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特開2023-122910動トルク測定装置及び動トルク測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122910
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】動トルク測定装置及び動トルク測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/14 20060101AFI20230829BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20230829BHJP
【FI】
G01L3/14 Z
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026687
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC05
2G024BA11
2G024CA11
2G024CA12
2G024DA02
2G024DA03
2G024DA09
2G024EA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材を回転駆動したとき、固定側部材に発生する動トルクを精度良く測定可能な動トルク測定装置及び動トルク測定方法を提供する。
【解決手段】動トルク測定装置10は、第1の駆動機構26を備える第1の支持機構20と、固定側部材13を連れ回り可能に支持する第2の支持機構30と、固定側部材13に発生する動トルクを測定するためのロードセル72と、を備える。第2の支持機構30は、回転側部材12と同軸上に配設される軸部54と、軸部54に対して第1の転がり軸受56を介して相対回転自在に支持される中間ハウジング57と、中間ハウジング57に対して第2の転がり軸受58を介して相対回転自在に支持される外側ハウジング59と、中間ハウジング57を回転駆動する第2の駆動機構63と、を備え、軸部54と外側ハウジング59のいずれか一方は、連れ回り部を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、前記固定側部材に対して相対回転可能な回転側部材とを有する被測定物において、前記回転側部材を回転駆動させ、前記固定側部材に発生する動トルクを測定する動トルク測定装置であって、
前記回転側部材を回転駆動する第1の駆動機構を備え、前記回転側部材を支持する第1の支持機構と、
前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設され、前記回転側部材の回転によって、前記固定側部材を連れ回り可能に支持する第2の支持機構と、
前記固定側部材に発生する前記動トルクを測定するためのロードセルと、
を備え、
前記第2の支持機構は、前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設される軸部と、前記軸部の周囲に設けられ、前記軸部に対して第1の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される中間ハウジングと、前記中間ハウジングの周囲に設けられ、前記中間ハウジングに対して第2の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される外側ハウジングと、前記中間ハウジングを回転駆動する第2の駆動機構と、を備え、
前記軸部と前記外側ハウジングのいずれか一方は、前記固定側部材を保持して前記固定側部材とともに連れ回る連れ回り部を構成する、動トルク測定装置。
【請求項2】
前記動トルクは、前記ロードセルにより検出された前記連れ回り部に発生する接線力に対して前記転がり軸受の回転トルクを補正することで与えられる、請求項1に記載の動トルク測定装置。
【請求項3】
前記被測定物はハブユニット軸受であり、
前記ハブユニット軸受には、車両の車輪に作用する路面反力に相当する荷重が負荷される、請求項1又は2に記載の動トルク測定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の動トルク測定装置を用いた動トルク測定方法であって、
動トルクは、前記中間ハウジングを回転駆動させた状態で、前記回転側部材を回転駆動させ、前記連れ回り部に発生する接線力をロードセルにより測定する、動トルク測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動トルク測定装置及び動トルク測定方法に関し、特に、互いに接触関係(転がり接触を含む)にある回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材が回転したときに固定側部材に発生する連れ回りによる動トルクを測定可能な動トルク測定装置及び動トルク測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定側部材に発生する連れ回りによる動トルクを測定する被測定物としては、転がり軸受、軸受用シール部材、ハブユニット軸受などが知られている。近年、車両などにおいても省エネルギの要求が高まり、回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材が回転したときに固定側部材に発生する連れ回りによる僅かなトルク損失も問題になってきている。この連れ回りによる動トルクは、被測定物の摩擦抵抗により消費されるトルクであり、この動トルクの値が低いほど省燃費に貢献する。その為、被測定物のより精度の高い動トルク測定が要求される。
【0003】
特許文献1には、動トルクを測定しようとする被測定物(例えば、シール部材)の一方を転がり軸受で支承し、被測定物の他方を回転駆動して、被測定物の一方の連れ回りトルクを接線力として測定する動トルク検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-224546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のトルク検出装置では、転がり軸受の負荷が治具の自重程度となり、被測定物のトルクが、被測定物の一方を支承する転がり軸受の起動トルクよりはるかに大きく、起動トルクによる誤差を無視できる場合には、静圧軸受等を使用したトルク検出装置に比べて、安価、かつ、小型にできるので、軸受用シール部材やブレーキディスクなどの動トルク測定に有効である。
【0006】
しかし、転がり軸受の起動トルクが無視できない程度に大きい場合には、被測定物の一方を支承する転がり軸受の起動トルクの範囲で測定誤差が生じる可能性がある。例えば、図3は、ハブ輪2とフランジ付き外輪3とを有するハブユニット軸受1に対して、荷重P1、P2が負荷棒103を介して負荷された状態でハブユニット軸受1の動トルクを測定する動トルク測定装置100を示している。動トルク測定装置100は、図3の左側から順に、駆動モータ101、一対の等速ジョイント109、回転軸102、負荷棒103、油圧シリンダ104、ハブユニット軸受1、連れ回り軸105、及び転がり軸受106を主に備え、連れ回り軸105には、トルク測定用のロードセル107に繋がる測定アーム108が伸びている。この場合、ハブユニット軸受1が支承する荷重が、そのまま連れ回り軸105を支承する転がり軸受106に負荷されるため、転がり軸受106の起動トルクが上昇して、測定誤差が大きくなってしまう。また、静圧軸受を用いれば有負荷での測定が容易になるが、静圧軸受は負荷容量が低く、連れ回り軸が太くなるので、回転速度が変化する測定では、連れ回り軸のイナーシャが誤差の原因となる。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材を回転駆動したとき、固定側部材に発生する動トルクを精度良く測定可能な動トルク測定装置及び動トルク測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 固定側部材と、前記固定側部材に対して相対回転可能な回転側部材とを有する被測定物において、前記回転側部材を回転駆動させ、前記固定側部材に発生する動トルクを測定する動トルク測定装置であって、
前記回転側部材を回転駆動する第1の駆動機構を備え、前記回転側部材を支持する第1の支持機構と、
前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設され、前記回転側部材の回転によって、前記固定側部材を連れ回り可能に支持する第2の支持機構と、
前記固定側部材に発生する前記動トルクを測定するためのロードセルと、
を備え、
前記第2の支持機構は、前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設される軸部と、前記軸部の周囲に設けられ、前記軸部に対して第1の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される中間ハウジングと、前記中間ハウジングの周囲に設けられ、前記中間ハウジングに対して第2の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される外側ハウジングと、前記中間ハウジングを回転駆動する第2の駆動機構と、を備え、
前記軸部と前記外側ハウジングのいずれか一方は、前記固定側部材を保持して前記固定側部材とともに連れ回る連れ回り部を構成する、動トルク測定装置。
【0009】
[2] [1]に記載の動トルク測定装置を用いた動トルク測定方法であって、
動トルクは、前記中間ハウジングを回転駆動させた状態で、前記回転側部材を回転駆動させ、前記連れ回り部に発生する接線力をロードセルにより測定する、動トルク測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の動トルク測定装置及び動トルク測定方法によれば、回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材を回転駆動したとき、固定側部材に発生する動トルクを精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る動トルク測定装置の構成図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る動トルク測定装置の構成図である。
図3】従来の動トルク測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係る動トルク測定装置について図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の動トルク測定装置10では、被測定物としてハブユニット軸受11が用いられる。即ち、被測定物の回転側部材は、ハブユニット軸受11のハブ輪12であり、被測定物の固定側部材は、ハブユニット軸受11のフランジ付き外輪13である。そして、動トルク測定装置10は、ハブ輪12を回転させたとき、フランジ付き外輪13に発生する連れ回りによる動トルクを測定する。
【0013】
動トルク測定装置10は、ハブ輪12とフランジ付き外輪13を備えるハブユニット軸受11において、ハブ輪12を支持する第1の支持機構20と、フランジ付き外輪13を連れ回り可能に支持する第2の支持機構30と、を備える。
【0014】
第1の支持機構20は、後述する負荷部51の軸受部51aに嵌合し、背面組合せされた複数のアンギュラ玉軸受21により回転自在に支承された回転軸23を備える。回転軸23の一端23aは、取付治具24を介してハブ輪12の回転フランジ12aに連結されている。回転軸23の他端23bは、一対の等速自在継手25を介して中間軸53及び駆動モータ26の回転軸26aに連結されている。
【0015】
負荷部51は、軸受部51aと、軸受部51aの円周方向の一部から径方向に延び、ハブユニット軸受11に荷重を付加する略L字形の負荷棒51bと、によって形成される。負荷棒51bには、車両の走行時に車輪に作用する路面反力に相当するラジアル荷重P1及びスラスト荷重P2が、それぞれ油圧シリンダ38、39により、タイヤの幅方向中心に相当する位置、及びタイヤの半径に相当する位置に負荷されている。
【0016】
車両が直進している時のラジアル荷重P1は軸重の半分の荷重であり、スラスト荷重P2は車両の走行時に車輪に作用するキャンバスラスト荷重に相当する荷重である。したがって、油圧シリンダ38、39に供給する作動油の油圧を制御することで、車両が実際に走行する際の負荷が再現可能である。
また、油圧シリンダ38、39に供給する作動油の油圧を制御することで、車両が旋回している時のラジアル荷重P1、スラスト荷重P2も再現可能である。
【0017】
第2の支持機構30は、フランジ付き外輪13の外輪フランジ13aに取付治具55を介して固定された軸部54と、軸部54の周囲に設けられ、軸部54に対して一対の第1の転がり軸受56を介して相対回転自在に支持される中間ハウジング57と、中間ハウジング57の周囲に設けられ、一対の第2の転がり軸受58を介して中間ハウジング57を相対回転自在に支持する外側ハウジング59とを備える。本実施形態の動トルク測定装置10においては、軸部54及び取付治具55がフランジ付き外輪13と共に連れ回る連れ回り部を構成する。
【0018】
なお、本実施形態では、第1の転がり軸受56は、モーメント荷重が負荷されるため、アンギュラ玉軸受を予圧ゼロ狙いの正すきまで、DB組合せで使用して、回転トルクと発熱を抑制しつつ、剛性を持たせている。また、第2の転がり軸受58を第1の転がり軸受56の接触角の概延長線上に設けることで、さらに剛性の向上を図っている。
【0019】
外側ハウジング59は、動トルク測定装置10の基台60に固定されて回転しない。また、中間ハウジング57は、該中間ハウジング57に固定されたプーリ61と、第2の駆動機構である例えば、ギアモータ63の回転軸64に固定されたプーリ62との間に巻き掛けられたベルト65により一定の低速度で回転駆動される。ギアモータ63は、基台60に固定された外側ハウジング59上に設けられている。
【0020】
本実施形態では、回転軸23、取付治具55、軸部54、第1の転がり軸受56、中間ハウジング57、及び第2の転がり軸受58は、ハブユニット軸受11の中心軸L上に同心に配置されている。
【0021】
取付治具55には、測定棒71が固定されている。そして、ハブユニット軸受11の動トルクは、ハブ輪12が回転したとき、フランジ付き外輪13に発生する接線力を、測定棒71を介してロードセル72により測定する。
【0022】
測定棒71は連れ回り部の回転中心(中心軸L)の鉛直方向上方または下方に設けられると共に(図示の例では上方)、なるべく軽量化することが好ましい。
もし測定棒71を水平方向に設ける必要がある場合には、測定棒71を取付治具55の軸方向両側に設け、バランスをとるようにしてもよい。
【0023】
さらに、動トルク測定装置10は、ハブユニット軸受11及び負荷部51を収容するように、温度を一定に管理可能な恒温槽73が設けられている。ハブユニット軸受11の動トルクは、ハブユニット軸受11の潤滑剤の粘度に影響され、潤滑剤の粘度は温度依存性が高い。このため、ハブユニット軸受11の動トルク測定時には、恒温槽73の温度を所定の温度に管理することで、環境温度による動トルクへの影響を抑制する。これにより、さらに精度のよい動トルク測定が可能となる。また、恒温槽73を設けることで、低温や高温の任意の環境温度での動トルク測定も可能となる。
【0024】
次に、このような構成の動トルク測定装置10により、ハブユニット軸受11の動トルクを測定する方法について説明する。
【0025】
ハブユニット軸受11が支承する荷重は、そのまま第1の転がり軸受56に負荷されるため、中間ハウジング57の回転が停止している状態から連れ回りにより軸部54が回転すると、第1の転がり軸受56の起動トルクが作用して、ハブユニット軸受11の動トルクの測定値に影響を及ぼす。
【0026】
即ち、中間ハウジング57、換言すれば、第1の転がり軸受56が停止している状態からハブユニット軸受11の動トルクをロードセル72により測定すると、該測定値には、第1の転がり軸受56の起動トルクが加算され、第1の転がり軸受56の起動トルクの影響によりハブユニット軸受11の動トルクが正確に測定できない虞がある。
【0027】
そこで、中間ハウジング57の回転速度の影響によるトルクの上昇が無視できる程度の一定の低速度で、ギアモータ63により中間ハウジング57を回転駆動することで、第1の転がり軸受56に、起動トルクよりも大幅に小さい回転トルクを発生させて、ハブユニット軸受11の動トルクを測定する。具体的に、起動トルクは、静摩擦係数、例えば、μ=0.15に基づくスピン摩擦であるため、動摩擦係数、例えば、μ=0.001~0.002に基づく回転トルクと比較して大きい。
【0028】
第1の転がり軸受56に、小さなトルクである回転トルクが発生している状態、即ち、中間ハウジング57が回転している状態で、ロードセル72によりハブユニット軸受11の動トルクを測定すれば、第1の転がり軸受56の回転トルクは、ハブユニット軸受11の動トルクと比較して無視できる程度に小さいので、測定値をそのままハブユニット軸受11の動トルクとしても問題ない。
【0029】
しかし、第1の転がり軸受56の回転トルクが、ハブユニット軸受11の動トルクと比較して無視できない大きさの場合には、ロードセル72により測定された測定値に対して、第1の転がり軸受56の回転トルクを補正することで、ハブユニット軸受11の動トルクを精度よく知ることができる。
【0030】
測定値に対する第1の転がり軸受56の回転トルクの具体的な補正方法は、ハブ輪12を回転駆動する駆動モータ26を停止し、ギアモータ63により中間ハウジング57を一定の低速度で回転させた状態で、ロードセル72のゼロ点調整(シフト)することで容易に補正できる。また、この状態では、第1の転がり軸受56の回転トルクは、安定しているので、精度のよい補正が可能となる。
【0031】
このように、ギアモータ63により中間ハウジング57を一定の低速度で回転させることで、第1の転がり軸受56に回転トルクを発生させて、ロードセル72によりハブユニット軸受11の動トルクを測定する。また、必要に応じてロードセル72による測定値に対して第1の転がり軸受56の回転トルクを補正することで、ハブユニット軸受11の動トルクを精度よく測定できる。即ち、ハブユニット軸受11に荷重が負荷された状態でもハブユニット軸受11の動トルクを精度よく測定できる。
【0032】
また、恒温槽73によりハブユニット軸受11及び負荷部51の温度を一定に管理すると共に、第1の転がり軸受56に供給する潤滑油を回収部66にて回収し、オイルチラーなどで温度管理して循環させれば、温度による動トルクへの影響を抑制することができ、さらに精度のよい動トルク測定が可能となる。
【0033】
これにより、負荷容量が低い静圧軸受を使用した動トルク測定装置と比較して、小型かつ安価な動トルク測定装置によりハブユニット軸受11の動トルクを精度よく測定できる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る動トルク測定装置について図2を参照して説明する。
本実施形態の動トルク測定装置10Aは、被測定物として、軸受の内外輪間を封止するための軸受用シール部材74の連れ回りによる動トルクを測定する。軸受用シール部材74は、断面略L字形円環状のスリンガ75と、スリンガ75に摺接するシールリップ76を有するシールリング77とを備え、互いに軸方向に対向配置されて組み付けられている。
【0035】
即ち、被測定物の回転側部材は、軸受用シール部材74のうちの後述する回転軸78と一体に回転するスリンガ75であり、被測定物の固定側部材は、軸受用シール部材74のシールリング77である。そして、本実施形態の動トルク測定装置10Aは、スリンガ75を回転させたとき、シールリング77に発生する連れ回りによる動トルクを測定する。
【0036】
動トルク測定装置10Aは、スリンガ75を回転自在に支持する第1の支持機構80と、シールリング77を連れ回り可能に支持する第2の支持機構85と、を備える。
【0037】
第1の支持機構80は、中間ハウジング87の内側に回転自在に配設された回転軸78と、回転軸78を回転駆動するためのキャップ部材81と、回転軸78とキャップ部材81との間に設けられ、スリンガ75とシールリング77の軸方向位置(シールリップ76の軸方向締め代)を調整する間座82及び内側環状治具83と、を備える。
【0038】
回転軸78の一端には小径部78aが設けられている。小径部78aには、軸受用シール部材74の締め代を調整するための間座82を介して内側環状治具83が外嵌固定される。内側環状治具83には、軸受用シール部材74のスリンガ75が外嵌固定される。
【0039】
さらに、小径部78aには、キャップ部材81が止めねじ84により、軸方向移動可能に周方向固定されている。キャップ部材81は、不図示の第1の駆動装置により回転駆動される。内側環状治具83は、キャップ部材81と間座82とで軸方向に挟持される。上記構成の第1の支持機構80は、軸受用シール部材74にスラスト荷重が作用していない状態における動トルクを測定するために用いられる。
【0040】
なお、図中のスラスト荷重Faは、シールリップ76を変形させ、間座82で調整した締め代を維持する為、また、キャップ部材81とキャップ受け部97の間、及び、回転軸78と回転座98の間等、軸方向当接面のすべりを防止する為に付与されている。また、第1の支持機構80では、キャップ受け部97が回転自在にキャップ部材81を支持する機構とし、回転軸78の回転座98側に駆動装置を設けることもできる。
【0041】
第2の支持機構85は、回転軸78の周囲に設けられ、回転軸78に対して一対の第1の転がり軸受86を介して相対回転自在に支持される中間ハウジング87と、中間ハウジング87の周囲に設けられ、一対の第2の転がり軸受88を介して相対回転自在に支持される外側ハウジング89とを備える。外側ハウジング89の上面には、内径部にシールリング77が取り付けられた外側環状治具90が固定されている。
【0042】
外側環状治具90と内側環状治具83とは、径方向で対向し、内側環状治具83と外側環状治具90との間に、被測定物である軸受用シール部材74が設置される。具体的には、内側環状治具83にスリンガ75が取り付けられ、外側環状治具90にシールリング77が取り付けられ、間座82の厚さを変えることで、シールリップ76の軸方向締め代が調整される。
【0043】
本実施形態の動トルク測定装置10Aにおいては、外側ハウジング89及び外側環状治具90がシールリング77と共に連れ回る連れ回り部を構成する。
【0044】
中間ハウジング87は、該中間ハウジング87に固定されたプーリ91と、第2の駆動機構であるモータ92の回転軸92aに固定されたプーリ93との間に巻き掛けられたベルト94により一定の低速度で回転駆動される。モータ92は、動トルク測定装置10Aの基台60上に固定されている。
【0045】
なお、本実施形態では、シール74が荷重を支承する被測定物では無いため、第1の転がり軸受86及び第2の転がり軸受88に掛かる荷重はわずか(自重とリップ反力)であることから、第1の転がり軸受86及び第2の転がり軸受88をアンギュラ玉軸受のDB組合せとする必要はなく、深溝玉軸受を正すきまで使用している。
【0046】
本実施形態では、回転軸78、内側環状治具83、外側環状治具90、第1の転がり軸受86、中間ハウジング87、第2の転がり軸受88及び外側ハウジング89は、軸受用シール部材74の中心軸L上に同心に配置されている。
【0047】
外側ハウジング89には、測定棒95が固定されている。軸受用シール部材74の動トルクは、スリンガ75が回転したとき、シールリング77に発生する接線力を、測定棒95を介してロードセル96により測定する。
【0048】
このような構成を有する動トルク測定装置10Aによる動トルク測定は、内側環状治具83と外側環状治具90との間に軸受用シール部材74を取り付けた状態で、第1実施形態の動トルク測定装置10と同様に、中間ハウジング87の回転速度の影響によるトルクの上昇が無視できる程度の一定の低速度で、モータ92により回転駆動する。
【0049】
これにより、第2の転がり軸受88に、起動トルクよりも大幅に小さい回転トルクを発生した状態で、シールリング77に発生する接線力を、測定棒95を介してロードセル96により測定する。
【0050】
第2の転がり軸受88の回転トルクが、軸受用シール部材74の動トルクに比較して無視することができる程度に小さければ、ロードセル96により測定された測定値を軸受用シール部材74の動トルクとする。
【0051】
また、第2の転がり軸受88の回転トルクが、軸受用シール部材74の動トルクと比較して無視できない大きさの場合には、ロードセル96により測定された測定値に対して、第2の転がり軸受88の回転トルクを補正する。これにより、軸受用シール部材74の動トルクを精度よく測定することができる。なお、第2の転がり軸受88の回転トルクの補正方法は、第1実施形態の動トルク測定装置10と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0052】
このように、負荷容量が低い静圧軸受を使用した動トルク測定装置と比較して、小型かつ安価な動トルク測定装置により軸受用シール部材74の動トルクを精度よく測定できる。
【0053】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0054】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 固定側部材と、前記固定側部材に対して相対回転可能な回転側部材とを有する被測定物において、前記回転側部材を回転駆動させ、前記固定側部材に発生する動トルクを測定する動トルク測定装置であって、
前記回転側部材を回転駆動する第1の駆動機構を備え、前記回転側部材を支持する第1の支持機構と、
前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設され、前記回転側部材の回転によって、前記固定側部材を連れ回り可能に支持する第2の支持機構と、
前記固定側部材に発生する前記動トルクを測定するためのロードセルと、
を備え、
前記第2の支持機構は、前記回転側部材の回転軸と同軸上に配設される軸部と、前記軸部の周囲に設けられ、前記軸部に対して第1の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される中間ハウジングと、前記中間ハウジングの周囲に設けられ、前記中間ハウジングに対して第2の転がり軸受を介して相対回転自在に支持される外側ハウジングと、前記中間ハウジングを回転駆動する第2の駆動機構と、を備え、
前記軸部と前記外側ハウジングのいずれか一方は、前記固定側部材を保持して前記固定側部材とともに連れ回る連れ回り部を構成する、動トルク測定装置。
この構成によれば、回転側部材と固定側部材を有する被測定物において、回転側部材を回転駆動したとき、固定側部材に発生する連れ回りによる動トルクを精度良く測定できる。また、静圧軸受を使用した動トルク測定装置と比較して、動トルク測定装置を小型化できる。
【0055】
(2) 前記動トルクは、前記ロードセルにより検出された前記連れ回り部に発生する接線力に対して前記転がり軸受の回転トルクを補正することで与えられる、(1)に記載の動トルク測定装置。
この構成によれば、被測定物の動トルクと比較して、連れ回り部を回転自在に支持する転がり軸受の動トルクが無視できない場合でも、ロードセルにより検出された測定値に対して、転がり軸受の動トルクを補正することで、固定側部材に発生する連れ回りによる動トルクを精度よく知ることができる。
【0056】
(3) 前記被測定物はハブユニット軸受であり、
前記ハブユニット軸受には、車両の車輪に作用する路面反力に相当する荷重が負荷される、(1)又は(2)に記載の動トルク測定装置。
この構成によれば、ハブユニット軸受に、車両の車輪に作用する路面反力を負荷した状態で、ハブユニット軸受のフランジ付き外輪に発生する連れ回りによる動トルクを測定できる。
【0057】
(4) (1)~(3)のいずれか1つに記載の動トルク測定装置を用いた動トルク測定方法であって、
動トルクは、前記中間ハウジングを回転駆動させた状態で、前記回転側部材を回転駆動させ、前記連れ回り部に発生する接線力をロードセルにより測定する、動トルク測定方法。
この構成によれば、被測定物に荷重が負荷された状態でも、回転側部材の回転により連れ回り部に発生する動トルクを精度よく測定できる。
【符号の説明】
【0058】
10、10A 動トルク測定装置
11 ハブユニット軸受(被測定物)
12 ハブ輪(回転側部材)
13 フランジ付き外輪(固定側部材)
20、80 第1の支持機構
23、78 回転軸
26 駆動モータ(第1の駆動機構)
30、85 第2の支持機構
51b 負荷棒
54 軸部(連れ回り部)
56、86 第1の転がり軸受
57、87 中間ハウジング
58、88 第2の転がり軸受
59 外側ハウジング
63 ギアモータ(第2の駆動機構)
72、96 ロードセル
74 軸受用シール部材(被測定物)
75 スリンガ(回転側部材)
77 シールリング(固定側部材)
89 外側ハウジング(連れ回り部)
92 モータ(第2の駆動機構)
P1 ラジアル荷重
P2 スラスト荷重(キャンバスラスト荷重)
図1
図2
図3