(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122934
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】舟体の揚力増加抑制構造
(51)【国際特許分類】
B60L 5/26 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
B60L5/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026712
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】光用 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 樹幸
(72)【発明者】
【氏名】天野 佑基
(72)【発明者】
【氏名】阿部 巧
(72)【発明者】
【氏名】中出 孝次
【テーマコード(参考)】
5H105
【Fターム(参考)】
5H105AA20
5H105BA02
5H105BB01
5H105DD04
5H105DD12
5H105EE03
5H105EE13
(57)【要約】
【課題】集電装置の舟体を押し上げる流れを舟体が受けたときに揚力増加を抑制することができる舟体の揚力増加抑制構造を提供する。
【解決手段】揚力増加抑制構造23は、集線装置の舟体8A,8Bを押し上げる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bに作用する揚力の増加を抑制する構造であり、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧を緩和する正圧緩和部24A,24Bを備えている。正圧緩和部24A,24Bは、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れの閉塞を緩和する。正圧緩和部24A,24Bは、舟体8A,8Bの後側に、この舟体8A,8Bの前側よりも高さが低い低部24aを備えている。このため、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧が大きくなるのを抑制して、舟体8A,8Bに作用する正の揚力が増加するのを抑制することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集線装置の舟体を押し上げる流れをこの舟体が受けたときに、この舟体に作用する揚力の増加を抑制する舟体の揚力増加抑制構造であって、
前記舟体の下面側に生じる正圧を緩和する正圧緩和部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項2】
請求項1に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記正圧緩和部は、前記舟体の下面側を下方から上方に向かう流れの閉塞を緩和すること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記正圧緩和部は、前記舟体の後側に、この舟体の前側よりも高さが低い低部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項4】
請求項1に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記正圧緩和部は、前記舟体の下面側を下方から上方に向かう流れの閉塞を緩和するとともに、この舟体の下面側に負圧を生成すること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項5】
請求項1又は請求項4に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記正圧緩和部は、前記舟体の後側に、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記正圧緩和部に向けて流れを導く整流部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項7】
請求項6に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記整流部は、前記舟体の下面側に負圧を生成すること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記整流部は、前記舟体の前側の下部に、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項9】
請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記整流部は、前記舟体の前側の下部に、後方から前方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部を備えること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
前記舟体は、在来線を走行する車両の集電装置の舟体であること、
を特徴とする舟体の揚力増加抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集線装置の舟体を押し上げる流れをこの舟体が受けたときに、この舟体に作用する揚力の増加を抑制する舟体の揚力増加抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
在来線は新幹線(登録商標)と比べて走行速度が低いため、風速の二乗に比例するパンタグラフの揚力については新幹線ほど検討されていない。「在来線パンタグラフの空力特性」には、
図18に示すように、在来線用パンタグラフの揚力測定例がパンタグラフの形式毎に記載されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、
図18に示す縦軸は揚力(N)であり、横軸は風速(m/s)である。「在来線パンタグラフの空力特性」には、在来線パンタグラフ(菱形・下枠交差型)の通常走行時の揚力は100km/hでおおよそ数N~20N程度であり、大きな問題となるような値ではないことが確認されている。
【0003】
一方、強風時には揚力の増加が懸念される。強風時には、
図19に示すように、車両の肩部で跳ね上げられた横風により、パンタグラフは走行風に加えて斜め下方から吹き上げられた流れにさらされる(例えば、非特許文献2参照)。「横風が作用する在来線パンタグラフの揚力特性」及び「舟体の外形寸法が横風環境下における在来線用パンタグラフの揚力特性に及ぼす影響評価」には、風洞試験において在来線用パンタグラフにロール角及びヨー角を設定して揚力測定を行い、揚力が顕著に増加することが確認されている(例えば、非特許文献3,4参照)。
【0004】
「舟体の外形寸法が横風環境下における在来線用パンタグラフの揚力特性に及ぼす影響評価」には、在来線用パンタグラフが横風を受けた場合の揚力を測定している。
図20(A)~(C)に示すように、風洞試験装置の風洞測定部のターンテーブル上に、在来線用パンタグラフの屈曲部を上流側に向けて、在来線用パンタグラフをロール角φで傾斜支持している。この状態で、ターンテーブルをヨー角θで回転させて、風速30m/s(108km/h)の空気を流したときの在来線用パンタグラフの揚力を測定している。ここで、
図20(D)に示す縦軸は、パンタグラフに作用する揚力F
PL[N]であり、横軸は横風の角度θ[°] (本図では反なびき方向が0°、なびき方向が180°となるように定義している)である。
図20(D)に示すように、横風を受けないロール角0°の通常走行時には揚力は20N程度であるが、ヨー角56°においては、揚力はロール角15°で80N程度、ロール角30°では130N程度に達している。このため、パンタグラフが横風を受けた場合の揚力増加を抑制することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】網干光雄,他2名,「在来線パンタグラフの空力特性」,鉄道総研報告,一般財団法人研友社,1992年,6巻,第9号,p.5-10
【0006】
【非特許文献2】野口雄平,他1名,「横風空力特性に関する風洞試験を模擬した数値シミュレーション」,鉄道総研報告,一般財団法人研友社,2017年,31巻,第9号,p.11-16
【0007】
【非特許文献3】小林樹幸、他6名,「横風が作用する在来線パンタグラフの揚力特性」,鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,J-RAIL,2018年12月,2018巻,p1307
【0008】
【非特許文献4】磯野達志、他3名,「舟体の外形寸法が横風環境下における在来線用パンタグラフの揚力特性に及ぼす影響評価」,第28回交通・物流部門大会,TRANSLOG2019,2019年11月,2019.28巻
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
横風を受けた場合の揚力増加は、「(1)枠組の揚力増加」、「(2)舟体の揚力増加」の2つの要因によって生じていると考えられる。このうち、「(2)舟体の揚力増加」は、舟体に斜め下方からの吹上流れが作用することで、「(A)舟体底面側で流れが淀むことにより正圧が生じる」、「(B)舟体上面側で流れが剥離するとともに渦が生じ、この影響で負圧が生じる」の2つの要因によって発生していると考えられる。したがって、横風を受けた場合の「(2)舟体の揚力増加」を抑制するには、上記(A)(B)に対する対策が重要となる。
【0010】
この発明の課題は、集電装置の舟体を押し上げる流れを舟体が受けたときに揚力増加を抑制することができる舟体の揚力増加抑制構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図6~
図12に示すように、集線装置(6)の舟体(8A,8B)を押し上げる流れ(F)をこの舟体が受けたときに、この舟体に作用する揚力の増加を抑制する舟体の揚力増加抑制構造であって、前記舟体の下面側に生じる正圧(P
P)を緩和する正圧緩和部(24A,24B)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造(23)である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、前記正圧緩和部は、前記舟体の下面側を下方から上方に向かう流れの閉塞を緩和することを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図6~
図8に示すように、前記正圧緩和部は、前記舟体の後側に、この舟体の前側よりも高さが低い低部(24a)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図9~
図12に示すように、前記正圧緩和部は、前記舟体の下面側を下方から上方に向かう流れの閉塞を緩和するとともに、この舟体の下面側に負圧(P
N)を生成することを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1又は請求項4に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図9及び
図10に示すように、前記正圧緩和部は、前記舟体の後側に、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部(24b)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図11及び
図12に示すように、前記正圧緩和部に向けて流れを導く整流部(25A,25B)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項6に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、前記整流部は、前記舟体の下面側に負圧(PN)を生成することを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0018】
請求項8の発明は、請求項6又は請求項7に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図11及び
図12に示すように、前記整流部は、前記舟体の前側の下部に、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部(25b)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0019】
請求項9の発明は、請求項6から請求項8までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図11及び
図12に示すように、前記整流部は、前記舟体の前側の下部に、後方から前方に向かって斜め上方に傾斜する傾斜部(25a)を備えることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【0020】
請求項10の発明は、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の舟体の揚力増加抑制構造において、
図1に示すように、前記舟体は、在来線を走行する車両(3)の集電装置の舟体であることを特徴とする舟体の揚力増加抑制構造である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によると、集電装置の舟体を押し上げる流れを舟体が受けたときに揚力増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える集電装置に向って流れが吹き上がる状態を模式的に示す正面図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える集電装置を模式的に示す斜視図である。
【
図3】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える集電装置の模式図であり、(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
【
図4】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体を概略的に示す平面図である。
【
図5】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体を概略的に示す平面図である。
【
図6】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の縦断面図である。
【
図7】この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における正圧緩和部の作用を説明するための模式図であり、(A)は正圧緩和部を備える舟体の模式図であり、(B)は正圧緩和部を備えていない舟体の模式図である。
【
図8】この発明の第2実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の縦断面図である。
【
図9】この発明の第3実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の縦断面図である。
【
図10】この発明の第3実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における傾斜部の作用を説明するための模式図であり、(A)は傾斜部を備える舟体の模式図であり、(B)は傾斜部を備えていない舟体の模式図である。
【
図11】この発明の第4実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の縦断面図である。
【
図12】この発明の第4実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における整流部の作用を説明するための模式図であり、(A)は整流部を備える舟体の模式図であり、(B)は整流部を備えていない舟体の模式図である。
【
図13】この発明の実施例に係る舟体の揚力増加抑制構造による揚力増加抑制の効果確認試験に使用した風洞試験装置を概略的に示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【
図14】この発明の実施例に係る舟体の揚力増加抑制構造による揚力増加抑制の効果確認試験における風向の定義を示す模式図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のXVIIIB方向から見た図である。
【
図15】この発明の実施例に係る舟体の揚力増加抑制構造による揚力増加抑制の効果確認試験で使用した舟体の外観図であり、(A)は実施例1に係る舟体の縦断面図であり、(B)は実施例2に係る舟体の縦断面図であり、(C)は従来例に係る舟体の縦断面図である。
【
図16】この発明の実施例に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の風洞試験における横風に対する揚力測定結果であり、(A)は実施例1,2及び従来例に係る舟体の揚力測定結果を示すグラフであり、(B)~(D)は実施例1,2及び従来例に係る舟体の縦断面図である。
【
図17】この発明の実施例に係る舟体の揚力増加抑制構造を備える舟体の風洞試験における通常走行に対する影響を確認するための揚力測定結果であり、(A)は実施例2及び従来例に係る舟体の揚力測定結果を示すグラフであり、(B)(C)は実施例2及び従来例に係る舟体の縦断面図である。
【
図18】在来線用パンタグラフの揚力測定結果を一例として示すグラフである。
【
図19】横風を受けた場合の車両周りの流れ場のシミュレーション結果を一例として示すコンター図である。
【
図20】在来線用パンタグラフが横風を受けた場合の揚力測定結果を一例として示すグラフであり、(A)(B)は風向の定義を示す模式図であり、(C)は風洞試験の状態を示す写真であり、(D)は揚力測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1~
図4に示す架線1は、線路上空に架設される架空電車線である。架線1は、所定の間隔をあけて支持点で支持されている。トロリ線1aは、集電装置6が接触移動する電線である。トロリ線1aは、集電装置6が摺動することによって、車両3に負荷電流を供給する。線路2は、車両3が走行する通路(軌道)である。線路2は、車両3の車輪4を支持し案内して車両3を走行させるレール2aなどを備えている。
【0024】
図1に示す車両3は、線路2に沿って走行する鉄道車両である。車両3は、例えば、電車又は機関車などの電気車である。車両3は、在来線を走行する鉄道車両である。車両3は、車輪4と、車体5と、集電装置6などを備えている。車輪4は、レール2aと転がり接触する部材である。車輪4は、車体5を支持して線路2上を走行する台車の所定の位置に回転自在に保持されている。車体5は、乗客又は貨物を積載し輸送するための構造物である。車体5は、この車体5の側構えを構成する側面5aと、この車体5の屋根構えを構成する屋根5bと、側面5aと屋根5bとが交わる肩部5cなどを備えている。
【0025】
図1~
図4に示す集電装置6は、トロリ線1aから車両3に電力を導くための装置である。集電装置6は、
図2~
図6に示すすり板7A,7Bと、舟体(集電舟)8A,8Bと、
図1~
図4に示すホーン9と、
図2及び
図3に示す舟支え部10と、
図1~
図3に示す枠組11と、
図2及び
図3に示す主軸17と、てこ部18A,18Bと、主ばね19と、駆動力発生部20と、
図1及び
図3に示す台枠21と、がいし22と、
図4~
図6に示す揚力増加抑制構造23などを備えている。集電装置6は、
図1~
図3に示す使用時には上昇し、非使用時には折り畳まれる。
図1~
図4に示す集電装置6は、在来線で使用される在来線用パンタグラフである。集電装置6は、
図1~
図3に示すように、車両3の進行方向D
1,D
2に対して非対称であり、双方向に使用可能なシングルアーム式パンタグラフである。集電装置6は、進行方向前側に中間ヒンジ16が位置するなびき方向と、進行方向後側に中間ヒンジ16が位置する反なびき方向とで使用される。
図1~
図3に示す集電装置6は、反なびき方向に車両3とともに移動している。
【0026】
図2~
図6に示すすり板7A,7Bは、トロリ線1aと摺動する部材である。すり板7A,7Bは、
図2、
図3(B)及び
図4に示すように、車両3の進行方向D
1,D
2に対して直交する方向(まくらぎ方向)に伸びた金属製又は炭素製の板状部材であり、
図4及び
図5に示すように平面形状が平行四辺形の薄板状の部材である。すり板7A,7Bは、舟体8A,8Bとは別個に製造される別部品であり、舟体8A,8Bの長さ方向(まくらぎ方向)に複数並べた状態で、舟体8A,8Bの上部に取り付けられている。すり板7A,7Bは、
図4に示すように、舟体8A,8Bの幅方向に所定の間隔をあけて、舟体8A,8Bの長さ方向に沿って2列配置されている。すり板7Aは、舟体8A,8Bの中央部に取り付けられており、車両3が本線走行時に主にトロリ線1aと摺動する主すり板である。すり板7Bは、舟体8A,8Bの両端部に取り付けられており、主すり板に比べて摺動頻度が低い補助すり板である。すり板7A,7Bは、例えば、金属製すり板の場合には、このすり板7A,7Bを貫通する雌ねじ部が形成されており、この雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を有するボルトなどの固定部材を舟体8A,8B側から挿入して、この固定部材によって舟体8A,8Bに固定される。すり板7A,7Bは、例えば、カーボン系すり板の場合には、底面にボルトなどの固定部材を有するさや部によって、このすり板7A,7Bの底部が保持されており、さや部の固定部材を舟体8A,8Bの貫通孔に挿入して、固定部材の雄ねじ部と噛み合うナットなどの締結部材によってさや部を介して舟体8A,8Bに固定される。
【0027】
図2~
図4に示す舟体8A,8Bは、すり板7A,7Bを支持する部材である。舟体8A,8Bは、
図2~
図4に示すように、トロリ線1aに対して直交する方向(まくらぎ方向)に伸びた細長い金属製の部材である。舟体8A,8Bは、車両3の進行方向D
1,D
2の前後(舟体8A,8Bの幅方向)に所定の間隔をあけて平行に配置されている。舟体8A,8Bは、
図2及び
図6に示すように、この舟体8A,8Bの中心線に対して前後対称の形状(鏡像で折り返した形状)に形成されている。
図2~
図4に示すように、舟体8A,8Bは進行方向D
1に移動するときには,舟体8Aが進行方向前側(上流側)になり、舟体8Bが進行方向後側(下流側)になる。一方、舟体8A,8Bは進行方向D
2に移動するときには,舟体8Bが進行方向前側(上流側)になり、舟体8Aが進行方向後側(下流側)になる。舟体8A,8Bは、例えば、断面形状が略C字状に形成されたリップ溝形鋼を加工して形成されており、
図7(B)に示す従来の舟体108A,108Bから片側の側部108cを取り除いたような構造である。舟体8A,8Bは、例えば、金属製の平坦な長板を曲げ加工することによって所定の形状に形成されている。
図2~
図4に示す舟体8A,8Bは、在来線を走行する車両3の集電装置6の舟体(在来線用パンタグラフ舟体)である。舟体8A,8Bは、いずれも同一構造であり、
図6に示す上部8aと、側部8bと、下部(底部)8dと、補強部8fなどを備えている。以下では舟体8Aを中心に説明し、舟体8Bについては舟体8Aと同一の部分に同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
図6に示す上部8aは、舟体上部を構成する部分である。上部8aは、すり板7A,7Bと密着するように平坦面に形成されている。上部8aは、すり板7A,7Bが搭載される側の表面である上面8gと、上面8gとは反対側の表面である下面8hとなどを備えている。上面8gは、
図6に示すように、舟体8A,8Bの長さ方向に沿ってすり板7A,7Bを取り付ける一対の取付部(すり板取付部)8iなどを備えている。
【0029】
図6に示す側部8bは、舟体側部を構成する部分である。側部8bは、上部8aに対して直交するように上部8aの縁部に配置されている。下部8dは、舟体下部を構成する部分である。下部8dは、上部8aに対して平行であって側部8bに対して直交するように、側部8bの下縁部に配置されている。
【0030】
補強部8fは、舟体8A,8Bに剛性を付与する部分である。補強部8fは、下部8dの内側縁部を上方に直角に折り曲げて形成されており、下部8dとともに舟体8A,8Bに曲げ剛性及びねじり剛性などを付与する。
【0031】
図1~
図4に示すホーン9は、舟体8A,8Bの下にトロリ線1aが入り込むのを防止する部材である。ホーン9は、例えば、車両3が分岐器を通過するときに、この分岐器の上方で交差する2本のトロリ線1aのうち、車両3の進行方向D
1,D
2とは異なる方向のトロリ線1aへの舟体8A,8Bの割込みを防止する。ホーン9は、このホーン9の先端部が舟体8A,8Bの長さ方向の両端部から突出しており、
図1及び
図3(B)に示すように先端部が下方に向かって湾曲して形成された金属製の筒状部材である。
【0032】
図2及び
図3に示す舟支え部10は、舟体8A,8Bを支持する部分である。舟支え部10は、舟体8A,8Bを架線1に対して水平に押上げるとともに、舟体8A,8Bにばねによる緩衝作用を与える。舟支え部10は、舟体8A,8Bの平衡及び円滑な上下動を維持するとともに、トロリ線1aへの追従性を向上させる。舟支え部10は、枠組11の頂部に支持されている。舟支え部10は、
図2~
図5に示す支持部10aと、
図3に示すばね10bと、
図3(B)及び
図4に示すつなぎ管10cと、
図3に示す支持部10dと、ばね10eと、
図2~
図4に示す天井管10fと、
図3に示す連結部10gなどを備えている。
【0033】
図2~
図5に示す支持部10aは、ばね10bを介して舟体8A,8Bを支持する部材である。支持部10aは、
図2及び
図3(B)に示すように、舟体8A,8Bの両端部の下方に舟体8A,8Bとの間に間隔をあけてそれぞれ配置されており、
図4に示すように舟体8A,8Bの中心線に対して直交する方向に伸びた金属製の板状部材(支え金具)である。支持部10aは、ばね10bを受けるばね受け部として機能する。
【0034】
図3に示すばね10bは、舟体8A,8Bを弾性支持する部材である。ばね10bは、舟体8A,8Bと支持部10aとの間に配置されているコイルばねなどの弾性部材であり、トロリ線1aに対するすり板7A,7Bの追従性を向上させる。ばね10bは、このばね10bの上端部が舟体8A,8Bの上部8aの下面8hに取り付けられており、このばね10bの下端部が支持部10aの上面に取り付けられている。
【0035】
図3(B)及び
図4に示すつなぎ管10cは、左右のホーン9をつなぐ部材である。つなぎ管10cは、
図7に示すように、舟体8A,8Bの一対の補強部8f間で下部8d,8eの下方に配置されており、
図4に示すように支持部10a間において舟体8A,8Bの長さ方向に沿って互いに平行に配置されている。つなぎ管10cは、
図3(B)及び
図4に示すように、支持部10aを貫通してこのつなぎ管10cの両端部がホーン9の後端部に接続されており、支持部10a、舟体8A側のつなぎ管10c、舟体8B側のつなぎ管10c及びホーン9によってつなぎ枠を構成している。
【0036】
図3に示す支持部10dは、ばね10eを介して支持部10aを支持する部材である。支持部10dは、支持部10aの下方に支持部10aとの間に間隔をあけてそれぞれ配置されており、
図3(A)に示すように舟体8A,8Bの中心線に対して直交する方向に伸びた金属製の板状部材(天秤)である。支持部10dは、ばね10eを受けるばね受け部として機能する。支持部10dは、この支持部10dの中心線が天井管10fの中心線に対して直交するように支持部10dと平行に配置されている。支持部10dは、この支持部10dの両端部に、ばね10eを介して支持部10aを支持しており、この支持部10dの中央部がヒンジ部を介して天井管10fに回転自在に支持されている。
【0037】
図3に示すばね10eは、支持部10aを弾性支持する部材である。ばね10eは、支持部10aと支持部10dとの間に配置されているコイルばねなどの弾性部材である。ばね10eは、このばね10eの上端部が支持部10aの下面に取り付けられており、このばね10eの下端部が支持部10aの上面に取り付けられている。
【0038】
図2~
図4に示す天井管10fは、支持部10dを回転自在に支持する部材である。天井管10fは、この天井管10fの中心線が舟体8A,8Bの中心線と等距離になるように、舟体8A,8Bの下方に舟体8A,9Bと並行に配置されており、支持部10a,10dに対して直交し、舟体8A,8B及びつなぎ管10cに対して平行に配置されている。天井管10fは、
図3(A)に示すように、支持部10dの中央部を貫通しており、
図3(B)に示すようにこの天井管10fの中央部がヒンジ部を介して枠組11の上枠12の上端部に回転自在に支持されている。
【0039】
図3に示す連結部10gは、枠組11の平衡棒13に回転自在に連結される部分である。連結部10gは、
図3(A)に示すように、天井管10fの中央部から下方に突出して形成されている。連結部10gは、
図3(A)に示すように、平衡棒13の上端部がヒンジ部を介して回転自在に連結されている。
【0040】
図1~
図3に示す枠組11は、舟体8A,8Bを支持する部材である。枠組11は、舟体8A,8Bを支持した状態で上下方向に動作可能なリンク機構を備えており、複数のヒンジ及びリンク部材などから構成されている。枠組11は、
図2及び
図3に示す上枠12と、平衡棒(舟支えリンク)13と、下枠14と、
図5に示す釣り合い棒15と、中間ヒンジ(屈曲部)16などを備えている。
図2及び
図3に示す枠組11は、使用時には主ばね19の付勢力によって上昇し、非使用時(折畳時)には主ばね19の付勢力に抗して駆動力発生部20が発生する駆動力によって下降するばね上昇/空気下降式構造である。
【0041】
図2及び
図3に示す上枠12は、舟支え部10を支持する部材である。上枠12は、この上枠12の下端部が釣り合い棒15の上端部にヒンジ部を介して回転自在に連結されている。平衡棒13は、舟体8A,8B及び舟支え部10を所定の姿勢に維持する部材である。平衡棒13は、上枠12の下側に間隔をあけて配置されており、枠組11の高さが変化したときに舟体8A,8B及び舟支え部10の姿勢を常に水平に維持する。平衡棒13は、下枠14の上端部から僅かに離れた位置に、この平衡棒13の下端部がヒンジ部を介して回転自在に連結されている。
【0042】
下枠14は、台枠21に回転自在に連結される部材である。下枠14は、この下枠14の下端部が主軸17に連結されている。釣り合い棒15は、枠組11の形状を保持するとともに枠組11を上下方向に昇降させる部材である。釣り合い棒15は、下枠14の下側に間隔をあけて配置されており、舟体8A,8Bを上下変位させるときの軌跡を調整する。釣り合い棒15は、この釣り合い棒15の下端部が台枠21にヒンジ部を介して回転自在に連結されている。中間ヒンジ16は、上枠12と下枠14とを回転自在に連結する部分である。中間ヒンジ16は、上枠12と下枠14とを連結する関節部として機能する。
【0043】
主軸17は、枠組11を昇降動作させる部材である。主軸17は、枠組11と連動して動作し、正逆方向に回転することによって枠組11を昇降動作させる。主軸17は、台枠21に回転自在に支持されており、下枠14の下端部と一体となって回転する。てこ部18A,18Bは、直線運動を回転運動に変換する部分である。てこ部18A,18Bは、主軸17を支点として主軸17と一体となって回転する。
【0044】
主ばね19は、枠組11に上昇力を付与する部材である。主ばね19は、主軸17が回転して枠組11が上昇するように主軸17を付勢する押上げ用ばねである。主ばね19は、この主ばね19の一端が台枠21に回転自在にヒンジ部を介して連結されており、この主ばね19の他端がてこ部18Aに回転自在にヒンジ部を介して連結されている。
【0045】
駆動力発生部20は、主軸17を回転駆動するための駆動力を発生する部材である。駆動力発生部20は、枠組11を下降させるときに、主ばね19の付勢力に抗して主軸17を回転させる空気圧シリンダなどの下げシリンダ装置である。駆動力発生部20は、てこ部18Bに駆動力を作用させる下げシリンダ装置のピストンロッドなどの作用部が、てこ部18Bに回転自在にヒンジ部を介して連結されている。
【0046】
図1及び
図3に示す台枠21は、枠組11を支持する部材である。台枠21は、枠組11の基部を支持した状態で、がいし22を介して車体5の屋根5b上に設置されている。台枠21は、主軸17、てこ部18A,18B、主ばね19及び駆動力発生部20などから構成される昇降機構部を支持する。がいし22は、車体5と台枠21との間を電気的に絶縁する部材である。がいし22は、台枠21の底面を支持している。
【0047】
図2及び
図6に示す揚力増加抑制構造23は、舟体8A,8Bを押し上げる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bの揚力の増加を抑制する構造である。揚力増加抑制構造23は、舟体8A,8Bに対して吹き上げる流れFや舟体8A,8Bに対して横方向の流れFのような、舟体8A,8Bを押し上げる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bの周辺の圧力変化を緩和し、舟体8A,8Bの揚力の安定化を図る。揚力増加抑制構造23は、正圧緩和部24A,24Bを備えている。
【0048】
図6及び
図7に示す正圧緩和部24A,24Bは、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧P
Pを緩和する部分である。正圧緩和部24A,24Bは、
図7(A)に示すように、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を緩和することによって流れFを淀みなく流し、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧P
Pを緩和する。正圧緩和部24A,24Bは、
図7に示すように、舟体8A,8Bを押し上げる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bの下面側で大きくなる正圧P
Pを緩和することによって、舟体8A,8Bに作用する正の揚力の増加を抑制する。正圧緩和部24A,24Bは、
図6及び
図7に示す低部24aを備えている。
【0049】
図6及び
図7に示す低部24aは、舟体8A,8Bの前側よりも高さが低い部分である。低部24aは、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を緩和する閉塞緩和部として機能する。低部24aは、
図7(A)に示すように、舟体8A,8Bが進行方向D
1及び進行方向D
2の双方向に移動することを考慮して、舟体8A,8B間の中間点を中心として対称の形状(鏡像で折り返した形状)になるように、舟体8A,8Bにそれぞれ配置されている。低部24aは、
図7に示すように、この低部24aと天井管10eとの間の隙間が広くなってこれらの間で流れFが淀みなく流れるように、
図6に示す舟体8A,8Bの前側の高さH
1に比べて、舟体8A,8Bの後側の高さH
2が低く形成されている。低部24aは、例えば、
図7(B)に示す従来の舟体108A,108Bの後側の側部108cを上部108aから切り離したり、
図7(A)に示す前側の側部8bのみを上部8aに形成した構造に当初から製造したりすることによって形成される。
【0050】
次に、この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における正圧緩和部の作用を説明する。
以下では、
図1~
図3及び
図7に示すように、車両3が進行方向D
1に走行する場合を中心に説明する。ここで、
図7(A)に示す舟体8A,8Bは、揚力増加抑制構造23を備える第1実施形態に係る舟体である。
図7(B)に示す舟体108A,108Bは、揚力増加抑制構造23を備えていない従来の舟体である。側部108b,108cは、舟体両側部を構成する部分であり、上部108aに対して直交するように上部108aの両縁部にそれぞれ対向して配置されている。側部108b及び下部108dは、舟体108A,108B間の中間点から遠い側に位置し、側部108c及び下部108eは舟体108A,108B間の中間点から近い側に位置する。以下では、
図7(B)に示す舟体108A,108Bについては、
図7(A)に示す舟体8A,8Bと対応する部分に対応する番号を付して詳細な説明を省略する。
【0051】
図1に示すように、線路2上を車両3が進行方向D
1に走行しているときに、集電装置6の舟体8Aが進行方向前側から風を受けるとともに、車両3が横風を受けると車体5の肩部5cで横風が吹き上げられて、舟体8Aが斜め下方から吹き上げられる。例えば、盛土上又は高架橋上の線路2上を車両3が進行方向D
1に向かって走行しているときに、沿線の地形条件や気象条件によって車両3が横風を受けると、車体5の肩部5cで横風が吹き上げられる。その結果、横方向かつ斜め下方から流れFを舟体8Aが受ける。
【0052】
図7(B)に示すように、舟体108Aが正圧緩和部24Aを備えていない場合には、舟体108Aと天井管110fとの間の隙間が狭いため、舟体108Aの下面側を下方から上方に向かう流れFが舟体108Aと天井管110fとの間を通過し難くなる。このため、舟体108Aの下面が流れFを受けると、舟体108Aの下面側で流れFが淀み、舟体108Aの下面側に生じる正圧P
Pが大きくなり、舟体108Aを上昇させる正の揚力が増加する。
【0053】
一方、
図7(A)に示すように、舟体8Aが正圧緩和部24Aを備えている場合には、舟体8Aと天井管10eとの間の隙間が広くなる。このため、舟体8Aの下面に向かう流れFが低部24aと天井管10eとの間を通過して、舟体8Aと舟体8Bとの間の隙間を流れFが通過し、舟体8A,8B間を下方から上方へ流れFが淀みなく抜ける。その結果、舟体8Aの周囲の流れ場が変化し、舟体8Aの下面側に生じる正圧P
Pの上昇が抑制されて、舟体8Aの圧力変化が緩和され、舟体8Aを上昇させる正の揚力の増加が抑制される。車両3が進行方向D
1とは逆方向の進行方向D
2に走行する場合についても、
図7(A)に示す舟体8B側の正圧緩和部24Bが舟体8A側の正圧緩和部24Aと同様に機能する。
【0054】
この発明の第1実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPを正圧緩和部24A,24Bが緩和する。このため、吹き上がる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPの増加を抑制することができる。その結果、舟体8Aの下面側の圧力上昇が抑制されて、舟体8A,8Bに作用する揚力が増加するのを抑制することができる。
【0055】
(2) この第1実施形態では、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を正圧緩和部24A,24Bが緩和する。このため、吹き上がる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bと天井管10eとの間を淀みなく流れFを通過させることができる。その結果、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPが大きくなるのを抑制して、舟体8A,8Bに作用する正の揚力が増加するのを抑制することができる。
【0056】
(3) この第1実施形態では、舟体8A,8Bの前側よりも高さが低い低部24aを舟体8A,8Bの後側に備えている。このため、舟体8A,8Bの前側の高さH1よりも舟体8A,8Bの後側の高さH2を低くすることによって、舟体8A,8Bを上昇させる正の揚力の増加を簡単に抑制することができる。例えば、従来の舟体108A,108Bの後側の側部108cを上部108aから取り外すだけで、正の揚力の増加を簡単に抑制することができる。また、舟体8A,8B間の内側の領域における舟体8A,8Bの形状を変更することによって、横風を受けた場合の流れFの閉塞に伴う舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPを緩和することができる。
【0057】
(第2実施形態)
以下では、
図1~
図7に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図8に示す舟体8A,8Bは、
図6に示す舟体8A,8Bとは異なり、側部8bの上下方向の寸法が長く(高さが高く)形成されており、
図6に示す下部8d及び補強部8fが省略されている。舟体8A,8Bは、例えば、断面形状が略U字状(コ字状)に形成された溝形鋼を加工して形成されており、この溝形鋼から片側の側部を取り除いたような構造である。舟体8A,8Bは、この舟体8A,8Bの中心線に対して前後対称の形状(鏡像で折り返した形状)に形成されている。この第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0058】
(第3実施形態)
図9及び
図10に示す正圧緩和部24A,24Bは、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を緩和するとともに、舟体8A,8Bの下面側に負圧P
Nを生成する部分である。正圧緩和部24A,24Bは、
図10(A)に示すように、舟体8A,8Bの下面側を負圧P
Nにすることによって、舟体8A,8Bの下面側の正圧P
Pを緩和し、舟体8A,8Bに負の揚力を作用させる。正圧緩和部24A,24Bは、
図9及び
図10(A)に示すように、断面形状が略三角形の角柱状部材であり、舟体8A,8Bの長さ方向に沿って配置されている。正圧緩和部24A,24Bは、
図10(A)に示すように、舟体8A,8Bの上部8aの後側の下面8hに取り付けられている。正圧緩和部24A,24Bは、
図9に示す傾斜部24bと、接合部24cと、側部24d,24eと、下部24fなどを備えている。
【0059】
図9に示す傾斜部24bは、舟体8A,8Bの後側で、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する部分である。傾斜部24bは、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を緩和する閉塞緩和部として機能するとともに、舟体8A,8Bの下面側に負圧P
Nを生成する負圧生成部としても機能する。傾斜部24bは、
図10(A)に示すように、舟体8A,8Bが進行方向D
1及び進行方向D
2の双方向に移動することを考慮して、舟体8A,8B間の中間点を中心として対称な形状(鏡像で折り返した形状)に形成されており、舟体8A,8Bにそれぞれ配置されている。傾斜部24bは、
図10(A)に示すように、この傾斜部24bと天井管10eとの間の隙間が広くなってこれらの間で流れFが淀みなく流れるように、
図10(B)に示す従来の舟体108A,108Bの側部108cと下部108eとが交わる下流側の下側角部を面取りするような断面形状に形成されている。傾斜部24bは、
図9に示すように、所定の角度で傾斜する平坦な傾斜面に形成されている。
【0060】
図9に示す接合部24cは、上部8aの下面8hと接合する部分であり、平坦面に形成されている。側部24dは、正圧緩和部24A,24Bの側面を構成する部分であり、平坦面に形成されている。側部24eは、正圧緩和部24A,24Bの側面を構成する部分であり、補強部8fと対向しており、側部24dと平行な平坦面に形成されている。下部24fは、下部8dと同じ高さに形成された部分であり、接合部24cと平行な平坦面に形成されている。
【0061】
次に、この発明の第3実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における傾斜部の作用を説明する。
図10(B)に示すように、舟体108Aが傾斜部24bを備えていない場合には、舟体108Aと天井管110fの間の隙間が狭いため、舟体108Aの下面に向かう流れFが舟体108Aと天井管110fとの間を通過し難くなる。このため、舟体108Aの下面が流れFを受けると、舟体108Aの下面で流れFが淀み、舟体108Aの下面側に生じる正圧P
Pが大きくなり、舟体108Aを上昇させる正の揚力が増加する。また、舟体108Aの下面側を下方から上方に向かう流れFが、舟体108Aの下面に直接衝突し、舟体108Aを跳ね上げる流れFを受ける受圧面積が大きくなるため、舟体108Aの下面側に生じる正圧P
Pが大きくなる。
【0062】
一方、
図10(A)に示すように、舟体8Aが傾斜部24bを備えている場合には、傾斜部24bと天井管10eとの間の隙間が広くなり、舟体8Aの下面に向かう流れFが傾斜部24bと天井管10eとの間を通過して、舟体8Aと舟体8Bとの間の隙間を流れFが通過する。このため、舟体8A,8B間を下方から上方へ流れFが淀みなく抜けるとともに、傾斜部24bに沿って流れFが流れることによって、流れFが加速し舟体8Aの周囲の流れ場が変化する。その結果、傾斜部24bが負圧P
Nになって、舟体8A,8Bに負の揚力が発生し、舟体8Aの下面側の圧力上昇が抑制されて、舟体8Aの圧力変化が緩和され、舟体8Aを上昇させる正の揚力の増加が抑制される。また、従来の舟体108Aの下部108eが傾斜部24bによって面取りされた形状であるため、舟体8Aの下面に向かう流れFが、舟体8Aの下面に直接衝突する面積が減る。このため、舟体8Aを跳ね上げる流れFを受ける受圧面積が小さくなって、舟体8Aの下面側に生じる正圧P
Pが小さくなる。車両3が進行方向D
1とは逆方向の進行方向D
2に走行する場合についても、
図10(A)に示す舟体8B側の傾斜部25bが舟体8A側の傾斜部25bと同様に機能する。
【0063】
この発明の第3実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造には、第1実施形態及び第2実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第3実施形態では、舟体8A,8Bの下面側を下方から上方に向かう流れFの閉塞を正圧緩和部24A,24Bが緩和するとともに、舟体8A,8Bの下面側に負圧PNを正圧緩和部24A,24Bが生成する。このため、吹き上がる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPが大きくなるのを抑制することができ、舟体8A,8Bに作用する正の揚力を抑制することができる。また、横風のない通常走行時に揚力が大きく変化するのを防ぐことができる。
【0064】
(2) この第3実施形態では、舟体8A,8Bの後側で、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜部24bが傾斜している。このため、2本の舟体8A,8B間に位置する部位の形状を変更することによって、舟体8A,8B間を流れFがスムーズに流れるようになり、舟体8A,8Bに作用する揚力が増加するのを抑制することができる。例えば、舟体8A,8B間の内側の領域における舟体8A,8Bの形状を変更することによって、横風を受けた場合の流れFの閉塞に伴う舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPを緩和することができる。また、傾斜部24bによって流れFが加速されて、傾斜部25bに負圧PNを造ることができ、舟体8A,8Bに負の揚力を作り出すことができる。
【0065】
(第4実施形態)
図11及び
図12に示す揚力増加抑制構造23は、正圧緩和部24A,24Bと整流部25A,25Bなどを備えている。整流部25A,25Bは、正圧緩和部24A,24Bに向けて流れFを導く部分である。整流部25A,25Bは、
図12(A)に示すように、舟体8A,8Bに負の揚力を発生させることによって、舟体8A,8Bの揚力の増加を抑制する。整流部25A,25Bは、
図12(A)に示すように、舟体8A,8Bが進行方向D
1及び進行方向D
2の双方向に移動することを考慮して、舟体8A,8B間の中間点を中心として対称の形状(鏡像で折り返した形状)になるように、舟体8A,8Bにそれぞれ配置されている。整流部25A,25Bは、
図11及び
図12(A)に示すように、断面形状が略三角形の角柱状部材であり、この整流部25A,25Bの頂部が下方に突出するように、舟体8A,8Bの長さ方向に沿って配置されている。整流部25A,25Bは、
図12(A)に示すように、舟体8A,8Bの前側の下部8dに取り付けられている。整流部25A,25Bは、
図11に示す傾斜部25a,25bと取付部25cなどを備えている。
【0066】
図11に示す傾斜部25aは、舟体8A,8Bの前側の下部8dで、後方から前方に向かって斜め上方に傾斜する部分である。傾斜部25aは、
図12(A)に示すように、舟体8A,8Bの下部8dに向かう流れFに曲率を与えて、傾斜部25bに負圧P
Nを生成する負圧生成部として機能する。傾斜部25aは、
図11に示すように、所定の角度で傾斜する平坦な傾斜面に形成されている。
【0067】
傾斜部25bは、舟体8A,8Bの前側の下部8dで、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜する部分である。傾斜部25bは、正圧緩和部24A,24Bの傾斜部24bに負圧PNを生成する負圧生成部として機能する。傾斜部25bは、所定の角度で傾斜する平坦な傾斜面に形成されており、下流側の傾斜部25bに負圧PNを生成する。傾斜部25bは、この傾斜部25bの下端部が傾斜部25aの下端部と接続している。取付部25cは、舟体8A,8Bの下部8dに取り付けられる部分であり平坦面に形成されている。
【0068】
次に、この発明の第4実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造における整流部の作用を説明する。
図12(A)に示すように、舟体8Aが整流部25Aを備えている場合には、舟体8Aの下部8dに向かう流れFが傾斜部25aによって曲率を与えられ、傾斜部25bに沿って流れることによって、流れFが加速し舟体8Aの周囲の流れ場が変化する。その結果、傾斜部25bが負圧P
Nになって舟体8A,8Bに負の揚力が発生し、舟体8Aの下面側の圧力上昇が抑制されるとともに、舟体8Aの圧力変化が緩和され、舟体8Aを正の揚力の増加が抑制される。また、傾斜部25bに沿って流れる流れFが傾斜部24bに向かって誘導され、傾斜部24bと天井管10eとの間を流れFが通過して、舟体8Aと舟体8Bとの間の隙間を流れFが通過する。このため、舟体8A,8B間を下方から上方へ流れFが淀みなく抜けるとともに、傾斜部24bに沿って流れFが流れることによって、流れFが加速し舟体8Aの周囲の流れ場が変化する。その結果、傾斜部25bが負圧P
Nになって舟体8A,8Bに負の揚力が発生し、舟体8Aの下部8dの圧力上昇が抑制されて、舟体8Aの圧力変化が緩和され、舟体8Aを上昇させる正の揚力の増加が抑制される。
【0069】
さらに、舟体8Aの下流側の下側角部が傾斜部24bによって面取りされているため、舟体8Aの下面に流れFが直接衝突する面積が減り、舟体8Aを跳ね上げる流れFを受ける受圧面積が小さくなって、舟体8Aの下面側に生じる正圧P
Pが小さくなる。車両3が進行方向D
1とは逆方向の進行方向D
2に移動する場合についても、
図12(A)に示す舟体8B側の整流部25Bが舟体8A側の整流部25Aと同様に機能する。
【0070】
この発明の第4実施形態に係る舟体の揚力増加抑制構造には、第1実施形態~第3実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第4実施形態では、整流部25A,25Bが正圧緩和部24A,24Bに向けて流れFを導く。このため、舟体8A,8Bの下面側に生じる正圧PPを緩和することができ、舟体8A,8Bに作用する揚力が増加するのを抑制することができる。
【0071】
(2) この第4実施形態では、舟体8A,8Bの下面側に整流部25A,25Bが負圧PNを生成する。このため、吹き上がる流れFを舟体8A,8Bが受けたときに、舟体8A,8Bに負の揚力を作用させることができる。その結果、舟体8A,8Bに作用する正の揚力が増加するのを抑制することができる。また、横風のない通常走行時に揚力が大きく変化するのを防ぐことができる。
【0072】
(3) この第4実施形態では、舟体8A,8Bの前側の下部8dで、前方から後方に向かって斜め上方に傾斜部25bが傾斜する。このため、2本の舟体8A,8B間に位置する部位の形状を変更することによって、傾斜部25bによって流れFが加速されて、傾斜部25bに負圧PNを造ることができ、舟体8A,8Bに負の揚力を作り出すことができる。
【0073】
(4) この第4実施形態では、舟体8A,8Bの前側の下部8dで、後方から前方に向かって斜め上方に傾斜部25aが傾斜する。このため、2本の舟体8A,8B間に位置する部位の形状を変更することによって、傾斜部25aによって流れFに曲率を与え、下流側の傾斜部25bに負圧PNを造ることができ、舟体8A,8Bに負の揚力を作り出すことができる。
【実施例0074】
次に、この発明の実施例について説明する。
(揚力増加抑制の効果確認試験)
図6、
図7及び
図9~
図12に示す舟体の揚力増加抑制効果を、
図13に示す風洞試験装置により評価した。揚力増加抑制の効果確認試験は、公益財団法人鉄道総合技術研究所の開放胴型の大型低騒音風洞試験装置を使用した。
図13に示すように、大型低騒音風洞試験装置の風洞測定部の第2模型支持台車のターンテーブル上に実物の在来線用パンタグラフを反なびき方向に向けて設置した。パンタグラフの架台の片側を持ち上げてロール角を設定したうえで、ターンテーブルを回転させてヨー角を設定し、風洞測定部内のパンタグラフに吹き出しノズルから空気を吹き出し、舟体に作用する揚力を測定した。揚力増加抑制の効果確認試験では、パンタグラフから見た場合の各方向の風速を、
図14に示すように定義した。ヨー角θは反なびき方向を0°、なびき方向を180°とし、このヨー角θの範囲内で、パンタグラフに対して流れが吹き上がる方向にロール角φを設定した。
【0075】
揚力増加抑制の効果確認試験では、舟体やつなぎ枠を支持するばねをスペーサに置き換えて上下変位を固定し、台枠上の鍵装置付近に治具を介してロードセル(共和電業製 LUR-N-500NSA1(容量500N))を設置し、上枠頂部(鍵装置の鍵を受ける部分)とロードセルとをワイヤで接続した。揚力測定は、無風時に対する送風時のロードセル出力の増分を揚力として検出し、500N=4V出力、200Hzのローパスフィルタ処理波形を500Hzでサンプリングし、各風速段で約30秒収録を行い、揚力の時間平均値を算出した。
【0076】
(供試体)
供試体は、
図1~
図3に示すような一般的な在来線用シングルアーム型パンタグラフであり、
図15に示す実施例1,2及び従来例の舟体が取り付けられている。
図15(A)及び
図16(B)に示す実施例1は、
図9に示す第3実施形態の舟体8A,8Bに対応し、閉塞緩和機能及び負圧生成機能を有する傾斜部24bを横風対策形状として備えている。
図15(B)、
図16(C)及び
図17(B)に示す実施例2は、
図11に示す第4実施形態の舟体8A,8Bに対応し、閉塞緩和機能、負圧生成機能及び整流機能を有する傾斜部24b,25bを横風対策形状として備えている。実施例1,2は、
図9及び
図11に示す下部24fが省略されており、傾斜部24bと側部24eとが直接接続されている。
図15(C),
図16(D)及び
図17(C)に示す従来例は、
図17(B)、
図10(B)及び
図12(B)に示す従来の舟体108A,108Bであり、略C字状の折り曲げタイプの断面形状である。
【0077】
(横風に対する揚力増加抑制効果)
横風対策を施した舟体断面形状による揚力を比較した。
図16(A)に示すグラフは、ロール角15°、ヨー角56°で試験風速(km/h)を変化させた測定条件で、舟体断面形状を改良した場合に風洞試験を実施したときの揚力測定結果である。縦軸は、揚力(N)であり、横軸は風速(km/h)である。
図16(A)に示すように、例えば、風速108km/h走行時において、実施例1については従来例に比べて約3.6N程度の揚力低減効果が確認されており、実施例2については従来例に比べて約5.2N程度の揚力低減効果が確認されている。その結果、実施例1のような閉塞緩和機能及び負圧生成機能を有する場合や、実施例2のような閉塞緩和機能、負圧生成機能及び整流機能を有する場合については、従来例のようなこれらの機能を有さない場合と比べて揚力が減少しており、揚力増加抑制効果が得られることが確認された。
【0078】
(通常走行に対する影響の確認)
通常走行時の舟体断面形状による揚力を比較した。
図17(A)に示すグラフは、ロール角15°、ヨー角0°で試験風速(km/h)を変化させた測定条件で、舟体断面形状を改良した場合に風洞試験を実施したときの揚力測定結果である。縦軸は、揚力(N)であり、横軸は風速(km/h)である。
図17(A)に示すように、例えば、風速108km/h走行時において、実施例2については従来例に比べて約0.5N程度の揚力が変化しているが、揚力の変化が僅かであることが確認されている。その結果、実施例2のような舟体断面形状に変更した場合であっても、通常走行時の揚力に影響を及ぼさずに揚力増加抑制効果が得られることが確認された。
【0079】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、集電装置6が在来線用パンタグラフである場合を例に挙げて説明したが、集電装置6が新幹線用パンタグラフである場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、集電装置6がシングルアーム式パンタグラフである場合を例に挙げて説明したが、集電装置6が菱型パンタグラフなどの他の形式のパンタグラフである場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、なびき方向及び反なびき方向の双方向に使用可能な集電装置6を例に挙げて説明したが、なびき方向又は反なびき方向のいずれか一方向にのみ使用可能な集電装置についても、この発明を適用することができる。
【0080】
(2) この実施形態では、ばね上昇/空気下降式構造の集電装置6を例に挙げて説明したが、このような構造の集電装置6にこの発明を限定するものではない。例えば、使用時には駆動力発生部20によって枠組11が上昇し、折畳時には主ばね19によって枠組11が下降する空気上昇/ばね下降式構造の集電装置についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、平衡棒13の上端部を連結部10gにヒンジ部を介して回転自在に連結する構造の集電装置6を例に挙げて説明したが、上枠12の上端部と間隔をあけて平衡棒13の上端部を天井管10eにヒンジ部を介して回転自在に連結する構造の集電装置についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、2本の舟体8A,8Bを備える集電装置6を例に挙げて説明したが、1本の舟体を備える集電装置についても、この発明を適用することができる。例えば、
図9~
図12に示す舟体8Aが1本の集電装置の場合には、舟体8Aの下流側の下側角部が傾斜部24bによって面取りされているような構造であるため、舟体8Aの下面に流れFが直接衝突する面積を減少させることができる。その結果、舟体8Aを跳ね上げる流れFを受ける受圧面積が小さくなって、舟体8Aの下面側に生じる正圧P
Pが小さくなり、揚力低減効果を図ることができる。
【0081】
(3) この実施形態では、1枚の長板をプレス加工によって組み立てた舟体8A,8Bを例に挙げて説明したが、複数枚の長板を溶接加工又は複数枚の長板を組み立てた舟体8A,8Bについても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、断面形状が略C字状又は略U字状の溝形鋼を加工して舟体8A,8Bを形成する場合を例に挙げて説明したが、断面形状がこれらの形状以外の任意の形状の形材を加工して、舟体8A,8Bを形成する場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、舟体8A,8Bが板状である場合を例に挙げて説明したが、舟体8A,8Bが筒状である場合についても、この発明を適用することができる。
【0082】
(4) この第3実施形態及び第4実施形態では、正圧緩和部24A,24Bの傾斜部24b及び整流部25A,25Bの傾斜部25a,25bが平坦な傾斜面である場合を例に挙げて説明したが、曲面又は流線型の傾斜面である場合についても、この発明を適用することができる。また、この第3実施形態及び第4実施形態では、正圧緩和部24A,24Bが下部24fを備える場合を例に挙げて説明したが、下部24fを省略して傾斜部24bと側部24eとを直接接続する場合についても、この発明を適用することができる。同様に、この第3実施形態及び第4実施形態では、正圧緩和部24A,24Bが側部24dを備える場合を例に挙げて説明したが、側部24dを省略して傾斜部24bと接合部24cとを直接接続する場合についても、この発明を適用することができる。