(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123079
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】乗り物酔い抑制装置、乗り物酔い抑制方法
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20230829BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230829BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
B60R11/02 S
G08G1/16 F
H04S7/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026942
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】望月 綾子
【テーマコード(参考)】
3D020
5D162
5H181
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BB01
3D020BC05
3D020BD05
3D020BE03
5D162AA07
5D162CA06
5D162CA21
5D162CD02
5D162CD34
5D162DA04
5D162EG02
5H181AA01
5H181CC12
5H181EE02
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF14
5H181FF22
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】車両の搭乗者の耳に入る音声の情報ずれを引き起こしにくくし、乗り物酔いを軽減する。
【解決手段】音像の定位の位置変位を制御する加工が行われた音声を、車両に設けられたスピーカーから出力して、車両の搭乗者の乗り物酔いを抑制する乗り物酔い抑制装置であって、乗り物酔い抑制装置は、車両の操作情報を取得して車両の挙動を予測する車両挙動予測部12と、加工対象の音声を取得する音声取得部13と、前記音声取得部で取得された音声を加工する音声加工部と、を備え、前記音声加工部は、前記車両挙動予測部により予測される車両の挙動の情報に応じて、前記スピーカーから出力される音声の音像の定位の位置変位を制御する加工を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音像の定位の位置変位を制御する加工が行われた音声を、車両に設けられたスピーカーから出力して、前記車両の搭乗者の乗り物酔いを抑制する乗り物酔い抑制装置であって、
前記車両の操作情報を取得して、前記車両の挙動を予測する車両挙動予測部と、
加工対象の音声を取得する音声取得部と、
前記音声取得部で取得された音声を加工する音声加工部と、を備え、
前記音声加工部は、
前記車両挙動予測部により予測される車両の挙動の情報に応じて、前記スピーカーから出力される音声の音像の定位の位置変位を制御する加工を行う、
乗り物酔い抑制装置。
【請求項2】
前記音声加工部は、
前記車両挙動予測部で予測される車両にかかる加速度があらかじめ定めた閾値以上である場合に、前記予測される車両にかかる加速度の大きさに応じて、音像の定位の位置変位を制御する加工を行う、
請求項1に記載の乗り物酔い抑制装置。
【請求項3】
前記音声加工部は、
前記車両挙動予測部で予測される前記加速度の時間あたりの変化量である加加速度があらかじめ定めた閾値以上である場合に、音像の定位の位置変位を制御するとともに、
前記加加速度の大きさに応じて音像の定位の位置変位の制御量が大きくなるように変更する、
請求項2に記載の乗り物酔い抑制装置。
【請求項4】
前記車両挙動予測部は、地図情報と、車両の現在地の情報と、設定される経路と、をさらに取得して車両の挙動を予測するとともに、連続カーブ区間を抽出し、
前記音声加工部は、
道路上の対象箇所が前記車両挙動予測部で抽出された連続カーブ区間であるか否かに応じて、音像の定位の位置変位の制御量を変更する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の乗り物酔い抑制装置。
【請求項5】
車両挙動予測部は、車両の挙動を予測し、
音声取得部は、加工対象である音声を取得し、
音声加工部は、前記取得された加工対象の音声に対し、前記予測される車両の挙動の情報に応じて、スピーカーから音声を出力する際の音像の定位の位置変位を制御する加工を行い、
前記スピーカーは、前記音像の定位の位置変位を制御するように加工された音声を、車両内に出力する、
乗り物酔い抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物酔い抑制装置、乗り物酔い抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の移動の際には自動車等の車両が用いられている。これらの車両では、通常の走行を行っている場合であっても、急加速や急減速にかかる力、カーブを曲がる際の遠心力が搭乗者にかかることがある。
【0003】
特に、自動車内に設けられたスピーカーから音声や音楽等の音を出力している場合であって、不規則な加速や減速の繰り返しや、発車と停車の繰り返し、右折や左折などの曲がりくねった道などによる前後左右上下への揺れが過度なるなどの脳への情報量が過剰になるほど、耳がとらえた情報と実際に目や体から入る情報とにずれを生じ、搭乗者の脳が混乱して乗り物酔いを引き起こす場合がある。
【0004】
特許文献1には、移動体の挙動に関する情報に基づいて音像の定位位置を制御し、乗り物酔いを防止する装置が開示されている。挙動に関する情報とは、搭乗者が受ける重力加速度の大きさ及び方向と、移動体の運転者により操作される操作機器の操作情報、道路情報に基づいて予測される移動体の挙動である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された乗り物酔いを防止する装置では、移動体の挙動として重力加速度を用い、揺れの感覚を低減させる位置に音像を定位させること、及び、道路情報から移動体の起動を予測するものである。しかしながら、揺れの感覚を低減させることでは、搭乗者は予測された揺れに適応することができず、乗り物酔いを抑制することができないという問題がある。
本発明は、車両内で流れている音楽などの音声情報に注目し、搭乗者の耳に入る音声の情報ずれを引き起こしにくくすることで、搭乗者の脳の混乱を低減して乗り物酔いを軽減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる乗り物酔い抑制装置は、音像の定位の位置変位を制御する加工が行われた音声を、車両に設けられたスピーカーから出力して、前記車両の搭乗者の乗り物酔いを抑制する乗り物酔い抑制装置であって、前記車両の操作情報を取得して、前記車両の挙動を予測する車両挙動予測部と、加工対象の音声を取得する音声取得部と、前記音声取得部で取得された音声を加工する音声加工部と、を備え、前記音声加工部は、前記車両挙動予測部により予測される車両の挙動の情報に応じて、前記スピーカーから出力される音声の音像の定位の位置変位を制御する加工を行う。
これにより、車両の挙動の予測に応じて、音像の定位の位置変化を制御することができる。
【0008】
本開示にかかる乗り物酔い抑制方法では、車両挙動予測部は、車両の挙動を予測し、音声取得部は、加工対象である音声を取得し、音声加工部は、前記取得された加工対象の音声に対し、前記予測される車両の挙動の情報に応じて、スピーカーから音声を出力する際の音像の定位の位置変位を制御する加工を行い、前記スピーカーは、前記音像の定位の位置変位を制御するように加工された音声を、車両内に出力する。
これにより、車両の挙動の予測に応じて、音像の定位の位置変化を制御することができる。
【発明の効果】
【0009】
車両の搭乗者の耳に入る音声の情報ずれを引き起こしにくくし、乗り物酔いを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】乗り物酔いシステムの構成を示す構成図である。
【
図2】車両が右折動作を行う場合と遠心力の方向を示す図である。
【
図3】車両内における搭乗者の位置と実際に音声を聞く相違の一例を示す図である。
【
図4】横加速度に応じて音像の定位の位置変位量を制御する場合のフローチャートである。
【
図5】連続カーブ区間の有無の情報を利用して音像の定位の位置変位量を制御する場合のフローチャートである。
【
図6】加加速度に応じて音像の定位の位置変位量を制御する場合のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、乗り物酔い抑制システム1の構成例を示した図である。
図1に示すように、乗り物酔い抑制システム1は、乗り物酔い抑制装置10と、ナビゲーション装置20と、搭乗者を挟むように設けられた一対のスピーカー30と、を備える。ここでは乗り物酔い抑制システム1は、自動車(以下、車両)に利用されるものとして説明する。また、乗り物酔い抑制システム1により乗り物酔いを抑制させる対象は、主として車両の後部座席に着座した搭乗者であるものとして説明する。
【0012】
乗り物酔い抑制装置10は、地図関連情報取得部11と、車両挙動予測部12と、音声取得部13と、記憶部14と、音声加工部15と、走行情報取得部16と、出力部17と、を備える。
【0013】
ナビゲーション装置20は、あらかじめ地図情報を記憶する地図情報記憶部21と、現在位置取得部22と、搭乗者により車両を走行させる経路を設定する経路設定部23と、を備える。ここで、現在位置取得部22による現在位置の取得には、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用することができる。
【0014】
なお、乗り物酔い抑制装置10は、ナビゲーション装置(ナビ装置)20に内蔵されていても良く、別体であってもよい。
【0015】
スピーカー30は、車両内部に少なくとも2つ備えられたスピーカーである。以下では、スピーカー30は、搭乗者の挟んで設けられた一対のスピーカーであり、車両内の右側に設けられる右側スピーカーと、左側に設けられる左側スピーカーを有しているものとして説明する。さらに以下では、スピーカー30から出力される音は、車両が直進している状態において搭乗者の体が左右に傾いていないときに、搭乗者の左右方向に対するずれが無い状態で定位した状態であるものとして説明するとともに、音声加工部15による音の加工により、左右方向における音像の定位の位置変位を制御するものとして説明する。
【0016】
なお、スピーカー30は、車両内部の搭乗者の前後左右方向に計4つ備えられたスピーカーであってもよい。この場合、搭乗者の前方に音像をあらかじめ定位させた状態とすることもでき、音像の定位の初期位置の設定は自在に変更できる。
【0017】
地図関連情報取得部11は、ナビゲーション装置20からナビ情報を取得する。ここでナビ情報とは、ナビゲーション装置20の現在位置取得部22により取得される現在位置と、地図情報記憶部21に記憶されている地図情報と、経路設定部23で設定された経路情報であるが、これらに限られない。地図関連情報取得部11は、本発明の実施の形態に必ずしも必須の構成要素ではなく、無くてもよい。
【0018】
車両挙動予測部12は、後述する走行情報取得部16により取得される車両の走行情報から車両の挙動を予測する。また、車両挙動予測部12は、車両にかかる加速度を算出して、車両の挙動を予測することができる。すなわち車両挙動予測部12では、車両の操作情報を利用して、車両の挙動の予測を行う。
【0019】
車両挙動予測部12は、地図関連情報取得部11により取得されたナビ情報のうち、地図情報と経路情報を利用して連続カーブ区間を抽出してもよい。また、車両挙動予測部12は、ナビ情報である経路情報から、左右、前後方向への揺れなどの車両挙動を予測してもよい。
【0020】
以下では、後述する走行情報取得部16により取得される、搭乗者によるハンドルやアクセル、ブレーキなどの操作、及び、これらの操作の結果として発生する車両の加速や減速、左折や右折等の挙動の全てを、車両における操作情報として説明する。
【0021】
車両挙動予測部12では、車両が左折や右折を行う際に発生する遠心力にかかる横G、すなわち搭乗者にかかる左右方向の加速度である横加速度を予測することができる。なお以下では、この車両にかかる遠心力と記載している場合、車両に搭乗している搭乗者にかかる遠心力と読み替えることができる。
【0022】
さらに車両挙動予測部12は、走行情報取得部16により取得される速度や加速度から、車両の進行方向にかかる加速度の時間当たりの変化量である加加速度を算出できる。また、車両挙動予測部12は、車両の左折や右折にかかる算出された横加速度から、加速度の時間当たりの変化量である加加速度を算出することができる。以下では、車両の左右方向についての音像の定位の説明を行うため、加加速度とは、搭乗者にかかる左右方向の加加速度であるものとして説明する。
【0023】
なお、車両挙動予測部12は、後述する走行情報取得部16により取得されるウィンカーやハンドルなどの操作情報によって車両挙動を予測することが可能である。また同様に、車両挙動予測部12は、走行情報取得部16により取得されるアクセルやブレーキの操作によって、加減速を予測することもできる。
【0024】
音声取得部13は、加工対象となる音声を取得する。例えば、音声取得部13が取得する音声とは、CDやラジオ、SDカードなどのメモリ、ネット経由による通信など、公知のソースから取得する音声データである。音声取得部13は、ナビゲーション装置20によるナビゲートの音声や、図示しないディスプレイオーディオまたはオーディオなどの車載機器から音声データを取得する。音声取得部13は、記憶部14に記憶された、所定の周波数の音声データやジングル音声データ等を取得してもよい。音声取得部13により取得された音声は、音声加工部15に出力される。
【0025】
記憶部14は、音声取得部13により取得した音声や、音声加工部15により加工された加工後の音声に関する情報を記憶することができる。なお、記憶部14で記憶できるものはこれらに限られず、例えば記憶部14は、地図関連情報取得部11で取得したナビ情報や、車両挙動予測部12で抽出された連続カーブ区間の情報、車両挙動の予測、算出された加速度や、加加速度の情報などを、一時的に記憶するために利用されてもよい。
【0026】
音声加工部15は、音声取得部13で取得された音声の加工を行う。より具体的には、音声加工部15では、車両挙動予測部12により予測される挙動や、抽出される連続カーブ区間、算出された加速度、及び算出された加加速度の情報を利用して、音声の加工を行う。
【0027】
走行情報取得部16は、車両から、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの操作の状態をCAN(Controller Area Network)を介して取得する。走行情報取得部16では、車両に設けられた速度センサにより、車両の速度を取得してもよく、車両に設けられた加速度センサにより、車両の加速度を取得しても良い。また、走行情報取得部16では、車両挙動予測部12や、音声加工部15に取得された情報を出力する。
【0028】
出力部17は、音声加工部15により加工された音声を、スピーカー30に出力する。例えば音声加工部15では、音声取得部13により取得された音声について音像の位置を制御するように加工した音声の加工情報を生成し、出力部17は音声の加工情報を電気信号にしてスピーカー30に出力し、スピーカー30は入力された音声に基づいて、車両内に物理的な音声を出力する。
【0029】
なお、音声加工部15により加工された音声を出力部17により出力するタイミングは、典型的には車両が右折や左折の動作を行う前であることが好ましいが、実際の車両の左折や右折の動作中に行うことも可能であって、両方のタイミングで連続的に行うこともできる。
【0030】
ここで、音声加工部15による音声の加工について、より具体的に説明する。音声加工部15で行う音声の加工とは、音像の定位の位置変位に対する制御である。例えば
図2に示すように、車両がカーブに沿って走行する場合や、右折、左折等を行う場合には、搭乗者は、車両の進行方向と逆の方向に体が持っていかれることとなる。
【0031】
すなわち
図3に示すように、車両が右折する場合であれば、車内の搭乗者は、遠心力によって体が左に持っていかれた状態となる。このとき、車両が右折することにより搭乗者は左方向にずれた位置で音声を聞く状態となり、すなわち、左方向に音像の定位ずれが発生した状態となる。音声加工部15では、この音像の定位ずれを制御した状態で、音声をスピーカー30から出力するように、音声の加工を行うことができる。
【0032】
具体的には、音声加工部15では、スピーカー30の右側スピーカーと左側スピーカーから出力される音声の大きさのバランスを変化させるように加工を行って、音像が定位する位置の変位を制御する。車両が右折する場合であれば、音声加工部15は、右側スピーカーからの音量を上げるように音声の加工を行うことで、左側スピーカーの音声の出力を遠く感じさせ、音像が定位する位置を搭乗者から見て右側に変位させる。なおこの場合には、音声加工部15は、左側スピーカーの音量を下げることとしてもよい。
【0033】
また例えば、音声加工部15では、スピーカー30の右側スピーカーと左側スピーカーから出力される音声の出力タイミングを変化させるように加工を行って、音像が定位する位置の変位を制御することができる。例えば、車両が右折する場合であれば、音声加工部15は、左側スピーカーの音声の出力タイミングを、右側スピーカーの音声の出力タイミングよりも遅くすることで、左側スピーカーの音声の出力を遠く感じさせ、音像が定位する位置を搭乗者から見て右側に変位させるができる。
【0034】
このように車両が右折することが予測された場合、音声加工部15における音声の加工により音像が定位する位置を右方向に移動させることで、搭乗者は、車両の次の挙動が右折であることを直感的に判断することができる。
【0035】
また、音声加工部15による音像の定位の位置変位の制御する具体的な方法として、車両の左折又は右折時に搭乗者にかかる横G(横加速度)を参照して、制御量を決定することができる。
【0036】
この場合には、車両挙動予測部12では、車両の左折や右折で発生する遠心力により搭乗者にかかる横Gの強さを予測する。そして、音声加工部15は、横Gに比例して定位の位置変位の制御量を設定することができる。
【0037】
なお音声加工部15は、横Gの値に比例ではなく、横Gのべき乗に比例して定位の位置変位の制御量を設定してもよい。すなわち、音声加工部15は、横Gの値を利用して定位の位置変位の制御量を設定することができるが、この際の横Gの値の利用方法は任意に変更可能である。
【0038】
さらに、音声加工部15では、横Gがあらかじめ定めた所定の閾値以上である場合に定位位置を制御する加工を行い、横Gが所定閾値より小さい場合には、定位位置を制御する加工を行わないこととすることができる。
【0039】
なお、音声加工部15が、車両にかかる横Gを利用して定位の位置変位の制御量を設定する際には、車両挙動予測部12では、走行情報取得部16により取得される情報のみを利用し、ナビゲーション装置20から取得した情報は用いずに車両の挙動を予測することとしてもよい。一方で、車両挙動予測部12では、走行情報取得部16により取得される情報と、ナビゲーション装置20から取得した情報と、の両方を用いて車両の挙動を予測することとしてもよい。
【0040】
また、音声加工部15では、音声取得部13により取得された音声について、所定の周波数にかかる音像の定位位置のみを制御することによる加工を行うこともできる。具体的には、音声加工部15では、所定周波数以上である高周波音声の定位位置を制御することができる。
【0041】
一例として、音声加工部15では音声取得部13により取得された音声の一部である高音域の音声の定位位置を制御したものを、音声取得部13で取得された音声に重畳させる加工を行うことができる。
【0042】
ここで高音域の音声は、搭乗者にとっては音像が定位する位置が判り易いものであるという特徴がある。そのため、高音域の音声についてのみ車両挙動の予測に応じて音像の定位位置を制御し、音像の位置が制御された高音域の音声を、元の音声と重畳して搭乗者に向けて出力することにより、予測される車両の挙動を搭乗者に判り易く伝えることができる。
【0043】
また例えば、音声加工部15は、車両挙動予測部12により、走行中である道路が連続カーブ区間であることを地図データから予測した場合には、音像の定位の位置変位の量が通常のカーブより大きいものとして制御する加工を行うことができる。言い換えると、音声加工部15では、連続カーブ区間における位置変位量の制御時には、制御量に係数を掛けることができる。
【0044】
一般的には、搭乗者はカーブが連続する山道などでは乗り物酔いしやすくなる。そのため、音声加工部15では、カーブ区間における音像の定位の位置変位の制御量を大きくし、搭乗者に車両の挙動をオーバーに知らせることで、よりはっきりと車両挙動を直感的にわかるようにすることができる。
【0045】
また、音声加工部15は、車両挙動予測部12により算出度された加加速度が大きい場合に、音像が定位の位置変位の制御量を通常より大きくするように変更することができる。例えば音声加工部15では、加加速度が、あらかじめ定めた所定値以上である場合に、音像の定位の位置変位の制御量を大きくすることができる。言い換えると、音声加工部15では、加加速度が大きい場合の位置変位量の制御時には、制御量に係数を掛けることができる。
【0046】
すなわち、車両の加加速度の値が大きい場合、搭乗者はより乗り物酔いをしやすくなる環境にあると考えられるため、搭乗者に車両の挙動をオーバーに知らせることで、よりはっきりと車両挙動を直感的にわかるようにすることができる。
【0047】
なお、上述した音声加工部15による音像の定位の位置変位の制御方法は、これらのうち2つ以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
以上では、車両挙動予測部12により算出される定位の位置変位量に対し、音声加工部15で音声を加工する際に、連続カーブ区間や加加速度等の条件によって制御量を増減させることとして記載した。しかしながら、この手順に限られず、車両挙動予測部12による定位の位置変位量を算出する際に、連続カーブ区間や加加速度等の条件を含めた位置変位量として算出しておき、音声加工部15では、この算出した位置変位量に合わせた制御量で音声を加工するという手順とすることも可能である。
【0049】
車両に左側スピーカーと右側スピーカーの一対のスピーカー30が設けられており、左側スピーカーの位置を左右方向に0%、右側スピーカーの位置を左右方向に100%、通常時の音像の左右方向における定位の位置を左右方向に50%とした場合、車両挙動予測部12では、遠心力による定位の位置変位を、左右方向に50%からの増減により算出するとともに、連続カーブ区間や加加速度に応じて、この増減を大きくするようにして算出することができる。
【0050】
そして、車両が左折する際にはこの値を減少させることとし、右折する際には増加させることとする。例えばある曲率のカーブを、ある車両速度で左折するときの定位の位置変位の値を40%、右折するときの定位の位置変位の値を60%と出力するものとする。言い換えるとこの場合、音像が定位する位置の変位量を、10%とする。
【0051】
さらにこのとき、車両挙動予測部12では、車両が連続カーブ区間である場合、例えば通常の変位量の2割となる2%、加加速度の影響により例えば通常の変位量の1割となる1%を変位量として追加するものとする。この場合には、音声加工部15は、左折のときの定位の位置変位の値を40-2-1=37%、右折のときの定位の位置変位の値を60+2+1=63%と算出して音声加工を行い、出力することができる。
【0052】
ここで、
図4~
図6を参照して音像の定位の位置変位を制御する手順の例について説明する。ここで
図4は、車両挙動予測部12により予測される車両の挙動について、特に、車両が左折や右折を行う際の横Gを考慮した音像の定位の位置変位を制御する手順を示している。
図5は、車両挙動予測部12により走行中の道路が連続カーブ区間であると判断された場合に、音像の定位の位置変位の制御量を大きくする手順を示している。
図6は、車両挙動予測部12により算出された加加速度が、任意に定めた所定の値以上である場合に、音像の定位の位置変位の制御量を大きくするための手順を示している。
【0053】
最初に、横Gを考慮した音像の定位の位置変位の制御について説明する。
図4に示すように、地図関連情報取得部11は、ナビゲーション装置20から現在位置の情報と、地図情報と、経路情報取得する(ステップS11)。
【0054】
車両挙動予測部12は、地図関連情報取得部11により取得された情報から、車両の挙動を予測する(ステップS12)。このとき、車両挙動予測部12は、走行情報取得部16により取得される車両の速度や加速度を用いても良い。
【0055】
音声加工部15は、ステップS12で予測された車両挙動のうち、車両にかかる横加速度があらかじめ定めた所定の閾値以上か否かを判定する(ステップS13)。横加速度が所定の閾値以上であれば(ステップS13でYes)、音像の定位の位置の変位量を算出する(ステップS14)。横加速度が所定の閾値より小さければ(ステップS13でNo)、ステップS16に進む。
【0056】
音声加工部15は、ステップS14により算出された音像の定位の位置の変位量から、定位の位置を制御するように、音声の加工を行う(ステップS15)。
【0057】
その後、出力部17は、音声加工部15により加工された音声の加工情報に応じて、スピーカー30から車両内に音声を出力する(ステップS16)。すなわち、ステップS13で横加速度が所定の値以上と判定された場合には、音像の定位の位置変位を制御した状態でスピーカー30から音声を出力し、そうでないと判定された場合には、音像の定位の位置変位を制御していない元の音声を出力することができる。
【0058】
次に、走行する道路が連続カーブ区間であると判断された場合に、音像の定位の位置変位の制御量を変更する手順について説明する。
図5に示すように、地図関連情報取得部11は、ナビゲーション装置20から現在位置の情報と、地図情報と、経路情報取得する(ステップS21)。
【0059】
車両挙動予測部12は、地図関連情報取得部11により取得された情報から、音声加工部15により音声の加工が行われる道路上の対象箇所が、連続カーブ区間であるか否かを予測する(ステップS22)。すなわち、対象箇所が連続カーブ区間である場合には(ステップS22でYes)、ステップS23に進む。対象箇所が連続カーブ区間でない場合には(ステップS22でNo)、ステップS25に進む。
【0060】
車両挙動予測部12により、道路上の対象箇所が連続カーブ区間であると判定された場合には、音声加工部15は、音像の定位の位置変位量を増加させた状態で、変位量を算出する(ステップS23)。
【0061】
音声加工部15では、ステップS23で算出した変位量に基づいて、音像の定位の位置変位量を制御するように、制御量を算出して音声を加工する(ステップS24)。
【0062】
出力部17は、音声の出力を行う(ステップS25)。
【0063】
ここでステップS23及びステップS24では、連続カーブ区間である場合に、音像の定位の位置を変位させる量を大きく補正し、音声加工部15では、この補正した位置の変位量を制御するものとしている。しかしながら前述のように、音像の定位の位置が変位する量を補正するのではなく、音声加工部15において、変位の量を制御する際の制御値に係数を掛けて補正することとしてもよい。
【0064】
次に、加加速度が、任意に定めた所定の値以上である場合に、音像の定位の位置変位の制御量を大きくする制御について説明する。
図6に示すように、地図関連情報取得部11は、ナビゲーション装置20から現在位置の情報と、地図情報と、経路情報取得する(ステップS31)。
【0065】
車両挙動予測部12は、車両の加加速度があらかじめ定めた所定の閾値以上であるか否かを予測する(ステップS32)。加加速度が所定の閾値以上である場合には(ステップS32でYes)、ステップS33に進む。加加速度が所定の値より小さい場合には(ステップS32でNo)、ステップS35に進む。
【0066】
車両挙動予測部12により加加速度が所定の閾値以上であると判定された場合には、音声加工部15は、音像の定位の位置の変位量を増加させた状態で、変位量を算出する(ステップS33)。
【0067】
音声加工部15では、ステップS33で算出した変位量に基づいて、音像の定位の位置変位量を制御するように、制御量を算出して音声を加工する(ステップS34)。
【0068】
出力部17は、音声の出力を行う(ステップS35)。
【0069】
ここでステップS33及びステップS34では、加加速度が所定の閾値以上である場合に、音像の定位の位置を変位させる量を大きく補正し、音声加工部15では、この補正した位置の変位量を制御するものとしている。しかしながら前述のように、音像の定位の位置が変位する量を補正するのではなく、音声加工部15において、変位する量を制御する際の制御値に係数を掛けて補正することとしてもよい。
【0070】
なお例えば、音声加工部15は、加加速度が所定値以上である場合には、加加速度が0である場合に比べて左右方向の音像の定位の位置変位を1割増しにする等、音像の定位の位置変位の制御量を大きくするように制御することができる。また、音声加工部15は、加加速度が所定値以上である場合に、加加速度に比例した値や加加速度のべき乗に比例した値を利用して、音像の定位の位置変位の制御量を大きくすることができる。
【0071】
言い換えると、音声加工部15では、加加速度が所定値以上である場合には、横Gを利用して決定される音像の定位の位置変位の制御量に対して、加加速度に比例した値や加加速度のべき乗に比例した値を加算すること、又は、加加速度に比例した値や加加速度のべき乗に比例した値を乗算することができるが、これらに限られない。
【0072】
また上記においては、左右方向における音像の定位の位置変位の制御について説明したが、前後方向についても同様である。この場合には、音声加工部15は、特に車両の加速や減速により音像の定位の位置変位を制御する加工を行うことができる。この場合、典型的には、車両挙動予測部12では、通常の音像の定位の位置を車両の前後方向に50%としたとき、フロント側のスピーカー30の位置を前後方向に0%としリア側のスピーカー30の位置を前後方向に100%として、定位の位置変位を算出することができる。さらにこの場合、音声加工部15で用いられる加加速度には、車両の進行方向にかかる加速度の時間あたりの変化量を用いることができる。
【0073】
さらに、上記ではスピーカー30が左右または前後の2スピーカーであるものとして説明したが、スピーカー30の個数はこれらに限られず、例えばサラウンド方式のものを利用することもできる。この場合、乗り物酔い抑制システム1では、音像の定位の位置変位について前後と左右に同時に制御可能とすることができる。一例として、乗り物酔い抑制システム1では、車両にかかる速度や加速度、加加速度については車両の前後方向又は左右方向の成分ごとに分離することで、音像の定位の位置変位に対する制御を行うことができる。
【0074】
このようにして、乗り物酔い抑制システム1では、車両の左折や右折に合わせて、左折や右折が始まる前に音声の定位の位置をあらかじめ制御することで、搭乗者に車両が曲がる方向を直感的に認識させることができる。また、乗り物酔い抑制システム1では、車両の左折や右折等の挙動が始まった状態となってからも処理を継続的に実行し、音声の定位の位置を制御できる。
【0075】
これにより、搭乗者の音声の認識ずれを低減することができ、搭乗者の乗り物酔いの軽減につなげられる。特に、ナビゲーション装置が搭載されている車両では、事前に車両の曲がる方向等の挙動を予測して、音像の定位の位置変位への対応が可能である。
【0076】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、乗り物酔い抑制システム1は、道路を走行する自動車等の車両に限られず、飛行機や、船、電車などに適用することができる。
【0077】
上記では、音像の位置変位の方向が、左右方向や、前後方向の場合に制御することについて説明したが、これに限られず、道路の勾配に基づいて、上下方向も同様に制御することが可能である。この場合、スピーカー30は、車両内部に少なくとも2つ備えられ、搭乗者の頭部を挟んで、車両内の上側に設けられる上側スピーカーと、下側に設けられる下側スピーカーを有している。音声加工部15では、スピーカー30の上側スピーカーと下側スピーカーから出力される音声の大きさのバランスを変化させるように加工を行う。
【符号の説明】
【0078】
1 抑制システム
10 抑制装置
11 地図関連情報取得部
12 車両挙動予測部
13 音声取得部
14 記憶部
15 音声加工部
16 走行情報取得部
17 出力部
20 ナビゲーション装置
21 地図情報記憶部
22 現在位置取得部
23 経路設定部
30 スピーカー