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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123075
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】蛇籠及び法面の保護方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
E02D17/20 103G
E02D17/20 103Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026937
(22)【出願日】2022-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [公開日] 令和3年2月26日 [WEB開催] 第61回地盤工学会北海道支部年次技術報告会、主催は公益社団法人地盤工学会 北海道支部 [公開日] 令和3年12月3日 [公開場所] 北海道十勝郡浦幌町昆布刈石
(71)【出願人】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(71)【出願人】
【識別番号】594157418
【氏名又は名称】株式会社ドーコン
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521431103
【氏名又は名称】宮坂建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】山木 正彦
(72)【発明者】
【氏名】林 宏親
(72)【発明者】
【氏名】島崎 将司
(72)【発明者】
【氏名】池田 淳
(72)【発明者】
【氏名】林 啓二
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB43
(57)【要約】
【課題】凍上による劣化を抑制し、これによって法面等の保護を確保する。
【解決手段】網状の枠体内に積層体200を収容した蛇籠を法面等に設置する。積層体200は、地面に近い方から順に、第1透水層210、断熱層220及び第2透水層230が積層したものからなる。第1透水層210は、積層体200の積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能である。断熱層220は、積層方向の断熱性が他の層より高い材料からなる。第2透水層230は、積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能であって、第1透水層210より質量が大きい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網状の枠体と、
前記枠体内に収容された積層体とを備えており、
前記積層体が、地面に近い方から順に、
前記積層体の積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能な第1透水層と、
前記積層体の積層方向の断熱性が他の層より高い材料からなる断熱層と、
前記積層体の積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能であって、前記第1透水層より質量が大きい第2透水層とを有していることを特徴とする蛇籠。
【請求項2】
前記枠体が、側壁、天井壁及び底壁によって規定された柱状の形状を有しており、
前記天井壁から前記底壁に向かって前記側壁に沿って延びた補強部材が前記枠体に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の蛇籠。
【請求項3】
前記積層方向と直交する方向に関して互いに対向するように少なくとも2本の前記補強部材が設けられており、
前記2本の補強部材の一方に一端が固定され、他方に他端が固定された幅止め筋を備えていることを特徴とする請求項2に記載の蛇籠。
【請求項4】
前記枠体の天井壁から底壁まで前記枠体の一側壁に沿って延びた第1腕部、前記枠体の天井壁から底壁まで前記一側壁と反対側の側壁に沿って延びた第2腕部、及び、前記第1腕部の前記底壁側の端部から前記第2腕部の前記底壁側の端部まで前記底壁に沿って延びた連結部を有する吊り金具を備えており、
前記吊り金具が、前記連結部を中心に前記枠体に対して回転可能となるように前記枠体に支持されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の蛇籠。
【請求項5】
複数個の請求項4に記載の蛇籠を、前記吊り金具を用いて吊り下げ装置で吊り下げつつ法面の中腹へと移動させ、前記蛇籠同士が密に隣り合うように法面上に並べていくことを特徴とする法面の保護方法。
【請求項6】
前記枠体の底壁を地面との間に挟み込むように設置された受圧板が前記蛇籠に設けられており、
ロックボルトを地面に打ち込むと共に、前記ロックボルトの一端を前記受圧板に固定することを特徴とする請求項5に記載の法面の保護方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面等の保護を確保した蛇籠及びこれによる法面の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
北海道に代表される寒冷地において、冬期間に凍結した土壌が融解する際に土構造物の法面や表層面を変状させたり崩壊させたりすることが知られている。この対策として、特許文献1に記載の工法のように、ふとん籠等の蛇籠を地面に設置することで法面等を保護する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-137922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、蛇籠で法面等を保護しても、以下の通り、蛇籠の背面の土壌(背面土)の強度が低下することに連動して蛇籠自体が劣化することにより、法面等の保護を十分に確保できなくなることがある。寒気が強くなると、蛇籠背面の地盤は土中水を集めて霜柱(アイスレンズ)を形成しながら凍結が進行する。このアイスレンズにより地表面が持ち上がる凍上現象が発生し、蛇籠も一緒に持ち上げられた状態になる。その後融解期になると凍上した背面土が融解し、水を多く含んだ状態を呈することになる。これにより、背面土が法面の傾斜により下方へ移動しようとするため、同時に蛇籠も移動することになり、もって、蛇籠が変形する。そして、毎年これを繰り返すことで蛇籠の変状が大きくなって劣化が進み、法面の保護機能が低下することになる。
【0005】
本発明の目的は、凍上による劣化を抑制し、これによって法面等の保護を確保した蛇籠及びこれによる法面の保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛇籠は、網状の枠体と、前記枠体内に収容された積層体とを備えており、前記積層体が、地面に近い方から順に、前記積層体の積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能な第1透水層と、前記積層体の積層方向の断熱性が他の層より高い材料からなる断熱層と、前記積層体の積層方向と交差する方向に水を通過させることが可能であって、前記第1透水層より質量が大きい第2透水層とを有している。
【0007】
本発明によると、蛇籠内に断熱層が設けられている。このため、蛇籠が設置された地面に凍上が発生しにくい。したがって、凍上による蛇籠や法面等の劣化が抑制される。よって、法面等の保護が確保される。また、断熱層より地面に近い位置に第1透水層が設けられている。仮に、第1透水層がないと、蛇籠を通じてのり面への流入水が排出されにくいおそれがある。これに対し、本発明では、断熱層と地面の間に第1透水層が設けられているので、地面からしみ出した水が第1透水層を通じて排出されやすい。
【0008】
本発明において、前記枠体が、側壁、天井壁及び底壁によって規定された柱状の形状を有しており、前記天井壁から前記底壁に向かって前記側壁に沿って延びた補強部材が前記枠体に設けられていることが好ましい。蛇籠を搬送する際、自重で枠体が歪み、かかる変形が法面等を保護する蛇籠の機能を低下させるおそれがある。これに対し、補強部材によって蛇籠の変形が抑制されるので、蛇籠の機能が低下しにくい。
【0009】
本発明において、前記積層方向と直交する方向に関して互いに対向するように少なくとも2本の前記補強部材が設けられており、前記2本の補強部材の一方に一端が固定され、他方に他端が固定された幅止め筋を備えていることが好ましい。これによると、幅止め筋によって蛇籠の変形がさらに抑制される。よって、蛇籠の機能がさらに低下しにくい。
【0010】
本発明において、前記枠体の天井壁から底壁まで前記枠体の一側壁に沿って延びた第1腕部、前記枠体の天井壁から底壁まで前記一側壁と反対側の側壁に沿って延びた第2腕部、及び、前記第1腕部の前記底壁側の端部から前記第2腕部の前記底壁側の端部まで前記底壁に沿って延びた連結部を有する吊り金具を備えており、前記吊り金具が、前記連結部を中心に前記枠体に対して回転可能となるように前記枠体に支持されていることが好ましい。これによると、蛇籠を搬送する際、吊り金具を使用してクレーン等で吊り下げることができる。この際、吊り金具が連結部を中心に回転するので、枠体を吊り金具に対して斜めに傾斜させた状態にできる。このため、例えば法面等の斜面にも蛇籠を設置しやすい。
【0011】
また、本発明の別の観点による法面の保護方法は、複数個の前記蛇籠を、前記吊り金具を用いて吊り下げ装置で吊り下げつつ法面の中腹へと移動させ、前記蛇籠同士が密に隣り合うように法面上に並べていく。これによると、クレーン等の吊り下げ装置を使用して蛇籠を法面の中腹に設置することができる。
【0012】
本発明において、前記枠体の底壁を地面との間に挟み込むように設置された受圧板が前記蛇籠に設けられており、ロックボルトを地面に打ち込むと共に、前記ロックボルトの一端を前記受圧板に固定することが好ましい。これによると、本発明の蛇籠とロックボルトを併用することにより、凍上によるロックボルトへの被害が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る蛇籠を法面に設置した状態を示す概略斜視図である。
図2図1の蛇籠単体の斜視図である。
図3図2の蛇籠から一部の構成を除いた斜視図である。
図4図2の蛇籠のIV-IV線断面図である。
図5図1の蛇籠を作製し、法面に設置する一連の工程を示すフロー図である。
図6図5の工程において用いられる型枠の斜視図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る蛇籠の一部断面を含む概略正面図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る蛇籠の一部断面を含む概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
本発明の一実施形態である第1の実施形態に係る蛇籠1及びこれを用いた法面の保護方法について、図1図5を用いて説明する。
【0015】
蛇籠1は、図1及び図2に示すように直方体の概略形状を有する土木用の資材である。図1に示すように、複数個の蛇籠1が互いに隙間を空けず、密に隣り合うように法面上に敷き詰められることで法面が保護される。蛇籠1は、法面から地中へと打ち込まれたアンカーピン11に固定されている。また、蛇籠1同士は連結具12によって互いに緊結されている。
【0016】
各蛇籠1は、図2に示すように、枠体100、積層体200(図4参照)、及び吊り金具300を有している。なお、図2は、網目を通して本来表れるべき網目の向こう側の構造の図示が省略されている。以下において、図2に示すように、平面視における蛇籠1の幅方向を左右方向、平面視における蛇籠1の長手方向を前後方向、左右方向及び前後方向の両方向と直交する方向を上下方向(本発明でいう積層方向)という。かかる方向は説明の便宜上設定されるものであり、蛇籠1の使用時の方向を必ずしも示さない。蛇籠1は、JIS(Japanese Industrial Standard,日本工業規格)で定められたものの他、法面の形状、高さ、及び地質等にあわせて作製されてよい。例えば、蛇籠1の上下方向の大きさは0.3m~0.4m、左右方向の大きさは1m、前後方向の大きさは1.0m又は2.0mである。
【0017】
枠体100は、蛇籠1の外形を規定する直方体(又は四角柱)の概略形状を有する部材である。なお、枠体100の形状は、円柱や楕円柱、三角柱、五角柱等、直方体以外の柱状の概略形状を有していてもよい。枠体100は、枠体本体120並びに補強部材151、152、161及び162を有している。枠体本体120は、左側壁121、右側壁122、前側壁123、後側壁124、天井壁125及び底壁126(以下、「壁部121~126」と総称する場合がある。)からなる直方体の箱状の部材である。壁部121~126は直方体の六面をそれぞれ構成している。各壁は、直線状の鉄線120aと網目状の鉄線120bとからなる。これらを構成する鉄線には、錆防止等のため亜鉛やアルミニウム等でメッキが施されていてもよい。鉄線120aは、直方体の各辺に沿って延びており、枠体本体120の骨組みを形成している。鉄線120bの網目の形状には、菱形、丸孔、亀甲等の従来公知のものが適用される。鉄線の線径は、例えば鉄線120aが5.0mm、鉄線120bが3.2mmである。
【0018】
補強部材151、152、161及び162は、図2及び図3に示すように、両端が120aに固定された直線状の鉄線からなる部材である。これらの補強部材には、鉄線120aより太い(例えば、線径6.0mmである)鉄線が用いられている。補強部材151は、左側壁121の前後方向の中間を天井壁125から底壁126に向かって左側壁121に沿って上下方向に延びている。補強部材152は、右側壁122の前後方向の中間を天井壁125から底壁126に向かって右側壁122に沿って上下方向に延びている。補強部材151及び152は、左右方向に関して互いに対向している。補強部材161は、前側壁123の左右方向の中間を天井壁125から底壁126に向かって前側壁123に沿って上下方向に延びている。補強部材162は、後側壁124の左右方向の中間を天井壁125から底壁126に向かって、後側壁124に沿って上下方向に延びている。補強部材161及び162は、前後方向に関して互いに対向している。
【0019】
補強部材151及び152には、左右幅止め筋170が固定されている。左右幅止め筋170は、例えば、線径6.0mmの鉄筋からなり、枠体本体120の骨組みを形成している鉄線120aより太く且つ強度が高い。左右幅止め筋170は、上下方向に関して後述の断熱層220の上面付近に配置されており、補強部材151に一端が折り曲げられて掛けられつつ固定されている。同様に、補強部材152に他端が折り曲げられて掛けられつつ固定されている。補強部材161及び162には、前後幅止め筋180が固定されている。前後幅止め筋180は左右幅止め筋170と同様の鉄筋で構成されている。前後幅止め筋180は、上下方向に関して後述の断熱層220の上面付近に配置されており、補強部材161に一端が折り曲げられて掛けられつつ固定されている。同様に、補強部材162に他端が折り曲げられて掛けられつつ固定されている。
【0020】
図4に示すように、積層体200は、第1透水層210、断熱層220、及び第2透水層230が上下方向に積層されたものからなる。各層は、前後方向及び左右方向の両方に沿って広がっている。なお、上下方向と交差する方向であれば、前後・左右方向に対して傾斜した方向に各層が広がっていてもよい。積層体200は、枠体100内の空間とほぼ同じ形状及び寸法を有し、枠体100内に収容されている。第1透水層210は排水機能を有する層である。第1透水層210は、層が広がる方向に沿って水を通過させ、これによって水に蛇籠1を通過させることが可能である。第1透水層210には、合成樹脂製の不織布等から構成された透水性シート等が用いられている。例えば、「グリ・シート」(タキロンシーアイシビル社)が用いられる。PBD(plastic board drain、プラスチックボードドレーン)工法に用いられるPBD材が使用されてもよい。
【0021】
断熱層220は断熱機能を有する層である。断熱層220には、上下方向に関する断熱性が第1透水層210及び第2透水層230より高い材料が使用されている。断熱層220には、例えば、建築又は土木用の資材である発泡スチレン、発泡ウレタン等の発泡プラスチック系の固体断熱材が使用される。発泡コンクリートや発泡ガラス等のその他の断熱材が使用されてもよい。
【0022】
第2透水層230は排水機能を有する層である。第2透水層230は、層が広がる方向に沿って水を通過させることが可能である。第2透水層230には、ふとん籠等の従来の蛇籠に採用される中詰め材が使用されてよいし、その他の材料が用いられてもよい。例えば、砂礫や再生骨材等を適宜の粒度分布に調整した粗粒材料、砂利や砕石が用いられてもよい。また、このような粗粒材料と砂礫や砂利・砕石を混合したものが用いられてもよい。これらの材料が中詰め材として第2透水層230に用いられる場合には、左右幅止め筋170及び前後幅止め筋180上に不織布が敷き詰められ、さらにその上に中詰め材が設置されるとよい。これにより、中詰め材の流出が抑制される。第2透水層230は、第1透水層210より全体の質量が大きい層であり、排水性のある重石としての機能を蛇籠1に付与する役割を担う。
【0023】
第1透水層210、断熱層220、及び第2透水層230は、地面に近い方から、第1透水層210、断熱層220、第2透水層230の順で配置される。これらの層の厚さ(上下方向の大きさ)は、第1透水層210が最も小さく、断熱層220が次に小さく、第2透水層230が最も大きい。例えば、第1透水層210は5mm、断熱層220は5cm、10cm、又は15cm、第2透水層230は25cmであり、蛇籠1全体の高さ(上下方向の大きさ)は30cm~40cm程度となる。
【0024】
吊り金具300は、図2及び図3に示すように、前吊り金具310及び後吊り金具320を含んでいる。吊り金具300は、例えば、線径8.0mmの鉄線からなる。前吊り金具310は、第1腕部311、第2腕部312、及び連結部313を有する。第1腕部311は、左方に逆U字型に折れ曲がった先端部が天井壁125から上方に向かって突出するように配置されている。第1腕部311は、左側壁121の前後方向の中間よりやや前方において、上記先端部から底壁126に向かって左側壁121に沿って上下方向に延びている。連結部313の左右方向の両端は第1腕部311及び第2腕部312の下端とそれぞれ連結している。連結部313は、第1腕部311の下端から底壁126に沿って前壁123と平行に第2腕部312の下端まで延びている。第2腕部312は、右方に逆U字型に折れ曲がった先端部が天井壁125から上方に向かって突出するように配置されている。第2腕部312は、右側壁122の前後方向の中間よりやや前方において、上記先端部から底壁126に向かって右側壁122に沿って上下方向に延びている。連結部313には、左端から右端までコイル状の鉄線である螺旋体400が巻き付いている。この螺旋体400は、網目状の鉄線120bにも巻き付けられている。これによって、前吊り金具310は、連結部313を中心として図3のA方向に回転可能に枠体本体120に支持されている。
【0025】
後吊り金具320は、第1腕部321、第2腕部322、及び連結部323を有する。第1腕部321は、左方に逆U字型に折れ曲がった先端部が天井壁125から上方に向かって突出するように配置されている。第1腕部321は、左側壁121の前後方向の中間よりやや後方において、上記先端部から底壁126に向かって左側壁121に沿って上下方向に延びている。連結部323の左右方向の両端は第1腕部321及び第2腕部322の下端とそれぞれ連結している。連結部323は、第1腕部321の下端から底壁126に沿って前壁123と平行に第2腕部322の下端まで延びている。第2腕部322は、右方に逆U字型に折れ曲がった先端部が天井壁125から上方に向かって突出するように配置されている。第2腕部322は、右側壁122の前後方向の中間よりやや後方において、上記先端部から底壁126に向かって右側壁122に沿って上下方向に延びている。連結部323は、左端から右端までコイル状の鉄線である螺旋体400が巻き付いている。この螺旋体400は、網目状の鉄線120bにも巻き付けられている。これによって、後吊り金具320は、連結部323を中心として図3のB方向に回転可能に枠体本体120に支持されている。
【0026】
以下、蛇籠1の作製及び設置工程について図5に従って説明する。蛇籠1の作製は、法面における施工予定位置の下方の平地において行われる。まず、蛇籠1の壁部を構成する枠体100の底壁126と、左側壁121、右側壁122、前側壁123及び後側壁124とを平地に配置し、これら側壁121~124を底壁126の四辺に取り付ける(ステップS1)。この段階で、側壁121~124には、補強部材151、152、161及び162が既に取り付けられている。また、底壁126には吊り金具300が既に取り付けられている。次に、底壁126上に、第1透水層210を構成する排水材(透水性シート等)及び断熱層220を構成する断熱材を設置する(ステップS2)。次に、側壁121~124を立ち上げて側壁同士を結合すると共に、転圧用の型枠50(図6参照)を側壁121~124の外側に設置する(ステップS3)。型枠50は、4枚の鉄板51を互いに連結・固定することで構成されている。なお、鉄板51の代わりに木製等のその他の材質の平板部材が用いられてもよい。鉄板51の上端にはアイボルト52が固定されている。アイボルト52は型枠50の搬送に用いられる。
【0027】
次に、断熱層220の上面に左右幅止め筋170及び前後幅止め筋180を配置し、補強部材151、152、161及び162に固定すると共に、これら幅止め筋170及び180上に中詰め材の流出防止用の不織布を設置する(ステップS4)。次に、断熱層220を構成する中詰め材を不織布上に投入する(ステップS5)。ここで、所定の厚さ(例えば、15cm)に対応する量の中詰め材を投入するごとに中詰め材に対して転圧を実施する。ステップS3において設置された型枠50により、中詰め材の転圧の際に側壁121~124が外側へと大きく膨出するのが抑制される。
【0028】
次に、蛇籠1の上部を構成する天井壁125を側壁121~124の上端に取り付けると共に、型枠50を取り外す(ステップS6)。これにより、蛇籠1が完成する。次に、完成した蛇籠1をクレーン又はバックホウを用いて、蛇籠1が水平な姿勢(つまり、天井壁125及び底壁126が水平方向に沿う姿勢)となるように吊り下げ用ワイヤーを吊り金具300に掛けて蛇籠1を吊り下げつつ、法面の施工予定位置付近に設置されたヤード(中継地点)まで搬送する(ステップS7)。次に、前のステップで用いた吊り下げ用ワイヤーを、蛇籠1の傾きが法面勾配に応じた傾き(つまり、天井壁125及び底壁126が法面に沿う傾き)となるような別の吊り下げ用ワイヤーに取り換えて吊り金具300に掛け、ヤードから施工予定箇所まで蛇籠1を搬送し、法面上に蛇籠1を設置する(ステップS8)。ここで、上記の通り、前吊り金具310及び後吊り金具320が連結部313及び323を中心に回転可能であるので、吊り金具300を用いて適宜の吊り下げ用ワイヤーで吊り下げることで蛇籠1を適切に傾斜させることができる。ステップS1~S8を繰り返すことにより、互いに密に隣り合うように複数個の蛇籠1を法面上に設置していく。そして、連結具12を用いて蛇籠1同士を緊結すると共に、法面の2平方メートル当たりに1カ所の割合でアンカーピン11を打設し、蛇籠1をアンカーピン11に固定する(ステップS9)。
【0029】
以上説明した本実施形態によると、蛇籠1内に断熱層220が設けられている。このため、蛇籠1が設置された地面に凍上が発生しにくい。したがって、凍上による蛇籠1や法面等の劣化が抑制される。よって、法面等の保護が確保される。また、断熱層220より地面に近い位置に第1透水層210が設けられている。仮に、第1透水層210がないと、蛇籠1を通じて排出されにくいおそれがある。これに対し、本実施形態では、断熱層220と地面の間に第1透水層210が設けられているので、地面からしみ出した水が第1透水層210を通じて排出されやすい。
【0030】
また、蛇籠1を搬送する際、自重で枠体が歪み、かかる変形が法面等を保護する蛇籠1の機能を低下させるおそれがある。これに対し、補強部材151、152、161及び162が枠体100に設けられていることにより蛇籠1の変形が抑制される。よって、蛇籠1の機能が低下しにくい。さらに、左右幅止め筋170及び前後幅止め筋180によって蛇籠1の変形がさらに抑制される。よって、蛇籠1の機能がさらに低下しにくい。
【0031】
また、蛇籠1を搬送する際、前吊り金具310及び後吊り金具320を使用してクレーン等で吊り下げることができる。この際、前吊り金具310及び後吊り金具320が連結部313及び323を中心に回転するので、枠体100をこれらの吊り金具に対して斜めに傾斜させた状態にできる。このため、例えば法面等の斜面にも蛇籠1を設置しやすい。
【0032】
<第2の実施形態>
本発明の別の一実施形態である第2の実施形態に係る構造体500について図7を参照しつつ説明する。構造体500は、蛇籠1’にロックボルト510を組み合わせて構成したものである。蛇籠1’は、第1の実施形態に係る蛇籠1の平面視において中央に、上下方向に枠体100及び積層体200を貫通する貫通孔500aが形成されたものであり、その他の要素は蛇籠1と共通である。なお、本実施形態における上下方向は、法面に対して直交する方向に沿っており、地中深くに向かう方向を下方とする。
【0033】
ロックボルト510は、ロッド511、受圧板512及び固定具513を有している。ロッド511は、雄螺子部が表面に形成された金属製の棒部材である。ロッド511は、蛇籠1’の貫通孔500aを貫通して地中に埋め込まれ、グラウト等により地盤に固定されている。ロッド511の上端部は蛇籠1’の上方に突出している。なお、貫通孔500aの内表面が、金属製の円筒部材等を配置することによって補強されていてもよい。受圧板512は、金属製の平板部材であり、枠体100の上面に配置されている。これにより、受圧板512は、法面との間に蛇籠1’(枠体100の底壁(底壁126))を挟み込んでいる。固定具513は、ロッド511の雄螺子部と噛み合う雌螺子部が形成されたナットやプレート等からなる。固定具513の雌螺子部を上記雄螺子部と噛み合わせることによって固定具513がロッド511に取り付けられている。固定具513は受圧板512に対して上方から緊締されている。これにより、受圧板512が蛇籠1’に対して下方に向かって押さえ付けられている。ロックボルト510は、このように受圧板512が蛇籠1’を通じて法面を押さえ付けることで法面が安定に保持される。
【0034】
以上の通り、本実施形態においては、本発明が適用された蛇籠1’とロックボルト510が併用されている。蛇籠1’によって法面の凍上が抑制されるので、凍上によるロックボルト510への被害が抑制される。
【0035】
<第3の実施形態>
本発明のさらに別の一実施形態である第3の実施形態に係る構造体600について図8を参照しつつ説明する。構造体600は、第2の実施形態に係るロックボルト510を蛇籠1’’に組み合わせて構成したものである。蛇籠1’’は、第1の実施形態に係る蛇籠1の平面視において中央に、上下方向に枠体100の天井壁(天井壁125)及び積層体200を貫通する貫通孔600aが形成されたものであり、その他の要素は蛇籠1と共通である。なお、本実施形態における上下方向は、法面に対して直交する方向に沿っており、地中深くに向かう方向を下方とする。
【0036】
本実施形態に係るロックボルト510は、その上部構造の全体が貫通孔600a内に配置されている。受圧板512は、上下方向に関して断熱層220及び第2透水層230の位置に配置されており、法面との間に枠体100の底壁(底壁126)を挟み込んでいる。固定具513は受圧板512に対して上方から緊締されている。これにより、受圧板512が法面の表面に対して下方に向かって押さえ付けられている。ロックボルト510は、このように受圧板512が法面を押さえ付けることで法面が安定に保持される。
【0037】
以上の通り、本実施形態においては、本発明が適用された蛇籠1’’とロックボルト510が併用されている。蛇籠1’’によって法面の凍上が抑制されるので、凍上によるロックボルト510への被害が抑制される。
【0038】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0039】
例えば、上述の実施形態に係る第1透水層210は、層が広がる方向(例えば、積層方向と直交する方向)に沿って水を通過させるものである。これに対し、第1透水層210に代えて、層が広がる方向に対して傾斜した方向に沿って水を通過させる透水層が用いられてもよい。このように、第1透水層としては、積層方向と交差する方向に水を通すことで、法面の下り側へと水を排出する機能が確保されていればよい。
【0040】
また、上述の実施形態では、蛇籠1に補強部材151、152、161及び162や、左右幅止め筋170及び前後幅止め筋180が設けられている。これに対し、所望の強度が確保できれば、これら補強部材や幅止め筋のいずれか一部又は全部が設けられなくてもよい。あるいは、上述の実施形態より多くの補強部材や幅止め筋が設けられていてもよい。
【0041】
また、上述の実施形態では、蛇籠1が法面下の平地において作製されているが、法面の施工予定箇所又はその近傍において作製されてもよい。
【0042】
また、上述の実施形態では、蛇籠1の用途の1つとして法面の保護が想定されているが、土留めや護岸等、治山工事や河川工事を含む種々の土木工事に蛇籠1が用いられてよい。
【符号の説明】
【0043】
1、1’、1’’ 蛇籠
100 枠体
120 枠体本体
121~126 壁部
151、152、161、162 補強部材
170 左右幅止め筋
180 前後幅止め筋
200 積層体
210 第1透水層
220 断熱層
230 第2透水層
300 吊り金具
510 ロックボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8