、
前記制御器は、前記第1単位時間および前記第2単位時間より短い第3単位時間ごとに、前記第2単位時間ごとに予め定められる受電電力計画値から前記第1受電抑制要求量および前記第2受電抑制要求量を差し引いて前記授受電力目標値を算出する、請求項1から5の何れかに記載の電力利用設備。
【請求項7】
前記授受電力目標値は、予め定められた第2単位時間ごとの売電電力目標値を含む、請求項1から6の何れかに記載の電力利用設備。
【請求項8】
外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、前記接続点を介して前記外部電力系統に接続される電力変換器と、前記電力変換器に接続される蓄電器と、を備えた電力利用設備において、前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器であって、
前記電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、
前記授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、
前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、
前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する、制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発電機等の電力出力装置を備え、外部電力系統に電力の授受が可能となるように接続される電力利用設備およびその制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商用電力系統等の外部電力系統を管轄する電気事業者が、外部電力系統からの電力を利用する工場等の電力利用設備に対して、外部電力系統から電力利用設備に供給される電力、すなわち受電電力を抑制する等の要請を行うことがある。これに対して、受電電力を抑制した電力利用設備は、例えば電力料金の割引等の電気事業者から対価の支払いを受ける。このような取引は、ディマンドリスポンス(Demand Response)によるネガワット取引と称される。
【0003】
また、電力利用設備として、原動機発電機や蓄電池等の電力出力装置を備えた電力利用設備が知られている。このような電力利用設備において、ネガワット取引を行う場合、電力利用設備は、電力出力装置が出力する電力を増やすことで、外部電力系統から電力利用設備に供給される電力の抑制量、すなわちディマンドリスポンスの要求量を賄うことが可能となる。以下では、ディマンドリスポンスの要求をDR要求と略記する。
【0004】
しかし、負荷へ供給される電力は負荷の状況に応じて変化する。このため、外部電力系統に対する授受電力を適切に制御して、抑制量がDR要求量を下回らないようにするには、負荷の状況に応じて電力出力装置の出力電力を制御する必要が生じる。
【0005】
下記特許文献1および2には、需給要求に対して電力出力装置の出力電力を制御する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-160949号公報
【特許文献2】国際公開第2015/098083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2の制御態様では、様々な種類の電力出力装置を備えた電力利用設備の制御に容易に適用ができない。また、上記のような課題は、DR要求に伴う電力出力装置の制御だけでなく、売電等の電力出力装置の様々な制御状況においても生じ得る。
【0008】
そこで、本開示の目的は、上記課題を解決するためになされたものであり、電力出力装置を備えた電力利用設備において、簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力を種々の需給要求に対応させることができる電力利用設備およびその制御器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様における電力利用設備は、外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、前記接続点を介して前記外部電力系統に接続される電力変換器と、前記電力変換器に接続される蓄電器と、前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器と、を備え、前記制御器は、電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、前記接続点において計測された授受電力を取得し、前記授受電力目標値から前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する。
【0010】
本開示の他の態様に係る制御器は、外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、前記接続点を介して前記外部電力系統に接続される電力変換器と、前記電力変換器に接続される蓄電器と、を備えた電力利用設備において、前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器であって、前記電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、前記授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電力出力装置を備えた電力利用設備において、簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力を種々の需給要求に対応させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施の形態に係る電力利用設備を含む電力システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、ネガワット取引におけるディマンドリスポンスを例示する模式的なグラフである。
【
図3】
図3は、
図2に示すディマンドリスポンスにおいて受電電力計画値と実需要とに差が生じた場合の例を示す模式的なグラフである。
【
図4】
図4は、需給調整市場における三次調整力-2を例示する模式的なグラフである。
【
図5】
図5は、
図1に示す制御器の制御ブロックの構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す目標値生成部、電力偏差算出部および第1指令生成部の構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す第1指令生成部の一構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、
図6に示す第1指令生成部の他の構成例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図5に示す第2指令生成部の構成例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、
図3に示すディマンドリスポンスにおいて本実施の形態における授受電力制御を行った場合の模式的なグラフである。
【
図13】
図13は、本実施の形態において電力出力装置の出力電力を売電する場合を示すグラフである。
【
図16】
図16は、一シミュレーションにおける負荷の電力変動を示すグラフである。
【
図17】
図17は、本シミュレーションにおける第1受電抑制要求量の変化を示すグラフである。
【
図18】
図18は、本シミュレーションにおける授受電力目標値の変化を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例において本シミュレーションを行った場合の授受電力の変化を示すグラフである。
【
図20】
図20は、比較例において本シミュレーションを行った場合の授受電力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本開示の一実施の形態に係る電力利用設備を含む電力システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、電力利用設備1は、外部電力系統4と接続点30を介して接続されている。電力利用設備1は、複数の電力出力装置20を備えている。
図1の例では3つの電力出力装置20が存在する。複数の電力出力装置20は、接続点30を介して、外部電力系統4に接続されている。電力利用設備1に設けられる負荷5も、接続点30を介して外部電力系統4に接続されている。また、電力利用設備1は、接続点30における授受電力RPを計測する電力計測器8を備えている。
【0015】
これにより、電力利用設備1は、接続点30を介して外部電力系統4と電力の授受が可能となる。すなわち、電力利用設備1は、外部電力系統4からの電力を受電して負荷5に電力を供給することができる。また、複数の電力出力装置20から出力された電力を負荷5に供給する、または、外部電力系統4に送電、すなわち売電することも可能である。
【0016】
さらに、電力利用設備1は、接続点30を介して外部電力系統4に接続される電力変換器91を備えている。電力変換器91には、蓄電器92が接続される。電力変換器91は、蓄電器92に蓄えられた電力を放電することにより外部電力系統4に電力を供給し、外部電力系統4の電力を蓄電器92に供給することにより、蓄電器92を充電する。蓄電器92は、例えば2次電池またはキャパシタ等である。電力利用設備1は、蓄電器92の充電状態を検出する充電状態検出器93を備えている。なお、充電状態は、以下の説明および図面ではSOC(State Of Charge)とも表記される。
【0017】
複数の電力出力装置20および電力変換器91の接続位置は、電力利用設備1内の系統である限り制限されない。すなわち、複数の電力出力装置20および電力変換器91は、外部電力系統4に対して接続点30を介して電力の授受を行えればよい。
【0018】
電力利用設備1は、複数の電力出力装置20および電力変換器91を制御する制御器6を備えている。なお、これに代えて、制御器6は、電力利用設備1とは独立して設けられてもよい。また、制御器6は、複数の電力出力装置20のそれぞれを制御する複数の電力出力装置制御器と、各電力出力装置制御器に制御指令を与える上位の制御器とを含んでもよい。制御器6は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを備えている。例えば、制御器6は、CPU、RAM等のメインメモリ、ストレージ、通信インターフェイス等を備えている。制御器6のストレージには、制御プログラムや各種データが記憶される。
【0019】
外部電力系統4は、例えば商用電力系統である。電力利用設備1は、例えば工場である。電力出力装置20は、例えば発電機や電力変換装置を備えた燃料電池である。発電機には、例えば、蒸気タービン、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン等の原動機発電機が含まれる。電力出力装置20は、例えば2次電池、キャパシタ等の蓄電器でもよい。複数の電力出力装置20は、発電効率、発電コスト、および応答性能等が異なる複数種類の発電機や、蓄電器、燃料電池を組み合わせて構成されていてもよい。
【0020】
以下では、ネガワット取引時における制御器6の制御態様を例示する。以下の例では、例えばアグリゲータ等の他の電力管理システム7から制御器6に送られる電力授受要求値RQTおよび電力計測器8で計測された授受電力RP等に基づいて、電力変換器91から出力される第1出力電力を制御するための第1指令SC1を生成し、電力出力装置20から出力される第2出力電力を調整するための第2指令SC2を生成する態様を例示する。
【0021】
電力授受要求値RQTは、受電電力計画値BLに対する複数の要求成分を含む。なお、以下の例において、電力授受要求値および制御器6の制御の基準となる時間的な区分として、第1単位時間、第2単位時間および第3単位時間を用いて説明する。例えば、第1単位時間は45分であり、第2単位時間は30分であり、第3単位時間は15分であるが、この組み合わせに限られない。
【0022】
複数の要求成分は、第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2を含む。第1受電抑制要求量RQ1は、第2単位時間ごとに発令され、指令を受けてから第1単位時間内に出力を変化させることを要求する要求成分である。第2受電抑制要求量RQ2は、第1単位時間より長い時間前に発令される第2単位時間ごとの要求成分である。例えば、第1受電抑制要求量RQ1は、三次調整力-2による要求量に相当し、第2受電抑制要求量RQ2は、DR要求量に相当する。第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2は、互いに独立した要求成分である。第1受電抑制要求量RQ1は、第2受電抑制要求量RQ2より短い時間単位で授受電力RPの評価が行われる。第1受電抑制要求量RQ1の評価に関する単位時間は、第3単位時間以下の第4単位時間である。第4単位時間は、例えば5分である。
【0023】
まず先に、第2受電抑制要求量RQ2について説明する。
図2は、ネガワット取引におけるディマンドリスポンスを例示する模式的なグラフである。
図2のグラフにおける横軸は、時刻を示し、縦軸は、需要電力を示す。
図2において、第1受電抑制要求量RQ1は考慮されていない。
【0024】
制御器6のストレージには、受電電力計画値BLのデータが記憶されている。受電電力計画値BLは、第2単位時間ごとの受電電力計画値を示している。受電電力計画値BLは、例えば、1日を第2単位時間ごとの時間帯に分け、直近の数日間の第2単位時間ごとの需要量の実績値を、第2単位時間帯ごとに平均したものを基準に作成されてもよい。ただし、受電電力計画値BLの決定方法は特に限定されず、種々の方法が想定される。第2単位時間は、上述の通り、例えば30分であるが、特に限定されない。
【0025】
受電電力計画値BLのデータは、予めディマンドリスポンスの要求者であるアグリゲータ等の他の電力管理システム7に送られる。以下、本明細書では、ディマンドリスポンスをDRと省略する場合がある。電力管理システム7は、電力利用設備1から送られる受電電力計画値BLに基づいて第2受電抑制要求量RQ2を対応する電力利用設備1の制御器6に送信する。制御器6に送信される第2受電抑制要求量RQ2のデータは、対象の時間帯を示すDR要求期間TDRの情報を含む。
図2の例では、12時から17時の間に第2受電抑制要求量RQ2分の需要抑制が要請されている。なお、受電電力計画値BLのデータは、過去の需要量を基に、電力管理システム7が計算し、電力利用設備1に通知する場合もある。
【0026】
電力管理システム7は、DR要求期間TDRにおいて接続点30における授受電力である実需要RLを監視する。接続点30における実需要RLは、電力計測器8が計測する授受電力RPに一致する。なお、本実施の形態において、実需要RLすなわち授受電力RPは、電力利用設備1が外部電力系統4から電力供給を受ける場合を正の値とする。電力管理システム7は、電力利用設備1における実需要RLが受電電力計画値BLから第2受電抑制要求量RQ2を差し引いた電力となっているか、すなわち、DR要求期間TDRにおいてRP=BL-RQ2となっているか否かを判定する。電力管理システム7は、実需要RLが受電電力計画値BLから第2受電抑制要求量RQ2分抑制されている場合、ディマンドリスポンスを達成していると判定し、電力利用設備1に対して所定の対価を付与する。電力管理システム7は、実需要RLが受電電力計画値BLから第2受電抑制要求量RQ2分抑制されていない場合、ディマンドリスポンスを達成していないと判定し、電力利用設備1に対して所定のペナルティを要求する。
【0027】
上記のように、受電電力計画値BLは、例えば過去の実需要RLの実績値等に基づいて設定される。しかし、実際の負荷5の需要は日々変化するため、ディマンドリスポンス実施時における負荷5の需要が受電電力計画値BLに一致するとは限らない。したがって、第2受電抑制要求量RQ2分の電力を単に電力出力装置20で追加出力するだけではディマンドリスポンスを達成できない場合が生じ得る。
【0028】
図3は、
図2に示すディマンドリスポンスにおいて受電電力計画値と実需要とに差が生じた場合の例を示す模式的なグラフである。
図3の例では、DR要求期間TDRにおいて電力利用設備1で必要とされる電力は、実需要RLとして示されており、受電電力計画値BLより増加している。この場合、DR要求期間TDRにおいて、受電電力計画値BLに対して第2受電抑制要求量RQ2分の電力を電力出力装置20から追加出力しただけでは、授受電力RPを、受電電力計画値BLに対して予め想定していた仮想需要である授受電力目標値RPoまで抑制することができない。すなわち、受電電力計画値BLに対する実際の需要の増加分(RL―BL)だけ第2受電抑制要求量RQ2を抑制できていない結果となる。
図3における斜線領域がDR要求に対して未達成の電力量を表している。
【0029】
次に、第1受電抑制要求量RQ1について説明する。
図4は、需給調整市場における三次調整力-2を例示する模式的なグラフである。
図4のグラフにおける横軸は、時刻を示し、縦軸は、需要電力を示す。
図4は、受電電力計画値BLの変動がなく、DR要求がない、すなわち第2受電抑制要求量RQ2が0である場合を示している。
【0030】
前述の通り、電力管理システム7は、電力利用設備1から送られる受電電力計画値BLに基づいて第2受電抑制要求量RQ2を対応する電力利用設備1の制御器6に送信する。電力利用設備1は、このような計画値に基づいて授受電力の調整を行うことで外部電力系統4における電力の同時同量(balancing)を実現するように動作する。
【0031】
一方で、送配電事業者においても需要予測等をもとに策定した発電計画に基づき系統運用を行っている。しかし、太陽光発電等による発電量の変化や、想定以上の気温上昇による電力消費の増加などによって、電力の実需給が予測から外れる場合がある。そのような場合、送配電事業者は、電力管理システム7を介して一部の需要家に対し、例えば、三次調整力-2と呼ばれる、受電電力を抑制するような差分電力要求を出すことがある。電力管理システム7は、三次調整力-2における要求として、要求時点から第1単位時間後に、対応する電力利用設備1における受電電力計画値から授受電力を所定の要求量増減させることを要求する。本実施の形態では、所定の要求量を第1受電抑制要求量RQ1と表記する。
【0032】
本実施の形態において、制御器6は、第3単位時間ごとに差分電力要求の有無を監視する。第3単位時間は、第1単位時間および第2単位時間より短い時間に設定される。例えば、第3単位時間は、第1単位時間と第2単位時間との公約数に設定されてもよい。例えば、第1単位時間が45分であり、第2単位時間が30分である場合、第3単位時間は、両者の最大公約数である15分に設定される。
【0033】
本実施の形態においては、基準時刻を[n]とし、基準時刻[n]から第3単位時間後の時刻を[n+1]とし、時刻[n+1]から第3単位時間後の時刻を[n+2]とし、時刻[n+2]から第3単位時間後の時刻を[n+3]とする。時刻[n+2]は、基準時刻[n]から第2単位時間後の時刻に等しく、時刻[n+3]は、基準時刻から第1単位時間後の時刻に等しい。さらに、基準時刻[n]において生じた差分電力要求における第1受電抑制要求量RQ1をRQ1[n+3]と表記する。
【0034】
図4には、10:00において第1受電抑制要求量RQ1が第1の値P1から第1の値P1より大きい第2の値P2に変化している例が示されている。基準時刻[n]を10:00とすると、時刻[n-1]までの差分電力要求における第1受電抑制要求量RQ1[j](j=…,n-1,n,n+1,n+2)は、何れもP1である。このため、仮に基準時刻[n]において第1受電抑制要求量RQ1が変化しなければ、時刻[n+2]、すなわち、10:30までの授受電力目標値RPoは、RPo=BL-P1となる。
【0035】
しかし、基準時刻[n]である10:00に第1受電抑制要求量RQ1が第1の値P1から第1の値P1より大きい第2の値P2に変化したため、対応する電力利用設備1においては、基準時刻[n]から第1単位時間後の時刻[n+3]、すなわち、10:45までに、受電電力計画値BLから第2の値P2分の受電抑制を行う必要が生じる。このため、制御器6は、基準時刻[n]以降の授受電力目標値RPoを、受電電力計画値BLから第1受電抑制要求量RQ1[n+3]=P2を差し引いた値に設定する。
【0036】
また、差分電力要求に対しては、許容差TIが設定されている。許容差TIは、例えば、差分電力要求の上下10%の範囲に設定される。
図4の例において、制御器6は、基準時刻[n]までは、実需要RLが、第1の値P1に基づく授受電力目標値RPo1(RPo1=BL-P1)を中心とする許容差TI範囲内、すなわち、上限値UL1と下限値LL1との間の範囲となるように出力電力の調整を行う必要がある。また、制御器6は、時刻[n+3]以降は、実需要RLが、第2の値P2に基づく授受電力目標値RPo2(RPo2=BL-P2)を中心とする許容差TI範囲内、すなわち、上限値UL2と下限値LL2との間の範囲となるように、出力電力の調整を行う必要がある。なお、上限値は、差分電力要求の上限値、すなわち、需要電力を抑制する抑制量の上限値を意味し、
図4における需要電力としては授受電力目標値RPoの許容最小値となる。同様に、下限値は、差分電力要求の下限値、すなわち、需要電力を抑制する抑制量の下限値を意味し、
図4における需要電力としては授受電力目標値RPoの許容最大値となる。
【0037】
また、基準時刻[n]から時刻[n+3]までの期間は、制御器6は、差分電力要求の移行期間として基準時刻[n]までの下限値LL1と時刻[n+3]からの上限値UL2との間の範囲となるように出力電力の調整を行う。
【0038】
ここで、差分電力要求時における授受電力目標値RPoへの追従性は、DR要求に対する授受電力目標値RPoへの追従性に比べて、より短期間での追従性が求められる。例えば、DR要求に対しては30分単位での追従性が求められる一方、差分電力要求に対しては5分単位での追従性が求められる。
【0039】
このように、DR要求および差分電力要求に対する電力利用設備1の出力調整は、実需要RLに応じて行う必要が生じる。しかし、電力出力装置20の出力調整だけでは、差分電力要求の許容差を外れてしまう恐れがある。そこで、本実施の形態では、電力変換器91および蓄電器92を用いてより短時間での電力調整を可能としている。
【0040】
本実施の形態では、授受電力RPが授受電力目標値RPoとなるように、蓄電器92の充放電による電力変換器91からの第1出力電力を制御した上で、当該第1出力電力が後述する所定の設定値になるように電力出力装置20の出力調整を行う。すなわち、電力出力装置20から出力される第2出力電力が第1出力電力に追従して調整されることにより、短い時間における電力変動に対しては応答速度の速い第1出力電力により出力調整され、より長い時間における電力変動に対しては第2出力電力により出力調整される。
【0041】
図5は、
図1に示す制御器の制御ブロックの構成を示すブロック図である。上述したように、制御器6のストレージには、予め受電電力計画値BLの情報が記憶されている。制御器6は、電力計測器8により計測された接続点30における授受電力RPの情報を取得する。さらに、電力管理システム7は、第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2を制御器6に送信する。制御器6は、第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2の情報を取得し、ストレージに記憶する。より具体的には、制御器6のストレージには、計画値テーブルが記憶される。計画値テーブルは、第3単位時間ごとの時刻と、各時刻に対応する受電電力計画値BL、第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2とが対応付けられたデータセットを有している。計画値テーブルの各データは、第3単位時間の刻み幅で展開され、ストレージに記憶される。
【0042】
上述したように、第1受電抑制要求量RQ1に関して、制御器6は、時刻[n]の時点で時刻[n]から第1単位時間後の時刻[n+3]における値を取得する。したがって、時刻[n]における計画値テーブルは、時刻[n+3]までの第1受電抑制要求量RQ1の値を含んでいる。
【0043】
なお、計画値テーブルは、差分電力要求の有効または無効を示すデータを含んでもよい。差分電力要求に対する電力調整を行う時間帯を予め電力管理システム7に登録しておくことにより、電力利用設備1は、登録した時間帯内に限って差分電力要求に対する電力調整を行うことが可能となる。仮に、登録した時間帯外に差分電力要求が生じても当該電力利用設備1は、差分電力要求を行わない。差分電力要求の有効または無効を示すデータは、差分電力要求が登録した時間帯内に生じたかどうかのチェックを行い得る。
【0044】
本実施の形態における制御器6は、上述したDR要求および差分電力要求に基づいて電力出力装置20および電力変換器91を制御するために、目標値生成部60、電力偏差算出部61、第1指令生成部62、電力偏差補正部63、設定値生成部64、および第2指令生成部65を制御ブロックまたは制御回路として備えている。
【0045】
まず、電力変換器91に対する第1指令SC1の制御系について説明する。
図6は、
図5に示す目標値生成部、電力偏差算出部および第1指令生成部の構成例を示すブロック図である。目標値生成部60は、受電電力計画値BLから第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2を差し引いて授受電力目標値RPoを算出する。なお、基準時刻[n]における差分電力要求は、第1単位時間後の時刻[n+3]に第1受電抑制要求量RQ1[n+3]の受電抑制を行うものであるが、上述の通り、基準時刻[n]の時点で授受電力目標値RPoに組み込まれる。すなわち、基準時刻[n]における授受電力目標値RPoは、RPo=BL[n]-RQ2[n]-RQ1[n+3]となる。
【0046】
電力偏差算出部61は、所定の授受電力目標値RPoから、計測した授受電力RPを差し引いた第1電力偏差ΔRPを算出する。なお、後述するように、第1電力偏差ΔRPは、RPo-RPに、電力偏差補正部63において算出される電力補正値RPcが加算された値となるが、ひとまず電力補正値RPcは考慮しない。
【0047】
第1指令生成部62は、電力偏差算出部61で算出された第1電力偏差ΔRPに基づいて電力変換器91から出力される第1出力電力の指令値として第1指令SC1を生成する。第1指令SC1は、授受電力RPが授受電力目標値RPoとなるように蓄電器92を充放電するための電力指令値である。
【0048】
図7は、
図6に示す第1指令生成部の一構成例を示すブロック図である。
図7に示すように、第1指令生成部62は、反転器621、上下限リミッタ622および積分器623を含む。反転器621は、第1電力偏差ΔRPの正負を反転させる。なお、反転器621は、第1電力偏差ΔRPの正負を反転させる際に所定のゲインを付与し得る。反転した第1電力偏差ΔRPは、上下限リミッタ622が適用される。上下限リミッタ622が出力する値は、第1電力偏差ΔRPに対して所定の範囲に出力が制限されるとともに、第1電力偏差ΔRPが正の値の場合に、負の値を出力し、第1電力偏差ΔRPが負の値の場合に、正の値を出力する。上下限リミッタ622の出力は、積分器623で積分され、積分された値が第1指令SC1として出力される。
【0049】
第1指令SC1は、蓄電器92に充電させる場合、負の値となり、蓄電器92から放電させる場合、正の値となるように定義されている。したがって、第1指令生成部62は、第1電力偏差ΔRPが正の値、すなわち、授受電力目標値RPoが授受電力RPに対して大きい場合、授受電力RPを増やすために、負の値の第1指令SC1を生成し、蓄電器92に充電させる。また、第1指令生成部62は、第1電力偏差ΔRPが負の値、すなわち、授受電力目標値RPoが授受電力RPに対して小さい場合、授受電力RPを減らすために、正の値の第1指令SC1を生成し、蓄電器92から放電させる。
【0050】
なお、第1指令生成部62は、
図7の例に限られない。
図8は、
図6に示す第1指令生成部の他の構成例を示すブロック図である。
図8に示す第1指令生成部62Bは、
図7に示す第1指令生成部62における反転器621、上下限リミッタ622および積分器623に加えて、アンチリセットワインドアップ用上下限リミッタ624および2つの減算器625,626を含む。以下では、
図7の例と同じ上下限リミッタ622を第1リミッタ622と称し、アンチリセットワインドアップ用上下限リミッタ624を第2リミッタ624と称する。
【0051】
積分器623の出力は、第2リミッタ624に入力され、所定の上下限値に制限される。第2リミッタ624の上下限値は、第1リミッタ622の上下限値とは独立して設定され得る。第2リミッタ624の出力は、第1指令SC1として出力される。さらに、第2リミッタ624の出力は、減算器625により積分器623の出力、すなわち、第2リミッタ624の入力から減算されて積分器623の入力側にフィードバックされる。減算器626は、第1リミッタ622の出力から減算器625の出力を減算する。減算器626の出力が積分器623に入力される。
【0052】
電力変換器91の電力変換能力に基づいて、第1指令SC1の上下限値が設定され得る。当該上下限値に応じて第2リミッタ624における上下限値が設定される。第1指令生成部62Bにおいては、積分器623の出力が第2リミッタ624の上下限値を超えた場合に、当該超えた方向への積分動作が停止される。これにより、第1電力偏差ΔRPに基づく操作量が第1指令SC1の上下限値を超えた場合に、電力変換器91に出力される操作量を制限するとともに、積分器623において当該上下限値を超える方向の積分の実行を停止させる。この結果、第1電力偏差ΔRPが反転した場合でも第1電力偏差ΔRPに応じた第1指令SC1を高い応答速度で出力することができる。
【0053】
次に、電力出力装置20に対する第2指令SC2の制御系について説明する。
図9は、
図5に示す第2指令生成部の構成例を示すブロック図である。第2指令SC2の生成に関して電力変換器91は、第1指令SC1に基づいて出力する第1出力電力の値Pdを制御器6にフィードバックする。第2指令生成部65は、電力変換器91から送られる第1出力電力の値Pdを取得する。第2指令生成部65は、取得した第1出力電力が所定の設定値Psになるように電力出力装置20から出力される第2出力電力を調整するための第2指令SC2を生成する。
【0054】
第2指令生成部65は、減算器651と、指令選択器652と、を含む。減算器651は、後述する設定値生成部64で生成される設定値Psから第1出力電力の値Pdを差し引いた第2電力偏差ΔPを生成する。指令選択器652は、第2電力偏差ΔPに応じた第2指令SC2を出力する。なお、第1出力電力の値Pdは、蓄電器92からの放電に基づく第1出力電力の場合に正の値をとり、蓄電器92への充電に基づく第1出力電力の場合に負の値をとる。
【0055】
第2指令生成部65で生成される第2指令SC2は、増加指令SC2u、減少指令SC2dおよび維持指令SC2mを含む状態指令である。本明細書において、状態指令とは、電力出力装置20を出力増加状態、出力減少状態または出力維持状態の何れかの電力出力状態にするための指令であり、具体的な電力出力目標値を含まない概念として定義される。
【0056】
増加指令SC2uは、電力出力装置20に対して、出力電力の瞬時値を増加させて出力増加状態にする指令である。例えば、電力出力装置20が原動機発電機である場合、増加指令SC2uは、原動機のガバナに発電電力を増加させる指令である。また、減少指令SC2dは、電力出力装置20に対して、出力電力の瞬時値を減少させて出力減少状態にする指令である。例えば、電力出力装置20が原動機発電機である場合、減少指令SC2dは、原動機のガバナに発電電力を低減させる指令である。また、維持指令SC2mは、電力出力装置20に対して、出力電力の瞬時値を維持させて出力維持状態にする指令である。例えば、電力出力装置20が原動機発電機である場合、維持指令SC2mは、原動機のガバナに発電電力を維持させる指令である。
【0057】
図9には、指令選択器652における指令生成態様がグラフとして模式的に示されている。
図9に示すように、指令選択器652は、第2電力偏差ΔPが所定の第1しきい値T1以上である場合、減少指令SC2dを生成し、第2電力偏差ΔPが第1しきい値T1より小さい第2しきい値T2未満である場合、増加指令SC2uを生成する。さらに、指令選択器652は、第1電力偏差ΔRPが第2しきい値T2以上かつ第1しきい値T1未満である場合、維持指令SC2mを生成する。
【0058】
例えば、第1しきい値T1が所定の正の値に設定され、第2しきい値T2が第1しきい値T1と同じ大きさの負の値に設定される。これに代えて、第1しきい値T1が所定の正の値に設定され、第2しきい値T2が第1しきい値T1と異なる大きさの負の値に設定されてもよい。また、第2電力偏差ΔPに所定のオフセット値が与えられる場合、第1しきい値T1および第2しきい値T2は、いずれも正の値またはいずれも負の値としてもよい。
【0059】
第2指令生成部65で生成された第2指令SC2は、複数の電力出力装置20のそれぞれに送られる。このとき、複数の電力出力装置20のそれぞれに送られる第2指令SC2は、共通の指令である。すなわち、電力出力装置20の出力特性等に応じて第2指令SC2を個別にカスタマイズする必要はない。
【0060】
第2指令生成部65から出力される第2指令SC2は、例えば、連続して出力されるパルスによって構成されてもよい。この場合、増加指令SC2uは、例えば正のパルスである出力増加パルスを連続して出力する状態として構成される。また、減少指令SC2dは、例えば負のパルスである出力減少パルスを連続して出力する状態として構成される。また、維持指令SC2mは、パルスを出力しない状態として構成される。これに代えて、パルスの振幅または幅が異なる3つのパルスをこれらの状態指令SC2u,SC2d,SC2mに割り当ててもよい。
【0061】
このような第2指令SC2を受信した各電力出力装置20は、その第2指令SC2の内容に応じた出力制御を行う。増加指令SC2uを受信している間、電力出力装置20は、出力を上げ続ける。減少指令SC2dを受信している間、電力出力装置20は、出力を下げ続ける。維持指令SC2mを受信している間、電力出力装置20は、出力を維持し続ける。例えば、電力出力装置20が発電機である場合、第2指令SC2に応じてガバナの出力を調整する。
【0062】
このとき、各電力出力装置20は、各自の応答性に合わせて出力制御を行う。例えば、応答が速い電力出力装置20は、増加指令SC2uに対して高いレートで出力を増加させる。応答が遅い電力出力装置20は、増加指令SC2uに対して低いレートで出力を増加させる。このため、複数の電力出力装置20において原動機の種類が異なったり、応答性が異なったりしていても、制御器6は、各電力出力装置20の応答性を考慮することなく、共通する一の第2指令SC2を出力すればよい。
【0063】
ここで、第2指令SC2を生成するための基準となる所定の設定値Psは、蓄電器92のSOCに応じた値に設定される。以上のように、本実施の形態では、授受電力RPの変動に応じて電力変換器91が主体的に制御され、蓄電器92の充放電による電力変換器91の第1出力電力による電力調整が行われる。蓄電器92の充放電による電力調整をいつでも実行可能とするためには、蓄電器92のSOCが基準値から逸脱した状態とならないようにすることが望ましい。すなわち、例えば、SOCが過剰に高い過充電の状態になると、外部電力系統4から蓄電器92への充電が行えない。また、例えばSOCが過剰に低い過放電の状態になると、蓄電器92から外部電力系統4への放電が行えない。
【0064】
そこで、本実施の形態においては、設定値生成部64が充電状態検出器93で検出されたSOC検出値SOCdに基づいて第2電力偏差ΔPの元になる設定値Psを生成する。
図10は、
図5に示す設定値生成部の構成例を示すブロック図である。設定値生成部64は、減算器641と、補正値算出部642と、を含む。減算器641は、所定のSOC目標値SOCoからSOC検出値SOCdを差し引いてSOC偏差ΔSOCを算出する。SOC目標値SOCoは、制御器6のストレージに予め記憶される。
【0065】
補正値算出部642は、SOC偏差ΔSOCからSOC補正値SOCcを算出する。補正値算出部642は、SOC偏差ΔSOCが所定の第1参照値R1以上である場合に、蓄電器92を充電する充電補正値SOCccをSOC補正値SOCcとして生成する。また、補正値算出部642は、SOC偏差ΔSOCが第1参照値R1以下の所定の第2参照値R2未満である場合に、蓄電器92から放電する放電補正値SOCcdをSOC補正値SOCcとして生成する。充電補正値SOCccは、負の値であり、放電補正値SOCcdは、正の値である。補正値算出部642は、SOC偏差ΔSOCが第2参照値R2以上かつ第1参照値R1未満である場合、SOC補正値SOCcは、0を出力する。すなわち、この場合には、蓄電器92のSOC補正に関わる充放電は行われない。
【0066】
例えば、第1参照値R1が所定の正の値に設定され、第2参照値R2が第1参照値R1と同じ大きさの負の値に設定される。これに代えて、第1参照値R1が所定の正の値に設定され、第2参照値R2が第1参照値R1と異なる大きさの負の値に設定されてもよい。
【0067】
なお、補正値算出部642は、SOC補正値SOCcとして0を出力している状態から充電補正値SOCccまたは放電補正値SOCcdを出力するように切り替えるしきい値である第1参照値R1および第2参照値R2と、SOC補正値SOCcとして充電補正値SOCccまたは放電補正値SOCcdを出力している状態から0に切り替えるしきい値である第3参照値R3および第4参照値R4との間に、ヒステリシス特性を持たせている。
【0068】
すなわち、充電補正値SOCccを出力している状態からSOC補正値SOCcを0に切り替える第3参照値R3は、SOC偏差ΔSOCが0より大きく第1参照値R1より小さい値に設定される。同様に、放電補正値SOCcdを出力している状態からSOC補正値SOCcを0に切り替える第4参照値R4は、SOC偏差ΔSOCが0より小さく第2参照値R2より大きい値に設定される。これにより、頻繁にSOC補正値SOCcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。ただし、補正値算出部642は、SOC補正値SOCcの切り替えにおいてヒステリシス特性を有していなくてもよい。
【0069】
上述したように、第1指令SC1および第1出力電力の正負は、蓄電器92に充電させる場合、負の値となり、蓄電器92から放電させる場合、正の値となるように定義されている。第2指令SC2の正負は、電力出力装置20が外部電力系統4に電力を出力する場合に正の値となるように定義されている。そのため、蓄電器92の充放電に基づいて正負が定められているSOC補正値SOCcと、電力出力装置20の出力方向に基づいて正負が定められている第2指令SC2とは、同じ符号である。したがって、設定値生成部64は、SOC補正値SOCcをそのまま設定値Psとして生成する。なお、設定値Psは、SOC補正値SOCcに所定のゲインを掛けた値としてもよい。
【0070】
このようにして生成された設定値Psは、第2指令生成部65に入力される。例えば、SOC補正値SOCcが充電補正値SOCccである場合、設定値Psが負の値となる。これにより、第2指令SC2が増加指令SC2uになり易くなる、または、第2指令SC2が減少指令SC2dになり難くなる。このため、授受電力RPに対して電力出力装置20からの第2出力電力が促進される。これにより、外部電力系統4から電力利用設備1へ電力を受ける側を正とする授受電力RPは、授受電力目標値RPoより低くなり易くなる。したがって、第1指令生成部62は、授受電力目標値RPoの変動にかかわらず、蓄電器92を充電するような第1指令SC1を生成し易くなり、蓄電器92が充電される。
【0071】
一方、SOC補正値SOCcが放電補正値SOCcdである場合、設定値Psが正の値となる。これにより、第2指令SC2が減少指令SC2dになり易くなる、または、第2指令SC2が増加指令SC2uになり難くなる。このため、授受電力RPに対して電力出力装置20からの第2出力電力が抑制される。これにより、授受電力RPは、授受電力目標値RPoを超え易くなる。したがって、第1指令生成部62は、授受電力目標値RPoの変動にかかわらず、授受電力RPの蓄電器92を放電するような第1指令SC1を生成し易くなり、蓄電器92が放電される。
【0072】
本実施の形態において、設定値生成部64は、SOC補正値SOCcがゼロである場合、設定値Psをゼロに設定する。すなわち、蓄電器92のSOCが第2参照値R2以上かつ第1参照値R1未満の適正範囲である場合、第2指令生成部65は、第1出力電力がゼロになるように電力出力装置20から出力される第2出力電力を調整するような第2指令SC2を生成する。
【0073】
図11は、
図3に示すディマンドリスポンスにおいて本実施の形態における授受電力制御を行った場合の模式的なグラフである。
図11において、受電電力計画値BL、および電力管理システム7が要求する第2受電抑制要求量RQ2は、
図3と同じである。また、
図11においても、
図3と同様に、DR要求期間TDRにおいて電力利用設備1で必要とされる電力である実需要RLが、受電電力計画値BLより増加している。
【0074】
上記構成によれば、授受電力RPの授受電力目標値RPoに対する第1電力偏差ΔRPに応じて蓄電器92の充放電による電力変換器91の第1出力電力が制御される。さらに、電力変換器91の第1出力電力の変動分を電力出力装置20が蓄電器92の代わりに負担するように、電力出力装置20の第2出力電力が調整される。
【0075】
例えば、電力利用設備1における実需要RLが受電電力計画値BLより増えると、その増加分の電力を補うように、蓄電器92が放電することにより電力変換器91からの第1出力電力が増加する。さらに、電力変換器91からの第1出力電力の増加分を蓄電器92の代わりに負担するように、電力出力装置20からの第2出力電力が増加する。この結果、
図11において、受電電力計画値BLに対してDR要求期間TDRにおいて電力出力装置20が負担した電力は、第2受電抑制要求量RQ2に、受電電力計画値BLに対する実需要RLの偏差分を加えた電力RQcとなる。このときの電力量は、
図11における斜線領域で示される。
【0076】
一方、より短い時間単位での授受電力RPの評価が行われる第1受電抑制要求量RQ1は、電力出力装置20の応答速度のみでは対応できない場合があるため、応答速度の速い蓄電器92が負担する。したがって、電力出力装置20だけでは対応できない応答速度の速い電力変動にも対応することができる。
【0077】
これにより、電力出力装置20を備えた電力利用設備1において、簡単な構成で、電力出力装置20の応答性を考慮することなく、電力利用設備1の外部電力系統4に対する授受電力RPを種々の需給要求に対応させることができる。また、結果的に電力出力装置20が応答可能な電力変動は電力出力装置20が負担するため、蓄電器92の蓄電容量を、電力出力装置20の応答速度、電力利用設備1に接続される負荷5の変動または受電電力計画値BL等を考慮した必要最小限に抑えることができる。
【0078】
また、本実施の形態における制御を実現するために必要な電力計側点は、授受電力RPを計測する接続点30のみであり、それ以外の位置での電力計測は不要である。したがって、追加の設備工事等を行うことなく既存の電力利用設備1においても本実施の形態における制御を容易に適用することができる。
【0079】
また、
図11からも明らかなように、上記構成によれば、授受電力RPの授受電力目標値RPoとの第1電力偏差ΔRPに応じて蓄電器92が出力する電力を増減させることにより、電力利用設備1における負荷の変動状況にかかわらず、授受電力RPを授受電力目標値RPoに維持することができる。
【0080】
また、複数の電力出力装置20が接続点30を介して外部電力系統4に接続されているにもかかわらず、電力出力装置20の出力電力を個別に計測する必要がないため、電力利用設備1におけるシステム構成を簡単にすることができる。さらに、上述したように、電力出力装置20に対する第2指令SC2は、単純な増加指令SC2u、減少指令SC2dまたは維持指令SC2mだけであり、制御器6において電力出力装置20の応答性等を考慮して制御調整を行う必要がない。
【0081】
このような第2指令SC2に対して電力出力装置20において、応答速度の速い電力出力装置20は速く応答し、応答速度の遅い電力出力装置20は遅く応答するため、複数の電力出力装置20として応答性の異なる電力出力装置20が設けられていても、複数の電力出力装置20間で自動的に応答性に応じた出力電力の分担を行うことができる。言い換えると、応答性の異なる複数の電力出力装置20を共通の接続点30を介して外部電力系統4に接続して、電力の分担調整を簡単に行うことができる。応答性の異なる複数の電力出力装置20として、異なる種類の発電機が接続されてもよいし、発電機、蓄電池、または燃料電池が組み合わされて接続されてもよい。
【0082】
さらに、複数の電力出力装置20として、例えば定格近くで出力している余力の少ない電力出力装置と、余力の多い電力出力装置とが存在する場合、増加指令SC2uに対して、余力の少ない電力出力装置は定格以上の電力は出力しないため、自動的に余力の多い電力出力装置に負担する出力電力を増やすような分担を行うことができる。
【0083】
以上より、本実施の形態によれば、電力出力装置20を備えた電力利用設備1において、簡単な構成で、電力出力装置20の応答性を考慮することなく、電力利用設備1の外部電力系統4に対する授受電力RPが授受電力目標値RPoとなるように適切に制御することができる。
【0084】
また、第2指令生成部65は、第2指令SC2を生成するために、各電力出力装置20の出力電力または負荷の消費電力を取得する必要がない。すなわち、本実施の形態における電力利用設備1は、電力出力装置20の出力電力を個別に計測する、または、負荷の消費電力を計測する構成は不要である。したがって、電力利用設備1におけるシステム構成を簡単にすることができる。さらに、電力利用設備1における機器構成の変更が必要となった場合であっても、制御を変更することなく対応することができる。
【0085】
また、蓄電器92のSOCの値に応じて電力出力装置20からの第2出力電力を調整するための基準となる設定値Psが変化することにより、接続点30での授受電力RPが受電電力計画値BLに対する各要求成分を満足し、かつ、蓄電器92のSOCをSOC目標値SOCoに近づけるように、第2出力電力が調整される。これにより、蓄電器92のSOCをSOC目標値SOCoに基づく所定範囲内に維持することができる。このため、蓄電器92に対して充放電を行う装置を別途用いることなく、蓄電器92を用いた電力調整を継続することができる。このことによっても、蓄電器92の蓄電容量を低減することができる。
【0086】
また、本実施の形態において、設定値生成部64は、SOC偏差ΔSOCが第2参照値R2以上かつ第1参照値R1未満である場合、SOC補正値SOCcとして0を出力する。すなわち、SOC偏差ΔSOCが0ではない場合であっても、第2出力電力の基準となる設定値Psの補正は行わない。このような設定値Psの補正を行わない不感帯領域を作ることにより、蓄電器92のSOC補正に関わる充放電が頻繁に行われることを抑制できる。
【0087】
ここで、本実施の形態において、第2指令生成部65は、第2電力偏差ΔPが第2しきい値T2以上かつ第1しきい値T1未満である場合、維持指令SC2mを生成する。すなわち、第2電力偏差ΔPが0ではない場合であっても、電力出力装置20から出力される出力電力が維持される。このような増加指令も減少指令も出ない不感帯領域を作ることにより、電力出力装置20からの出力電力を頻繁に変化することを抑制できる。
【0088】
その一方で、第2電力偏差ΔPが第1しきい値T1と第2しきい値T2との間で維持された場合に、第2電力偏差ΔPが残り続けることになる。残った第2電力偏差ΔPは、蓄電器92が負担し続けることになる。そこで、制御器6は、授受電力RPだけでなく、授受電力量に基づいた制御も行う。より具体的には、制御器6の電力偏差補正部63は、授受電力量に基づく電力補正値を生成し、その電力補正値RPcを用いて第1電力偏差ΔRPを補正する。このとき、第1電力偏差ΔRPは、RPo+RPc-RPとなる。
【0089】
図12は、
図5に示す電力偏差補正部の構成例を示すブロック図である。
図12に示されるように、電力偏差補正部63は、電力量偏差算出部631および補正値生成部632を備えている。電力量偏差算出部631は、授受電力RPを積算して得られる授受電力量REおよび授受電力目標値RPoを積算して得られる授受電力量目標値REoを算出し、授受電力量REの授受電力量目標値REoに対する電力量偏差ΔREを算出する。
【0090】
本実施の形態において、電力量偏差算出部631は、授受電力量算出部633および授受電力量目標値算出部634を備えている。授受電力量算出部633は、計測された授受電力RPを積算して授受電力量REを算出する。授受電力量目標値算出部634は、授受電力目標値RPoを積算して授受電力量目標値REoを算出する。授受電力量算出部633および授受電力量目標値算出部634は、いずれも積分器を含む。すなわち、授受電力量算出部633は、入力される瞬時値である授受電力RPを積分する。同様に、授受電力量目標値算出部634は、入力される瞬時値である授受電力目標値RPoを積分する。
【0091】
電力量偏差算出部631は、授受電力量目標値REoから授受電力量REを差し引いて電力量偏差ΔREを算出する。補正値生成部632は、電力量偏差ΔREから電力補正値RPcを生成する。より詳しくは、補正値生成部632は、電力量偏差ΔREが所定の第1基準値C1以上である場合、第1電力偏差ΔRPが増加するような電力補正値RPcを生成し、電力量偏差ΔREが第1基準値C1より小さい第2基準値C2未満である場合、第1電力偏差ΔRPが減少するような電力補正値RPcを生成する。本実施の形態において、第1基準値C1は、所定の正の値に設定され、第2基準値C2は、第1基準値C1と同じ大きさの負の値に設定される。
【0092】
例えば、第2電力偏差ΔPが0より大きく第1しきい値T1より小さい値が維持された場合、電力量偏差ΔREは、第2単位時間内において単調増加する。電力量偏差ΔREが第1基準値C1を超えると、補正値生成部632は、第1電力偏差ΔRPが増加するような電力補正値RPcを生成する。例えば、電力補正値RPcとして所定の正のオフセット値Pchが与えられる。オフセット値Pchの大きさは、特に限定されないが、例えば第1しきい値T1以上としてもよい。
【0093】
第1電力偏差ΔRPが増加することにより、第1指令SC1に基づいて出力される電力変換器91の第1出力電力は負の値になり易くなる。この結果、第2電力偏差ΔPは、第1しきい値T1を超える、または、超え易くなる。したがって、第2指令生成部65は、減少指令SC2dを出力する、または、出力し易くなる。この結果、第1電力偏差ΔRPが減少する。
【0094】
第2電力偏差ΔPが0より小さく第2しきい値T2より小さい値が維持された場合も同様である。電力量偏差ΔREが第2基準値C2を下回ると、補正値生成部632は、第1電力偏差ΔRPが減少するような電力補正値RPcを生成する。例えば、電力補正値RPcとして所定の負のオフセット値Pclが与えられる。
【0095】
第1電力偏差ΔRPが減少することにより、第1指令SC1に基づいて出力される電力変換器91の第1出力電力は正の値になり易くなる。この結果、第2電力偏差ΔPは、第2しきい値T2を下回る、または、下回り易くなる。したがって、第2指令生成部65は、増加指令SC2uを出力する、または、出力し易くなる。この結果、第1電力偏差ΔRPが増加する。
【0096】
このような構成によれば、計測された授受電力RPに基づく第1電力偏差ΔRPに、授受電力量REに基づく電力補正値RPcを加えることにより、授受電力RPの瞬時値だけを制御した場合に生じ得る微小な偏差の蓄積を補正することができる。したがって、ディマンドリスポンスの達成率の評価または判定に用いられる第2単位時間ごとの授受電力量REが授受電力量目標値REoとなるように適切に制御することができる。これにより、ディマンドリスポンスの達成率を高くすることができる。
【0097】
なお、本実施の形態において、補正値生成部632は、電力量偏差ΔREが第2基準値C2以上かつ第1基準値C1未満である場合、電力補正値RPcを0とする。すなわち、この場合は電力量による補正が行われない。さらに、補正値生成部632は、電力補正値RPcとして0を出力している状態から所定のオフセット値Pch,Pclを出力するように切り替えるしきい値である第1基準値C1および第2基準値C2と、電力補正値RPcとして所定のオフセット値Pch,Pclを出力している状態から0に切り替えるしきい値である第3基準値C3および第4基準値C4との間に、ヒステリシス特性を持たせている。
【0098】
すなわち、正のオフセット値Pchを出力している状態から電力補正値RPcを0に切り替える第3基準値C3は、電力量偏差ΔREが0より大きく第1基準値C1より小さい値に設定される。同様に、負のオフセット値Pclを出力している状態から電力補正値RPcを0に切り替える第4基準値C4は、電力量偏差ΔREが0より小さく第2基準値C2より大きい値に設定される。これにより、頻繁に電力補正値RPcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。ただし、補正値生成部632は、電力補正値RPcの切り替えにおいてヒステリシス特性を有していなくてもよい。
【0099】
[シミュレーション結果]
以下に、本実施の形態における制御態様のシミュレーション結果を示す。本シミュレーションでは、実施例として、
図1に示される構成において、電力出力装置20を発電機とし、各値を以下のように設定した。
・発電機定格出力:7500kW
・蓄電器定格出力:500kW
・負荷における電力変動:6500kWから12000kWの間で変動
・第1受電抑制要求量:0kWから1000kWの間で変動
・受電電力計画値:5500kWで一定
・授受電力目標値:4500kWから5500kWの間で変動
【0100】
図16は、一シミュレーションにおける負荷の電力変動を示すグラフである。また、
図17は、本シミュレーションにおける第1受電抑制要求量の変化を示すグラフである。また、
図18は、本シミュレーションにおける授受電力目標値の変化を示すグラフである。
【0101】
本シミュレーションにおいて、授受電力目標値RPoの変化は、第1受電抑制要求量RQ1の変動分のみである。上述の通り、授受電力RPは、電力利用設備1が外部電力系統4から電力供給を受ける場合を正の値とする。第1受電抑制要求量RQ1は、受電電力計画値BLに対して授受電力RPを減らす量を示すものである。したがって、本シミュレーショにおける授受電力目標値RPoのグラフは、
図18に示すように、受電電力計画値BLから第1受電抑制要求量RQ1を差し引いたものとなる。
【0102】
このような授受電力目標値RPoの変化に対して本実施の形態における制御態様により授受電力RPを追従させるシミュレーションを行った。
図19は、実施例において本シミュレーションを行った場合の授受電力の変化を示すグラフである。
図20は、比較例において本シミュレーションを行った場合の授受電力の変化を示すグラフである。
図20の比較例のグラフは、実施例の構成のうち、蓄電器92を備えていない、すなわち、電力出力装置20である発電機からの第2出力電力のみで電力調整を行う場合について同様のシミュレーションを行った結果を示す。なお、
図19に示す授受電力RP_eおよび
図20に示す授受電力RP_cは、何れも5分毎の平均値をグラフにしたものである。
【0103】
上述したように、第1受電抑制要求量RQ1の例として挙げられる差分電力要求に対しては、許容差TIが設定されている。許容差TIを、差分電力要求の上下100kWの範囲に設定した場合、
図19および
図20に示されるように、授受電力目標値RPoに対して上限値ULおよび下限値LLが設定される。なお、
図4のグラフと同様に、
図19および
図20のグラフは、差分電力要求の上限値ULを授受電力RPについての許容最小値とし、差分電力要求の下限値LLを授受電力RPについての許容最大値としている。電力利用設備1は、授受電力RPが授受電力目標値RPoに応じて定められる上限値ULおよび下限値LLの間の許容差TI内となることが求められる。
【0104】
図20に示すように、比較例におけるシミュレーション結果では、授受電力RP_cは、かろうじて許容差TI内に収まっている。しかし、例えば185分経過時付近等において授受電力RP_cが授受電力目標値RPoから目に見えて外れている箇所が散見される。このため、負荷変動が
図16に示す本シミュレーションよりも大きい場合には、許容差TIを超える恐れがある。
【0105】
一方、
図19に示すように、実施例におけるシミュレーション結果では、授受電力RP_eは、授受電力目標値RPoからほとんど外れることなく追従していることが分かる。したがって、本実施例においては、負荷変動がより大きくなっても、許容差TI内で対応できると推察される。
【0106】
以上のように、上記実施の形態における電力利用設備1の制御態様によれば、電力利用設備1の外部電力系統4に対する授受電力RPを、より短い時間における電力変動である第1受電抑制要求量RQ1を含む種々の需給要求に対応させることができることが分かる。
【0107】
[他の実施の形態]
上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行するための態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造または機能の詳細を実質的に変更できる。
【0108】
例えば、上記実施の形態においては、第1受電抑制要求量RQ1および第2受電抑制要求量RQ2が何れも受電電力計画値BLに対して外部電力系統4から電力利用設備1に供給される電力を抑制する量である場合を例示したが、第1受電抑制要求量RQ1または第2受電抑制要求量RQ2が受電電力計画値BLに対して受電電力を増大する量である場合であっても、上記実施の形態における構成によって同様に制御可能である。
【0109】
また、上記実施の形態においては、外部電力系統4から電力利用設備1に電力が供給される場合の制御態様、すなわち、受電電力の制御態様を例示したが、電力利用設備1の電力出力装置20の出力電力が外部電力系統4に供給される場合の制御態様、すなわち、売電電力の制御態様についても、上記実施の形態を適用可能である。
【0110】
電力出力装置20が電力利用設備1の需要電力以上の発電を行い、余剰電力を系統へ逆潮流させることにより、電気事業者へ売電する取引が存在する。この場合、事前に電気事業者と計画した電力である売電計画値を系統へ逆潮流させる必要がある。
【0111】
このような場合にも、負荷5へ供給される電力の変化に対して、外部電力系統4に対する授受電力RPを適切に制御する、言い換えると、売電計画値とずれないようにするには、負荷5の状況に応じて電力出力装置20の出力電力を制御する必要が生じる。すなわち、電力利用設備1における売電電力の制御についても、DR要求に伴う受電電力の制御と同様の課題が生じる。
【0112】
例えば、上記構成をそのまま利用し、授受電力が売電電力となる場合には、授受電力RPを負の値として扱うことで同様の制御を行うことができる。
図13は、本実施の形態において電力出力装置の出力電力を売電する場合を示すグラフである。
図2のグラフと同様に、需要電力すなわち受電電力が正の値となり、売電電力は負の値となっている。
【0113】
図13のグラフにおいて、授受電力RPは、外部電力系統4に供給される売電電力となるため負の値で推移する。
図13のグラフは、期間TSにおいて小売電気事業者等から売電要求量RQ2分の売電要求があった場合を示している。この場合、期間TSにおける授受電力目標値RPoは、第2単位時間ごとの売電要求量である売電電力目標値RQ2である。すなわち、RPo=RQ2(<0)である。したがって、電力偏差算出部61から出力される第1電力偏差ΔRPは、ΔRP=RQ2-RP(RQ2,RP<0)となる。第1指令生成部62は、この第1電力偏差ΔRPに応じて第1指令SC1を生成する。
【0114】
上記構成によって、授受電力RPが売電電力目標値RQ2に等しい授受電力目標値RPoに一致するように制御される。さらに、第2指令生成部65により、第1出力電力が所定の設定値Psになるように電力出力装置20から出力される第2出力電力が調整される。したがって、電力利用設備1の外部電力系統4に対する授受電力を種々の需給要求に対応させることができる。また、この場合においても、電力偏差補正部63により、電力量に基づいて第1電力偏差ΔRPに補正を行うことにより、より適切な制御を実現することができる。
【0115】
このように、上記実施の形態においては、接続点30における授受電力が外部電力系統4から電力を供給する場合、すなわち、正の値をとる場合および外部電力系統4に電力を供給する場合、すなわち、負の値をとる場合の何れについても同じ制御態様で制御可能である。したがって、例えば夜間は売電を行い、昼間は受電を行う等受電電力が正の値にも負の値にもなる電力利用設備1にも適用可能である。
【0116】
なお、接続点30における授受電力が外部電力系統4に電力を供給する場合を正の値とし、外部電力系統4から電力を供給する場合を負の値としても同様の制御を行うことができる。
【0117】
また、上記実施の形態では、第1のしきい値T1と第2のしきい値T2とが異なる値に設定される態様を例示したが、第1のしきい値T1と第2のしきい値T2とは同じ値、例えば0に設定されてもよい。この場合、第2指令生成部65は、第2指令SC2として共通のしきい値以上の場合に減少指令SC2dを生成し、共通のしきい値未満の場合に増加指令SC2uを生成する。すなわち、維持指令SC2mは生成されない。
【0118】
同様に、上記実施の形態では、補正値生成部632は、電力量偏差ΔREが第2基準値C2以上かつ第1基準値C1未満である場合に電力補正値RPcを0とし、補正を行わない態様を例示したが、これに限られない。例えば、第1基準値C1と第2基準値C2とが同じ値に設定されてもよい。この場合、電力偏差補正部63は、常に有意の電力補正値RPc(≠0)を出力する。
【0119】
あるいは、第1基準値C1および第2基準値C2が互いに異なる値に設定され、その間にヒステリシス特性を持たせてもよい。
図14は、
図12に示す補正値生成部の入出力関係の他の例を示す図である。
図14においては、
図12に示される構成のうち、補正値生成部632Bのみを図示しているが、電力偏差補正部63のその他の構成は、
図12に示す構成と同様である。
【0120】
図14に示す補正値生成部632Bは、入力される電力量偏差ΔREの値に応じて、正のオフセット値Pchまたは負のオフセット値Pclの何れかを出力する。補正値生成部632Bは、正のオフセット値Pchを出力している状態から電力量偏差ΔREが0より小さい第2基準値C2未満になった場合に、出力する電力補正値RPcを負のオフセット値Pclに切り替える。さらに、補正値生成部632Bは、負のオフセット値Pclを出力している状態から電力量偏差ΔREが0より大きい第1基準値C1以上になった場合に、出力する電力補正値RPcを正のオフセット値Pchに切り替える。
【0121】
このような構成によっても、頻繁に電力補正値RPcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。
【0122】
また、上記実施の形態では、SOC補正値SOCcを算出するための第1参照値R1と第2参照値R2とが異なる値に設定される態様を例示したが、第1参照値R1と第2参照値R2とは同じ値(例えば0)に設定されてもよい。この場合、補正値算出部642は、SOC補正値SOCcとして共通のしきい値以上の場合に充電補正値SOCccを出力し、共通のしきい値未満の場合に放電補正値SOCcdを出力する。すなわち、SOC補正値SOCcは0になることはない。
【0123】
あるいは、第1参照値R1および第2参照値R2が互いに異なる値に設定され、その間にヒステリシス特性を持たせてもよい。
図15は、
図10に示す補正値算出部の入出力関係の他の例を示す図である。
図15においては、
図10に示す構成のうち、補正値算出部642Bのみを図示しているが、設定値生成部64のその他の構成は、
図10に示す構成と同様である。
【0124】
図15に示す補正値算出部642Bは、入力されるSOC偏差ΔSOCの値に応じて、充電補正値SOCccまたは放電補正値SOCcdの何れかを出力する。補正値算出部642Bは、正の充電補正値SOCccを出力している状態からSOC偏差ΔSOCが0より小さい第2参照値R2未満になった場合に、出力するSOC補正値SOCcを負の放電補正値SOCcdに切り替える。さらに、補正値算出部642Bは、負の放電補正値SOCcdを出力している状態からSOC偏差ΔSOCが0より大きい第1参照値R1以上になった場合に、出力するSOC補正値SOCcを正の充電補正値SOCccに切り替える。
【0125】
このような構成によっても、頻繁にSOC補正値SOCcの値が切り替わるのを防止し、安定した制御を行うことができる。
【0126】
また、上記実施の形態において、電力量偏差算出部631が、授受電力RPから授受電力量REを算出し、授受電力目標値RPoから授受電力量目標値REoを算出し、授受電力量目標値REoから授受電力量REを差し引くことで電力量偏差ΔREを生成する構成を例示した。これに代えて、電力量偏差算出部631は、授受電力目標値RPoから授受電力RPを差し引いた値を積分することにより電力量偏差ΔREを算出してもよい。
【0127】
また、上記実施の形態では、電力出力装置20が、第2電力偏差ΔPに応じた第2指令SC2に基づいて電力を出力する態様を説明したが、電力出力装置20は、第2電力偏差ΔPに応じた第2指令SC2に加えて、それ以外の制御信号に基づいて制御されてもよい。例えば、制御器6またはその他の制御器において燃料費が最も安くなるような負荷配分を算出および設定し、そのような負荷配分となるような制御指令を電力出力装置20に入力してもよい。そのような制御指令に基づいて電力出力装置20が制御されている状態で、さらに制御器6から増加指令SC2uを受信した場合、電力出力装置20は、現在の出力電力をさらに増加させるようにしてもよい。
【0128】
また、上記実施の形態における制御態様は、予めDR要求が行われる期間として設定されたDR要求期間TDRの間だけ適用され、それ以外の場合には、上記制御を行わなくてもよい。すなわち、電力利用設備1は、上記実施の形態における制御態様とそれ以外の制御態様とを適宜切り替え可能に構成されてもよい。この場合、DR要求期間TDRおよび差分電力要求の有効期間以外の期間は、例えば、燃料費等が最適となる運用パターンで電力出力装置20の出力電力を設定してもよい。これに代えて、DR要求期間TDRか否かにかかわらず、第1指令SC1を用いた電力変換器91の制御および第2指令SC2を用いた電力利用設備1の制御を行ってもよい。また、差分電力要求の有効期間か否かにかかわらず、第1指令SC1を用いた電力変換器91の制御および第2指令SC2を用いた電力利用設備1の制御を行ってもよい。
【0129】
上記実施の形態においては、第1指令生成部62および第2指令生成部65が一つの制御器6に含まれる態様を例示したが、第1の制御器に第1指令生成部62が含まれ、第1の制御器とは異なる第2の制御器に第2指令生成部65が含まれてもよい。制御器6のその他の構成、すなわち、目標値生成部60、電力偏差算出部61、電力偏差補正部63、または設定値生成部64は、それぞれ、第1の制御器または第2の制御器の何れかに含まれてもよいし、これらの制御器とは異なる第3の制御器に含まれてもよい。
【0130】
また、接続点30を介して外部電力系統4に接続される電力出力装置20の数は、1つでも2以上でもよい。また、上述したように接続点30を介して外部電力系統4に接続される電力出力装置20は、発電機または蓄電器等、種々の電力出力装置が適用され得る。電力出力装置20として蓄電器が適用される場合には、単に発電するだけでなく電力出力装置20である蓄電器に充電することも可能である。複数の電力出力装置20が接続点30を介して外部電力系統4に接続される場合には、同様の応答性を有する電力出力装置20が接続されてもよいし、応答性の異なる電力出力装置20が接続されてもよい。
【0131】
また、制御器6とは独立した発電設備が接続点30を介して外部電力系統4に接続されていてもよい。このような発電設備は、例えば太陽光発電設備等の再生可能エネルギーを利用した発電設備である。このような発電設備は発電電力を調整することができないため、制御器6の制御対象とはしない。なお、再生可能エネルギーとは、太陽光、水力、風力、地熱等の自然エネルギーを意味する。また、原動機発電機等、制御器6により発電電力が調整可能な電力出力装置であっても、制御器6の制御対象ではない電力出力装置が存在してもよい。
【0132】
電力変換器91に接続される蓄電器92は、特に限定されない。例えば、蓄電器92は、2次電池でもよいし、キャパシタでもよい。
【0133】
また、上記実施の形態においては、設定値生成部64により蓄電器92のSOCを所定範囲に維持するような設定値Psが設定される態様を例示したが、設定値生成部64は、蓄電器92のSOCを考慮せずに所定の固定値、例えば0等を設定値Psとして設定してもよい。その場合、例えば、電力利用設備1は、蓄電器92のSOCを所定範囲内に維持するように蓄電器92を充放電する充放電システムを別途備えてもよい。この充放電システムは、第1指令SC1および第2指令SC2による制御系統とは別の制御系統で動作してもよい。
【0134】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、または手段(…部)は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、または手段はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0135】
[本開示のまとめ]
本開示の一態様に係る電力利用設備は、外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、前記接続点を介して前記外部電力系統と接続される電力変換器と、前記電力変換器に接続される蓄電器と、前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器と、を備え、前記制御器は、電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、前記授受電力目標値から前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する。
【0136】
上記構成によれば、授受電力の授受電力目標値に対する第1電力偏差に応じて蓄電器の充放電による電力変換器の第1出力電力が制御される。さらに、電力変換器の第1出力電力の変動分を電力出力装置が蓄電器の代わりに負担するように、電力出力装置の第2出力電力が調整される。したがって、電力出力装置だけでは対応できない応答速度の速い電力変動にも対応することができる。これにより、電力出力装置を備えた電力利用設備において、簡単な構成で、電力出力装置の応答性を考慮することなく、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力を種々の需給要求に対応させることができる。また、結果的に電力出力装置が応答可能な電力変動は電力出力装置が負担するため、蓄電器の蓄電容量を、電力出力装置の応答速度、電力利用設備に接続される負荷の変動または受電電力計画値等を考慮した必要最小限に抑えることができる。
【0137】
本開示の上記構成によれば、上記特許文献1および2では解決できない上記課題を解決できる。
【0138】
例えば、上記特許文献1では、蓄電池を備えたシステムにおいてDR要求が行われた場合に、実受電電力に受電電力バイアス値を加算してネガワット取引時の仮想受電電力を算出し、実受電電力に代えてその仮想受電電力に基づいて蓄電池から出力されるシステム出力の指令値を生成している。
【0139】
しかし、特許文献1では、DR要求の有無で制御態様を切り替える必要が生じる。また、特許文献1では、蓄電池から出力されるシステム出力の指令値となる電力値を算出している。このため、システム出力の現在値を計測する必要が生じる。このため、複数の電力出力装置を備えた電力利用設備においては、個々の出力値を計測し、個々の指令値を算出する必要が生じる。
【0140】
また、特許文献1の態様を、蓄電池の代わりに原動機発電機等の発電機を用いた電力利用設備に適用しようとした場合、システム出力の指令値を算出する際に、応答の遅い原動機発電機の応答性を考慮した指令値にする必要が生じる。応答性を考慮しないと、指令値に発電機の出力が追従できなくなり、制御が発散してしまう恐れがある。また、特性の異なる複数の電力出力装置を備えた電力利用設備においては、それぞれの応答性を考慮する必要が生じ、特許文献1の態様をそのようなシステムに適用することは容易ではない。
【0141】
これに関し、上記特許文献2には、複数の発電機のそれぞれの特性を考慮した制御態様が開示されているが、複数の発電機に対して個別に制御が必要であることは変わらず、発電機ごとに制御パラメータの設計を行う必要が生じる。
【0142】
以上のように、特許文献1および2の制御態様では、様々な種類の電力出力装置を備えた電力利用設備の制御に容易に適用ができない。また、上記のような課題は、DR要求に伴う電力出力装置の制御だけでなく、売電等の電力出力装置の様々な制御状況においても生じ得る。
【0143】
これに対し、本開示の上記構成によれば、DR要求の有無で制御態様を切り替える必要がない。また、システム出力の現在値を計測する必要がなく、複数の電力出力装置に対して個別に制御を行う必要がない。にもかかわらず、電力利用設備の外部電力系統に対する授受電力を種々の需給要求、例えば、三次調整力-2と呼ばれるような、より短い単位時間での電力需給要求にも対応させることができる。
【0144】
前記蓄電器の充電状態を検出する充電状態検出器を備え、前記制御器は、所定の充電状態目標値から充電状態の検出値を差し引いた充電状態偏差に基づいて充電状態補正値を生成し、前記所定の設定値を、前記充電状態補正値に応じた値に設定してもよい。蓄電器の充電状態の値に応じて電力出力装置からの第2出力電力を調整するための基準となる設定値が変化することにより、接続点での授受電力が各要求成分を満足し、かつ、蓄電器の充電状態を充電状態目標値に近づけるように、第2出力電力が調整される。これにより、蓄電器の充電状態を充電状態目標値に基づく所定範囲内に維持することができる。このため、蓄電器に対して充放電を行う装置を別途用いることなく、蓄電器を用いた電力調整を継続することができる。
【0145】
前記制御器は、前記充電状態偏差が所定の第1参照値以上である場合に、前記蓄電器を充電する充電補正値を前記充電状態補正値として生成し、前記充電状態偏差が前記第1参照値未満の第2参照値未満である場合に、前記蓄電器から放電する放電補正値を前記充電状態補正値として生成し、前記充電状態偏差が前記第2参照値以上かつ前記第1参照値未満の所定の範囲内である場合に、前記充電状態補正値をゼロとし、前記充電状態補正値がゼロである場合、前記所定の設定値をゼロに設定してもよい。
【0146】
前記制御器は、前記授受電力を積算して得られる授受電力量および前記授受電力目標値を積算して得られる授受電力量目標値を算出し、前記授受電力量の前記授受電力量目標値に対する電力量偏差を算出し、前記電力量偏差に基づいて電力補正値を生成し、前記第1電力偏差に前記電力補正値を加算して前記第1電力偏差を補正してもよい。このような構成によれば、計測された授受電力に基づく第1電力偏差に、授受電力量に基づく電力補正値を加えることにより、授受電力の瞬時値だけを制御した場合に生じ得る微小な偏差の蓄積を補正することができる。
【0147】
前記制御器は、前記設定値から前記第1出力電力を差し引いた第2電力偏差が所定の第1しきい値以上である場合、前記第2出力電力を減少させる減少指令を生成し、前記第2電力偏差が前記第1しきい値より小さい第2しきい値未満である場合、前記第2出力電力を増加させる増加指令を生成し、前記第2電力偏差が前記第2しきい値以上かつ前記第1しきい値未満である場合、前記第2出力電力を維持させる維持指令を生成してもよい。
【0148】
これにより、第2出力電力に対する指令として、減少指令および増加指令に、維持指令を加えることにより、電力出力装置の第2出力電力をより安定化させることができる。
【0149】
前記電力授受要求値は、所定の第1単位時間内に出力を変化させることを要求する第1受電抑制要求量、前記第1単位時間より短い第2単位時間ごとの第2受電抑制要求量を含み、前記制御器は、前記第1単位時間および前記第2単位時間より短い第3単位時間ごとに、前記第2単位時間ごとに予め定められる受電電力計画値から前記第1受電抑制要求量および前記第2受電抑制要求量を差し引いて前記受電電力目標値を算出してもよい。前記授受電力目標値は、予め定められた第2単位時間ごとの売電電力目標値を含んでもよい。
【0150】
本開示の他の態様に係る制御器は、外部電力系統と接続点を介して電力の授受を行う少なくとも1つの電力出力装置と、前記接続点における授受電力を計測する電力計測器と、前記接続点を介して前記外部電力系統と接続される電力変換器と、前記電力変換器に接続される蓄電器と、を備えた電力利用設備において、前記電力出力装置および前記電力変換器を制御する制御器であって、前記電力授受要求値に基づいて授受電力目標値を生成し、前記授受電力目標値から、取得した前記授受電力を差し引いた第1電力偏差を算出し、前記第1電力偏差に基づいて、前記授受電力が前記授受電力目標値となるように前記蓄電器の充放電による前記電力変換器からの第1出力電力を制御し、前記第1出力電力が所定の設定値になるように前記電力出力装置から出力される第2出力電力を調整する。
【符号の説明】
【0151】
1 電力利用設備
4 外部電力系統
6 制御器
8 電力計測器
20 電力出力装置
30 接続点
91 電力変換器
92 蓄電器
93 充電状態(SOC)検出器