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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122973
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
H01J61/073 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026761
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】細木 裕介
(72)【発明者】
【氏名】小平 宏
【テーマコード(参考)】
5C015
【Fターム(参考)】
5C015JJ06
(57)【要約】
【課題】放電ランプの電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される整流体などに対し、クラック発生などを抑制する。
【解決手段】放電ランプ10の陽極30内に、密閉空間50を形成し、ランプ点灯時に溶融する伝熱体Mを封入する。また、第1、第2の板状部材40A、40Bを積層させた整流体40を密閉空間50内に配置する。第1、第2の板状部材40A、40Bの厚さT1、T2は相違し、第1の板状部材40Aの方を、第2の板状部材40Bよりも厚みをもたせる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、前記密閉空間内に配置され、
前記整流体において、一方の側面を構成する第1の板状部材が、他方の側面を構成する第2の板状部材と比べて厚みがあることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、前記密閉空間内に配置され、
前記整流体において、一方の側面を構成する第1の板状部材が、他方の側面を構成する第2の板状部材と比べて熱膨張係数が小さいことを特徴とする放電ランプ。
【請求項3】
前記整流体は、複数の板状部材を積層させて成ることを特徴とする請求項1または2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記複数の板状部材は、互いに固相接合されていることを特徴とする請求項3に記載の放電ランプ。
【請求項5】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、前記密閉空間内に配置され、
ランプ点灯時、前記整流体が前記密閉空間内で傾斜した状態において、一方の側面に沿った熱膨張量と他方の側面に沿った熱膨張量との差が抑制されることを特徴とする放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに関し、特に、電極の放熱に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプは、点灯中に電極先端部が高温となり、タングステンなどの電極材料が溶融、蒸発し、放電管が黒化して、ランプ照度低下を招く。電極先端部を含めた電極の過熱を防ぐため、金属などの伝熱体を電極内部に封入する構造が知られている(特許文献1参照)。そこでは、銀などの熱伝導率が高く、比較的融点の低い金属から成る伝熱体が、陽極内に密封されている。ランプ点灯による電極温度上昇に伴って伝熱体が溶融し、液化する。これにより、密閉空間内で熱対流が生じ、電極先端部の熱が反対側の電極支持棒側へ輸送される。
【0003】
また、熱対流を促進するため、電極軸に沿って流路を形成する板状部材(整流体)を密閉空間内に配置する構成(特許文献2参照)、あるいは、伝熱体の熱対流による密閉空間内の温度差に起因する高温クリープ変形が生じるのを防ぐため、溶融した伝熱体が周方向に沿って流動するのを規制する板状部材(規制体)を密閉空間内に配置する構成が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-006246号公報
【特許文献2】特許第6259450号公報
【特許文献3】特開2012-028168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランプ点灯時、溶融した伝熱体の流れによって整流体などに力が作用し、場合によっては傾斜する。整流体などが傾斜すると、密閉空間の底面側と天井面側との間に温度差があるため、整流体などの熱膨張量が、電極軸方向に沿って相違する。そのため、反り等の変形が生じ、整流体などにクラックの発生、破損が生じる恐れがある。
【0006】
したがって、電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される整流体などに対し、クラック発生などを抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である放電ランプは、放電管と、放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、密閉空間内に配置されている。
【0008】
ここでの「整流体」は、密閉空間内における伝熱体の流れに関し、流路の形成や流れる方向のガイド、流れの促進など、流れに関する調整を行うことが可能な部材として構成される。整流体は、複数の部材によって構成され、例えば、複数の板状部材を積層させた構成にすることができる。また、「板状」とは、全体的に外観形状が板状の整流体として構成することが可能であり、T字、十字状など、板状部材を複数組み合わせた外観形状をもつ整流体として構成することも可能である。複数の板状部材は、互いに固相接合させて構成することができる。
【0009】
本発明では、整流体において、一方の側面を構成する板状部材(ここでは、第1の板状部材という)が、他方の側面を構成する板状部材(ここでは、第2の板状部材という)と比べて厚みがある。ここで、「一方の側面」は、ランプ点灯時に整流体が密閉空間内で傾斜した場合、電極先端側の方を向く側面を表し、「他方の側面」は、その反対側の側面、あるいは、電極先端側とは反対側を向く側面を表す。第1の板状部材、第2の板状部材は、そのような側面をそれぞれ構成する。
【0010】
また、本発明の他の一態様である放電ランプでは、整流体において、一方の側面を構成する第1の板状部材が、他方の側面を構成する第2の板状部材と比べて熱膨張係数が小さくなるように構成される。
【0011】
本発明の他の態様である放電ランプでは、板状の整流体が、1つの部材あるいは複数の部材によって構成される。例えば、切削などにより、T字、十字状などの外観形状をもつ一体的な部材も、板状の整流体として含まれる。そして、ランプ点灯時、整流体が密閉空間内で傾斜した状態において、一方の側面に沿った熱膨張量と他方の側面に沿った熱膨張量との差が抑制される構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される整流体などに対し、クラック発生などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態である放電ランプの平面図である。
図2】陽極の概略的断面図である。
図3図2のラインIII-IIIに沿った概略的断面図である。
図4】整流体の長手方向に沿った断面図である。
図5】整流体が傾斜した状態を示した図である。
図6】第2の実施形態である放電ランプの整流体の概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ショートアーク型放電ランプ10は、高輝度の光を出力可能な大型放電ランプであり、透明な石英ガラス製の略球状放電管(発光管)12を備え、放電管12内には、タングステン製の一対の電極20、30が対向(同軸)配置される。放電管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と連設し、一体的に形成されている。放電管12内の放電空間DSには、水銀とハロゲンやアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0015】
陰極である電極20は、電極支持棒17Aによって支持されている。封止管13Aには、電極支持棒17Aが挿通されるガラス管(図示せず)と、外部電源と接続するリード棒15Aと、電極支持棒17Aとリード棒15Aを接続する金属箔16Aなどが封止されている。陽極である電極30についても同様に、電極支持棒17Bが挿通されるガラス管(図示せず)、金属箔16B、リード棒15Bなどのマウント部品が封止されている。また、封止管13A、13Bの端部には、口金19A、19Bがそれぞれ取り付けられている。
【0016】
一対の電極20、30に電圧が印加されると、電極20、30の間でアーク放電が発生し、放電管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、1kW以上の電力が投入される。放電管12から放射された光は、反射鏡(図示せず)によって所定方向へ導かれる。
【0017】
図2は、電極(陽極)30の概略的断面図である。図3は、図2のラインIII-IIIに沿った概略的断面図である。
【0018】
図2に示すように、陽極30は、円筒状胴体部34と、電極先端面30Sを有する円錐台状先端部32から構成される。胴体部34は、電極支持棒17Bが取り付けられている密閉蓋60を接合させた構造であり、ここでは、密閉蓋60を除く胴体部34および先端部32は、タングステンなどの同一金属材料から成形されている。ただし、別素材で成形してもよい。また、密閉蓋60もタングステンなどの同一金属材料で成形してもよい。
【0019】
胴体部34には、内部中央に円柱状の密閉空間50が、電極軸Eに対し同軸的に形成されている。そして、密閉空間50には、伝熱体Mが封入されている。伝熱体Mは、胴体部34、密閉蓋60よりも融点の低い金属(例えば、銀)から成り、ランプ点灯時に溶融して液体となり、密閉空間50内で対流する。図2では、溶融した伝熱体Mが対流している状態を示している。ここでは、伝熱体Mが溶融した状態(ランプ点灯時)において整流体40全体が浸かるように、伝熱体Mが封入されている。
【0020】
密閉空間50には、整流体40が配置されている。整流体40は、ここでは高融点金属(例えばタングステン、モリブデン、タンタルなど)、あるいはカリウム添加物を加えた合金から成り、伝熱体Mの対流を促進する機能(構造)を有する板状部材として構成されている。
【0021】
具体的には、整流体40は、密閉空間50の上下方向、左右方向および周方向(周全体)に関して対流を規制するようなサイズ、形状になっていない。整流体40の上端40Tと密閉空間50の天井面50Tとの距離間隔D1、下端40Dと底面50Bとの距離間隔D2、密閉空間50の電極軸垂直方向に沿った密閉空間側面50Sとの距離間隔D3は、整流体40の側面40S1、40S2に沿った伝熱体Mの流れ、整流体40の上端40T、下端40Dを乗り越えた伝熱体Mの流れを生じさせるように、その距離間隔が確保される。なお、整流体40は密閉空間50に載置してもよく、この場合、距離間隔D2は実質的に無くなる。
【0022】
また、整流体40は、その中心軸が電極軸E付近に沿うように配置される。ただし、伝熱体Mが溶融している状態(ランプ点灯状態)では、整流体40の位置は固定されない。その関係上、図2では、整流体40を便宜上ハッチングによって図示していない。
【0023】
図4は、整流体40の長手方向に沿った断面図である。図5は、整流体40が傾斜した状態を示した図である。図4、5を用いて、本実施形態における整流体40の構成について説明する。ただし、図5では、整流体40の傾きを誇張して描いている。
【0024】
矩形状の整流体40は、ここでは2つの板状部材40A、40B(以下、第1の板状部材、第2の板状部材という)を重ねて接合(溶接、固相接合など)させた構造になっている。第1、第2の板状部材40A、40Bは、そのサイズ(面積)は等しくなるように構成されており、例えば、長手方向長さLは30mm程、全体の厚さTは1mm程度で構成することが可能である。また、第1、第2の板状部材40A、40Bは、同一の素材(ここではタングステン)によって構成される。
【0025】
一方、第1、第2の板状部材40A、40Bの厚さT1、T2は相違し、第1の板状部材40Aの方が、第2の板状部材40Bよりも厚みがある(T1>T2)。ここでは、第1の板状部材40Aの厚さT1は、第2の板状部材の厚さT2の1.1~2.0の範囲内に定められている。
【0026】
このように、厚みの異なる第1、第2の板状部材40A、40Bを積層化させた構造をもつ整流体40によって、以下説明するように、ランプ点灯時に傾斜した場合において整流体40のクラック発生を抑制することができる。
【0027】
ランプ点灯中、整流体40が、第1の板状部材40Aの側面40S1を相対的に高温となる電極先端側に向けて傾斜した場合、第1の板状部材40Aは、密閉空間50の底面50B側に近いため、密閉空間50の天井面50Tに近い第2の板状部材40Bと比べ、受ける熱量が多い。整流体40全体が温度上昇するとみなせば、第1の板状部材40Aと第2の板状部材40Bとの間で温度差が生じる。
【0028】
しかしながら、整流体40の第1の板状部材40Aと第2の板状部材40Bとの間の熱容量は、厚みT1とT2の違いによって相違する。そのため、第1の板状部材40Aが熱膨張によってその側面40S1(長手方向)に沿って延びる量(以下、熱膨張量)が、第2の板状部材40Bの側面40S2に沿って延びる熱膨張量と略等しくなる。あるいは、熱膨張量の差が抑制される。これは、第1の板状部材40Aと第2の板状部材40Bとの接合の仕方に関係なく認められる。
【0029】
したがって、整流体40が傾いたときに電極先端側側面に沿った熱膨張量と電極支持棒側側面に沿った熱膨張量の差に起因して整流体40が反るように変形してクラックが発生するのを抑制することができる。その結果、整流体40がランプ寿命末期までその機能を発揮し、ランプ温度を抑制することができる。
【0030】
なお、整流体40が傾く場合、相対的に重い第1の板状部材40Aが電極先端側へ傾斜するが、確実に傾斜するように、整流体40の第2の板状部材40Bの厚みT2を、密閉空間50の天井面側で薄くするように構成してもよい。
【0031】
次に、図6を用いて、第2の実施形態である放電ランプについて説明する。第2の実施形態では、熱膨張係数の異なる素材を積層させた整流体が構成される。
【0032】
図6は、第2の実施形態である放電ランプの整流体の概略的断面図である。整流体240は、第1の板状部材240A、第2の板状部材240Bを重ねて接合させた構造になっている。第1の板状部材240A、第2の板状部材240Bの厚さT1、T2は等しく、側面に沿った長さLも等しい。
【0033】
一方、第1の板状部材240Aは、第2の板状部材240Bとは異なる素材から成り、第2の板状部材240Bよりも熱膨張係数の小さい素材によって構成されている。例えば、第1の板状部材240Aはタングステン、第2の板状部材240Bはモリブデンで構成される。あるいは、第1の板状部材240Aをタンタル、第2の板状部材240Bをチタンによって構成してもよい。整流体240が傾く場合、第1の板状部材240Aが電極先端側へ傾斜する。
【0034】
このように熱膨張係数の異なる第1の板状部材240A、第2の板状部材240Bによって整流体240を構成することにより、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、仮に整流体240が傾く場合でも、第1の板状部材240Aが電極先端側へ傾斜するように、整流体240の配置や構成素材の重さを調整してもよい。
【0035】
第1、第2の実施形態では、2つの板状部材によって整流体を構成しているが、3つあるいは4つ以上の板状部材を重ねて整流体を構成してもよい。例えば、第1の実施形態の場合、互いに異なる厚みをもつ板状部材を積層させた構成にしてもよく、あるいは、幾つかの板状部材について同じ厚さに定め、段階的に厚みが薄くなるようにしてもよい。
【0036】
また、第2の実施形態の場合、段階的に熱膨張係数が大きくなるように板状部材を積層させてもよく、あるいは、同じ熱膨張係数の板状部材をいくつか重ね、段階的に熱膨張係数が大きくなるようにしてもよい。ランプ点灯中に傾斜した状態になっている整流体に関し、相対する側面(表面)の一方の側面におけるその側面に沿った熱膨張量が、他方の側面における側面に沿った熱膨張量と略等しくなる、あるいは熱膨張量の差が抑制されるように構成すればよい。
【0037】
以上、伝熱体Mの対流を促進する整流体について説明したが、例えば伝熱体Mの周方向の流れを規制するといった部分的に流れを規制する部材を、整流体として構成してもよい。例えば、板状の整流体として、断面十字状、T字状の整流体を構成することが可能である。そして、相対的に高温となる電極先端側に向けて傾斜する部位の厚さや熱膨張係数を調整し、他方の部位との熱膨張量の差が抑制されるように構成すればよい。
【0038】
例えば、断面T字状の整流体を構成する場合、T字状の縦棒部分に相当する第1の板状部材と、T字状の横棒部分に相当する第2の板状部材とで構成する。この場合、第1の板状部材が断面T字状整流体の1つの側面を構成し、第2の板状部材が断面T字状整流体の1つの側面を構成している。
【0039】
そして、整流体が密閉空間内で傾斜する状態を考慮し、第1の板状部材を第2の板状部材よりも厚くする、あるいは、第1の板状部材の熱膨張係数を、第2の板状部材の熱膨張係数よりも小さくする構成にすることが可能である。なお、断面T字状の整流体については、第1の板状部材と第2の板状部材とを互いに嵌め合う構造、あるいは接合する構造にすることが可能であるが、切削加工などにより、厚みを変えながら断面十字状、T字状の形状にすることも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 放電ランプ
30 電極(陽極)
40 整流体
40A 第1の板状部材
40B 第2の板状部材
50 密閉空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6