(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122992
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】船舶推進機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20230829BHJP
B63H 20/32 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B63H20/00 610
B63H20/32 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026787
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】門林 義幸
(72)【発明者】
【氏名】野間 暁裕
(57)【要約】
【課題】電源線の配線を簡素化する。
【解決手段】船外機ECU45はシフトアクチュエータ43を制御する。シフトアクチュエータ43は、プロペラシャフト20の回転力によって発電部49が発電した電力によって、前後進切替機構44を駆動する。発電部49により発電された電力は第1の電源線51を通じてシフトアクチュエータ43に供給される。前後進切替機構44の少なくとも一部、シフトアクチュエータ43の少なくとも一部、発電部49の少なくとも一部、および第1の電源線51は、ロワーケース14内に配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブシャフトと、
プロペラシャフトと、
前記プロペラシャフトを収容するロワーケースと、
前記ドライブシャフトまたは前記プロペラシャフトの回転力によって発電する発電部と、
被駆動部と、
前記被駆動部を駆動する電動アクチュエータと、
前記発電部により発電された電力を前記電動アクチュエータに供給するための第1の電源線と、
前記電動アクチュエータを制御する制御部と、を有し、
前記被駆動部の少なくとも一部、前記電動アクチュエータの少なくとも一部、前記発電部の少なくとも一部、および前記第1の電源線は、前記ロワーケース内に配置される、船舶推進機。
【請求項2】
前記発電部により発電された電力を蓄積するキャパシタと、
前記発電部により発電された電力を前記キャパシタに供給するための第2の電源線と、
前記キャパシタから前記電動アクチュエータへ電力を供給するための第3の電源線と、をさらに有し、
前記キャパシタ、前記第2の電源線および前記第3の電源線は、前記ロワーケース内に配置される、請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項3】
前記キャパシタから前記制御部へ電力を供給するための第4の電源線を有し、
前記制御部および前記第4の電源線は、前記ロワーケース内に配置される、請求項2に記載の船舶推進機。
【請求項4】
前記制御部と前記電動アクチュエータとを接続する信号線を有し、
前記制御部および前記信号線は、前記ロワーケース内に配置される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項5】
前記発電部から前記制御部へ電力を供給するための第5の電源線を有し、
前記制御部および前記第5の電源線は、前記ロワーケース内に配置される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項6】
前記発電部は、コイルとマグネットとを有し、
前記コイルおよび前記マグネットのうち一方が前記ドライブシャフトまたは前記プロペラシャフトと連動して回転する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項7】
前記被駆動部は、シフトを切り替えるシフト切り替え部である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項8】
前記被駆動部は、可変ピッチプロペラである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項9】
前記被駆動部は、アッパーケースに対して前記ロワーケースを前記ドライブシャフトの軸線を中心として揺動自在に連結する連結部である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船舶推進機。
【請求項10】
ドライブシャフトと、
プロペラシャフトと、
前記ドライブシャフトまたは前記プロペラシャフトの回転力によって発電する発電部と、
被駆動部と、
前記被駆動部を駆動する電動アクチュエータと、
前記発電部により発電された電力を前記電動アクチュエータに供給するための第1の電源線と、
前記電動アクチュエータを制御する制御部と、を有する船舶推進機であって、
前記被駆動部の少なくとも一部、前記電動アクチュエータの少なくとも一部、前記発電部の少なくとも一部、および前記第1の電源線は、前記船舶推進機のチルトダウン状態で且つ船舶の航行停止中における喫水線より低い位置に配置される、船舶推進機。
【請求項11】
前記被駆動部の少なくとも一部、前記電動アクチュエータの少なくとも一部、前記発電部の少なくとも一部、および前記第1の電源線は、前記船舶の航行中に水没する領域の内部に配置される、請求項10に記載の船舶推進機。
【請求項12】
前記発電部により発電された電力を蓄積するキャパシタと、
前記発電部により発電された電力を前記キャパシタに供給するための第2の電源線と、
前記キャパシタから前記電動アクチュエータへ電力を供給するための第3の電源線と、をさらに有し、
前記キャパシタ、前記第2の電源線および前記第3の電源線は、前記船舶推進機のチルトダウン状態で且つ前記船舶の航行停止中における喫水線より低い位置に配置される、請求項10または11に記載の船舶推進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源の動力を利用して発電する発電部や、電動アクチュエータによって駆動される被駆動部を、ロワーケースに配置した船舶推進機が知られている。例えば、下記特許文献1では、プロペラシャフトに伝達されたエンジンの動力で電動モータが発電する。電動モータで発電された電力は、船体内に配置されたバッテリに充電される。また、電動アクチュエータとしてのシフト装置は、シフトモータによって動作し、前後進切替機構の状態を切り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バッテリは船内に配置されるので、発電モータとバッテリとを接続する電源線が必要となる。また、リモコン操作に応じてシフトアクチュエータが動作する際、シフトモータの電力を船体から供給するための電源線が必要となる。従って、これらの電源線は、船体からアッパーケース内を通ってロワーケースに配線する必要がある。そのため、電源線の取り回しが複雑となり、船舶推進機の大型化にもつながる。
【0005】
本発明は、電源線の配線を簡素化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様による船舶推進機は、ドライブシャフトと、プロペラシャフトと、前記プロペラシャフトを収容するロワーケースと、前記ドライブシャフトまたは前記プロペラシャフトの回転力によって発電する発電部と、被駆動部と、前記被駆動部を駆動する電動アクチュエータと、前記発電部により発電された電力を前記電動アクチュエータに供給するための第1の電源線と、前記電動アクチュエータを制御する制御部と、を有し、前記被駆動部の少なくとも一部、前記電動アクチュエータの少なくとも一部、前記発電部の少なくとも一部、および前記第1の電源線は、前記ロワーケース内に配置される。
【0007】
この構成によれば、被駆動部を駆動する電動アクチュエータと発電部とが、ロワーケース内で第1の電源線により配線される。従って、電源線を、船体からアッパーケース内を通ってロワーケースに配線する必要がない。よって、電源線の配線を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電源線の配線を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】前後進切替機構およびクラッチ機構の構成を説明するための模式的な部分拡大図である。
【
図4】前後進切替機構およびクラッチ機構の構成を説明するための模式的な部分拡大図である。
【
図5】前後進切替機構およびクラッチ機構の構成を説明するための模式的な部分拡大図である。
【
図6】第2の実施の形態における船外機の下部の模式的な左側面図である。
【
図7】第3の実施の形態における船外機の下部の模式的な左側面図である。
【
図8】第4の実施の形態における船外機の下部の模式的な左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進機の模式的な左側面図である。
図2は、船舶推進機としての船外機3の下部の模式的な左側面図である。
【0012】
以下では、基準姿勢の船外機3について説明する。基準姿勢は、エンジン8の回転軸線(クランクシャフト11の回転軸線)が鉛直方向に延び、エンジン8の回転軸線に直交するプロペラシャフト20の回転軸線が前後方向に延びる姿勢である。
【0013】
図1に示すように、船舶H0は、船体H1と、船体H1を推進させる船外機3とを含む。船外機3は、懸架装置2によって船体H1の後部に取り付けられている。船外機3は、さらに、船体H1に対して船外機3を左右に回動させるステアリング装置99と、船体H1に対して船外機3を上下に回動させるチルト装置100とを含む。
【0014】
懸架装置2は、船尾に取付可能なクランプブラケット4と、クランプブラケット4に保持されたスイベルブラケット6と、スイベルブラケット6に保持されたステアリングシャフト7とを含む。スイベルブラケット6は、左右方向に延びるチルティングシャフト5の周りにクランプブラケット4に対して回転可能である。ステアリングシャフト7は、上下方向に延びており、その軸線まわりにスイベルブラケット6に対して回転可能である。
【0015】
船外機3は、船体H1の後方に配置されている。船外機3は、ステアリングシャフト7と共にステアリングシャフト7の軸線周りに回転可能であり、船体H1に対してチルティングシャフト5の軸線周りに回転可能である。
【0016】
船外機3は、ケーシングとして、エンジン8を収容するカウル10と、エンジン8の下方に配置されたエギゾーストガイド12と、エギゾーストガイド12の下方に配置されたアッパーケース13と、アッパーケース13の下方に配置されたロワーケース14とを有する。エンジン8は、エギゾーストガイド12の上に配置されている。エンジン8は、プロペラ18を回転させる動力を発生させる。エンジン8の回転動力は、プロペラシャフト20を介してプロペラ18に伝達される。
【0017】
図2に示すように、エンジン8の下方において、ドライブシャフト29が上下方向に延びている。ドライブシャフト29の下端部に前後進切替機構44(被駆動部;シフト切り替え部)が連結されている。ドライブシャフト29は、アッパーケース13およびロワーケース14にかけて配置されている。前後進切替機構44およびプロペラシャフト20は、ロワーケース14内に配置されている。プロペラシャフト20は、ロワーケース14内に収容され、前後方向に延びている。プロペラ18は、プロペラシャフト20の後端部に取り付けられており、ロワーケース14内の後方に配置されている。プロペラ18は、プロペラシャフト20と共に正転方向または逆転方向に回転する。前後進切替機構44の詳細は
図3~
図5で説明する。
【0018】
エンジン8は、一定の回転方向にドライブシャフト29を回転させる。前後進切替機構44は、正転方向の回転がドライブシャフト29からプロペラシャフト20に伝達される前進状態と、逆転方向の回転がドライブシャフト29からプロペラシャフト20に伝達される後進状態とに切り替わる。前後進切替機構44は、ドライブシャフト29からプロペラシャフト20への回転の伝達が遮断される中立状態にも切り替わる。船外機3のシフトアクチュエータ43は、前後進切替機構44の状態を切り替えることにより、エンジン8からプロペラ18に伝達される回転の方向を切り替える。船外機3は、船外機ECU(Electronic Control Unit)45を有する。
【0019】
船体H1にはリモコンユニット101およびリモコンECU107が配置されている(
図1)。リモコンユニット101は、操作レバー102と、レバー位置センサ106とを有する。操作レバー102はユーザにより傾倒操作される。操作レバー102は、船舶推進機1の出力を調整する際に操作され、且つ、船舶H0の前進および後進を切り替えるときに操作される操作部材である。リモコンユニット101は、操作レバー102に代えて、互いに独立したスロットル操作部材およびシフト操作部材を備えていてもよい。
【0020】
操作レバー102は、中立位置から前後方向に傾倒可能である。ここでいう中立位置は、船外機3が推力を発生しない原点位置である。レバー位置センサ106は、操作レバー102の操作位置を検出する。リモコンECU107は、レバー位置センサ106による検出結果に応じて、前後進切替機構44のシフト位置を変更させるシフト変更信号またはエンジン8の出力を変更させる出力変更信号を船外機ECU45(
図2)に出力する。船外機ECU45は、リモコンECU107から入力された信号に基づいて、前後進切替機構44のシフト切り替えおよびエンジン8の出力変更を制御する。
【0021】
このほか、図示しないが、船外機3は、スロットルアクチュエータ、燃料供給装置、エンジン8の回転速度を検出する速度センサ、スタータモータ等を備える。また、リモコンユニット101から船外機ECU45への信号線や、船体H1に配置された電源から船外機ECU45への電源線は、アッパーケース13内を通って配線される。
【0022】
次に、
図2を参照して、主要な構成要素の構成および配置について説明する。
【0023】
ロワーケース14内には、発電部49が配置されている。発電部49は、プロペラシャフト20の回転力によって発電する発電モータである。発電部49は、いずれもプロペラシャフト20の周囲に配置されたコイル47とマグネット48とを有する。マグネット48は、プロペラシャフト20に対して固定され、プロペラシャフト20と連動して回転する。コイル47は、ロワーケース14に対して固定され、マグネット48はコイル47に対して相対的に回転可能である。
【0024】
ロワーケース14内には、キャパシタ46が配置されている。キャパシタ46は、発電部49により発電された電力(電気)を蓄積する。ロワーケース14内には、シフトアクチュエータ43が配置されている。シフトアクチュエータ43は、前後進切替機構44を駆動する電動アクチュエータである。制御部としての船外機ECU45はシフトアクチュエータ43を制御する。船外機ECU45はロワーケース14内に配置されている。
【0025】
発電部49からシフトアクチュエータ43にかけて、第1の電源線51が配線されている。第1の電源線51は、発電部49により発電された電力をシフトアクチュエータ43に供給するための電源線である。発電部49からキャパシタ46にかけて、第2の電源線52が配線されている。第2の電源線52は、発電部49により発電された電力をキャパシタ46に供給するための電源線である。キャパシタ46からシフトアクチュエータ43にかけて、第3の電源線53が配線されている。第3の電源線53は、キャパシタ46からシフトアクチュエータ43へ電力を供給するための電源線である。
【0026】
キャパシタ46から船外機ECU45にかけて、第4の電源線54が配線されている。第4の電源線54は、キャパシタ46から船外機ECU45へ電力を供給するための電源線である。発電部49から船外機ECU45にかけて、第5の電源線55が配線されている。第5の電源線55は、発電部49により発電された電力を船外機ECU45に供給するための電源線である。
【0027】
また、船外機ECU45とシフトアクチュエータ43とは信号線56によって接続されている。船外機ECU45からの制御信号は、信号線56を通じてシフトアクチュエータ43に供給される。
【0028】
初期状態のように、エンジン8が動作していない状態では、船外機ECU45へはキャパシタ46から電力が供給される。また、発電部49による発電が不十分の場合に、キャパシタ46から船外機ECU45およびシフトアクチュエータ43へ電力が供給される。
【0029】
このように、船外機ECU45、キャパシタ46、発電部49およびシフトアクチュエータ43はいずれも、ロワーケース14内に位置している。また、電源線51~55、および信号線56はいずれも、ロワーケース14内で配線されており、アッパーケース13内に存在していない。電源線51~55および信号線56の配線がロワーケース14内で完結するので、配線が簡素化されている。
【0030】
図3~
図5は、前後進切替機構およびクラッチ機構の構成を説明するための模式的な部分拡大図である。
【0031】
前後進切替機構44は、シフトリンク機構24およびクラッチ機構22を含む。シフトリンク機構24は、シフトスライダ21、シフトロッド31、リンクアーム32、プッシャー33を含む。クラッチ機構22は、ドライブギヤ36、前進側ドリブンギヤ37、後進側ドリブンギヤ38、ドッグクラッチ39を含む。エンジン8とクラッチ機構22とはドライブシャフト29で連結されている。
【0032】
シフトアクチュエータ43は、シフトモータ(不図示)の作動によって発生する油圧を利用してシフトロッド31を上下動させる。なお、シフトアクチュエータ43は、シフトモータの回転をボールねじによってシフトロッド31の上下動へ機械的に変換する構成であってもよい。
【0033】
シフトリンク機構24において、シフトロッド31がL字状のリンクアーム32の一端に接続される一方、シフトスライダ21の先端がプッシャー33を介してリンクアーム32の他端に接続される。リンクアーム32はシフトロッド31の上下動をプッシャー33の前後動へ変換することにより、シフトスライダ21を軸方向に移動させる。
【0034】
クラッチ機構22は、いずれもベベルギヤであるドライブギヤ36、前進側ドリブンギヤ37および後進側ドリブンギヤ38を有すると共に、円筒状のドッグクラッチ39を有する。ドライブギヤ36は、ドライブシャフト29の下端部に固定されてドライブシャフト29とともに回転する。前進側ドリブンギヤ37は、プロペラシャフト20を内包するように配置される。後進側ドリブンギヤ38は、前進側ドリブンギヤ37と正対するように配置される。ドッグクラッチ39は、プロペラシャフト20の軸方向(以下、単に軸方向という)において前進側ドリブンギヤ37と後進側ドリブンギヤ38との間に配置される。
【0035】
ドッグクラッチ39は、プロペラシャフト20を内包するように配置されるスリーブ状の部材である。ドッグクラッチ39の内周面には軸方向に延伸する複数の溝が設けられ、各溝は、プロペラシャフト20の外周から突出して軸方向に延伸する複数の突起と係合する。これにより、ドッグクラッチ39は、プロペラシャフト20とともに回転するとともに、プロペラシャフト20に対して軸方向へ相対的に移動することができる。前進側ドリブンギヤ37におけるドッグクラッチ39との対向面には複数の歯が設けられ、ドッグクラッチ39における前進側ドリブンギヤ37と対向する端部(前端)にも複数の歯が設けられる。また、後進側ドリブンギヤ38におけるドッグクラッチ39との対向面には複数の歯が設けられ、ドッグクラッチ39における後進側ドリブンギヤ38と対向する端部(後端)にも複数の歯が設けられる。なお、ドッグクラッチ39は、不図示の機構を介して、シフトリンク機構24により、シフトスライダ21とともに軸方向に移動される。
【0036】
クラッチ機構22では、前進側ドリブンギヤ37と後進側ドリブンギヤ38のいずれもがドライブギヤ36と常時係合し、ドライブギヤ36によってプロペラシャフト20の軸周りに回転駆動される。しかし、前進側ドリブンギヤ37及び後進側ドリブンギヤ38は間にドライブギヤ36を挟むように正対して配置されるため、前進側ドリブンギヤ37と後進側ドリブンギヤ38は互いに逆方向に回転する。
【0037】
図3は、シフト状態が、エンジン8からの駆動力がプロペラ18へ伝達されない中立状態にある場合を示している。この中立状態では、シフトリンク機構24のシフトロッド31が上下に移動可能な範囲における中間位置に位置する。ドッグクラッチ39が前進側ドリブンギヤ37及び後進側ドリブンギヤ38のいずれとも係合しないように、シフトスライダ21及びドッグクラッチ39は軸方向に移動可能な範囲における中間位置に位置する。
【0038】
図4は、シフト状態が、エンジン8からの駆動力がプロペラ18へ伝達される前進状態にある場合を示している。この前進状態では、シフトリンク機構24のシフトロッド31が上方へ移動する。ドッグクラッチ39の前端の歯が前進側ドリブンギヤ37の対向面の歯と係合するように、シフトスライダ21及びドッグクラッチ39が軸方向の前方(図中左方向)へ移動する。
【0039】
このとき、エンジン8の駆動力は、ドライブシャフト29、ドライブギヤ36、前進側ドリブンギヤ37、ドッグクラッチ39を介してプロペラシャフト20へ伝達され、プロペラ18を正回転させる。前進状態ではプロペラ18が正回転するため、船舶H0は前進のみ行うことができる。
【0040】
図5は、シフト状態が、エンジン8からの駆動力がプロペラ18へ伝達される後進状態にある場合を示している。この後進状態では、シフトリンク機構24のシフトロッド31が下方へ移動する。ドッグクラッチ39の後端の歯が後進側ドリブンギヤ38の対向面の歯と係合するように、シフトスライダ21及びドッグクラッチ39が軸方向の後方(図中右方向)へ移動する。
【0041】
このとき、エンジン8の駆動力は、ドライブシャフト29、ドライブギヤ36、後進側ドリブンギヤ38、ドッグクラッチ39を介してプロペラシャフト20へ伝達され、プロペラ18を逆回転させる。後進状態ではプロペラ18が逆回転するため、船舶H0は後進のみ行うことができる。
【0042】
本実施の形態によれば、プロペラシャフト20の回転力によって発電部49が発電した電力でシフトアクチュエータ43を動作させて前後進切替機構44を駆動するように構成された。そして、前後進切替機構44、シフトアクチュエータ43、発電部49および第1の電源線51がロワーケース14内に配置された。
【0043】
仮に、シフトアクチュエータ43を動作させるための電力を船体H1に設けたバッテリから供給するように構成すると、電源線を、船体H1からアッパーケース13内を通ってロワーケース14に配線する必要がある。そのため電源線の取り回しが長く、複雑となり、船外機3の大型化につながる。しかし、発電部49からシフトアクチュエータ43への第1の電源線51の配線をロワーケース14内で完結できることから、レイアウトが容易となり、電源線の配線を簡素化することができる。また、船外機3の大型化の抑制に寄与する。
【0044】
また、船外機3は、発電部49により発電された電力を蓄積するキャパシタ46を有する。発電部49により発電された電力は第2の電源線52を通じてキャパシタ46に供給され、キャパシタ46からシフトアクチュエータ43へは第3の電源線53を通じて電力が供給される。従って、発電部49による発電が不十分な状態でも前後進切替機構44を駆動することができる。
【0045】
また、キャパシタ46から船外機ECU45へ電力を供給するための第4の電源線54が設けられたので、エンジン8が動作していない初期状態や、発電部49による発電が不十分の場合であっても、キャパシタ46からの電力で船外機ECU45を動作させることができる。
【0046】
しかも、キャパシタ46、船外機ECU45、第2の電源線52、第3の電源線53および第4の電源線54もロワーケース14内に配置されたので、電源線52、53、54の配線を簡素化することができる。
【0047】
また、船外機ECU45とシフトアクチュエータ43とを接続する信号線56もロワーケース14内に配置され、発電部49から船外機ECU45へ電力を供給するための第5の電源線55もロワーケース14内に配置された。従って、信号線56、第5の電源線55の配線を簡素化することができる。
【0048】
なお、第1の電源線51をロワーケース14内に配置するためには、前後進切替機構44、シフトアクチュエータ43、発電部49の各々については、少なくとも一部がロワーケース14内に配置される構成であってもよい。
【0049】
なお、発電部49の用途として、船舶H0の停泊中に、プロペラシャフト20が潮流・水流によって回転する場合、その回転によって発電部49が発電し、さらにキャパシタ46に蓄電されるようにしてもよい。
【0050】
なお、配線が簡素されるためには、配線がなるべく短くなるように各構成要素を配置すればよい。この観点からは、前後進切替機構44、船外機ECU45、キャパシタ46、発電部49およびシフトアクチュエータ43や、電源線51~55、信号線56は、ロワーケース14内に配置されることは必須でない。
【0051】
図1に示すように、船舶H0の航行中に水没する領域と水没しない領域との境界線をL2とする。船外機3のチルトダウン状態で且つ船舶H0の航行停止中における喫水線をL1とする。前後進切替機構44の少なくとも一部、シフトアクチュエータ43の少なくとも一部、発電部49の少なくとも一部、および第1の電源線51は、船外機3内において、喫水線L1より低い位置に配置されてもよい。より好ましくは、前後進切替機構44の少なくとも一部、シフトアクチュエータ43の少なくとも一部、発電部49の少なくとも一部、および第1の電源線51は、境界線L2より低い位置、すなわち船外機3内における、船舶H0の航行中に水没する領域の内部に配置されてもよい。
【0052】
なお、電動アクチュエータ、被駆動部は、シフトアクチュエータ43、前後進切替機構44に限定されず、電動アクチュエータ、被駆動部および発電部49の配置位置も例示したものに限定されない。このような変形例として、第2、第3、第4の実施の形態を説明する。
【0053】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態における船外機3の下部の模式的な左側面図である。
【0054】
本実施の形態では、第1の実施の形態(
図2)に対し、電動アクチュエータとして、シフトアクチュエータ43に代えて翼角変節部143が適用される。被駆動部として、前後進切替機構44に代えてプロペラ18が適用される。本実施の形態においては、プロペラ18は、翼角変節部143によって翼角を変節される可変ピッチプロペラである。翼角変節部143および可変ピッチプロペラの構成には公知のものを採用することができる。水平線Lxは、境界線L2または喫水線L1のいずれでもよい。
【0055】
電源線52、54、55の構成およびこれらの配線態様は第1の実施の形態と同様である。第1の電源線51-2は、発電部49により発電された電力を翼角変節部143に供給するための電源線である。第3の電源線53-2は、キャパシタ46から翼角変節部143へ電力を供給するための電源線である。船外機ECU45と翼角変節部143とは信号線56-2によって接続されている。翼角変節部143、第1の電源線51-2、第3の電源線53-2、信号線56-2は、ロワーケース14内に配置され、且つ、水平線Lx(境界線L2または喫水線L1)より低い位置に配置されている。
【0056】
本実施の形態によれば、電源線の配線を簡素化することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0057】
(第3の実施の形態)
図7は、本発明の第3の実施の形態における船外機3の下部の模式的な左側面図である。
【0058】
本実施の形態では、第1の実施の形態(
図2)に対し、電動アクチュエータとして、シフトアクチュエータ43に代えて転舵機構アクチュエータ243が適用される。被駆動部として、前後進切替機構44に代えてロワー転舵機構244が適用される。ロワー転舵機構244には公知の構成を採用することができる。ロワー転舵機構244は、ドライブシャフト29の軸線C1を中心として、アッパーケース13に対して相対的に、ロワーケース14を左右に揺動自在に連結する連結部である。転舵機構アクチュエータ243はロワー転舵機構244を駆動し、アッパーケース13に対してロワーケース14を相対的に左右に揺動させる。
【0059】
電源線52、54、55の構成およびこれらの配線態様は第1の実施の形態と同様である。第1の電源線51-3は、発電部49により発電された電力を転舵機構アクチュエータ243に供給するための電源線である。第3の電源線53-3は、キャパシタ46から転舵機構アクチュエータ243へ電力を供給するための電源線である。船外機ECU45と転舵機構アクチュエータ243とは信号線56-3によって接続されている。転舵機構アクチュエータ243の少なくとも一部、ロワー転舵機構244の少なくとも一部、第1の電源線51-3、第3の電源線53-3、信号線56-3は、ロワーケース14内に配置され、且つ、水平線Lx(境界線L2または喫水線L1)より低い位置に配置されている。
【0060】
本実施の形態によれば、電源線の配線を簡素化することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0061】
なお、転舵機構アクチュエータ243およびロワー転舵機構244の全体が、ロワーケース14内に配置されてもよいし、水平線Lx(境界線L2または喫水線L1)より低い位置に配置されてもよい。
【0062】
(第4の実施の形態)
図8は、本発明の第4の実施の形態における船外機3の下部の模式的な左側面図である。
図8においては、シフトアクチュエータ43および前後進切替機構44の図示が省略されている。
【0063】
本実施の形態では、第1の実施の形態(
図2)に対して発電部の配置が異なっており、発電部49-4が採用される。発電部49-4は、いずれもドライブシャフト29の周囲に配置されたコイル47-4とマグネット48-4とを有する。マグネット48-4は、ドライブシャフト29に対して固定され、ドライブシャフト29と連動して回転する。コイル47-4は、ロワーケース14に対して固定され、マグネット48-4はコイル47-4に対して相対的に回転可能である。従って、発電部49-4は、ドライブシャフト29の回転力によって発電する。
【0064】
電源線53、54の構成およびこれらの配線態様は第1の実施の形態と同様である。第1の電源線51-4は、発電部49-4により発電された電力をシフトアクチュエータ43に供給するための電源線である。第2の電源線52-4は、発電部49-4により発電された電力をキャパシタ46に供給するための電源線である。第5の電源線55-4は、発電部49-4により発電された電力を船外機ECU45に供給するための電源線である。
【0065】
発電部49-4、シフトアクチュエータ43、前後進切替機構44、第1の電源線51-4、第2の電源線52-4、第5の電源線55-4は、ロワーケース14内に配置され、且つ、水平線Lx(境界線L2または喫水線L1)より低い位置に配置されている。
【0066】
本実施の形態によれば、電源線の配線を簡素化することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0067】
なお、発電部49-4の少なくとも一部が、ロワーケース14内に配置されてもよいし、水平線Lx(境界線L2または喫水線L1)より低い位置に配置されてもよい。
【0068】
なお、上記各実施の形態において、発電部のコイルまたはマグネットのうち、プロペラシャフト20(またはドライブシャフト29)に対して固定されて連動して回転するのは、コイルまたはマグネットのいずれでもよい。従って、コイル47、47-4がそれぞれ、プロペラシャフト20、ドライブシャフト29に固定され、マグネット48、48-4がロワーケース14に固定されてもよい。また、発電部がプロペラシャフト20またはドライブシャフト29に対して設けられる位置は例示した位置に限定されず、回転力を受ける位置であればよい。
【0069】
本発明が適用される船舶推進機は船外機に限られず、船内外機(スターンドライブ、インボードモータ・アウトボードドライブ)や船内機(インボードモータ)にも本発明を適用することができる。
【0070】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【0071】
例えば、発電部の配置として第4の実施の形態(
図8)を採用し、被駆動部としてプロペラ18(
図6)またはロワー転舵機構244(
図7)を採用してもよい。
【0072】
なお、本発明は、ハイブリッド型の船舶推進機のほか、電動船舶推進機にも適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
H0 船舶、 3 船外機、 14 ロワーケース、 20 プロペラシャフト、 29 ドライブシャフト、 43 シフトアクチュエータ、 44 前後進切替機構、 45 船外機ECU、 49、49-4 発電部、 51、51-2、51-3、51-4 第1の電源線