(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123030
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230829BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230829BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08J3/22 CES
C08L101/00
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026853
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝裕
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA14
4F070AA54
4F070AB01
4F070AB11
4F070AB22
4F070AB24
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB04
4F070FB06
4F070FC06
4J002AA011
4J002BB212
4J002BN151
4J002CB001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG011
4J002CK021
4J002CL011
4J002CL031
4J002CL051
4J002CN011
4J002FB272
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】摺動性、耐摩耗性および外観に優れ、ドライブレンドによって成形加工が可能となる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリアセタール樹脂(POM)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC)、PC・ABSポリマーアロイ(PC/ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、および熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1に記載のマスターバッチ樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性超高分子量ポリエチレン(B)が酸変性超高分子量ポリエチレンである、請求項1または2に記載のマスターバッチ樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)10~90質量%と、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)90~10質量%を含有する請求項1~3のいずれかに記載のマスターバッチ樹脂組成物。(ただし熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)との合計量を100質量%とする。)
【請求項5】
熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物を製造する工程(1)と、
前記工程(1)により得られたマスターバッチ樹脂組成物1~70質量%に対し、さらに熱可塑性樹脂(C)(ただし、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)99~30質量%を加えてドライブレンドして、ドライブレンド樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記工程(2)により得られたドライブレンド樹脂組成物を成形する工程(3)と、
を含む、成形体の製造方法。
(ただしマスターバッチ樹脂組成物とさらに加える熱可塑性樹脂(C)との合計量を100質量%とする。)
【請求項6】
前記ドライブレンド樹脂組成物における、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)の含有率が1~30質量%である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の製造方法により得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、および成形体の製造方法、より詳しくは、マスターバッチ樹脂組成物、およびマスターバッチ樹脂組成物から得られる成形体、およびこの成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂やポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂等に代表されるエンジニアリングプラスチックは、優れた耐熱性、耐油性、成形性、剛性、強靭性等の特徴を有しているため電動工具、一般工業部品、機械部品、電子部品、自動車内外装部品、エンジンルーム内部品、自動車電装部品等の種々の機能部品として広く利用されている。
【0003】
しかしながら、それらの樹脂は、金属材料等に比較すると、摺動特性である摩擦係数が高く、摺動時の発熱により、樹脂自体の溶融、凝着による摩耗が大きく、摺動特性が不充分であった。このため、ポリオレフィン成分等の添加物を配合させて、摺動特性を向上させることが試みられている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル等に配合される摺動特性改良剤として、極限粘度[η]が6dl/g以上の超高分子量ポリエチレンと、極限粘度[η]が0.1~5dl/gのポリエチレンとを含み、かつ前記超高分子量ポリエチレンおよび/またはポリエチレンが不飽和カルボン酸で変性されてなる摺動特性改良剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、成形体の生産性を向上させるため、成形加工の容易性が求められるようになってきた。しかしながら、特許文献1に記載の超高分子量ポリエチレンを含む摺動特性改質剤は分子量が大きい成分を含むため、成形体の原料をドライブレンドしただけで成形加工を行うと、原料が相溶性し難く、成形体の外観が悪化する場合がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、摺動性、耐摩耗性および外観に優れ、ドライブレンドによって成形加工が可能となる樹脂組成物を提供すること、および、これから得られる成形体および成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討を進めた結果、上記課題を解決しうる樹脂組成物および成形体を見出した。
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]に関する。
【0009】
[1]
熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物。
【0010】
[2]
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリアセタール樹脂(POM)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC)、PC・ABSポリマーアロイ(PC/ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、および熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、[1]に記載のマスターバッチ樹脂組成物。
【0011】
[3]
前記変性超高分子量ポリエチレン(B)が酸変性超高分子量ポリエチレンである、[1]または[2]に記載のマスターバッチ樹脂組成物。
【0012】
[4]
前記熱可塑性樹脂(A)10~90質量%と、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)90~10質量%を含有する[1]~[3]のいずれかに記載のマスターバッチ樹脂組成物。(ただし熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)との合計量を100質量%とする。)
【0013】
[5]
熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物を製造する工程(1)と、
前記工程(1)により得られたマスターバッチ樹脂組成物1~70質量%に対し、さらに熱可塑性樹脂(C)(ただし、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)99~30質量%を加えてドライブレンドして、ドライブレンド樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記工程(2)により得られたドライブレンド樹脂組成物を成形する工程(3)と、
を含む、成形体の製造方法。
(ただしマスターバッチ樹脂組成物とさらに加える熱可塑性樹脂(C)との合計量を100質量%とする。)
【0014】
[6]
前記ドライブレンド樹脂組成物における、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)の含有率が1~30質量%である、[5]に記載の製造方法。
[7]
[5]または[6]に記載の製造方法により得られる成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、摺動性、耐摩耗性および外観に優れ、ドライブレンドによって成形加工が可能となる樹脂組成物を提供し、さらにこれから得られる成形体および成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の内容の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されることはない。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0017】
[マスターバッチ樹脂組成物]
本発明のマスターバッチ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)(ただし、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)を除く。)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有する。
以下、本発明のマスターバッチ樹脂組成物について詳細に説明する。
【0018】
<マスターバッチ樹脂組成物の構成成分>
熱可塑性樹脂(A)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)は、後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)ではないことを除いてその種類に制限はなく、また1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ、および任意の比率で併用してもよい。
【0019】
熱可塑性樹脂(A)としては、ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリアセタール樹脂(POM)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC)、PC・ABSポリマーアロイ(PC/ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0020】
上記熱可塑性樹脂(A)は、合成品であってもよいし、市販品であってもよい。
ポリアミド樹脂(PA)としては、脂肪族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂および全芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6(PA6)、ナイロン11(PA11)、ナイロン12(PA12)、ナイロン46(PA46)、ナイロン66(PA66)、ナイロン92(PA92)、ナイロン99(PA99)、ナイロン610(PA610)、ナイロン612(PA612)、ナイロン912(PA912)、ナイロン1010(PA1010)、ナイロン1012(PA1012)、ナイロン6とナイロン12との共重合体(PA6/12)、ナイロン6とナイロン66との共重合体(PA6/66)等が挙げられる。
【0022】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T(PA9T)、ナイロン10T(PA10T)、ナイロン11T(PA11T)、ナイロン12T(PA12T)、ナイロン13T(PA13T)等が挙げられる。
【0023】
全芳香族ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタラミド(商品名ケブラー)等が挙げられる。
ポリアミド樹脂の市販品としては、例えば、東レ株式会社製アミラン CM1007、デュポン社製ザイテル 101L等が挙げられる。
【0024】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)としては、例えば市販品では、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製NOVADURAN(ノバデュラン)、東レプラスチック精工株式会社製TPS-PBT、ポリプラスチックス株式会社製ジュラネックス 500FP等が挙げられる。
【0025】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)としては、例えば市販品では、クラレ株式会社製クラペット、ユニチカ株式会社製ユニチカポリエステル、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製ベルペット等が挙げられる。
【0026】
ポリアセタール樹脂(POM)としては、例えば市販品では、ポリプラスチックス株式会社製ジュラコン M90-44、デュポン社製デルリン、旭化成株式会社製テナック、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユピタール、セラニーズ社製セルコン等が挙げられる。
【0027】
ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)としては、例えば市販品では、テクノポリマー株式会社製テクノABS 150、旭化成株式会社製スタイラック、ダイセルミライズ株式会社製セビアン、デンカ株式会社製マレッカ、東レ株式会社製トヨラック、日本エイアンドエル株式会社製クララスチック、サンタック、テクノUMG株式会社製 UMG ABS、チーメイ社製ポリラック、等が挙げられる。
【0028】
ポリカーボネート樹脂(PC)としては、例えば市販品では、帝人株式会社製パンライト L-1225Y、出光興産株式会社製タフロン、住化ポリカーボネート株式会社製SDポリカ、チーメイ社製ワンダーライト、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ノバレックス、ユーピロン等が挙げられる。
【0029】
PC・ABSポリマーアロイ(PC/ABS)としては、例えば市販品では、帝人株式会社製マルチロン T-2711J等が挙げられる。
ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)としては、例えば市販品では、DIC株式会社製 FZ-2100等が挙げられる。
【0030】
熱可塑性ポリウレタン(TPU)としては、例えば市販品では、BASF社製エラストラン等が挙げられる。
得られる成形体の摺動性および耐摩耗性に優れるという観点から、マスターバッチ樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂(A)としては、ポリアミド樹脂(PA)が好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂(A)は、上述の樹脂以外の樹脂を含んでもよく、その他の樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリブテン等の後述する変性超高分子量ポリエチレン(B)以外のポリオレフィン樹脂;ポリエステル系エラストマー等のポリエステル樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES)、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ロジン系樹脂、環状シクロオレフィン樹脂(COP)、環状シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリスルホン樹脂(PSU)、ポリメタクリレート樹脂(PMMA)等が挙げられる。
【0032】
変性超高分子量ポリエチレン(B)
本発明で用いられる変性超高分子量ポリエチレン(B)は、一般的なポリエチレンに比べて重量平均分子量が大きいポリエチレンを変性した重合体である。
【0033】
変性超高分子量ポリエチレン(B)は、好ましくは、超高分子量ポリエチレンに官能基を導入したものである。官能基は極性基、非極性基のいずれでもよいが、極性基が好ましい。導入される官能基は、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、シラノール基等が挙げられる。
【0034】
変性超高分子量ポリエチレンの中でも、酸変性された超高分子量ポリエチレンであるこが好ましい。酸で変性することで超高分子量ポリエチレンに極性基が導入される。
変性に用いる酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(登録商標)等およびこれらの誘導体が挙げられる。
変性超高分子量ポリエチレン(B)としては、例えば市販品では、三井化学株式会社製 リュブマー(登録商標)LY1040等が挙げられる。
【0035】
<マスターバッチ樹脂組成物の構成>
本発明のマスターバッチ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有する。
【0036】
本発明において、「マスターバッチ」とは、後述の「ドライブレンド」とは異なる形態であり、少なくとも熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを、後述する熱可塑性樹脂(C)と混合するよりも前に押出機等の混錬機を用いて溶融および混錬し、固化および粉砕によって得られる混合物の形態である。得られる形状としては、例えばペレット状、棒状、板状等が挙げられる。
【0037】
熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)との合計量を100質量%とすると、好ましくは、熱可塑性樹脂(A)を10~90質量%、変性超高分子量ポリエチレン(B)を90~10質量%含有する。より好ましくは、熱可塑性樹脂(A)を20~80質量%、変性超高分子量ポリエチレン(B)を80~20質量%含有し、さらに好ましくは熱可塑性樹脂(A)を30~70質量%、変性超高分子量ポリエチレン(B)を70~70質量%含有する。上記範囲にあることで、マスターバッチ樹脂組成物と、その他の樹脂とをドライブレンドして成形することが容易になり、摺動性、耐摩耗性、および外観に優れる成形体を得ることが可能となる。
【0038】
本発明のマスターバッチ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)のみからなるものであっても良く、これらの成分に加えて、前記熱可塑性樹脂(A)にも、変性超高分子量ポリエチレン(B)にも該当しないその他の成分(以下「その他の成分」とも呼ぶ)を含んでもよい。
【0039】
「その他の成分」としては例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、着色剤(染料、顔料等)、帯電防止剤、充填剤(フィラー)、難燃剤、難燃助剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、離型剤、発泡剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、架橋剤、カップリング剤、界面活性剤等の添加剤が挙げられる。
【0040】
このような「その他の成分」は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
本発明のマスターバッチ樹脂組成物に含まれうる「その他の成分」の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果を損なわない範囲内で用途に応じて設定できる。マスターバッチ樹脂組成物に対して、好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0041】
<マスターバッチ樹脂組成物の製造方法>
本発明のマスターバッチ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)と、必要に応じて「その他の成分」とを混合することにより得られる。マスターバッチ樹脂組成物の各成分の混合は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、上記の成分をヘンシェルミキサー等の各種混合機を用いて混合した後、溶融混練することによって行うことができる。前記溶融混錬を行う場合、溶融混錬の温度は、例えば200℃~350℃にて行うことができる。
【0042】
[成形体の製造方法]
本発明の成形体の製造方法は、
熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物を製造する工程(1)と、
前記工程(1)により得られた前記マスターバッチ樹脂組成物1~70質量%に対し、さらに熱可塑性樹脂(C)99~30質量%を加えてドライブレンドして、ドライブレンド樹脂組成物を得る工程(2)と、
前記工程(2)により得られたドライブレンド樹脂組成物を成形する工程(3)と、
を含む。
以下、本発明の成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
<工程(1)>
工程(1)では、熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有するマスターバッチ樹脂組成物を製造する。
工程(1)の方法としては、前述のマスターバッチ樹脂組成物の製造方法に記載の方法と同様の方法を採用することができる。
【0044】
<工程(2)>
工程(2)では、前記工程(1)により得られた前記マスターバッチ樹脂組成物1~70質量%に対し、さらに熱可塑性樹脂(C)99~30質量%を加えてドライブレンドして、ドライブレンド樹脂組成物を得る。(ただしマスターバッチ樹脂組成物と熱可塑性樹脂(C)との合計量を100質量%とする。)
【0045】
ドライブレンドする方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。公知のブレンド方法としては、樹脂同士を袋に入れて手で振る方法、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーおよびヘンシェルミキサー等を用いてブレンドする方法等が挙げられる。用いる樹脂の形状は限定されず、パウダー状であってもペレット状であってもよい。取り扱いの容易性、成形時の樹脂同士の相溶性および得られる成形体の外観という観点から、ペレット状であることが好ましい。
【0046】
<工程(3)>
工程(3)では、工程(2)で得られたドライブレンド樹脂組成物を成形する。
本発明の成形体を成形する方法は特に限定されず、従来公知の成形方法を任意に採用できる。例えば、射出成形法、異形押出成形法、パイプ成形法、チューブ成形法、共押出や押出ラミ成形等の異種成形体の被覆成形法、インジェクションブロー成形法、ダイレクトブロー成形法、Tダイシートまたはフィルム成形法、インフレーションフィルム成形法、プレス成形法等の成形方法を用いることができる。上記成形法を用いることにより、容器状、トレー状、シート状、棒状、フィルム状等の各種用途に応じた成形体の形状や、各種成形体の被覆層等に成形することができる。
【0047】
<ドライブレンド樹脂組成物>
本発明のドライブレンド樹脂組成物は、前記マスターバッチ樹脂組成物1~70質量%対し、さらに熱可塑性樹脂(C)99~30質量%を加えてドライブレンドすることによって得られる。
【0048】
本発明において、「ドライブレンド」とは、前述の「マスターバッチ」とは異なる形態であり、原料となる混合物が溶融しない温度で、攪拌または混合することによって得られる、実質的に均一な状態となった混合物の形態である。
【0049】
更に加える熱可塑性樹脂(C)は、前記で例示した熱可塑性樹脂(A)と同様の樹脂が挙げられる。
マスターバッチ樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(A)と、ドライブレンド樹脂組成物の得るために更に用いられる熱可塑性樹脂(C)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
本発明のドライブレンド樹脂組成物は、前記マスターバッチ樹脂組成物と更に加える熱可塑性樹脂(C)との合計量を100質量%とすると、好ましくは、前記マスターバッチ樹脂組成物を3~60質量%、熱可塑性樹脂(C)を97~40質量%含有する。より好ましくは、前記マスターバッチ樹脂組成物を5~50質量%、熱可塑性樹脂(C)を95~50質量%含有し、さらに好ましくは、前記マスターバッチ樹脂組成物を7~40質量%、熱可塑性樹脂(C)を93~60質量%含有する。上記範囲にあることで、ドライブレンド樹脂組成物を成形することが容易となり、摺動性、耐摩耗性、および外観に優れる成形体を得ることが可能となる。
【0051】
本発明のドライブレンド樹脂組成物は、ドライブレンド樹脂組成物全体における前記変性超高分子量ポリエチレン(B)の含有率が1~30質量%であることが好ましい。前記変性超高分子量ポリエチレン(B)の含有率は、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%であり、特に好ましくは2~15質量%である。
【0052】
[成形体]
本発明の成形体は、前述した本発明のドライブレンド樹脂組成物を含む。
このような本発明の成形体は、前述した本発明のドライブレンド樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
【0053】
本発明の成形体は、前記熱可塑性樹脂(A)と、前記変性超高分子量ポリエチレン(B)とを含有する前記マスターバッチ樹脂組成物と、さらに熱可塑性樹脂(C)をドライブレンドしたドライブレンド樹脂組成物を含むことにより、強度や耐衝撃性等の機械物性を維持しつつ、摺動性、耐摩耗性、外観に優れる。
【0054】
[用途]
本発明の成形体は摺動性および耐摩耗性に優れるため、自動車内装分野、OA機器分野、家電、電気電子分野等の部品として好適に使用できる。
【0055】
具体的には、例えば、鋼管、電線、自動車スライドドアレール等の金属の被覆(積層)、耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウエザストリップ等の各種ゴムの被覆(積層)、ホッパー、シュート等のライニング用、ギアー、カム、プーリー、軸受、ベアリングリテーナー、ドアチェック、ローラー、テープリール、タイミングチェーンガイド用品、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材等の摺動材、ワッシャー、スライダー等の自動車部品等に好適に使用できる。
【0056】
さらに、本発明の成形体は用途に応じて熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(C)から選ばれる少なくとも一方の材質を選択することにより、例えば高温下、高湿下、オイル介在環境、真空下においても高い摺動性を求められる製品として好適に使用することができる。
【実施例0057】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
熱可塑性樹脂(A)および変性超高分子量ポリエチレン(B)として、以下のものを使用した。
【0058】
<熱可塑性樹脂(A)>
・(A-1) ポリアミド6(PA6):宇部興産株式会社製ナイロン6 1013B
【0059】
<変性超高分子量ポリエチレン(B)>
・(B-1) 三井化学株式会社製 変性超高分子量ポリエチレン リュブマー(登録商標)LY1040
【0060】
<熱可塑性樹脂(C)>
・(C-1) ポリアミド6(PA6):宇部興産株式会社製ナイロン6 1013B
・(C-2) ポリアミド6(PA6):宇部興産株式会社製ナイロン6 1022B
【0061】
<製造例1~3>
表1に示す配合量に従い、熱可塑性樹脂(A)と変性超高分子量ポリエチレン(B)を、二軸スクリュー押出機(芝浦機械株式会社製 TEM―26ss)を用いて溶融混練し、マスターバッチ樹脂組成物(X-1)~(X-3)を得た。得られたマスターバッチ樹脂組成物(X-1)~(X-3)について、次の物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
<MFR>
JIS K7210に準拠して、230℃、2.16kg荷重の条件下でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0063】
【0064】
<実施例1>
表2に示す配合量に従い、得られたマスターバッチ樹脂組成物(X-1)を、熱可塑性樹脂(C-1)の入った袋に投入し、目視でペレット同士が混ざることを確認出来るまでドライブレンドした。得られたドライブレンド樹脂組成物から、射出成形機(株式会社日本製鋼所製 J110-AD)を用いて、射出成形温度240℃、金型温度40℃の条件にて多目的試験片、および縦120mm×横130mm×厚さ3mmの平板試験片を作製し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
[評価]
<引張試験>
上記で得られた多目的試験片を用い、ISO-527-1,2に準拠して、引張速度を50mm/minとし、引張降伏点強度、引張破断強度、引張破断伸度を求めた。
【0066】
<シャルピー衝撃強度>
上記で得られた多目的試験片を用い、ISO-179に準拠して、ノッチ付き試験片を用いてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0067】
<曲げ試験>
上記で得られた多目的試験片を用い、ISO-178に準拠して、曲げスパン48.0mm、試験速度5.0mm/minとし、曲げ強度、曲げ弾性率を求めた。
【0068】
<熱変形温度>
上記で得られた多目的試験片を用い、ISO-75-1,2に準拠して、曲げ応力1.80MPaとし、熱変形温度を求めた。
【0069】
<動摩擦係数、比摩耗量および摩擦発熱MAX温度>
上記で得られた縦120mm×横130mm×厚さ3mmの平板試験片を用い、JIS K7218「プラスチックの滑り摩耗試験A法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して動摩擦係数および比摩耗量を測定した。試験条件は、相手材:S45C、速度:50cm/秒、距離:3km、荷重:15kg、測定環境温度:23℃とした。
【0070】
摩擦発熱MAX温度の測定は、相手材であるS45Cに温度測定用の熱電対を設置して、試験中の温度を測定し、試験中の温度上昇時の最高到達温度の値を摩耗発熱MAX温度として記録した。
ここで、動摩擦係数の値が小さいほど、摺動性が良好であることを示す。また比摩耗量および摩耗発熱MAX温度の値が小さいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0071】
<成形体の外観>
上記で得られた縦120mm×横130mm×厚さ3mmの平板試験片を用い、以下の外観評価を行った。
平板試験片を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
〇:平板試験片の表面は、金型表面が転写され、平滑な鏡面状態である。
×:平板試験片の表面は、凹凸が見られる。
【0072】
<実施例2>
表2に示す配合量にしたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
<実施例3~4>
マスターバッチ組成物(X-1)を(X-2)に変更し、表2に示す配合量にしたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
<実施例5~6>
マスターバッチ組成物(X-1)を(X-3)に変更し、表2に示す配合量にしたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
<実施例7~8>
マスターバッチ組成物(X-1)を(X-3)に変更し、熱可塑性樹脂(C-1)を(C-2)に変更し、表2に示す配合量にしたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
<比較例1>
熱可塑性樹脂(C-1)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
<比較例2>
熱可塑性樹脂(C-2)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様に成形体を作製し物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
<比較例3>
表2に示す配合量に従い、変性超高分子量ポリエチレン(B-1)を、熱可塑性樹脂(C-1)の入った袋に投入し、目視で樹脂同士が混ざることを確認出来るまでドライブレンドした。得られたドライブレンド樹脂組成物から、射出成形機(株式会社日本製鋼所製 J110-AD)を用いて、射出成形温度240℃、金型温度40℃の条件にて多目的試験片、および縦120mm×横130mm×厚さ3mmの平板試験片を作製し、物性評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
表2に示されるように、実施例1~8の成形体は、比較例1~2に比べて、強度や耐衝撃性等の機械物性を維持しつつ、摺動性および耐摩耗性に優れていることがわかる。また、実施例1~8の成形体は、原料をドライブレンドして成形を行った比較例3に比べ、摺動性、耐摩耗性、および成形体の外観に優れていることがわかる。