(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122764
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】液体試料分注方法および自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
G01N35/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026454
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】穆 廷林
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 慧留
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058EA02
2G058EA04
2G058ED21
(57)【要約】
【課題】
加温された液体を分注する際に、環境温度によらず、正確な量の液体を吸引可能な分注方法と当該機能を備えた自動分析装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
シリンジと流路接続されている分注プローブの先端開口部から基端部側にわたる流路の内部温度を均一化する均一化操作をしたのちに、前記分注プローブを用いて所定量の液体を吸引することを含む、液体の分注方法と当該機能を備えた自動分析装置を提供することにより、前記課題を解決する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジと流路接続されている分注プローブの先端開口部から基端部側にわたる流路の内部温度を均一化する均一化操作をしたのちに、前記分注プローブを用いて所定量の液体を吸引することを含む、液体の分注方法。
【請求項2】
前記分注プローブを用いて吸引した所定量の液体を他のウェルに吐出することをさらに含む、請求項1に記載の分注方法。
【請求項3】
前記均一化操作は、前記シリンジにより流路内の空気を前記基端部側から前記先端開口部側に向けて吐出することを含む、請求項1または2に記載の分注方法。
【請求項4】
吐出する空気の体積が、前記分注プローブを用いて吸引する液体の体積の5割以上である、請求項3に記載の分注方法。
【請求項5】
液体試料を収容する試料ウェルと、
前記試料ウェルから前記液体試料を受け入れて加温する加温ウェルと、
前記加温ウェルから前記液体試料を受け入れて試薬と反応させる反応ウェルと、
シリンジと流路接続されている分注プローブと、
前記試料ウェルから前記液体試料を前記加温ウェルに分注するのに用いた分注プローブを、前記加温ウェル内で液体試料が加温されるまでの間、前記液体試料の液面付近で待機させ、前記加温ウェル内の液体試料を前記反応ウェルに分注するために前記分注プローブを前記液体試料に浸す前に、前記シリンジを操作して流路内の空気を前記分注プローブの基端部側から先端開口部側に向けて吐出する制御部と、
を備えた自動分析装置。
【請求項6】
前記試料ウェルと、前記加温ウェルと、前記反応ウェルとが一体化したカートリッジの形態をなしている、請求項5に記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記分注プローブの先端開口部が使い捨ての分注チップの先端開口部である、請求項5または6に記載の自動分析装置。
【請求項8】
前記分注チップの吸引可能体積が50μL以下である、請求項7に記載の自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の分注方法および自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子分析装置や免疫分析装置などの自動分析装置では、試料および試薬を設定量吸引し反応容器に吐出するため、分注機構を備えている。また遺伝子増幅反応や免疫反応などの生化学反応は、特定の温度で反応させるため、自動分析装置には温調による加温工程を有する。安定した測定を行うためには、正確な量の試料および試薬を分注する必要がある。
【0003】
ところで、加温工程を有することで、分注量が一定でなくなる問題がある。例えば、加温によって液体試料が蒸発するため、液体試料の塩濃度が変動したり、最悪の場合は溶媒がなくなってしまう場合がある。蒸発を防ぐために開口が小さい分注チップ内で加温し分注する方法(特許文献1)や高湿度条件下で分注する方法(特許文献2)が考案されている。
【0004】
予熱された液体試料を吸引する場合、液体試料が加温されるだけでなく、分注プローブ内の空気も加温されることとなる。温調温度と比べて環境温度が低い場合、液体試料を吸引すると分注プローブ内の加温された空気が冷えたところに移動し収縮するため、収縮した気体体積分だけより多くの液体試料を吸引する。気体の収縮体積は温調温度と環境温度の差に比例するため、測定時の環境温度によって分注量が変化し、試料と試薬の混合割合が一定でなくなり、測定結果に影響を及ぼす問題が依然として残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-058288号公報
【特許文献2】特開2000-206123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加温された液体を分注する際に、環境温度によらず、正確な量の液体を吸引可能な分注方法と当該機能を備えた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)シリンジと流路接続されている分注プローブの先端開口部から基端部側にわたる流路の内部温度を均一化する均一化操作をしたのちに、前記分注プローブを用いて所定量の液体を吸引することを含む、液体の分注方法。
(2)前記分注プローブを用いて吸引した所定量の液体を他のウェルに吐出することをさらに含む、(1)に記載の分注方法。
(3)前記均一化操作は、前記シリンジにより流路内の空気を前記基端部側から前記先端開口部側に向けて吐出することを含む、(1)または(2)に記載の分注方法。
(4)吐出する空気の体積が、前記分注プローブを用いて吸引する液体の体積の5割以上である、(3)に記載の分注方法。
(5)液体試料を収容する試料ウェルと、
前記試料ウェルから前記液体試料を受け入れて加温する加温ウェルと、
前記加温ウェルから前記液体試料を受け入れて試薬と反応させる反応ウェルと、
シリンジと流路接続されている分注プローブと、
前記試料ウェルから前記液体試料を前記加温ウェルに分注するのに用いた分注プローブを、前記加温ウェル内で液体試料が加温されるまでの間、前記液体試料の液面付近で待機させ、前記加温ウェル内の液体試料を前記反応ウェルに分注するために前記分注プローブを前記液体試料に浸す前に、前記シリンジを操作して流路内の空気を前記分注プローブの基端部側から先端開口部側に向けて吐出する制御部と、
を備えた自動分析装置。
(6)前記試料ウェルと、前記加温ウェルと、前記反応ウェルとが一体化したカートリッジの形態をなしている、(5)に記載の自動分析装置。
(7)前記分注プローブの先端開口部が使い捨ての分注チップの先端開口部である、(5)または(6)に記載の自動分析装置。
(8)前記分注チップの吸引可能体積が50μL以下である、(7)に記載の自動分析装置。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、分注プローブが扱う流体を「試料」ということがある。
【0010】
前記均一化操作の一例として、前記シリンジにより流路内の空気を前記基端部側から前記先端開口部側に向けて吐出することを含む。
【0011】
前記吐出動作を有することで、分注プローブ内の加温された空気が押し出される。その後、試料を吸引するとき、環境温度に近い空気が分注プローブ内に移動するため、予熱温度と環境温度の温度差に起因する気体の収縮が抑えられ、正確な量の液体を吸引する。また吐出体積は、加温された空気を吐き出すことが目的なので大きいほど好ましい。吐出する空気の体積が、前記分注プローブを用いて吸引する液体の体積の5割以上である場合も好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、環境温度によらず正確な量の液体を分注することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る自動分析装置の分注機構を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の実施形態に係るインキュベーターの構造を示す図である。
【
図3】
図1の実施形態に係る分注方法における分注プローブの動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図3の分注動作における分注チップ内の流体の状態を示す概略図である。
【
図5】
図3の分注動作において、ステップS105を実施していない場合の分注チップ内の流体の状態を示す概略図である。
【
図6】
図3の分注動作において、ステップS105の吐出体積を変化させたときの設定吸引量からの差異を示した図である。
【実施例0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。具体的な実施形態を説明するが、本発明は当該例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記入された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解可能である。
【0015】
図1は、本発明の実施形態である自動分析装置1の概略構成図である。分注機構2は、分注チップ10、分注プローブ20、分注プローブ駆動部21、チューブ30、シリンジ40、シリンジ駆動部43を備える。分注プローブ20は先端に使い捨ての分注チップ10を装着し、液体試料等を分注チップ10内に吸引する。分注プローブ20は、チューブ30によりシリンジ40の吸引吐出力機構に接続されている。シリンジ駆動部43を用いてシリンダ41内のプランジャ42を出し入れすることにより、分注チップ10に設定量の試料あるいは試薬を吸引、吐出する。
【0016】
分注プローブ20は分注プローブ駆動部21によってZ方向に移動することができる。本実施例で使用した検査カートリッジ50は、4つのウェルを有しており、ウェル51に試料、ウェル54に反応試薬が格納されている。また検査カートリッジ50はインキュベーター70に積載される。インキュベーター70は、インキュベーター駆動部71によってY方向に移動することができる。測定の流れのとしては、ウェル51の試料をウェル52に移し予熱した後、ウェル54に予熱した試料を移し、反応試薬と反応させる。
【0017】
前記インキュベーターは、
図2に示されるように、ウェル52用ヒーターブロック71、ウェル54用ヒーターブロック72を備えている。2つのヒーターブロックの間は、空間となっており断熱の役割を果たす。
【0018】
図1に示した実施形態において、分注プローブ20が試料あるいは試薬を吸引する前に分注チップ10内の空気の温度と環境温度の差異を小さくするために行う動作の流れを
図3に示す。
図3において、分注プローブ20は分注チップ10を装着し(ステップS101)、設定量の試料をウェル51からウェル52に移す(ステップS102)。その後、分注プローブ20は試料液面上の所定位置まで上昇する(ステップS103)。予熱される間、分注プローブ20は、試料液面上の所定位置で待機している(ステップS104)。予熱後、分注チップ10内の空気を吐出する(ステップS105)。これにより分注チップ10内の温度と環境温度の差異は小さくなり、分注チップ10内の空気を吸引したときに、温度変化による空気の体積変化が小さくなるため、正確な量の試料等を吸引することができる。次に、試料を吸引できる高さまで下降し(ステップS106)、予熱された試料を吸引する(ステップS107)。したがって、正確な量の加温された試料あるいは試薬を別の容器に分注することができる。
【0019】
図4は、
図3の分注動作における分注チップ10内の流体の状態を示す概略図である。
図4(a)は、ステップS104において試料が予熱される間、液面の所定位置で待機している状態を示している。分注チップ10上の点線は、設定吸引量を表している。分注チップ10内の液体が装置内部に落下するとコンタミの原因になるため、液面付近で待機している。
図4(b)は、ステップS105において分注チップ10内の空気を吐出している状態を示している。分注チップ10の位置は、S104の待機位置と同じである。
図4(c)は、ステップS106において試料を吸引できる位置まで分注チップが下降している状態である。
図4(d)は、ステップS107において試料を設定量吸引している状態である。上述するように、予熱された試料を吸引する前に、分注チップ10内の加温された空気を吐出することで、設定吸引量の試料を正確に吸引することができる。
【0020】
図5は、
図3の分注動作においてステップS105を実施しない場合の分注チップ10内の流体の状態を示す概略図である。
図5(a)、(c)、および(d)は、
図4(a)、(c)、および(d)と同様に、それぞれ
図3のステップS104、S106、S107の状態を表している。ステップS105を実施しない場合、加温された空気を吸引し、予熱温度と環境温度の温度差に比例して吸引した空気の体積が変化するため、設定吸引量の試料を正確に吸引することができない。
【0021】
図6は、
図3の分注動作において、ステップS105の吐出体積を変化させたときの設定吸引量(30μL)からの差異を示した図である。ウェル52用ヒーターブロック71およびウェル54用ヒーターブロック72は、それぞれ51℃および46℃で加温されている。ステップS104の待機時間は、54秒である。またステップS104において、分注チップ10は液面付近で待機している。環境温度25℃で30μLを吸引するように設定した吸引量にて、ステップS105の吐出体積を0μL、15μL、および30μLと変化させながら、環境温度13℃、25℃、32℃でウェル52における吸引量を調べた。
【0022】
ステップS105の吐出体積が0μLの場合においては、環境温度が13℃の場合には7.9%の誤差が生じ、環境温度が32℃の場合にも-4.1%の誤差が生じた。それに対して、ステップS105の吐出体積が15μLの場合においては、環境温度が13℃の場合には4.0%、環境温度が32℃の場合にも-2.5%と誤差が少なくなり、さらにステップS105の吐出体積が30μLの場合においては、環境温度が13℃の場合には2.0%、環境温度が32℃の場合にも-1.5%とより誤差が少なくなり、良好な結果となった。
【0023】
本発明の吐出操作が行われ、さらに吐出体積が大きいほど、予熱中に加温された空気が押し出されるため、ステップS107気体の収縮が抑制され、差異が小さくなった。