(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123115
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230829BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230829BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/00 290H
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026998
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯉江 周作
(57)【要約】
【課題】固体電解コンデンサにおいて、初期のESRを低く抑えるとともに、高い耐湿性を確保する。
【解決手段】固体電解コンデンサ素子は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む。前記固体電解質層は、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子を含む第1固体電解質と、前記第1固体電解質の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子を含む第2固体電解質と、前記第1固体電解質と前記第2固体電解質との間に介在する第1凝集剤と、前記第2固体電解質内に含まれる第2凝集剤と、を含む。前記第1凝集剤は、前記第2凝集剤よりも疎水性が高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含み、
前記固体電解質層は、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子を含む第1固体電解質と、
前記第1固体電解質の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子を含む第2固体電解質と、
前記第1固体電解質と前記第2固体電解質との間に介在する第1凝集剤と、
前記第2固体電解質内に含まれる第2凝集剤と、を含み、
前記第1凝集剤は、前記第2凝集剤よりも疎水性が高い、固体電解コンデンサ素子。
【請求項2】
前記第2凝集剤は、炭素数8以上のアルキル基を少なくとも1つ有するモノアミンである、請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項3】
前記第1凝集剤および前記第2凝集剤は、それぞれ第3級アミンである、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
前記第1凝集剤は、炭素数10以上のアルキル基を少なくとも1つ有するモノアミンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項5】
少なくとも1つの請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子と、前記固体電解コンデンサ素子を封止する外装体とを含む、固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記外装体は樹脂を含む、請求項5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
積層された2つ以上の前記固体電解コンデンサ素子を含む、請求項5または6に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む固体電解コンデンサ素子の製造方法であって、
前記表面に前記誘電体層を有する前記陽極体を準備する第1工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆うように前記固体電解質層を形成する第2工程と、を含み、
前記第2工程は、
第1導電性高分子を含む第1処理液を用いて前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1固体電解質を形成する第1サブステップと、
第1凝集剤を前記第1固体電解質の表面に付与する第2サブステップと、
第2導電性高分子と第2凝集剤とを含む第2固体電解質を形成する第3サブステップと、
を含み、
前記第3サブステップは、第2サブステップの後、前記第2導電性高分子を含む第2処理液と第2凝集剤とを前記第1固体電解質の表面に順次に付与する工程を繰り返すことを含み、
前記第1凝集剤は、前記第2凝集剤よりも疎水性が高い、固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2凝集剤は、炭素数8以上のアルキル基を少なくとも1つ有するモノアミンである、請求項8に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1凝集剤および前記第2凝集剤は、それぞれ第3級アミンである、請求項8または9に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1凝集剤は、炭素数10以上のアルキル基を少なくとも1つ有するモノアミンである、請求項8~10のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の製造方法によって少なくとも1つの固体電解コンデンサ素子を形成する工程と、
前記少なくとも1つの固体電解コンデンサ素子を外装体で封止する工程と、を含む固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
前記封止工程に先立って、2つ以上の前記固体電解コンデンサ素子を積層する工程を含み、
積層された2つ以上の前記固体電解コンデンサ素子を、前記封止工程において前記外装体で封止する、請求項12に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子と、コンデンサ素子を封止する外装体とを備える。コンデンサ素子は、例えば、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを備える。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う導電性高分子(共役系高分子およびドーパントなど)を含む固体電解質層を少なくとも含む。固体電解コンデンサの特性を向上する観点から、固体電解質層を形成する際に添加剤が使用されることがある。
【0003】
特許文献1は、多孔質体の弁作用金属からなる陽極導体と、前記陽極導体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の表面に形成された導電性高分子層からなる固体電解質層とを含む固体電解コンデンサであって、前記固体電解質層が前記誘電体層の表面に形成された第一の固体電解質層と前記第一の固体電解質層の表面に形成された第二の固体電解質層からなり、前記第一の固体電解質層と前記第二の固体電解質層との間、および前記第二の固体電解質層内にアミン化合物からなる連続または非連続の層が少なくとも1層存在することを特徴とする固体電解コンデンサを提案している。
【0004】
特許文献2は、陽極体と誘電体層と固体電解質層とを有するコンデンサ素子を備えた電解コンデンサの製造方法であって、前記固体電解質層を形成する工程は、第1の導電性高分子層を形成する第1の工程と、カルボキシル基を有する芳香族スルホン酸と溶媒とを含有する溶液を前記第1の導電性高分子層に付着させる第2の工程と、を有する、電解コンデンサの製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-71469号公報
【特許文献2】特開2018-64109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電解コンデンサ内に水分が侵入すると、導電性高分子の脱ドープまたは共役系高分子の分解などが生じて、固体電解質層が劣化することで、等価直列抵抗(ESR)が増加し易い。一方で、固体電解質層の耐湿性を高めると、初期のESRが大きくなる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1側面は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含み、
前記固体電解質層は、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子を含む第1固体電解質と、
前記第1固体電解質の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子を含む第2固体電解質と、
前記第1固体電解質と前記第2固体電解質との間に介在する第1凝集剤と、
前記第2固体電解質内に含まれる第2凝集剤と、を含み、
前記第1凝集剤は、前記第2凝集剤よりも疎水性が高い、固体電解コンデンサ素子に関する。
【0008】
本開示の第2側面は、少なくとも1つの上記の固体電解コンデンサ素子と、前記固体電解コンデンサ素子を封止する外装体とを含む、固体電解コンデンサに関する。
【0009】
本開示の第3側面は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む固体電解コンデンサ素子の製造方法であって、
前記表面に前記誘電体層を有する前記陽極体を準備する第1工程と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆うように前記固体電解質層を形成する第2工程と、を含み、
前記第2工程は、
第1導電性高分子を含む第1処理液を用いて前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1固体電解質を形成する第1サブステップと、
第1凝集剤を前記第1固体電解質の表面に付与する第2サブステップと、
第2導電性高分子と第2凝集剤とを含む第2固体電解質を形成する第3サブステップと、
を含み、
前記第3サブステップは、第2サブステップの後、前記第2導電性高分子を含む第2処理液と第2凝集剤とを前記第1固体電解質の表面に順次に付与する工程を繰り返すことを含み、
前記第1凝集剤は、前記第2凝集剤よりも疎水性が高い、固体電解コンデンサ素子の製造方法に関する。
【0010】
本開示の第4側面は、上記の製造方法によって少なくとも1つの固体電解コンデンサ素子を形成する工程と、
前記少なくとも1つの固体電解コンデンサ素子を外装体で封止する工程と、を含む固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
固体電解コンデンサにおいて、初期のESRを低く抑えるとともに、高い耐湿性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
【
図2】
図1の実線αで囲まれた領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
固体電解コンデンサにおいて、固体電解質層は、例えば、化学重合または電解重合などで形成される他、導電性高分子(共役系高分子およびドーパントなど)を含む処理液(溶液、分散液など)を用いて形成される。固体電解質層を簡便に形成することができ、重合時の添加剤や未反応成分の混入が低減される観点から、導電性高分子を含む処理液を用いる方法が多用されている。導電性高分子を含む処理液を用いる方法は、導電性高分子の熱安定性が高いことに加え、固体電解コンデンサの高い耐圧性が得られ易い観点からも有利である。
【0014】
ある程度の厚さのまたはより均一な固体電解質層を形成するなどといった観点から、一般に、導電性高分子を含む処理液を用いて固体電解質層を形成する場合、誘電体層が表面に形成された陽極体への処理液の付与と乾燥とが繰り返される。しかし、導電性高分子には、多くのアニオン性基が含まれる。そのため、先に付着させた固体電解質上に、処理液を付与しても、固体電解質のアニオン性基と処理液中の導電性高分子のアニオン性基と反発によって導電性高分子を固体電解質の表面に均一に付着させることが難しい。そこで、先に付着させた固体電解質上に凝集剤を付与した後に、処理液を付与することで、固体電解質上に処理液中の導電性高分子を付着させ易くする場合がある。凝集剤としてはカチオンを形成可能な塩基成分が少なくとも用いられる。塩基成分は、酸成分との塩として使用されることもある。導電性高分子は多くのアニオン性基を有するため、構造によっては水分と接触したときに溶解したり、親水性が高いことで水分によって劣化が促進されたりする場合がある。しかし、凝集剤が導電性高分子の一部のアニオン性基と反応することで、固体電解質が水分に接触したときの溶解を抑制したり、親水性を低下させたりできる場合がある。
【0015】
固体電解質層を形成する際には、陽極体に、導電性高分子の処理液が複数回付与され、その度に、処理液の付与に先立って凝集剤も付与されることになる。凝集剤の疎水性を高めると、固体電解質層の親水性を低下させる効果、または導電性高分子の水分への溶解を抑制する効果を高めることができる。しかし、凝集剤の疎水性が高くなると、絶縁性も高くなる傾向があるため、固体電解質層の抵抗が高まり、初期のESRが高くなる。換言すると、凝集剤によって、固体電解質層の耐湿性を高めると、初期のESRが高くなる。そのため、固体電解コンデンサにおいて、初期の低いESRと、高い耐湿性とを両立することは困難である。
【0016】
上記に鑑み、本開示では、固体電解コンデンサ素子の固体電解質層は、陽極体の表面に形成された誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子を含む第1固体電解質と、第1固体電解質の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子を含む第2固体電解質と、これらの間に介在する第1凝集剤と、第2固体電解質内に含まれる第2凝集剤とを含む。ここで、第1凝集剤は、第2凝集剤よりも疎水性が高い。疎水性が比較的高い第1凝集剤を用いることで、誘電体層を覆うように存在する第1固体電解質の疎水性を1凝集剤によって高めることができ、水分と接触したときに第1固体電解質が溶解することが抑制される。よって、第1固体電解質と誘電体層および第2固体電解質のそれぞれとの間の接点が維持され、これらの間の抵抗が増大することが抑制される。その結果、高い耐湿性を確保できると考えられる。
【0017】
陽極体は、通常、高容量を確保する観点から、少なくとも表層に微細な細孔を有している。誘電体層は細孔の内壁を含めた陽極体の表面に形成されるため、表面に微細な凹部を有する。第1固体電解質は、このような誘電体層の表面の細孔に充填されるため、第1固体電解質を形成するための処理液中の第1導電性高分子の濃度は比較的低い。このような第1処理液を用いて形成される第1固体電解質の厚さは比較的小さい。それに対し、第1固体電解質を覆うように形成される第2固体電解質は、より均一な固体電解質層を形成する観点からある程度の厚さを要する。そのため、第2固体電解質を形成するための処理液中の第2導電性高分子の濃度は上記の第1導電性高分子の濃度に比べると高い傾向がある。よって、第1固体電解質に比べると、第2固体電解質が固体電解質層に占める比率が大きい。このような第2固体電解質に含まれる凝集剤の疎水性が高いと、固体電解質層の耐湿性は向上するが、絶縁性が高くなり易いため、固体電解質層の導電性が低くなり、初期のESRが低下する。本開示では、第2凝集剤の疎水性が、第1凝集剤に比較すると低いため、固体電解質層の高い導電性を維持し易く、初期のESRを低く抑えることができる。また、第1固体電解質に比べて第2固体電解質の疎水性が低くても、第2固体電解質では、第1固体電解質を覆っていることに加え、ある程度の厚さがあるため、第1固体電解質ほど水分と接触したときの溶出の問題が顕在化しない。むしろ、水分と接触した場合の溶解の問題より、第2凝集剤の疎水性が相対的に低いことで、絶縁性が低くなり、第2固体電解質の高い導電性が維持される効果が大きく、水分と接触した後でもESRの増加を抑制でき、高い耐湿性が得られる。このように、本開示では、疎水性が異なる第1凝集剤および第2凝集剤を用いることで、初期のESRを低く抑えながら、高い耐湿性を確保することができる。
【0018】
上記の固体電解コンデンサ素子は、例えば、表面に誘電体層を有する陽極体を準備する第1工程と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように固体電解質層を形成する第2工程と、を含む製造方法によって製造できる。ここで、第2工程は、第1導電性高分子を含む第1処理液を用いて誘電体層の少なくとも一部を覆う第1固体電解質を形成する第1サブステップと、第1凝集剤を第1固体電解質の表面に付与する第2サブステップと、第2導電性高分子と第2凝集剤とを含む第2固体電解質を形成する第3サブステップとを含む。そして、第3サブステップは、第2サブステップの後、第2導電性高分子を含む第2処理液と第2凝集剤とを第1固体電解質の表面に順次に付与する工程を繰り返すことを含む。
【0019】
以下、本開示の固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、並びに固体電解コンデンサおよびその製造方法についてより具体的に説明する。
【0020】
[固体電解コンデンサ]
固体電解コンデンサに含まれる固体電解コンデンサ素子は、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を含む。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層を含む。以下、固体電解コンデンサ素子を、単にコンデンサ素子と称することがある。
【0021】
(コンデンサ素子)
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含んでもよい。陽極体は、これらの材料を、一種含んでもよく、二種以上を組み合わせて含んでもよい。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましい。
【0022】
陽極体は、通常、少なくとも表層に多孔質部を有する。陽極体は多孔質部に微細な細孔を多数有する。このような多孔質部によって、陽極体は、少なくとも表面に、微細な凹凸形状を有する。表層に多孔質部を有する陽極体は、例えば、弁作用金属を含む基材(シート状(例えば、箔状、板状)の基材など)の表面を、粗面化することで得られる。粗面化は、例えば、エッチング処理(電解エッチング、化学エッチングなど)などにより行ってもよい。このような陽極体は、例えば、芯部と芯部の双方の表面に芯部と一体化して形成された多孔質部とを有している。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。成形体および焼結体のそれぞれは、全体が多孔質部を構成していてもよい。成形体および焼結体のそれぞれは、シート状の形状であってもよく、直方体、立方体またはこれらに類似の形状などであってもよい。
【0023】
陽極体は、誘電体層を介して陰極部が形成される第2部分と、それ以外の第1部分とに区分される。第2部分は陰極形成部と称され、第1部分は陽極引出部と称されることがある。多孔質部は、第2部分に形成されていてもよく、第2部分および第1部分に形成されていてもよい。第1部分は、陽極側の外部電極と電気的接続に利用される。例えば、第1部分には、陽極リードの一端部が電気的に接続され、陽極リードの他端部を外装体から外に引き出して外部電極と電気的に接続する。
【0024】
本明細書では、陽極体の第1部分側の端部を第1端部と称し、第2部分側の端部を第2端部と称することがある。
【0025】
陽極体の第1部分の第2部分側の端部付近には、陽極体と陰極部とを絶縁するための分離部(絶縁領域とも称する)を設けてもよい。分離部は、絶縁テープなどを貼り付けることによって形成してもよく、絶縁性樹脂を多孔質部に染み込ませることによって形成してもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0026】
(誘電体層)
誘電体層は、例えば、陽極体の少なくとも一部の表面を覆うように形成される。誘電体層は、誘電体として機能する絶縁性の層である。誘電体層は、陽極体の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は、陽極体の多孔質の表面に形成されるため、誘電体層の表面は、上述のように微細な凹凸形状を有する。
【0027】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれらの例に限らず、誘電体として機能すればよい。
【0028】
(陰極部)
陰極部は、陽極体の表面に形成された誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成される。陰極部は、少なくとも固体電解質層を含む。陰極部は、例えば、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを含んでもよい。陰極部を構成する各層は、陰極部の層構成に応じて、公知の方法で形成できる。
【0029】
以下、陰極部の構成要素について説明する。
【0030】
(固体電解質層)
固体電解質層は、誘電体層を覆うように形成される。固体電解質層は、必ずしも誘電体層の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子を含む第1固体電解質と、第2固体電解質の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子を含む第2固体電解質とを含む。第1固体電解質および第2固体電解質のそれぞれは、層を形成していてもよい。各固体電解質は、それぞれ単層であってもよく、複数の層で構成してもよい。
【0031】
第1固体電解質と第2固体電解質との間には、第1凝集剤が介在し、第2固体電解質内には第2凝集剤が含まれる。ここで、第1凝集剤は、第2凝集剤よりも疎水性が高い。これによって、初期のESRを低く抑えながら、高い耐湿性を確保することができる。例えば、固体電解コンデンサまたはコンデンサ素子が高温高湿環境に長時間晒された場合でも、固体電解質層における抵抗または誘電体層と固体電解質層との間の抵抗の上昇を抑制して、ESRの上昇を軽減できる。第1凝集剤は、第1固体電解質と第2固体電解質との間に連続または非連続の層状で存在していてもよい。第2凝集剤は、第2固体電解質内に連続または非連続の層状で含まれていてもよい。
【0032】
(導電性高分子)
第1導電性高分子および第2導電性高分子のそれぞれは、例えば、共役系高分子を含む。第1導電性高分子および第2導電性高分子のそれぞれは、必要に応じて、ドーパントを含んでもよい。第1固体電解質および第2固体電解質のそれぞれは、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0033】
第1固体電解質は、第2固体電解質の少なくとも第1固体電解質と接触する部分(層など)とは、組成が異なっていてもよい。「組成が異なる」場合には、各固体電解質(または上記の部分)に含まれる共役系高分子、ドーパントおよび添加剤からなる群より選択される少なくとも1つが異なる場合、各層に含まれる成分の含有率が異なる場合などが包含される。各固体電解質が複数の層を含む場合、各層の組成は異なっていてもよく、同じであってもよい。第2固体電解質の第1固体電解質と接触しない部分(層など)は、第1固体電解質の組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
第1固体電解質と第2固体電解質との区別は、例えば、断面画像の電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)分析により行うことができる。例えば、固体電解質層の断面画像において等間隔でEPMA分析を行い、各測定点における特性X線の波長の違いから第1固体電解質と第2固体電解質との境界を定めることができる。
【0035】
第1導電性高分子および第2導電性高分子に含まれる共役系高分子としては、固体電解コンデンサに使用される公知の共役系高分子、例えば、π共役系高分子が挙げられる。共役系高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、およびポリチオフェンビニレンを基本骨格とする高分子が挙げられる。これらのうち、ポリピロール、ポリチオフェン、またはポリアニリンを基本骨格とする高分子が好ましい。当該高分子は、基本骨格を構成する少なくとも一種のモノマー単位を含んでいればよい。モノマー単位には、置換基を有するモノマー単位も含まれる。上記の高分子には、例えば、単独重合体、および二種以上のモノマーの共重合体が含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0036】
第1導電性高分子および第2導電性高分子のそれぞれは、共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0037】
高い耐熱性および高い耐圧性が確保し易い観点から、各導電性高分子は、チオフェン化合物に対応するモノマー単位を含む共役系高分子を含むことが好ましい。
【0038】
チオフェン化合物としては、チオフェン環を有し、対応するモノマー単位の繰り返し構造を形成可能な化合物が挙げられる。チオフェン化合物は、例えば、チオフェン環の3位および4位の少なくとも一方に置換基を有していてもよい。3位の置換基と4位の置換基とは連結してチオフェン環に縮合する環を形成していてもよい。チオフェン化合物としては、例えば、3位および4位の少なくとも一方に置換基を有していてもよいチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン化合物(エチレンジオキシチオフェン化合物などのC2-4アルキレンジオキシチオフェン化合物など)が挙げられる。アルキレンジオキシチオフェン化合物には、アルキレン基の部分に置換基を有するものも含まれる。置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基などのC1-4アルキル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1-4アルコキシ基など)、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基などのヒドロキシC1-4アルキル基など)などが好ましいが、これらに限定されない。中でも、少なくとも3,4-エチレンジオキシチオフェン化合物(3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)など)に対応するモノマー単位を含む共役系高分子(PEDOTなど)が好ましい。少なくともEDOTに対応するモノマー単位を含む共役系高分子は、EDOTに対応するモノマー単位のみを含んでもよく、当該モノマー単位に加え、EDOT以外のチオフェン化合物に対応するモノマー単位を含んでもよい。
【0039】
共役系高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば1,000以上1,000,000以下である。
【0040】
なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の値である。なお、GPCは、通常は、ポリスチレンゲルカラムと、移動相としての水/メタノール(体積比8/2)とを用いて測定される。
【0041】
第1導電性高分子および第2導電性高分子のそれぞれは、さらにドーパントを含んでもよい。ドーパントとしては、例えば、アニオンおよびポリアニオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0042】
アニオンの例は、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、有機スルホン酸イオン、およびカルボン酸イオンを含む。スルホン酸イオンを生成するドーパントとしては、例えば、芳香族スルホン酸(ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸など)が挙げられる。
【0043】
ポリアニオンとしては、例えば、高分子タイプのポリスルホン酸および高分子タイプのポリカルボン酸が挙げられる。高分子タイプのポリスルホン酸としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、またはこれらの誘導体などが挙げられる。高分子タイプのポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、またはこれらの誘導体などが挙げられる。誘導体には、置換基を有する置換体、部分エステル化物、スルホン酸単位またはカルボン酸単位と、他のモノマー単位とを含む共重合体などが含まれる。ポリアニオンには、ポリエステルスルホン酸、およびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂なども含まれる。しかし、ポリアニオンは、これらに限定されない。
【0044】
脱ドープを抑制し易い観点からは、電子求引性が比較的高いドーパント(例えば、スルホン酸イオン、高分子タイプのポリスルホン酸)を用いる方が有利である。固体電解質層の高い導電性を確保し易い観点からも、スルホン酸イオンまたは高分子タイプのポリスルホン酸をドーパントとして用いることが好ましい。
【0045】
アニオンおよびポリアニオンは、それぞれ、塩の形態で各固体電解質に含まれていてもよい。各層において、アニオンおよびポリアニオンのそれぞれは、共役系高分子とともに、複合体を形成していてもよい。例えば、スルホン酸基は、各層において、遊離の形態(-SO3H)、アニオンの形態(-SO3
-)、または塩の形態で含まれていてもよく、共役系高分子と結合または相互作用した形態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態のスルホン酸基を含めて単に「スルホン酸基」と称することがある。同様に、各層において、カルボキシ基は、遊離の形態(-COOH)、アニオンの形態(-COO-)、または塩の形態で含まれていてもよく、共役系高分子と結合または相互作用した形態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態のカルボキシ基を含めて単に「カルボキシ基」と称することがある。
【0046】
各固体電解質に含まれるドーパントの量は、共役系高分子100質量部に対して、例えば、10~1000質量部であり、20~500質量部または50~200質量部であってもよい。
【0047】
第1固体電解質および第2固体電解質のそれぞれは、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。添加剤には、固体電解質層に添加される公知の添加剤(例えば、カップリング剤、シラン化合物)、導電性高分子以外の公知の導電性材料が挙げられる。各固体電解質は、これらの添加剤を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0048】
添加剤としての導電性材料としては、例えば、二酸化マンガンなどの導電性無機材料、およびTCNQ錯塩からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0049】
必要に応じて、固体電解質層は、第2固体電解質の少なくとも一部を覆う第3固体電解質をさらに含んでもよい。第2固体電解質と第3固体電解質との間には、凝集剤が介在してもよい。第3固体電解質は単層であってもよく、複数の層で構成されていてもよい。第3固体電解質層内には凝集剤が含まれていてもよい。凝集剤としては、後述の第1凝集剤や第2凝集剤について例示される凝集剤から選択できる。第3固体電解質の組成は、第1固体電解質と同じであってもよく異なっていてもよい。第3固体電解質の組成は、通常、第2固体電解質とは異なっている。
【0050】
(凝集剤)
第1凝集剤および第2凝集剤のそれぞれとしては、カチオンを形成可能な塩基成分が少なくとも用いられる。塩基成分は、酸成分との塩として用いてもよい。塩基成分としては、アルキル基を少なくとも1つ有するモノアミンが挙げられる。このようなモノアミンを用いることで、導電性高分子の疎水性を適度に高めることができる。また、第1凝集剤および第2凝集剤を用いることで、導電性高分子の成膜性または被覆性を高めることができる。
【0051】
導電性高分子の疎水性をさらに高め易い観点からは、モノアミンは、炭素数8以上のアルキル基を少なくとも1つ有することが好ましい。炭素数8以上のアルキル基(第1アルキル基)としては、オクチル基、2-エチル-ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基などが挙げられる。第1アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。第1アルキル基の炭素数は、16以下であってもよく、14以下であってもよい。第2凝集剤としては、炭素数8以上のアルキル基(第1アルキル基)を少なくとも1つ有するモノアミンが好ましい。この場合、固体電解質層の抵抗が過度に高くなることを抑制し易く、初期のESRを低く抑える上で有利である。また、第1凝集剤は、炭素数10以上のアルキル基(第1アルキル基)を少なくとも1つ有するモノアミンが好ましい。この場合、誘電体層に近い第1固体電解質の疎水性を高めやすく、水分と接触しても溶解が抑制されることでより高い耐湿性を確保することができる。各凝集剤は、第1級アミンまたは第2級アミンであってもよいが、第3級アミンであることが好ましい。この場合、固体電解質層の適度な疎水性を確保し易い。
【0052】
第3級アミンは、N原子上に第1アルキル基以外に、2つの有機基を有する。このような有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリール基からなる群より選択される。これらの有機基は、さらに、置換基(例えば、ヒドロキシ基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1つ)を有していてもよい。導電性高分子の高い成膜性を確保し易い観点からは、第3級アミンは、中でも、N原子上に、第1アルキル基に加え、2つのアルキル基(第2アルキル基、第3アルキル基)を有するトリアルキルアミンであることが好ましい。第2アルキル基および第3アルキル基のそれぞれとしては、例えば、炭素数1~7のアルキル基が挙げられ、炭素数1~4または炭素数1~3のアルキル基であってもよい。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。第3級アミンが、このような第2アルキル基および第3アルキル基を有する場合、固体電解質層における高い導電性と疎水性とのバランスを取りやすい。第2アルキル基と第3アルキル基とは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0053】
第1凝集剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。第2凝集剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
固体電解質層において、第1凝集剤および第2凝集剤のそれぞれは、アミン(遊離の形態)、アミンに対応するカチオン、第4級アンモニウム化合物、および塩のいずれの形態で含まれていてもよい。
【0055】
第1凝集剤または第2凝集剤が、固体電解質層の形成に酸成分との塩の形態で使用される場合、酸成分が固体電解質層に残存して、誘電体層の皮膜修復性を高めることができる。
【0056】
(酸成分)
酸成分としては、アニオンを生成可能な酸成分が挙げられる。例えば、ドーパントとして例示したアニオンおよびポリアニオンからなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。第1固体電解質または第2固体電解質からの脱ドープを抑制する観点からは、各固体電解質のドーパントよりも電子求引性が低い酸成分を用いてもよい。
【0057】
酸成分としては、例えば、脂肪族スルホン酸、脂環族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アシッドホスホオキシエチルアクリレート、アシッドホスホオキシエチルメタクリレートなどのカルボン酸のアシッドホスホオキシポリオキシアルキレングリコールモノアクリレート(アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(P(=O)(OH)2-(O-CH2CH2)n-O-C(=O)-CR=CH2)(nは2~10の整数であり、Rは水素原子またはメチル基である)など)、脂肪族ホスホン酸、芳香族ホスホン酸、カルボン酸[脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸などのカルボキシC6-14アレーン、サリチル酸などのカルボキシヒドロキシC6-14アレーン、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのジカルボキシC6-14アレーンなど)など]、フェノール化合物、上記カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(例えば、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどのヒドロキシC1-4アルキルエステル)などが例示できる。酸成分として、二種以上のアニオン性基を有する酸成分を用いてもよい。このような酸成分としては、例えば、スルホン酸基およびカルボキシ基を有する酸成分(例えば、脂肪族化合物(スルホコハク酸など)、芳香族化合物(スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、ジスルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、ナフトールスルホン酸など)、リン酸基およびカルボキシ基を有する酸成分(例えば、2-(ジヒドロキシホスフィニルオキシ)アクリル酸)、ホスホン酸基およびカルボキシ基を有する第2アニオン剤(例えば、ホスホノアクリル酸、2-メチル-3-ホスホノアクリル酸)などが挙げられる。
【0058】
酸成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
酸成分の第1凝集剤または第2凝集剤(アミンなど)に対するモル比(=酸成分のアニオン性基/第1凝集剤または第2凝集剤)は、例えば、0.7/1以上1.2/1以下であってもよい。
【0060】
固体電解質層において、酸成分のアニオン性基は、アニオン性基(遊離の形態)、アニオン性基に対応するアニオン、およびアニオンの塩などから選択されるいずれの形態で含まれていてもよい。
【0061】
(固体電解質層の形成)
上記のコンデンサ素子の製造方法において、第2工程(固体電解質層の形成工程)は、例えば、第1サブステップ~第3サブステップを含む。第2工程を経ることにより固体電解質層が形成される。第2工程に先立って、第1工程で表面に誘電体層を有する陽極体が準備される。第1工程については、陽極体および誘電体層についての説明を参照できる。
【0062】
(第1サブステップ)
第1サブステップでは、第1導電性高分子を含む第1処理液を用いて、誘電体層の少なくとも一部を覆う第1固体電解質が形成される。例えば、第1処理液を誘電体層の少なくとも一部を覆うように付与し、乾燥させることによって、第1固体電解質が形成される。
【0063】
第1処理液の誘電体層への付与は、例えば、誘電体層が形成された陽極体を第1処理液に浸漬させたり、または誘電体層が形成された陽極体に第1処理液を注液したりすることにより行ってもよい。含浸または注液に限らず、公知の塗布方法(例えば、スプレーコート法)、または印刷法を利用してもよい。必要に応じて、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0064】
第1処理液の付与と乾燥とは、1回行ってもよく、交互に複数回繰り返してもよい。
【0065】
第1処理液は、第1処理液の構成成分を、液状媒体に分散または溶解させることにより調製される。構成成分としては、例えば、第1導電性高分子(共役系高分子、ドーパントなど)、添加剤などが挙げられる。第1処理液は、液状媒体中で、必要に応じて、ドーパントの存在下、共役系高分子の前駆体(モノマーなど)を重合させることよって、調製してもよい。第1導電性高分子、および添加剤については上述の固体電解質層についての説明を参照できる。
【0066】
第1処理液は、共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第1処理液は、ドーパントを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第1処理液は、添加剤を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0067】
第1処理液に用いられる液状媒体としては、例えば、水、および有機媒体が挙げられる。液状媒体は、少なくとも第1処理液が多孔質部に付与される温度において液状であればよく、室温(例えば、20℃以上35℃以下)で液状であってもよい。有機媒体としては、例えば、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン(アセトンなど)、ニトリル(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド(N,N-ジメチルホルムアミドなど)、およびスルホキシド(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。脂肪族アルコールは、モノオールおよびポリオールのいずれであってもよい。第1処理液は、液状媒体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0068】
第1処理液中の第1導電性高分子の濃度は、例えば、0.5質量%以上4質量%以下であり、1質量%以上3.5質量%以下であってもよい。濃度がこのような範囲であることで、第1導電性高分子を誘電体層の表面の微細な凹部に浸透させながら、誘電体層の表面に多くの第1導電性高分子を付着させ易い。
【0069】
第1処理液中の第1導電性高分子の平均粒子径は、例えば、50nm以上400nm以下であり、50nm以上300nm以下であってもよい。平均粒子径がこのような範囲である場合、ピット内への第1導電性高分子の充填性を高めることができる。
【0070】
第1導電性高分子の平均粒子径とは、第1処理液中の第1導電性高分子の粒子について、動的光散乱法の粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布において、累積の50%粒子径(中央径)である。動的光散乱法による粒度分布測定装置としては、例えば、大塚電子社製の光散乱光度計DLS-8000が用いられる。
【0071】
第1処理液を誘電体層に付与した後の乾燥は、例えば、加熱下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。乾燥温度および圧力は、例えば、第1処理液に含まれる液状媒体の種類に応じて決定される。
【0072】
(第2サブステップ)
第2サブステップでは、第1凝集剤を第1固体電解質の表面に付与する。例えば、第1凝集剤を含む第1液状組成物(溶液など)を、第1処理液の場合に準じて、例えば、浸漬、注液、塗布、および印刷から選択される少なくとも1つを利用して第1固体電解質の表面に付与する。第1液状組成物を第1固体電解質の表面に付与した後は、通常、乾燥処理が行われる。第2サブステップにより、第1固体電解質の第1導電性高分子の一部のアニオン性基が第1凝集剤により塩を形成して、疎水化され、水分に接触した場合の第1固体電解質の溶解が抑制される。また、マイナスに帯電している第1固体電解質の表面を第1凝集剤によってプラスに帯電させることができるため、第3サブステップで第2導電性高分子が付着し易くなる。そのため、第1凝集剤は、第1固体電解質の表面全体(または陽極体の陰極形成部の表面全体)を覆うように付着させることが好ましい。
【0073】
第1液状組成物は、例えば、第1凝集剤と液状媒体を含む。第1液状組成物には、第1凝集剤を酸成分との塩の形態で用いてもよい。換言すると、第1液状組成物には、第1凝集剤に加えて、酸成分が含まれていてもよい。第1液状組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。液状媒体としては、例えば、第1処理液について例示した液状媒体が挙げられる。導電性高分子と第1凝集剤とが液状組成物中に含まれると、導電性高分子の脱ドープが生じ易い。そのため、第1液状組成物は、導電性高分子(共役系高分子およびドーパントなど)を含まないことが好ましい。
【0074】
第1液状成分中の第1凝集剤の濃度は、例えば、2質量%以上7質量%以下であり、2.5質量%以上5質量%以下(または4質量%以下)であってもよく、3質量%以上4質量%以下であってもよい。酸成分の第1凝集剤に対するモル比は、上述の範囲であってもよい。
【0075】
第1液状組成物を第1固体電解質に付与した後の乾燥は、例えば、加熱下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。乾燥温度および圧力は、例えば、第1液状組成物に含まれる液状媒体および第1凝集剤の種類に応じて決定される。
【0076】
必要に応じて、第1サブステップと第2サブステップとを交互に繰り返してもよい。
【0077】
(第3サブステップ)
第3サブステップでは、第2導電性高分子と第2凝集剤とを含む第2固体電解質を形成する。
【0078】
第3サブステップでは、第2サブステップの後、第2導電性高分子を含む第2処理液と第2凝集剤とを第1固体電解質の表面に順次に付与する工程を繰り返すことを含む。第3サブステップをより具体的に説明すると、まず、第2サブステップの後、第1凝集剤が付与された第1固体電解質の表面に、第2処理液を付与する。第2処理液は通常乾燥され,第2導電性高分子を含む第2固体電解質が形成される。そして、形成された第2固体電解質の表面に第2凝集剤が付与される。第2凝集剤が付与された第2固体電解質の表面に第2処理液が付与される。第2処理液は通常乾燥され、第2固体電解質が形成される。さらに、第2固体電解質の表面への第2凝集剤の付与と、第2凝集剤が付与された第2固体電解質の表面への第2処理液の付与(および乾燥)とが、交互に繰り返される。このようにして、第2固体電解質の厚さが大きくなり、内部に第2凝集剤が含まれた状態となる。第2凝集剤を用いることで、下地となる第1固体電解質または第2固体電解質の疎水性を高めるとともに、マイナスに帯電した下地の表面をプラスに帯電されることができ、第2処理液に含まれる第2導電性高分子をより均一に付着させることができる。また、第2凝集剤の疎水性が第1凝集剤に比べて低いことで、第2固体電解質全体の導電性が低下することが軽減される。よって、初期のESRを低く抑えることができる。
【0079】
第2処理液の付与は、第1処理液の場合に準じて行ってもよい。例えば、浸漬、注液、塗布、および印刷から選択される少なくとも1つを利用して第1凝集剤が付与された第1固体電解質の表面または第2凝集剤が付与された第2固体電解質の表面に第2処理液を付与する。
【0080】
第2処理液は、第1処理液の場合に準じて調製される。構成成分については、第1処理液の場合と同様に、上述の固体電解質層についての説明を参照できる。第2処理液に用いられる液状媒体としては、第1処理液について記載した媒体から選択してもよい。
【0081】
第2処理液は、共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第2処理液は、ドーパントを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第2処理液は、添加剤を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0082】
第2処理液中の第2導電性高分子の濃度は、例えば、2質量%以上6質量%以下であり、3.5質量%を超え6質量%以下であってもよい。濃度がこのような範囲であることで、多くの第2導電性高分子を第1固体電解質上に付着させることができ、第2固体電解質の厚さを大きくすることができる。
【0083】
第2処理液中の第2導電性高分子の平均粒子径は、例えば、200nm以上800nm以下であり、300nm以上600nm以下であってもよい。第2導電性高分子の平均粒子径は、第1導電性高分子の平均粒子径の場合と同様の手順で求められる。
【0084】
第2処理液の付与後の乾燥は、例えば、加熱下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。乾燥温度および圧力は、例えば、第2処理液に含まれる液状媒体の種類に応じて決定される。
【0085】
第2凝集剤は、例えば、第2凝集剤を含む第2液状組成物(溶液など)を第1液状組成物の場合に準じて、例えば、浸漬、注液、塗布、および印刷から選択される少なくとも1つを利用して第1固体電解質または第2固体電解質の表面に付与してもよい。第2凝集剤は、下地となる第1固体電解質または第2固体電解質の表面全体(または陽極体の陰極形成部の表面全体)を覆うように付着させることが好ましい。
【0086】
第2液状組成物は、例えば、第2凝集剤と液状媒体を含む。第2液状組成物には、第2凝集剤を酸成分との塩の形態で用いてもよい。換言すると、第2液状組成物には、第2凝集剤に加えて、酸成分が含まれていてもよい。第2液状組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。液状媒体としては、例えば、第1処理液について例示した液状媒体が挙げられる。導電性高分子と第2凝集剤とが液状組成物中に含まれると、導電性高分子の脱ドープが生じ易い。そのため、第2液状組成物は、導電性高分子(共役系高分子およびドーパントなど)を含まないことが好ましい。
【0087】
第2液状成分中の第2凝集剤の濃度は、例えば、第1液状成分中の第1凝集剤の濃度について記載した範囲から選択してもよい。酸成分の第2凝集剤に対するモル比は、上述の範囲であってもよい。
【0088】
第2液状組成物を用いる場合、下地となる第1固体電解質または第2固体電解質に第2液状組成物を付与した後に、通常、乾燥処理が行われる。この乾燥は、例えば、加熱下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。乾燥温度および圧力は、例えば、第2液状組成物に含まれる液状媒体および第2凝集剤の種類に応じて決定される。第2処理液の付与と第2液状組成物の付与とを繰り返し行う場合、第2液状組成物を第1固体電解質または第2固体電解質に付与する毎に、乾燥処理を行うことが好ましい。
以上のようにして、固体電解質層が形成される。
【0089】
(陰極引出層)
陰極引出層は、固体電解質層と接触するとともに固体電解質層の少なくとも一部を覆う第1層を少なくとも備えていればよく、第1層と第1層を覆う第2層とを備えていてもよい。第1層としては、例えば、導電性粒子を含む層、金属箔などが挙げられる。導電性粒子としては、例えば、導電性カーボンおよび金属粉から選択される少なくとも一種が挙げられる。例えば、第1層としての導電性カーボンを含む層(カーボン層とも称する)と、第2層としての金属粉を含む層または金属箔とで陰極引出層を構成してもよい。第1層として金属箔を用いる場合には、この金属箔で陰極引出層を構成してもよい。
【0090】
導電性カーボンとしては、例えば、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)が挙げられる。
【0091】
第2層としての金属粉を含む層は、例えば、金属粉を含む組成物を第1層の表面に積層することにより形成できる。このような第2層としては、例えば、銀粒子などの金属粉と樹脂(バインダ樹脂)とを含む組成物を用いて形成される金属ペースト層(銀ペースト層など)が挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることもできるが、イミド系樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0092】
第1層として金属箔を用いる場合、金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、金属箔の表面を粗面化してもよい。金属箔の表面には、化成皮膜が設けられていてもよく、金属箔を構成する金属とは異なる金属(異種金属)や非金属の被膜が設けられていてもよい。異種金属や非金属としては、例えば、チタンのような金属やカーボン(導電性カーボンなど)のような非金属などを挙げることができる。
【0093】
上記の異種金属または非金属(例えば、導電性カーボン)の被膜を第1層として、上記の金属箔を第2層としてもよい。
【0094】
(セパレータ)
金属箔を陰極引出層に用いる場合、金属箔と陽極箔との間にはセパレータを配置してもよい。セパレータとしては、特に制限されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、ポリアミド(例えば、脂肪族ポリアミド、アラミドなどの芳香族ポリアミド)の繊維を含む不織布などを用いてもよい。
【0095】
(その他)
固体電解コンデンサは、少なくとも1つのコンデンサ素子と、コンデンサ素子を封止する外装体とを含む。固体電解コンデンサは、2つ以上のコンデンサ素子を含んでもよい。固体電解コンデンサは、巻回型であってもよく、チップ型または積層型のいずれであってもよい。例えば、固体電解コンデンサは、巻回された2つ以上のコンデンサ素子を備えていてもよく、積層された2つ以上のコンデンサ素子を備えていてもよい。コンデンサ素子の構成は、固体電解コンデンサのタイプに応じて、選択すればよい。
【0096】
コンデンサ素子において、陰極引出層には、陰極リードの一端部が電気的に接続される。陽極体には、陽極リードの一端部が電気的に接続される。陽極リードの他端部および陰極リードの他端部は、それぞれ樹脂外装体またはケースから引き出される。樹脂外装体またはケースから露出した各リードの他端部は、固体電解コンデンサを搭載すべき基板との半田接続などに用いられる。各リードとしては、リード線を用いてもよく、リードフレームを用いてもよい。
【0097】
固体電解コンデンサは、例えば、第1工程および第2工程を含む製造方法によって少なくとも1つのコンデンサ素子を形成する工程と、少なくとも1つの固体電解コンデンサ素子を外装体で封止する工程とを含む製造方法によって得ることができる。例えば、積層された2つ以上のコンデンサ素子を含む固体電解コンデンサを製造する場合には、製造方法は、封止工程に先立って、2つ以上のコンデンサ素子を積層する工程をさらに含む。そして、封止工程では、積層された2つ以上のコンデンサ素子が外装体で封止される。
【0098】
外装体にはケースも包含される。外装体は樹脂を含んでもよい。例えば、コンデンサ素子および外装体の材料樹脂(例えば、未硬化の熱硬化性樹脂およびフィラー)を金型に収容し、トランスファー成型法、圧縮成型法等により、コンデンサ素子を、樹脂製の外装体で封止してもよい。このとき、コンデンサ素子から引き出された、陽極リードの他端部側の部分および陰極リードの他端部側の部分を、それぞれ金型から露出させる。また、コンデンサ素子を、陽極リードの他端部側の部分および陰極リードの他端部側の部分が有底ケースの開口側に位置するように有底ケースに収納し、封止体で有底ケースの開口を封口することにより固体電解コンデンサを形成してもよい。
【0099】
固体電解コンデンサは、必要に応じて、樹脂製の外装体の外側に配置されたケースをさらに含んでもよい。ケースを構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂もしくはそれを含む組成物などが挙げられる。ケースを構成する金属材料としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄などの金属あるいはその合金(ステンレス鋼、真鍮なども含む)が挙げられる。
【0100】
図1は、本開示の一実施形態の固体電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1の実線αで囲まれた領域を概念的に示す拡大図である。
【0101】
図1に示すように、固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂製の外装体3と、外装体3の外部にそれぞれ少なくともその一部が露出する陽極リード端子4および陰極リード端子5と、を備えている。陽極リード端子4および陰極リード端子5は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。外装体3は、ほぼ直方体の外形を有しており、固体電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。
【0102】
コンデンサ素子2は、表面に誘電体層を有する陽極体6と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを含む。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層7と、固体電解質層7の少なくとも一部を覆う陰極引出層8とを含む。陽極体6は、固体電解質層7および陰極引出層8で構成される陰極部と対向する領域と、対向しない領域とを含む。陽極体6の固体電解質層7と対向する領域(換言すると、固体電解質層7が形成されている部分)が陰極形成部であり、固体電解質層7と対向しない領域(換言すると、固体電解質層7が形成されていない部分)が陽極引出部である。
【0103】
陽極引出部のうち陰極部に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離部13が形成され、陰極部と陽極体6との接触が規制されている。陽極引出部のうち、他の一部は、陽極リード端子4の一端部と、溶接により電気的に接続されている。陰極リード端子5の一端部は、導電性接着剤により形成される接着層14を介して、陰極部(より具体的には陰極引出層8)と電気的に接続している。陽極リード端子4の他端部および陰極リード端子5の他端部は、それぞれ外装体3の異なる側面から引き出され、一方の主要平坦面(
図1では下面)まで露出状態で延在している。この平坦面における各端子の露出箇所は、固体電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
【0104】
図示例では、
図2に示されるように、陽極体6は、表層の多孔質部6bと多孔質部6bと一体化した芯部6aとを有する陽極箔で構成されている。多孔質部6bの表面には、空隙の内壁面も含めて多孔質部6bの表面の形状に沿って誘電体層11が形成されており、陽極体6と陰極部とは、誘電体層11を介して対向している。図示例の陰極引出層8は、2層構造であり、固体電解質層7と接触するカーボン層(第1層)9と、カーボン層9の表面を覆う金属ペースト層(第2層)10とを有する。
【0105】
固体電解質層7は、第1導電性高分子を含む第1固体電解質71と、第2導電性高分子72a、72bおよび72cを含む第2固体電解質72とを含む。第1固体電解質層71は、微細な凹凸を有する誘電体層11の表面の少なくとも一部を覆うように形成されている。第1固体電解質71の少なくとも一部は第2固体電解質72で覆われている。固体電解質層7には、さらに、第1固体電解質71と第2固体電解質72との間に介在する第1凝集剤12aと、第2固体電解質72内に含まれる第2凝集剤12bとが含まれる。ここで、第1凝集剤12aは、第2凝集剤12bよりも疎水性が高い。これにより、初期のESRを低く抑えることができるとともに、ESRの経時変化を低く抑えることができる。
【0106】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
《実施例1および比較例1~3》
下記の要領で、
図1(および
図2)に示す固体電解コンデンサ1のコンデンサ素子2を作製し、その特性を評価した。
【0108】
(1)陽極体2の準備
基材としてのアルミニウム箔(厚み:100μm)の両方の表面をエッチングによって粗面化した。このようにして、芯部6aの両方の表層に多孔質部6bを有する陽極箔である陽極体6を作製した。
【0109】
(2)誘電体層11の形成
陽極体6の陰極形成部を、化成液に浸漬し、70Vの直流電圧を、20分間印加した。このようにして、陽極体6の多孔質部の表面に酸化アルミニウムを含む誘電体層11を形成した。
【0110】
(3)固体電解質層7の形成
(a)第1固体電解質71の形成
上記(2)で得られた誘電体層11を有する陽極体6を、第1導電性高分子を含む第1処理液に浸漬した後、150℃で2~5分乾燥した。このようにして第1固体電解質71を形成した。第1処理液としては、第1導電性高分子(ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)およびポリスチレンスルホン酸(PSS))を2質量%の濃度で含む水性分散液(分散液中の導電性高分子の平均粒子径:400nm)を用いた。
【0111】
(b)第1凝集剤12aの付与
上記(a)で得られた第1固体電解質71が形成された陽極体6を、第1凝集剤12aを含む第1水溶液(第1凝集剤の濃度:3.6質量%)に浸漬した後、取り出し、さらに110℃で2~5分の乾燥を行った。なお、第1水溶液には、第1凝集剤12aとしての表1に示すアミンとスルホイソフタル酸との塩を溶解させた。
【0112】
(c)第2固体電解質72の形成
(c-1)第2導電性高分子72aを含む第2処理液の付与
上記(b)で得られた第1凝集剤が付与された第1固体電解質71が形成された陽極体6を、第2導電性高分子72aを含む第2処理液に浸漬した後、取り出し、さらに165℃で2~5分の乾燥を行った。第2処理液としては、第2導電性高分子72(PEDOTおよびPSS誘導体)を4質量%の濃度で含む水性分散液(分散液中の導電性高分子の平均粒子径:600nm)を用いた。このようにして、第1固体電解質71の表面に第1凝集剤を介して第2導電性高分子72aを付着させた。
【0113】
(c-2)第2凝集剤12bの付与
第2導電性高分子72aが付着した陽極体6を、第2凝集剤12bを含む第2水溶液(第2凝集剤の濃度:3.6質量%)に浸漬した後、取り出し、さらに110℃で2~5分の乾燥を行った。なお、第2水溶液には、第2凝集剤12bとしての表1に示すアミンとスルホイソフタル酸との塩を溶解させた。
【0114】
(c-3)第2処理液の付与と第2凝集剤の付与との繰り返し
上記(c-2)で得られた第2導電性高分子72aに第2凝集剤12bが付与された陽極体6を、上記(c-1)と同様の手順で第2処理液に浸漬し、取り出して乾燥した。このようにして第2導電性高分子72aを第2凝集剤12bが付与された陽極体6に付着させた。そして、上記(c-2)の第2凝集剤の付与と、上記の第2導電性高分子72aの付着とを交互にさらに2回ずつ繰り返して、第1固体電解質71の表面を覆うように、第2導電性高分子72aを含む第2固体電解質72を形成した。
このようにして、第1固体電解質71および第2固体電解質72を含む固体電解質層7を、誘電体層11の表面を覆うように形成した。
【0115】
(4)陰極引出層8の形成
上記(3)で得られた固体電解質層7を有する陽極体2を、黒鉛粒子を水に分散した分散液に浸漬し、分散液から取り出し後、乾燥することにより、固体電解質層7の表面にカーボン層(第1層)9を形成した。乾燥は、200~230℃で10~30分間行った。
【0116】
次いで、カーボン層9の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布し、200~230℃で10~30分間加熱することでバインダ樹脂を硬化させ、金属ペースト層(第2層)10を形成した。こうして、カーボン層9と金属ペースト層10とで構成される陰極引出層8を形成した。
上記のようにして、合計20個のコンデンサ素子2を作製した。
【0117】
(5)評価
コンデンサ素子を用いて、下記の評価を行った。
【0118】
(a)初期のESR
20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、各コンデンサ素子の周波数100kHzにおける初期のESR(mΩ)をそれぞれ測定した。そして、20個のコンデンサ素子における平均値を求めた。初期のESRは、比較例1のESRを100%としたときの比率(%)で表した。
【0119】
(b)高温高湿試験
上記(a)で初期のESRを測定したコンデンサ素子に、80℃および85%RHの高温高湿環境下で250時間静置することで高温高湿試験を行った。試験後、コンデンサ素子のESRを、初期のESRの場合と同様の手順で、20℃環境下で測定し、20個のコンデンサ素子の平均値を求めた。高温高湿試験後のESRを、比較例1の初期のESRを100%としたときの比率で表すとともに、各例の初期のESRを100%としたときの比率(変化量ΔESR)で表した。このESRの比率を、耐湿性の指標とした。ESRの比率が小さい方が、耐湿性が高いことを意味する。
【0120】
評価結果を表1に示す。表1において、E1は実施例1であり、C1~C3は比較例1~3である。
【0121】
【0122】
表1に示されるように、初期のESRは、第1凝集剤の種類にはほとんど影響されないが、第2凝集剤の種類に影響され、第2凝集剤の疎水性が低い方が初期のESRが低く抑えられる。
【0123】
高温高湿試験後のΔESRの値から、耐湿性に対する影響は、第2凝集剤よりも第1凝集剤の方が大きい。より具体的に説明すると、第2凝集剤の疎水性が高い場合、ΔESRは15.7%(C1とC2との比較)または9.1%(E1とC3との比較)低減される。それに対し、第1凝集剤の疎水性が高い場合、39.9%または33.3%低減される(C1とE1との比較、C2とC3との比較)。
【0124】
これらの結果から、高い耐湿性を確保するには、第2凝集剤よりもむしろ第1凝集剤の疎水性が高いことが重要であることが分かる。誘電体層を覆う第1固体電解質の方が第2固体電解質よりも水分と接触したときのESR変動が大きいと考えられる。そのため、疎水性が高い第1凝集剤を用いて第1固体電解質を疎水化することによって、第1固体電解質が水分と接触しても溶出が抑制され、第1固体電解質と誘電体層および第2固体電解質のそれぞれとの接点が確保され、これらの間の抵抗が増大することが抑制される。これによって、疎水性が高い第1凝集剤を用いることで高い耐湿性が確保されると考えられる。一方、凝集剤の疎水性が高いと、絶縁性も高くなる傾向がある。第1固体電解質に比較すると、第2固体電解質が固体電解質層に占める比率が大きいため、第2固体電解質に含まれる第2凝集剤の疎水性が高すぎると抵抗が大きくなる。そのため、疎水性が相対的に低い第2凝集剤を用いることで、初期のESRを低く抑えることができる。このように、第2凝集剤に比べて疎水性が高い第1凝集剤を用いることで、高い耐湿性が確保され、第1凝集剤よりも疎水性が低い第2凝集剤を用いることで、初期のESRを低く抑えることができる。このような効果は、E1の結果からも明らかである。なお、第2凝集剤の疎水性が低い方が耐湿試験後のESRは小さくなっている。これは、第2凝集剤の疎水性が低い場合、第2固体電解質の溶解よりも、絶縁性が低くなり、第2固体電解質の高い導電性が維持される効果が大きいことによると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示によれば、固体電解コンデンサにおいて、初期のESRを低く抑えることができるとともに、高い耐湿性を確保することができる。高い耐湿性が求められる用途、信頼性が求められる用途などの他、様々な用途に固体電解コンデンサを利用することができる。
【符号の説明】
【0126】
1:固体電解コンデンサ
2:コンデンサ素子
3:外装体
4:陽極リード端子
5:陰極リード端子
6:陽極体
6a:芯部
6b:多孔質部
7:固体電解質層
71:第1固体電解質
72:第2固体電解質
72a:第2導電性高分子
8:陰極引出層
9:カーボン層(第1層)
10:金属ペースト層(第2層)
11:誘電体層
12a:第1凝集剤
12b:第2凝集剤
13:分離部
14:接着層