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特開2023-123171プロセスマイニングシステム、及び、プロセスマイニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123171
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】プロセスマイニングシステム、及び、プロセスマイニング方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0633 20230101AFI20230829BHJP
【FI】
G06Q10/06 324
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027077
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 誠
(72)【発明者】
【氏名】針谷 昌幸
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タスクの実施順番だけでなく、前後依存関係も分析するプロセスマイニングシステム及び方法を提供する。
【解決手段】コンピュータ100の演算装置は、業務を進める過程で作成された複数の成果物情報と、複数の成果物情報に対するアクセスログとをメモリから取り込み、複数の成果物情報とそのアクセスログとに基づいてイベントデータを構成する。イベントデータは、複数の成果物情報夫々に対応する複数のタスクと、複数のタスク夫々の実行日時と、を含む。方法は、イベントデータに基づいて、複数のタスクを時系列で繋げた業務プロセスを可視化させ、複数のタスクに属する所定のタスクと、業務を進める際にアクセスされた参照情報とをリンクさせ、参照情報が複数の成果物情報のうちの何れかに対応する場合、所定のタスクと参照情報が対応する成果物情報を成果とするタスクとの間に依存関係を設定し、依存関係を業務プロセスに追加して可視化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータの演算装置がプログラムに基づいて業務のプロセスマイニングを実行するシステムであって、
前記演算装置は、
業務を進める過程で作成された、複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとをメモリから取り込み、
前記複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとに基づいてイベントデータを構成し、当該イベントデータは、前記複数の成果物情報夫々に対応する複数のタスクと、当該複数のタスク夫々の実行日時とを含み、
前記イベントデータに基づいて、前記複数のタスクを時系列で繋げた業務プロセスを可視化させ、
前記複数のタスクに属する所定のタスクと、前記業務を進める際にアクセスされた参照情報とをリンクさせ、当該参照情報が前記複数の成果物情報のうちの何れかに対応する場合、前記所定のタスクと、前記参照情報が対応する成果物情報を成果とするタスクとの間に依存関係を設定し、
当該依存関係を前記業務プロセスに追加して可視化させる、
プロセスマイニングシステム。
【請求項2】
前記演算装置は、
前記成果物情報としての成果物ファイルのメタデータに基づいて前記タスクを決定し、
当該成果物ファイルを当該タスクの成果としてリンクさせる、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記依存関係を、前記参照情報が対応する成果物情報を成果とするタスクを前記所定のタスクより先行すべきタスクとするものに設定する、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記所定のタスクの実行日時と、参照のアクセスログとに基づいて、当該所定のタスクにリンクさせるべき前記参照情報を判定する、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項5】
前記演算装置は、
前記参照の優劣に応じて、前記所定のタスクと前記参照情報とのリンクの要否を判定する、
請求項4記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項6】
前記演算装置は、
前記参照情報が前記複数の成果物情報のうちの何れにも対応しない場合、前記所定のタスクと当該参照情報とのリンクを前記業務プロセスに追加して可視化させる、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項7】
前記演算装置は、
前記業務に使用されているアプリケーションの実行ログに基づいて、前記所定のタスクに前記参照情報をリンクさせる、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項8】
前記演算装置は、
前記業務プロセスの複数のタスク間に依存関係を追加できる、
請求項1記載のプロセスマイニングシステム。
【請求項9】
コンピュータによって実行される業務のプロセスマイニング方法であって、
業務を進める過程で作成された、複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとを取り込み、
前記複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとに基づいてイベントデータを構成し、当該イベントデータは、前記複数の成果物情報夫々に対応する複数のタスクと、当該複数のタスク夫々の実行日時とを含み、
前記イベントデータに基づいて、前記複数のタスクを時系列で繋げた業務プロセスを可視化させ、
前記複数のタスクに属する所定のタスクと、前記業務を進める際にアクセスされた参照情報とをリンクさせ、当該参照情報が前記複数の成果物情報のうちの何れかに対応する場合、前記所定のタスクと、前記参照情報が対応する成果物情報を成果とするタスクとの間に依存関係を設定し、
当該依存関係を前記業務プロセスに追加して可視化させる、
プロセスマイニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスマイニングを実施するためのシステム、及び、その方法に係る。プロセスマイニングは、業務プロセスの処理パターンをイベントログデータの蓄積により可視化し、改善ポイントを具体的に特定することで業務効率化を支援する手法として知られている。
【背景技術】
【0002】
業務の効率化や生産性の向上を実現する取り組みとして「RPA(Robotic Process Automation)」の導入などに代表されるDX(Digital Transformation)が注目を集めている。RPAとは、人間のみが対応していた作業、もしくは、より高度な作業を、AIや機械学習等などを活用して代行・代替するソフトウェアである。DXとは企業がデジタル技術を活用し、組織やビジネスモデルを変革することである。このようなDXの取り組みの中で、改善、或いは、変革すべき、非効率な業務を識別するために、例えば、特許文献1に示すような業務プロセスの可視化が行われてきた。
【0003】
一方、この業務プロセスの洗い出しについては、業務分析のスキルを有する専門家が業務を遂行している組織を観察し、業務担当者にヒアリングを行い、業務マニュアルや基準書を読解し、その内容を手作業で書き起こし、さらには業務に関わる様々な関係者に書き起こした内容を確認し修正を繰り返すなど、多大な時間と労力を要していた。
【0004】
ヒアリング対象者の業務理解度によっては、実施頻度の低い例外的な業務が見逃されることもある。さらに、高度な業務であるほど、業務の進め方は日進月歩で変化し続けている。このため、ある時点での業務プロセスを洗い出しても、業務改革は終わりではなく、変化に追従して継続されていかなければならない。
【0005】
そこで、近年、業務プロセスの洗い出しを自動化する技術として、プロセスマイニングシステムが注目されている。これは、例えば特許文献1、2や非特許文献1に示すように、業務を進める際に使用するITシステムにおけるログ、即ち、操作履歴、イベントデータ等から、業務で実施しているタスクと、その実施の順序(業務プロセス)を推定する技術や手法である。タスクとは業務プロセスを構成する1要素であり、例えば、調達の業務プロセスにおいては、「発注仕様書を作成する」、「在庫を確認する」などのタスクがあり、設計の業務プロセスにおいては、「〇〇部品の形状を設計する」、「〇〇部品の強度を評価する」、「デザインレビューの資料を作成する」などのタスクがある。このプロセスマイニング技術により、従来は、専門家が行う必要があった業務分析を自動化もしくは省力化でき、これを使い続けることによって業務プロセスの変化も捕捉できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-150650公報
【特許文献2】特開2020-052451公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wil van der Aalst, プロセスマイニング Data Science in Action, インプレス, 2019/9, p.123-240.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の技術においては次の課題がある。特許文献1においては、業務プロセスの洗い出しは専門家によって実施される必要がある。特許文献2、非特許文献1に記載の技術は、タスクの実施順序を推定することができるものの、タスク間の前後依存関係は解明できない。前後依存関係とは、複数のタスク間での先行/後続に係る強制関係であり、例えば、調達業務においては、「検収する」というタスクの前には、必ず「納品/荷受けする」というタスクが実施されていなければならない。設計業務においては「構造物の強度を解析する」というタスクの前には、「構造物のCAD形状を設計する」というタスクが実施されていなければならない。
【0009】
したがって、複数のタスクの前後の入れ替え、複数のタスクの同時並行処理を伴うような業務プロセス改革のためには、従来のプロセスマイニング技術に加えて、専門家によるヒアリング等の業務分析を行う必要が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、タスクの実施順番だけでなく、タスクの前後依存関係も分析できるプロセスマイニングシステム、及び、その方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、コンピュータの演算装置がプログラムに基づいて業務のプロセスマイニングを実行するシステムであって、前記演算装置は、業務を進める過程で作成された、複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとをメモリから取り込み、前記複数の成果物情報と、当該複数の成果物情報夫々に対するアクセスログとに基づいてイベントデータを構成し、当該イベントデータは、前記複数の成果物情報夫々に対応する複数のタスクと、当該複数のタスク夫々の実行日時とを含み、前記イベントデータに基づいて、前記複数のタスクを時系列で繋げた業務プロセスを可視化させ、前記複数のタスクに属する所定のタスクと、前記業務を進める際にアクセスされた参照情報とをリンクさせ、当該参照情報が前記複数の成果物情報のうちの何れかに対応する場合、前記所定のタスクと、前記参照情報が対応する成果物情報を成果とするタスクとの間に依存関係を設定し、当該依存関係を前記業務プロセスに追加して可視化させる、プロセスマイニングシステムである。さらに、他の発明は、業務のプロセスマイニング方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、タスクの実施順番だけでなく、タスクの前後依存関係も分析できるプロセスマイニングシステム、及び、その方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】プロセスマイニングシステムの第1の実施形態に係るハードウェアおよび機能フロー図である。
図2】プロセスマイニングシステムの第2の実施形態に係るハードウェアおよび機能フロー図である。
図3】成果物ファイルのアクセス日時を示すデータテーブルの一例である。
図4】イベントデータのテーブル構造の一例である。
図5】業務プロセスフローのブロック図である。
図6】可視化された業務プロセスの一例である。
図7】成果物ファイルと参照ファイルとのの参照日時のテーブルの一例である。
図8】可視化され、依存関係が追加された業務プロセスの一例である。
図9】可視化され、依存関係が追加された業務プロセスの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、プロセスマイニングシステムの構成を示すブロック図である。本システムはコンピュータ100を備える。成果物ファイル101、参照ファイル102、業務プロセスデータ105はメモリに記録される。コンピュータのハードウェアである演算装置としてのコントローラ、又は、プロセッサは、メモリに記録されたプログラムを実行することにより、アクセス日時取得部103、イベントデータ生成部104、業務プロセス推定部106、そして、業務プロセス可視化部108といった、プロセスマイニングのための機能モジュールを実現する。各種の機能部を手段と言い換えてもよい。
【0015】
業務プロセスの成果物情報としての成果物ファイル群101は、業務を遂行する過程で作成されたものであって、例えば、複数の文書ファイルを備える。アクセス日時取得部103は、成果物ファイル群101の各種文書、および、業務遂行中に参照した文書やWebサイトである参照ファイル(参照情報)102のアクセス日時(アクセスログ)を取得する。イベントデータ生成部104は、成果物ファイル群101へのアクセスに於ける、作成、及び/又は、編集の日時、アクセスしたファイル名、そして、ファイルの種類等のメタデータに基づいてイベントデータを生成する。イベントとは、業務プロセスのタスクのことであり、ファイルへのアクセスログの日時をタスクの実行日時(タスクへのログ)とし、両者を含めてイベントデータという。詳しくは後述する。なお、タスクとは業務プロセスを構成する1要素である。
【0016】
業務プロセス推定部106は、イベントデータに基づいて業務プロセスを推定し、業務プロセスデータ105を生成する。なお、推定を、分析、解析、判定、特定、又は、決定に言い換えてもよい。
【0017】
タスク-参照情報紐付け部107は、成果物ファイルの参照日時データ、及び、成果物ファイル以外の参照ファイルの参照日時データ、そして、推定された業務プロセスデータ105に基づいてタスクと参照データとをリンクさせて、各タスクの実施期間中に参照したファイルを抽出する。
【0018】
タスク-参照情報紐付け部107は、当該参照ファイルが成果物ファイル群に含まれる場合は、当該参照ファイルをもとに推定されたタスクを対象タスクの先行タスクとして、当該参照ファイルが成果物ファイル群101に含まれない場合は、対象タスクの参考情報として業務プロセスデータ105に登録する。業務プロセス可視化部108は、業務プロセスデータ105を可視化する。
【0019】
図2に、プロセスマイニングシステムの第2の実施形態に係るブロック図を示す。この実施形態では、図1のシステムに、アプリケーションの起動、終了、アクティブ、非アクティブ等の動作の経過日時を記録するアプリケーションログ生成部201が追加されている。
【0020】
タスク-参照情報紐付け部107は、アプリケーションのログ、例えば、アクティブなアプリケーションの時間割合や切替頻度によって、各タスクの参照ファイルを紐づけする。
【0021】
成果物ファイル群101は、業務が遂行される過程で作成された文書ファイルが格納されたファイル一式である。格納先は文書管理システムのようなデータベースでもよいし、ファイルサーバでも、ローカルPCでもよい。便宜的にファイルという名称を用いているが、業務を遂行する過程で作成、定義等されるデータであればよく、例えば任意のデータベースにおけるデータテーブルの一部であってもよい。
【0022】
開発・設計段階の成果物とは、報告書や仕様書、検討書、技術資料、図面等である。具体的な例を挙げると、機能仕様書や実験報告書、想定課題と対策案を記した技術資料などである。強度や熱負荷、コスト等の計算書の場合は、過去プロジェクトで作成した表計算ソフトやシミュレーションソフトなどのファイルである。形状や構造を示す、2次元図面や3次元CADデータ、部品組立情報、各種属性情報(材質、部品種別、溶接指示など)などを含む。
【0023】
生産段階では、金型データや製造工程表、組立工程表、品質計画書、検査記録、コスト見積書などがある。他にもプログラムコードや会議議事録、テストデータ、操作マニュアルなど、ある業務の過程で作成しているもの全般が成果物である。
【0024】
参照ファイル102は、業務遂行する過程で参照されたファイル一式である。参照ファイルには成果物ファイル群101のファイルやデータに関する情報も含まれるし、それ以外のファイルも含まれる。例えば、「構造物の強度を解析する」というタスクにおいては、「構造物のCAD形状を設計する」というタスクの成果物である「構造物のCADデータ」が参照される。そして、「構造物の強度を解析する」というタスクにおいては、「解析ノウハウ集」や「設計基準書」といった成果物ファイル群101に含まれないファイルも参照される。
【0025】
アクセス日時取得部103は、成果物ファイル群101の各種ファイル、及び、参照ファイル102へのアクセス日時を取得し、テーブルとして纏めてメモリに記録する。アクセス日時とは、参照、作成、編集等のアクセスのタイムスタンプでよい。成果物ファイル群101に示した各種ファイルへのアクセス日時のテーブルの例を図3に示す。
【0026】
イベントデータ生成部104は、例えば、成果物ファイル群101のアクセス日時おける、当該ファイルの作成、又は、編集の日時、及び、ファイルの種類に基づいてイベントデータを生成する。ファイルの種類とは、例えば、業務プロセスを構成するどのタスクの成果物であったかを示すというものである。詳しくは、「構造物のCADデータ」や「強度解析結果データ」といったものである。
【0027】
成果物ファイル群101に対して、ファイルの種類を対話的に指定できる手段が図1のシステムに適用されてよいし、或いは、自動的にファイルの種類が推定される手段が適用されてもよい。後者の例について説明する。
【0028】
後者の手段は、成果物ファイル群101の各ファイルをベクトル化し、そのベクトル同士の類似度を算出し、類似性に基づいてクラスタリングし、同じクラスタ内のファイルには同じ種類を割り当てる。種類の名称はクラスタ内のファイルの代表的なファイル名称を用いればよい。
【0029】
各ファイルのベクトル化方法や類似度の計算方法として、様々な手法が提案されているが、本発明では特定のものに限定される必要はない。単純にファイル間の類似度が計算できるものでよい。なお、ファイルには、例えば、テキスト文書や画像データ、スプレッドシートデータ、3D形状データなどがある。
【0030】
テキスト文書に対するベクトル化、及び、類似度計算方法の一例を説明する。テキスト文書を、形態素解析を用いて、単語単位で区切る。この形態素解析は英語等の単語がスペースで区切られている場合は不要である。次に、各単語の出現回数を数え、ベクトルで表現する。二つの文書に対して作成したベクトルに対して、コサイン類似度を計算する(参考文献:難波 英嗣, テキスト間の類似度の測定, 情報の科学と技術,2020,70巻,7号,pp.373-375)。
【0031】
単語の出現頻度で類似度が計算されるが、他にもTF-IDFと呼ばれる単語の重要度を評価する手法でもよい(参考文献:景山 明宣,辻 洋,TF/IDFアルゴリズムを用いた研究機関の特徴抽出法,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),2005,125巻,5号,pp.713-719)。
【0032】
3D形状データについての類似度計算方法の一例を説明する。この計算方法は、対象形状をボクセル構造で表現し、隣り合う数ボクセルでブロックを定義し、ブロックごとにスペクトル計算し、ベクトルで表現する(参考文献:特許第5024767号)。この計算方法は、文書の場合と同様に二つの3D形状データに対して作成したベクトルに対して、コサイン類似度を計算する。
【0033】
クラスタリングの手法に関しても同様に、本発明では限定されない。例えば、K-means法や最短距離法、多次元尺度法、Ward法などが可能である。
【0034】
イベントデータ生成部104は、イベントデータとして、例えば、図4に示すテーブル構造とそのデータを生成し、これをメモリに記録する。このテーブルは、ID、案件名、ファイルの種類に基づくタスク名、タスクの日時であるタイムスタンプ、そして、担当者の6フィールドを備える。図4図3に示した成果物ファイル群101のアクセス日時から生成されたイベントデータの一例である。なお、案件名は、成果物の保存場所(フォルダ名等)や担当者と案件が紐づいている計画書(担当者ごとに従事している案件と時期が明示されている)などから自動的に識別される。図1のシステムは、案件名の取得方法について制限されるものではなく、例えば、案件名を指定する手段を有してもよい。
【0035】
業務プロセス推定部106は、イベントデータから業務プロセスを推定し業務プロセスデータ105を生成する。業務プロセスは複数のタスクを時系列に並べたものである。イベントデータから業務プロセスを推定する方法として、様々な手法が提案されているが、本発明ではその種類は制限されない。代表的な手法の1例を説明する。
【0036】
先ず、業務プロセス推定部106は、案件ごとに、実施した順序、即ち、時系列でタスクを並べる。例えば、下記の案件毎の業務プロセスのフローが得られたとする。アルファベットはタスク名であり、(A,B,C)はA→B→Cの順番で実施されたことを示す。
案件1:(A,B,C,D)
案件2:(A,C,D)
案件3:(A,E,C,D)
案件4:(A,B,C,E,C,D)
【0037】
次いで、業務プロセス推定部106は全案件のタスクの遷移を抽出する。例えば、案件1だけを見ると、タスクの遷移は図5の501のように表現できる。業務プロセス推定部106が次いで、この遷移に次に案件2の遷移パターンを加えると図5の502のようになる。同様に案件3、案件4の遷移パターンが追加されると、それぞれ503,504のようになる。
【0038】
業務プロセス推定部106は、このようにして、タスクの遷移を表現したモデルを業務プロセスデータ105として設定してメモリに登録する。タスクの遷移を表現するモデルとしてはBPMN(Business Process Model and Notification)やペトリネット、UMLのアクティビティ図などが提案されており、適宜選択されてよく、その種類は限定されない。例えば、図4に示したイベントデータに対して、業務プロセスが推定された業務プロセスデータ105は図6のようになり、これを業務プロセス可視化部108がユーザのコンピュータ100の出力装置に表示させる。
【0039】
タスク-参照情報紐付け部107は、成果物ファイル101の参照日時データ(図3)、成果物ファイル以外の参照ファイル102の参照日時データ、そして、業務プロセス推定部によって推定された業務プロセスデータ(図6)に基づいて、各タスクの実施期間中に参照したファイルを抽出し、当該参照ファイルが成果物ファイル101群に含まれる場合は、当該参照ファイルを基に推定されたタスクを対象タスクの先行タスクとして、当該参照ファイルが成果物ファイル群に含まれない場合は、対象タスクの参考情報として業務プロセスデータ105に登録する。
【0040】
業務プロセスを構成する、夫々のタスクは、何らかの情報を参照しながら遂行されることが多い。例えば、「構造物の強度を解析する」というタスクは、「構造物のCADデータ」を参照する。この「構造物のCADデータ」は「構造物のCAD形状を設計する」というタスクの成果物であるので、「構造物のCAD形状を設計する」は「構造物の強度を解析する」より先行して実施されてなくてはならない。すなわち、「構造物の強度を解析する」というタスクの実施期間中に「構造物のCADデータ」が参照されており、これへのアクセス日時に基づいてタスクの前後依存関係が推定される。
【0041】
さらに具体的に説明する。アクセス日時取得部103は、成果物ファイルの参照日時データ、そして、成果物ファイル以外の参照ファイルの参照日時データを、図7に示す記憶テーブルとしてメモリに記録する。業務プロセスは図6に示したものであり、業務プロセス推定のもとになったイベントデータは図4に示したとおりである。
【0042】
タスク-参照情報紐付け部107は、図7のID=1の行に示されている「製品仕様書.docx」は2021.06.10に参照されていることを判定する。そして、タスク-参照情報紐付け部107は、図4に示したイベントデータにおいて「運転条件を決定する」というタスクも2021.06.10に実施されている、ことを判定する。すなわち、「運転条件を決定する」というタスクは「製品仕様書.docx」を参照している。「製品仕様書.docx」は成果物ファイル群101には含まれていないので、これは参考情報である。
【0043】
図7のID=3の行に示されている「〇〇社\運転条件定義書_田中_210110.docx」は2021.06.11に参照されている。また、図4に示したイベントデータにおいて「機器構成を選択する」というタスクは2021.06.12に実施されており、その前に実施されているタスク「運転条件を決定する」は2021.06.10に実施されている。したがって、タスク-参照情報紐付け部107は、「機器構成を選択する」を2021.06.11~2021.06.12の期間で実施されていると判定する。このため、「機器構成を選択する」というタスクは「〇〇社\運転条件定義書_田中_210110.docx」を参照していることになる。
【0044】
「〇〇社\運転条件定義書_田中_210110.docx」は「運転条件を決定する」というタスクの成果物ファイルであるので、「機器構成を選択する」の先行タスクは「運転条件を決定する」になる。
【0045】
既述の例では、一回でも参照されたファイルをタスクと紐づけているが、参照の優劣、例えば、参照確率(頻度)に応じて、紐づけ(リンク)を設定してもよい。例えば、図7のID=26の行に示されている「http://×××.com/news1234.html」は「デザインレビューを実施する」というタスクの実施中に参照されている(図4:ID=17)。「デザインレビューを実施する」は3回実施されているが(図4:ID=14,15,17)、他の案件(図4:ID=14,15)では本ファイルは参照されていない。この結果、参照確率は33.3%に過ぎず、参照の頻度が少ないので、これを参照されたファイルとしてタスクに紐づけないようにしてもよい。このように、参照確率の閾値を設定できるようにすることが望ましい。優劣は、参照確率の他、参照回数、参照時間、参照人数等適宜設定されてよい。タスク-参照情報紐付け部107は、優劣の項目選択、優劣の閾値等優情報設定のためのメニューを図8の画面に表示して、ユーザが優劣情報を設定できるようにしてもよい。
【0046】
タスク-参照情報紐付け部107は、このようにして、各タスクの先行タスク、及び、参考情報を業務プロセスに紐づける。タスク-参照情報紐付け部107は、先行タスク、及び、参考情報を業務プロセスにリンクさせた情報、即ち、図8の情報をメモリに記録する。業務プロセス可視化部108はこの情報を、コンピュータの入力装置100を介してユーザに表示する。
【0047】
図8において、複数のタスク間での実施順番は実線の矢印のように定義され、複数のタスク間での前後依存関係は破線の矢印(後続タスクから先行タスクに向かう矢印)のように定義される。参考情報は平行四辺形で示している。
【0048】
図8において、例えば、「熱耐性を評価する」というタスクは「性能信頼性を評価する」というタスクの後に実施されているが、「熱耐性を評価する」というタスクからは「性能信頼性を評価する」というタスクへの破線は存在せず、前者のタスクに対して後者のタスクは先行タスクにはなっていない。すなわち、「熱耐性を評価する」と「性能信頼性を評価する」のタスクとには前後依存関係がないため、どちらを先に実施してもよく、人員に余力があれば同時並行で実施してもよい。両タスクを同時並行で実施できるということは、業務期間を短縮できることになるので、業務プロセス改革にとって重要な助言事項である。従来のプロセスマイニング技術は、複数のタスク間にこのような前後依然関係があることを解明することはできなかった。
【0049】
図2のアプリケーションログ生成部201は、アプリケーションの起動、終了、アクティブ、そして、非アクティブ夫々の日時をアプリケーションの実行ログとしてメモリに記録する。例えば、「構造物の強度を解析する」というタスクが遂行されている間、解析アプリケーションは起動され、解析アプリケーションは「構造物のCADデータ」を参照している。その間、並行してCADアプリケーションも起動されている。タスク-参照情報紐付け部107は、アプリケーションの実行ログに基づいて、タスクに参照ファイルを紐づけする。
【0050】
ユーザは、業務を遂行している間に、例えば、メールアプリケーションによってメールを確認したり、ウェブブラウザアプリケーションによって天気やニュースを確認することもよくある。その場合、「構造物の強度を解析する」の参考情報として当該メールやニュースサイトがリンクされることは望ましくない。
【0051】
解析アプリケーションとCADアプリケーションの稼働時間は長く、反対に、メールアプリケーションやウェブブラウザアプリケーションの稼働時間は短い。そして、解析アプリケーションとCADアプリケーションとの間の切り換え頻度は高く、メールアプリケーションやウェブブラウザアプリケーションへの切り換え頻度は低い。
【0052】
タスク-参照情報紐付け部107は、アプリケーション実行ログを用いて、アクティブなアプリケーションの時間割合によって、タスクと参照ファイルとをリンクさせる。例えば、あるタスクを実施中に参照されたファイルにおいて、タスクの実施期間をA、参照された時間(アプリケーションがアクティブであった時間)をBとした場合の時間割合である、B/Aが閾値(例えば10%)を超えた場合に、タスク-参照情報紐付け部107はタスクに参照ファイルをリンクさせる。
【0053】
時間割合に代えて、あるいは、これに加えて、切替頻度が利用されてもよい。例えば、あるタスクの実施中にアクティブなアプリをN回切り替えたとする。アプリケーションごとの切り換え回数をniとする。このni/Nが閾値(例えば30%)を超えた場合に、タスク-参照情報紐付け部107は、タスクに参照ファイルを紐づける。
【0054】
図8に示した例では「デザインレビューを実施する」というタスクにおいて、「熱耐性を評価する」というタスクは先行タスクになっていない。これは偶然であったり、プロセスマイニングの課題であったりなどが原因である。そこで、ユーザや管理者が、特定のタスクに他のタスクを先行タスクとして関連付けたい場合もある。そこで、システムに、タスクの依存関係を追加、削除、変更する入出力手段を付加すればよい。図9に、タスクの依存関係が業務プロセスに追加されたフロー図を示す。「デザインレビューを実施する」というタスクから「熱耐性を評価する」というタスクに向かう破線が追加された依存関係であり、後者のタスクが前者のタスクの先行タスクであることを示している。
【0055】
タスク-参照情報紐付け部107は、依存関係の表示(破線)に、先行タスクの発生確率を付加してもよい。図9の「確率20%で先行タスクの可能性があります」は、この付加表示の例である。例えばプロセスマイニングのために成果物ファイル、参照ファイルとして10プロジェクト分のデータが準備されたとして、2プロジェクトでは「熱耐性を評価する」が「デザインレビューを実施する」の先行タスクとなっていたが、8プロジェクトでは先行タスクになっていなかった場合、統計的に先行タスクを設定しないことがあった。そこで、依存関係に先行タスクとなる確率等の関連表示を業務プロセスフロー図に付すことは有益である。
【0056】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、そして、置換が可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0057】
100:コンピュータ、101:成果物ファイル、102:参照ファイル、103:アクセス日時取得部、104:イベントデータ生成部、105業務プロセスデータ、106:業務プロセス推定部、107:タスク―参照情報紐づけ部、108:業務プロセス可視化部、201:アプリケーションログ生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9