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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123149
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】車両衝突試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20230829BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01M7/08 A
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027036
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】池戸 一祥
(57)【要約】      (修正有)
【課題】牽引速度への影響が大きい加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近において、牽引モータの負荷量に応じてモータの牽引速度を変化させることにより、車両の切り離し位置で車速が所定の速度から乖離するという問題を解決する。
【解決手段】牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、ドラム2を駆動するモータ4と、牽引速度指令Vrefに基づきモータ4にトルク指令Trを入力する制御する制御手段5とを具備し、牽引ロープ1に断接切替手段であるドーリー6を介し車両7を接続して衝突試験を行うものにおいて、制御手段5を、加速完了付近の所定タイミングで、モータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度指令Vrefを負荷量を減じる方向に補正するように構成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引ロープと、この牽引ロープを牽引するドラムと、前記ドラムを駆動するモータと、前記モータの速度を検出するモータ速度検出手段と、検出されたモータ速度を前記牽引速度指令に帰還して前記モータにトルク指令を入力する制御手段とを具備し、前記牽引ロープに断接切替手段を介し車両を接続して衝突試験を行うものにおいて、
前記制御手段は、加速完了付近の所定タイミングで、前記モータの負荷量に応じて当該モータの牽引速度指令を負荷量を減じる方向に補正する、ことを特徴とする車両衝突試験装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記トルク指令から牽引速度補正量を算出し、この牽引速度補正量に基づいて前記牽引速度指令を補正することを特徴とする、請求項1に記載の車両衝突試験装置。
【請求項3】
前記牽引速度指令は、予め牽引条件毎に加速完了付近のモータ負荷量を減らすように補正されている、請求項1に記載の車両衝突試験装置。
【請求項4】
前記制御手段は、加速から一定速度への移行時間に前記牽引速度指令を補正するものであり、前記トルク指令と前記移行時間から牽引速度補正量を算出し、この牽引速度補正量に基づいて前記牽引速度指令を補正する、請求項1に記載の車両衝突試験装置。
【請求項5】
前記牽引速度指令は、予め牽引条件毎に加速から一定速度への移行時間に応じてモータ負荷量を減らすように補正されている、請求項1に記載の車両衝突試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突試験中の牽引ロープの伸縮による影響を極力低減することが可能な、車両衝突試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車メーカーにおいては、車両の衝突事故を想定し、車両を実際に衝突させて車体の強度及び衝突の影響を評価する衝突試験が行われている。この種の車両衝突試験装置の一例として、例えば特許文献1に示すものが挙げられる。
【0003】
同文献に示された閉ループ方式と呼ばれるものに属する構成を図7に示す。
【0004】
この車両衝突試験装置は、牽引ロープ101と、この牽引ロープ101を牽引するドラム102と、牽引ロープ101に係り合う複数のシーブ103と、ドラム102を駆動するモータ104と、モータ104の速度を検出するモータ速度検出手段104aと、検出されたモータ速度を換算部105aで実牽引速度に換算してフィードバックし、牽引速度指令Vrefとの偏差に基づき、PI制御部152を通じてモータ104にトルク指令Trを入力する制御手段105とを備える。
【0005】
そして、牽引ロープ101に断接切替手段106を介して車両107を接続し、車両107を走行路108上で走行させた後に断接切替手段106で車両107を切り離して、所定の速度で対象物109に衝突させて試験を行うように構成される。
【0006】
図8は、制御手段105における牽引速度指令Vrefの実行基準となる加速度線図と車速線図を示している。加速は基本加速時間A内で完了するように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-35651
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、車両107を限られた長さの走行路108内で所定の高速度まで加速しなければならないので、加速度は大きく、牽引ロープ101はバネ定数を有することによって加速中に大きく引き伸ばされ、加速終了前には逆に収縮する。
【0009】
このような牽引ロープ101の伸び縮みにより、車両107の速度とモータ104の速度との間に乖離が発生する。このため、図9の牽引速度指令に対して、図10に示すように実際の車速は加速完了後にオーバーシュート・アンダーシュートしながら振動して、車両107の切り離し位置Pで車速(実牽引速度)が所定の速度(目標牽引速度)から乖離するという問題があった。このような問題は牽引ロープが長いほど顕著に現われる。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、牽引速度への影響が大きい加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近において、牽引モータの負荷量に応じてモータの牽引速度を変化させることにより、このような課題を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る車両衝突試験装置は、牽引ロープと、この牽引ロープを牽引するドラムと、前記ドラムを駆動するモータと、前記モータの速度を検出するモータ速度検出手段と、検出されたモータ速度を前記牽引速度指令に帰還して前記モータにトルク指令を入力する制御手段とを具備し、前記牽引ロープに断接切替手段を介し車両を接続して衝突試験を行うものにおいて、前記制御手段は、加速完了付近の所定タイミングで、前記モータの負荷量に応じて当該モータへの牽引速度指令を負荷量を減じる方向に補正する、ことを特徴とする。
【0013】
加速完了付近とは、加速から一定速度への牽引に移行する領域を言う。このようにすると、制御手段は、加速完了付近において、牽引速度指令に負荷量に応じた補正を掛けることができるため、加速から一定速度へ移行する際に牽引ロープの縮みの影響で車速がオーバーシュートし、その後の伸び縮みでオーバーシュート・アンダーシュートする振動を抑制するように動作し、結果的に車両の速度が所定の速度から乖離する量を抑制することができる。
【0014】
前記制御手段は、前記トルク指令から牽引速度補正量を算出し、この牽引速度補正量に基づいて前記牽引速度指令を補正することが好ましい。
【0015】
このようにすると、現に牽引ロープにどの程度の伸びがあるかをトルク指令から検出することができるので、伸び量に応じた速度補正をリアルタイムで行うことで、加速完了後の牽引ロープの振動を未然に抑えることができる。しかもこの制御によれば、車両の重量や試験距離などの条件を予め設定しておく必要がない。
【0016】
前記牽引速度指令は、予め牽引条件毎に加速完了付近のモータ負荷量を減らすように補正されていることが好ましい。
【0017】
このようにすると、牽引速度指令自体が加速完了付近で牽引ロープの縮みを考慮して加速を実行するので、トルク指令を用いたフィードバック系を構成せずとも、加速完了後のオーバーシュート・アンダーシュートを抑制することができる。
【0018】
前記制御手段は、加速から一定速度への移行時間に前記牽引速度指令を補正するものであり、前記トルク指令と前記移行時間から牽引速度補正量を算出し、この牽引速度補正量に基づいて前記牽引速度指令を補正することが好ましい。
【0019】
このようにすると、制御手段は、加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近において、牽引速度指令に加速から一定速度への牽引に移行する時間とモータの負荷量に応じた補正を掛けることができるため、加速から一定速度へ移行する際に牽引ロープの縮みの影響で車速がオーバーシュートし、その後の伸び縮みでオーバーシュート・アンダーシュートする振動を移行時間に応じて適切に抑制するように動作し、結果的に車両の切り離し速度が所定の速度から乖離する量を抑制することができる。
【0020】
前記牽引速度指令は、予め牽引条件毎に加速から一定速度への移行時間に応じてモータ負荷量を減らすように補正されていることが好ましい。
【0021】
このようにすると、牽引速度指令自体が加速完了付近で牽引ロープの縮みを移行時間に応じて適切に考慮して加速を実行するので、トルク指令を用いたフィードバック系を構成せずとも、加速完了後のオーバーシュート・アンダーシュートを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明した本発明によれば、車両の速度が所定の速度から乖離する量を抑制できるだけでなく、この速度乖離(目標牽引速度に対して、車両の実牽引速度が上振れまたは下振れすること)によって生じる振動が抑制され、車両や車両内に設置したダミー人形の姿勢も安定させることが可能な、車両衝突試験装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る車両衝突試験装置の模式的な構成説明図。
図2】牽引速度指令を示す図。
図3】牽引速度指令に対する実際の車速を示す図。
図4】第1実施形態の変形例を示す図。
図5】本発明の第2実施形態に係る車両衝突試験装置の模式的な構成説明図。
図6】第2実施形態の変形例を示す図。
図7】従来の車両衝突試験装置の模式的な構成説明図。
図8】牽引速度指令の実行基準となる車速線図および加速度線図。
図9】牽引速度指令を示す図。
図10】牽引速度指令に対する実際の車速を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
図1に示す車両衝突試験装置の基本構成は、図7に基づいて前述したと同様、牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、牽引ロープ1に係り合う複数のシーブ3と、ドラム2を駆動するモータ4と、モータ4の速度を検出するモータ速度検出手段4aと、検出されたモータ速度を換算部5aで実牽引速度に換算してフィードバックし、牽引速度指令Vrefとの偏差に基づき、PI制御部52を通じてモータ4にトルク指令Trを入力する制御手段5とを備える。
【0026】
そして、牽引ロープ1に断接切替手段6を介して車両7を接続し、車両7を走行路8上で走行させた後に断接切替手段6で車両7を切り離して、所定の速度で対象物9に衝突させて試験を行うように構成される。
【0027】
牽引ロープ1は無端状をなすもので、この実施形態では一端側に配置したドラム2と他端側に配置したリターンシーブ3Aに巻き掛けられ、中間部に配置した中間シーブ3Bが2か所で牽引ロープ1に係って同期回転しながら、ドラム2による巻き取り/繰り出しを通じて、エンドレスで循環するように構成される。
【0028】
モータ4には、各種の速度や加速度で牽引することを可能にために可変速モータ(直流電動機、インバータモータなど)や加減速装置を備えた定速モータが使用される。モータ4にはモータ速度検出部4aが設けられている。
【0029】
制御手段5は、記憶部5bから牽引速度指令Vrefを取り出して入力信号とするとともに、モータ速度検出部4aで検出されたモータ速度を換算部5aで実牽引速度に換算して加減算部51にフィードバックし、牽引速度指令Vrefとの偏差に基づき、PI制御部52を通じてモータ4にトルク指令Trを入力する。
【0030】
車両1には実際の車両のほかダミーの車両が用いられる。接続点Cには断接切替手段としてドーリー6が配置され、ドーリー6に連結用ワイヤ6aを介して車両7が接続される。走行路8に沿って走行した車両7は、ドーリー6が連結用ワイヤ6aの連結を解除することによって切り離され、その後に対象物9に衝突する。対象物9は、障害物や他の車両である。
【0031】
制御手段5は、図8に示した速度線図や車速線図に関するデータを記憶部5bに記憶し、これらのデータに基づいて牽引速度指令Vrefをなす。
【0032】
図8の速度線図及び車速線図に沿って、車両7を限られた長さの走行路8内で所定の高速度まで加速するために、加速序盤で加速度を所定値まで立ち上げ、加速中盤で一定加速度を保った後、加速終盤で車両の切り離し点の手前まで速度が落ちないように加速して、基本加速時間A内で加速を完了するように、各種条件が設定されて記憶5bに記憶されている。その際、牽引中における車両7の挙動を安定させるため、加速序盤及び加速終盤に丸み制御領域を設け、急激な加減速を避ける制御が行われる。
【0033】
具体的には、序盤の加速度域t1で加速度を所定値まで立ち上げ、中盤の定加速度域t2で一定加速度を保った後、終盤の加速度域t3で車両の切り離し位置Pの手前まで速度が落ちないように加速して、全体として図8図9に示すようなS字を描く加速ラインに沿った加速制御が行われる。
【0034】
このような構成において、前述したように車両7を限られた長さの走行路8内で所定の高速度まで加速しなければならないので、加速度は大きく、牽引ロープ1はバネ定数を有することによって加速中に大きく引き伸ばされ、車両7の速度が所定の目標速度に近づき、その速度に正しく合わせるために加速度を低減する際、モータ4の駆動力が低下するために引き伸ばされていた状態から収縮する。さらに、縮み過ぎると今度は元に戻り、再び伸びようとする。
【0035】
このため、図1に示すドラム2の位置では牽引ロープ1は所定の牽引速度で牽引されている場合でも、牽引ロープ1の伸び縮みによって、ドーリー6の位置で牽引ロープ1に接続された車両7の速度とモータ4の速度(ドラム2の位置での実牽引速度)との間に乖離が発生し、図9の牽引速度指令に対して、図10に示したように実際の車速(実測値)は加速完了後にオーバーシュート・アンダーシュートしながら振動して、車両7の切り離し位置Pで車速が所定の速度から乖離するという問題が生じる。
【0036】
このうち、特に牽引速度への影響が大きいのは終盤の加速度域t3、すなわち図2に示す加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近Zである。そこで本実施形態は、この加速完了付近Zにおいて、モータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度を負荷量を減じる方向に補正する制御を行うようにしている。
【0037】
具体的に制御手段5は、予め設定されている図8の加速度線図等により加速終盤が到来したと判断すると(すなわち図2の牽引速度指令線図において加速完了付近Zが到来したと判断すると)、それまで行っていた、モータ速度を牽引速度指令Vrefに帰還するフィードバック制御に加えて、トルク指令Trを速度補正量演算部53に入力して牽引速度補正量ΔVを算出し、この牽引速度補正量ΔVに基づいて前記牽引速度指令Vrefを補正する制御を行うようにしている。一例としては、ΔV=k・Tr(kは比例定数)とすることが挙げられる。
【0038】
トルク指令Trはモータ負荷に等しく、モータ負荷は牽引ロープ1の張力Tに等しいので、トルク指令Trが大きいほど牽引ロープ1は伸びた状態にあり、加速完了後に張力Tが抜けたときに縮む量も多くなる。そこで、トルク指令Trに応じた牽引速度補正量ΔVを牽引速度指令Vrefから減じる制御を行うことで、張力Tすなわち牽引ロープ1の伸び量ΔLを減じている。
【0039】
以上のように、本実施形態の車両衝突試験装置は、牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、ドラム2を駆動するモータ4と、牽引速度指令Vrefに基づきモータ4にトルク指令Trを入力する制御する制御手段5とを具備し、牽引ロープ1に断接切替手段であるドーリー6を介し車両7を接続して衝突試験を行うものにおいて、制御手段5は、加速完了付近Zの所定タイミングで、モータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度指令Vrefを負荷量を減じる方向に補正するものである。
【0040】
オーバーシュートは、加速が終わった後に牽引ロープ1が縮むときに起こるが、このようにすると、制御手段5は、加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近Zにおいて牽引速度指令Vrefに負荷量に応じた補正を掛けることができるため、加速から一定速度へ移行する際に牽引ロープ1の縮みの影響で車速がオーバーシュートし、その後の伸び縮みの影響でオーバーシュート・アンダーシュートする振動を抑制するように動作し、結果的に車両7の速度が所定の速度から乖離する量を抑制することができる。
【0041】
また、この速度乖離(目標牽引速度に対して、車両7の実牽引速度が上振れまたは下振れすること)によって生じる振動が抑制され、車両7の姿勢を安定させて、加速完了付近Zでの車両1の左右・前後ピッチの挙動変動、車両7に搭載した計測用ダミー人形の位置ズレ、などを抑制することで、衝突試験に係る収集データの精度を向上させることも可能となる。
【0042】
具体的には、トルク指令Trから牽引速度補正量ΔVを算出し、この牽引速度補正量ΔVに基づいて牽引速度指令Vrefを補正するようにしている。
【0043】
このようにすると、現に牽引ロープ1にどの程度の伸びがあるかをトルク指令Trから検出することができるので、加速完了付近Zで伸び量ΔLに応じた速度補正をリアルタイムに行うことで、加速完了後の牽引ロープ1の振動を未然に抑えることができる。しかもこの制御によれば、車両の重量や試験距離などの条件を予め設定しておく必要がない。
【0044】
(変形例)
次に、図1の変形例である図4について説明する。
【0045】
この変形例は、基本的には図1の第1実施形態と同様、牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、ドラム2を駆動するモータ4と、牽引速度指令Vrefに基づきモータ4にトルク指令を入力する制御する制御手段5とを具備し、牽引ロープ1に断接切替手段であるドーリー6を介し車両7を接続して衝突試験を行うものである。
【0046】
そして、制御手段5が加速完了付近Zの所定タイミングでモータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度指令Vrefを負荷量を減じる方向に補正する方法として、牽引ロープにどの程度の伸びがあるかをトルク指令Trから検出するのではなく、記憶部5bに記憶した牽引条件毎の牽引速度指令Vrefの事前設定値Vref´を用いて牽引速度指令をなすようにしている。
【0047】
定量的に最初から車両7の重量や牽引する距離等の牽引条件が決まっていれば、どれだけ加速すれば加速完了付近Zで牽引ロープ1がどれだけ縮んで車両がどの程度の速度に達するかがわかる。そこで、加速完了付近で牽引ロープ1が縮む過程(目標牽引速度に対して車両の実牽引速度は上振れ)を考慮した牽引速度となるように、図2の牽引速度指令Vrefを修正し、事前設定値Vref´として図2のような速度指令線図や適宜のマップ等の形で記憶部5bに記憶している。制御手段5は、この事前設定値Vref´とモータ速度から換算してフィードバックした実牽引速度に基づいてモータ4を制御している。
【0048】
このようにすると、牽引速度指令Vref´自体が加速完了付近Zで牽引ロープ1の縮みを考慮して加速を実行するので、トルク指令Trを用いたフィードバック系を構成せずとも、加速完了後のオーバーシュート・アンダーシュートを抑制することができる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を図5に基づいて説明する。
【0050】
この実施形態は、基本的には図1の第1実施形態と同様、牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、ドラム2を駆動するモータ4と、牽引速度指令Vrefに基づきモータ4にトルク指令を入力する制御する制御手段5とを具備し、牽引ロープ1に断接切替手段であるドーリー6を介し車両7を接続して衝突試験を行うものである。
【0051】
そして、制御手段5が加速完了付近Zの所定タイミングで、モータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度指令Vrefを負荷量を減じる方向に補正する方法として、ここでもトルク指令Trを速度補正量演算部53に入力して牽引速度補正量ΔVを算出し、この牽引速度補正量ΔVに基づいて牽引速度指令Vrefを補正している。
【0052】
但し、トルク指令Trをフィードバックするだけでは時間軸に積分の概念がないため、速度補正が急峻又は緩慢になり易い。そこで、車両7の重量や走行距離、図2の牽引指令線図などを含めて記憶部5bに予め記憶してある牽引条件設定値を用いて移行時間演算部54で加速完了付近Zすなわち加速から一定速度への移行時間Δt(図2参照)を演算し、速度補正量演算部53においてこれらトルク指令Trと前記移行時間Δtとに基づいて牽引速度補正量V´を算出して、牽引速度指令Vrefを補正するようにしている。一例としては、dV´/dt=k・Tr/Δt(kは係数)である。
【0053】
これにより、例えば移行時間Δtに余裕があるときはそれに応じた丸み制御になり、移行時間Δtが短いときはその移行時間Δt内で速度補正を迅速に終えることになる。
【0054】
このようにすると、制御手段5は、加速から一定速度への牽引に移行する加速完了付近Zにおいて、牽引速度指令Vrefに加速から一定速度への牽引に移行する移行時間Δtとモータ4の負荷量に応じた補正を掛けることができるため、加速から一定速度へ移行する際に牽引ロープ1の縮みの影響で車速がオーバーシュートし、その後の伸び縮みでオーバーシュート・アンダーシュートする振動を移行時間Δtに応じて適切に抑制するように動作し、結果的に車両7の速度が所定の速度から乖離する量を抑制することができる。
【0055】
(変形例)
次に、図5の変形例である図6について説明する。
【0056】
この実施形態は、基本的には図5の第2実施形態と同様、牽引ロープ1と、この牽引ロープ1を牽引するドラム2と、ドラム2を駆動するモータ4と、牽引速度指令Vrefに基づきモータ4にトルク指令を入力する制御する制御手段5とを具備し、牽引ロープ1に断接切替手段であるドーリー6を介し車両7を接続して衝突試験を行う。
【0057】
そして、制御手段5が加速完了付近Zの所定タイミングで、モータ4の負荷量に応じてモータ4の牽引速度指令Vrefを負荷量を減じる方向に補正する方法として、牽引ロープにどの程度の伸びがあるかをトルク指令Trから検出するとともに、移行時間演算部54で移行時間Δtを算出し、このトルク指令Trと移行時間Δtとに基づき牽引速度補正量V´を算出して牽引速度指令Vrefを補正するのではなく、記憶部5bに記憶した牽引条件毎の牽引速度指令Vrefの事前設定値Vref´´を用いて牽引速度指令をなすようにしている。
【0058】
定量的に最初から車両7の重量や牽引する距離等の牽引条件が決まっていれば、どれだけ加速すれば加速完了付近Zで牽引ロープ1がどれだけ縮んで車両がどの程度の速度に達するかがわかる。そこで、移行時間Δtを考慮して、加速完了付近Zで牽引ロープ1が縮む過程(牽引速度指令に対して車両の実牽引速度は上振れ)を考慮した牽引速度となるように、図2の牽引速度指令を修正し、事前設定値Vref´´として、図2のような牽引速度指令線図や適宜のマップ等の形で記憶部5bに記憶している。制御手段5は、この事前設定値Vref´´を用いて牽引速度指令をなすようにしている。
【0059】
このようにすると、牽引速度指令の事前設定値Vref´´自体が加速完了付近Zで牽引ロープ1の縮みを移行時間Δt内に適切に考慮して加速を実行するので、トルク指令Trを用いたフィードバック系を構成せずとも、加速完了後のオーバーシュート・アンダーシュートをより適切に抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0061】
例えば、上記実施形態では1つのドラム2と複数のシーブ3(3A、3B)の間に牽引ロープ1を張設したが、一対の巻き取り/繰り出しドラムと折り返しのリターンシーブの間に牽引ロープを巻き掛けて、一方のドラムの駆動によってドーリーを介して車両の牽引、切り離しを行い、他方のドラムの駆動によってドーリーを元の位置に戻すように構成して、ドラムにモータを接続し、制御手段で制御するようにしても構わない。
【0062】
また、上記実施形態の牽引ロープは長円状に張られているが、レイアウトによっては途中に配置した中間シーブで曲がった状態で張られるなど、張設の形態やシーブの個数は限定されない。
【0063】
また、上記実施形態では制御手段はPI制御を採用しているが、P制御であってもPID制御であっても構わない。
【0064】
また、上記実施形態では牽引ロープは無端状に張られていたが、有端状であっても構わない。
【0065】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…牽引ロープ
2…ドラム
4…モータ
5…制御手段
6…断接切替手段(ドーリー)
7…車両
Tr…トルク指令
Tref´…事前設定値
Tref´´…事前設定値
Vref…牽引速度指令
ΔV…牽引速度補正量
V´…牽引速度補正量

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10