(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123084
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20230829BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20230829BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20230829BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/493
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026957
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】青木 康明
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸司
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭義
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB05
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA05
5H505HA09
5H505HB02
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ29
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
5H770AA05
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA19
5H770EA27
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】コンデンサに流れるリップル電流を低減できる回転電機の制御装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】制御装置40は、第1,第2インバータ20A,20Bの無効電圧ベクトルを順次出現させつつ第1,第2インバータ20A,20Bが無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような駆動指令を設定し、設定した駆動指令に基づいて、第1,第2インバータ20A,20Bのスイッチング制御を行う。制御装置40は、無効電圧ベクトルの出力期間に挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間のうち、中間期間において平滑コンデンサ22に流れる直流電流成分の大きさが最大となる有効電圧ベクトルが出現し、それ以外の期間において中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも直流電流成分の大きさが小さい有効電圧ベクトルが出現するような駆動指令を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機(10)と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路(20A~20C)と、
前記各電力変換回路の入力側と電気的に接続され、前記各電力変換回路に共通のコンデンサ(22)と、
前記コンデンサに並列接続された直流電源(21)と、を備えるシステムに適用され、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う回転電機の制御装置(40)において、
前記各電力変換回路の無効電圧ベクトルを順次出現させつつ前記各電力変換回路が無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような前記各電力変換回路の駆動指令を設定する設定部(44)と、
前記駆動指令に基づいて、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う制御部(44)と、を備え、
前記設定部は、前記各電力変換回路において、無効電圧ベクトルの出力期間に挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間である有効期間のうち、中間期間において前記コンデンサに流れる直流電流成分の大きさが最大となる有効電圧ベクトルが出現し、それ以外の期間において前記中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも前記直流電流成分の大きさが小さい有効電圧ベクトルが出現するような前記駆動指令を設定する、回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記有効期間の開始タイミングから前記中間期間までにおいて前記直流電流成分の大きさが漸増する有効電圧ベクトルが出現し、前記中間期間から前記有効期間の終了タイミングまでにおいて前記直流電流成分の大きさが漸減する有効電圧ベクトルが出現するような前記駆動指令を設定する、請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記各電力変換回路における前記最大となる有効電圧ベクトルの出力期間が重複しないような前記駆動指令を設定する、請求項1又は2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機の制御量を指令値に制御するための指令電圧ベクトルと、前記直流電源の電圧とに基づいて変調率を算出する変調率算出部と、
前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである60度電圧ベクトル、又は前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである120度電圧ベクトルのいずれを用いるかを選択する選択部と、を備え、
前記設定部は、選択された前記60度電圧ベクトル又は前記120度電圧ベクトルに基づいて、前記駆動指令を設定し、
前記選択部は、
前記変調率が閾値を超えた場合、前記60度電圧ベクトルを選択し、
前記変調率が前記閾値以下の場合、前記120度電圧ベクトルを選択する、請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機の制御量を指令値に制御するための指令電圧ベクトルを挟んでかつ60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである60度電圧ベクトル、又は前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである120度電圧ベクトルのいずれを用いるかを選択する選択部を備え、
前記設定部は、選択された前記60度電圧ベクトル又は前記120度電圧ベクトルに基づいて、規定周期毎に前記規定周期における前記駆動指令を設定し、
前記選択部は、
前記規定周期に含まれる前記60度電圧ベクトルの出力期間を前記規定周期から差し引いた第1無効期間を算出し、
前記60度電圧ベクトルの出力期間と前記第1無効期間との差である第1時間差を算出し、
前記規定周期に含まれる前記120度電圧ベクトルの出力期間を前記規定周期から差し引いた第2無効期間を算出し、
前記120度電圧ベクトルの出力期間と前記第2無効期間との差である第2時間差を算出し、
前記第1時間差が前記第2時間差よりも小さい場合、前記60度電圧ベクトルを選択し、
前記第2時間差が前記第1時間差よりも小さい場合、前記120度電圧ベクトルを選択する、請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記選択部により前記120度電圧ベクトルが選択された場合、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの偶数電圧ベクトル、及び前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの奇数電圧ベクトルのうち、前記直流電流成分の大きさが小さい方を前記駆動指令の設定に用いる、請求項4に記載の回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記選択部により前記60度電圧ベクトルが選択された場合、前記電力変換回路を構成する各相の上,下アームスイッチ(SuAH~SwBL)のうち、いずれかの相の駆動状態を固定する、請求項4~6のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項8】
前記設定部は、
前記選択部により前記120度電圧ベクトルが選択された場合、前記回転電機に流れる相電流のリップルを算出し、
算出した前記相電流のリップルが所定量よりも大きい場合、前記120度電圧ベクトルに代えて、前記60度電圧ベクトルを前記駆動指令の設定に用いる、請求項4~7のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項9】
回転電機(10)と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路(20A~20C)と、
前記各電力変換回路の入力側と電気的に接続され、前記各電力変換回路に共通のコンデンサ(22)と、
前記コンデンサに並列接続された直流電源(21)と、
コンピュータ(40a)と、を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
前記各電力変換回路の無効電圧ベクトルを順次出現させつつ前記各電力変換回路が無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような駆動指令を設定する設定部と、
前記駆動指令に基づいて、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う制御部と、して機能させ、
前記設定部は、前記各電力変換回路において、無効電圧ベクトルの出力期間に挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間である有効期間のうち、中間期間で前記コンデンサに流れる直流電流成分の大きさが最大となる有効電圧ベクトルが出現し、それ以外の期間で前記中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも前記コンデンサに流れる直流電流成分の大きさが小さい有効電圧ベクトルが出現するような前記駆動指令を設定する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、回転電機と、回転電機に電気的に接続された2つの電力変換回路と、各電力変換回路の入力側に設けられ、各電力変換回路に共通のコンデンサと、コンデンサに並列接続された直流電源とを備えるシステムが知られている。このシステムは、回転電機の制御量を指令値に制御するために電力変換回路のスイッチング制御を行う制御装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンデンサに流れるリップル電流を低減するために、各電力変換回路の無効電圧ベクトルを順次出現させつつ各電力変換回路が無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するように、各電力変換回路のスイッチング制御を行う技術がある。このような技術があるものの、コンデンサに流れるリップル電流を低減することについては、未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、コンデンサに流れるリップル電流を低減できる回転電機の制御装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転電機と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路と、
前記各電力変換回路の入力側と電気的に接続され、前記各電力変換回路に共通のコンデンサと、
前記コンデンサに並列接続された直流電源と、を備えるシステムに適用され、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う回転電機の制御装置において、
前記各電力変換回路の無効電圧ベクトルを順次出現させつつ前記各電力変換回路が無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような前記各電力変換回路の駆動指令を設定する設定部と、
前記駆動指令に基づいて、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う制御部と、を備え、
前記設定部は、前記各電力変換回路において、無効電圧ベクトルの出力期間に挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間である有効期間のうち、中間期間において前記コンデンサに流れる直流電流成分の大きさが最大となる有効電圧ベクトルが出現し、それ以外の期間において前記中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも前記直流電流成分の大きさが小さい有効電圧ベクトルが出現するような前記駆動指令を設定する。
【0007】
これにより、各電力変換回路における上記最大となる有効電圧ベクトルの出力期間が重複する事態の発生を抑制できる。その結果、コンデンサに流れるリップル電流を好適に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る制御システムの全体構成図。
【
図4】電圧ベクトル及び各相の駆動状態等の関係を示す図。
【
図7】各インバータの駆動指令の設定処理の手順を示すフローチャート。
【
図8】直流母線電流の算出方法を説明するための図。
【
図10】比較例1に係る駆動指令等の推移を示すタイムチャート。
【
図11】比較例2に係る駆動指令等の推移を示すタイムチャート。
【
図13】平滑コンデンサのリップル電流の低減効果を示す図。
【
図14】第2実施形態に係る各インバータの駆動指令の設定処理の手順を示すフローチャート。
【
図15】第3実施形態に係る各インバータの駆動指令の設定処理の手順を示すフローチャート。
【
図16】第4実施形態に係る制御システムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の制御装置は、車両に搭載された制御システムを構成する。
【0010】
図1に示すように、制御システムは、回転電機10を備えている。回転電機10は、3相2重巻線を有する永久磁石界磁型の同期機である。本実施形態の回転電機10は、永久磁石式の同期機である。回転電機10は、車両の走行動力源となり、駆動輪と動力伝達が可能なロータ12と、ステータ13とを備えている。ロータ12は、界磁極となる永久磁石を備えている。ステータ13には、2つの電機子巻線群である第1巻線群10A及び第2巻線群10Bが設けられている。第1,第2巻線群10A,10Bに対して、ロータ12が共通化されている。第1,第2巻線群10A,10Bのそれぞれは、異なる中性点を有する3相巻線からなる。第1巻線群10Aは、電気角で互いに120度ずつずれたU,V,W相巻線UA,VA,WAを有し、第2巻線群10Bは、電気角で互いに120度ずつずれたU,V,W相巻線UB,VB,WBを有している。なお、本実施形態では、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとが同じ構成とされている。具体的には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAそれぞれの巻数と、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBそれぞれの巻数とが等しい。
【0011】
ちなみに、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとの位相差Δθは、例えば、電気角で0度であってもよいし、電気角で30度であってもよい。
【0012】
制御システムは、第1,第2巻線群10A,10Bに対応した第1,第2インバータ20A,20Bと、直流電源21と、平滑コンデンサ22とを備えている。第1,第2インバータ20A,20Bは、入力される直流電圧を交流電圧に変換して出力する電力変換回路に相当する。第1インバータ20A及び第2インバータ20Bのそれぞれには、共通の直流電源21が接続されている。本実施形態において、直流電源21は、蓄電池である。
【0013】
第1インバータ20Aは、第1U,V,W相上アームスイッチSuAH,SvAH,SwAHと、第1U,V,W相下アームスイッチSuAL,SvAL,SwALとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuAH~SwALは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0014】
第2インバータ20Bは、第1インバータ20Aと同様に、第2U,V,W相上アームスイッチSuBH,SvBH,SwBHと、第2U,V,W相下アームスイッチSuBL,SvBL,SwBLとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuBH~SwBLは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0015】
なお、各インバータ20A,20Bが備えるスイッチは、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、スイッチにフリーホイールダイオードが逆並列接続されていればよい。
【0016】
第1インバータ20Aにおいて各上アームスイッチSuAH,SvAH,SwAHの高電位側端子であるドレインには、第1高電位側経路LHAを介して、平滑コンデンサ22の第1端が接続されている。第1インバータ20Aにおいて各下アームスイッチSuAL,SvAL,SwALの低電位側端子であるソースには、第1低電位側経路LLAを介して、平滑コンデンサ22の第2端が接続されている。平滑コンデンサ22の第2端には、直流電源21の負極端子が接続されている。平滑コンデンサ22の第1端には、直流電源21の正極端子が接続されている。
【0017】
第2インバータ20Bにおいて各上アームスイッチSuBH,SvBH,SwBHのドレインには、第2高電位側経路LHBを介して、第1高電位側経路LHAの途中部分が接続されている。第2インバータ20Bにおいて各下アームスイッチSuBL,SvBL,SwBLのソースには、第2低電位側経路LLBを介して、第1低電位側経路LLAの途中部分が接続されている。つまり、本実施形態では、各インバータ20A,20Bで平滑コンデンサ22が共通化されている。
【0018】
制御システムは、電圧検出部30、第1電流検出部31A、第2電流検出部31B及び角度検出部32を備えている。電圧検出部30は、平滑コンデンサ22の端子電圧を電源電圧VDCとして検出する。角度検出部32は、回転電機10の回転角(電気角)を検出する。角度検出部32は、例えばレゾルバである。上記各検出部30,31A,31B,32の検出値は、制御システムが備える制御装置40に入力される。
【0019】
制御装置40は、第1,第2電流検出部31A,31Bの検出値に基づいて、第1巻線群10Aに流れる3相の電流と、第2巻線群10Bに流れる3相の電流とを取得する。例えば、第1電流検出部31Aは、第1インバータ20Aと第1巻線群10Aとを電気的に接続する導電部材(例えばバスバー)に流れる電流を検出対象とし、第1巻線群10Aに流れる3相電流のうち少なくとも2相分の電流を検出する。この場合における第1電流検出部30Aとして、例えば、相電流を直接検出するCT型電流センサが用いられればよい。また、例えば、第1電流検出部31Aは、第1高電位側経路LHAのうち第2高電位側経路LHBとの接続点よりも第1インバータ20A側に流れる電流を検出する。この場合、制御装置40は、第1電流検出部31Aの検出値と、
図4に示す第1インバータ20Aのスイッチング状態及び相電流の関係とに基づいて、第1巻線群10Aに流れる相電流を取得する。なお、第2電流検出部31Bについても同様である。
【0020】
制御装置40は、マイコン40aを主体として構成され、マイコン40aは、CPUを備えている。マイコン40aが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコン40aがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコン40aは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、
図2及び
図6等に示す処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、OTA(Over The Air)等、インターネット等のネットワークを介して更新可能である。
【0021】
制御装置40は、回転電機10の制御量を指令値に制御すべく、入力された検出値に基づいて、第1,第2インバータ20A,20Bの各スイッチをオンオフする駆動指令を生成する。駆動指令に基づいてスイッチのゲートが充放電されることにより、スイッチがオンオフされる。各相において、上アームスイッチと下アームスイッチとは、デッドタイムを挟みつつ交互にオンされる。本実施形態の制御量はトルクである。
図2を用いて、制御装置40により実行される回転電機10のトルク制御について説明する。
【0022】
指令電流設定部41は、指令トルクTrq*に基づいて、第1インバータ20Aに対応する第1d,q軸指令電流IdA*,IqA*と、第2インバータ20Bに対応する第2d,q軸指令電流IdB*,IqB*とを設定する。各指令電流IdA*,IqA*,IdB*,IqB*は、例えば、最小電流最大トルク制御(MTPA)により算出されればよい。
【0023】
第1変換部42Aは、第1電流検出部31Aの検出値と、角度検出部32により検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系における第1巻線群10AのU,V,W相電流を、2相回転座標系(dq座標系)における第1d軸電流IdAr及び第1q軸電流IqArに変換する。
【0024】
第1電流制御部43Aは、第1d軸電流IdArを第1d軸指令電流IdA*にフィードバック制御するための操作量として、第1d軸指令電圧VdA*を算出する。第1電流制御部43Aは、第1q軸電流IqArを第1q軸指令電流IqA*にフィードバック制御するための操作量として、第1q軸指令電圧VqA*を算出する。なお、第1電流制御部43Aで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。
【0025】
第2変換部42Bは、第2電流検出部31Bの検出値と電気角θeとに基づいて、3相固定座標系における第2巻線群10BのU,V,W相電流を、dq座標系における第2d軸電流IdBr及び第2q軸電流IqBrに変換する。
【0026】
第2電流制御部43Bは、第2d軸電流IdBrを第2d軸指令電流IdB*にフィードバック制御するための操作量として、第2d軸指令電圧VdB*を算出する。第2電流制御部43Bは、第2q軸電流IqBrを第2q軸指令電流IqB*にフィードバック制御するための操作量として、第2q軸指令電圧VqB*を算出する。なお、第2電流制御部43Bで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。
【0027】
スイッチ制御部44は、算出された各値VdA*,VqA*,IdAr,IqAr,VdB*,VqB*,IdBr,IqBr、及び電気角θe等に基づいて、第1インバータ20Aから第1巻線群10Aに印加する電圧ベクトルを実現するための第1インバータ20Aの駆動指令と、第2インバータ20Bから第2巻線群10Bに印加する電圧ベクトルを実現するための第2インバータ20Bの駆動指令とを決定する。スイッチ制御部44は、次回の規定周期Tswにおける平滑コンデンサ22の電流リップルが小さくなるように、今回の規定周期において、次回の規定周期における第1,第2インバータ20A,20Bの駆動指令を設定する。なお、本実施形態において、規定周期Tswは、インバータを構成する上,下アームスイッチのスイッチング周期である。スイッチング周期は、キャリア信号を用いるPWM制御においてキャリア信号の1周期に相当する。
【0028】
駆動指令は、
図3及び
図4に示す電圧ベクトルの組み合わせからなる。
図4において、「H」は上アームスイッチがオンされていることを示し、「L」は下アームスイッチがオンされていることを示す。第1~第6電圧ベクトルV1~V6は有効電圧ベクトル(非零電圧ベクトル)であり、第0,第7電圧ベクトルV0,V7は無効電圧ベクトル(零電圧ベクトル)である。第1,第3,第5電圧ベクトルV1,V3,V5は奇数電圧ベクトルであり、第2,第4,第6電圧ベクトルV2,V4,V6は偶数電圧ベクトルである。
【0029】
図4の「Iinv」は、インバータに流れる電流である。本実施形態では、
図1に示すように、第1高電位側経路LHAのうち第2高電位側経路LHBとの接続点よりも第1インバータ20A側を流れる電流を第1インバータ電流IinvAと称す。また、第2高電位側経路LHBに流れる電流を第2インバータ電流IinvBと称す。各インバータ電流IinvA,IinvBは、平滑コンデンサ22側からインバータ側へと向かう方向に流れる場合の符号を正とする。
【0030】
図4のインバータ電流Iinvについて、第1インバータ20Aを例にして説明する。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第0,第7電圧ベクトルV0,V7の場合、第1インバータ電流IinvAは0になる。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第1電圧ベクトルV1の場合、第1インバータ電流IinvAは、第1巻線群10AのU相電流と等しくなる。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第4電圧ベクトルV4の場合、第1インバータ電流IinvAは、第1巻線群10AのU相電流と大きさが等しく、かつ、U相電流の流れる向きと逆向きの電流となる。V,W相の有効電圧ベクトルと第1インバータ電流IinvAとの関係も、U相と同様である。
【0031】
インバータの駆動指令の設定方法について説明する。
【0032】
まず、第1インバータ20Aについて説明する。スイッチ制御部44は、第1d軸指令電圧VdA*、第1q軸指令電圧VqA*及び電気角θeに基づいて、3相固定座標系における第1指令電圧ベクトルVtrAを算出する。スイッチ制御部44は、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む2つの有効電圧ベクトルとして、60度電圧ベクトル又は120度電圧ベクトルを選択する。
【0033】
60度電圧ベクトルは、
図5に示すように、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである。
図5には、有効電圧ベクトルとして、第1,第2電圧ベクトルV1,V2が選択される例を示す。
【0034】
120度電圧ベクトルは、
図6に示すように、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルである。
図6には、有効電圧ベクトルとして、偶数電圧ベクトルである第2,第6電圧ベクトルV2,V6が選択される例を示す。
【0035】
スイッチ制御部44は、選択した2つの有効電圧ベクトルVα,Vβと、無効電圧ベクトルとが規定周期Tswに出現するような指令スイッチングパターンである駆動指令を設定する。スイッチ制御部44は、規定周期Tswにおける各有効電圧ベクトルVα,Vβの出力期間Tα,Tβを、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて算出する。スイッチ制御部44は、規定周期Tswにおける無効電圧ベクトルの出力期間Tzを「Tz=Tsw-(Tα+Tβ)」により算出する。
【0036】
なお、第2インバータ20Bの駆動指令も、第1インバータ20Aと同様に設定される。スイッチ制御部44は、第2d軸指令電圧VdB*、第2q軸指令電圧VqB*及び電気角θeに基づいて第2指令電圧ベクトルVtrBを算出する。スイッチ制御部44は、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む2つの有効電圧ベクトルとして、60度電圧ベクトル又は120度電圧ベクトルを選択する。スイッチ制御部44は、選択した2つの有効電圧ベクトルと、無効電圧ベクトルとが規定周期Tswに出現するような駆動指令を設定する。ちなみに、本実施形態において、スイッチ制御部44は、空間ベクトル変調(SVM:space vector modulation)によって駆動指令を設定する。なお、本実施形態において、スイッチ制御部44が「設定部」及び「制御部」に相当する。
【0037】
図7を用いて、スイッチ制御部44により実行される駆動指令の設定処理について説明する。以下では、第1指令電圧ベクトルVtrAと第2指令電圧ベクトルVtrBとが同じ電圧ベクトルに設定される場合を例にして説明する。ただし、この設定に限らず、第1指令電圧ベクトルVtrAと第2指令電圧ベクトルVtrBとが異なる電圧ベクトルに設定されていてもよい。
【0038】
ステップS10では、変調率Mrを算出する。変調率Mrは、指令電圧ベクトルの大きさを電源電圧VDCで規格化した値であり、例えば、指令電圧ベクトルの大きさを電源電圧VDCで除算した値である。第1指令電圧ベクトルVtrAと第2指令電圧ベクトルVtrBとが同じ電圧ベクトルに設定されている場合、第1,第2指令電圧ベクトルVtrA,VtrBのいずれかを用いて変調率Mrを算出すればよい。ステップS10の処理が「変調率算出部」に相当する。
【0039】
ステップS11では、算出した変調率Mrが閾値Mth(例えば0.6)を超えているか否かを判定する。ステップS11の処理は、60度電圧ベクトル及び120度電圧ベクトルのどちらを選択するかを決定するための処理である。ステップS11の処理が「選択部」に相当する。
【0040】
ステップS11において変調率Mrが閾値Mthを超えていると判定した場合には、ステップS12に進み、第1インバータ20Aの駆動指令を設定するための有効電圧ベクトルとして、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む60度電圧ベクトルを選択する。また、第2インバータ20Bの駆動指令を設定するための有効電圧ベクトルとして、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む60度電圧ベクトルを選択する。
【0041】
ステップS12では、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む60度電圧ベクトルのうち、一方を選択した場合の直流母線電流Idcと、他方を選択した場合の直流母線電流Idcとを算出する。直流母線電流Idcは、上述した第1インバータ電流IinvAである。そして、算出した2つの直流母線電流Idcの大きさ(具体的には例えば、絶対値)の大小を判定する。
図8を用いて、60度電圧ベクトルとして第1,第2電圧ベクトルV1,V2が選択される場合を例にして説明する。
図8において、Idc(i)は、第i電圧ベクトルViが選択される場合に流れる直流母線電流Idcを示す。直流母線電流Idcの算出方法としては、例えば、以下に説明する2つの方法がある。
【0042】
1つ目の方法について説明する。直流母線電流Idc(i)及び電気角θeが関係付けられたマップ情報又は数式情報である直流電流情報が制御装置40の記憶部に記憶されている。スイッチ制御部44は、直流電流情報及び現在の電気角θeに基づいて、第1電圧ベクトルV1を選択した場合の直流母線電流Idc(1)と、第2電圧ベクトルV2を選択した場合の直流母線電流Idc(2)とを算出する。2つ目の方法について説明する。制御装置40において、次回用いる電圧ベクトル(V1,V2)が把握できている。このため、スイッチ制御部44は、次回用いる電圧ベクトルと、
図4に示す電圧ベクトル及びインバータ電流Iinvの関係とに基づいて、第1電圧ベクトルV1を選択した場合の直流母線電流Idc(1)と、第2電圧ベクトルV2を選択した場合の直流母線電流Idc(2)とを算出する。
【0043】
その後、算出した直流母線電流Idc(1),Idc(2)を比較し、直流母線電流Idc(1)の大きさが直流母線電流Idc(2)の大きさよりも大きいと判定する。この判定結果は、無効電圧ベクトルに挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間における有効電圧ベクトルの並び順を決めるために用いられる。
【0044】
その後、ステップS13では、
図9(b),(e)に例示するように、無効電圧ベクトルの間に2つの有効電圧ベクトルが挟まれるように第1インバータ20Aの駆動指令を設定する。詳しくは、無効電圧ベクトル(V7)の出力期間に挟まれた有効電圧ベクトル(V1,V2)の出力期間である有効期間のうち、中間期間(具体的には中央期間)において直流母線電流Idcの大きさ(|IU|)が最大となる有効電圧ベクトル(V1)が出現し、それ以外の期間において中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも直流母線電流Idcの大きさ(|-IW|)が小さくなる有効電圧ベクトル(V2)が出現するような駆動指令を設定する。
【0045】
より詳しくは、上記有効期間の開始タイミングから中間期間までの期間において直流母線電流Idcの大きさが漸増(|-IW|→|IU|)する有効電圧ベクトル(V2,V1)が出現し、中間期間から有効期間の終了タイミングまでの期間において直流母線電流Idcの大きさが漸減(|IU|→|-IW|)する有効電圧ベクトル(V1,V2)が出現するような駆動指令を設定する。
図9(b)に示す例では、第7電圧ベクトルに挟まれた有効期間において、第2電圧ベクトルV2、第1電圧ベクトルV1及び第2電圧ベクトルV2が順に出現する。
【0046】
第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む60度電圧ベクトルの場合についても、第1指令電圧ベクトルVtrAの場合と同様に、直流母線電流Idcを算出する。この場合、ステップS12における直流母線電流Idcは、第2インバータ電流IinvBである。そして、無効電圧ベクトル(V7)の出力期間に挟まれた有効電圧ベクトル(V1,V2)の出力期間のうち、中間期間(具体的には中央期間)において直流母線電流Idcの大きさが最大となる有効電圧ベクトル(V1)が出現し、それ以外の期間において中間期間に出現する有効電圧ベクトルよりも直流母線電流Idcの大きさが小さくなる有効電圧ベクトル(V2)が出現するような駆動指令を設定する。
【0047】
ここで、第2インバータ20Bの駆動指令は、
図9(d),(f)に示すように、第1インバータ20Aの駆動指令の位相を、規定周期Tswの1/2(180度)だけずらした指令となる。これにより、第1,第2インバータ20A,20Bの無効電圧ベクトル(V7)の出力期間を重複させずに、第1,第2インバータ20A,20Bが無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような駆動指令となる。これにより、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流を好適に低減することができる。電流リップルは、例えば、規定周期Tswにおいて平滑コンデンサ22に流れる電流の最大値と最小値との差で定量化される値である。
図9(g)には、第1インバータ電流IinvA及び第2インバータ電流IinvBの和である合計電流Itの推移を示す。合計電流Itの変動量ΔIは、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流と相関する。
【0048】
特に、
図9に示す例では、第1,第2インバータ20A,20Bにおける直流母線電流Idcが最大となる有効電圧ベクトル(V1)の出力期間が重複しないように、第1,第2インバータ20A,20Bの駆動指令が設定されている。これにより、リップル電流の低減効果をより高めることができる。
【0049】
なお、60度電圧ベクトルが選択される場合において変調率Mrがさらに大きくなると、直流母線電流Idcが最大となる有効電圧ベクトル(V1)の出力期間が長くなる。その結果、第1インバータ20Aにおいて直流母線電流Idcが最大となる有効電圧ベクトル(V1)の出力期間と、第2インバータ20Bにおいて直流母線電流Idcが最大となる有効電圧ベクトル(V1)の出力期間とが一部重複するような駆動指令が設定されることもある。一方、変調率Mrが小さくなると、無効電圧ベクトル(V7)の出力期間が長くなる。その結果、第1インバータ20Aにおける無効電圧ベクトル(V7)の出力期間と、第2インバータ20Bにおける無効電圧ベクトル(V7)の出力期間とが一部重複するような駆動指令が設定されることもある。
【0050】
ちなみに、
図9(a),(c)には、キャリア信号SgA,SgBと、U,V,W相指令時比率DUA,DVA,DWA,DUB,DVB,DWBとの推移を示す。キャリア信号及び指令時比率は、空間ベクトル変調ではなく、キャリア信号及び指令時比率の大小比較に基づくPWM制御により駆動指令が設定される場合に用いられる。U,V,W相指令時比率は、d,q座標系におけるd,q軸指令電圧及び電気角θeに基づいて算出されたU,V,W相指令電圧VU,VV,VWを、電源電圧VDCで除算することにより算出される。
【0051】
本実施形態と比較する実施例として、
図10に比較例1を示し、
図11に比較例2を示す。比較例1は、第1,第2インバータ20A,20Bの駆動指令が同期する構成である。比較例1では、本実施形態と比較して平滑コンデンサ22のリップル電流が顕著に大きい。
【0052】
比較例2は、第1,第2インバータ20A,20Bの無効電圧ベクトル(V0,V7)の出力期間を重複させずに第1,第2インバータ20A,20Bが無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような駆動指令である。しかし、比較例2では、無効電圧ベクトルに挟まれた有効電圧ベクトルの出力期間において、直流母線電流Idcの大きさが漸増した後に漸減するような有効電圧ベクトルの配置ではない。このため、比較例2では、本実施形態と比較して平滑コンデンサ22のリップル電流が大きい。
【0053】
先の
図7の説明に戻り、ステップS13では、選択した60度電圧ベクトルのうち、直流母線電流Idcが大きい方が奇数電圧ベクトルである場合、上ベタ制御を行う。上ベタ制御は、3相のうち1相分について、上アームスイッチのオン固定及び下アームスイッチのオフ固定を継続する制御である。
図9に示す駆動指令は、上ベタ制御の場合の駆動指令である。
【0054】
一方、選択した60度電圧ベクトルのうち、直流母線電流Idcが大きい方が偶数電圧ベクトルである場合、下ベタ制御を行う。下ベタ制御は、3相のうち1相分について、上アームスイッチのオフ固定及び下アームスイッチのオン固定を継続する制御である。
【0055】
ステップS11において変調率Mrが閾値Mth以下である判定した場合には、ステップS14に進み、2つの有効電圧ベクトルとして120度電圧ベクトルを選択する。以下、第1指令電圧ベクトルVtrAを例にして説明する。
【0056】
ステップS14では、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む120度電圧ベクトルとして、2つの奇数電圧ベクトルを選択する場合それぞれの直流母線電流Idcと、2つの偶数電圧ベクトルを選択する場合それぞれの直流母線電流Idcとを算出する。この算出は、ステップS12で説明したように、現在の電気角θeと、上述した直流電流情報とを用いる方法、又は次回用いる電圧ベクトルと、
図4に示す電圧ベクトル及びインバータ電流Iinvの関係とを用いる方法により実施されればよい。
【0057】
ステップS15では、2つの奇数電圧ベクトルを選択する場合それぞれの直流母線電流Idcの差である奇数電流差ΔIоddと、2つの偶数電圧ベクトルを選択する場合それぞれの直流母線電流Idcの差である偶数電流差ΔIevenとを算出する。
図12には、奇数電流差ΔIоddがIdc(1)とIdc(3)との差として算出される例と、偶数電流差ΔIevenがIdc(2)とIdc(4)との差として算出される例とを示す。
【0058】
ステップS16では、奇数電流差ΔIоddが偶数電流差ΔIevenよりも小さいかを判定する。ステップS16において小さいと判定した場合には、ステップS17に進み、駆動指令の設定に用いる120度電圧ベクトルとして、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む2つの奇数電圧ベクトルを選択する。一方、ステップS16において偶数電流差ΔIevenが奇数電流差ΔIоddよりも小さいと判定した場合には、ステップS18に進み、駆動指令の設定に用いる120度電圧ベクトルとして、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む2つの偶数電圧ベクトルを選択する。ステップS16の処理により、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流の低減効果を高めることができる。
【0059】
ステップS19では、ステップS17又はS18で選択した2つの有効電圧ベクトルと、無効電圧ベクトルとに基づいて、ステップS13と同様に、第1,第2インバータ20A,20Bの駆動指令を設定する。
【0060】
以上説明した本実施形態によれば、
図13に示すように、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流の実効値を好適に低減することができる。
【0061】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、駆動指令の設定に用いられる有効電圧ベクトルの選択方法が変更されている。
【0062】
図14に、スイッチ制御部44により実行される駆動指令の設定処理の手順を示す。なお、
図14において、先の
図7に示した処理と同一の処理については、同一の符号を付している。
【0063】
ステップS20では、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む60度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間を規定周期Tswから差し引くことにより、第1無効期間Tv1を算出する。なお、60度電圧ベクトルの出力期間は、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて算出されればよい。
【0064】
その後、60度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間と第1無効期間Tv1との差である第1時間差ΔT1を算出する。
【0065】
ステップS21では、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む120度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間を規定周期Tswから差し引くことにより、第2奇数無効期間Tv2oddを算出する。ここで、ステップS21で用いる120度電圧ベクトルは、2つの奇数電圧ベクトルである。なお、120度電圧ベクトルの出力期間は、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて算出されればよい。
【0066】
その後、120度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間と第2奇数無効期間Tv2oddとの差である第2奇数時間差ΔT2oddを算出する。
【0067】
ステップS22では、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟む120度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間を規定周期Tswから差し引くことにより、第2偶数無効期間Tv2evenを算出する。ここで、ステップS21で用いる120度電圧ベクトルは、2つの偶数電圧ベクトルである。
【0068】
その後、120度電圧ベクトルの規定周期Tswにおける出力期間と第2偶数無効期間Tv2evenとの差である第2偶数時間差ΔT2evenを算出する。
【0069】
ステップS23では、第2奇数時間差ΔT2odd及び第2偶数時間差ΔT2evenのうち、小さい方を第2時間差ΔT2として選択する。
【0070】
ステップS24では、第1時間差ΔT1が第2時間差ΔT2よりも小さいかを判定する。ステップS24において第1時間差ΔT1が第2時間差ΔT2よりも小さいと判定した場合には、60度電圧ベクトル及び120度電圧ベクトルのうち、60度電圧ベクトルを選択し、ステップS12に進む。ステップS20~S24の処理が「選択部」に相当する。
【0071】
一方、ステップS24において第2時間差ΔT2が第1時間差ΔT1よりも小さいと判定した場合には、60度電圧ベクトル及び120度電圧ベクトルのうち、120度電圧ベクトルを選択し、ステップS25に進む。ステップS25では、2つの有効電圧ベクトルを選択する場合それぞれの直流母線電流Idcを算出する。ステップS25で用いる2つの有効電圧ベクトルは、ステップS23において、第2奇数時間差ΔT2odd及び第2偶数時間差ΔT2evenのうち第2時間差ΔT2として選択した方に対応する120度電圧ベクトルである。本実施形態では、ステップS23において偶数電圧ベクトル又は奇数電圧ベクトルのどちらを用いるかが既に決定されているため、
図7のステップS15~S18に相当する処理が不要となる。
【0072】
なお、ステップS20~S24において、第2インバータ20Bの駆動指令の設定に用いる有効電圧ベクトルの選択も、第1インバータ20Aと同様の方法で行われる。
【0073】
ステップS25の処理の完了後、ステップS19では、ステップS25で用いた2つの有効電圧ベクトルと、無効電圧ベクトルとに基づいて、ステップS13と同様に、第1,第2インバータ20A,20Bの駆動指令を設定する。
【0074】
ステップS20~S24の処理によれば、規定周期Tswにおいて有効電圧ベクトルの出力期間と無効電圧ベクトルの出力期間とを近づけることができる。これにより、第1インバータ20Aにおいて直流母線電流Idcの大きさが最大となる有効電圧ベクトルの出力期間と、第2インバータ20Bにおいて直流母線電流Idcの大きさが最大となる有効電圧ベクトルの出力期間とが重複する事態の発生を好適に抑制できる。その結果、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流を好適に低減することができる。
【0075】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、120度電圧ベクトルが選択された場合であっても、相電流のリップルが所定値Ithよりも大きい場合には、60度電圧ベクトルが選択される。
【0076】
図15に、スイッチ制御部44により実行される駆動指令の設定処理の手順を示す。なお、
図15において、先の
図7に示した処理と同一の処理については、同一の符号を付している。
【0077】
ステップS17又はS18の処理の完了後、ステップS30に進み、選択した2つの有効電圧ベクトルに基づいて、2つの有効電圧ベクトルが用いられる場合の相電流のリップルΔIrを算出する。相電流のリップルは、例えば、規定周期Tswにおける相電流の最大値と最小値との差で定量化される値である。以下、相電流のリップル算出方法の一例について説明する。
【0078】
回転電機10における電圧方程式は下式(eq1)のように表される。
【0079】
【数1】
規定周期Tswにおける電流変化は、回転電機を構成する巻線のインダクタンスLの影響が大きい。このため、抵抗Rの項を無視すると、相電流のリップルΔIrが下式(eq2)で算出される。ここで、tiは、規定周期Tswにおける第i電圧ベクトルViの出力期間である。
【0080】
【数2】
例えば、120度電圧ベクトルとして第2,第4電圧ベクトルV2,V4が選択される場合、相電流のリップルΔIrは下式(eq3)で算出される。
【0081】
【数3】
なお、相電流のリップルの算出は、上述した方法に限らず、例えば、2相固定座標系(αβ座標系)における電流Iα,Iβに基づく方法、又は指令電流から算出される電流ベクトルの大きさに基づく方法であってもよい。
【0082】
ステップS31において相電流のリップルΔIrが所定値Ith以下であると判定した場合には、ステップS19に進み、駆動指令の設定に120度電圧ベクトルを用いる。一方、ステップS31において相電流のリップルΔIrが所定値Ithよりも大きいと判定した場合には、ステップS13に進み、駆動指令の設定に60度電圧ベクトルを用いる。
【0083】
以上説明した本実施形態によれば、相電流のリップルの増加を抑制しつつ、平滑コンデンサ22に流れるリップル電流を低減することができる。
【0084】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図16に示すように、回転電機10は、第3巻線群10Cを更に備えている。
図16において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0085】
制御システムは、第3巻線群10Cに電気的に接続された第3インバータ20Cを備えている。第3インバータ20Cの構成は、第1,第2インバータ20A,20Bの構成と同様である。
【0086】
第3インバータ20Cにおいて各相の上アームスイッチのドレインには、第3高電位側経路LHCを介して、第2高電位側経路LHBの途中部分が接続されている。第3インバータ20Cにおいて各相の下アームスイッチのソースには、第3低電位側経路LLCを介して、第2低電位側経路LLBの途中部分が接続されている。つまり、本実施形態では、各インバータ20A~20Cで平滑コンデンサ22が共通化されている。
【0087】
制御システムは、第3電流検出部を備えている。制御装置40は、第1,第2電流検出部31A,31Bの場合と同様に、第3電流検出部の検出値に基づいて、第3巻線群10Cに流れる3相の電流を取得する。
【0088】
制御装置40は、回転電機10のトルクを指令トルクTrq*に制御すべく、入力された検出値に基づいて、第1~第3インバータ20A~20Cの各スイッチをオンオフする駆動指令を生成する。なお、
図16に示すIinvCは、第3高電位側経路LHCに流れる第3インバータ電流を示す。この場合、合計電流Itは、「IinvA+InvB+InvC」である。
【0089】
図17に、本実施形態の第1~第3インバータ20A~20Cの駆動指令の一例を示す。なお、
図17に示す符号において添え字のCは、第3インバータ20Cに対応するパラメータであることを示す。また、
図17には、第3インバータ20Cの第3指令電圧ベクトルVtrCと、第1,第2指令電圧ベクトルVtrA,VtrBとが同じ場合を示す。
【0090】
本実施形態においても、各インバータ20Aから20Cにおいて、無効電圧ベクトル(V7)の出力期間に挟まれた有効電圧ベクトル(V1,V2)の出力期間のうち、中央期間において直流母線電流Idcの大きさが最大となる有効電圧ベクトル(V1)が出現し、それ以外の期間において中央期間に出現する有効電圧ベクトルよりも直流母線電流Idcの大きさが小さくなる有効電圧ベクトル(V2)が出現するような駆動指令が設定される。
【0091】
図17に示すように、第2インバータ20Bの駆動指令は、第1インバータ20Aの駆動指令の位相を、規定周期Tswの1/3(120度)だけずらした指令となる。また、第3インバータ20Cの駆動指令は、第2インバータ20Bの駆動指令の位相を、規定周期Tswの1/3だけずらした指令となる。これにより、各インバータ20Aから20Cの無効電圧ベクトル(V7)の出力期間を重複させずに、各インバータ20A~20Cが無効電圧ベクトルと有効電圧ベクトルとを交互に出力するような駆動指令となる。
【0092】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0093】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0094】
・インバータと同数の回転電機が制御システムに備えられていてもよい。例えば、
図1に示す制御システムにおいて、第1インバータ20Aが第1回転電機に電気的に接続され、第2インバータ20Bが第2回転電機に電気的に接続される。
【0095】
・インバータの数は、4つ以上であってもよい。インバータの数をNとする場合、各インバータの駆動指令は、例えば、「1/N×規定周期Tsw」ずつずれていればよい。
【0096】
・インバータの相数は3相に限らず、4相以上の相数(例えば5相)であってもよい。
【0097】
・回転電機は、例えば、車両の駆動輪に一体に設けられるインホイールモータであってもよいし、車両の車体に備えられるオンボードモータであってもよい。また、回転電機及びインバータが変速機と一体化されていてもよい。また、回転電機としては、車両の走行動力源となる主機モータに限らず、電動パワーステアリング装置、電動ファン又はポンプ等に用いられる補機モータであってもよい。
【0098】
・回転電機としては、星形結線されているものに限らず、Δ結線されているものであってもよい。
【0099】
・制御システムの適用対象としては、車両に限らず、例えば、航空機、船舶又は鉄道車両であってもよい。また、制御システムの適用対象としては、車両等の移動体に限らず、ロボット(例えば産業用ロボット)、発電機又はエレベータであってもよい。
【0100】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
10…回転電機、20A,20B…第1,第2インバータ、22…平滑コンデンサ、40…制御装置。