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特開2023-122887患部判定装置、患部判定方法、及び患部判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122887
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】患部判定装置、患部判定方法、及び患部判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/053 20210101AFI20230829BHJP
【FI】
A61B5/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026657
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000133179
【氏名又は名称】株式会社タニタ
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100169199
【弁理士】
【氏名又は名称】石本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 有紀
(72)【発明者】
【氏名】児玉 美幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 良雄
(72)【発明者】
【氏名】永濱 敏樹
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127GG15
4C127LL13
(57)【要約】
【課題】 被測定者の患部の状態をより正確に判定できる、患部判定装置、患部判定方法、及び患部判定プログラムを提供する。
【解決手段】 患部判定装置12は、被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部24が2つ以上設けられる測定部20、電極部24間に流す電流の周波数を設定する周波数設定部40、被測定者に接触する電極部24間の生体インピーダンスを算出する生体インピーダンス算出部46、及び算出した生体インピーダンスに基づいて、電極部24間における患部の状態を判定する患部判定部を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段と、
前記電極部間に流す電流の周波数を設定する周波数設定手段と、
被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定する判定手段と、
を備える患部判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記部位に対して所定期間前に算出された前記電気抵抗と現在の前記電気抵抗との差に基づいて、前記部位の状態を判定する、請求項1に記載の患部判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、取得した異なる複数の前記部位における前記電気抵抗の差に基づいて、前記部位の状態を判定する、請求項1又は請求項2に記載の患部判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記電極部間に流す電流の周波数又は前記電極部間の距離を変化させて算出した前記電極部間の前記電気抵抗に基づいて、前記被測定者の深さ方向における前記部位の状態を判定する、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の患部判定装置。
【請求項5】
前記測定手段は、被測定者の身体に装着可能とされる、請求項1から請求項4の何れか1項記載の患部判定装置。
【請求項6】
前記電極部間の距離は変更可能とされる、請求項1から請求項5の何れか1項記載の患部判定装置。
【請求項7】
被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段を用いた患部判定方法であって、
前記電極部間に流す電流の周波数を設定手段が設定する第1工程と、
被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出手段が算出する第2工程と、
前記第2工程で算出した電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定手段が判定する第3工程と、
を有する患部判定方法。
【請求項8】
被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段を備える患部判定装置のコンピュータを、
前記電極部間に流す電流の周波数を設定する周波数設定手段と、
被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定する判定手段と、
して機能させるための患部判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患部判定装置、患部判定方法、及び患部判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定者の生体インピーダンスを測定し、この生体インピーダンスから被測定者の身体状態を判定する技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被測定者の生体インピーダンス値の変化に基づいて被測定者の患部の回復状態を判定し、判定した被測定者の患部の回復状態を表示する、患部回復状態判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-95384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、生体インピーダンス値の変化に基づいて被測定者の患部の回復状態を判定するものの、電極は被測定者の手の指及び足裏に接触するように固定位置に配置されている。このため、特許文献1の装置では、被測定者の全身等の生体インピーダンスから患部の状態を判定することとなる。従って、特許文献1の装置では、被測定者がどの部位に発生しているかわからない炎症を発見するための測定を行うことはできない。また、被測定者の身体に対して深さ方向の患部の状態も判定できない。
【0006】
そこで、本発明は、被測定者の患部の状態をより正確に判定できる、患部判定装置、患部判定方法、及び患部判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の患部判定装置は、被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段と、前記電極部間に流す電流の周波数を設定する周波数設定手段と、被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定する判定手段と、を備える。
【0008】
本構成によれば、電極部が被測定者の任意の部位に接触可能とされるので、患部の位置を特定できる。また、電流の周波数を制御することで身体に対して電流が流れる深さを変えることができるので、患部の深さも特定できる。このように、本構成によれば、患部の位置及び深さを特定するので、被測定者の患部の状態をより正確に判定できる。
【0009】
上記の患部判定装置において、前記判定手段は、前記部位に対して所定期間前に算出された前記電気抵抗と現在の前記電気抵抗との差に基づいて、前記部位の状態を判定してもよい。本構成によれば、被測定者の患部の経時変化を正確に判定できる。
【0010】
上記の患部判定装置において、前記判定手段は、取得した異なる複数の前記部位における前記電気抵抗の差に基づいて、前記部位の状態を判定してもよい。本構成によれば、被測定者の患部の位置を正確に特定できる。
【0011】
上記の患部判定装置において、前記判定手段は、前記電極部間に流す電流の周波数又は前記電極部間の距離を変化させて算出した前記電極部間の前記電気抵抗に基づいて、前記被測定者の深さ方向における前記部位の状態を判定してもよい。本構成によれば、被測定者の患部の深さ方向の状態を特定できる。
【0012】
上記の患部判定装置において、前記測定手段は、被測定者の身体に装着可能とされてもよい。本構成によれば、被測定者の患部の状態をより正確に判定できる。
【0013】
上記の患部判定装置において、前記電極部間の距離は変更可能とされてもよい。本構成によれば、被測定者の患部の位置を正確に特定できる。
【0014】
本発明の一態様の患部判定方法は、被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段を用いた患部判定方法であって、前記電極部間に流す電流の周波数を設定手段が設定する第1工程と、被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出手段が算出する第2工程と、前記第2工程で算出した電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定手段が判定する第3工程と、を有する。
【0015】
本発明の一態様の患部判定プログラムは、被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極及び電圧電極で構成される電極部が2つ以上設けられる測定手段を備える患部判定装置のコンピュータを、前記電極部間に流す電流の周波数を設定する周波数設定手段と、被測定者に接触する前記電極部間の電気抵抗を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された電気抵抗に基づいて、前記電極部間における部位の状態を判定する判定手段と、して機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被測定者の患部の状態をより正確に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態の患部判定システムの概略構成図である。
図2図2は、実施形態の患部判定装置の機能ブロック図である。
図3図3は、電流周波数と測定部位の深さとの関係を示した模式図である。
図4図4は、電流周波数又は電極間距離と測定部位の深さの関係を示した図である。
図5図5は、実施形態の患部判定処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、電極間距離と電流周波数とを変更して患部の特定を行う処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、Z比率の大きさと患部に生じる炎症の性質との関係を示した模式図である。
図8図8は、他の実施形態の患部判定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
【0019】
図1は、本実施形態の患部判定システム10の概略構成図である。患部判定システム10は、患部判定装置12及びサーバ14を備える。
【0020】
患部判定装置12は、被測定者の任意の部位に電流を流し、電気抵抗である生体インピーダンスを局所的に測定することで、被測定者の患部の状態を判定する。例えば、患部として炎症、腫瘍、傷、及びその他の異常が被測定者の所定の部位に生じている場合には、患部に水分が蓄積されたり、患部の温度が高くなったり、細胞の状態が正常な部位に比べて異なっていたりする。このため、患部が存在する部位の生体インピーダンスは、患部が生じていない正常な部位に比べて差異が生じるので、生体インピーダンスに基づいて患部の有無及び患部の状態を判定できる。
【0021】
なお、電流を流す任意の部位とは、例えば、腕、脚、腹部、胸部等の部位、又はこれらの部位よりもよりも狭い領域(例えば、腕であれば、前腕、肘、肩等)である。すなわち、本実施形態では、一例として、電流経路長は長くても腕又は脚の長さ程度である。また、電流を流す任意の部位、換言すると患部が存在する部位は、被測定者自身又は医療従事者によって予め見当が付けられている。そして、患部判定装置12は、このような任意の部位に電流を流すことで、患部の正確な位置及び患部の状態を判定する。
【0022】
本実施形態の患部判定装置12は、測定部20及び本体部22を備える。なお、患部判定装置12を用いて生体インピーダンスを測定する測定者は、被測定者自身又は医療従事者等である。
【0023】
測定部20は、被測定者の任意の部位に配置可能とされ、電流電極24A及び電圧電極24Bで構成される電極部24が2つ設けられる。本実施形態の測定部20は、被測定者に装着可能とされ、例えば被測定者に巻き付けられる包帯である。
【0024】
測定部20は、包帯に限らず、ベルト、アームカバー、レッグカバー、靴下、インナー、洋服、リストバンド状のウェアラブルデバイス等、被測定者に装着可能でフレキシブル性の高い材質で構成されてもよい。また、測定部20は、身体に装着するものではなく、測定者が把持して被測定者の身体に電極部24を押し当てる形状とされてもよい。
【0025】
測定部20は、被測定者の任意の部位の生体インピーダンスを測定可能であれば、形状及び材質は限定されない。測定部20の形状及び材質は、被測定者の患部の位置、生活態様、又は生体インピーダンスの測定方法等に応じて選択される。なお、被測定者に対して定期的に同じ位置の生体インピーダンスを測定するのであれば、例えば、測定部20を包帯等とすることで、被測定者に対して電極部24を固定して位置がずれないようにすることが好ましい。一方で、被測定者の生体インピーダンスを複数個所で測定する場合には、測定部20は測定者によって把持され、被測定者に対する電極部24の位置を変更し易い形状とすること好ましい。
【0026】
電流電極24A及び電圧電極24Bは、被測定者の身体に接触するように測定部20に配置される。電流電極24A及び電圧電極24Bは、一例として、金属であるが、これに限らず、導電性部材であれば、例えばジェル状又は繊維状でもよい。
【0027】
なお、測定部20において電極部24の位置が調整可能とされ、これにより電極部24間の距離(以下「電極間距離」という。)が変更可能とされてもよい。電極間距離を変更することにより、患部の位置や深さを詳細に判定できる。すなわち、電極間距離が短い場合には、被測定者の表面の狭い領域を測定することになるため患部の位置をより詳細に判定できる。また、電極間距離が短いほど、被測定者の身体の浅い位置における患部の状態を判定できる。一方、電極間距離が長い場合には、被測定者の表面の広い領域を測定することになるため、少ない測定回数で患部の状態を判定できる。また、電極間距離が長いほど、身体の深い位置における患部の状態を判定できる。なお、患部判定装置12は、電極間距離を記憶し、生体インピーダンスの算出及び患部の深さ判定に電極間距離を用いる。
【0028】
本体部22は、電流電極24Aに電流を流し、電圧電極24Bによって電圧を検出することで、被測定者の身体における任意の部位の生体インピーダンスを測定する。そして、本体部22は、生体インピーダンスに基づいて当該部位に生じた患部の状態を判定する処理(患部判定処理)を行う。
【0029】
測定部20と本体部22とは、柔軟なケーブル30で電気的に接続される。これにより、測定部20は、被測定者の身体の任意に部位に配置可能とされる。また、測定部20とケーブル30とはコネクタ32で着脱可能なように接続されている。これにより、様々な形状の測定部20が本体部22に接続可能とされる。
【0030】
また、本体部22は、モニタ26及び電源スイッチ28を備える。モニタ26は、一例として、タッチパネルディスプレイであり、各種設定値の入力を受け付けたり、患部判定処理による判定結果を表示する。電源スイッチ28は、本体部22の電源のオン操作及びオフ操作を受け付ける。
【0031】
サーバ14は、測定された生体インピーダンス及び患部判定処理の判定結果等を患部判定装置12から受信し、これらを被測定者の部位毎に時系列で記憶する。サーバ14で記憶された過去の生体インピーダンス及び判定結果等は、患部判定装置12へ送信されて患部判定処理に用いられる。また、サーバ14に記憶されている被測定者の部位毎の生体インピーダンスや判定結果は、例えば、被測定者又は医療従事者が使用する情報処理装置で閲覧することが可能とされる。
【0032】
図2は、本実施形態の患部判定装置12の機能ブロック図である。患部判定装置12の本体部22は、周波数設定部40、電流印可制御部42、電圧検出部44、生体インピーダンス算出部46、患部判定部48、モニタ制御部50、記憶部52、及び通信部54を備える。図2に示される各部で実行される各機能は、一例としてプログラムが起動することによって患部判定装置12が備える演算部で実行されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の個別のハードウェアによって実現されてもよい。
【0033】
周波数設定部40は、電極部24間に流す電流の周波数(以下「電流周波数」という。)を設定する。本実施形態の電流周波数は、所定の周波数幅の間で任意に設定可能とされ、設定可能な周波数のうち相対的に低い周波数を低周波数といい、相対的に高い周波数を高周波数という。なお、本実施形態の周波数領域は、一例として、1kHz~3MHz程度である。
【0034】
電流印可制御部42は、周波数設定部40で設定された電流のオン、オフを制御する。これにより、電流がオンとされると、被測定者に接触している電流電極24Aから被測定者に対して電流が流れる。
【0035】
電圧検出部44は、電流電極24Aに電流を流すことで生じた電圧を電圧電極24Bを介して検出する。
【0036】
生体インピーダンス算出部46は、電圧検出部44で検出した電圧に基づいて、被測定者に接触する電極部24間の電気抵抗である生体インピーダンスを算出する。
【0037】
患部判定部48は、生体インピーダンス算出部46によって算出された生体インピーダンスに基づいて、電極部24間における部位の状態を判定する。
【0038】
モニタ制御部50は、患部判定部48による判定結果等を表示するようにモニタ26を制御する。
【0039】
記憶部52は、例えば、不揮発性メモリであり、各種データ、患部判定処理に用いられるプログラム、及び患部判定部48による判定結果等を保存する。
【0040】
通信部54は、サーバ14等の他の情報処理装置との間でデータの送受信を行なう。
【0041】
本実施形態の患部判定装置12は、周波数設定部40によって電流周波数を所定の周波数領域内で自動的に変化させ、算出した生体インピーダンスが他の周波数の範囲とは異なる値となった周波数の範囲を固定値としてもよい。すなわち、固定値とされた周波数の範囲の電流は、被測定者の患部を測定していることとなる。そして、患部判定装置12は、当該固定値とした周波数の範囲で繰り返し生体インピーダンスを算出することで、患部の状態をより精度高く判定してもよい。
【0042】
次に、図3を参照して電流周波数と測定部位の深さとの関係を説明する。図3は、測定部位に患部が存在しない場合、測定部位に患部が存在する場合における電流周波数の高低と電流経路との違いを模式的に表している。
【0043】
図3に示されるように、患部の有無にかかわらず、低周波数の電流に比べて高周波数の電流の方が相対的により深い電流経路となるが、患部が存在する部位の方が、電流が患部を避けて流れるので浅い電流経路となる。また、患部の状態によっても電流経路に違いが生じる。例えば、患部が柔らかい炎症の方が、患部が硬い炎症又は血の塊が生じている場合に比べて、深い電流経路となる。また、硬い炎症又は血の塊が生じている場合には、高周波数の電流は患部を通過する電流経路となるが、低周波数の電流は患部を通過せずに、患部が生じていない身体の表面を通過する電流経路となる。この理由は、低周波数の電流は、細胞膜の数が多くなる硬い炎症や血の塊等である異物を通過することができないためである。このように、患部が硬いほど、低周波数の電流は患部を通過できなくなるので、電流経路はより浅くなる。
【0044】
図3に示されるように、電流の周波数の違い及び患部の有無又は患部の状態によって、電流経路に違いが生じ、その結果として生体インピーダンスの違いが生じる。すなわち、患部が生じていない正常な部位では、低周波数の電流よりも高周波数の電流によって測定された生体インピーダンスは低くなる。また、柔らかい炎症の患部でも、低周波数の電流よりも高周波数の電流によって測定された生体インピーダンスは低くなる。
【0045】
そして、柔らかい炎症の患部の生体インピーダンスは、正常な部位の生体インピーダンスに比べて高くなる。また、硬い炎症又は血の塊が生じた患部の生体インピーダンスも、正常な部位及び柔らかい炎症が生じた患部の生体インピーダンスに比べて低くなる。さらに、硬い炎症又は血の塊が生じた患部では、低周波数の電流経路は患部を通過せず、低周波数の電流よりも高周波数の電流によって測定された生体インピーダンスは低くなる。
【0046】
なお、正常な部位の生体インピーダンスは、一般的な値として予め記憶部52に記憶されてもよい。また、被測定者の身体において、明らかに患部が生じていない部位の生体インピーダンスを予め測定し、それを正常な部位の生体インピーダンスとしてもよい。また、患部の状態に応じた生体インピーダンスが参照情報として予め記憶され、この参照情報と測定した生体インピーダンスとを比較することで、患部の状態が判定されてもよい。
【0047】
また、電流経路は、電極間距離に応じても変化し、電極間距離が長いほど人体の深い位置を通過する。このため、電極間距離が一定であれば、電流周波数によって患部の深さが判定される。一方で、電流の周波数と電極間距離とを変化させる場合には、電流の周波数と電極間距離とに基づいて患部の深さが判定される。
【0048】
次に、患部の判定方法について説明する。患部の判定方法については、(1)患部の回復判定、(2)患部の位置・大きさ判定、(3)患部の深さ判定がある。なお、患部判定装置12及びサーバ14は、患部の回復判定、患部の位置・大きさ判定、及び患部の深さ判定の何れの場合でも、生体インピーダンスの測定日時、生体インピーダンスが測定された被測定者の部位、生体インピーダンスの値、電極間距離、及び電流周波数等を判定結果に関連付けてデータベースとして記憶される。
【0049】
(1)患部の回復判定
被測定者の同じ部位に対して、生体インピーダンスの時系列変化に基づいて患部の回復状態を判定する。すなわち、患部の回復判定では、生体インピーダンスを数日から数か月等の間で定期的に測定し、患部の変化状態を判定する。上述のように、炎症等が生じていると当該部位に水分が蓄積されたり、温度が高くなるため当該部位の生体インピーダンスが正常な場合に比べて変化する。そして、炎症等が回復すると、水分状態等が正常な状態となるため、生体インピーダンスも正常に戻る。この戻り具合によって、患部の状態が判定される。
【0050】
具体的には、患部判定部48は、サーバ14に記憶されている過去(所定期間前)に測定した同じ部位の生体インピーダンスを読み出す。そして、患部判定部48は、所定期間前に測定された生体インピーダンスと現在の生体インピーダンスとの差に基づいて、部位(患部)の状態を判定する。所定期間とは、患部の状態変化を期待できる期間であり、例えば、数日から1週間以上前である。このように患部の回復判定では、生体インピーダンスの変化状態によって患部の回復度合いを判定するので、被測定者の患部の経時変化を正確に判定できる。
【0051】
(2)患部の位置・大きさ判定
被測定者に対して患部があると推定される大まかな領域に対して、例えば、測定部20を所定間隔でずらしながら、格子状に生体インピーダンスを測定する。なお、電極部24の数をさらに増やし、電極部24を2次元状に配置してもよい。これにより、患部の位置・大きさ判定における格子状での生体インピーダンスの判定が容易に行える。
【0052】
上述のように、患部が存在する部位と患部が存在しない部位とでは生体インピーダンスは異なる値となる。そこで、患部判定部48は、取得した異なる複数の部位における生体インピーダンスの差に基づいて、部位の状態を判定する。具体的には、患部判定部48は、正常な部位に対して生体インピーダンスが所定値以上異なる部位を患部が存在する部位であると判定する。この所定値は、想定される患部の種類や状態等によって予め定められている。また、格子状に被測定者の生体インピーダンスを測定することで、被測定者に生じている患部の大きさも判定できる。このように患部の位置・大きさ判定では、被測定者の患部の位置及び大きさを正確に特定できる。
【0053】
(3)患部の深さ判定
被測定者の同じ部位に対して、電流を低周波数から高周波数の間で変化させ、各周波数における生体インピーダンスを測定する。図4に示されるように、電流周波数が高いほど深い部分の生体インピーダンスを測定していることとなる。このため、複数の異なる周波数の電流を印可することで生体インピーダンスを測定し、患部判定部48は、正常な部位とは異なる値と深さの部位を患部が存在する部位であると判定する。
【0054】
また、患部の深さを測定するために、電極間距離を変化させてもよい。図4に示されるように、電極間距離が長いほど深い部分の生体インピーダンスを測定していることとなる。患部の深さを判定するために電流周波数又は電極間距離を変化させるかは、患部が存在する部位の位置等によって決定される。
【0055】
このように、患部の深さ判定では、電極部24間に流す電流の周波数又は電極部24間の距離を変化させて算出した生体インピーダンスに基づいて、被測定者の深さ方向における部位の状態を判定する。なお、患部の深さ判定は、患部の回復判定及び患部の位置・大きさ判定と組み合わせて行われてもよい。
【0056】
以上説明したように、患部の回復判定、患部の位置・大きさ判定、患部の深さ判定によって、被測定者自身又は医療従事者は、被測定者の身体に生じている患部をより正確に認識し、判定結果に応じた対応を取り得る。
【0057】
例えば、被測定者が日頃から患部判定装置12による生体インピーダンスの測定を行うことで、筋肉痛等の体内の痛みが生じる部位及び深さ、換言すると身体に負荷がかかっている部位を認識できる。例えば、スポーツ選手の場合には、日頃から生体インピーダンスの測定を行うことで、筋肉や身体に負荷がかかっている部位を考慮した適切な練習メニューや患部の回復を促すための回復メニューを作成できる。
【0058】
また、被測定者の身体に対して等間隔による生体インピーダンスの測定を定期的に行うことで、腫瘍等の身体の異常が起きている部位を早期に認識でき、また、腫瘍の進行状態又は回復状態も被測定者自身が容易に認識できる。また、患部の判定結果がサーバ14に記憶され、判定結果を医療従事者が閲覧することで被測定者は医療機関に行くことなく、医療従事者によるアドバイス等を得ることができる。また、被測定者は、患部の進行状態又は回復状態に応じた適切なタイミングで医療機関へ行き、医療従事者による診察を受けることが可能となる。この結果、医療機関へ通院する患者数を減少させることができ、患者の待ち時間の削減、医療機関の負担の削減等が可能となる。
【0059】
図5は、患部判定装置12によって実行される患部判定処理の流れを示すフローチャートである。患部判定処理は、患部判定処理の開始指示が本体部22に入力された場合に開始される。
【0060】
まず、ステップS100では、患部判定装置12の測定者による入力に応じて電流周波数及び電極間距離の設定を行う。電流周波数及び電極間距離の設定は、例えば、タッチパネルディスプレイであるモニタ26を介して入力される。周波数設定部40は入力された電流周波数を設定する。患部の深さ判定を行う場合には、例えば、電流周波数の変化範囲及び変化幅が入力される。電極間距離は、実際の電極部24間の距離に応じた値であり、生体インピーダンス算出部46及び患部判定部48に入力される。
【0061】
次のステップ102では、設定された周波数の電流を電流印可制御部42が電流電極24Aに印可する。これにより、被測定者に接触している電極部24間に電流が流れる。
【0062】
次のステップ104では、電流が流れることによって生じる電圧を電圧電極24Bを介して電圧検出部44が検出する。
【0063】
次のステップ106では、電圧検出部44によって検出された電圧に基づいて、生体インピーダンス算出部46が生体インピーダンス(BI)を算出する。
【0064】
次のステップ108では、被測定者の所定部位に対する生体インピーダンスの算出が完了したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ102へ移行する。一方、否定判定の場合は生体インピーダンスの算出が完了するまで、ステップ102からステップ108を繰り返す。
【0065】
なお、例えば、患部の位置・大きさ判定を実施する場合、予め定められた領域に対する生体インピーダンスの測定が完了した場合にステップ108が肯定判定となる。また、患部の深さ判定を実施する場合、設定された変化範囲及び変化幅の電流による生体インピーダンスの測定が完了した場合にステップ108が肯定判定となる。
【0066】
次のステップ110では、算出した生体インピーダンスに基づいて患部判定部48が患部の判定を行う。例えば、患部の回復判定を実施する場合、患部判定部48は、被測定者の同じ部位における所定期間前の生体インピーダンスと現在の生体インピーダンスを比較し、患部の回復度合いを判定する。また、患部の位置・大きさ判定を実施する場合、患部判定部48は、算出した複数の生体インピーダンスのうち、他の生体インピーダンスと所定値以上異なる部位を患部が生じている箇所として判定する。
【0067】
次のステップ112では、患部判定部48による判定結果を出力し、患部判定処理を終了する。判定結果の出力は、例えば、モニタ26に判定結果を表示したり、サーバ14へ判定結果を送信することである。
【0068】
このように、本実施形態の患部判定装置12は、電極部24が被測定者の任意の部位に接触可能とされるので、患部の位置を特定できる。また、電流周波数を制御することで身体に対して電流が流れる深さを変えることができるので、患部の深さも特定できる。このように、実施形態の患部判定装置12は、患部の位置及び深さを特定するので、被測定者の患部の状態をより正確に判定できる。
【0069】
図6は、電極間距離と電流周波数とを変更して患部の特定を行う処理の流れを示すフローチャートの一例である。
【0070】
まず、ステップ200では、部位毎に電極間距離又は電極周波数を変更して生体インピーダンスの算出を行う。なお、電極間距離と電極周波数とを変更して生体インピーダンスを取得するということは、患部の深さを求めることとなる。
【0071】
次のステップ202では、部位毎に電極間距離又は電流周波数を変えて算出(取得)した生体インピーダンスの値を記憶部52に記憶させる。すなわち、記憶部52には、部位と電極間距離又は電流周波数とに関連付けられた生体インピーダンスが記憶される。
【0072】
次のステップ204では、全ての部位における生体インピーダンスの算出が完了したか否かを判定し、肯定判定の場合はステップ206及びステップ208へ移行する。一方で、否定判定の場合はステップ200へ戻り、部位毎の生体インピーダンスの算出を行う。
【0073】
ステップ206では、同じ部位において異なる電極間距離又は電流周波数で測定した生体インピーダンスを比較する。そして、異なる値となった生体インピーダンスを取得した電極間距離又は電流周波数を得る。すなわち、これにより各部位において患部を測定した電極間距離又は電流周波数を得ることとなる。
【0074】
また、ステップ208では、異なる部位同士の生体インピーダンスを電極間距離又は電流周波数を変えて比較する。そして、異なる値となった生体インピーダンスを取得した部位の電極間距離又は電流周波数を得る。すなわち、これにより患部が存在する部位の電極間距離又は電流周波数を得ることとなる。
【0075】
次のステップ210では、ステップ206及びステップ208で得られた生体インピーダンス(以下「現在データ」という。)と、過去に得られた生体インピーダンス(以下「過去データ」という。)とを比較する。現在データと過去データとの値が異なっている場合には、患部が新たに発生している、又は患部の状態が変化していることとなる。そこで、現在データを取得した電極間距離又は電流周波数の値に基づいて、患部が生じている深さを算出する。
【0076】
次のステップ212では、患部の性質を推定する。本実施形態では、電流周波数を変化させることで取得された電気特性に基づいて、患部である炎症の硬さ等の性質を推定する。ここでいう電気特性とは、例えばZ比率である。Z比率は、高周波数の電流で取得された生体インピーダンスと低周波数の電流で取得された生体インピーダンスの比率であり、例えばコールコールプロット又はフェーズアングル等によって得られる。
【0077】
図7は、Z比率の大きさと患部に生じる炎症(異物)の性質との関係を示した模式図である。図7に示されるように、Z比率が小さいほど、患部は液体に近い柔らかい炎症である。一方で、Z比率が大きいほど、患部は血が固まっているような硬い炎症である。
【0078】
次のステップ214では、判定結果を出力し、患部判定処理を終了する。
【0079】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0080】
上記実施形態では、測定部20が2つの電極部24を備える形態について説明したが、本発明はこれに限られない。測定部20が、3つ以上の電極部24を備える形態としてもよい。図8に示す測定部20は、4つの電極部24を備える。このように、測定部20が3つ以上の電極部24を備えることで、3つ以上の電極部24のうち任意の2つの電極部24を選択して、選択した2つの電極部24間の電位差を検知する。これにより、測定部20を被測定者から取り外すことなく、異なる領域の部位の患部を測定することができる。
【0081】
また、上記実施形態では、測定部20のみによって生体インピーダンスを測定する形態について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、被測定者の足裏に接触する電極部を備える体組成計と測定部20とを組み合わせて被測定者の生体インピーダンスを測定してもよい。この形態の場合、被測定者における測定部20の電極部24の接触位置と体組成計の電極部の接触位置との電流経路における患部の状態を測定できる。これにより、被測定者における長い広い領域又は深い位置の患部の状態を判定できる。
【0082】
また、上記実施形態では、患部判定部48を患部判定装置12が備える形態について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、患部判定部48をサーバ14が備えてもよい。この形態の場合、患部判定部48は算出した算出した生体インピーダンスを通信部54を介してサーバ14へ送信する。また、生体インピーダンス算出部46及び患部判定部48をサーバ14が備える形態としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
12 患部判定装置
20 測定部(測定手段)
24 電極部
24A 電流電極
24B 電圧電極
40 周波数設定部(周波数設定手段)
46 生体インピーダンス算出部(算出手段)
48 患部判定部(判定手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8