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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122911
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20230829BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20230829BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/16
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026688
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹島 一帆
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭祐
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA50
3J701CA14
3J701CA15
3J701DA11
3J701DA14
3J701EA31
3J701EA34
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA01
3J701FA31
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で案内すきまへの給油性を確保し、保持器の案内面の摩耗の進行を抑制でき、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受10は、外輪11と、内輪12と、複数の玉13と、保持器20と、を備える。保持器20は、外輪11に案内される案内面に、周方向に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝23を備える。複数の凸曲溝23の少なくとも一つは、その端部が保持器20のポケット21に連通する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、
外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝間に転動自在に配置される複数の玉と、
前記複数の玉を保持する複数のポケットを有する保持器と、
を備える玉軸受であって、
前記保持器は、前記外輪に案内される案内面に、周方向に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝を備え、
前記複数の凸曲溝の少なくとも一つは、その端部が前記ポケットに連通する、
玉軸受。
【請求項2】
前記複数の凸曲溝は、周方向一方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第1凸曲溝と、周方向他方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第2凸曲溝を備え、
前記第1凸曲溝と前記第2凸曲溝とは、周方向に互いに対称な溝形状を有し、周方向に交互に配置される、
請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記複数の凸曲溝は、周方向一方側に凸状に湾曲した部分と周方向他方側に凸状に湾曲した部分が軸方向において繋がった溝形状を有する、
請求項1に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記複数のポケットは、径方向外側から見て円形形状のポケットと、径方向外側から見て軸方向又は案内面側で回転方向後方となる傾斜方向に長い長孔形状のポケットと、を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関し、より詳細には、外輪案内方式の保持器を備え、振動を抑制可能な玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軌道輪案内方式の保持器を有する玉軸受では、保持器の案内面の摩擦が起因となって保持器の挙動に異常が発生し、軸受の振動が生じる場合がある。このため、例えば、特許文献1に記載の軸受では、保持器のポケットの軸方向外側である案内面の領域に、少なくとも一つの切り欠き、溝、穴などの凹みを設け、この凹みと、案内すきまに形成される潤滑膜との相互作用によって、半径方向の振動に対する減衰を与え、摩擦低減効果を図ったものが知られている。また、特許文献2に記載の軸受では、保持器の内周面から外周面に、複数のグリースの給油穴(貫通穴)を設け、案内すきまへの給油性向上による摩擦低減効果を図ったものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8,622,622号明細書
【特許文献2】米国特許第9,109,629号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の軸受では、案内すきまに潤滑剤が介在することを前提としており、案内すきまへの給油性を高めることが望まれる。特許文献2に記載の軸受では、貫通穴を付与することで案内すきまへの給油性向上が図られているが、その分、製作コストが嵩むという課題がある。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で案内すきまへの給油性を確保し、保持器の案内面の摩耗の進行を抑制でき、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、
外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝間に転動自在に配置される複数の玉と、
前記複数の玉を保持する複数のポケットを有する保持器と、
を備える玉軸受であって、
前記保持器は、前記外輪に案内される案内面に、周方向に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝を備え、
前記複数の凸曲溝の少なくとも一つは、その端部が前記ポケットに連通する、
玉軸受。
(2) 前記複数の凸曲溝は、周方向一方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第1凸曲溝と、周方向他方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第2凸曲溝を備え、
前記第1凸曲溝と前記第2凸曲溝とは、周方向に互いに対称な溝形状を有し、周方向に交互に配置される、、
(1)に記載の玉軸受。
(3) 前記複数の凸曲溝は、周方向一方側に凸状に湾曲した部分と周方向他方側に凸状に湾曲した部分が軸方向において繋がった溝形状を有する、
(1)に記載の玉軸受。
(4) 前記複数のポケットは、径方向外側から見て円形形状のポケットと、径方向外側から見て軸方向又は案内面側で回転方向後方となる傾斜方向に長い長孔形状のポケットと、を有する、
(1)~(3)のいずれかに記載の玉軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明の玉軸受によれば、保持器は、外輪に案内される案内面に、周方向に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝を備え、複数の凸曲溝の少なくとも一つは、その端部がポケットに連通するので、複数の凸曲溝にグリースを安定的に溜めることができ、簡単な構成で案内すきまへの給油性を確保して、外輪との接触時における接触抵抗が軽減され、案内面の摩耗の進行が抑制される。これにより、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受の断面図である。
図2図1の保持器の斜視図である。
図3図1の保持器の斜視図である。
図4】本発明の第1変形例に係る保持器の斜視図である。
図5】本発明の第2変形例に係る保持器の斜視図である。
図6】本発明の第3変形例に係る保持器の斜視図である。
図7】本発明の第4変形例に係る保持器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係るアンギュラ玉軸受を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、アンギュラ玉軸受10は、内周面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、外輪軌道溝11a及び内輪軌道溝12a間に接触角αを有して転動自在に配置される複数の玉(転動体)13と、玉13を転動自在に保持する複数のポケット21を有する保持器20と、を備える。アンギュラ玉軸受10は、潤滑剤としてのグリースによって潤滑される。ポケット21は、玉13の形状に合わせて径方向から見て円形形状を有する。
【0010】
外輪11には、外輪軌道溝11aに対して軸方向一方側にカウンタボア11bが形成され、外輪軌道溝11aに対して軸方向他方側には、肩部11cが形成される。
【0011】
保持器20は、外輪11と内輪12との間に配置され、複数のポケット21が、軸方向中間位置に、円周方向に等間隔で形成されている円筒もみ抜き保持器である。また、保持器20は、外輪11の肩部11cの円筒状の内周面に摺接して案内される外輪案内方式のものである。
【0012】
保持器20は、例えば、合成樹脂を含む材料を用いた射出成形品である。保持器20に使用可能な合成樹脂としては、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPS-CF(カーボン繊維強化ポリフェニレンサルファイド)等が挙げられる。その他にも、母材として、PA(ポリアミド)、PAI(ポリアミドイミド)、熱可塑性ポリイミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が利用可能で、強化繊維として、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の有機繊維が利用可能である。
【0013】
外輪11の肩部11cの内周面に案内される保持器20の案内面22には、図2及び図3に示すように、周方向一方側に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝23が形成されている。本実施形態では、1つのポケット21に対して、2つの凸曲溝23が対応して、該ポケット21の側方に形成されており、2つの凸曲溝23のうち、一方の凸曲溝23の軸方向一端部がポケット21に連通している。また、複数の特曲溝23の軸方向他端部は、保持器20の軸方向端面に開口するまで形成されている。これらの凸曲溝23にグリースが溜まることで、外輪11との接触時における接触抵抗が軽減され、摩耗の進行が抑制される。
なお、凸曲溝23の溝形状は、放物線形状のほか、U字形状、半円形状、sin波形状のいずれであってもよい。
【0014】
これにより、運転中、保持器20の内周面側に存在するグリースは、軸受の回転に伴う遠心力によって、保持器20の内周面側から外周面側へポケット21と玉13との間のすきまを介して供給される。保持器20の外周面側に移動したグリースの一部は、案内面22に付着し、残余分は凸曲溝23に貯留される。特に、保持器20が周方向他方側に向かって回転することで、グリースは、周方向一方側に形成された凸曲溝23の変曲点付近に移動し、この部分にグリースが貯留される。そして、案内面22のグリースが減少すると、減少した保持器20の案内面22のグリースの表面張力効果や保持器20の遠心力により、凸曲溝23に貯留されているグリースが適宜、保持器20の案内面22に供給される。
【0015】
また、凸曲溝23の容積を超えるグリースが貯留されると、保持器20の凸曲溝23の軸方向端部からグリースが排出されるので、グリースの流動性が確保される。これにより、外輪11の肩部11cの内周面と保持器20の案内面22との間の案内すきまに、適度なグリースを介在させ、外輪11と保持器20間において期待した摩擦低減効果が得られる。
【0016】
なお、凸曲溝23は、保持器成型時の金型からの転写で形成されてもよいし、案内面に切削加工を行って形成されてもよい。
また、凸曲溝23は、案内すきまに形成される潤滑膜との相互作用によって、半径方向の振動に対する減衰を与えるような大きさに設計される。
【0017】
以上説明したように、本実施形態のアンギュラ玉軸受10によれば、保持器20は、外輪11に案内される案内面22に、周方向に凸状に湾曲した溝形状を持する複数の凸曲溝23を備え、複数の凸曲溝23の少なくとも一つは、その端部がポケット21に連通するので、凸曲溝23にグリースを安定的に溜めることができ、外輪13との接触時における接触抵抗が軽減され、案内面の摩耗の進行が抑制される。これにより、保持器20の異常挙動が防止され、軸受10の振動を抑制することができる。
【0018】
図4は、本発明の第1変形例に係る保持器の斜視図である。この保持器20Aでは、1つのポケット21に対して、周方向一方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第1凸曲溝23aと、周方向他方側に凸状に湾曲した溝形状を有する第2凸曲溝23bと、が案内面22に形成される。また、第1凸曲溝23aと第2凸曲溝23bのいずれも軸方向一端部が、ポケット21に連通しており、軸方向他端部が、保持器20の軸方向端面に開口している。
なお、凸曲溝23a,23bの溝形状は、放物線形状のほか、U字形状、半円形状、sin波形状のいずれであってもよい。
【0019】
したがって、この変形例の保持器20Aでは、保持器20が周方向他方側に向かって回転するときには、グリースは、周方向一方側に形成された第1凸曲溝23aの変曲点付近に移動し、この部分にグリースを貯留する。また、保持器20が周方向一方側に向かって回転するときには、グリースは、周方向他方側に形成された第2凸曲溝23bの変曲点付近に移動し、この部分にグリースを貯留する。
【0020】
これにより、いずれの方向に回転した場合でも、ポケット21を介して第1凸曲溝23a又は第2凸曲溝23bにグリースを安定的に溜めることができ、案内面の摩耗の進行が抑制され、これにより、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる。
【0021】
図5は、本発明の第2変形例に係る保持器の斜視図である。この保持器20Bでは、複数の凸曲溝23は、sin波のような、周方向一方側に凸状に湾曲した部分23cと周方向他方側に凸状に湾曲した部分23dが軸方向において繋がった溝形状を有する。また、本実施形態においても、1つのポケット21に対して、2つの凸曲溝23が対応して、該ポケット21の側方に形成されており、2つの凸曲溝23のうち、一方の凸曲溝23の軸方向一端部がポケット21に連通している。また、2つの凸曲溝23はいずれも、軸方向他端部が保持器20の軸方向端面に開口している。
なお、凸曲溝23の溝形状は、sin波形状のほか、3次関数形状やS字形状であってもよい。
【0022】
この場合も、第1変形例と同様に、回転する方向に応じて、変曲点となる、周方向一方側に突出する部分23c付近、又は周方向他方側に突出する部分23dのいずれかにグリースを安定的に溜めることができ、案内面の摩耗の進行が抑制され、これにより、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる。
【0023】
図6は、本発明の第3変形例に係る保持器の斜視図である。この保持器20Cでは、図2の保持器20に対して、任意のポケットを、軸方向長さを大きくした、楕円形状に形成している。即ち、複数のポケット21は、円形形状のポケット21aと、長軸を軸方向に向けた楕円形状のポケット21bとを備える。この楕円形状のポケット21bと玉13との間には、軸方向にすきまが形成され、該すきまが案内すきまに連通する。なお、本実施形態では、楕円形状のポケット21bは、円周方向において等間隔に設けられることが好ましく、少なくとも2つ以上であればよい。
【0024】
なお、保持器20Cは、円形形状のポケット21aを有するので、ミスアライメントが生じることはない。また、楕円形状のポケット21bにおいて、玉13との接触点および接触頻度は、円形形状のポケット21aと変わらないと考えられ、円形形状のポケット21aにおける偏摩耗を回避できる。
なお、円形形状のポケット21aと、楕円形状のポケット21bとを備える構成は、図3図4に示す保持器20A,20Bにも組合せ可能である。
【0025】
図7は、本発明の第4変形例に係る保持器の斜視図である。この保持器20Dでは、図2の保持器20に対して、任意のポケットを、径方向外側から見て案内面側で回転方向後方となる傾斜方向に長い長円形状のポケット21cを有する。即ち、複数のポケット21は、円形形状のポケット21aと、長軸を傾斜方向に向けた長円形状のポケット21cとを備える。
【0026】
この場合、玉軸受は、一方向にのみ回転する場合に限るが、上記実施形態と同様に、ポケット21a,21cを介して凸曲溝23にグリースを安定的に溜めることができ、案内面の摩耗の進行が抑制され、これにより、保持器の異常挙動が防止され、軸受の振動を抑制することができる。
また、この場合も、凸曲溝23の容積を超えるグリースが貯留されると、保持器20Dの凸曲溝23の軸方向端部からグリースが排出されるので、グリースの流動性が確保される。これにより、外輪11の肩部11cの内周面と保持器20Dの案内面22との間の案内すきまに、適度なグリースを介在させ、外輪11と保持器20D間において期待した摩擦低減効果が得られる。
したがって、第3変形例の保持器20Cや第4変形例の保持器20Dのように、ポケット21は、径方向外側から見て軸方向又は案内面側で回転方向後方となる傾斜方向に長い長孔形状のポケットを有していることが好ましい。
【0027】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、凸曲溝23は、1つのポケット21に対して2つの凸曲溝が対応するように形成されているが、本発明はこれに限らず、ポケット21の位相に対して任意の位相に形成されればよい。また、凸曲溝の配置個数も任意である。
【0028】
また、本発明では、円形形状のポケットや長孔形状のポケットの断面形状も任意であり、例えば、円形形状のポケットは、径方向に沿った断面直線形状を有する円筒ポケットでもよいし、玉に沿った断面円弧形状を有する球面ポケットでもよい。
【0029】
さらに、上記実施形態では、アンギュラ玉軸受を用いて説明したが、これに限らず、本発明は、自動調心玉軸受や4点接触玉軸受など、他の構成の玉軸受にも適用可能である。
また、例えば、案内面が軸方向両側に設けられる保持器を有する場合や保持器の回転軸に対するバランスが厳密に要求される軸受においては、軸方向両側の案内面に凸曲溝を有してもよい。
また、保持器の種類は、上記実施形態の円筒もみ抜き保持器としたが、これに限らず、他の保持器形状であってもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 アンギュラ玉軸受(玉軸受)
11 外輪
11a 外輪軌道溝
12 内輪
12a 内輪軌道溝
13 玉
20 保持器
21 ポケット
21a 円形形状のポケット
21b,21c 長孔形状のポケット
22 案内面
23 凸曲溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7