(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123033
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】生体情報計測システムおよび生体情報計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/248 20210101AFI20230829BHJP
【FI】
A61B5/248
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026861
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 淳一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】西野 誠司
(72)【発明者】
【氏名】金高 弘恭
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
4C127FF02
4C127FF07
4C127GG10
4C127GG13
(57)【要約】
【課題】磁気的計測手段を用いて生体における神経発火などの現象の発現の検知精度の向上を図りうる生体情報計測手法を提供する。
【解決手段】磁気センサ1の強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iの第1出力信号i-xおよび第2出力信号i-y、ならびに、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qの第3出力信号q-xおよび第4出力信号q-yからなる出力信号のデータセットが生成される。参照信号に応答しうる第1信号区間T
1における出力信号の時系列からなる第1データセットと、参照信号に応答しえない第2信号区間T
2における出力信号の時系列からなる第2データセットと、が入力データとして機械学習された学習モデルが用いられて、磁気センサ1の出力信号から参照信号に応答した出力信号が識別され、被検査対象の状態が推定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報を計測するためのシステムであって、
磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ検出磁界の同相成分xを有する第1出力信号i-x、当該高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第2出力信号i-y、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の同相成分xを有する第3出力信号q-x、および、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第4出力信号q-y、ならびに、前記第1出力信号i-x、前記第2出力信号i-y、前記第3出力信号q-xおよび前記第4出力信号q-yのそれぞれの時間微分値のうち少なくとも1つの出力信号の時系列からなるデータセットを生成する要素と、
参照信号に応答しうる第1信号区間T1における前記出力信号の時系列からなる第1データセットと、参照信号に応答しえない第2信号区間T2における前記出力信号の時系列からなる第2データセットと、を入力データとして機械学習された学習モデルを用いて、前記磁気センサの出力信号から参照信号に応答した出力信号を識別する要素を備え、
参照信号に応答した出力信号を識別し被検査対象の状態を推定する
生体情報計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報計測システムにおいて、
前記データセットを生成する要素が、前記第4出力信号q-yの時間微分値の出力信号の時系列からなるデータセットを生成する
生体情報計測システム。
【請求項3】
生体情報を計測するための方法であって、
磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ検出磁界の同相成分xを有する第1出力信号i-x、当該高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第2出力信号i-y、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の同相成分xを有する第3出力信号q-x、および、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第4出力信号q-y、ならびに、前記第1出力信号i-x、前記第2出力信号i-y、前記第3出力信号q-xおよび前記第4出力信号q-yのそれぞれの時間微分値のうち少なくとも1つの出力信号の時系列からなるデータセットを生成する工程と、
参照信号に応答しうる第1信号区間T1における前記出力信号の時系列からなる第1データセットと、参照信号に応答しえない第2信号区間T2における前記出力信号の時系列からなる第2データセットと、を入力データとして機械学習された学習モデルを用いて、前記磁気センサの出力信号から参照信号に応答した出力信号を識別する工程と、
参照信号に応答した出力信号を識別し被検査対象の状態を推定する工程と、
を含んでいる
生体情報計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気的計測手段を用いて生体情報を計測するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らにより、脳卒中による片麻痺や脊髄損傷による四肢麻痺のために自発的運動が困難になった筋肉あるいは関節を、本人の意思と努力によってわずかでも動かし、その際に生じる動きの、部位、方向および強さに対応する信号をセンサで検知する技術が提案されている(特許文献1参照)。例えば、手の指などの人体の特定箇所に取り付けられた複数の反射器の位置が、複数のCCDカメラを用いた光学的センサにより計測される。センサの信号レベルに応じて、強度および繰り返し回数が異なるパルス磁場を発生させ、磁気刺激によって筋収縮を生じさせる。この過程が繰り返されて、脳の可塑性が積極的に利用され、新たな神経ネットワークの構築が図られることにより、効果的なリハビリテーションが実施される。
【0003】
また、本発明者らにより、磁気的計測手段を用いて生体情報の計測精度の向上を図りうる生体情報計測システムが提案されている(特許文献2参照)。この生体情報計測システムの磁気センサは、誘電体の基板の上に積層された信号線路層と、接地導体層により構成されている伝送線路と、伝送線路の一端部より構成されている入出力端子と、伝送線路の他端部の一部に積層された軟磁性膜と、を備えている。入射信号が入出力端子を介して伝送線路に送信され、これに応じて伝送線路から入出力端子を介して受信された反射信号が解析されることにより、複数の磁気センサの配置様態に応じた、生体情報を表わす外部磁場の分布様態が高精度に検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5893367号
【特許文献2】特願2019-158120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、生体における神経発火などの現象の発現に応じた磁気センサの出力信号は微弱であり、当該信号とノイズとの区別が困難である場合が多い。
【0006】
そこで、本発明は、磁気的計測手段を用いて生体における神経発火などの現象の発現の検知精度の向上を図りうる生体情報計測手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生体情報計測システムは、
生体情報を計測するためのシステムであって、
磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ検出磁界の同相成分xを有する第1出力信号i-x、当該高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第2出力信号i-y、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の同相成分xを有する第3出力信号q-x、および、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第4出力信号q-y、ならびに、前記第1出力信号i-x、前記第2出力信号i-y、前記第3出力信号q-xおよび前記第4出力信号q-yのそれぞれの時間微分値のうち少なくとも1つの出力信号の時系列からなるデータセットを生成する要素と、
参照信号に応答しうる第1信号区間T1における前記出力信号の時系列からなる第1データセットと、参照信号に応答しえない第2信号区間T2における前記出力信号の時系列からなる第2データセットと、を入力データとして深層学習された学習モデルを用いて、前記磁気センサの出力信号から参照信号に応答した出力信号を識別する要素を備え、
参照信号に応答した出力信号を識別し被検査対象の状態を推定する。
【0008】
本発明の生体情報計測システムによれば、深層学習により学習モデルが確立され、磁気的計測手段を用いて生体における神経発火などの発現の識別精度の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態の生体情報計測システムの構成に関する説明図。
【
図2】本発明の一実施形態の磁気センサの構成に関する説明図。
【
図3】信号線路層の近傍に発生する磁界分布に関する説明図。
【
図4】生体情報計測システムを構成する信号処理装置のブロック図。
【
図5】神経の興奮を表わす磁気信号の検出結果に関する説明図。
【
図6】複数回の刺激に対する神経の興奮による磁気信号波形に関する説明図。
【
図7】参照信号が生体に与えられた際の、当該生体の近傍に配置された磁気センサの出力信号の時系列データの加算平均に関する説明図。
【
図8】第1信号区間T
1および第2信号区間T
2のそれぞれにおける磁気センサの出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の時間波形に関する説明図。
【
図9】CNNによる学習モデルの構築、および、学習モデルを用いた推定方法に関する概念図。
【
図10】12個のデータセット(J-0-0~S-0-5)に対する参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【
図11】学習フェーズにおいて、12個のデータセットの全てを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【
図12】学習フェーズにおいて、信号区間の長さ、つまり入力データの信号サンプル数をパラメータとした教師データを用いた場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【
図13】学習フェーズにおいて、データチャンネル数をパラメータとした入力データを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【
図14】表1に記載の磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の組合せからなる15個のデータセットを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【
図15】従来のTCNと本実施形態のTCNの概念的説明図。
【
図16】従来のTCNと本実施形態のTCNによる学習モデルの参照信号に応答する信号検出の正解率の比較結果に関する説明図。
【
図17】表1に記載の磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の組合せからなる15個のデータセットを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する第1実施形態のCNNと本実施形態のTCNの比較結果に関する説明図。
【
図18】アンサンブル手法を用いた場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1に示されている本発明の一実施形態としての生体情報計測システムは、参照信号発生器20、電極202、磁気センサ1、信号増幅器24、混合器26、濾過器27、信号処理回路28およびデータ解析装置29を備えている。参照信号発生器20、信号増幅器24、混合器26および濾過器27は、後述する信号処理回路200を構成する。ここで、磁気センサ1は、単一の磁気センサをアレイ状に配置した磁気センサアレイであってもよい。
【0011】
参照信号発生器20は、動物の身体の指定箇所、例えば、人間の上皮において尺骨神経Nvが通っている第1指定箇所に配置された電極202を通じて電気刺激または磁気刺激を付与する。尺骨神経Nvが興奮(刺激によって神経細胞の膜電位が活動電位に達すること)し、その活動電位が軸索上を伝導したときに、尺骨神経Nvの近傍に磁界が生じる。また、この磁界の強度は、神経から離れるにつれて急激に減衰する。よって、磁界の分布様態は神経の解剖学的構造、配置および機能状態によって異なる。
【0012】
磁気センサ1は、尺骨神経Nvが通っている第2指定箇所の近傍に配置され、磁気信号を検出する。信号増幅器24は、磁気信号を増幅する。混合器26は、参照信号発生器20の参照信号と、磁気センサ1により検出された磁気信号とを乗算する。濾過器27は、混合器26の出力信号から高周波帯のノイズ成分を除去する。信号処理回路28は、磁気センサ1の強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ検出磁界の同相成分xを有する第1出力信号i-xと、当該高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第2出力信号i-yと、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の同相成分xを有する第3出力信号q-xと、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第4出力信号q-yからなる4つの信号系列による出力信号を生成する。データ解析装置29は、参照信号に応答しうる第1信号区間T1における前記出力信号の時系列からなる第1データセットと、参照信号に応答しえない第2信号区間T2における前記出力信号の時系列からなる第2データセットと、を入力データとして深層学習された学習モデルを用いて、前記磁気センサの出力信号から参照信号に応答した出力信号を識別し、神経または筋肉の解剖学的構造、配置および機能状態を表わす画像を生成する。
【0013】
図2に示されている磁気センサ1は、誘電体基板100と、誘電体基板100の上面に前後に延在する略矩形状に積層された信号線路層110と、誘電体基板100の上面において信号線路層110から左右それぞれに離間して前後に延在する一対の略矩形状の接地導体層121および122と、誘電体基板100の下面に形成された接地導体層124とより構成される伝送線路120の一端部に電気的に接続される入出力端子と、当該伝送線路120の他端部に部分的に積層された軟磁性薄膜140と、薄膜磁石150を備えている。接地導体層124は省略されてもよい。
【0014】
誘電体基板100としては、例えば、半導体系の単結晶シリコン、ゲルマニウム、化合物半導体系のGaAs、GaN、SiC、ZnSe、CdS、ZnO、InP、SiGeおよび/または水晶、サファイヤ、ガラスの他、セラミックス系のアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア、炭化ケイ素、チタニア、イットリア、またはそれらの複合材料からなる基板が用いられてもよい。
【0015】
信号線路層110、接地導体層121、122、124としては、Al、Cu、Au、Pt、Ag、Ti、あるいは、それらの積層薄膜が用いられてもよい。
【0016】
軟磁性薄膜140としては、Co-Fe-Si-B、Co-Nb-Zr系のアモルファス薄膜、Fe-Si、Fe-Zr-N系の微結晶薄膜、あるいは、それらの薄膜の間にSiOなどの薄い絶縁層を挟んで積層した多層薄膜、Ni-Fe、Fe-Si-Al系の結晶性薄膜、さらには、Fe-Si合金、Fe-Co-Ni合金、センダスト合金のバルク材料、Co-Fe-Ni-Si-B、Fe-Co-Ni-Zr、Fe-Ni-B、Co-Fe-Zr、Co-Zr系のアモルファス合金薄帯、軟磁性フェライトからなる薄膜が用いられてもよい。
【0017】
薄膜磁石150としては、Pt-Fe系、SmCo系、Nd-Fe-B系、Sm-Fe-N系、Nd-Fe-N系のスパッタ薄膜、あるいはMn-Al-Co、Co-Pt、Fe-Pt、Fe-Al-Niなどの金属系バルク磁石、酸化物系のフェライト磁石、希土類系のSmCo、Nd-Fe-B磁石が用いられてもよい。
【0018】
軟磁性薄膜140は、信号線路層130の近傍に配置されることが望ましい。
図3には、信号線路層130の近傍に発生する磁界分布が示されている。信号線路層130に高周波電流(角周波数ω)が流れると、
図3に示されているように信号線路層130の周囲に磁界B(ω)が生じる。磁界B(ω)の強さは、信号線路層130から離れるにしたがって急減する。また、電界E(ω)は、信号線路層130と接地導体層121、122との間に強く分布する。伝送線路120の特性インピーダンスは、電界E(ω)および磁界B(ω)の比によって定義され、電界E(ω)および磁界B(ω)が分布する信号線路層110の近傍媒体の誘電率εおよび透磁率μに強く依存する。よって、信号線路層110の近傍に高透磁率の軟磁性薄膜140が配置されることにより、外部磁場に敏感な特性インピーダンスの変化が得られる。この特性インピーダンスの変化を、後述する信号処理を行うことによって、高感度な磁気センサ、あるいは磁気センサアレイが実現される。
【0019】
また、磁気センサは、信号線路層130および接地導体層121、122を有する伝送線路120の終端部が短絡され、当該終端部に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造を有する。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150の磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140は閉磁路構造をなしている。よって、磁気バイアスが軟磁性薄膜140に対して効率よく付与される。
【0020】
磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜140の異方性磁界の大きさと同等であることが望ましい。この異方性磁界の大きさは、軟磁性薄膜140の組成、成膜条件、熱処理条件などで調整することが可能である。また、薄膜磁石150の強さを示す残留磁化も、組成、成膜条件、熱処理条件などで調整することが可能である。
【0021】
図4は、本発明の生体情報計測システムの信号処理回路のブロック図である。信号処理回路200は、高周波信号発生器210、増幅器212、214、216、218、241、242、サーキュレータ220、分配器222、224、226、251、252、混合器231、232、261、262、263、264、参照信号を生成する参照信号発生器20、および低域通過フィルタ271、272、273、274を備えている。低域通過フィルタ271、272、273、274の出力端より、磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ検出磁界の同相成分xを有する第1出力信号i-xと、当該高周波励磁信号に応答する同相成分iであって、かつ当該検出磁界の直交成分yを有する第2出力信号i-yと、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の同相成分xを有する第3出力信号q-xと、当該高周波励磁信号に応答する直交成分qであって、かつ当該検出磁界の直交成分qを有する第4出力信号の時系列からなる4つの信号系列による出力信号が得られる。
【0022】
参照信号発生器20は、
図1の参照信号発生器20により構成され、電極202を介して人体に付与される参照信号を同等の参照信号を生成するように構成されている。第3増幅器216は、
図1の信号増幅器24を構成する。第1混合器231、第2混合器232は、
図1の混合器26を構成する。第1低域通過フィルタ271、第2低域通過フィルタ272、第3低域通過フィルタ273および第4低域通過フィルタ274は、
図1の濾過器27を構成する。
【0023】
高周波信号発生器210により発生された高周波信号は、第1増幅器212より増幅され、第1分配器222を介してサーキュレータ220ならびに第4増幅器218の二方向に同位相で分配される。サーキュレータ220に供給される高周波信号は、第2増幅器214により増幅され、サーキュレータ220のポートp0からポートp1を経由して磁気センサ1、あるいは磁気センサアレイを構成する磁気センサ1の入出力端子に供給される。磁気センサ1によって、高周波信号が(検知対象物が発する)磁気信号で変調された高周波変調信号は、サーキュレータ220のポートp1からポートp2を経由し、第3増幅器216により増幅され、第2分配器224を介して第1混合器231および第2混合器232の二方向に同位相で分配される。
【0024】
一方、第1分配器222から第1混合器231および第2混合器232に供給される高周波信号は、第4増幅器218により増幅され、第3分配器226を介して第1混合器231および第2混合器232の二方向に同相ならびに直交で分配される。第1混合器231の出力信号は、第5増幅器241により増幅され、第4分配器251を介して、第3混合器261および第4混合器262の方向に直交成分および同相成分のそれぞれが分配される。第2混合器232の出力信号は、第6増幅器242により増幅され、第5分配器252を介して、第5混合器263および第6混合器264の方向に直交成分および同相成分のそれぞれが分配される。
【0025】
第3混合器261において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第4分配器251の出力信号は、第1低域通過フィルタ271を介して不要なノイズが除去された後、高周波信号の同相成分であり、かつ、参照信号の直交成分を有する信号(第1出力信号)として出力される。第4混合器262において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第4分配器251の出力信号は、第2低域通過フィルタ272を介し、高周波信号の同相成分であり、かつ、参照信号の同相成分を有する信号(第2出力信号)をとして出力される。第5混合器263において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第5分配器252の出力信号は、第3低域通過フィルタ273を介し、高周波信号の直交成分であり、かつ、磁気信号の同相成分を有する信号(第3出力信号)として出力される。第6混合器264において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第5分配器252の出力信号は、第4低域通過フィルタ274を介し、高周波信号の直交成分であり、かつ、磁気信号の直交成分を有する信号(第4出力信号)として出力される。
【0026】
図5には、参照信号発生器20により上肢の第1指定箇所に対して与えられた参照信号に応じて、第2指定箇所において磁気センサ1により検出された、神経N
vの興奮または筋活動を表わす磁気信号が示されている。刺激期間T
1
’においては、数Hz~3kHzの周波数の指定強度B
pの参照信号S
1が第1指定箇所に与えられる。例えば、参照信号S
1の強度は1~25mAの範囲で調節される。また、参照信号S
1の周波数f
oが1kHzであり、刺激回数nが100である場合、刺激期間T
1
’は0.1秒となる。参照信号S
1に対する神経N
vの興奮または筋活動に伴う磁気信号S
2は、参照信号S
1の付与開始から僅かに遅れた時点から徐々に増加し、一定の大きさA
pで飽和する。その後、参照信号211の付与が停止されると刺激停止期間T
2
’において磁気信号S
2は徐々に減少してほぼゼロとなる。
【0027】
図6には、複数回の刺激に対する神経の興奮、あるいは筋活動による磁気信号波形が示されている。評価期間T
3
’における複数回の刺激に対する磁気信号波形M{m
1,m
2,m
3,‥、m
p-1,m
p}の信号振幅A{A
1,A
2,A
3,‥、A
p-1,A
p}が得られ、平均、標準偏差などの統計量を求めることができる。また、あらかじめ閾値A
sを設定し、単一の刺激m
pに対する磁気信号振幅A
pの大きさから、神経の興奮、あるいは筋活動の有無を判定することもできる。評価期間T
3
’における磁気信号波形Mの平均の大きさから、神経の興奮、あるいは筋活動の有無を判定してもよい。評価期間T
3
’は、例えば、刺激期間T
1
’(0.1秒(刺激周波数f
0=1kHz、刺激回数n=100))、刺激停止期間T
2
’(1秒)の周期1.1秒を10回繰り返す場合は11秒となる。
【0028】
図7には、参照信号(刺激期間(または刺激時間)T
1
’:0.1秒)が生体(例えば、ヒトなどの脊椎動物の肢体)に与えられた際の、当該生体の近傍に配置された磁気センサ1の出力信号の時系列データの加算平均(加算回数z=99)が示されている。この結果からは、参照信号に対する磁気センサ1の明確な応答信号を確認することはできない。
【0029】
磁気センサ1の出力信号の時系列データは、磁気センサ1の励磁周波数の同相成分であり、かつ検出磁場の同相成分である第1出力信号i-x、励磁周波数の同相成分であり、かつ検出磁場の直交成分である第2出力信号i-y、励磁周波数の直交成分であり、かつ検出磁場の同相成分である第3出力信号q-x、励磁周波数の直交成分であり、かつ検出磁場の直交成分である第4出力信号q-yの4つの信号系列から構成されている。
【0030】
図8には、第1信号区間T
1および第2信号区間T
2のそれぞれにおける磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の時間波形が示されている。「第1信号区間T
1」は、生体において参照信号に応じた神経発火現象の発生に由来する応答信号が磁気センサ1によって検出されうると推定される期間として定義されている。「第2信号区間T
2」は、生体において参照信号に応じた神経発火現象の発生に由来する信号が検出されえないと推定される期間として定義されている。例えば、第1信号区間T
1および第2信号区間T
2のそれぞれは、刺激期間T
1
’=0.1秒の4倍の0.4秒に設定される。第1信号区間T
1は、刺激開始時から0.4秒の期間とし、第2信号区間T
2は、第1信号区間T
1の終了時から0.4秒の期間とする。また、第1信号区間T
1または第2信号区間T
2に含まれるデータ数を信号サンプル数とする。さらに、複数回の参照信号を与えるときの繰り返し回数Mをデータチャネル数とする。
【0031】
図9上段に概念的に示されているように、学習フェーズでは、第1信号区間T
1における磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x
1,i-y
1,q-x
1,q-y
1)および第2信号区間T
2における磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x
2,i-y
2,q-x
2,q-y
2)を入力データとして深層学習、具体的にはCNN(Convolutional Neural Network)により学習モデルを構築している。CNNは、磁気センサ1からの時系列データを入力するための入力層、中間層(複数(例えば4層)の畳み込み層、プーリング層と複数(例えば3層)の全結合層)、神経刺激に伴う磁気センサ1の応答信号の識別結果を出力するための出力層から構成されている。中間層のネットワークは、非線形な活性化関数(例えばReLU関数)を介して結ばれる。また過学習抑制のため、学習時にのみランダムにノードを遮断する(drop out)。入力層のノード数は、例えば、磁気センサ1の信号系列数4(i-x,i-y,q-x,q-y)、信号サンプル数4000、データチャンネル数20の場合で32万ノードとなり、中間層のノード数は、畳み込み層のフィルタサイズ、プーリング間隔、ストライド数、全結合数などのハイパーパラメータで調整している。畳み込み層では、4つの信号系列の各々の時系列データに対して独立に畳み込みフィルタ(例えば、ストライド4)を適用し、活性化関数(例えば、ReLU)を経て出力される。プーリング層では、時系列データに対する最大値抽出(例えば、ストライド3)を行っている。全結合層では、前段の出力(4つの時系列データ)を全結合し、磁気センサ1の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の情報を統合している。出力層では、中間層の出力をsoftmax関数により第1信号区間T
1である確率と第2信号区間T
2である確率に変換し、確率の高いほうを最終的な識別結果として出力する。
【0032】
図9下段に概念的に示されているように、推論フェーズでは、磁気センサ1からの新規の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)を入力データとして、学習フェーズで構築された学習モデルを用いて、生体における神経発火の現象の発現に由来する応答信号の有無の推定を行う。
【0033】
図10には、12個のデータセット(J-0-0~S-0-5)に対する参照信号に応答する信号検出の正解率(正解数/テスト数)が示されている。磁気センサ1からの出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)そのものを入力データとした場合の正解率は48.4±7.0%であり、該時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の標準偏差と平均値の比率を入力データとした場合の信号検出の正解率は48.9±8.5%である。一方、該時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の時間変動率を入力データとした場合の信号検出の正解率は64.5±10.5%と比較的高い値が示されている。
【0034】
図11には、学習フェーズにおいて、12個のデータセットの全てを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率が示されている。全てのデータセット使用した場合の正解率は83.4±6.0%であり、個々のデータセットのみを教師データとして使用した場合に比べ18.9%高いことが示されている。ここで、入力データとしては、磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の時間変動率を用いている。
【0035】
図12には、学習フェーズにおいて、第1信号区間T
1および第2信号区間T
2のそれぞれの長さ、つまり入力データの信号サンプル数をパラメータとした教師データを用いた場合の参照信号に応答する信号検出の正解率が示されている。信号区間が150~160msにおいて極大を示し、そのときの正解率は91%である。この結果より、参照信号の継続時間(100ms)の約1.5倍の信号区間に、応答信号の有無を認識するための最も有益な情報が含まれていることがわかる。また、ここで、CNNのハイパーパラメータ(例えば、中間層の数、ノード数、フィルタサイズ、drop out率、学習率など)の調整している。
【0036】
図13には、学習フェーズにおいて、データチャンネル数をパラメータとした入力データを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率が示されている。データチャンネル数Mが1の場合に比べ、M=20では90.5±2.1%と正解率は大幅に改善している。ここで、各入力データの信号区間の長さは150msとしている。
【0037】
表1には、磁気センサ1の出力信号の時系列データ(i-x,i-y,q-x,q-y)の各信号系列の組合せからなる15個のデータセットが示されている。
【0038】
【0039】
図14には、表1に示す15個のデータセットを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率が示されている。この結果より、信号系列の第4出力信号q-yを含むデータセットの場合、その正解率は90.0±3.0%であり、第4出力信号q-yを含まないデータセットに比べ約36%高いことがわかる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、TCN(Temporal Convolutional Network)により学習モデルを構築し、生体における神経発火の現象の発現に由来する応答信号の有無の推定について説明する。
【0041】
図15に概念的に示されているように、従来のTCNは、畳み込みに固定間隔をあけて行う畳み込み、つまりDilated Convolutionsを採用しているが、本実施形態のTCNでは、通常の畳み込みを行った後にプーリングを行う。
【0042】
第1実施形態のCNNと第2実施形態のTCNで異なる点は、中間層に残差ブロック層を取り入れている点であり、残差ブロック層は、畳み込み層-ウェイト正則化層-畳み込み層-ウェイト正規化層からなる。本実施形態のTCNは、入力層、中間層(複数(例えば4層)の残差ブロック層、プーリング層と複数(例えば3層)の全結合層)、出力層から構成されている。
【0043】
図16は、従来のTCNと本実施形態のTCNによる学習モデルの参照信号に応答する信号検出の正解率の比較結果である。本実施形態のTCNの正解率は92.7±3.0%であり、従来のTCNによる正解率に比べ約41.7%高い値が示されている。
【0044】
図17には、表1に示す15個のデータセットを教師データとして使用した場合の参照信号に応答する信号検出の正解率に関する第1実施形態のCNNと本実施形態のTCNの比較結果が示されている。
図14の結果と同様に、本実施形態のTCNにおいても、信号系列の第4出力信号q-yを含むデータセットの場合、その正解率は91.0±5.0%と高い値を示しており、第4出力信号q-yを含まないデータセットについては52.0±11.0%と低い値が示されている。
【0045】
(第3実施形態)
また、TCNによるアンサンブル学習モデルによる、生体における神経発火の現象の発現に由来する応答信号の有無の推定について説明する。
【0046】
第2実施形態のTCNによる学習モデルの判定結果について、アンサンブル手法で重み付けを行い、最終的な識別判定を行っている。具体的には、N個の入力データセットに対する学習モデルの判定結果が、信号があり得る場合と、信号があり得ない場合について確率として評価され、その評価結果に対する調和平均と幾何平均を計算し、最終的に判定している。判定に必要な参照信号が含まれるイベント数は、入力データセットの数N(例えば3)と1つの入力データセットに含まれるイベント数(例えば5)から1を引いた値(4)の和(7)となる。
【0047】
図18には、アンサンブル手法を用いた場合の参照信号に応答する信号検出の正解率が示されている。調和平均、あるいは幾何平均のいずれかのアンサンブル手法を適用することで、判定に使用するイベント数に対する安定性が、アンサンブル手法を適用しない場合に比べ改善していることがわかる。
【0048】
前記実施形態では、データセットが第1出力信号i-x、第2出力信号i-y、第3出力信号q-xおよび第4出力信号q-yのそれぞれの時系列により構成されていたが、他の実施形態として、第1出力信号i-x、第2出力信号i-y、第3出力信号q-xおよび第4出力信号q-y、ならびに、第1出力信号i-x、第2出力信号i-y、第3出力信号q-xおよび第4出力信号q-yの時間微分値di-x/dt、d2i-x/dt2、‥dni-x/dtn、di-y/dt、d2i-y/dt2、‥dni-y/dtn、dq-x/dt、d2q-x/dt2、‥dnq-x/dtn、dq-y/dt、d2q-y/dt2、‥dnq-y/dtnのうち、任意の少なくとも1つの出力信号の時系列によりデータセットが構成されていてもよい。例えば、(i-x、di-x/dt、q-x、dq-x/dt)、(i-x、d2i-y/dt2、q-x、d2q-y/dt2)、(i-x、di-x/dt、i-y、di-y/dt)などの4つの出力信号のそれぞれの時系列により構成されているデータセットが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1‥磁気センサ、100‥誘電体基板、110‥信号線路層、120‥伝送線路、121、122、124‥接地導体層、140‥軟磁性薄膜、20‥参照信号発生器、24‥信号増幅器、26‥混合器、27…濾過器、28‥信号処理回路、29‥データ解析装置、200‥信号処理回路、202‥電極。