(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123049
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】導電膜積層体の製造方法及び導電膜積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/04 20060101AFI20230829BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20230829BHJP
B32B 37/02 20060101ALI20230829BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B32B9/04
B32B38/10
B32B37/02
H05K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026891
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502050729
【氏名又は名称】黄 晋二
(71)【出願人】
【識別番号】521495943
【氏名又は名称】渡辺 剛志
(71)【出願人】
【識別番号】522073157
【氏名又は名称】黒松 将
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】黄 晋二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛志
(72)【発明者】
【氏名】黒松 将
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AB02B
4F100AB02G
4F100AB02H
4F100AB17B
4F100AB17G
4F100AB17H
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4F100EJ17A
4F100EJ17B
4F100EJ17C
4F100EJ302
4F100EJ912
(57)【要約】
【課題】安定した膜質の導電膜積層体の製造方法及び導電膜積層体を提供する。
【解決手段】導電膜積層体1の製造方法は、被積層基材10と被積層基材10の表面に形成された粘着層20と粘着層20の表面に形成された炭素導電膜30とを備える導電膜積層体1の製造方法であって、表面に炭素導電膜30を形成するための形成用基板40と、形成用基板40の表面に形成された炭素導電膜30と、炭素導電膜30の表面に形成された粘着層20と、を備える第1の積層体110を作製する第1の積層体作製工程と、第1の積層体110の粘着層20と、被積層基材10とを接触させた後、加熱圧着を行って第2の積層体120を作製する熱圧着工程と、第2の積層体120の形成用基板40をエッチングして、導電膜積層体1を作製するエッチング工程とを備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被積層基材と前記被積層基材の表面に形成された粘着層と前記粘着層の表面に形成された炭素導電膜とを備える導電膜積層体の製造方法であって、
表面に前記炭素導電膜を形成するための形成用基板と、前記形成用基板の表面に形成された炭素導電膜と、前記炭素導電膜の表面に形成された粘着層と、を備える第1の積層体を作製する第1の積層体作製工程と、
前記第1の積層体の前記粘着層と、前記被積層基材とを接触させた後、加熱圧着を行って第2の積層体を作製する熱圧着工程と、
前記第2の積層体の前記形成用基板をエッチングして、前記導電膜積層体を作製するエッチング工程と、
を備える導電膜積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の積層体を構成する前記炭素導電膜は、単層カーボンナノチューブのネットワーク構造体であるSWCNT膜である請求項1に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項3】
前記熱圧着工程の加熱圧着の温度は、前記被積層基材のガラス転移温度以上である請求項1又は2に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項4】
前記熱圧着工程の加熱圧着の温度は、前記粘着層を構成する粘着剤のガラス転移温度以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項5】
前記被積層基材は、PET樹脂からなる請求項1~4のいずれか一項に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項6】
前記粘着層は、アクリル系粘着剤の硬化物を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項7】
前記アクリル系粘着剤の硬化物は、吸水性のあるアクリル系粘着剤の硬化物である請求項6に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項8】
前記熱圧着工程の加熱圧着は、TOM成形で行う請求項1~7のいずれか一項に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項9】
前記形成用基板は、Cu含有金属からなるCu板であり、
前記エッチング工程は、Cuをエッチングするエッチャントに前記第2の積層体を浸漬して前記形成用基板をエッチングする請求項1~8のいずれか一項に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項10】
前記エッチャントは、硝酸鉄水溶液及び塩化鉄水溶液の1種以上からなる請求項9に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項11】
前記SWCNT膜は、
単層カーボンナノチューブと分散剤と分散溶媒と含むCNTインクをスピンコート法で前記形成用基板上に塗布してCNT塗膜を形成する塗布工程と、
前記CNT塗膜から前記分散剤と分散溶媒とを除去する除去工程と、
を経て形成される請求項2に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項12】
前記除去工程は、前記CNT塗膜を350℃以上で熱処理する請求項11に記載の導電膜積層体の製造方法。
【請求項13】
被積層基材と前記被積層基材の表面に形成された粘着層と前記粘着層の表面に形成された炭素導電膜とを備え、
前記炭素導電膜は、単層カーボンナノチューブのネットワーク構造体であるSWCNT膜であり、
前記粘着層は、粘着剤の硬化物と金属イオンとを含む導電膜積層体。
【請求項14】
前記金属イオンは、Cu2+及びFe2+を含む請求項13に記載の導電膜積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜積層体の製造方法及び導電膜積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Wall Carbon Nanotube)は、優れた機械的、電気的及び熱的特性を有し、また高いフレキシブル性を有する。このため、例えばSWCNTを含むSWCNT膜は、次世代のフレキシブル導電材料としての応用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、炭素化触媒、グラフェンシート、バインダー層及び基板の積層体が、エッチャントとしての酸溶液Aに浸漬されて炭素化触媒を除去するグラフェンシートの製造方法が開示されている。また、特許文献1には、バインダー層が、絶縁性の高いシロキサン化合物、アクリル系化合物等のコーティングで形成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のコーティングで形成されたバインダー層中には、通常、アルコールやエステル等の溶媒成分が含まれる。このため、特許文献1に開示された発明では、バインダー層の硬化工程において溶媒成分等が揮発してバインダー層とグラフェンシートとの密着性の低下や気泡の発生が生じやすい。
【0006】
なお、特許文献1の
図3のNi(炭素化触媒膜)/グラフェンシート/バインダー層/基板のグラフェンシート積層体は、公知の方法で製造されている。このため、特許文献1の
図3のグラフェンシート積層体は、バインダー層とグラフェンシートとの密着性の低下や気泡の発生の問題を解消していないと思料される。
【0007】
このように、従来、安定した膜質の炭素導電膜を備えた導電膜積層体及びその製造方法は知られていなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、安定した膜質の導電膜積層体の製造方法及び導電膜積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係る導電膜積層体の製造方法は、被積層基材と前記被積層基材の表面に形成された粘着層と前記粘着層の表面に形成された炭素導電膜とを備える導電膜積層体の製造方法であって、表面に前記炭素導電膜を形成するための形成用基板と、前記形成用基板の表面に形成された炭素導電膜と、前記炭素導電膜の表面に形成された粘着層と、を備える第1の積層体を作製する第1の積層体作製工程と、前記第1の積層体の前記粘着層と、前記被積層基材とを接触させた後、加熱圧着を行って第2の積層体を作製する熱圧着工程と、前記第2の積層体の前記形成用基板をエッチングして、前記導電膜積層体を作製するエッチング工程と、を備える。
【0010】
本発明の第2の態様に係る導電膜積層体は、被積層基材と前記被積層基材の表面に形成された粘着層と前記粘着層の表面に形成された炭素導電膜とを備え、前記炭素導電膜は、単層カーボンナノチューブのネットワーク構造体であるSWCNT膜であり、前記粘着層は、粘着剤の硬化物と金属イオンとを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定した膜質の導電膜積層体の製造方法及び導電膜積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る導電膜積層体の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る第1の積層体の一例を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係るCNT塗膜複合体の一例を示す断面図である。
【
図4】本実施形態に係る炭素導電膜複合体の一例を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係るSWCNT膜(炭素導電膜)の一例の表面のSEM写真である。
【
図6】本実施形態に係る熱圧着前複合体の一例を示す断面図である。
【
図7】本実施形態に係る第2の積層体の一例を示す断面図である。
【
図8】本実施形態に係る第2の積層体の一例を示す光学写真である。
【
図9】本実施形態に係る第2の積層体のエッチング工程の一例を示す断面図である。
【
図10】本実施形態に係るSWCNT膜(炭素導電膜)の一例の表面のSEM写真である。
【
図11】本実施形態に係る導電膜積層体の一例を示す光学写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本実施形態に係る導電膜積層体について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0014】
[導電膜積層体]
図1は、本実施形態に係る導電膜積層体の一例を示す断面図である。
図1に示す導電膜積層体1A(1)は、被積層基材10と、被積層基材10の表面に形成された粘着層20A(20)と、粘着層20Aの表面に形成された炭素導電膜30A(30)と、を備える。
【0015】
導電膜積層体1Aは、製造時の熱圧着工程での加熱圧着により、被積層基材10と粘着層20Aと炭素導電膜30Aとが強固に接着されたものになっている。また、導電膜積層体1Aは、製造時の熱圧着工程の後に行われるエッチング工程でのエッチャントとの接触により、粘着層20A中に粘着剤の硬化物と金属イオン60とを含むものになっている。
【0016】
(被積層基材)
被積層基材10は、炭素導電膜30Aが粘着層20Aを介して積層される樹脂基材である。被積層基材10としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET、ガラス転移温度Tg:69℃)、ポリブチレンテレフタレート(PET、ガラス転移温度Tg:50℃)、ポリエチレン(ガラス転移温度Tg:-125℃)、ポリプロピレン(ガラス転移温度Tg:0℃)、ポリ塩化ビニル(ガラス転移温度Tg:87℃)、ポリスチレン(ガラス転移温度Tg:100℃)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS、ガラス転移温度Tg:80~125℃)、ポリメタクリル酸メチル(ガラス転移温度Tg:90℃)、ポリアミド6(ガラス転移温度Tg:50℃)、ポリアミド66(ガラス転移温度Tg:50℃)、ポリアセタール(ガラス転移温度Tg:-50℃)、ポリカーボネート(ガラス転移温度Tg:150℃)、ポリフェニレンスルフィド(ガラス転移温度Tg:126℃)、ポリウレタン(ガラス転移温度Tg:-20℃)、ポリエーテルサルホン(ガラス転移温度Tg:230℃)、ポリフェニレンオキシド(ガラス転移温度Tg:104~120℃)、ポリアミドイミド(ガラス転移温度Tg:275℃)、ポリ乳酸(ガラス転移温度Tg:57℃)、ポリテトラフルオロエチレン(ガラス転移温度Tg:126℃)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、ガラス転移温度Tg:-42℃)、ポリアクリロニトリル(ガラス転移温度Tg:104℃)、ポリフッ化ビニリデン(ガラス転移温度Tg:35℃)等が用いられる。このうち、PET樹脂は、ガラス転移温度が69℃と比較的低く、耐熱温度が220℃と高いことから、熱圧着時の素材の安定性が高く、フレキシブル性も高い。このため、被積層基材10がPET樹脂からなると、粘着層20Aと強固に接着しやすいため非常に好ましい。
【0017】
なお、熱圧着工程を経て作製された導電膜積層体1Aは、通常、被積層基材10と粘着層20Aとの界面が、強固に結合したものになる。このことについては後述する。
【0018】
(粘着層)
粘着層20Aは、被積層基材10と炭素導電膜30Aとの間に配置された後、加熱圧着により被積層基材10と炭素導電膜30Aとを強固に接着する層である。具体的には、粘着層20Aは、粘着剤が加熱圧着により硬化してなる粘着剤の硬化物を含む。また、導電膜積層体1Aは、製造時のエッチング工程でのエッチャント50との接触により、通常、粘着層20A中に金属イオン60を含みやすい。すなわち、粘着層20Aは、粘着剤の硬化物と金属イオン60とを含むことがある。
【0019】
金属イオン60としては、エッチャント50中に含まれる金属イオンや、形成用基板40がエッチャント50と接触してエッチングされた際に生じる形成用基板40に由来する金属イオンが用いられる。粘着層20A中に金属イオンが含まれると、粘着層20Aを介して炭素導電膜30Aと被積層基材10との間の電子の移動を向上させるドーピング効果が生じることで、導電膜積層体1A全体としての導電効果が向上するため好ましい。
【0020】
例えば、エッチャント50が硝酸鉄水溶液及び塩化鉄水溶液のような鉄イオン含有液である場合、エッチャント50中のFe3+が還元されてなるFe2+が金属イオン60として粘着層20A中に含まれることがある。
【0021】
また、形成用基板40がCu板である場合、Cu板40がエッチャント50と接触してエッチングされた際に生じるCu2+が金属イオン60として粘着層20A中に含まれることがある。このため、粘着層20A中に含まれる金属イオンは、Cu2+及びFe2+を含むことがある。
【0022】
粘着層20Aは、金属イオン濃度が0.52mol/L以上のエッチャント50で作製したものであると、粘着層20A中に含まれる金属イオンの含有量が多くなり、導電膜積層体1AのSWCNT膜(炭素導電膜)30Aの導電効果が高くなりやすいため好ましい。
【0023】
粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、変性アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が用いられる。このうち、アクリル系粘着剤、変性アクリル系粘着剤は、透明性及び耐熱性が高く、TOM成型等に使用可能であるため好ましい。ここで、変性アクリル系粘着剤とは、親水性を付与するために、水分を吸着しやすい官能基を付与して樹脂の極性を高めた粘着剤を意味する。
【0024】
一般的に、分子の極性を高めると、分子間の電子の隔たりが大きくなることにより分子同士の引き合う力(分子間力)が強くなる。このため、樹脂の極性が高くなると、極性の高い樹脂の分子に高極性の分子である水が吸着しやすくなるため、樹脂に親水性が付与される。一方、樹脂の極性が低くなると、極性の低い樹脂の分子に高極性の分子である水が吸着しにくくなるため、樹脂に疎水性が付与されることになる。
【0025】
変性アクリル系粘着剤としては、例えば、分子の端末に水酸基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)、カルボニル基(-CO)等が付与して改質されたアクリル系粘着剤粘着剤が用いられる。変性アクリル系粘着剤としては、より具体的には、日榮新化株式会社製変性アクリル系粘着剤G25の粘着層を構成する粘着剤が用いられる。
【0026】
アクリル系粘着剤及び変性アクリル系粘着剤は、耐熱性及び透明性が高いことからTOM成形を用いて3次元的に複雑な形状の導電膜積層体1Aを作製することが可能であるため好ましい。また、変性アクリル系粘着剤は、粘着層20A中に金属イオンが含まれやすいため、より好ましい。
【0027】
粘着層20Aは、アクリル系粘着剤の硬化物を含むものとすることができる。アクリル系粘着剤は、ガラス転移温度が比較的低いことから、粘着層20Aが、被積層基材10、炭素導電膜30A等と強固に接着しやすいため好ましい。また、アクリル系粘着剤の硬化物を含むは、透明性、耐熱性、及び伸びの追従性が高いため、製造時に被積層基材10から生じるアウトガスや微量水分を吸収することができる。このため、粘着層20Aがアクリル系粘着剤の硬化物を含むと、粘着層20Aがガスの吸収や吸水をすることにより、粘着層20Aに気泡や浮きが生じることを防ぐことができるため好ましい。
【0028】
アクリル系粘着剤としては、例えば、アクリル酸エチル系粘着剤、アクリル酸メチル系粘着剤、アクリル酸ブチル系粘着剤、メタクリル酸メチル系粘着剤等が用いられる。変性アクリル系粘着剤としては、例えば、上記粘着剤のモノマーに水分を吸着し易い官能基を付与させて変性させた粘着剤等が用いられる。すなわち、本実施形態では、アクリル系粘着剤の硬化物が、吸水性のあるアクリル系粘着剤の硬化物であるようにすることができる。
【0029】
なお、アクリル系粘着剤及び変性アクリル系粘着剤は、通常、一般的なPMMAポリマーよりも分子量が小さい。このため、アクリル系粘着剤及び変性アクリル系粘着剤のガラス転移温度は、通常、一般的なPMMAポリマーのガラス転移温度90℃よりも低い温度、例えば70~80℃となる。粘着剤の硬化物が、アクリル系粘着剤又は変性アクリル系アクリル系粘着剤の硬化物からなると、ガラス転移温度が低いことで被積層基材10、炭素導電膜30A等と強固に接着しやすいため好ましい。
【0030】
粘着層20Aは、被積層基材10と炭素導電膜30Aとの間に介在するが、通常、加熱圧着前に比較して加熱圧着後は厚さが減少する。すなわち、導電膜積層体1Aの製造方法の熱圧着工程において、被積層基材10と炭素導電膜30Aとの間に配置された粘着剤は、加熱圧着により、厚さが減少して粘着層20Aとなる。
【0031】
なお、加熱圧着の際は、通常、粘着層20Aと被積層基材10との界面、及び粘着層20Aと炭素導電膜30Aとの界面において、各層を構成する物質間が強固に結合しやすい。例えば、加熱圧着の際は、被積層基材10を構成する樹脂分子のミクロブラウン運動等により、粘着層20Aを構成する粘着剤の分子との間で絡み合いが生じることで、隣接する層が強固に結合しやすい。このように、熱圧着工程を経て作製された導電膜積層体1Aは、通常、粘着層20Aと被積層基材10との界面、及び粘着層20Aと炭素導電膜30Aとの界面が、強固に結合したものになる。
【0032】
また、粘着剤がアクリル系粘着剤及び変性アクリル系粘着剤である場合、加熱圧着の際に、粘着剤は、通常、そのガラス転移温度よりも高い温度で、加熱圧着される。このため、粘着剤がアクリル系粘着剤及び変性アクリル系粘着剤である場合、粘着剤を構成する樹脂中に含有されている溶媒成分が加熱圧着の際に脱離することにより、粘着層20Aが強固な膜となる。
【0033】
粘着層20Aの厚さは、例えば5~100μm、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~30μmとする。粘着層20Aの厚さが上記範囲内にあると、透明性及び金属イオンの吸着性が良好に維持されるため好ましい。
【0034】
(炭素導電膜)
炭素導電膜30A(30)は、炭素材料を含む導電膜である。
図5は、本実施形態に係る炭素導電膜の一例の表面のSEM写真である。
図5に示す炭素導電膜30Aは、単層カーボンナノチューブ35のネットワーク構造体であるSWCNT膜30Aになっている。SWCNT膜30Aは、通常、多数の空隙を有する。
【0035】
なお、導電膜積層体1Aでは、炭素導電膜30がSWCNT膜30Aになっているが、導電膜積層体1Aの変形例として、SWCNT膜以外の炭素導電膜30としてもよい。例えば、導電膜積層体1Aの変形例では、グラフェン膜を含む炭素導電膜30を用いることができる。
【0036】
SWCNT膜30Aに含まれる単層カーボンナノチューブ35の中心直径は、例えば0.5~5nm、好ましくは1~3nmである。SWCNT膜30Aに含まれる単層カーボンナノチューブ35の長さは、例えば1~数10μmである。
【0037】
SWCNT膜30Aの厚さは、例えば50~500nm、好ましくは100~200nmである。
【0038】
炭素導電膜30がSWCNT膜30Aであると、導電膜積層体1Aの製造時の熱圧着工程での加熱圧着により、SWCNT膜30Aと粘着層20Aとが強固に接着されやすいため好ましい。SWCNT膜30Aと粘着層20Aとの強固な接着は、例えば、熱圧着工程での加熱圧着により、SWCNT膜30Aを構成する単層カーボンナノチューブ35と、粘着層20Aを構成する粘着剤の分子とが、絡み合うことにより発現する。
【0039】
熱圧着工程を経て作製された導電膜積層体1Aは、上記のように、通常、炭素導電膜30Aと粘着層20Aとの界面が、強固に結合したものになる。
【0040】
(効果)
導電膜積層体1Aによれば、安定した膜質の導電膜積層体を提供することができる。
【0041】
また、導電膜積層体1Aの粘着層20Aが金属イオン60を含む場合、導電膜積層体1AのSWCNT膜(炭素導電膜)30Aの導電効果をより高くすることができる。
【0042】
導電膜積層体1Aは、例えば、以下に示す導電膜積層体の製造方法により製造される。
【0043】
[導電膜積層体の製造方法]
導電膜積層体の製造方法は、被積層基材10と、被積層基材10の表面に形成された粘着層20A(20)と、粘着層20Aの表面に形成された炭素導電膜30A(30)と、を備える導電膜積層体1A(1)の製造方法である。導電膜積層体の製造方法は、第1の積層体作製工程と、熱圧着工程と、エッチング工程と、を備える。
【0044】
(第1の積層体作製工程)
第1の積層体作製工程は、表面に炭素導電膜30を形成するための形成用基板40と、形成用基板40の表面に形成された炭素導電膜30と、炭素導電膜30の表面に形成された粘着層20と、を備える第1の積層体110を作製する工程である。
【0045】
図2は、本実施形態に係る第1の積層体の一例を示す断面図である。
図2に示すように、第1の積層体110は、形成用基板40と、SWCNT膜30A(30)と、粘着層20B(20)と、を備える。SWCNT膜30Aは、上記[導電膜積層体]で説明したものと同じであるため説明を省略する。粘着層20Bは、粘着層20A中に含まれる金属イオンを通常含まない点以外は、上記[導電膜積層体]で説明した粘着層20Aと同じである。
【0046】
ここで、粘着層20Bが金属イオンを通常含まない理由は、粘着層20Bが、後述のエッチング工程でのエッチャント50と接触していないことによる。すなわち、上記[導電膜積層体]で説明した粘着層20Aは、エッチング工程でのエッチャント50と接触した後の粘着層20であるため、通常、金属イオンを含む。これに対し、粘着層20Bは、エッチング工程でのエッチャント50と接触していない粘着層20であるため、通常、金属イオンを含まない。
【0047】
<形成用基板>
形成用基板40は、表面にSWCNT膜30A(30)を形成するための金属製基板である。形成用基板40の材質としては、例えば、Cu、Ni、Ge、Co又はRuを含む金属が用いられる。形成用基板40の材質がこれらの金属からなると、形成用基板40に耐熱性が付与され、かつエッチングしやすいため好ましい。
【0048】
このうち、形成用基板40がCu含有金属からなるCu板であると、炭素固有度が低いことから界面において炭素膜との合金形成が生じにくく、エッチングが容易であり、安価であるため好ましい。
【0049】
図3は、本実施形態に係るCNT塗膜複合体の一例を示す断面図である。
図4は、本実施形態に係る炭素導電膜複合体の一例を示す断面図である。
図2に示す第1の積層体110は、
図4に示す炭素導電膜複合体105のSWCNT膜30A(30)の表面に粘着層20Bを形成することにより作製される。また、
図4に示す炭素導電膜複合体105は、
図3に示すCNT塗膜複合体100から作製される。このように、
図3に示すCNT塗膜複合体100を用いて作製した
図4に示す炭素導電膜複合体105のSWCNT膜30A(30)の表面に粘着層20Bを形成すると、
図2に示す第1の積層体110が作製される。
【0050】
図3に示すCNT塗膜複合体100は、形成用基板40と、形成用基板40の表面に塗布されたCNTインク34又はこのCNTインク34の粘度が高くなったCNT塗膜39と、からなる。
【0051】
図4に示す炭素導電膜複合体105は、形成用基板40と、形成用基板40の表面に形成されたSWCNT膜30A(30)とからなる。炭素導電膜複合体105のSWCNT膜30Aは、
図3に示すCNT塗膜複合体100のCNT塗膜39から分散剤と分散溶媒とを除去することにより得られる。
【0052】
図3に示すCNT塗膜複合体100に下記の塗布工程と除去工程とを行うと、
図4に示す炭素導電膜複合体105が得られる。
【0053】
[塗布工程]
塗布工程は、単層カーボンナノチューブ35と分散剤と分散溶媒と含むCNTインク34をスピンコート法で形成用基板40上に塗布してCNT塗膜39を形成する工程である。
【0054】
CNTインク34に含まれる単層カーボンナノチューブ35は、上記[導電膜積層体]で説明したものと同じであるため説明を省略する。
【0055】
分散剤としては、例えば、エチルセルロース、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム等が用いられる。エチルセルロースは、CNTインク34の粘度の調製が容易で、単層カーボンナノチューブ35が均一に分散しやすいため好ましい。
【0056】
分散溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が用いられる。N-メチルピロリドンは、溶液の安定性に優れるため好ましい。
【0057】
CNTインク34中の単層カーボンナノチューブ35の濃度は、CNTインク34の100質量%中、例えば0.01~0.5質量%、好ましくは0.05~0.2質量%、より好ましくは0.08~0.12質量%とする。単層カーボンナノチューブ35の濃度が上記範囲内にあると、均一なSWCNT膜を形成しやすいため好ましい。
【0058】
CNTインク34中の分散剤の濃度は、CNTインク34の100質量%中、例えば、0.05~3質量%、好ましくは0.5~1.5質量%、より好ましくは0.8~1.2質量%とする。単層カーボンナノチューブ35の濃度が上記範囲内にあると、単層カーボンナノチューブの分散効率が高いため好ましい。
【0059】
図3に示すCNT塗膜複合体100の形成用基板40上に塗布されたCNTインク34は、形成用基板40の表面を被覆するCNT塗膜39となる。なお、CNT塗膜39の成分は、CNTインク34と同一でもよいし、CNTインク34から分散溶媒等の一部又は全部が除去されたものであってもよい。
【0060】
[除去工程]
除去工程は、CNT塗膜39からCNTインク34に由来する分散剤と分散溶媒とを除去する工程である。なお、CNT塗膜39中に分散溶媒が存在しない場合、除去工程は、CNT塗膜39から分散剤を除去する工程となる。
【0061】
除去工程は、例えば、CNT塗膜39を例えば350℃以上、好ましくは350~400℃で熱処理する。熱処理の温度が上記範囲内にあると、分散剤及び溶媒が効率よく除去されかつCNT塗膜39の熱による損傷が小さいため好ましい。
【0062】
第1の積層体作製工程では、初めに、塗布工程と除去工程とを行って、
図4に示す炭素導電膜複合体105を得る。第1の積層体作製工程では、次に、炭素導電膜複合体105の炭素導電膜30Aの表面に公知の方法で粘着層20Bを形成することにより、
図2に示す第1の積層体110を得る。
【0063】
(熱圧着工程)
熱圧着工程は、第1の積層体110の粘着層20B(20)と、被積層基材10とを接触させた後、加熱圧着を行って第2の積層体120を作製する工程である。
【0064】
図6は、本実施形態に係る熱圧着前複合体115の一例を示す断面図である。
図6に示す熱圧着前複合体115A(115)は、被積層基材10と、被積層基材10の表面に形成された粘着層20B(20)と、粘着層20Bの表面に形成された炭素導電膜30A(30)と、を備える。熱圧着前複合体115Aは、熱圧着工程での加熱圧着前の積層体である。熱圧着前複合体115Aは、熱圧着工程での加熱圧着後の積層体である第2の積層体120の前駆体である。
【0065】
図7は、本実施形態に係る第2の積層体120の一例を示す断面図である。
図7に示す第2の積層体120A(120)は、被積層基材10と、被積層基材10の表面に形成された粘着層20A(20)と、粘着層20Aの表面に形成された炭素導電膜30A(30)と、を備える。第2の積層体120Aは、熱圧着工程での加熱圧着後の積層体である。
【0066】
図6に示す熱圧着前複合体115Aを加熱圧着すると、
図7に示す第2の積層体120Aが得られる。
図8は、本実施形態に係る第2の積層体120A(120)の一例を示す光学写真である。
【0067】
加熱圧着の温度は、被積層基材10のガラス転移温度以上、好ましくは被積層基材10のガラス転移温度+5℃以上であると、被積層基材10を構成する樹脂の分子と、粘着層20B(20)を構成する粘着剤の分子との間で絡み合いが生じやすい。このように絡み合いが生じると、被積層基材10と粘着層20B(20A、20)とが強固に結合しやすいため好ましい。
【0068】
また、加熱圧着の温度は、粘着層20B(20)を構成する粘着剤のガラス転移温度以上、好ましくは粘着剤のガラス転移温度+5℃以上であると好ましい。加熱圧着の温度が上記範囲内であると、粘着層20Bを構成する粘着剤の分子と、被積層基材10を構成する樹脂の分子及びSWCNT膜30Aを構成する単層カーボンナノチューブ35の1種以上と、の間で絡み合いが生じやすい。このように絡み合いが生じると、被積層基材10と粘着層20B(20A、20)及びSWCNT膜30Aの1種以上とが強固に結合しやすいため好ましい。
【0069】
上記の加熱圧着の温度としては、例えば100℃以上、好ましくは120~130℃である。加熱圧着の温度が上記範囲内であると、各層が強固に結合するとともに加熱による熱履歴を少なくし、劣化を抑制することができるため好ましい。
【0070】
例えば、被積層基材10としてガラス転移温度が69℃のPETを用い、粘着剤としてガラス転移温度が90℃のPMMAを用いる場合、加熱圧着の温度を例えば100℃以上とする。加熱圧着の温度が上記範囲内であると、被積層基材10と、粘着層20B(20A、20)及びSWCNT膜30Aの1種以上と、が強固に結合しやすいため好ましい。
【0071】
上記の加熱圧着の付加荷重としては、例えば2~8kN、好ましくは4~6kNとすることができる。上記の加熱圧着の加圧時間としては、例えば30~75秒、好ましくは45~60秒とすることができる。
【0072】
熱圧着工程は、例えば、TOM(Three Dimention Overlay Method、三次元表面加飾)成形で行うことができる。
【0073】
TOM成形法での加熱圧着の温度としては、例えば100℃以上、好ましくは120~130℃である。熱圧着の温度が上記範囲内であると、被積層基材10の伸びの追随性がよく、かつ粘着剤の粘着効果がよく発現することから、被積層基材10と粘着層20Bとの密着性が安定するため好ましい。
【0074】
TOM成形法では、加熱圧着における被積層基材10の伸びを、例えば100%以上、100~150%とする。被積層基材10の伸びが上記範囲内にあると、フィルムの破れやシワの発生、端末部の剥がれ、フクレ等がない、安定した第2の積層体120Aが得られやすいため好ましい。ここで、被積層基材10の「伸び100%」とは、伸び後の被積層基材10の長さが伸び前の被積層基材10の長さの2倍になることを意味する。
【0075】
(エッチング工程)
エッチング工程は、第2の積層体120A(120)の形成用基板40をエッチングして、導電膜積層体1A(1)を作製する工程である。
【0076】
エッチング工程は、具体的には、形成用基板40に含まれる金属をエッチングするエッチャント50に第2の積層体120を浸漬して形成用基板40をエッチングする工程である。例えば、形成用基板40がCu含有金属からなるCu板である場合、エッチング工程は、Cuをエッチングするエッチャント50に第2の積層体120Aを浸漬して形成用基板40をエッチングする工程とする。
【0077】
Cuをエッチングするエッチャント50としては、Cuをエッチング可能で、PET等の被積層基材10の材質に変質を生じさせない限り特に限定されない。Cuをエッチングするエッチャント50としては、例えば、硝酸鉄水溶液、塩化鉄水溶液、塩酸、硫酸等の酸等が用いられる。このうち、硝酸鉄水溶液及び塩化鉄水溶液の1種以上からなるエッチャント50は、PET等の被積層基材10の材質に変質を生じさせる悪影響がない又は小さいため好ましい。
【0078】
エッチャント50としては、例えば、硝酸鉄水溶液及び塩化鉄水溶液の1種以上が用いられる。硝酸鉄水溶液又は塩化鉄水溶液の濃度は、例えば、0.5~7.0Mとする。なお、エッチャント50は金属イオンの濃度が高いと、導電膜積層体1Aの粘着層20A中に金属イオンがより含まれやすいため好ましい。
【0079】
図9は、本実施形態に係る第2の積層体120のエッチング工程の一例を示す断面図である。
図9に示すように、エッチング工程は、例えば、エッチャント50を満たしたエッチング槽200中に、第2の積層体120を浸漬することにより行われる。
【0080】
図9は、具体的には、金属イオン60A(60)を含むエッチャント50が形成用基板40をエッチングすることで形成用基板40から金属イオン60B(60)が生成する例を示す。
【0081】
図9に示すように、第2の積層体120の形成用基板40は、エッチャント50でエッチングされると金属イオン60Bをエッチャント50中に放出する。このため、本工程でエッチングが進行すると、エッチャント50に由来する金属イオン60Aと、形成用基板40に由来する金属イオン60Bとが、エッチャント50中に含まれるようになる。
【0082】
本工程でエッチングがさらに進行して形成用基板40が完全に除去されると、エッチャント50中で、
図1に示す、被積層基材10と粘着層20AとSWCNT膜(炭素導電膜)30Aとを備える導電膜積層体1Aが得られる。
図10は、本実施形態に係るSWCNT膜(炭素導電膜)30Aの一例の表面のSEM写真である。
【0083】
図10に示すように、SWCNT膜(炭素導電膜)30Aは、通常、多数の空隙を有する。このため、エッチャント50中の金属イオン60A、金属イオン60B等の金属イオン60(60A、60B)は、SWCNT膜(炭素導電膜)30A中に浸透し、粘着層20B中に浸透する。このように、粘着層20B中に金属イオン60が浸透すると、金属イオン60を含む粘着層20Aが得られる。粘着層20B中に含まれる金属イオン60は、通常、正電荷を有する。なお、粘着層20Bが、極性の高い官能基等を有し吸水性のある変性アクリル系粘着剤の硬化物を含む場合、粘着層20B中に金属イオン60がより浸透しやすくなる。
【0084】
粘着層20Aに含まれる金属イオン60は、SWCNT膜(炭素導電膜)30Aとの界面でアクセプタ(P型不純物)として作用する。このため、金属イオン60を含む粘着層20Aでは、粘着層20AとSWCNT膜(炭素導電膜)30Aとの界面で電子の行き来が生じるドーピング効果が発現し、導電膜積層体1AのSWCNT膜(炭素導電膜)30Aの導電効果が向上する。なお、粘着層20Bが、極性の高い官能基等を有し吸水性のある変性アクリル系粘着剤の硬化物を含む場合、ドーピング効果がより発現し、導電膜積層体1AのSWCNT膜(炭素導電膜)30Aの導電効果がより向上するため好ましい。
【0085】
(効果)
本実施形態に係る導電膜積層体の製造方法によれば、安定した膜質の導電膜積層体1Aの製造方法を提供することができる。
【0086】
また、熱圧着工程の後にエッチング工程を行う本実施形態に係る導電膜積層体の製造方法によれば、従来のような炭素導電膜の水中での転写工程が不要になる。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
(第1の積層体作製工程)
形成用基板としてCu板(厚さ125μm)を用意した。また、CNTインクの原料として、SWCNTである株式会社名城ナノカーボン製eDIPS EC1.5(中心直径1~3nm)と、分散剤であるエチルセルロースと、分散溶媒であるN-メチルピロリドンとを用意した。eDIPS EC1.5の含有量が0.1質量%、エチルセルロースの含有量が1質量%になるように、eDIPS EC1.5とエチルセルロースとN-メチルピロリドンとを混合してCNTインクを調製した。
【0089】
[塗布工程]
CNTインクをスピンコート法でCu板の表面上に塗布することにより、Cu板の表面に厚さ150nmのCNT塗膜を形成した。
【0090】
[除去工程]
CNT塗膜が形成されたCu板を350℃で30分熱処理することにより、Cu板の表面に厚さ150nmのSWCNT膜が形成された炭素導電膜複合体を得た。
図5に、SWCNT膜の表面のSEM写真を示す。
【0091】
粘着層20Bとして日榮新化株式会社製変性アクリル系粘着剤G25を用意した。G25は、厚さ25μmの変性アクリル系粘着層と、粘着層の片面を被覆する厚さ38μmのPET剥離層と、粘着層の他の片面を被覆する厚さ75μmのPET剥離層と、を有していた。変性アクリル系粘着層は、変性PMMA(ガラス転移温度:90℃)からなるシートであった。
【0092】
炭素導電膜複合体のSWCNT膜の表面にG25の厚さ25μmの変性アクリル系粘着層を接着することにより、Cu板とSWCNT膜と変性アクリル系粘着層とを備えた第1の積層体を得た。
【0093】
(熱圧着工程)
被積層基材として、PET板(厚さ125μm、ガラス転移温度:69℃)を用意した。
PET板の表面に、第1の積層体の変性アクリル系粘着層を接触させ、TOM成形を行った。TOM成形の条件は、加熱温度100℃、付加荷重5kN、加圧時間60秒(1分)とした。
TOM成形により、PET板と変性アクリル系粘着層とSWCNT膜とCu板とを備える第2の積層体が得られた。
図8に第2の積層体の光学写真を示す。
【0094】
(エッチング工程)
図9に示すエッチング槽200を用意し、槽内に20℃、塩化鉄水溶液(6.9M)のCuエッチャントを貯留した。Cuエッチャント内に第2の積層体を18分間浸漬し、エッチングにより第2の積層体のCu板を除去したところ、PET板と変性アクリル系粘着層とSWCNT膜とを備える導電膜積層体が得られた。
図10に、導電膜積層体のSWCNT膜(炭素導電膜)の表面のSEM写真を示す。
【0095】
(評価)
得られた導電膜積層体について、電気特性を測定した。
【0096】
<電気導電率>
得られた導電膜積層体のSWCNT膜(炭素導電膜)について、電気導電率を測定した。得られた導電膜積層体から
図11に示す試験片を作製した。
図11に示す試験片では、導電膜積層体のSWCNT膜(炭素導電膜)側の表面の四隅にAgペーストを塗布してAg端子210を4個作製した。
SWCNT膜(炭素導電膜)の電気導電率は、3.4×10
5S/mであった。
SWCNT膜(炭素導電膜)の表面シート抵抗は、20Ω/sqであった。
【0097】
[実施例2]
Cuエッチャントとして塩化鉄水溶液(6.9M)に代えて硝酸鉄水溶液(0.52M)を用いた以外は実施例1と同様にして導電膜積層体を得た。
【0098】
(評価)
導電膜積層体のSWCNT膜(炭素導電膜)について、実施例1と同様にして電気導電率を測定した。
SWCNT膜(炭素導電膜)の電気導電率は、1.4×105S/mであった。
SWCNT膜(炭素導電膜)の表面シート抵抗は、46Ω/sqであった。
【0099】
[比較例1]
従来のPMMA支持転写法を用いて実施例1と同じ層構成の導電膜積層体を得た。
【0100】
(第1の積層体作製工程)
[塗布工程]
はじめに実施例1と同様に塗布工程を行った。
【0101】
[除去工程]
次に、CNT塗膜が形成されたCu板を350℃で30分熱処理することにより、Cu板の表面に厚さ150nmのSWCNT膜が形成された炭素導電膜複合体を得た。
【0102】
スピンコート法を用いて、炭素導電膜複合体のSWCNT膜上に粘着層20としてのPMMA粘着支持シートを作製した。
はじめに、PMMA分散液を作製した。PMMA分散液は、PMMAと、溶媒としての乳酸エチルとを混合して調製した。PMMA分散液は、100質量%中、PMMAを4質量%含むように調製した。
次に、スピンコート法を用いて、炭素導電膜複合体のSWCNT膜上にPMMA分散液の塗膜を形成し、180℃で熱処理することにより、SWCNT膜上に厚さ200nmのPMMA粘着支持シートを形成した。
これにより、Cu板とSWCNT膜とPMMA粘着支持シートとを備えた第1の積層体を得た。
【0103】
(エッチング工程)
図9に示すエッチング槽200を用意し、槽内に20℃、塩化鉄水溶液(6.9M)のCuエッチャントを貯留した。Cuエッチャント内に第1の積層体を18分間浸漬し、エッチングにより第1の積層体のCu板を除去したところ、PMMA粘着支持シートとSWCNT膜とを備える導電膜積層体が得られた。
【0104】
(水中転写工程)
被積層基材として、PET板(厚さ125μm、ガラス転移温度:69℃)を用意した。
超純水を満たした水槽を用意した。超純水中で、導電膜積層体のSWCNT膜を、PET板の表面に転写して、PMMA粘着支持シートとSWCNT膜とPET板とがこの順番で積層された転写体を作製した。
【0105】
(洗浄工程)
転写体にトルエンを流下して、転写体からPMMA粘着支持シートを除去したところ、SWCNT膜とPET板とがこの順番で積層された2層導電体が得られた。
【0106】
(評価)
2層導電体のSWCNT膜(炭素導電膜)について、実施例1と同様にして、電気導電率を測定した。
なお、試験片は、2層導電体のSWCNT膜(炭素導電膜)側の表面の四隅にAgペーストを塗布してAg端子を4個作製したものとした。
SWCNT膜(炭素導電膜)の電気導電率は、7.8×104S/mであった。
SWCNT膜(炭素導電膜)の表面シート抵抗は、85Ω/sqであった。
【0107】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。