(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122847
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】片持ち階段の支持具及び片持ち階段
(51)【国際特許分類】
E04F 11/022 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
E04F11/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026595
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 純
(72)【発明者】
【氏名】松浦 翔
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 元徳
【テーマコード(参考)】
2E301
【Fターム(参考)】
2E301CC54
2E301CD11
2E301CD34
2E301CD43
2E301DD14
2E301DD15
2E301DD16
2E301DD17
2E301DD76
2E301DD78
(57)【要約】
【課題】片持ち階段の十分な強度を確保でき、かつ踏み板の厚みを従来よりも薄くすることができ片持ち階段の意匠性を向上できる、片持ち階段の支持具を提供すること。
【解決手段】階段を構成する踏み板の一端側を構造部材に対し固定して支持する片持ち階段の支持具であって、踏み板の下部に配置され、踏み板の一端側の下面、及び構造部材に固定される下側支持具と、踏み板の上部に配置され、踏み板の一端側の上面、及び構造部材に固定される上側支持具と、を備える、片持ち階段の支持具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段を構成する踏み板の一端側を構造部材に対し固定して支持する片持ち階段の支持具であって、
前記踏み板の下部に配置され、前記踏み板の前記一端側の下面、及び前記構造部材に固定される下側支持具と、
前記踏み板の上部に配置され、前記踏み板の前記一端側の上面、及び前記構造部材に固定される上側支持具と、を備える、片持ち階段の支持具。
【請求項2】
前記上側支持具の前記踏み板の前後方向から視た断面形状は、L字形状及び矩形状のうちいずれかである、請求項1に記載の片持ち階段の支持具。
【請求項3】
前記下側支持具の前記踏み板の前後方向から視た断面形状は、L字形状及び矩形状のうちいずれかである、請求項1又は2に記載の片持ち階段の支持具。
【請求項4】
前記上側支持具は、前記踏み板の前後方向に沿って複数配置される、請求項1~3のいずれかに記載の片持ち階段の支持具。
【請求項5】
前記上側支持具は、壁内部に埋設される、請求項1~4のいずれかに記載の片持ち階段の支持具。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の片持ち階段の支持具を備える片持ち階段であって、
前記踏み板の厚みは40mm以下である、片持ち階段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、片持ち階段の支持具及び片持ち階段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱等の構造部材に対して階段を構成する踏み板の一端側が固定されて支持される、片持ち階段が知られている。片持ち階段は、建造物の構造的な要求や、デザイン上の要求等により階段として選択される。片持ち階段は、踏み板の一端側のみが固定される構造上、十分な強度が確保される必要がある。片持ち階段の強度を向上させる手段としては、踏み板の厚みを十分に厚くする手段が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、片持ち階段の意匠性を向上させる目的で、踏み板の厚みを従来よりも薄くしたいという要求がある。特許文献1に開示された技術は、一対の踏板支持体を支持体締結部で締結し、踏板支持体は柱挟持部で柱を挟み込むように配置される。そして、踏み板は、踏板支持体を覆うように載置される。特許文献1に開示された構造は、片持ち階段の強度を十分に確保するために、踏板支持体及び踏み板の厚みを所定の厚み以上に厚くする必要があった。特許文献1に開示された技術以外に、踏み板を厚くせずに片持ち階段の強度を向上させる手段として、踏み板を支持する正面視略三角形状の支持具を、2辺が構造部材及び踏み板に接するように踏み板の下部に配置して固定する手段も考えられる。しかし、上記支持具は踏み板の下部に突き出てしまうことから、意匠性の観点から必ずしも好ましいとは言えず、他の手段が求められていた。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、片持ち階段の十分な強度を確保でき、かつ踏み板の厚みを従来よりも薄くすることができ片持ち階段の意匠性を向上できる、片持ち階段の支持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、階段を構成する踏み板の一端側を構造部材に対し固定して支持する片持ち階段の支持具であって、前記踏み板の下部に配置され、前記踏み板の前記一端側の下面、及び前記構造部材に固定される下側支持具と、前記踏み板の上部に配置され、前記踏み板の前記一端側の上面、及び前記構造部材に固定される上側支持具と、を備える、片持ち階段の支持具に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る支持具を備える片持ち階段を示す斜視図である。
【
図3】
図1の支持具及び片持ち階段を、踏み板の前後方向から視た図である。
【
図4】本開示の実施例又は比較例に係る支持具及び踏み板を示す斜視図である。
【
図5】本開示の実施例に係る支持具及び踏み板を示す斜視図である。
【
図6】本開示の実施例に係る支持具及び踏み板を示す斜視図である。
【
図7】本開示の実施例に係る支持具及び踏み板を示す斜視図である。
【
図8】本開示の実施例及び比較例に係る踏み板のたわみ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<片持ち階段>
本実施形態に係る片持ち階段1は、
図1に示すように、構造部材としての柱2に対して、複数の踏み板10の一端側がそれぞれ下側支持具21及び上側支持具22により固定されて支持されることで構成される。以下の説明において、踏み板10が固定される構造部材を柱2として説明する。一方で、踏み板10が固定される対象は柱には限定されず、少なくとも片持ち階段1の使用者の体重を支え得る所定以上の強度を有していればよい。上記対象としては、例えば梁であってもよい。図面中、踏み板10の幅方向をX1方向及びX2方向、踏み板10の前後方向をY方向、並びに鉛直方向をZ方向としてそれぞれ示す。
【0009】
(踏み板)
踏み板10は、
図2に示すように前後方向の長さL1、幅方向の長さL2、厚み(鉛直方向の長さ)Tを有する板状部材である。踏み板10の一端側であるX1方向の端部は、踏み板10の上面(踏面)10aが上側支持具22と固定され、踏み板10の下面10bが下側支持具21と固定されている。踏み板10の他端側であるX2方向の端部は固定されていない。本実施形態において踏み板10は柱2と当接して配置され、踏み板10と柱2とは固定されていてもよい。一方で、踏み板10と柱2とは固定されていなくてもよい。上記以外に、踏み板10と柱2等の構造部材等は当接していなくてもよく、近接しているのみであってもよい。
【0010】
踏み板10の材質としては特に限定されず、木製、金属製等の任意の材質により形成された踏み板を用いることができる。
【0011】
踏み板10は、本実施形態に係る下側支持具21及び上側支持具22により踏み板10が固定されることで、踏み板10の厚みTを従来よりも薄く構成することができる。例えば、40mm以下にすることができる。
【0012】
(支持具)
片持ち階段の支持具は、下側支持具21と、上側支持具22と、を備える。踏み板10の一端側であるX1方向の端部は、下側支持具21及び上側支持具22により鉛直方向から挟持されて柱2に対して固定される。片持ち階段の支持具を、下側支持具21だけでなく上側支持具22を備えて構成することで、踏み板10のたわみ量を低減できる。具体的には、踏み板10に対して荷重が加えられた際に、踏み板10と下側支持具21との固定箇所を支点として発生する回転モーメントに対する反作用として、上側支持具22による抗力が働く。これによって、踏み板10のたわみ量を低減できる。
【0013】
下側支持具21は、例えば、
図3に示すように、踏み板10の前後方向から視てL字形状を有する。上記形状を有する下側支持具21は、例えば、金属板を側面視でL字形状に変形させることで得られる。下側支持具21の一片側211は、例えば、柱2に対して締結具(ボルト及びナット)Fで締結して固定される。下側支持具21の他片側212は、例えば、踏み板10の下面10bと当接して溶接等により固定される。下側支持具21は踏み板10の前後方向に複数配置されていてもよい。
【0014】
下側支持具21と踏み板10との固定方法は上記の固定方法に限定されない。固定方法としては、例えば、溶接、接着剤による接着、ボルト及びナット等の締結具による固定等が挙げられる。
【0015】
下側支持具21の形状はは意匠性の観点からは踏み板の下方に突出しない形状である、上記L字形状等の形状であることが好ましい。下側支持具21の上記L字形状は踏み板の下方に突出しない形状の一例であり、下側支持具21の形状は上記L字形状には限定されない。
【0016】
下側支持具21の他片側212の幅方向の長さは、特に限定されず、要求される強度に応じた長さとすることができる。下側支持具21の他片側212の厚み(鉛直方向の長さ)は、意匠性の観点から、踏み板10の厚みTよりも薄いことが好ましい。
【0017】
上側支持具22は、例えば、
図3に示すように、踏み板10の前後方向から視てL字形状を有する。上記形状を有する上側支持具22は、例えば、金属板を側面視でL字形状に変形させることで得られる。上側支持具22の一片側221は、例えば、柱2と当接して溶接等により固定される。上側支持具22の他片側212は、例えば、踏み板10の下面10bと当接して溶接等により固定される。上側支持具22と踏み板10との固定方法は上記の固定方法に限定されない。固定方法としては、例えば、溶接、接着剤による接着、ボルト及びナット等の締結具による固定等が挙げられる。
【0018】
上側支持具22の踏み板10の前後方向から視た形状はL字形状には特に限定されず、矩形状等、踏み板10の上面10aに当接可能な面と、柱2に当接可能な面とを有していればよい。上側支持具22の具体的な立体形状としては、例えば、略直方体形状、略立方体形状、略三角柱形状等が挙げられる。上記立体形状としては、互いに垂直な2つの面を有し、上記2つの面以外の面が平面及び曲面のいずれかで構成される立体形状であってもよい。
【0019】
上側支持具22は踏み板10の前後方向に離隔して複数配置されていてもよい。これによって、上側支持具22の材料費や設置コストを低減でき、かつ単一の上側支持具22を用いる場合と同等の、踏み板10のたわみ量を低減する効果が得られる場合がある。
【0020】
上側支持具22の踏み板10に当接して固定される箇所(他片側222)の前後方向の長さは、踏み板10の前後方向の長さL1に対して、1/4以上の長さであることが好ましく、2/3以上の長さであることがより好ましい。上側支持具22が複数配置される場合、踏み板10の前後方向の両端に配置される上側支持具22の前後方向の長さの合計が、踏み板10の前後方向の長さL1に対して、1/4以上の長さであることが好ましく、2/3以上の長さであることがより好ましい。
【0021】
上側支持具22は、意匠性の観点から壁内部に埋設されることが好ましい。
図3において、破線3が壁の表面を示し、破線3よりも柱2側は壁内部であるため、外部から視認不能である。下側支持具21の一片側211及び締結具Fについても、壁内部に埋設されることが好ましい。下側支持具21及び上側支持具22を、踏み板10の前後方向から視てL字形状を有する形状とすることで、下側支持具21の一部及び上側支持具22を壁内部に埋設しやすい利点がある。
【0022】
上側支持具22の他片側222の幅方向の長さは、下側支持具21の他片側212の幅方向の長さよりも短いことが好ましい。他片側222は、踏み板10の上面10aに対して鉛直下方向に荷重が加えられた際に、下側支持具21と柱2との固定箇所(締結具F)を中心として略鉛直上方向に働く回転モーメントを抑制することが可能な幅方向の長さを有していればよい。このため、他片側222の幅方向の長さは他片側212の幅方向の長さよりも短くすることが可能である。そして、上記構成により上側支持具22を壁内部に埋設する大きさに容易に調整することができる。
【0023】
上側支持具22の踏み板10の前後方向から視た形状はL字形状であることが好ましく、矩形状であることがより好ましい。上記した踏み板10に荷重が加えられた際に上側支持具22に対して略鉛直上方向に働く回転モーメントにより、仮に上側支持具22が変形した場合、踏み板10がたわむ可能性がある。上側支持具22の踏み板10の前後方向から視た形状を矩形状とすることで、上側支持具22が変形し難くなり、上記の現象が抑制される。
【0024】
以上、本開示の実施形態に係る片持ち階段及び片持ち階段の支持具について説明した。しかし、本開示は上記の実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。
【実施例0025】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0026】
[たわみ量解析]
上記実施形態に係る構成を有する踏み板10、並びに下側支持具21及び上側支持具22と、
図4~7に示す構成を有する踏み板10、並びに下側支持具21及び上側支持具22a、22b、22c、22dとを用いて、踏み板10の他端側であるX2方向の端部の鉛直方向の変形量をたわみ量として、静的構造解析(非線形静的構造解析)を行った。解析には汎用構造解析ソフト「Optistruct」(Altair社製、(ver.2021))を用いた。
【0027】
<実施例1>
図4に示す上側支持具22a及び下側支持具21により固定された踏み板10の他端側であるX2方向の端部の鉛直方向の変形量(たわみ量)を解析した。上側支持具22aの踏み板10の幅方向の長さは6mm、鉛直方向の長さは27.5mm、前後方向の長さは200mmとした。踏み板10の幅方向の長さは900mm、鉛直方向の長さ(厚み)は20mm、前後方向の長さは300mmとした。下側支持具21の幅方向の長さは750mm、前後方向の長さは200mmとした。踏み板10に対して加えられる荷重は1200Nとした。踏み板や壁にかかる応力、及び上側支持具22aの踏み板の幅方向へのはみ出し量は最小として解析した。実施例1の踏み板10のたわみ量の解析結果は4.4mmであった。
【0028】
<実施例2>
図5に示す構成を有する上側支持具22bを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2の踏み板10のたわみ量を解析した。上側支持具22bは、
図5に示すように、上側支持具22b1及び上側支持具22b2の2つの上側支持具からなる。上側支持具22b1及び上側支持具22b2は、踏み板10の一端側の上面に、前後方向に沿って間隔を空けて配置される。上側支持具22b1及び上側支持具22b2は、踏み板10の前後方向から視てL字形状を有する。上側支持具22b1及び上側支持具22b2の踏み板10の前後方向の長さは共に40mmとした。実施例2の踏み板10のたわみ量の解析結果は4.7mmであった。
【0029】
<実施例3>
図1~
図3に示す構成を有する上側支持具22を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例3の踏み板10のたわみ量を解析した。上側支持具22の踏み板10の前後方向の長さは200mmとした。実施例3の踏み板10のたわみ量の解析結果は4.1mmであった。
【0030】
<実施例4>
図6に示す構成を有する上側支持具22cを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例4の踏み板10のたわみ量を解析した。上側支持具22cは、
図6に示すように、上側支持具22c1及び上側支持具22c2の2つの上側支持具からなる。上側支持具22c1及び上側支持具22c2は、踏み板10の一端側の上面に、前後方向に沿って間隔を空けて配置される。上側支持具22c1及び上側支持具22c2は、踏み板10の前後方向から視て矩形状であり、略直方体形状を有する。上側支持具22c1及び上側支持具22c2の踏み板10の前後方向の長さは共に40mmとした。実施例4の踏み板10のたわみ量の解析結果は3.3mmであった。
【0031】
<実施例5>
図7に示す構成を有する上側支持具22dを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例5の踏み板10のたわみ量を解析した。上側支持具22dは、
図7に示すように、単一部材からなる。上側支持具22dは、踏み板10の前後方向から視て矩形状であり、略直方体形状を有する。上側支持具22dの踏み板10の前後方向の長さは200mmとした。実施例5の踏み板10のたわみ量の解析結果は3.0mmであった。
【0032】
<比較例1>
上側支持具22aを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例1の踏み板10のたわみ量を解析した。比較例1の踏み板10のたわみ量の解析結果は44.0mmであった。
【0033】
<比較例2>
上側支持具22aを踏み板10と固定しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例2の踏み板10のたわみ量を解析した。比較例2の踏み板10のたわみ量の解析結果は28.8mmであった。
【0034】
上記実施例及び比較例に係る踏み板10のたわみ量の結果を
図8に示す。
図8の結果から、踏み板10の一端側を下側支持具21と共に各実施例に係る上側支持具により固定することで、踏み板10のたわみ量を抑制できる結果が明らかである。具体的には、上側支持具の形状は、踏み板10の前後方向から視てL字形状であってもよいし、矩形状であってもよい結果が明らかである。更に、上記形状を有する上側支持具は、単一部材であってもよいし、複数の上側支持具を前後方向に沿って離隔して配置してもよい結果が明らかである。