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  • 特開-二酸化炭素の分離回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123011
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20230829BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20230829BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026821
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】591203473
【氏名又は名称】一般社団法人セメント協会
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC05
4D002AC10
4D002CA01
4D002CA06
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA32
4D002FA01
4D002FA07
4D002FA08
4D002GA01
4D002GB02
4D002GB03
4D002GB08
4D002GB20
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020BC02
4D020CB01
4D020CB08
4D020CB25
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB03
4D020DB07
4D020DB20
(57)【要約】
【課題】混合ガス中の二酸化窒素が二酸化炭素の分離回収性能に与える影響を抑制する。
【解決手段】所定温度Tで、二酸化炭素および二酸化窒素を含む混合ガスと、アミン化合物とを接触させ、二酸化炭素由来の中間体を生成させ、混合ガスから中間体を分離する工程と、続いて、中間体から二酸化炭素を再生させ、回収する工程と、を具備し、混合ガスは、二酸化窒素を10ppm以上含み、アミン化合物の式:α=Ccm/(Cbc+Ccn)で示される分離吸収剤特性αが、0.05≦α≦0.5を満たし、式中、Ccm、CbcおよびCcnは、それぞれ所定温度Tで混合ガスをアミン化合物と接触させたときに、中間体として生成する、カルバメートアニオン、重炭酸イオンおよび炭酸イオンの平衡濃度または平衡量である、二酸化炭素の分離回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定温度Tで、二酸化炭素および二酸化窒素を含む混合ガスと、アミン化合物とを接触させ、前記二酸化炭素由来の中間体を生成させ、前記混合ガスから前記中間体を分離する工程と、
続いて、前記中間体から二酸化炭素を再生させ、回収する工程と、
を具備し、
前記混合ガスは、二酸化窒素を10ppm以上含み、
前記アミン化合物の式:
【化1】
で示される分離吸収剤特性αが、0.05≦α≦0.5を満たし、
前記式中、Ccm、CbcおよびCcnは、それぞれ前記所定温度Tで前記混合ガスを前記アミン化合物と接触させたときに、前記中間体として生成する、カルバメートアニオン、重炭酸イオンおよび炭酸イオンの平衡濃度または平衡量である、二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項2】
前記混合ガスは、二酸化炭素を3モル%以上含む、請求項1に記載の二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項3】
前記混合ガスは、酸素を4モル%以上含む、請求項1または2に記載の二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項4】
前記混合ガスを前記アミン化合物の水溶液と接触させ、前記中間体を前記水溶液中で生成させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項5】
前記水溶液に対し、加熱および減圧の少なくとも一方の操作を施して、前記二酸化炭素を再生させる、請求項4に記載の二酸化炭素の分離回収方法。
【請求項6】
前記混合ガスは、二酸化窒素を100ppm以上含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素および窒素酸化物を含む混合ガスからの二酸化炭素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の社会活動に付随する温室効果ガスの排出量の急激な増加は、地球温暖化の原因の一つである。2016年に発効されたパリ協定に従い、主要な温室効果ガスである二酸化炭素の排出量の削減へ向けた対策が急務となっている。二酸化炭素の排出量の削減を実現する有効な手段は、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製鉄所の高炉、セメント工場のキルン等から排出される燃焼排ガスである混合ガスから二酸化炭素を分離回収することである。回収された二酸化炭素を、圧縮し、輸送後、地下に圧入する一連の二酸化炭素分離回収貯留(Carbon dioxide Capture and Storage)技術(CCS)は実用段階まできている。
【0003】
CCSの商用化促進のためには、経済性に見合うコスト削減が要求される。分離回収、圧縮、輸送、圧入の各工程を比較した場合、CCSの実施コストのうち分離回収に係るコストは約6割を占める。特に二酸化炭素の分離回収剤を用いたプロセスでは、熱および電気エネルギーの消費がコストの支配因子であるため、エネルギー効率の向上に向けた取り組みとして分離回収剤の開発が行われてきた。
【0004】
例えば、特許文献1は、エネルギー消費を削減可能な二酸化炭素の分離回収剤として、高性能なアミン化合物を提案している。そのような技術によれば、二酸化炭素の分離回収に係るコストを標準的技術の半分程度にまで削減することができる。エネルギー消費の削減による低コスト化の技術革新が進んだことは、CCSの実用化に向けた飛躍的進歩であった。
【0005】
しかし、そのような進歩は、更なる分離回収コストの削減において、新たな課題を顕在化させた。つまり、二酸化炭素の分離回収コストの支配因子として、エネルギー消費以外の因子が相対的に重要度を増したのである。中でも、混合ガス中に含まれる不純物の影響を低減する必要性が高まっている。
【0006】
特許文献1には、「二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外に水蒸気、CO、HS、COS、SO、NO、水素等のガスが含まれていてもよい」との記述がある。しかし、これは当時の技術背景を反映した既述である。当時は、発生源で発生した混合ガスに既存の環境対策技術を施し、不純物を除去した後の混合ガスから二酸化炭素を分離回収することが行われていた。その場合、不純物が二酸化炭素の分離回収コストに与える影響は、エネルギー消費の影響に比べて非常に小さく、無視できる程度であった。
【0007】
特許文献2では、二酸化炭素の分離回収設備の前段に、混合ガス中の窒素酸化物を除去する除去装置を設置するプロセスが提案されている。混合ガス中に二酸化窒素を含む窒素酸化物が存在し、かつ二酸化炭素の分離回収に化学吸収液を用いる場合、化学吸収液中に窒素酸化物に起因する生成物が蓄積するのを抑制する必要があるためである。
【0008】
特許文献3では、二酸化炭素の分離回収に固体材料である吸着材を用いる場合に、吸着塔に導入される混合ガス中の窒素酸化物を予め除去するために、脱硝装置を設置することが提案されている。
【0009】
一方、近年は、混合ガス中の不純物の影響を小さくして、二酸化炭素の分離回収技術の健全性を高め、更なるコスト低減を達成する必要性が高まっている。燃料の燃焼に必要な空気は酸素と窒素によって構成されている。燃焼に必要な相当量の空気中に含まれる大量の窒素からは、必然的に窒素酸化物が生成する。つまり、燃料の燃焼後に排出される混合ガス中には高濃度で窒素酸化物が含まれている。中でも二酸化窒素は、二酸化炭素と同様に酸性ガスであり、二酸化炭素の分離回収に与える影響が大きいため、その影響を低減する対策が必要となる。そのような必要性は、燃料由来の不純物が発生しない場合でも、空気中の酸素を燃焼に用いる場合には常に生じ得る。
【0010】
窒素酸化物への対策は、特にセメント工場における二酸化炭素の分離回収の実用化促進において重要である。セメント工場のキルンから発生する排ガス中の窒素酸化物の平均的濃度は250ppm程度と高濃度であるため、二酸化炭素の分離回収を行う場合には、脱硝設備が必須となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2013/118819号
【特許文献2】特開2013-244454号公報
【特許文献3】特開2017-164683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
混合ガスからの二酸化炭素の分離回収において、常に高性能の脱硝設備の設置を強いることは、コスト面で現実的ではない場合がある。また、脱硝設備を設けたとしても、脱硝処理によって混合ガス中の窒素酸化物を全て取り除くことはできない。そのため、アミン化合物を用いて混合ガスから二酸化炭素を分離回収する場合、混合ガス中の窒素酸化物によるアミン化合物の劣化もしくは変質を抑制することが求められる。特にセメント工場の燃焼排ガスである混合ガス中の窒素酸化物の濃度は、250ppm程度と高いため、窒素酸化物によるアミン化合物の劣化もしくは変質を抑制する必要性は一層高くなる。
【0013】
本開示は、二酸化炭素および窒素酸化物を含む混合ガスからの二酸化炭素の分離回収方法において、アミン化合物を用いる場合に、窒素酸化物を原因とするアミン化合物の劣化を抑制することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、混合ガス中に含まれる窒素酸化物のうち、アミン化合物の劣化に大きく影響する二酸化窒素に注目した。そして、二酸化窒素の濃度が高い場合であっても、所定の指標をもとに選定されたアミン化合物を用いることで、アミン化合物の劣化もしくは性能低下を抑制できることを見出した。ここで用いる指標は、二酸化炭素とアミン化合物との相互作用により生成する中間体の成分組成から算出される。
【0015】
すなわち、本発明の一側面は、所定温度Tで、二酸化炭素および二酸化窒素を含む混合ガスと、アミン化合物とを接触させ、前記二酸化炭素由来の中間体を生成させ、前記混合ガスから前記中間体を分離する工程と、続いて、前記中間体から二酸化炭素を再生させ、回収する工程と、を具備し、前記混合ガスは、前記二酸化窒素を10ppm以上含み、前記アミン化合物の式:
【0016】
【化1】
【0017】
で示される分離吸収剤特性αが、0.05≦α≦0.5を満たし、前記式中、Ccm、CbcおよびCcnは、それぞれ前記所定温度Tで前記混合ガスを前記アミン化合物と接触させたときに、前記中間体として生成する、カルバメートアニオン、重炭酸イオンおよび炭酸イオンの平衡濃度または平衡量である、二酸化炭素の分離回収方法に関する。
【0018】
前記混合ガスは、例えば二酸化炭素を3モル%以上含んでもよい。
【0019】
前記混合ガスは、例えば酸素を4モル%以上含んでもよい。
【0020】
前記混合ガスを前記アミン化合物の水溶液と接触させて、前記中間体を前記水溶液中で生成させてもよい。
【0021】
前記水溶液に対し、加熱および減圧の少なくとも一方の操作を施して、前記二酸化炭素を再生させてもよい。
【0022】
前記混合ガスは、前記二酸化窒素を100ppm以上含んでもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アミン化合物の耐久性が高められるため、混合ガス中の二酸化窒素が二酸化炭素の分離回収に与える影響が抑制される。よって、アミン化合物による二酸化炭素の高い回収性能を長く維持することができ、二酸化炭素の分離回収に係るコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】アミン化合物の分離吸収剤特性α=Ccm/(Cbc+Ccn)と、二酸化炭素の吸収速度と回収量およびアミン化合物の劣化率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る二酸化炭素の分離回収方法の実施形態について説明するが、二酸化炭素の分離回収方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
以下の説明では、具体的な数値、材料等を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値、材料等を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の二酸化炭素の分離回収方法の構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0027】
本発明は、主に以下の知見に基づいて成された発明である。アミン化合物の水溶液中で二酸化炭素を分離回収する場合、以下のようなメカニズムで二酸化炭素からカルバメートアニオン、重炭酸イオンまたは炭酸イオンの3種類のいずれかが中間体として生成すると考えられる。ここでは、R1はアルキル基、R2はアルキル基または水酸基を示す。
【0028】
<カルバメートアニオンの生成>
2R1R2NH(アミン化合物)+CO
→R1R2NH (プロトン化カチオン)+R1R2COO(カルバメートアニオン) (1)
【0029】
式(1)は、2つのアミン化合物で二酸化炭素を捕獲する反応である。一方のアミン化合物のプロトンHが他方に移動し、プロトンを失ったアミン化合物に二酸化炭素が取り込まれる。
【0030】
<重炭酸イオンの生成>
R1R2NH(アミン化合物)+CO+H
→R1R2NH (プロトン化カチオン)+HCO (重炭酸イオン) (2)
【0031】
式(2)は、アミン化合物と二酸化炭素と水が関与する反応である。水の電離で生成する水酸化物イオン(OH)が二酸化炭素と結合し、プロトンHがアミン化合物に取り込まれる。
【0032】
<炭酸イオンの生成>
HCO +H
→2H+CO 2-(炭酸イオン) (3)
【0033】
これら3種の中間体の生成挙動は、二酸化窒素からの攻撃に影響される。本発明者らは、13C-NMR測定を利用して、アミン化合物による二酸化炭素の分離回収性能に対する二酸化窒素(NO)の影響を、中間体の生成挙動に関連づけて定量的に評価した。評価結果の考察から、カルバメートアニオンに対する重炭酸イオンおよび炭酸イオンの比率が所定範囲内であるときに、二酸化窒素(NO)の影響を受けにくく、アミン化合物の二酸化炭素の分離回収性能と劣化に対する耐久性とをバランスよく達成できることを見出した。
【0034】
すなわち、本実施形態に係る二酸化炭素の分離回収方法は、所定温度Tで、二酸化炭素および二酸化窒素を含む混合ガスと、アミン化合物とを接触させ、二酸化炭素由来の中間体を生成させ、混合ガスから中間体を分離する工程と、続いて、中間体から二酸化炭素を再生させ、回収する工程と、を具備し、水溶液中のアミン化合物の分離吸収剤特性α(=Ccm/(Cbc+Ccn))は、0.05≦α≦0.5を満たす分離回収方法である。
【0035】
Ccm、CbcおよびCcnは、それぞれ所定温度Tで混合ガスをアミン化合物と接触させたときに生成するカルバメートアニオン、重炭酸イオンおよび炭酸イオン(中間体)の平衡濃度または平衡量である。平衡濃度とは、mol/Lを単位とする濃度を意味し、平衡量とはmolを単位とする物質量またはそれと相関のある値を意味する。所定温度Tは、混合ガスとアミン化合物とを接触させる温度(つまり中間体の生成雰囲気の温度)である。
【0036】
以下、本実施形態の一例について詳細を説明する。ここでは、二酸化炭素と窒素酸化物とを含み、二酸化窒素の濃度がモル基準で10ppm以上である混合ガスからアミン化合物の水溶液を用いて二酸化炭素を分離回収する方法について説明する。ただし、アミン化合物の利用形態は、これに限定されない。
【0037】
アミン化合物の水溶液を用いて二酸化炭素を分離回収する一般的なプロセスでは、混合ガス中の二酸化炭素を吸収塔等でアミン化合物の水溶液に吸収させる工程が行われる。その際、カルバメートアニオン、重炭酸イオンまたは炭酸イオンの3種類のいずれか(通常は3種共)が中間体として生成する。
【0038】
アミン化合物の水溶液に二酸化炭素を吸収させる工程では、諸条件が設備に応じて設定される。そのような条件において、水溶液中のアミン化合物の分離吸収剤特性α(=Ccm/(Cbc+Ccn))が、0.05≦α≦0.5を満たす場合、アミン化合物の二酸化炭素の分離回収性能と劣化に対する耐久性とがバランスよく達成される。
【0039】
具体的には、カルバメートアニオンが多い場合には、アミン化合物と二酸化窒素との反応性が高くなり、アミン化合物と二酸化窒素とが結合して安定な塩が形成される。安定な塩が形成されると、アミン化合物による二酸化炭素の吸収サイトが減少する。すなわち、アミン化合物の劣化が進行する。また、カルバメートアニオンを経由する二酸化炭素の吸収では、2つのアミン化合物で二酸化炭素を1つしか捕捉できない。一方、分離吸収剤特性αの上限を0.5以下とすることで、アミン化合物の劣化が顕著に抑制され、かつ、カルバメートアニオンを経由する二酸化炭素の吸収量が減少し、重炭酸イオンを経由する反応が優先的に進行するようになり、アミン化合物の利用効率も向上する。ただし、αが0.05未満になると、二酸化炭素の吸収速度が顕著に低下し、かつ理由は定かではないがアミン化合物の劣化が進行しやすくなる。
【0040】
混合ガスをアミン化合物の水溶液と接触させて、中間体を水溶液中で生成させる場合、所定温度Tは、混合ガスと接触しているアミン化合物の水溶液の温度、もしくは、アミン化合物の水溶液と混合ガスとの混合物の温度であり得る。
【0041】
Ccm、CbcおよびCcnは、水溶液の温度以外に、混合ガスの圧力、混合ガスの流量などの影響も受ける。従って、各設備において0.05≦α≦0.5が満たされるように温度Tを含む諸条件が設定される。換言すれば、アミン化合物の水溶液に二酸化炭素を吸収させる工程は、0.05≦α≦0.5が満たされるように諸条件を設定するプロセスを含み得る。
【0042】
アミン化合物を含む水溶液に混合ガスガスを接触させる方法の具体例としては、例えば、水溶液に混合ガスをバブリングさせる方法、混合ガスの気流中に水溶液を噴霧もしくはスプレーする方法、吸収塔内で混合ガスと水溶液とを向流接触させる方法などによって行い得る。
【0043】
所定温度Tで、混合ガスとアミン化合物とを接触させ、二酸化炭素由来の中間体を生成させることで、混合ガスから中間体を分離することができる。このとき、混合ガスをアミン化合物の水溶液と接触させて、中間体を水溶液中で生成させてもよい。その場合、所定温度Tは、混合ガスと接触しているアミン化合物の水溶液の温度でもある。
【0044】
所定温度Tは、例えば60℃以下の温度であり、50℃以下が望ましく、例えば40℃±3℃でもよい。
【0045】
二酸化炭素を分離回収する対象となる混合ガス(二酸化炭素、二酸化窒素、酸素および水蒸気を含む混合ガス)は、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、工場の蒸気ボイラー、セメント工場のキルン、大型施設の熱電供給設備等からの排ガスなどが挙げられる。特に、脱硝設備が設置されていないか、設置されていても脱硝後に10ppm以上の二酸化窒素を含む混合ガスを対象とする。中でも、セメント工場からの排ガスには100ppm以上の二酸化窒素が含まれ得る。すなわち、混合ガスは、二酸化窒素を10ppm以上の濃度で含み得る。
【0046】
混合ガス中の二酸化炭素の分圧は、特に限定されないが、セメント工場などから排出される混合ガスは大気中に比べて相当に高濃度の二酸化炭素を含む。混合ガス中の二酸化炭素の分圧は、例えば3kPa~30kPaであり、10kPa~25kPaでもよい。混合ガス中の二酸化炭素のモル基準での濃度は、例えば、3モル%以上でもよく、10モル%以上でもよい。
【0047】
混合ガスの組成は、特に限定されないが、二酸化炭素と二酸化窒素の他に、例えば、酸素、水蒸気などを含み得る。
【0048】
混合ガス中の酸素の分圧は、特に限定されないが、例えば4kPa~15kPaであり、8kPa~12kPaでもよい。混合ガス中の酸素のモル基準での濃度は、例えば、4モル%以上でもよく、8モル%以上でもよい。
【0049】
混合ガス中の水蒸気の分圧は、特に限定されないが、例えば1kPa~20kPaであり、5kPa~15kPaでもよい。
【0050】
アミン化合物の水溶液におけるアミン化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、20質量%~70質量%でもよく、30質量%~50質量%でもよい。アミン化合物の濃度は、アミン化合物の種類、分離吸収剤特性α、物性から計算される劣化度などを考慮して適宜選択される。
【0051】
続いて、中間体から二酸化炭素を再生させ、回収する工程が行われる。例えば、二酸化炭素を吸収した水溶液は、再生塔等へ送液され、リボイラーからの蒸気等により加熱されたり、水溶液の雰囲気が減圧されたりする。その際、中間体から二酸化炭素が再生され、二酸化炭素が気相中に放散されるので、高純度の二酸化炭素を回収することができる。二酸化炭素の再生と同時に、アミン化合物が再生される。再生されたアミン化合物は、吸収塔等に送液され、循環利用される。
【0052】
二酸化炭素を吸収させたアミン化合物の水溶液を加熱する場合、水溶液を70℃以上の温度に加熱してもよい。水溶液の温度が高くなるほど、中間体がアミン化合物から脱離しやすく、再生されやすい。二酸化炭素を吸収させたアミン化合物の水溶液を80℃以上、更には90℃以上で加熱してもよく、90℃~120℃に加熱してもよい。これにより、アミン化合物からの中間体の脱離を促進することができる。なお、アミン化合物の水溶液の沸点は120℃以上になり得るため、大気圧下でも沸騰させずに120℃に加熱することができる。
【0053】
アミン化合物を含む水溶液の加熱は、蒸留と同じように加熱して釜で泡立てて二酸化炭素を脱離させる方法、棚段塔、スプレー塔、磁製や金属網製の充填材の入った脱離塔内で液接触界面を広げて加熱する方法などを採用してもよい。これにより、カルバメートアニオン、重炭酸イオンなどから二酸化炭素が再生して放出される。
【0054】
二酸化炭素を再生させるときのアミン化合物の水溶液の雰囲気の圧力は、ほぼ大気圧で行ってよい。二酸化炭素の回収を促進するために雰囲気を減圧してもよい。釜、棚段塔、スプレー塔、脱離塔などの内空間で二酸化炭素を再生させる場合は、内空間の圧力を大気圧より高めてもよい。
【0055】
回収された二酸化炭素の純度は、例えば、95~99.9体積%程度と極めて高くなり得る。高濃度の二酸化炭素は、現在技術開発されつつあるCCSを適用して地下等へ隔離貯蔵することが可能である。また、回収した二酸化炭素を化学品、高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等としても用い得る。
【実施例0056】
次に、本発明について実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
まず、各指標の評価方法について説明する。なお、使用したアミン化合物は、以下の通りである。アミン化合物は、東京化成株式会社等の試薬メーカー品で、純度99%以上である。水にはイオン交換水を用いた。
【0058】
MEA:モノエタノールアミン
PAE:2-プロピルアミノエタノール
IPAE:2-イソプロピルアミノエタノール
AMP:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール
【0059】
<分離吸収剤特性α>
(NMR分析サンプルの調製)
ガラス製反応容器内にアミン化合物の質量濃度が30%の水溶液50gを注液した後、反応容器内上部の気体を窒素ガスで置換した。反応容器内の水溶液を40℃に保持し、0.14L/分の流量の炭酸ガスおよび0.56L/分の流量の窒素ガスを反応容器内の水溶液に1時間吹き込み、二酸化炭素を水溶液に吸収させた。
【0060】
(NMR分析)
調製したサンプル中のカルバメートアニオン、重炭酸イオンおよび炭酸イオンの量を、NMR分光計(JNM-ECA400、日本電子株式会社(JEOL))を使用して室温で分析した。
【0061】
ロック信号を改善するために、DO試薬を各サンプル500μLに添加し、次に13C-NMRスペクトルを100MHzで記録した。定量的スペクトルは、30秒の遅延、9μsのパルス幅、400スキャンの逆ゲートデカップリング技術を使用して取得した。
【0062】
<二酸化炭素の吸収速度>
アミン化合物の水溶液による二酸化炭素の吸収速度の測定は、所定の二酸化炭素吸収放散装置を用いて行った。二酸化炭素吸収放散装置は、炭酸ガスボンベ(純度99.9%)、窒素ガスボンベ(純度99.9%)、炭酸ガス流量コントローラー、窒素ガス流量コントローラー、ガラス製反応容器(0.25L)、撹拌翼、温度調整器、ガス流量計、チラー、二酸化炭素濃度計(YOKOGAWA製IR100)を順次接続して構成した。ガラス製反応容器は温浴に設置し、温度制御した。
【0063】
ガラス製反応容器内にアミン化合物の質量濃度が30%の水溶液50gを加えた後、反応容器内上部の気体を窒素ガスで置換した。反応容器内の水溶液を40℃に保持し、0.14L/分の流量の炭酸ガスおよび0.56L/分の流量の窒素ガスを反応容器内の水溶液に1時間吹き込み、二酸化炭素の吸収試験を実施した。
【0064】
試験中は、反応容器からの排出ガスを二酸化炭素濃度計により分析し、二酸化炭素濃度計から得られる二酸化炭素濃度の経時変化から水溶液への二酸化炭素の溶解量を求めた。水溶液による二酸化炭素の吸収速度は、二酸化炭素の吸収開始10分間における単位時間当たりの二酸化炭素溶解量変化として定義した。
【0065】
発明者らの知見によれば、吸収速度が4.4(g-CO/L/min)以上であれば、吸収塔の商用設備設計が可能である。
【0066】
<二酸化炭素の回収量>
二酸化炭素の回収量は、二酸化炭素の気液平衡測定装置による測定結果から求めた。吸収装置本体は、容積1Lのガラス製オートクレーブ反応器である。常温から200℃までの温度制御が可能である。試験方法は、オートクレーブ中にアミン化合物の質量濃度が30%の水溶液を入れて、温度と圧力を一定に保持し、所定の二酸化炭素分圧の混合ガスを連続的に供給する方法である。
【0067】
反応器から排出される混合ガス中の二酸化炭素濃度が供給ガスと同じになったことを確認した後に、水溶液をサンプリングし、溶解した二酸化炭素量を全有機炭素計(株式会社島津製作所製)により、アミン化合物の水溶液に含まれる全有機炭素を測定する。ここでは、40℃および120℃で、二酸化炭素濃度が20%の大気圧混合ガスを装置に供給し、二酸化炭素の平衡吸収量を測定した。二酸化炭素の回収量は、温度40℃および120℃の条件で測定した二酸化炭素の平衡吸収量の差とした。気相圧力は全圧で0.1MPaである。
【0068】
発明者らの知見によれば、回収量が0.5(g-CO/mol-amine)以上であれば、吸収塔の商用設備設計が可能である。
【0069】
<劣化率>
劣化率はアミン化合物の水溶液を対象に、以下の式から評価した。
【0070】
(アミン化合物の減少量)=(アミン化合物の総括物質移動係数)×(気液接触面積)×(二酸化窒素分圧)×(時間)
【0071】
評価条件は実験室規模である。濃度5mol/L(質量濃度約30~50%)のアミン化合物の水溶液430mLに対して、モル基準で、二酸化炭素20%、二酸化窒素(NO)500ppm、酸素10%の混合ガスを400時間吹込む系を想定して、上記物性を用いた式から減少量を計算により求め、初期アミン化合物量に対する減少量の割合を劣化率として求めた。
【0072】
各アミン化合物の分離吸収剤特性α、二酸化炭素の吸収速度、回収量および劣化率の評価結果を表1に示す。また、分離吸収剤特性αと、二酸化炭素の吸収速度、回収量および劣化率との関係を図1に示す。図1より、αが0.05~0.5の範囲で劣化率が低く、かつ二酸化炭素の吸収速度と回収量のバランスが良いことが理解できる。
【0073】
【表1】
【0074】
<IPAE水溶液の耐久性実験>
二酸化炭素、窒素ガス、酸素を含む混合ガスを、濃度5mol/Lのアミン化合物(2-イソプロピルアミノエタノール、広栄化学工業株式会社製、純度99%以上)の水溶液を充填した反応器に所定時間吹き込む暴露試験を実施した。反応器は、温度と圧力が制御可能なオートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製)を使用し、400mLのアミン化合物の水溶液を充填した。
【0075】
試験条件は大気圧、60℃で、混合ガスの組成は、モル基準で、二酸化炭素:20%、酸素:10%、二酸化窒素(NO):500ppmである。アミン化合物の水溶液と接する気相には水蒸気が含まれる。
【0076】
曝露試験の前後で、アミン化合物の水溶液中のアミン化合物量をガスクロマトグラフ分析によって定量し、試験前のアミン化合物量に対する試験後のアミン化合物の減少量の割合を劣化率として求めた。430時間の暴露試験から、劣化率1.0%の結果を得た。
【0077】
物性から計算で得られた劣化率2.2%は実験値1.0%よりも大きくなっているが、気液接触面積等の条件が必ずしも実験と一致していないことを考慮すると、物性からの計算値は妥当な評価値である。
【0078】
劣化率が2.8%以下であれば十分に小さいと言える。劣化率2.8%以下は、標準的なモノエタノールアミンの劣化率の半分未満の劣化率であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示に係る二酸化炭素の分離回収方法によれば、混合ガス中の二酸化窒素が二酸化炭素の分離回収性能に与える影響を抑制することができる。すなわち、窒素酸化物を含む混合ガス中の二酸化炭素を低コストで効率的に回収することが可能で、耐久性の高い長期操業が可能な設備を構築することができるようになる。
図1