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特開2023-123164酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123164
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/02 20210101AFI20230829BHJP
   H10N 10/13 20230101ALI20230829BHJP
   H10N 10/17 20230101ALI20230829BHJP
   G01K 17/06 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
G01K7/02 Z
H01L35/30
H01L35/32 A
G01K17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027068
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】安達 真樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056YF00
(57)【要約】
【課題】 格子熱伝導率が低い酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子を提供すること。
【解決手段】酸窒化物絶縁体材料は、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルである。
また、熱流スイッチング素子は、N型半導体層3と、N型半導体層上に積層された絶縁体層4と、絶縁体層上に積層されたP型半導体層5とを備え、絶縁体層が、上記酸窒化物絶縁体材料で形成されている。なお、Teの組成比が、7at%以上21at%以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであることを特徴とする酸窒化物絶縁体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の酸窒化物絶縁体材料において、
前記Teの組成比が、7at%以上21at%以下であることを特徴とする酸窒化物絶縁体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸窒化物絶縁体材料において、
熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満であることを特徴とする酸窒化物絶縁体材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の酸窒化物絶縁体材料において、
電気抵抗率1010Ωcm以上であることを特徴とする酸窒化物絶縁体材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の酸窒化物絶縁体材料において、
低熱伝導材料として用いられることを特徴とする酸窒化物絶縁体材料。
【請求項6】
N型半導体層と、
前記N型半導体層上に積層された絶縁体層と、
前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備え、
前記絶縁体層が、請求項1から5のいずれか一項に記載の酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱流スイッチング素子において、
最上面に設けられた上部高熱伝導部と、
最下面に設けられた下部高熱伝導部と、
前記N型半導体層,前記絶縁体層及び前記P型半導体層の外周縁を覆って設けられた外周断熱部とを備え、
前記外周断熱部が、前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部よりも熱伝導性の低い前記酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項8】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材上に形成されたP型の熱電変換部及びN型の熱電変換部と、
前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部とを接続する接続電極部と、
前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部との表面を覆う絶縁体とを備え、
前記絶縁体が、請求項1から5のいずれか一項に記載の酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする熱電変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の熱電変換素子において、
前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部と前記絶縁体とが、膜状であることを特徴とする熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い格子熱伝導率を有する酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイアス電圧によって熱伝導率を能動的に変化させる熱流スイッチとして、例えば非特許文献1には、電気的絶縁性を示すポリイミドテープを2枚の半導体材料:Ag0.6Se0.4で挟み込んで電場を印加することで熱伝導度を変化させる熱流スイッチング素子が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松永卓也、他4名、「バイアス電圧で動作する熱流スイッチング素子の作製」、第15回日本熱電学会学術講演会、2018年9月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
非特許文献1に記載の技術では、電圧を印加することで、半導体材料と絶縁体材料との界面に熱伝導可能な電荷を生成し、その電荷によって熱を運ぶことができるため、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、比較的良好な熱応答性を得ることができる。しかしながら、この外部電場(外部電圧)に応じて材料界面起因の熱伝導を変化させ、素子全体の熱伝導の変化量を増大させるためには、ゼロバイアスで、素子を構成する材料固有の熱伝導率を小さくする必要がある。熱伝導率は、熱浸透率の2乗に比例する関数であり、ゼロバイアスで、素子を構成する材料固有の熱浸透率を小さくする必要がある。ゼロバイアス時の、材料固有の熱伝導率は、格子熱伝導率と電子熱伝導率との和(足し算)で表される。
熱伝導率=格子熱伝導率+電子熱伝導率
【0005】
格子熱伝導は、結晶格子間を伝わる振動(フォノン、格子振動)による熱伝導である。また、電子熱伝導は、伝導電子による熱伝導であり、一般的に電気伝導率が増加すると電子熱伝導率が増加する傾向がある。このうち、半導体の電子熱伝導率については、半導体の導電性を維持するため、ゼロバイアス時の材料固有の電子熱伝導率は、トータルの熱伝導を大きくしない程度に、適当な値に調整する必要がある。なお、絶縁体材料は電子熱伝導を有しない。一方、格子熱伝導率については、小さいほど好ましい。低い格子熱伝導率を有する材料であると、ゼロバイアスでの素子全体の熱伝導率を下げることができるため、外部電場に応じた界面起因の熱伝導率の変化率を大きく、素子全体としての熱流スイッチ性能を向上させることができる。そのため、格子熱伝導率が低いことに由来する低熱伝導性(低熱浸透性)半導体材料と絶縁体材料とを用いることが要望されている。また、熱流スイッチ素子の耐熱性向上のため、構成材料として窒化物材料を用いることが望まれている。
また、熱電変換素子において、熱電変換部の表面からの熱の放出が抑制され、高温側と低温側との温度差を十分に確保するため、格子熱伝導率が低く、高い断熱性能を有する絶縁体材料を用いることが望まれている。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、格子熱伝導率が低い酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る酸窒化物絶縁体材料は、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであることを特徴とする。
この酸窒化物絶縁体材料では、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであるので、Si-N(窒化ケイ素)やSi-O(酸化ケイ素)に比べて大幅に低い熱伝導率を得ることができる。
この酸窒化物絶縁体材料では、Teを添加したことにより、材料内に重元素を含む結合が生成されたことに加えて、酸窒化物、テルル化物としたことで、複合アニオン効果が得られ、材料内のフォノン散乱が増大し、熱伝導率が低減されたと考えられる。
【0008】
第2の発明に係る酸窒化物絶縁体材料は、第1の発明において、前記Teの組成比が、7at%~21at%であることを特徴とする。
すなわち、この酸窒化物絶縁体材料では、前記Teの組成比(Si,N,O,Teの原子割合の合計を100at%としたときの前記Teの原子割合)が、7at%以上21%at%以下であるので、1200Ws0.5/mK未満の低い熱浸透率を得ることができる。
【0009】
第3の発明に係る酸窒化物絶縁体材料は、第1又は第2の発明において、熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満であることを特徴とする。
すなわち、この酸窒化物絶縁体材料では、熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満であるので、Si-NやSi-Oよりも低い熱伝導率が得られる。
なお、熱浸透率が100Ws0.5/mK以上であることが好ましい。
【0010】
第4の発明に係る酸窒化物絶縁体材料は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、電気抵抗率1010Ωcm以上であることを特徴とする。
すなわち、この酸窒化物絶縁体材料では、電気抵抗率1010Ωcm以上であるので、膜厚100nmの酸窒化物絶縁体材料に対して、膜厚方向に10Vの電圧印加で1μA/mm未満の電流しか流れない絶縁性が得られる。
【0011】
第5の発明に係る酸窒化物絶縁体材料は、第1から第4の発明のいずれかにおいて、低熱伝導材料として用いられることを特徴とする。
すなわち、この酸窒化物絶縁体材料では、低い熱浸透率が得られるため、熱流スイッチング素子や熱電変換素子等に用いる低熱伝導性絶縁材料用に好適である。
【0012】
第6の発明に係る熱流スイッチング素子は、N型半導体層と、前記N型半導体層上に積層された絶縁体層と、前記絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備え、前記絶縁体層が、第1から第5の発明のいずれかの酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、N型半導体層と、N型半導体層上に積層された絶縁体層と、絶縁体層上に積層されたP型半導体層とを備えているので、N型半導体層とP型半導体層とに外部電圧を印加すると、P型半導体層及びN型半導体層と絶縁体層との主に界面に電荷が誘起され、この電荷が熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。
特に、絶縁体層が、第1から第5の発明のいずれかの酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、格子熱伝導率が低い絶縁性層により、格子熱伝導率が低く熱浸透率が低くなり、熱伝導率の変化率を外部電場(外部電圧)により大きくすることができる。
【0013】
熱流スイッチ性能である電圧印加後の熱伝導率の上昇率Δkは、以下の式にて評価される。
Δk=k(V)/k(0)-1
Δk=b(V)/b(0)-1
k(V):電圧印加時の熱伝導率(W/mK)
k(0):電圧印加なしの熱伝導率(W/mK)
b(V):電圧印加時の熱浸透率(Ws0.5/mK)
b(0):電圧印加なしの熱浸透率(Ws0.5/mK)
上記の外部電圧で変化する界面起因の熱伝導率を、「第3熱伝導率」と定義し、外部電圧で変化しない材料固有の熱伝導率(格子熱伝導率と電子熱伝導率との足し算)と便宜上、区別する。
【0014】
k(V)=半導体の電子熱伝導率+半導体の格子熱伝導率+絶縁体の格子熱伝導率+第3熱伝導率
k(0)=半導体の電子熱伝導率+半導体の格子熱伝導率+絶縁体の格子熱伝導率
となり、熱流スイッチ性能を向上するには、電子熱伝導率、格子熱伝導率が小さい材料を選択することが好ましい。このうち、半導体の電子熱伝導については、半導体の導電性を維持するため、ゼロバイアス時の材料固有の電子熱伝導率は、トータルの熱伝導を大きくしない程度に、適当な値に調整する必要がある。一方、格子熱伝導率については、低い格子熱伝導率を有する材料であると、k(0)を小さくし、ゼロバイアスでの素子全体の熱伝導率を下げることができるため、熱伝導率は格子熱伝導率が低いほど、ゼロバイアスからの外部電場に応答する電子熱伝導率の寄与が大きくなり、外部電場に応じた熱伝導率の変化率が大きくなって熱流スイッチ性能が向上する。
【0015】
なお、N型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍と、P型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍との両方で電荷が生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、化学反応機構を用いない、物理的に熱伝導率を変化させる機構であるので、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、良好な熱応答性を得ることができる。
また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となるので、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
なお、絶縁体層が絶縁体であり、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
【0016】
第7の発明に係る熱流スイッチング素子は、第6の発明において、最上面に設けられた上部高熱伝導部と、最下面に設けられた下部高熱伝導部と、前記N型半導体層,前記絶縁体層及び前記P型半導体層の外周縁を覆って設けられた外周断熱部とを備え、前記外周断熱部が、前記上部高熱伝導部及び前記下部高熱伝導部よりも熱伝導性の低い前記酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、外周断熱部が、上部高熱伝導部及び下部高熱伝導部よりも熱伝導性の低い前記酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、面内方向への熱流を抑制でき、積層方向に熱流スイッチ性を得ることができる。特に、各層の外周にN側電極及びP側電極が配されている場合、これら電極への熱の流入を熱伝導性の低い外周断熱部により極力抑えることができる。
【0017】
第8の発明に係る熱電変換素子は、絶縁性基材と、前記絶縁性基材上に形成されたP型の熱電変換部及びN型の熱電変換部と、前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部とを接続する接続電極部と、前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部との表面を覆う絶縁体とを備え、前記絶縁体が、第1から第5の発明のいずれかの酸窒化物絶縁体材料で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換素子では、絶縁体が、第1から第5の発明のいずれかの酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、熱伝導率が小さい酸窒化物絶縁体材料の絶縁体で、熱電変換部の表面が覆われていることで、熱電変換部の表面からの熱の放出が抑制され、高温側と低温側との温度差を十分に確保することができる。
【0018】
第9の発明に係る熱電変換素子は、第8の発明において、前記P型の熱電変換部と前記N型の熱電変換部と前記絶縁体とが、膜状であることを特徴とする。
すなわち、この熱電変換素子では、P型の熱電変換部とN型の熱電変換部と絶縁体とが、膜状であるので、全体の薄型化を図ることができる。
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る酸窒化物絶縁体材料によれば、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであるので、Si-N(窒化ケイ素)やSi-O(酸化ケイ素)に比べて大幅に低い熱伝導率を得ることができる。
したがって、本発明の酸窒化物絶縁体材料は、電気的かつ熱的なバリア材料(絶縁材料かつ断熱材料)として好適である。
また、本発明の熱流スイッチング素子では、絶縁性層が、上記本発明の酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、格子熱伝導率が低い絶縁性層により、外部電場に応じた熱伝導率の変化率が大きくなって熱流スイッチ性能が向上する。
また、本発明の熱電変換素子では、絶縁体が、上記本発明の酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、格子熱伝導率が低い絶縁体により、熱電変換部の表面からの熱の放出が抑制され、高温側と低温側との温度差を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る第1実施形態において、熱流スイッチング素子を示す斜視図である。
図2】第1実施形態において、熱流スイッチング素子の原理を説明するための概念図である。
図3】本発明に係る第2実施形態において、熱流スイッチング素子を示す断面図である。
図4】本発明に係る第3実施形態において、熱電変換素子を示す斜視図である。
図5】本発明に係る第4実施形態において、熱電変換素子を示す断面図である。
図6】本発明に係る実施例において、絶縁性評価試験の配置を示す説明図である。
図7】本発明に係る実施例において、実施例5を示す断面SEM画像である。
図8】本発明に係る実施例において、実施例5を示すTEM画像である。
図9】本発明に係る実施例において、実施例5を示す電子線回折パターン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子における第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0022】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、図1及び図2に示すように、N型半導体層3と、N型半導体層3上に積層された絶縁体層4と、絶縁体層4上に積層されたP型半導体層5とを備えている。
さらに、本実施形態の熱流スイッチング素子1は、N型半導体層3に接続されたN側電極6と、P型半導体層5に接続されたP側電極7とを備えている。
【0023】
上記絶縁体層4は、低熱伝導材料の酸窒化物絶縁体材料であって、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルである。
なお、本明細書では、結晶サイズが5nm以下であれば、非晶質の場合も含めてナノクリスタルと称している。
また、上記結晶サイズは、断面TEM画像で無作為に10点の結晶を選択し、それらの円相当径の平均値で求めている。
【0024】
また、上記N型半導体層3及びP型半導体層5は、低熱伝導材料の窒化物半導体材料であって、例えばA-Si-N-Te(但し、Aは遷移金属元素の少なくとも1種を示し、Teは任意元素である。)で示される金属窒化物であり、ナノクリスタルである。
すなわち、上記金属窒化物は、Cr-Si-N,Mn-Si-N,Ni-Si-N,Mo-Si-N,W-Si-N,Cr-W-Si-N,Cr-Si-N-Te,W-Si-N-Teなどである。
【0025】
これらの成膜方法は、スパッタリング法、分子線エピタキシー法(MBE法)等、各種成膜手法が採用される。
スパッタリング法については、スパッタリング装置にて、様々な組成比のターゲットを用いて、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、スパッタガス圧、窒素ガス分圧等を変量し、上記金属窒化物を成膜することができる。
本実施形態では、Si-Nスパッタリングターゲットと、このターゲット上に載せたTeチップとを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って酸窒化物絶縁体材料である絶縁体層4を成膜している。
【0026】
また、この絶縁体層4には、成膜中の窒素含有雰囲気中に含まれるO(酸素)が含有される。
上記スパッタリングは、室温で行う。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5に直接電圧を印加可能な場合は、N側電極6及びP側電極7が不要である。
【0027】
また、本実施形態の熱流スイッチング素子1は、絶縁性の基材2を備え、基材2上にN側電極6が形成されている。すなわち、基材2上に、N側電極6,N型半導体層3,絶縁体層4,P型半導体層5及びP側電極7が、この順で積層されている。なお、基材2上に、上記と逆の順序で積層しても構わない。また、基材2自体を、P側電極7又はN側電極6としても構わない。
【0028】
上記N側電極6及びP側電極7には、外部電源Vが接続され、電圧が印加される。なお、図1における矢印は、電圧(電場)の印加方向を示している。
N型半導体層3及びP型半導体層5は、厚さ1μm未満の薄膜で形成されている。特に、絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷e(正電荷,負電荷)は、5~10nmの厚さ範囲で主に溜まるため、N型半導体層3及びP型半導体層5は、100nm以下の膜厚で形成されることがより好ましい。なお、N型半導体層3及びP型半導体層5は、5nm以上の膜厚が好ましい。
また、絶縁体層4は、40nm以上の膜厚が好ましく、絶縁破壊が生じない厚さに設定される。なお、絶縁体層4は、厚すぎると電荷eを運び難くなるため、1μm未満の膜厚とすることが好ましい。
【0029】
なお、図2中の、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、電子であり、白丸で表記されている。また、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、正孔であり、黒丸で表記されている。なお、正孔は、半導体の価電子帯の電子の不足によってできた孔であり、相対的に正の電荷を持っているように見える。
N型半導体層3及びP型半導体層5のN型,P型は、N(窒素)の含有量で設定している。なお、上記酸窒化物絶縁体材料にN型,P型を示す金属元素をドーパントとして添加することでもN型,P型を設定可能である。
上記基材2は、例えばガラス基板などが採用可能である。
上記N側電極6及び上記P側電極7は、例えばMo,Al等の金属で形成される。
【0030】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、図2に示すように、電場(電圧)印加により、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に熱伝導可能な電荷eを生成することで、生成した電荷eが熱を運んで熱伝導率が変化する。
【0031】
電場(電圧)印加により界面及びその近傍に生成した電荷により、より大きな熱伝導率変化を得るには、格子熱伝導率が小さい材料が適しており、本実施形態の上記酸窒化物絶縁体材料(絶縁体層4)は、格子熱伝導率が小さい、すなわち熱伝導率が小さい材料である。
また、上記定義した第3熱伝導率は、印加する外部電場(電圧)に応じて生成される電荷eの量に応じて増大する。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5と絶縁体層4との界面で電荷eが生成されることから、界面の総面積を増やすことで、生成する電荷eの量も増やすことができる。
【0032】
上記熱伝導率の測定方法は、例えば基板上に形成された薄膜試料をパルスレーザーで瞬間的に加熱し、薄膜内部への熱拡散による表面温度の低下速度あるいは表面温度の上昇速度を測定することにより、薄膜の膜厚方向の熱拡散率又は熱浸透率を求める方法であるパルス光加熱サーモリフレクタンス法により行う。なお、上記パルス光加熱サーモリフレクタンス法のうち、熱拡散を直接測定する方法(裏面加熱/表面測温(RF)方式)では、パルスレーザーが透過可能な透明基板を用いる必要があるため、透明基板でない場合は、熱浸透率を測定し、熱伝導率に換算する方式である表面加熱/測温(FF)方式で熱伝導率を測定する。なお、この測定には、金属膜が必要であり、Mo,Al等が採用される。
本実施形態では、表面加熱/測温(FF)方式で熱浸透率を測定している。
【0033】
本実施形態の熱流スイッチング素子1では、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍と、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍との両方で電荷eが生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、化学反応機構を用いない、物理的に熱伝導率を変化させる機構であるので、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、良好な熱応答性を得ることができる。
【0034】
また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となるので、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
なお、絶縁体層4が絶縁体であり、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
また、N型半導体層3とP型半導体層5とが窒化物である場合、絶縁体層4も窒化物であるため、P型半導体層及びN型半導体層と絶縁体層との界面の接合性が高くなる。
【0035】
このように本実施形態の酸窒化物絶縁体材料(絶縁体層4)では、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであるので、Si-N(窒化ケイ素)やSi-O(酸化ケイ素)に比べて大幅に低い熱伝導率を得ることができる。
この酸窒化物絶縁体材料では、Teを添加したことにより、材料内に重元素を含む結合が生成されたことに加えて、酸窒化物、テルル化物としたことで、複合アニオン効果が得られ、材料内のフォノン散乱が増大し、熱伝導率が低減されたと考えられる。
なお、構成元素のうちSiは、ナノクリスタル化(結晶サイズが5nmであり、非晶質を含む)させていると共に格子熱伝導率を低下させることが可能となり、熱浸透率を低下させることが可能となる。また、構成元素のうちNの含有量によって絶縁性が得られる。さらに、構成元素のうちTeは、さらに熱浸透率を低下させる効果を有する。
したがって、本実施形態の絶縁体層4は、電気的かつ熱的なバリア層として機能する。
【0036】
特に、本実施形態の酸窒化物絶縁体材料では、Teの組成比が、7at%~21at%であるので、1200Ws0.5/mK未満の低い熱浸透率を得ることができる。
また、熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満であるので、Si-NやSi-Oよりも低い熱伝導率が得られる。
さらに、電気抵抗率1010Ωcm以上であるので、膜厚100nmの酸窒化物絶縁体材料に対して、膜厚方向に10Vの電圧印加で1μA/mm未満の電流しか流れない絶縁性が得られる。
したがって、本実施形態の酸窒化物絶縁体材料では、より低い熱伝導性、すなわち、より高い断熱性を示すので、熱流スイッチング素子を構成する絶縁体層として、及び、熱電変換素子を構成する絶縁体層として、より好適である。
【0037】
本実施形態の熱流スイッチング素子1では、N型半導体層3と、N型半導体層3上に積層された絶縁体層4と、絶縁体層4上に積層されたP型半導体層5とを備えているので、N型半導体層3とP型半導体層5とに外部電圧を印加すると、P型半導体層5及びN型半導体層3と絶縁体層4との主に界面に電荷eが誘起され、この電荷eが熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。
【0038】
特に、絶縁体層4が、上記酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、ゼロバイアス時に、低い格子熱伝導率を有して低い熱浸透率を示す低熱伝導性が得られ、熱伝導率の変化率を外部電場(外部電圧)により大きくすることができる。すなわち、格子熱伝導率が低いほど、ゼロバイアスからの外部電場に応答する界面起因の熱伝導率の寄与が大きくなり、外部電場に応じた熱伝導率の変化率が大きくなって熱流スイッチ性能が向上する。
【0039】
次に、本発明に係る酸窒化物絶縁体材料及び熱流スイッチング素子と熱電変換素子の第2及び第3実施形態について、図3及び図4を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0040】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、N型半導体層3,絶縁体層4及びP型半導体層5が各1層ずつ積層されているのに対し、第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、図3に示すように、N型半導体層23とP型半導体層25とが絶縁体層24を挟んで交互に複数積層されている点である。
すなわち、第2実施形態では、基材22上に絶縁体層24をまず成膜し、その上にN型半導体層23とP型半導体層25とを、間に絶縁体層24を介在させながらこの順で繰り返し積層し、3層のN型半導体層23と3層のP型半導体層25と7層の絶縁体層24との積層体を構成している。
【0041】
各N型半導体層23は、それぞれ基端部に設けられたN側連結部23aに接続され、さらにN側連結部23aの一部にN側電極26が形成されている。また、各P型半導体層25は、それぞれ基端部に設けられたP側連結部25aに接続され、さらにP側連結部25aの一部にP側電極27が形成されている。
上記各層は、メタルマスクを用いてパターン形成されている。なお、メタルマスクの位置をずらして成膜することで、N型半導体層23とP型半導体層25と絶縁体層24を複数積層している。
また、N側電極26及びP側電極27には、それぞれリード線26a,27aが接続されている。
【0042】
このように第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、N型半導体層23とP型半導体層25とが絶縁体層24を挟んで交互に複数積層されているので、外部電圧により、積層されて増えた上記界面に応じて生成される電荷eも増え、より熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とが得られる。
【0043】
また、第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、最上面に設けられた上部高熱伝導部28と、最下面に設けられた下部高熱伝導部である基材22と、N型半導体層23,絶縁体層24及びP型半導体層25の外周縁を覆って設けられた外周断熱部29とを備え、外周断熱部29が、上部高熱伝導部28及び下部高熱伝導部である基材22よりも熱伝導性の低い上記酸窒化物絶縁体材料で形成されている点である。
【0044】
すなわち、上記外周断熱部29は、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルである。
なお、絶縁体層24も、外周断熱部29と同様に、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルであることが好ましい。
また、上部高熱伝導部28は、シリコン系樹脂(シリコーン)等の高熱伝導材料で形成されていると共に、下部高熱伝導部である基材22はアルミナ等で形成された高熱伝導基板が採用される。
【0045】
外周断熱部29は、最上部の絶縁体層24の部分を露出させた状態でその周りを覆っており、上部高熱伝導部28は、露出した最上部の絶縁体層24に接触するように上部に形成されている。
なお、外周断熱部29は、各層の外周に配されリード線26a,27aに接続されたN側電極26及びP側電極27も覆って形成されている。
【0046】
第2実施形態の場合、熱流方向が積層方向(図3中の矢印方向)となり、例えば、上部高熱伝導部28側が高温側となると共に、下部高熱伝導部である基材22側が低温側となる。熱流方向は積層方向であれば、上部高熱伝導部28側が低温側となると共に、下部高熱伝導部である基材22側が高温側でもよい。
このように第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、外周断熱部29が、最上面の上部高熱伝導部28及び最下面の下部高熱伝導部である基材22よりも熱伝導性の低い酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、N型半導体層23,絶縁体層24及びP型半導体層25の全体を熱流の経路としながら、熱伝導率の変化しない外周断熱部29を経由して熱が流れることを抑制できるので、積層方向に熱流スイッチ性を得ることができる。
【0047】
次に、第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態は、熱流スイッチング素子であるのに対し、第3実施形態は、図4に示すように、熱電変換素子31である。
すなわち、第3実施形態の熱電変換素子31は、絶縁性基材32と、絶縁性基材32上に形成されたP型の薄膜熱電変換部33p及びN型の薄膜熱電変換部33nと、P型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとを接続する接続電極部34と、接続されたP型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとの端部に形成された一対の電極端子部35と絶縁性基材32とP型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nと接続電極部34との表面を覆う絶縁体膜39とを備えている。
【0048】
上記絶縁体膜39は、第1実施形態と同様の上記酸窒化物絶縁体材料で形成されている。すなわち、絶縁体膜39は、Si-N-O-Teで示される酸窒化物であり、ナノクリスタルである膜である。
【0049】
上記P型の薄膜熱電変換部33p及びN型の薄膜熱電変換部33nの少なくとも一方は、窒化物熱電変換材料で形成されている。
例えば、上記窒化物熱電変換材料は、一般式:(Cr1-x1-y(但し、MはTi,V,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Si,Al,B及びYのうち少なくとも1種を示す。0≦x<1.0、0.40≦y<0.54)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、立方晶のNaCl型(空間群Fm-3m(No.225))であり、P型又はN型の熱電特性を有する。
【0050】
なお、本実施形態では、P型の薄膜熱電変換部33p及びN型の薄膜熱電変換部33nの両方を上記窒化物熱電変換材料で形成しているが、P型の薄膜熱電変換部を有機材料の熱電材料(プリンテッド材料)で形成し、N型の薄膜熱電変換部33nを上記窒化物熱電変換材料で形成しても構わない。
【0051】
P型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとは、複数の線状又は帯状に形成され、互いに平行に延在すると共に交互に並んで配されている。また、隣接するP型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとの端部が、接続電極部34で接続され、全体が複数回折り返された一本の薄膜熱電変換部となっており、両端部に一対の電極端子部35が形成されている。
【0052】
上記接続電極部34と電極端子部35とは、AgやAg合金等でパターン形成されている。
一対の電極端子部35には、リード線36が接続され、リード線36が電源37に接続されている。
【0053】
上記絶縁性基材32は、熱伝導率の小さい材料で形成されていることが好ましく、例えば絶縁性フィルム又はガラス等が採用可能である。上記絶縁性フィルムとして、例えばポリイミド樹脂シートで形成されたものが採用される。なお、絶縁性フィルムとしては、他にLCP:液晶ポリマー、PET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも構わない。また、上記ガラス基板は、例えば無アルカリガラス、アルカリガラス板、ガラスフィルム等が採用可能である。
【0054】
上記絶縁性基材32に絶縁性フィルムを採用した場合、シート型の熱電変換素子31となる。例えば、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱輸送を行うシート型のペルチェ素子(冷却素子)、熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、温度差発電を行うシート型のゼーベック素子(熱電発電素子)、熱電対の原理を応用した赤外線センサとなるシート型のサーモパイル等とすることができる。
【0055】
このように第3実施形態の熱電変換素子31では、絶縁体膜39が、上記酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、熱伝導率が小さい酸窒化物絶縁体材料の絶縁体膜39で表面が覆われていることで、P型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nの表面からの熱の放出が抑制され、高温側と低温側との温度差を十分に確保することができる。
また、P型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとが窒化物である場合、絶縁体膜39も窒化物であるため、P型の薄膜熱電変換部33p及びN型の薄膜熱電変換部33nと絶縁体膜39との界面の接合性が高くなる。
【0056】
次に、第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、P型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nと絶縁体膜39とがいずれも膜状であるのに対し、第4実施形態の熱電変換素子41A,41Bでは、図5の(a)(b)に示すように、P型の熱電変換部43pとN型の熱電変換部43nと絶縁体49とが膜状ではなく、いずれもバルクである点である。
【0057】
また、第3実施形態では、隣接するP型の薄膜熱電変換部33pとN型の薄膜熱電変換部33nとの端部が、同一平面上で接続電極部34で接続され、全体が複数回折り返された一本の薄膜熱電変換部となっているのに対し、第4実施形態では、隣接するバルクのP型の熱電変換部43pとN型の熱電変換部43nとの端部が、上下の接続電極部44で接続され、全体が縦断面上で複数回折り返された連続した熱電変換部となっている。
【0058】
本実施形態では、P型の熱電変換部43pとN型の熱電変換部43nとの両側面に、上記酸窒化物絶縁体材料で形成されたバルクの絶縁体49が接合されて側面(表面)が覆われている。
上記P型の熱電変換部43pとN型の熱電変換部43nと絶縁体49と接続電極部44とは、絶縁性基板42A,42B間に挟まれた状態で設けられている。
【0059】
なお、図5の(a)に図示されている熱電変換素子41Aでは、P型の熱電変換部43pの側面に接合されている絶縁体49と、N型の熱電変換部43nの側面に接合されている絶縁体49とが、互いに接触している。これに対して、図5の(b)に図示されている熱電変換素子41Bでは、P型の熱電変換部43pの側面に接合されている絶縁体49と、N型の熱電変換部43nの側面に接合されている絶縁体49とが、互いに離間して接触していない。
【0060】
このように第4実施形態の熱電変換素子41,41Bでは、絶縁体49が、上記酸窒化物絶縁体材料で形成されているので、熱伝導率が小さい酸窒化物絶縁体材料の絶縁体49で表面(側面)が覆われていることで、バルクで構成されていても、表面からの熱の放出が抑制され、高温側と低温側との温度差を十分に確保することができる。
【実施例0061】
上記第1実施形態に基づいて以下の表1に記載の材料(Si-N-O-Te(表1中のSiNOTe))をガラス基板(表面SiO)上に窒素含有雰囲気中の反応性スパッタで成膜した本発明の実施例について、その結晶組織,熱浸透率及び電気抵抗率について測定した。その結晶組織及び熱浸透率の結果を表1に示す。
なお、各実施例の組成は、窒素分率(N/(Ar+N))を変えると共に、Si/(Si+N+O+Te)比を変えて設定した。
組成分析は、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。XPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Si+N+O+Te)の定量精度は±2%、Si/(Si+N+O+Te)の定量精度は±1%ある。
【0062】
また、比較例として、Al-N(表1中のAlN),HfO,Si-N(表1中のSiN),Si-O(表1中のSiO),Si-N-O(表1中のSiNO)を成膜したものについても、その熱浸透率及び電気抵抗率について測定した。その結晶組織及び熱浸透率の結果も表1に示す。
スパッタには、マグネトロンスパッタ装置を用い、ガラス基板(表面SiO)(20×20×0.5mm)上にRF法で酸窒化物絶縁体材料膜を200nm成膜し、得られた膜上にMoを100nmスパッタリングして素子とした。
なお、上記スパッタ後の酸窒化物絶縁体材料膜の表面粗さRaは、いずれも2nm未満と小さかった。表面粗さRaは、X線反射率測定を用いて評価した。
【0063】
上記熱浸透率は、パルス光加熱サーモリフレクタンス法のFF方式(表面加熱/表面測温)にて測定した(薄膜熱物性測定装置:ピコサーム社PicoTRを使用)。測定は室温で行った。
熱伝導率は、以下の式により熱浸透率から計算される。
熱伝導率k=(熱浸透率b)/体積熱容量
=(熱浸透率b)/(比熱×密度)
【0064】
【表1】
【0065】
これらの結果から、本発明の各実施例は、いずれも熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満の低熱伝導材料であった。なお、比較例は、いずれも熱浸透率が1500Ws0.5/mK以上であった。
なお、本発明の各実施例の電気抵抗率は、1010Ωcm以上であり、高い絶縁性を示した。
この電気抵抗率の測定(絶縁性評価試験)は、図6に示す配置で行った。測定は室温で行った。すなわち、Si基板11上に本発明の酸窒化物絶縁体材料であるSi-N-O-Te薄膜(100mm)12を成膜し、さらにその上にMo電極13を50nm成膜した状態で、Si基板11とMo電極13との間に高電圧ソースメータを用いて電圧を印加し、その際の電流値に基づいて電気抵抗率を求めた。ここで、Si-N-O-Te薄膜(100mm)12は、Mo電極13に対して100倍以上の面積を有し、かつ、Mo電極13をSi-N-O-Te薄膜(100mm)12の略中心に配置することで、Si-N-O-Te薄膜12の外周部への表面電流が流れることを抑えることができ、膜自体の電気抵抗率を測定可能にした。
【0066】
表1から分かるように、本発明の各実施例では、いずれも結晶組織がナノクリスタルであったのに対し、Al-Nの比較例1は柱状結晶であった。比較例1のAl-N柱状結晶の熱浸透率は2000Ws0.5/mKを大きく超えた値を示した。
HfOの比較例2,Si-Nの比較例3,Si-Oの比較例4及びSi-N-Oの比較例5~8は、いずれも結晶組織がナノクリスタルであったが、熱浸透率が1500Ws0.5/mK以上であった。
【0067】
次に、表1の実施例5について、断面SEM画像(斜め45度視野、倍率100000倍)を図7に示す。この断面SEM画像は、基板をへき開破断したものを用いている。図7中には、Si-N-O-Te薄膜の断面組織及び表面組織が共に示されている。本発明の実施例5は、表面平滑性が高く(表面粗さRaが2nm未満)、かつ、緻密であり、高密度であることがわかる。
すなわち、低熱伝導(高い断熱性)は、空隙等、密度が小さいことに由来するのではなく、本酸窒化物材料自体が低い熱伝導率を有することを示す。これらの結果は、結晶サイズをナノクリスタル化させたことで、結晶格子間を伝わる振動(フォノン、格子振動)による熱伝導を低減させ、格子熱伝導を低減し、熱浸透率が1200Ws0.5/mK未満の低熱伝導性絶縁性材料が得られたことを示している。
【0068】
さらに、上記実施例5について、断面TEM:HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法)像を図8に示す。なお、このTEM像の倍率は630000倍である。
次に、TEM装置を用いて実施例5の断面組織の詳細な解析を行った。上記実施例5の膜断面の電子線回折像を、図9に示す。これにより、結晶サイズが比較的大きいことを示唆するような、長周期的な結晶性を示す電子線回折像は検出されておらず、結晶サイズが非常に小さい又は非晶質のナノクリスタルであることを示している。
これらの画像からわかるように、本発明の実施例5の結晶組織は結晶サイズ5nm以下の緻密なナノクリスタルとなっている。なお、本明細書では、結晶サイズが5nm以下であれば、非晶質の場合も含めてナノクリスタルと称している。
【0069】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1,21…熱流スイッチング素子、3,23…N型半導体層、4,24…絶縁体層、5,25…P型半導体層、22…基材(下部高熱伝導部)、28…上部高熱伝導部、29…外周断熱部、31,41A,41B…熱電変換素子、32…絶縁性基材、33p…P型の薄膜熱電変換部、43p…P型の熱電変換部、33n…N型の薄膜熱電変換部、43n…N型の熱電変換部、34,44…接続電極部、39…絶縁体膜、49…絶縁体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9