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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122967
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20230829BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026753
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】チハ リガ
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA21
3J062AA25
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA22
3J062CD06
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】コストを抑えつつ、ねじ軸のねじ溝に生じる異常を迅速に検出することが可能なボールねじ装置を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋状の第1ねじ溝11を有するねじ軸10と、内周面に螺旋状の第2ねじ溝21を有し、ねじ軸10に外嵌されるナット20と、ねじ軸10の第1ねじ軸11及びナット20の第2ねじ溝21によって形成される転動路32に収容される複数のボール30と、ナット20に設けられ、転動路32を繋いでボール30が循環可能な循環路43を形成する循環チューブ40と、を備え、ナット20には、循環路43から外れた位置に、径方向に貫通してねじ軸10のねじ溝11を監視可能な監視窓50が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
前記ナットに設けられ、前記転動路を繋いで前記ボールが循環可能な循環路を形成する循環部と、
を備え、
前記ナットには、前記循環路から外れた位置に、径方向に貫通して前記ねじ軸の前記ねじ溝を監視可能な監視窓が設けられている、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記ナットは、前記監視窓の開口部を塞ぐ蓋体を備える、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記監視窓は、前記ねじ軸の前記ねじ溝における少なくとも一方のフランクを監視可能である、
請求項1または請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記監視窓は、径方向外方へ向かって次第に広がるテーパ形状とされている、
請求項1~3のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記ナットは、複数の前記監視窓を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記監視窓は、前記ナットにおける周方向の異なる位置に配置されている、
請求項5に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記監視窓は、前記ナットにおける前記循環路での高荷重位置の近傍に設けられている、
請求項1~6のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットにそれぞれ設けられたねじ溝にボールを入れ、ねじ軸またはナットが回転したときにボールが自転及び公転することで回転運動を高効率に直線運動に変換する装置である。
【0003】
ところで、射出成形機やプレス機などにおける力の伝達機構として使用されるボールねじ装置では、一方向の高荷重を受けながら短いストロークで往復運動する場合が多く、片側のフランクのみにボールが接触する状態になりやすい。
【0004】
このため、外部からの荷重やねじ軸とナットとの温度差による荷重分布異常等によりねじ軸のねじ溝がはく離を起こし、結果的に循環部品の損傷やボールが転動しなくなるロックが発生し、装置の正常稼働と装置の安全面に影響を及ぼすおそれがある。また、短いストロークのためにねじ軸のストローク部分がナットから完全に露出されず、ねじ軸のねじ溝におけるはく離などの異常を早期に検出することが困難である。
【0005】
このため、高荷重で使用されるボールねじ装置においては、ねじ軸のねじ溝におけるはく離などの異常状態を早期に検出することが求められている。
【0006】
ここで、特許文献1には、予圧が与えられるボールねじ装置において、内部のボールの移動状況、組立時におけるボールや保持器ピースのつめ忘れ、保持器ピースの倒れや異物の混入などを判別可能な監視窓を設けることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、近接センサ等の非接触式のセンサをナットに設け、このセンサによってボール戻し路内を転動するボールの異常を検出するボールねじ装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-196717号公報
【特許文献2】特許第6163759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、予圧が与えられるボールねじ装置において内部のボールの移動の状況等が確認可能な特許文献1に記載の技術では、例えば、一方向のみに高荷重を受ける無予圧のボールねじ装置において、そのねじ軸のねじ溝におけるはく離等の異常を検出することは困難である。
【0010】
また、特許文献2に記載の技術では、非接触式のセンサを用いて、ボールの転動状態を確認して間接的にボールねじ装置の故障を検出している。しかし、ねじ軸におけるねじ溝のはく離等の異常は、初期状態ではボールの転動状態に異常が生じにくいため、このねじ溝のはく離等の異常の初期状態を検出することは難しい。
【0011】
しかも、特許文献2に記載の技術では、高価な非接触式のセンサやアンプが必要なため、装置全体のコストが嵩張ってしまう。また、センサからの検出信号に基づいて異常を検出するシステムが必要となるため、過酷な環境で使用されるボールねじ装置には適さない。
【0012】
そこで本発明は、コストを抑えつつ、ねじ軸のねじ溝に生じる異常を迅速に検出することが可能なボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は下記構成からなる。
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
前記ナットに設けられ、前記転動路を繋いで前記ボールが循環可能な循環路を形成する循環部と、
を備え、
前記ナットには、前記循環路から外れた位置に、径方向に貫通して前記ねじ軸の前記ねじ溝を監視可能な監視窓が設けられている、
ボールねじ装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストを抑えつつ、ねじ軸のねじ溝に生じる異常を迅速に検出することが可能なボールねじ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るボールねじ装置の斜視図である。
図2】第1実施形態に係るボールねじ装置の平面図である。
図3】第1実施形態に係るボールねじ装置の一部を断面視した側面図である。
図4図2におけるA-A断面図である。
図5】フランジを有するナットを備えたボールねじ装置の平面図である。
図6】変形例1に係る監視窓を説明するボールねじ装置の平面図である。
図7】変形例2に係る監視窓を説明するボールねじ装置の平面図である。
図8A図7におけるB-B断面図である。
図8B図7におけるB-B断面相当図である。
図9】変形例3に係る監視窓を説明するボールねじ装置の平面図である。
図10A図9におけるC-C断面図である。
図10B図9におけるC-C断面相当図である。
図11】変形例4に係る監視窓を説明するボールねじ装置の平面図である。
図12図11におけるD-D断面図である。
図13】第2実施形態に係るボールねじ装置の平面図である。
図14】第3実施形態に係るボールねじ装置の平面図である。
図15】ボールねじ装置の荷重分布を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係るボールねじ装置を説明する。
図1は、第1実施形態に係るボールねじ装置100の斜視図である。図2は、第1実施形態に係るボールねじ装置100の平面図である。図3は、第1実施形態に係るボールねじ装置100の一部を断面視した側面図である。
【0017】
図1図3に示すように、第1実施形態に係るボールねじ装置100は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、循環部としての複数の循環チューブ40と、を備える。ボールねじ装置100は、予圧が与えられない無予圧式の高負荷ボールねじ装置である。
【0018】
ねじ軸10は、中心軸を中心とした断面円形状に形成され、その外周面に螺旋状の第1ねじ溝(ねじ溝)11が形成されている。
【0019】
ナット20は、略円筒状をなし、その内径はねじ軸10の外径よりも大きく形成されており、ねじ軸10に所定の隙間をもって外嵌している。ナット20の内周面には、ねじ軸10の第1ねじ溝11と等しいリードを有し、第1ねじ溝11と対向する第2ねじ溝(ねじ溝)21が形成されている。そして、ねじ軸10の第1ねじ溝11とナット20の第2ねじ溝21とによって断面略円形状の転動路32が形成され、この転動路32内には、複数のボール30が転動可能に充填配置される。
【0020】
ナット20は、外周面の一部に平面部23を有しており、この平面部23には、2つの循環チューブ(循環部)40が装着されている。これらの循環チューブ40は、ナット20の平面部23にネジ止めされるブラケット41によってナット20に固定されている。
【0021】
循環チューブ40は、その両端が、ナット20に形成されて転動路32に連通する貫通孔(図示略)に接続されている。そして、ねじ軸10を回転させることにより転動路32を移動するボール30は、転動路32から貫通孔を介して循環チューブ40へ入り込み、この循環チューブ40を通って複数リード手前の転動路32へ貫通孔を介して戻される。このように、ボールねじ装置100には、転動路32の一部と循環チューブ40とによってボール30が循環される2つの無限循環路(以下、単に循環路という)34が設けられている。これにより、ナット20に対するねじ軸10の相対的な回転に伴って、複数のボール30が循環路34内を無限循環することにより、ねじ軸10とナット20が軸方向に相対的に直線運動することが可能となる。
【0022】
ナット20には、複数の監視窓50が設けられている。本例では、3つの監視窓50が設けられている。1つの監視窓50は、2つの循環チューブ40の間に配置され、2つの監視窓50は、それぞれの循環チューブ40よりもナット20の端部側に配置されている。これらの監視窓50は、いずれも、循環チューブ40によって形成された循環路34から外れた位置に設けられている。
【0023】
また、監視窓50は、循環チューブ40の装着位置と周方向の同一位置である同一位相位置に形成するのが好ましい。これにより、貫通孔などの循環チューブ40を装着する際の加工と同一工程で監視窓50を形成することができ、加工コストを低減できる。
【0024】
これらの監視窓50は、ナット20を径方向に貫通する平面視長円形状の穴部からなるもので、その長手方向がねじ軸10の第1ねじ溝11に沿うように形成されている。これにより、監視窓50は、その長軸である中心線αが、ボールねじ装置100の軸心との直交線βに対して、第1ねじ溝11のリード角θで傾けられている(図2参照)。なお、監視窓50の平面視における形状としては、長円形状に限らず、円形状、矩形状、多角形状であってもよい。
【0025】
図4は、図2におけるA-A断面図である。
図4に示すように、監視窓50の幅寸法は、第1ねじ溝11の幅寸法以上とされており、第1ねじ溝11を臨む位置に形成されている。これにより、ボールねじ装置100では、監視窓50を通して、ねじ軸10の第1ねじ溝11を目視で監視可能とされている。このように、監視窓50の幅寸法を第1ねじ溝11の幅寸法以上とすることにより、第1ねじ溝11を幅方向にわたって良好に監視でき、第1ねじ溝11の各フランク11a,11bにおける異常を容易に検出できる。なお、第1ねじ溝11の監視は、監視窓50を通して、レーザやCCDなどを用いた監視装置によって行うことも可能である。
【0026】
また、ナット20の外周側における監視窓50の開口部51には、周方向にわたって段差部52が形成されており、この段差部52には、板状の蓋体53が嵌め込まれ、ネジ54によって固定される。これにより、監視窓50は、ナット20の外周側が蓋体53によって封鎖され、監視窓50からの潤滑剤の漏れ及び転動路32への塵埃等の異物の侵入を抑制できる。なお、蓋体52としては、透光性を有する透明プラスチック等の板体を用いるのが好ましい。透光性を有する蓋体53を装着すれば、蓋体53を装着した状態で監視窓50を通して第1ねじ溝11を監視することができる。
【0027】
以上、説明したように、第1実施形態に係るボールねじ装置100によれば、ナット20の監視窓50を通して、常に、ねじ軸10のねじ溝11を目視で監視したり、レーザやCCDなどを用いた監視装置によって監視することができる。これにより、高価な監視システムを用いることによるコストアップを抑えつつ、ねじ軸10に生じるねじ溝11のはく離等の異常を迅速に検出して対処することができる。
【0028】
したがって、特に、過酷な環境において、無予圧でかつねじ軸10のストローク部分がナット20に覆われて完全に露出されない使用状態であっても、メンテナンスタイミングの適切な判断及び早期故障の検知が可能となり、安全性を確保できる。
【0029】
なお、上記第1実施形態のボールねじ装置100では、一端から他端にわたって円筒状のナット20を備えた場合を例示したが、ナット20としては、図5に示すように、一端側にフランジ25を有していてもよい。このフランジ25を有するナット20は、フランジ25が案内対象のハウジングと結合されて固定される。
【0030】
このように、フランジ25を案内対象のハウジングに結合させた状態においても、循環チューブ40とフランジ25との間の循環路43がないエリアにおいて、循環チューブ40とフランジ25との間の監視窓50からねじ軸10の第1ねじ溝11を監視できる。したがって、使用状態においてねじ軸10の第1ねじ溝11を容易に確認できる。これにより、ねじ軸10の第1ねじ溝11を確認するためにナット20をハウジングから取り外す煩雑な作業をなくすことができる。なお、案内対象の機器のハウジングにナット20を取り付けた状態で、外部から直接見える位置に監視窓50を設ければ、監視窓50を通してねじ軸10の第1ねじ溝11を容易に常時監視することができる。
【0031】
次に、監視窓の各種変形例について説明する。
なお、上記第1実施形態と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。また、以下の変形例においては、フランジがないナットにおいて、1つの監視窓を循環チューブの間に設けた構造を例示して説明する。
【0032】
(変形例1)
図6は、変形例1に係る監視窓50Aを説明するボールねじ装置100の平面図である。
図6に示すように、変形例1では、ナット20は、平面視矩形状の監視窓50Aを有している。この監視窓50Aにおいても、その幅寸法は、第1ねじ溝11の幅寸法以上とされており、第1ねじ溝11を臨む位置に形成されている。
【0033】
この変形例1の場合も、監視窓50Aの幅寸法を第1ねじ溝11の幅寸法以上とすることにより、第1ねじ溝11を幅方向にわたって良好に監視でき、第1ねじ溝11の各フランク11a,11bにおける異常を容易に検出できる。
【0034】
(変形例2)
図7は、変形例2に係る監視窓50Bを説明するボールねじ装置100の平面図である。図8Aは、図7におけるB-B断面図である。図8Bは、図7におけるB-B断面相当図である。
図7に示すように、変形例2では、ナット20は、平面視矩形状の監視窓50Bを有している。この変形例2では、監視窓50Bの幅寸法が第1ねじ溝11の幅寸法の略半分とされており、第1ねじ溝11の一方側へ偏った位置に形成されている。
【0035】
図8Aに示すように、監視窓50Bは、第1ねじ溝11の一方のフランク11aを臨む位置に形成されている。これにより、監視窓50Bを通して、ねじ軸10の第1ねじ溝11における一方のフランク11aを監視可能とされている。
【0036】
この変形例2では、例えば、常に転動路32の片側のフランク11aに大きな荷重を受ける場合において、監視窓50Bを通して、大きな荷重を受ける転動路32の片側のフランク11aを重点的に監視することができる。
【0037】
なお、図8Bに示すように、監視窓50Bの形成位置は、第1ねじ溝11の他方のフランク11bを臨む位置に形成してもよい。この場合、監視窓50Bを通して、ねじ軸10の第1ねじ溝11における他方のフランク11bが監視可能となる。
【0038】
(変形例3)
図9は、変形例3に係る監視窓50Cを説明するボールねじ装置100の平面図である。図10Aは、図9におけるC-C断面図である。図10Bは、図9におけるC-C断面相当図である。
図9に示すように、変形例3では、ナット20は、平面視矩形状の監視窓50Cを有している。この変形例3では、監視窓50Cの幅寸法が第1ねじ溝11の幅寸法の略半分とされている。
【0039】
図10Aに示すように、監視窓50Cは、ナット20の径方向に対して、第1ねじ溝11の一方のフランク11aにおけるボール30との接触角φで傾斜され、監視窓50Cを通して、ねじ軸10の第1ねじ溝11における一方のフランク11aが監視可能とされている。
【0040】
この変形例3の場合も、例えば、常に転動路32の片側のフランク11aに大きな荷重を受ける場合において、監視窓50Cを通して、大きな荷重を受ける転動路32の片側のフランク11aを重点的に監視することができる。
【0041】
なお、図10Bに示すように、監視窓50Cは、ナット20の径方向に対して、第1ねじ溝11の他方のフランク11bにおけるボール30との接触角φで傾斜させてもよい。この場合、監視窓50Cを通して、ねじ軸10の第1ねじ溝11における他方のフランク11bが監視可能となる。
【0042】
(変形例4)
図11は、変形例4に係る監視窓50Dを説明するボールねじ装置100の平面図である。図12は、図11におけるD-D断面図である。
図11に示すように、変形例4では、ナット20は、平面視円形状の監視窓50Dを有している。この監視窓50Dは、その内径が、第1ねじ溝11の幅寸法以上とされており、第1ねじ溝11を臨む位置に形成されている。
【0043】
この変形例4では、監視窓50Dの内径を第1ねじ溝11の幅寸法以上とすることにより、第1ねじ溝11を幅方向にわたって良好に監視でき、第1ねじ溝11の各フランク11a,11bにおける異常を容易に検出できる。
【0044】
また、図12に示すように、断面視において、監視窓50Dをナット20の径方向外方へ向かって次第に広がるテーパ形状とするのが好ましい。このような断面形状とすれば、外部から監視窓50Dを通して第1ねじ溝11を監視し易くできる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るボールねじ装置について説明する。
なお、上記第1実施形態と同一構造部分は、同一符号を付して説明を省略する。
図13は、第2実施形態に係るボールねじ装置200の平面図である。
【0046】
図13に示すように、第2実施形態に係るボールねじ装置200は、2つの監視窓50がナット20に設けられている。1つの監視窓50は、2つの循環チューブ40の間に配置されている。また、他の1つの監視窓50は、循環チューブ40とフランジ25との間に配置されている。また、これらの監視窓50は、ナット20における周方向の異なる位置に配置されている。
【0047】
この第2実施形態に係るボールねじ装置200によれば、複数の監視窓50を、ナット20の周方向の異なる位置に設けて違う位相に配置することで、ねじ軸10の第1ねじ溝11の状態を、ナット20の周方向で異なる方向から監視できる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るボールねじ装置について説明する。
なお、上記第1実施形態と同一構造部分は、同一符号を付して説明を省略する。
図14は、第3実施形態に係るボールねじ装置300の平面図である。
【0049】
図14に示すように、第3実施形態に係るボールねじ装置300は、2つの監視窓50がナット20に設けられている。これらの監視窓50は、ボールねじ装置300のナット20における高荷重位置に配置されている。
【0050】
図15は、ボールねじ装置300の荷重分布を説明するグラフであって、フランジ25側を基準としたナット20の一端から他端におけるボール荷重を示している。
図15に示すように、ボールねじ装置300には、ねじ軸10とナット20の温度分布やナット20の変形等によって、内部に不均一な荷重分布が生じ、2つの循環路34において、それぞれナット20の軸方向の両端側が高荷重となっている。このような荷重分布が生じるボールねじ装置300では、各循環路34において、常に高い荷重を受けるストローク範囲の第1ねじ溝11に、潤滑剤の膜切れやはく離がより発生やすい。
【0051】
このため、ボールねじ装置300では、高荷重となる2つの循環路34におけるナット20の軸方向の両端側に、循環路34を避けて監視窓50を設けている。具体的には、1つの監視窓50は、2つの循環チューブ40に対してナット20のフランジ25側の一端寄りに配置され、他の1つの監視窓50は、2つの循環チューブ40に対してフランジ25と反対側の他端寄りに配置されている。
【0052】
このように、ボールねじ装置300では、循環路34における高荷重となる位置の付近に、循環路34を避けて監視窓50を設けることにより、第1ねじ溝11における異常が生じやすい箇所を、監視窓50を通して監視することができ、メンテナンスタイミングの判断及び早期故障の検知をより適切に行うことができる。
【0053】
なお、上記第1~第3実施形態では、循環チューブ40によって循環路43を形成する場合を例示したが、ボール30を循環させる循環方式としてはチューブ式に限らない。循環方式としては、例えば、ボール戻し通路を有する循環こまをナットに装着し、転動路32を移動するボール30をボール戻し通路によって手前の転動路32に戻す循環こま方式でもよい。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
前記ナットに設けられ、前記転動路を繋いで前記ボールが循環可能な循環路を形成する循環部と、
を備え、
前記ナットには、前記循環路から外れた位置に、径方向に貫通して前記ねじ軸の前記ねじ溝を監視可能な監視窓が設けられている、ボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ナットの監視窓を通して、常に、ねじ軸のねじ溝を目視で監視したり、レーザやCCDなどを用いた監視装置によって監視することができる。これにより、高価な監視システムを用いることによるコストアップを抑えつつ、ねじ軸に生じるねじ溝のはく離等の異常を迅速に検出して対処することができる。
したがって、特に、過酷な環境において、無予圧でかつねじ軸のストローク部分がナットに覆われて完全に露出されない使用状態であっても、メンテナンスタイミングの適切な判断及び早期故障の検知が可能となり、安全性を確保できる。
【0056】
(2) 前記ナットは、前記監視窓の開口部を塞ぐ蓋体を備える、(1)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、蓋体によって、ナットの監視窓からの潤滑剤の漏れ及び転動路への塵埃等の異物の侵入を抑制できる。これにより、ナットとねじ軸との円滑な回転動作を維持させることができる。
【0057】
(3) 前記監視窓は、前記ねじ軸の前記ねじ溝における少なくとも一方のフランクを監視可能である、(1)または(2)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、例えば、高荷重となる一方のフランクを監視窓で監視可能にできる。これにより、監視窓の大きさをなるべく小さくできる。
【0058】
(4) 前記監視窓は、径方向外方へ向かって次第に広がるテーパ形状とされている、(1)~(3)のいずれか一つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、監視窓を通してねじ溝を外部から監視し易くできる。
【0059】
(5) 前記ナットは、複数の前記監視窓を有する、(1)~(4)のいずれか一つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ねじ軸のねじ溝の複数箇所の状態を監視でき、広範囲において、ねじ軸に生じるねじ溝のはく離等の異常を迅速に検出して対処することができる。
【0060】
(6) 前記監視窓は、前記ナットにおける周方向の異なる位置に配置されている、(5)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、複数の監視窓を、ナットの周方向の異なる位置に設けて違う位相に配置することで、ねじ軸のねじ溝の状態を、ナットの周方向で異なる方向から監視できる。
【0061】
(7) 前記監視窓は、前記ナットにおける前記循環路での高荷重位置の近傍に設けられている、(1)~(6)のいずれか一つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、高荷重となる箇所に生じやすいねじ溝のはく離等の異常を迅速に検出することができる。これにより、メンテナンスタイミングの判断及び早期故障の検知をより適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
10 ねじ軸
11 第1ねじ溝(ねじ溝)
11a,11b フランク
20 ナット
21 第2ねじ溝(ねじ溝)
30 ボール
32 転動路
40 循環チューブ(循環部)
43 循環路
50,50A,50B,50C,50D 監視窓
51 開口部
53 蓋体
100,200,300 ボールねじ装置
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8A
図8B
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図10A
図10B
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