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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123112
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】飽差制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20230829BHJP
   A01G 9/18 20060101ALI20230829BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20230829BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A01G9/24 X
A01G9/18
A01G9/20 B
A01G9/24 A
A01G27/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026994
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】壷井 智浩
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 滋
(72)【発明者】
【氏名】寒川 史郎
【テーマコード(参考)】
2B029
【Fターム(参考)】
2B029JA02
2B029KB10
2B029MA07
2B029MA09
2B029TA01
2B029VA20
2B029XA10
(57)【要約】
【課題】対象空間に適切な加湿を行なって植物の光合成が適正に行なえるような精密な飽差制御を行なえる安価な飽差制御装置を提供する。
【解決手段】日射量と気温から季節パターンを決定し(図4a)、現在飽差と設定飽差の差と、決定した季節パターンに基づいて閾値を決定する(図4b,S2)。出力値が閾値を越えた場合にのみミスト7を最短ON時間だけ操作して加湿する(S3,S4) 。閾値の算出では、現在飽差の設定飽差との差の範囲を区分する境界値X,Y (図4b) を環境や季節に応じて任意に設定できる。加湿後、新たに取得した出力値が閾値を越えた場合(S6)、出力値に応じて加湿時間を上乗せする(S7-S9) 。上乗せ1サイクルの指令があった場合、上乗せは1回のみとして最短OFF 時間停止する(S8-S11)。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間の現在飽差が設定飽差となるように生成した出力値に応じて加湿装置を操作することにより前記現在飽差を制御する飽差制御装置であって、
前記設定飽差と複数の季節パターンが記憶される記憶部と、
対象空間の温度と湿度を用いて前記現在飽差を算出する飽差算出部と、
対象空間の温度及び日射量と、前記現在飽差と前記設定飽差の偏差と、前記季節パターンに基づいて閾値を算出し、前記出力値が前記閾値を越えた場合にのみ前記加湿装置を最短ON時間だけ操作する基本制御モードを有するとともに、前記閾値の算出においては、前記季節パターンごとに設定された複数の前記閾値に対応する前記偏差の範囲を必要に応じて変更できる制御部を具備することを特徴とする飽差制御装置。
【請求項2】
前記偏差の範囲は境界値によって区分され、前記境界値を変更することにより前記偏差の範囲を変更することを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【請求項3】
任意に設定される前記出力値の上限である出力上限値と、前記出力上限値に乗算される倍率によって、前記季節パターンごとに複数の前記閾値が設定されることを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記記憶部のデータと環境データに基づいてPID演算により前記出力値を算出し、前記PID演算における比例ゲインと積分時間と微分時間を任意に調整できることを特徴とする請求項1に記載の飽差制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記基本制御モードで前記加湿装置を制御した後、新たに取得した前記出力値が前記閾値を越えた場合に前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する制御を制御時間内である限り継続するが、所定の指令が与えられた場合には、前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する動作を1回のみ行った後に最短OFF時間だけ前記加湿装置を停止させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の飽差制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象空間の飽差を所望の値に設定するために加湿装置を制御する飽差制御装置に係り、特に季節や実際の環境条件に対応した最適な態様で加湿装置を制御できる飽差制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、一種類の噴霧装置で含水量が異なる複数種類の霧を発生させ、ハウス内の飽差を早く目標値に到達するよう制御する飽差制御装置に関する発明が開示されている。この飽差制御装置は、栽培ハウス内に設置されるものであり、噴霧装置2と、測定機3と、制御装置4を備えている。噴霧装置2は、噴霧器本体21と、液体供給管22と、流量調整弁23と、コンプレッサー24と、気体供給管25とを有している。噴霧器本体21は、略弾丸型の本体部210と、本体部210側面に形成された気体導入部211と、本体部210長手方向に貫通した細孔であるベンチュリ部212と、本体部210先端に設けられた噴霧部213と、本体部210の基端に設けられた液体導入部214とを備えている。なお、以上の説明において構成要素に付された符合は特許文献1において使用されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-216885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示された飽差制御装置によれば、複数のノズルを使用するため装置が高価となり、また使用する噴霧装置はデジタル的にON/OFFできるようなものではなく、飽差が高ければ噴霧装置に送る液量を多くし、飽差が低ければ噴霧装置に送る液量を少なくするという制御手法であるため、実際の飽差を目標の飽差に精密に合致させるような高度な飽差制御は困難であるという問題があった。しかし、光合成に適した飽差の範囲は狭いので加湿量を精密に制御できることが求められる。特に加湿のし過ぎで葉や果実の表面を濡らしてしまうと病気の発生などの恐れがある。逆に、加湿が少なく乾燥状態が続いたり、急激に乾燥したりすると、水分ストレスとなり、植物は水分ストレスに対する防御反応として気孔を閉じてしまう。気孔が閉じると光合成ができなくなり、植物の成長にも影響を及ぼす。したがって、加湿量を精密に制御することは植物の育成にとって重要である。
【0005】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題に鑑みてなされたものであり、対象空間に既に設置されている噴霧装置等に後付けすることができる安価な制御装置でありながら、対象空間に適切な加湿を行なって植物の光合成が適正に行なえるような精密な飽差制御を行なうことができる飽差制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載された飽差制御装置は、
対象空間の現在飽差が設定飽差となるように生成した出力値に応じて加湿装置を操作することにより前記現在飽差を制御する飽差制御装置であって、
前記設定飽差と複数の季節パターンが記憶される記憶部と、
対象空間の温度と湿度を用いて前記現在飽差を算出する飽差算出部と、
対象空間の温度及び日射量と、前記現在飽差と前記設定飽差の偏差と、前記季節パターンに基づいて閾値を算出し、前記出力値が前記閾値を越えた場合にのみ前記加湿装置を最短ON時間だけ操作する基本制御モードを有するとともに、前記閾値の算出においては、前記季節パターンごとに設定された複数の前記閾値に対応する前記偏差の範囲を必要に応じて変更できる制御部を具備することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
前記偏差の範囲は境界値によって区分され、前記境界値を変更することにより前記偏差の範囲を変更することを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
任意に設定される前記出力値の上限である出力上限値と、前記出力上限値に乗算される倍率によって、前記季節パターンごとに複数の前記閾値が設定されることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載された飽差制御装置は、請求項1に記載の飽差制御装置において、
前記制御部は、前記記憶部のデータと環境データに基づいてPID演算により前記出力値を算出し、前記PID演算における比例ゲインと積分時間と微分時間を任意に調整できることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載された飽差制御装置は、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の飽差制御装置において、
前記制御部は、前記基本制御モードで前記加湿装置を制御した後、新たに取得した前記出力値が前記閾値を越えた場合に前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する制御を制御時間内である限り継続するが、所定の指令が与えられた場合には、前記出力値に応じた時間だけ前記加湿装置を操作する動作を1回のみ行った後に最短OFF時間だけ前記加湿装置を停止させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された飽差制御装置によれば、基本制御モードにおいては、対象空間の温度と湿度を用いて現在飽差を算出し、対象空間の温度及び日射量から該当する季節パターンを決定し、現在飽差と設定飽差の偏差と、決定した季節パターンに基づいて、加湿装置を操作するか否かの判断の基礎となる閾値を決定する。そして、出力値が閾値を越えた場合にのみ、加湿装置を最短ON時間だけ操作して加湿を行なう。このため、最短ON時間が定められているような加湿装置を制御対象とする場合であって、現在飽差が設定飽差より小さい場合や、少し大きいだけに過ぎない場合にも、加湿装置が規定時間だけ作動して対象空間を過剰に加湿してしまうのを避けることができる。その結果、適合した季節パターンに従い、対象空間の飽差を好ましい態様で制御することができ、当該対象空間において植物の光合成を適正に行なわせることができる。さらに、閾値の算出においては、季節パターンごとに設定された複数の閾値に対応する偏差の範囲を必要に応じて変更できるので、対象空間の特殊な状況、例えば現在飽差が設定飽差より低く湿っているのに加湿装置が作動している場合や、乾燥しやすく現在飽差が直ぐに上昇してしまう場合、また季節的に特殊な状況、例えば夏季に現在飽差が大きくなり易い場合や、冬季に現在飽差が小さくなり易い場合等に、季節パターンごとに設定された複数の閾値に対応する偏差の範囲を必要に応じて変更することにより、状況に対応したきめ細やかな飽差制御を実現することができる。
【0012】
請求項2に記載された飽差制御装置によれば、上述したような実際の状況に応じて、境界値を適宜に変更することにより、季節パターンごとに設定された少なくとも2つの閾値に対応する偏差の2つの範囲を、状況に対応して適時に変更できるため、きめ細やかな飽差制御を確実に実現することができる。境界値は2以上でもよく、2つの境界値を適宜に変更することにより、季節パターンごとに設定された少なくとも3つの閾値に対応する偏差の3つの範囲を、状況に対応して適時に変更できるため、さらにきめ細やかな飽差制御を確実に実現することができる。
【0013】
請求項3に記載された飽差制御装置によれば、加湿装置によるミストの噴射時間を決める基準である閾値を自由に定められるため、例えば閾値を適度に低くすることで、加湿装置の運転を継続する方向に制御して停止する時間が長くなりすぎないようにする等、ユーザーの意思に応じた方法で使用できるため、使い勝手がよい。
【0014】
請求項4に記載された飽差制御装置によれば、比例ゲインを任意の値に設定することによって出力変動の調整を行いつつ、積分時間と微分時間を任意の値に設定することによって反応速度を調整することにより、状況に合わせた理想的なPID演算を行うことができる。
【0015】
請求項5に記載された飽差制御装置によれば、基本制御モードにおいて、閾値を判断基準として加湿装置を制御した後、再度算出した出力値が閾値を越えた場合には、当該出力値に応じた加湿時間を上乗せして加湿装置を操作する制御を行うことができるが、加湿時間の上乗せを繰り返すと、特定種類の作物にとっては加湿が過剰になる場合がある。そのような場合には、制御を開始する前に、又はそのように判断した時点で、所定のスイッチを押すなどして所定の指令を制御部に与えれば、加湿時間の上乗せを1回限りで終わらせ、少なくとも最短OFF時間は加湿装置を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の飽差制御装置の全体構成図である。
図2】実施形態の飽差制御装置に設定された制御データを示す図であって、分図(a)は、出力値のPID演算における比例ゲインとダイヤル設定値の対応関係を示すテーブルデータの図であり、分図(b)は、出力値のPID演算における積分時間及び微分時間とダイヤル設定値の対応関係を示すテーブルデータの図である。
図3】実施形態の飽差制御装置に設定された設定時刻と設定飽差で定められる飽差の制御パターンを示すグラフである。
図4】実施形態の飽差制御装置に設定された制御データを示す図であって、分図(a)は、気温と日射量の関係から季節パターンを決定するテーブルデータを示す図であり、分図(b)は、現在飽差と設定飽差の差と、季節パターンとによって閾値を決定するテーブルデータの一例を示す図である。
図5】実施形態の飽差制御装置に設定される制御データを示す図であって、分図(a)は、図4(b)において現在飽差と設定飽差の差を3つの領域に区分する境界値X,Yのうち、一方の境界値Xとダイヤル設定値の対応関係を示すテーブルデータの図であり、分図(b)は、同じく境界値Yとダイヤル設定値の対応関係を示すテーブルデータの図である。
図6】実施形態の飽差制御装置に設定された制御データを示す図であって、分図(a)は、図4(b)の閾値を算出するために用いる基準値としての周期(出力上限値)と、これに乗ずる倍率を示すテーブルデータの図であり、分図(b)は、現在飽差と設定飽差の差と、季節パターンとによって閾値を決定するテーブルデータの他の例を示す図である。
図7】実施形態の飽差制御装置における基本制御モードの制御手順を示す流れ図である。
図8】実施形態の飽差制御装置におけるCO2 制御モードの制御手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の飽差制御装置の実施形態を図1図8を参照して説明する。
まず、飽差制御装置1の全体構成を説明する。
図1に示すように、この飽差制御装置1は、対象空間の環境データを取得するセンサ群Sと、センサ群Sから送られた環境データ、予め設定された制御データ及び制御中に変更又は設定した制御データを用いて出力値を算出する制御手段Cと、制御手段Cから送られた出力値によって制御され、飽差の調整に直接的に機能する加湿装置(「ミスト」7と略称する。)等の制御対象機器Mを備えている。また、制御手段Cは、外部機器20と、特定の制御項目について警報を出力する警報装置21も制御できるように構成されている。
【0018】
飽差制御装置1が飽差制御を行なう対象空間は、例えば農業ハウス等の内部である。飽差制御装置1の制御手段Cは、農業ハウス内の環境条件をセンサ群Sで検知し、センサ群Sから送られる環境データ等に基づいて算出した出力値でミスト等の制御対象機器Mを操作し、農業ハウス内の飽差を制御して植物にとって好適な湿度環境を整える飽差制御を行なう。
【0019】
図1に示すように、センサ群Sには、温湿度計2と、日射センサ3と、CO2 モニタ4が含まれる。温湿度計2は対象空間の温度と相対湿度(単に「湿度」とも呼ぶ。)を測定し、日射センサ3は日射量を測定し、CO2 モニタ4はCO2 の濃度を測定し、それぞれ測定結果を制御手段Cに出力する。
【0020】
図1に示すように、制御手段Cは、シーケンサ5とリレー6を有している。シーケンサ5には、温湿度計2からの温度及び湿度と、日射センサ3からの日射量と、CO2 モニタ4からのCO2 濃度が入力される。制御手段Cの要部であるシーケンサ5の構造及び作用は後に詳述する。シーケンサ5は、算出した出力値に応じたON/OFF信号をリレー6に出力する。リレー6は、対象空間に設けられた制御対象機器Mと、外部機器20と、警報装置21を、それぞれON/OFF信号によって操作する。
【0021】
図1に示すように、制御手段Cが操作する制御対象機器Mには、ミスト7と、CO2 発生装置8と、外部機器20、警報装置21が含まれる。これらの制御対象機器Mは、制御手段Cのリレー6から送られたON/OFF信号によってON/OFF制御される。なお、ミスト7は、後に図7を参照して説明する基本制御モードにおいて制御され、CO2 発生装置8は、後に図8を参照して説明するCO2 制御において制御される。
【0022】
図1に示す外部機器20は、制御手段Cから出力されるON/OFF信号によって操作される機器であって、例えば農業ハウスに設けられた除湿機器、カーテン開閉装置、排気ファン、天窓開閉装置等が含まれる。
【0023】
図1に示す警報装置21が発報可能な警報には、高温警報、低温警報、乾燥警報の他、飽差急上昇警報と噴霧過剰警報等が含まれる。これら外部機器20及び警報装置21は、制御手段Cのリレー6から送られたON/OFF信号によって、後述する飽差制御の結果に同期して、又は同期せずに、ON/OFF制御される。なお、上記以外の警報の種類と内容については、また飽差制御の結果を踏まえて発報される飽差急上昇警報と噴霧過剰警報については、飽差制御の説明の後で改めて説明する。
【0024】
次に、制御手段Cのシーケンサ5の構造及び飽差制御について説明する。
図1に示すように、シーケンサ5は、制御のためのデータが設定される記憶部10と、センサ群Sからの環境データに基づいて対象空間の飽差を算出する飽差算出部11と、制御部12と、設定部13を有している。制御部12は、基本制御モードと低圧ミストモードの何れか一方を選択して制御を実行する。
【0025】
基本制御モードは、記憶部10のデータとセンサ群Sからの環境データに基づきPID演算で出力値を算出し、出力値が閾値より大きい場合にミスト7を最短ON時間(本実施形態の一例では30秒)操作した後、さらに出力値に応じて噴霧時間を上乗せする制御モードである。低圧ミストモードは、水道水などの低圧水を利用するためのモードである。基本制御モードの詳細と、低圧ミストモードについては後述する。
【0026】
設定部13は、上述した制御モードの選択、また制御に必要な各種設定値の設定、その他の入力事項の直接入力又は選択による入力を行うための入力手段であるが、入力又は設定した設定値や、現在及び過去の環境データ、現在及び過去の制御状態等を表示する表示部を兼ね備えていてもよい。
【0027】
図2は記憶部10に設定され、設定部13で任意に選択、設定できる制御データをテーブル形式で模式的に示したものである。
図2(a)は、制御部12がPID演算を行う際の比例ゲインKP(単位%)と、比例ゲインKPを設定するダイヤル設定値との対応関係を示すテーブルデータの図である。ダイヤル設定値は、初期値では5に設定されており、その場合の比例ゲインKPは100%である。ダイヤル設定値は設定部13によって1から10の間で任意に選択でき、これによって比例ゲインを25%から400%の間で任意の値に設定し、出力変動の調整を行うことができる。例えば、現在飽差の値がハンチングしている場合には、比例ゲインKPを小さくして不安定な出力を安定化し、また大きくうねっている場合には、比例ゲインKPを大きくして振動を小さくすることができる。
【0028】
図2(b)は、制御部12がPID演算を行う際の積分時間I(単位:×100ms)及び微分時間D(単位:×10ms)と、ダイヤル設定値との対応関係を示すテーブルデータの図である。ダイヤル設定値は、初期値では、何れも5に設定されており、その場合の積分時間Iは1200(120s)、微分時間は3000(30s)である。ダイヤル設定値は設定部13によって1から10の間で任意に選択でき、これによって積分時間Iを4800(480s)から300(30s)の間で任意の値に設定することができ、また微分時間Dを12000(1200s)から750(75s)の間で任意の値に設定することができる。例えば、積分時間Iと微分時間Dが大きいほどPID演算の反応が遅くなるため、現在飽差と設定飽差の偏差に対する制御出力のレスポンスを早めたい場合には、積分時間Iと微分時間Dを小さくすることが好ましい。また、例えば、現在飽差の安定に時間がかかる場合には、積分時間Iと微分時間Dを大きくすることが好ましい。
【0029】
以上説明したPID演算において制御部12が算出する出力値は動作単位を0.1sとしている。例えば出力値が200であれば、操作時間が20秒であることを意味し、この出力値によってミスト7を20秒間操作して加湿を行なうことができる。このように、この飽差制御装置1によれば、比例ゲインKPを任意の値に設定することによって出力変動の調整を行いつつ、積分時間Iと微分時間Dを任意の値に設定して反応速度を調整することにより、状況に合わせた理想的なPID演算を行い、ミスト7を適正に制御することができる。
【0030】
なお、シーケンサ5による飽差制御の詳細については後述するが、この実施形態の基本制御モードでは、ミスト7を作動させるポンプを短時間で繰り返しON,OFFすると寿命に影響が生じることを考慮し、ミスト7を作動させる最低動作時間として最短ON時間が定められており、一例として30秒に設定されている。さらに、ミストを最短ON時間だけ作動させた後、一定の条件を満たした場合にはミスト7の作動時間を上乗せし、その条件が満たされる限り上乗せを継続するが、所定の指令があった場合には、又は予めそのような指令が設定されていた場合には、ミスト7の作動時間の上乗せは1回きりとし、その後で必ずミスト7を停止させるべき時間として、所定の最短OFF時間が定められている。
【0031】
飽差算出部11は、温湿度計2から送られる温度と湿度のデータに基づき、対象空間の飽差を算出する。
【0032】
記憶部10には、以下に説明するように、制御部12が適切な飽差制御を行なうために必要な種々のデータが設定されている。まず、記憶部10には、日出日没に対応した時間スケジュールで対象空間内の飽差を適正にPID制御するために、対象空間の地理的位置と季節で定められる飽差の適正な制御パターンが設定されている。図3は、このような制御パターンを示すグラフの一例であり、制御手段Cによる制御の目標となる。このような制御パターンを定めるため記憶部10に記憶させるべき制御データとしては、少なくとも設定飽差と設定時刻がある。
【0033】
図3のグラフの縦軸に示す設定飽差とは、制御部12が飽差制御を開始する際の最初の飽差である初期飽差と、飽差制御時間中の飽差の最大値である最大飽差である。これらの設定飽差がPID制御による飽差制御の目標値となる。一般的に、飽差は一定にしておくよりも、少しずつ上昇させた方が、植物の気孔は開きやすくなり、光合成が促進される。従って、初期飽差は理想飽差とされる3~6(g/m3 )とし、最大飽差は初期飽差よりも大きくするが、やや乾燥ぎみの9(g/m3 )としてもよい。飽差が初期飽差から徐々に上昇して最大飽差となった後は一定値を保つように制御するのがよい。
【0034】
図3のグラフの横軸に示す設定時刻とは、制御手段Cが飽差制御を開始する時刻である制御開始時刻と、飽差が最大飽差となる最大値到達時刻と、飽差制御を終了する制御終了時刻である。光合成が行なわれるのは、日出から日没までであるが、光合成が活発なのは午前中であり、午前から南中時刻(正午)にかけて光合成の活発さが上昇していくが、正午を過ぎると光合成の活発さが急減するものではないので、余裕を持たせて光合成が盛んな午前中から、日射量が多めである南中時刻の2時間後位まで飽差を上昇させて最大飽差に達するよう制御するのが好ましいと考えられる。また、このように飽差の最大値到達時刻を南中時刻(正午)以降に遅らせることにより、設定飽差の上昇を緩やかにすることもできる。以上説明したような飽差の時刻制御の一例としては、制御開始時刻を日出時刻とし、最大値到達時刻は南中時刻(正午)から2時間後位とし、制御終了時刻は日没時刻とすることができる。これらの各時刻は対象空間の地理的位置と季節によって異なるので、制御を行なう前にユーザーが手動で記憶部10に設定する。例えば、山形市を例にとれば、7月には、日出時刻(制御開始時刻)は4時19分位から4時39分位であり、南中時刻(最大値到達時刻)は11時42分位から11時45分位であり、日没時刻(制御終了時刻)は19時06分位から18時50分位である。しかし、同じ山形市でも11月には、日出時刻(制御開始時刻)は6時04分位から6時35分位となり、南中時刻(最大値到達時刻)は11時22分位から11時27分位となり、日没時刻(制御終了時刻)は16時40分位から16時19分位となる。このような地理的位置と月日(季節)の組合せに対応する設定時刻のデータを予め記憶部10に記憶しておき、カレンダー機能と位置指定によって設定時刻が自動的に設定されるようにしてもよい。なお、カレンダー機能は、現在の月日を示す暦日データを自動的に更新し、必要に応じて当該暦日を出力できる暦日管理部をシーケンサ5に設けることで実現できる。また、地理的位置の位置指定は、画面における文字入力又はリストからの選択等、任意の手法によって地理的位置の指定情報を入力できる入力部をシーケンサ5に設けることで実現できる。
【0035】
次に、記憶部10には、最短ON時間(本実施形態では一例として30秒)にわたり、制御部12がミスト7を操作するか否かを判断する基礎となる閾値を決定するための制御データが記憶されている。この閾値は、現在飽差と設定飽差の差分と、季節との組合せに応じて適宜に定められており、制御部12が出力するPID制御による出力値が、この閾値を越えた場合にのみ、制御部12はミスト7を最短ON時間にわたり操作して加湿を行なう。図4は記憶部10に設定され、設定部13で必要に応じて選択、設定できる制御データをテーブル形式で模式的に示したものである。
【0036】
図4(a)は、対象空間の日射量(縦欄)と対象空間の気温(横欄)との組合せによって季節パターン(1) ~(5) を決定するためのデータである。季節パターン(1),(2) は日射量が少なく、気温が低い環境条件を示しており、冬に多い。季節パターン(4),(5) は日射量が多く、気温が高い環境条件を示しており、夏に多い。季節パターン(3) はその中間の環境条件を示している。なお、冬であっても、日射量が大きい場合、ハウス内では気温が上昇するため、季節パターン(4) が適用されることがある。また、温度が15℃より低い場合は、飽差制御は行われない。
【0037】
図4(b)は、図4(a)で決定した季節パターン(1) ~(5) (縦欄の「パターン」)と、設定飽差と現在飽差の偏差(横欄の「設定飽差との差(g/m3 )」)との組合せによって決定される閾値(0~350)のデータである。例えば、季節パターン(1) については、現在飽差と設定飽差の差に応じて閾値が200から350と高めの値となっており、加湿しすぎないようになっている。また、季節パターン(5) については、気温が高く飽和水蒸気圧が高いが、実際には湿度が低いために加湿を促すような低めの数値設定になっている。
【0038】
制御部12は、日射センサ3から取得した日射量と、温湿度計2から取得した温度に基づき、記憶部10が有する図4(a)に示したデータを用いて季節パターンを決定する。さらに、決定した季節パターンと、飽差算出部11が算出した現在飽差と、記憶部10に設定された設定飽差と、記憶部10に設定された図4(b)に示すデータを用いて、現在飽差の設定飽差に対する偏差と当該季節パターンに適合した閾値を算出する。さらに制御部12は、PID演算で算出した出力値と、この閾値を比較し、出力値が閾値を越えた場合に限り、リレー6にON信号を出力し、リレー6を介してミスト7を規定時間(最短ON時間)にわたり操作して加湿を行なう。
【0039】
図4(b)において横欄に示した設定飽差と現在飽差の偏差は、2つの境界値X及びY(X<Y)によって3つの領域に分けられており、偏差の3つの領域ごと及び5つの季節パターンごとに閾値が定められている。そして、本実施形態の飽差制御装置1では、以下に説明するように、2つの境界値X及びYは任意に設定でき、又は制御中に変更することができる。すなわち、境界値X及びYを変更することにより、境界値X及びY(X<Y)によって区切られ、それぞれに閾値が割り当てられた3つの領域の範囲を広狭自在に調節することができる。
【0040】
図5は、記憶部10に設定される制御データを示す図であって、分図(a)は、境界値X(図中、右欄)とダイヤル設定値(図中、左欄の「ダイヤル」)の対応関係を示すテーブルデータの図であり、分図(b)は、境界値Y(図中、右欄)とダイヤル設定値(図中、左欄の「ダイヤル」)の対応関係を示すテーブルデータの図である。これらテーブルデータは記憶部10に記憶されている。
【0041】
図5(a)に示すように、境界値Xに対応するダイヤル設定値は、初期値では6であり、その場合の境界値X(偏差)は-1である。ダイヤル設定値は設定部13によって1から10の間で任意に選択でき、これによって境界値Xを0から-2までの間で任意の値の偏差に設定することができる。
【0042】
図5(b)に示すように、境界値Yに対応するダイヤル設定値は、初期値では5であり、その場合の境界値Y(偏差)は1である。ダイヤル設定値は設定部13によって1から10の間で任意に選択でき、これによって境界値Yを0.5から2.5までの間で任意の値の偏差に設定することができる。
【0043】
実施形態の飽差制御装置1によれば、対象空間の実際の状況に応じて2つの境界値X,Yを適宜に変更することにより、季節パターンごとに設定された少なくとも3つの閾値に対応する偏差の3つの範囲を、以下に説明するような状況に対応して適切に設定し、又は適時に適切に変更できるため、きめ細やかな飽差制御を確実に実現することができる。
【0044】
例えば、現在飽差が設定飽差より低く湿っているのにミスト7が作動している場合であれば、ダイヤル設定値を小さくして境界値Xを大きくし、厳しめの大きな閾値を設定することで過剰な加湿を防止することができる。また、乾燥しやすく現在飽差が直ぐに上昇してしまうような場合であれば、ダイヤル設定値を大きくして境界値Xを小さくし、緩めの小さい閾値を設定することで適度な加湿を促進することができる。
【0045】
また季節的に特殊な状況、例えば夏季に現在飽差が大きくなり易く、乾燥している場合には、ダイヤル設定値を小さくして境界値Yを小さくし、緩めの小さい閾値を設定することで適度な加湿を促進することができる。また、冬季に現在飽差が小さくなり易く、湿度が高めの場合には、ダイヤル設定値を大きくして境界値Yを大きくし、厳しめの大きい閾値を設定することで過剰な加湿を防止することができる。
【0046】
なお、実施形態では、偏差の範囲を2つの境界値X、Yによって3つに区分し、区分ごとに閾値を設定するものとしたが、境界値は2つに限るものではなく、1個とすれば、飽差制御の演算はより簡単になり、また3以上とすれば、より精密な飽差制御が可能となる。
【0047】
図4(b)において横欄に示した設定飽差と現在飽差の偏差の3つの範囲と、縦欄に示した5つの季節パターンに応じて定められた15個の閾値は、具体的な数値として0から350の範囲で定められているが、これは一例に過ぎず、以下に説明するように、各閾値間の比率は維持しつつ、その具体的な値を任意に設定、変更することができる。そのために必要な制御データが、図6に示すようなテーブルデータとして記憶部10に記憶されている。
【0048】
図6(a)は、閾値を算出するために用いる基準値としての周期(出力上限値)と、これに乗ずる倍率を示すテーブルデータの図である。これらの制御データは、飽差の偏差による3つの区分に相当する閾値の3つの区分(「停止」、「強め」及び「緩め」)と、5つの季節パターンの組み合わせにより場合分けされた15個の制御データを含んでいる。これら制御データのうち、各閾値を算出する基準となるのは、季節パターン(1) の「強め」の数値である周期、すなわちPID演算における出力値の上限値(出力上限値)を10倍した値である。これ以外の14個の制御データは、季節パターン(1) の「強め」の数値に対する倍率で示されている。
【0049】
図6(b)は、現在飽差と設定飽差の差に対応する閾値の3つの区分と、季節パターンとによって閾値を決定するテーブルデータの他の例を示す図である。ここに示されている閾値は、図4(b)に示した例とは異なっている。図6(b)に示す制御データは、図6(a)において出力上限値を10秒とした場合に算出される閾値のデータである。図4(b)に示した制御データは、図6(a)において出力上限値を30秒とした場合に算出される閾値である。出力上限値は、設定部13においてユーザーが任意に設定することができる。
【0050】
従って、ユーザーは、ミスト7の噴射時間を決定する基準である閾値を自由に定められるため、例えば閾値を適度に低くすることで、ミスト7の運転が継続する方向に制御して停止する時間が長くなりすぎないようにする等、ユーザーの意思に応じた方法で使用できるため、使い勝手がよい。
【0051】
次に、以上説明した飽差制御装置1における基本制御モードの飽差制御について、図7のフロー図及び図1を参照して説明する。
制御の第1段階として、図7のステップS2~S4において「最短ON時間」制御を行う。ミスト7がOFFの状態において制御が開始されると(S1)、制御部12は、定期的(例えば10秒に1回)に、PID演算によって出力値を算出するとともに閾値を算出し(S2)、PID演算による出力値が閾値を越えた場合(S3、YES)には、制御手段Cがミスト7にON信号を送り最短ON時間の30秒間を必ず駆動して対象空間を加湿する(S4)。PID演算による出力値が閾値を越えない場合(S3、NO)には、同様の制御を繰り返す。
【0052】
図7のステップS2~S4の「最短ON時間」制御によれば、閾値による制限があるため、現在飽差が設定飽差より小さい場合や、少し大きいだけに過ぎない場合にも、加湿装置7が規定時間の30秒間にもわたって作動して対象空間を過剰に加湿してしまうのを避けることができる。
【0053】
制御の第2段階として、図7のステップS5~S9において「上乗せ時間」制御を行う。制御部12による閾値を用いた「最短ON時間」制御でミスト7が最短ON時間にわたって駆動された場合(S4)には、その時点で再度PID演算によって出力値を算出するとともに閾値を算出し(S5)、その出力値が閾値を越えた場合(S6、YES)には、算出された出力値に相当する時間だけ、制御手段Cがミスト7にON信号を送り、対象空間を加湿する(S7)。次に、「上乗せ時間」制御を1回のみで終了させる指令を制御部12に与える「上乗せ1サイクルスイッチ」がONであるか否かが判断される(S8)。押されていない場合(S8、NO)には、制御時間内であれば(S9、YES)、S5に戻って「上乗せ時間」制御を繰り返し、制御時間内でなければ(S9、NO)、制御終了となる(S10)。
【0054】
「上乗せ時間」制御を1回のみで終了させる指令を制御部12に与える「上乗せ1サイクルスイッチ」がONである場合(S8、YES)には、加湿時間の上乗せを1回限りで終わらせ、少なくとも最短OFF時間は必ず加湿装置を停止させる(S11)。そして、制御時間内であれば(S12、YES)、S2に戻って「最短ON時間」制御を繰り返し、制御時間内でなければ(S12、NO)、制御終了となる(S10)。
【0055】
この飽差制御装置1によれば、基本制御モードにおいて閾値を基準としてミスト7を制御した後、再度算出した出力値が閾値を越えた場合には、当該出力値に応じた加湿時間を上乗せして加湿装置を操作する制御を行うことができるが、加湿時間の上乗せを繰り返すと、特定種類の作物、例えばホウレンソウにとっては葉が濡れやすくなるため、加湿が過剰になり、好ましくない場合が生じうる。そのような事態が予想される場合には、制御を開始する前に、又はそのような事態に遭遇して判断した時点で、設定部13による操作により、所定の指令を制御部12に与えることで加湿時間の上乗せを1回限りで終わらせ、少なくとも最短OFF時間はミスト7を停止させることができる。
【0056】
次に、この飽差制御装置1による飽差制御において選択可能な他の制御モードとして、低圧ミストモードを説明する。前述した基本制御モードと低圧ミストモードは、設定部13におけるユーザーの選択によって択一的に切り替えて、何れかを選択することができる。
【0057】
先に説明した基本制御モードは、水に高圧を加えて細かい粒径の霧を吹き出す高圧のミスト7を利用することを前提とするため、作物を濡らしにくく、作物の管理及び湿度の制御が比較的容易である。しかしながら高圧のミスト7は高価であるため、水道水や井戸水などの低圧水を利用する低圧ミストを利用したいユーザーも少なくない。この低圧ミストを使用する低圧ミストモードでは、低圧水によるミストは粒径が大きく作物の葉が濡れやすいため、ミスト噴霧の時間を制限する方向に制御する点に特徴がある。
【0058】
低圧ミストモードでは、制御部12によるPID演算でミスト7(低圧ミスト装置)の停止時間を示す出力値を算出し、これを閾値と比較してミスト7を操作する。記憶部10に記憶される制御データは基本制御モードの場合と概ね同じである。制御の開始に当たってミスト7を最短OFF時間だけ停止させた後、対象空間の温度及び日射量と、現在飽差と設定飽差の偏差と、季節パターンに基づいて閾値を算出し、出力値が閾値を越えた場合にはミスト7を固定ON時間だけ操作し、出力値が閾値を越えない場合には、最短OFF時間に連続して所定のOFF時間だけミスト7の停止を継続する。
【0059】
低圧ミストモードによれば、ミスト7は噴霧時間が制限される方向に制御されるので、農業ハウスで飽差制御に用いられる加湿装置として、水道管等の低圧水を用いる低コストの低圧ミストを使用することができ、しかも、粒径が大きいために作物が濡れやすい霧雨状のミストの噴霧時間を制限することができる。
【0060】
以上説明した基本制御モードと低圧ミストモードによる飽差制御において、制御項目に異常な値が生じた場合には、警報装置21が警報を発報してユーザーに注意を促す。警報の種類及びその内容は次の通りである。
高温警報は、温湿度計2によって測定された気温が設定値より高い場合に発報する。
低温警報は、温湿度計2によって測定された気温が設定値より低い場合に発報する。
高湿警報は、温湿度計2によって測定された相対湿度が設置値より高いか、もしくは飽差算出部11が算出した飽差が設定値より低い場合に発報する。
乾燥警報は、相対湿度が設置値より低いか、もしくは飽差が設定値より高い場合に発報する。
高CO2 警報は、CO2 モニタ4が測定したCO2 濃度が設定値より高い場合に発報する。
低CO2 警報は、CO2 モニタ4が測定したCO2 濃度が設定値より低い場合に発報する。
飽差急上昇警報は、5分間飽差変化量が設定値より大きい場合に発報する。
温度センサ異常警報と湿度センサ異常警報は、温湿度計2が異常な場合に発報する。
日射センサ異常警報は、日射センサ3が異常な場合に発報する。
CO2 センサ異常警報は、CO2 モニタ4が異常な場合に発報する。
噴霧過剰警報は、噴霧時間が設定値より長い場合に発報し、飽差制御が強制停止される。
また、これらの警報出力機能には、警報保持機能が付与されており、一度警報を出力すると、設定部13の表示画面で警報が消えても警報出力が継続するが、設定部13の表示画面で警報リセットタンを押すと解消する。
【0061】
上述の警報装置21による警報出力のうち、飽差急上昇警報は植物生理学上の知見に基づいて設定されたものである。すなわち、この知見によれば、作物の光合成を促進するべく葉の気孔の開きを維持するためには、飽差が急激に変化しないことと、飽差が適正範囲(一般に3~6gm3 )にあることが重要であり、飽差の急激な変化や飽差の適正範囲からの逸脱により一旦気孔が閉じると再び開かせることは容易でない。そこで、この警報装置21では、5分間に飽差が変化した量を示す5分間飽差変化量が、所定の基準値(例えば5gm3 )を越えた場合に警報を発することとした。なお、基準値は設定部13で任意に変えられるようになっている。
【0062】
また、上述の警報装置21による警報出力のうち、噴霧過剰警報によれば、センサ群Sが故障した場合や、制御手段Cのプログラムミスによりミスト7が限度を越えて噴霧を継続しているような場合に有効に対処できる。
【0063】
次に、本実施形態の飽差制御装置1によるCO2 制御について、図8のフロー図及び図1を参照して説明する。
図8に示すように、作物の光合成が始まる制御開始時刻になり、基本制御モードによる飽差制御が開始されると、CO2 制御も開始される(S21)。まず、日射センサ3からの日射量のデータを制御手段Cが取得し、制御部12は、光合成が行われる下限値である制御停止日射量よりも、測定された日射量が大きいか否かを判定する(S22)。当該日射量が基準よりも大きい場合には(S22、YES)、制御部12は、飽差算出部11が算出した現在飽差が、光合成が行われるに適した範囲、すなわち下限値以上、上限値以下であるか否かを判定する(S23)。現在飽差が下限値以上、上限値以下である場合には(S23、YES)、制御部12は、CO2 モニタ4からCO2 濃度の測定結果を取得し、CO2 濃度が下限値以下であるか否かを判定する(S24)。CO2 濃度が下限値以下である場合には(S24、YES)、制御手段Cのシーケンサ5は、ON/OFF信号をリレー6に出力し、リレー6は、CO2 発生装置8をON/OFF信号によって間欠運転する(S25)。制御部12は、CO2 モニタ4から取得したCO2 濃度が上限値以上ではない場合には(S26、NO)、CO2 発生装置8の間欠運転を継続するが(S25)、CO2 濃度が上限値以上である場合には(S26、YES)、制御時間内であれば(S27、YES)、S22に戻ってCO2 濃度の制御を継続し、制御時間内でなければ(S27、NO)、光合成が行われなくなる制御終了時刻になった時点でCO2 濃度の制御を終了する(S28)。
【0064】
制御部12は、測定された日射量が基準よりも小さい場合(S22、NO)と、飽差算出部11が算出した現在飽差が下限値以上、上限値以下の範囲にない場合(S23、NO)と、測定されたCO2 濃度が下限値以下ではない場合(S24、NO)には、光合成が適切に行える条件が満たされるまでCO2 発生装置8の間欠運転は行わず、制御時間内である限り(S29、YES)、S22に戻ってCO2 濃度制御を継続するが、制御時間内でなければ(S29、NO)、光合成が行われなくなる制御終了時刻になった時点でCO2 濃度の制御を終了する(S28)。
【0065】
以上説明した本実施形態の飽差制御装置1によるCO2 制御は、基本制御モード又は低圧ミストモードによる飽差制御と並行して行う。これにより、飽差が適正に制御されている中でCO2 の濃度を下限値以下にならないようにできるため、光合成をさらに促進する効果が得られる。
【0066】
また、本実施形態の飽差制御装置1は、温湿度計2などのセンサ群Sや、ミスト7などの被制御対象機器Mがすでに設置されている農業ハウスにおいて、制御手段の部分のみを本実施形態の制御手段Cに交換することで構成することができる。すなわち農業ハウスに既に設置されている設備に後付けできるため安価である。また、このような既設の設備では、ミスト7の最短ON時間が例えば30秒といったように定められていて、既設の従来の制御手段による制御が始まって出力値が算出されれば、その値が例え1だとしても、30秒間の噴霧が行なわれてしまう。ところが、本実施形態の飽差制御装置1によれば、制御手段Cの制御部12に閾値の制限を設けたため、このような無益なミスト7の駆動が避けられるとともに、必要な噴霧時間の上乗せを行うこともできるため、上述したような適正な飽差制御を行なうことができる。
【符号の説明】
【0067】
1…飽差制御装置
2…温湿度計
3…日射センサ
5…シーケンサ
7…加湿装置(ミスト)
8…CO2 発生装置
10…記憶部
11…飽差算出部
12…制御部
13…設定部
20…外部機器
21…警報装置
S…センサ群
M…制御対象機器
C…制御手段
KP…比例ゲイン
I…積分時間
D…微分時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8